計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第23回】 「2018年3月期要注意!株式併合の注記はここで間違う」 公認会計士 石王丸 周夫 1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例23-1】 1株当たり情報の注記で、株式併合の記述を有価証券報告書から丸写ししてしまっている。 【事例23-1】は連結注記表の1株当たり情報の注記です。1ヶ所だけ間違いがあるのですが、どこだかわかりますか? ヒントを出しましょう。下半分の注書き文章の中にあります。1文字だけ間違っていますよ。 2 有価証券報告書ならこれでよいが・・・ では、答えを見てみましょう。 上に示したとおり、注書き文章の中の「前連結会計年度」を「当連結会計年度」とするのが正解です。以下で解説しますが、有価証券報告書では「前連結会計年度」でよいのですが、会社法計算書類では「当連結会計年度」とします。 これは有価証券報告書の注記文章を「丸写しして手直しを忘れる」といううっかりミスなのですが、ちょっと難しかったかもしれません。そもそもこの注記の意味が理解できていないと間違いに気がつかないからです。 3 今回は株式併合 以前からこの連載を読んでいただいている読者の方は、ここまで読んだところで、この話はすでに読んだことがあると思いませんでしたか?実はこの事例、本連載【第8回】で取り上げた【事例8-1】とほとんど同じなのです。 では、どこが違うのかというと、【事例8-1】では株式分割時の注記でしたが、今回の【事例23-1】は株式併合時の注記となっているのです。 株式分割というのは、たとえば1株を10株に分けるというように、株式を割って株数を増やすことでした。株式分割が行われると、1株当たり純資産額や1株当たり当期純利益が変わってきます。1株を10株に分割した場合は、1株当たり純資産額や1株当たり当期純利益は10分の1になります。 株式併合というのは、この逆です。10株を1株にまとめるというように、株式をくくって株数を減らすのです。その結果、1株当たり純資産額や1株当たり当期純利益が変わってきます。10株を1株に併合した場合、1株当たり純資産額や1株当たり当期純利益は10倍になります。 この株式併合を行う上場会社が最近よく見られます。背景にあるのは、全国証券取引所が進めてきた株式の売買単位の統一です。したがって、2018年3月期決算では、【事例23-1】のようなミスが散見される可能性があり、今回取り上げてみました。 4 売買単位統一と株式併合はどう関係しているのか 全国証券取引所による株式の売買単位の統一は、2007年にスタートしました。このプロジェクトは、上場会社の株式の売買単位、すなわち単元株数を、最終的に「1単元=100株」に統一することを目標としています。それまで8種類もあった売買単位を1つにまとめることから、段階的に実行されてきましたが、2015年12月に、最終的に「1単元=100株」に移行する期限を2018年10月1日と決めています。 それを決めた時点において、上場会社の単元株数は、すでに100株か1000株かのいずれかに集約されていましたので、あとは最終期限までに1000株の会社が100株に移行するのみというわけです(日本取引所のウェブサイトによると、2017年10月1日を効力発生日として単元株式数を変更し、同時に株式併合を実施した会社は、357社あります)。 1単元を1000株から100株に変更する場合、株式の投資単位の水準というのも考慮しなければなりません。投資単位というのは、1単元の株式の「購入金額」のことです。つまり、最低いくらあればその株を買えるのかという金額です。投資単位は「株価×単元株式数」によって求められ、東京証券取引所では、望ましい投資単位として「5万円以上50万円未満」という水準を明示しています。 たとえば、「1単元=1000株」のA社の株価が200円とします。その場合、A社の株を購入するために最低限必要な金額、すなