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経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第137回】連結会計⑭「支配の喪失を伴う子会社株式の売却」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第137回】 連結会計⑭ 「支配の喪失を伴う子会社株式の売却」   仰星監査法人 公認会計士 永井 智恵     〈事例による解説〉   〈会計処理〉 ① S社修正仕訳X1年3月31日(土地に係る評価差額の計上) (※1) 5,000-4,000=1,000 ◆S社修正後貸借対照表(X1年3月31日) (※2) 18,000+1,000=19,000 ② 連結修正仕訳X1年3月31日(P社の投資とS社の資本との相殺消去) (※3) (5,000+4,000+1,000)×10%=1,000 ◆連結貸借対照表(X1年3月31日) (※4) 80,000-9,000+19,000=90,000 (※5) 30,000+9,000=39,000 ③ S社修正仕訳X2年3月31日(土地に係る評価差額の計上) (※6) ①の仕訳(※1)を参照。 ◆S社修正後貸借対照表(X2年3月31日) (※7) 20,000+1,000=21,000 ④-1 連結修正仕訳X2年3月31日(開始仕訳) ④-2 連結修正仕訳X2年3月31日(非支配株主に帰属する当期純利益の計上) (※8) 2,000×10%=200 ④-3 連結修正仕訳X2年3月31日(開始仕訳の振戻し) ④-4 連結修正仕訳X2年3月31日(S社貸借対照表連結除外仕訳) ④-5 連結修正仕訳X2年3月31日(売却前持分の評価及び非支配株主持分の振戻し) (※9) 2,000×90%=1,800 (※10) 2,000×10%=200 ④-6 連結修正仕訳X2年3月31日(株式売却損益の修正) (※11) 1,800×80%/90%=1,600 ④-7 連結修正仕訳X2年3月31日(S社株式の帳簿価額への修正) (※12) 1,600-1,800=△200 ◆連結貸借対照表(X2年3月31日)   〈会計処理の解説〉 子会社株式の一部を売却し、子会社が連結子会社及び関連会社のいずれにも該当しなくなった場合、連結財務諸表上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するとされています(資本連結実務指針 46項)。(なお、当該個別貸借対照表上の帳簿価額には付随費用が含まれます(資本連結実務指針 46-2項)。) また、売却前の投資の修正額とこのうち売却後の株式に対応する部分との差額について、個別財務諸表で計上した子会社株式売却損益の修正として処理します(資本連結実務指針 45項、46項)。 さらに、売却後の投資の修正額を取り崩すことが必要であり、当該取崩額を連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に、連結除外に伴う利益剰余金減少高(又は増加高)等その内容を示す適当な名称をもって計上します(資本連結実務指針 46項)。 本事例では、まず、S社株式の一部売却に伴いS社は原価法適用会社となるため、P社のS社株式とS社の資本との相殺消去及び非支配株主持分への振替に関する開始仕訳を振り戻します(④-3の仕訳)。S社株式は期末(X2年3月31日)に売却されたため、S社のX2年3月期の損益計算書のみを連結し、X2年3月期の貸借対照表は連結除外とします(④-4の仕訳)。 また、連結除外年度(X2年3月期)に計上されたS社の当期純利益を取得後利益剰余金として計上し、そのうち売却前の親会社持分を投資の修正額としてS社株式に加算します(④-5の仕訳)。S社株式の投資の修正額のうち、売却持分に対応する部分を株式売却益から控除します(④-6の仕訳)。 そして、原価法適用会社となったS社株式は個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価することとされているため、売却後のS社株式に含まれる投資の修正額を取り崩して、利益剰余金に振り替えます(④-7の仕訳)。 ◆連結貸借対照表(X2年3月31日) ◆P社の投資(S社株式)とS社資本の関連図(X1年3月31日) ◆P社の投資(S社株式)とS社資本の関連図(X2年3月31日)   (了)

#No. 242(掲載号)
#永井 智恵
2017/11/02

外国人労働者に関する労務管理の疑問点 【第8回】「後々トラブルにならないよう入社時に説明すべきこと(その2)」

外国人労働者に関する 労務管理の疑問点 【第8回】 「後々トラブルにならないよう入社時に説明すべきこと(その2)」   社会保険労務士・行政書士 永井 弘行     1 他の会社の兼業は禁止 最近では人手不足により兼業を認める会社も出始めているようですが、一般に人事担当者からみると、まず「兼業は会社の就業規則に違反する」と考えると思います。 ただし、外国人の従業員にとって「他の会社の兼業は禁止」である理由は、外国人が入管法違反で不法就労になり、処罰される恐れがあるからです。 就業規則の順守も大切ですが、コンプライアンスの面からは、入管法に違反しないことの方が、より重要ですね。 入管法19条では、「資格外活動の許可」を得ている場合を除いて、在留資格で定められた業務以外に、報酬を受ける活動を行ってはならないと定められています。 例えば貿易会社で海外業務、翻訳・通訳を行うために「技術・人文知識・国際業務」の在留資格が許可されている外国人が、休日にコンビニでアルバイト勤務を行うことは、入管法違反になるということです。 留学生の場合は、資格外活動の許可を得たアルバイトは、通常は問題ありません。しかし「技術・人文知識・国際業務」、「教育」などの就労の在留資格の外国人は、「在留資格で定められた活動」のみ、行うことが許可されているのです。 このため、在留資格で許可された範囲を超えて就労すると、資格外活動違反として、その外国人は1年以下の懲役、禁固、200万円以下の罰金に処されることがあります(入管法第73条)。 なお先の例では、仮に、休日にコンビニでアルバイト勤務を行うことを希望して、入国管理局に「資格外活動の許可」を申請しても、許可されません。   2 勤務先が了解したうえで兼業する場合は、「資格外活動の許可」が必要 では、例えば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を得て、語学学校(A社)で語学の指導、翻訳・通訳業務に従事する外国人が、勤務先A社の休日に、他社(B社)で「語学の指導」のアルバイトを行うケースはどうでしょうか。 こうしたケースでは、あらかじめ入国管理局から資格外活動の許可を得ている場合に限り、可能です。 つまり、その外国人の在留資格「技術・人文知識・国際業務」は、語学学校(A社)で語学の指導などに従事することを前提に許可されたものであって、B社で働くことを前提に許可されたものではありません。 もし、「技術・人文知識・国際業務」の申請を行ったときに、当初からA社・B社の2社で勤務することを申請し、許可されていれば、A社・B社の2社で勤務することが「在留資格で認められた範囲の業務」になります。そうでなければ、本来の勤務先(A社)以外の業務は、「資格外活動」になります。 入国管理局にB社の業務内容(語学の指導)を申請し、資格外活動の許可を得ていなければ、B社での勤務は資格外活動として不法就労になりますので注意が必要です。   3 日本の職場慣行について 前回も述べましたが、日本人従業員なら当然と考え、疑問に感じないことでも、外国人従業員にとっては、戸惑うことが少なくありません。例えば、会社・団体を問わず職場での協調性が重視されること、日本の職場慣行、日本の法律で決められている手続きやイベントなどです。 このため、外国人従業員が不満に思ったりトラブルにならないように、次のような内容をあらかじめ説明し理解してもらうのが望ましいでしょう。   4 健康診断の実施にも理解が必要 日本では小学校をはじめ毎年、学校で健康診断を受診するのが一般的です。このため、入社後も会社で健康診断を受けることに違和感のない人が多いと思います。ところが、会社が健康診断を行わない国も当然あり、そういう国の人たちは、必ずしも日本人と同じようには思わないようです。 このような国の出身の従業員は、例えば、 など、否定的に考える場合があるのです。また、健康診断を法律で義務付けているのはおかしい、と感じることもあります。 このような場合は、次のような内容を説明をして、納得してもらうのが良いと思います。   5 春節(旧正月)時期の休暇の有無について アジア、特に中国の出身者は、春節(旧正月)の時期に、一時帰国することを当然と考える人が少なくありません。留学生の頃には毎年2週間(以上)は一時帰国していたのに、日本で会社に勤務するようになってからは、帰国することができなくなった、という苦情を聞くことがあります。 東アジア・東南アジアでは、旧正月は1年で最も大事な祝日とされ、春節休暇が数日間続きます。しかし、日本には春節休暇の慣行はありません。このため多くの場合は、年次有給休暇を使って休むことになります。 会社としては、就業規則に基づいて、春節休暇はないことを説明します。まず、このことを納得してもらうことが重要です。 そのうえで、春節の時期に年次有給休暇を使うことが可能なら、会社を休めるように事前に業務スケジュールの調整を行って休むなどの対応を検討します。本人だけでなく、会社も事前の対応や工夫が必要です。 例えば、中国出身者が数名在籍しているのでしたら、数組に分けて、必ず2年~3年に1回程度は帰国できるように、会社が配慮するなどの対応策を行うことがあります。 なお、こうした外国人の文化や慣習に配慮する一方で、日本人従業員とのバランスをとることもお忘れなく。日本人従業員が「会社は外国人従業員に対し、過剰に配慮している」と考え、不満を抱くことがあるのです。 *  *  * 次回は「外国人と住民票、マイナンバー(個人番号)」について説明する予定です。 (了)

#No. 242(掲載号)
#永井 弘行
2017/11/02

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題〔Q&A編〕 【第21回】「民事信託の利用(その3)」-信託契約を検討する際の注意点-

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第21回】 「民事信託の利用(その3)」 -信託契約を検討する際の注意点-   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   【設問18】 私は税理士ですが、最近、特に高齢者のご一家を中心に、所有する資産を信託により管理したいという問い合わせを受ける機会が増えてきました。 信託契約に関する一般的な知識は書籍等を通じて押さえるとして、実務において信託契約の導入を検討する際の注意点等があれば教えてください。   ◆信託契約を導入する上で注意する点とは? 信託に寄せられる関心が増えてくるにつれ、信託契約の導入を検討する必要に迫られるケースも今後増加していくであろう。 しかし、相談を受ける実務家の立場では、信託法は資格取得の際の試験科目には含まれておらず、体系的知識を学ぶ機会がこれまでなかったという向きがほとんどであろう。また、信託契約に関わる相談を受けたという経験がこれまでほとんどなかったというケースも多いであろう。 そこで今回は、実務家が信託の導入を相談され、これを検討するに際しての注意点を説明したい。 ▷注意点その1 前提となる法的知識を十分に押さえること 信託は、「信託の目的物となる預貯金や不動産等の所有権を有する者」と「そこから利益を享受する者」とが分離する構造を取る点で複雑となり、関係する当事者も多い点で法律関係が錯綜する。加えて、単なる教科書的な文献を読んだだけでは、実際の現場における実務運用がよく把握できないことも多い。 したがって、信託に携わる関係者、特に制度設計や契約書の内容を定める実務家においては、信託法の体系的な知識の習得を前提に、継続的に法律情報や研究の成果をフォローし、あわせて実務運用の発展に絶えずアンテナを張り続けていく必要がある。 そのために参考にできるものとしては、①研究者や実務家による教科書・解説書、②「信託フォーラム」(年2回刊、日本加除出版)・「家族信託実務ガイド」(年4回刊、日本法令)等の実務情報誌や(公財)トラスト未来フォーラムが発行する各種出版物、研究報告、③金融機関や実務家団体が開催する実務セミナー等がある。 ▷注意点その2 「本当に信託でなければ実現不可能か?」を十分吟味すること 金融機関による宣伝広告や実務家が執筆している解説書の中には、「〇〇という目的を実現したい場合には、信託という方法が最適である」と盛んに強調し、信託を利用しさえすればすべてうまくいくかのように述べるものもある。しかし、その内容を仔細に検討していくと、信託のスキームを使わずとも、既存の法制度や契約等を用いることで十分対応可能であるケースも少なくない。 信託のスキームを導入するとなった場合には、前述のように、関係当事者も多数となり法律関係も複雑となる。また、課税上のリスクも発生する。そのため、信託の導入を検討する際には、「相談者の目的としているところは、本当に信託による方法でしか実現できないのか」という点について、十分吟味する必要があろう。 そのための前提として、当事者の真に目指すところや不安に思っていることを深く掘り下げ、十分にヒアリングしておくことが重要である。 ▷注意点その3 税務上の処理・リスクについても精査すること 当事者の希望をよく聴取し、参考文献を調査し、それらの検討結果を信託契約の条文に余すところなく反映させることができたとしても、それだけでは不十分である。すなわち、税務的な観点を疎かにしてはならない。 信託をめぐる税務は複雑であるし、未だに明確な判断がつかないグレーゾーンも存在する。また、信託期間が長期に及ぶ場合には、それだけ税務当局の課税方針の変更等の影響を受ける可能性も高くなる。 仮に、いま検討している信託スキームの法律面に問題がなかったとしても、税務上のリスクがないかどうかは、専門家のアドバイスを求める等して慎重に検討しなければならない。 ▷注意点その4 高齢者本人及び家族・関係者に対する十分な説明を行うこと 信託について関心を持ち、相談をしてくる者の中には、信託制度の利用に高い期待を寄せている、場合によっては過度な期待を持っているというケースも少なくない。 このような場合、専門家としては、信託制度の基本的スキームについてわかりやすく説明することはもちろんのこと、長期間にわたる中で様々な法律上のリスクや税務上のリスクが発生しうること、そのため当事者にとってはメリットばかりではないことを十分に説明しておく必要がある。 複雑な信託契約についての説明や契約当事者の理解が不十分といったときには、最悪の場合、信託契約締結後に当事者から、判断能力を欠いていることを理由とした契約無効や錯誤無効等が主張される可能性もないわけではない。 加えて、信託において委託者となる本人だけでなく、親族が受託者となるような場合には、受託者となる予定の者もそのことを承諾しているのか、様々な法的義務を負う立場となることの覚悟があるのか等につき事前によく説明しておく必要があろう。 ▷注意点その5 信託をめぐる実務動向に絶えず注意すること 信託に関するニーズと関心の高まりとともに、これまで検討が十分ではなかった論点・問題点についても研究が進み、発表される論文や書籍の数は年々増加している。ただそうは言っても、信託法はあらゆる論点について研究・分析が固まっているという状態には程遠く、未だ発展途上にある法分野である。 このため、次々に発表される研究の成果を、実務家も絶えず押さえていく必要がある。 法律的な側面において今後特に注目されるポイントとしては、 といった点が挙げられる。 (了)

#No. 242(掲載号)
#栗田 祐太郎
2017/11/02

これからの会社に必要な『登記管理』の基礎実務 【第9回】「定款・議事録管理の仕組みづくり(「点」と「点」を「線」で結ぶ)」-実践編-

これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第9回】 「定款・議事録管理の仕組みづくり (「点」と「点」を「線」で結ぶ)」 -実践編-   司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹   はじめに 前回は、定款変更に関する株主総会の決議内容を定款に反映することを一度でも失念すると「不完全な定款」が生み出される原因等を中心に解説した。 本稿では、定款変更に関する株主総会の決議内容の反映に漏れがない定款、すなわち、「万全な定款」として管理し続けるための実践方法について解説する。 株主総会議事録や定款は会社主導で管理するものであり、中長期的な視点で管理する仕組みがなければ、将来にわたって「万全な定款」として管理することは難しい。 もし社内にこれらを管理する仕組みがなければ、本稿を通じて、体系的に管理する仕組みづくりに着手するきっかけにしてもらいたい。   仕組みづくりのイメージ 株主総会議事録や定款を管理する仕組みづくりでは、前回の解説のとおり、定款変更に関する株主総会議事録を「点」、定款変更に関する株主総会の決議内容が反映された定款を「線」とするイメージを念頭に置く。 「点」から「線」を漏れなく引くことができれば、全ての定款変更に関する株主総会の決議内容を反映した「万全な定款」であることを意味する。もし「点」を反映することを一度でも見落としてしまうと、「不完全な定款」となってしまうことを意味する。 【定款変更に関する株主総会議事録(=「点」)、定款(=「線」)のイメージ】 仕組みづくりのイメージを具体的な工程に落とし込むと、以下の2点にまとめることができる。 【仕組みづくりの具体的な工程】   仕組み①:定款を編集可能なデータで保存する まず自社の定款の保存方法を確認してみよう。編集が容易ではない紙媒体やPDFデータで保存されていないだろうか。 定款をこれらの方法で管理すると、定款変更に関する株主総会の決議がある場合に、その内容を定款に反映することが困難である。仕組みづくりのイメージでいうと、「点」から「線」を引けない状態である。 そこで、定款を編集可能なソフトを用いてデータ化する。本稿では編集可能なソフトをMicrosoft Wordと想定し、定款をWordデータに落とし込むことを「Wordデータ化」と呼ぶこととする。 一度定款をWordデータ化すれば、それ以後は、定款変更の都度、そのWordデータを更新すればよい。「点」と「点」を「線」で結び付けやすくなるイメージである。 なお、会社設立手続の過程で作成する「原始定款」は、会社設立の登記手続を司法書士等に依頼していれば、会社側では紙媒体やPDFデータで保存していることが多い。 原始定款のドラフトは、Wordを用いて作成されるはずなので、会社設立の登記手続を依頼した事務所に問い合わせて原始定款のドラフトデータを取り寄せると、定款のWordデータ化の近道となる。 定款をWordデータ化したことを前提として、次の仕組みづくりに進めていこう。   仕組み②:時系列を明確にする 定款変更に関する株主総会議事録と定款データを保存するポイントは以下のとおりである。 定款変更に関する株主総会議事録と定款の各データを対応させて管理することにより、定款変更に関する株主総会の決議内容が定款に反映しているかどうかをデータの保存状況から確認することができる。 もし定款変更に関する株主総会議事録のタイトルに対応する定款データがなければ、株主総会の決議内容が定款に反映されてないことを意味する。 定款を「名前を付けて保存」ではなく「上書き保存」すると、定款データは1つとなるため見た目はシンプルで見やすい。しかし、定款変更に関する株主総会の決議内容を定款に反映する工程に漏れがある場合に、どの株主総会の決議内容について反映する工程を見落としてしまったのかを振り返って確認することが困難である。   事例紹介 これまでの解説内容をもとに、「万全な定款」として管理し続ける事例を以下で説明する。 全体の流れとして、株主総会の決議内容を定款に反映するため、①株主総会議事録⇒②定款の順に管理する工程となる。 【①株主総会議事録のデータ管理の工程】 株主総会議事録は、将来的にその内容に変更が生じることはなく、内容の更新が予定されていない。定款と異なり、捺印後のものをPDFデータで保存しておく。このデータに「日付 / 変更内容」のタイトルをつけ、「株主総会議事録(定款変更あり)フォルダ」に保存する。 これで株主総会議事録のデータ管理の工程が完了となる。 【②定款のデータ管理の工程】 定款変更に関する株主総会の決議内容を定款に反映する。株主総会議事録と異なり、定款は更新を前提とするものであるため、Wordデータで保存しておく。 このデータに「日付 / 変更内容」のタイトルをつけ、「定款フォルダ」に保存する。 これで定款のデータ管理の工程が完了となり、定款変更に関する株主総会議事録の内容を定款に反映する一連の工程も完了となる。   まずは定款のWord化から すでに複数回定款変更を行っていて、これから定款をWordデータで管理する場合には、まずこれまでの定款変更に関する株主総会の決議内容を全て反映した「万全な定款」を整える必要がある。そのうえで、今後の定款変更に関する株主総会の決議の都度、Wordデータにその決議内容を反映し、「万全な定款」として更新していくことになる。 長らく「不完全な定款」のまま放置していて、過去の株主総会の決議内容をまとめて定款に反映しようとすると、株主総会議事録を紛失しているなどして、定款に反映の漏れが生じるリスクが高くなる。 これは時間が経過すればするほどそのリスクが高くなるため、「万全な定款」を整えることは、早いに越したことはない。まずは定款のWord化から着手してみてはいかがだろうか。 (了)

#No. 242(掲載号)
#本橋 寛樹
2017/11/02

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第2話】「ビットコインと雑所得」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第2話】 「ビットコインと雑所得」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「統括官、ビットコインって、知っていますか?」 昼休みに、浅田調査官は中尾統括官の席にやって来て尋ねる。 「・・・ビットコイン?・・・ああ、仮想通貨のかい?」 食後、いつものように口に爪楊枝をくわえている中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「ええ、そうです・・・ビットコインをはじめとする仮想通貨は・・・2016年6月公布の法改正(2017年4月1日から施行)によって、資金決済法(資金決済に関する法律)2条5項で、次のように定義されました。」 浅田調査官は中尾統括官に条文のコピーを見せる。 「確かビットコインについては、平成29年度の税制改正で・・・消費税が非課税になったよね?」 今度は中尾統括官が「改正税法の手引き」を開き、消費税法の非課税規定(消令9④)を確認する。 「この手引きによれば・・・EUで、仮想通貨は、2015年10月に欧州司法裁判所がEU付加価値税指令上の『通貨、銀行券、硬貨』のカテゴリーに該当する旨を判決し、その譲渡は非課税とされ・・・一方、我が国の金融庁は、仮想通貨の利用の増加が見込まれることから、国際的な課税上のバランスやこの改正資金決済法の規制の整備を踏まえ、銀行券や小切手、電子マネー等、外為法上の支払手段等の平仄をあわせ、その譲渡について消費税を非課税とした・・・と説明されている・・・」 中尾統括官は、手引きの一部を読み上げる。 「なるほど、そういう理由ですか。」 浅田調査官は納得する。 「ところで、浅田君、ビットコインの利益は・・・所得税ではどうなると思う?」 中尾統括官はニヤニヤしながら尋ねる。 「所得税、ですか・・・」 浅田調査官は思案顔になる。 「ビットコインについては、国税庁からタックスアンサーが公表されているんだ。」 中尾統括官は、机上にあるパソコンの画面の表題を読む。 「・・・(No.1524)ビットコインを使用することにより利益が生じた場合の課税関係・・・」 そう言いながら、中尾統括官は、浅田調査官に画面を見せる。 「ここで言う『ビットコインを使用することにより生じる損益』とは、邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益をいい、原則として、雑所得になると明示している。」 浅田調査官は、画面を覗きながらつぶやく。 「・・・為替差益なども、原則、雑所得ですね・・・」 浅田調査官の発言に、中尾統括官は黙って頷く。 「過去の判例をみると、ビットコインに類似する取引で、雑所得に該当すると判断されたものは多くありますね。」 浅田調査官は、租税の判例六法から「雑所得に当たるとした判例」を読み上げる。 「・・・まあ、金融取引から生じる利益については、事業所得に該当しなければ、雑所得になるということでしょう。課税庁は、どちらかといえば、所得分類の争いでは雑所得を好みますね。」 浅田調査官は、笑いながら言う。 「馬券払戻金の事件(最高裁平27.3.10判決)では、課税庁は一時所得(その収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る=外れ馬券は収入から控除できない)と主張して、結局、納税者の主張する雑所得になったけれど・・・多くの事件では、一般的に、課税庁は、他の所得と損益通算のできない雑所得を主張している。」 中尾統括官はそう言うと、大きく頷いた。 (つづく)

#No. 242(掲載号)
#八ッ尾 順一
2017/11/02

《速報解説》 有報記載内容の共通化・合理化を推進する開示府令等の改正案が公表される~非財務情報の開示充実を目的とした「経営者による経営成績等の状況の分析」記載の追加も~

《速報解説》 有報記載内容の共通化・合理化を推進する 開示府令等の改正案が公表される ~非財務情報の開示充実を目的とした 「経営者による経営成績等の状況の分析」記載の追加も~   公認会計士・税理士 若松 弘之   1 はじめに 平成29年10月24日、金融庁より「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案が公表された。 昨年公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告において、企業と投資家との建設的な対話を促進していく観点から、我が国における制度開示内容の共通化・合理化や非財務情報の開示充実に向けた様々な提言がなされた。 それらの提言を受け、決算短信の記載内容とされていた「経営方針」を有価証券報告書の記載内容に追加する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正が、本年2月に公布・施行されているが、今般、有価証券報告書等の開示内容をさらに共通化・合理化し、非財務情報の開示を充実するための改正案が公表された。 また、追加型の投資信託に係る有価証券届出書の手続を簡素化する「特定有価証券開示ガイドライン」等の改正も併せて提案されている。 当該改正案について、金融庁では平成29年11月22日まで意見募集を行っている。   2 改正案の主な内容 (1) 「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の提言を踏まえた改正 ① 制度開示内容の共通化・合理化に関する改正 上述の通り、昨年度に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告では、企業と投資家との建設的な対話を促進していく観点から開示内容の共通化・合理化や非財務情報の開示充実に向けた様々な提言がなされ、これらの提言を受け決算短信の記載内容とされていた「経営方針」を有価証券報告書の記載内容に追加する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正が本年2月に公布・施行されている。 今般、有価証券報告書の記載内容の共通化・合理化をさらに推し進めるために、以下の改正が提案されている。 ② 非財務情報の開示充実に関する改正 さらに、企業と投資家との対話に資する非財務情報の開示の充実を図るため、有価証券報告書の「事業の状況」における一部の記載を「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に統合し、かつ経営者による経営成績等の状況の分析に関する新たな記載事項を追加する改正を提案している。 具体的には、有価証券報告書の「事業の状況」における「業績等の概要」及び「生産、受注及び販売の状況」を「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に統合し記載内容の整理を行った上で、新たに下記のような経営者による経営成績等の分析に関する記載を求めることとしている。 (2) 追加型投資信託に係る有価証券届出書の翌日効力発生手続の見直し 追加型の投資信託証券等の募集について、現行制度では有価証券届出書提出日の翌日に効力を生じさせるためには提出者からの申出が必要であるが、これを不要とする特定有価証券開示ガイドライン等の改正が提案されている。   3 適用開始時期 改正後の規定は公布の日から施行する予定である。また、上記(1)の有価証券報告書等の記載内容追加に関する改正については、平成30年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用する予定である。 (了)

#No. 241(掲載号)
#若松 弘之
2017/10/31

《速報解説》 デンソー事件、最高裁で二審判決を破棄、納税者側の逆転勝訴に~タックスヘイブン税制における海外子会社の経済活動は実体で判定~

《速報解説》 デンソー事件、最高裁で二審判決を破棄、納税者側の逆転勝訴に ~タックスヘイブン税制における海外子会社の経済活動は実体で判定~   弁護士 木村 浩之   1 はじめに 株式会社デンソーのシンガポール子会社が外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制、以下では「合算税制」という)の適用対象になるとして、名古屋国税局によって追徴課税がなされた事件(デンソー事件)につき、平成29年10月24日、最高裁第三小法廷は名古屋高裁判決を破棄する判決を言い渡し、デンソー側が逆転勝訴するに至った。 本稿では、デンソー事件で争われたポイントと最高裁判決が実務に与える影響について解説したい。   2 デンソー事件の争点 外国子会社合算税制は、一定の低税率国に設置された子会社の所得を親会社の所得に合算して課税する制度である。 これは租税回避行為の抑止を目的とする制度であり、その目的を超えて正当な事業活動を阻害することがあってはならず、低税率国に設置された子会社であっても、その事業活動に経済的な実体があり、その国で事業活動がなされることに十分な経済的合理性が認められるときには、適用除外が認められる。 本件では、この適用除外が認められるための要件のうち、「事業基準」を充足するか否かが争われた。 すなわち、その充足のためには、子会社の主たる事業が、株式・債券等の保有、工業所有権・著作権等の提供、船舶・航空機の貸付けのいずれにも該当しないことが必要であるが、子会社は必ずしも1つの事業のみを行うものとは限らず、複数の事業活動を行うことがあり得る。そのような場合、どのように「主たる事業」を判定するかが問題であり、本件でもシンガポール子会社が複数の事業活動を行っていることから、いずれの事業が「主たる事業」であるかが争われた。 この点、シンガポール子会社は域内グループ会社の株式を保有しており、仮に主たる事業が「株式の保有」であると認められれば、それだけで事業基準を満たさず、合算税制の適用除外は認められないことになる。そこで、デンソー側は、シンガポール子会社の主たる事業は株式の保有ではなく、地域統括に関する業務であると主張していた。これに対して、国側は、地域統括に関する業務は配当所得の稼得のためにグループ会社の支配・管理を行うものであり、そのような支配・管理は株式の保有に伴う業務の一部(株主権の行使や株式の運用に関連する業務等)として株式保有業に含まれ、主たる事業は株式の保有であると主張していた。 以上の争点のポイントは、①地域統括業が株式の保有と別個独立した事業であると認められるか、②地域統括業と株式保有業がそれぞれ別個独立した事業として併存するとして、いずれが主たる事業であると認められるか(どのような基準で主たる事業を判定すべきか)の2つである。   3 最高裁判決の要旨 最高裁は、まず、①の点につき、子会社が、グループ会社を統括し管理するための活動として事業方針の策定や業務執行の管理、調整等に係る業務を行う場合、株式権の行使や株式の運用に関連する業務等とは異なる独自の目的、内容、機能等を有することから、そのような業務は株式の保有とは異なる事業(地域統括業)であることを判示した(判示①)。 その上で、本件では、シンガポール子会社が、株式の保有のほか、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム及び物流改善に係る業務を行っており、グループ会社からその対価も得ていたことから、株式の保有とは異なる地域統括業を行っていたことが認められた。 次に、②の点につき、外国子会社が複数の事業を営む場合にいずれが「主たる事業」であるかを判定するに当たっては、(i)各事業活動によって得られた収入金額又は所得金額、(ⅱ)事業活動に要する使用人の数、(ⅲ)事務所、店舗、工場その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するのが相当であると判示した(判示②)。 その上で、本件では、(i)地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上高が収入金額の約85%に上っており、所得金額では保有株式からの受取配当が8、9割を占めるものの、その配当収入には地域統括業務の結果が相当程度反映されていたこと、(ⅱ)従業員の多くが地域統括業務に従事していたこと、(ⅲ)有形固定資産の大半が地域統括業務に供されていたことから、シンガポール子会社の主たる事業は株式の保有ではなく地域統括業であると認められた。   4 実務上の留意点 日本の親会社が海外に複数の子会社を有する場合、一定の域内の子会社を効率的に統括するために、地域統括会社を設立することも多い。その場合、設立地国の税率によっては合算税制の適用対象となり、適用除外要件について検討することが重要となる。 特に、外国子会社が複数の事業を行う場合、合算税制の適用除外が認められるかどうかは、いずれの事業が主たる事業であるかに応じて判断することになるため、主たる事業の判定は重要である。 この点、原審(高裁判決)では、主たる事業の判定に当たっては、その事業のために保有している財産の資産総額に占める割合及び所得金額の多寡という形式的な要素が重視されていた。 これに対して、最高裁判決では、収入や所得金額のほか、従業員の状況、使用されている固定施設の状況など、より実質的な観点から、経済的な実体の有無を判断することとされた。そもそも事業基準は、事業活動が能動的か受動的かという実体的な経済活動の有無を区別するのであり、この意味で、最高裁判決の判示は妥当といえる。 このような経済的な実体を重視する最高裁判決の考え方は、近年の税制改正の方向性とも共通するものであり、今後の実務においては、低税率国に設立された海外子会社が合算税制の適用除外要件を満たすためには、当該海外子会社においてより経済活動の実体(事業に従事する人的資源や事業の用に供される物的資源)を備えることが有用であると思われる。 (了)

#No. 241(掲載号)
#木村 浩之
2017/10/30

《速報解説》 経産省、ESG・無形資産投資に関する体系的手引及び政策提言をまとめた「伊藤レポート2.0」を公表~「開示・対話の整備」含む8項目を示す~

《速報解説》 経産省、ESG・無形資産投資に関する体系的手引及び 政策提言をまとめた「伊藤レポート2.0」を公表 ~「開示・対話の整備」含む8項目を示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成29年10月26日、経済産業省の「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」は、「伊藤レポート2.0(「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」報告書)」を公表した。 これは、2014年8月6日に公表した「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトの最終報告書(いわゆる伊藤レポート)の公表後に生じた動きを総括しつつ、無形資産投資やESG等を巡る論点について検討したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 表紙を含めて89ページの大部なものであり、下記に述べる8つの提案をしている。 主な内容は次のとおりである。   Ⅲ 提言の主な内容 1 企業と投資家の共通言語としての「価値協創ガイダンス」策定 「価値協創ガイダンス」は、2017年5⽉29⽇に、「価値協創のための統合的開⽰・対話ガイダンス-ESG・⾮財務情報と無形資産投資-(価値協創ガイダンス)」が公表されている(伊藤レポート2.0では別添3として記載されている)。 これは、企業と投資家が情報開示や対話を通じて互いの理解を深め、持続的な価値協創に向けた行動を促すための枠組み(「共通言語」)となるものであり、今後、価値協創ガイダンスの活用に向けた活動の実行を求めている。 2 企業の統合的な情報開示と投資家との対話を促進するプラットフォームの設立 「ガイダンス」が使われ、質の高い開示や対話のための「共通言語」として定着させていく観点から、企業の情報開示・対話のベストプラクティスや投資家の評価実態等を把握・分析し、より良い開示・対話のあり方を継続的に検討する「場(プラットフォーム)」の設置を提言している。 3 機関投資家の投資判断、スチュワードシップ活動におけるガイダンス活用の推進 投資家やアナリストの企業評価やスチュワードシップ活動を充実・強化する手段として、ひいては中長期的な投資リターンを高める観点から、ガイダンスの活用の推進を提言している。 4 開示・対話環境の整備 「ガイダンス」を、企業が投資家等に伝えるべき情報の全体像を体系的・統合的に整理するための枠組みとして捉えた上で、各開示要求や対話の場面に応じた情報提供を行うことが期待されている。 研究会で問題提起があった四半期開示についても、未来投資戦略2017で示されているとおり、2017年2月の決算短信の見直しの効果の分析結果や国際的な状況・議論も踏まえ、義務的開示の是非の検証も含む更なる検討が行われることが期待されている。 5 資本市場における非財務情報データベースの充実とアクセス向上取組 今後の更なるデータ活用を推進するため、上場会社が「ガイダンス」等を参照して開示する非財務情報やESG情報等へのアクセスを向上し、より活用しやすくするための関係者による取組が行われることが重要であるとしている。 6 政策や企業戦略、投資判断の基礎となる無形資産等に関する調査・統計、研究の充実 企業や投資家の無形資産を含む長期投資に関する政策立案や企業の戦略策定、投資家の投資判断を促すための基礎として、無形資産やそれらへの投資等に関する政府関連の調査統計や研究の充実を提言している。 7 企業価値を高める無形資産(人的資本、研究開発投資、IT・ソフトウェア投資等)への投資促進のためのインセンティブ設計 企業が持続的な価値向上につながる長期的な視野での投資を行いやすくするインセンティブを高めるような環境整備を求めている。 また、今後さらに企業の競争優位の源泉となる様々な無形資産への投資、例えば、人的投資や技術(知的資本)への投資、IT(IoT)・ソフトウェアへの投資といったその他の無形資産投資についても、将来に向けた企業経営者の判断を後押しするようなインセンティブ設計や関連施策が検討され、実現に向けて取り組まれることが期待されている。 8 持続的な企業価値向上に向けた課題の継続的な検討 下記の論点などについて、今後、さらに実態や課題、方策等の検討が行われることが期待されている。 (了)

#No. 241(掲載号)
#阿部 光成
2017/10/27

プロフェッションジャーナル No.241が公開されました!~今週のお薦め記事~

2017年10月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.241を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2017/10/26

これからの国際税務 【第4回】「全世界所得課税方式と領域内所得課税方式」

これからの国際税務 【第4回】 「全世界所得課税方式と領域内所得課税方式」   早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二   1 2つの方式 法人税の課税にあたっては、外国法人は国内源泉所得についてのみ納税義務を負うのに対し、内国法人は全世界で稼得する所得を対象に納税義務を負うものとされている。 内国法人の全世界所得を対象とする課税方式(外国税額控除権付)は、国内のみで事業活動を行う法人と国内・海外の両方で事業活動を行う法人との間での税負担水準を平等に保つ効果があり、資本輸出中立性を保証する課税手法といわれてきた。 ただし、この方式を前提にすると、子会社形態で海外での事業展開を行う本邦法人は、子会社からの配当を繰り延べることにより親会社の全世界所得課税も遅らせることが可能となる。 近年、海外子会社資金の国内還流が減少する一方、海外での留保所得が増加している現象が伝えられ、そのことが、本邦にある各種資金需要(株主に対する配当支払、従業員に対するインセンティブ報酬支払、研究開発資金等)とミスマッチを起こしているとの批判を呼んでいる。 かつて、その原因の一部は、進出先国と我が国との間の税率差分に相当する納税を行わねば本国還流できないとする我が国法人税制の全世界所得方式にあると指摘されていた。それは、経済活動に対するかく乱をタブーとする税制の理念に逆行するのではないかとの指摘であった。 かかる課題への対応として我が国は、平成21年度改正で外国子会社配当益金不算入制度を導入した。これにより、我が国は本格的な全世界所得課税方式から、外国子会社所得につき領域内所得課税方式で修正を施したいわばハイブリッドな課税体制に変更したのである。   2 領域内所得課税方式のバリエーション シンガポールや香港といったオフショア金融センターの役割を果たす管轄地では、内国法人についても自国内で発生しない所得は原則課税対象外とするというフルバージョンの領域内所得課税方式を採用している。 これに対し、EU諸国の大半は、外国で発生する受動的所得については自国の課税権を留保しつつ、能動的所得(事業所得等)にのみ領域内所得課税原則を及ぼすという「(資本)参加免税」と呼ばれる制度を採っている。 資本参加免税の対象は、子会社配当のみならず、経済的にそれと同等である株式譲渡益や海外のPEに帰属する所得を含む点で我が国より広くなっている。なお、EUのほとんどの国は国内法で資本参加免税を許容しているものの、ドイツは租税条約によってはじめてそれを認めている。   3 我が国の制度の特徴と課題 我が国の外国子会社配当益金不算入制度は、機能的には海外での能動的所得の果実である子会社配当を非課税とする点で資本参加免税と同じ機能を果たしているものの、以下の点で適用範囲が制限的である。 (1) 株式譲渡益及び海外PEの利得を含まないこと 21年度改正において我が国が導入した新制度は、それまでの外国子会社配当に認められた間接税額控除の代替制度として設計された。すなわち、配当にかかる二重課税を、間接税額控除によらず非課税とすることにより排除するとの修正に止めたものである。 この結果、適用要件も子会社株保有割合25%の間接税額控除の閾値が維持され、また、従来から直接税額控除の対象とされていたPE帰属所得は非課税の対象外とされた。 (2) 受領配当の一律5%を益金不算入対象から除外したこと 子会社投資の費用に相当する金額は親会社においてすでに費用計上が済んでいるとの前提に立ち、受領金額の全額を益金不算入とすると借入れにより発生する海外事業所得に二重に便益を与える結果となることから、受領金額中のみなし費用相当分を5%として適用対象金額を減額した。 (3) 制度の課題 ① 不平等問題 株式譲渡所得及び海外PE利得を適用対象外としたことは、配当法人と非配当法人との間及び子会社形態と支店形態での事業展開の間に課税上差別を設けることになるので、税制の中立性の観点から問題が指摘されうる。 ただ、子会社の場合は、①受取配当が非課税とされても同配当の支払いの際に源泉徴収の税負担は解消されず残ること、②旧制度の下では子会社にかかる法人税とそれが支払う配当に課される源泉徴収税の両方を税額控除可能であったことから、当該不平等さは割り引いて考えることもできる。 ② 25%の株式保有要件及び非課税対象所得の5%減額 25%の保有要件は、欧州の閾値(仏、蘭の5%等)と比べて相当高い水準である。この保有割合は、多国籍企業が地域統括機能を有する中間持株会社設立地を選択する上では、重要な価値を持つとも考えられるので、租税競争上は、我が国は不利な立地環境にあるといえる。 また、潤沢な課税済み自己資金により子会社投資を行う企業は、子会社のファイナンスコストの損金算入がないのであるから、5%の一律減額は不合理で承認しがたいものと映るかもしれない。 きめ細かい対応をすれば、費用の立証をもとに対象企業ごとに異なる控除割合を認める立法論も考えられるし、そのような可能性を踏まえて、一律100%益金不算入と制度設計する立法例も散見される(蘭、米国2016共和党税制改正提案等)。 ③ 他国との税制競争の激化 全世界所得課税方式に最後まで忠誠を尽くしてきたアメリカでは、本年9月末にトランプ政権が発表した法人税改正案で、20%への税率引下げと並んで子会社配当非課税を行うと発表した。 OECDでのBEPS対応(課税強化の方向)と並行して、世界の法人税制は税率引下げ競争を伴う領域内所得課税方式へと集約しつつある。我が国も法人税改革がひと段落したとして安住できる状況にはないと思われる。 (了)

#No. 241(掲載号)
#青山 慶二
2017/10/26
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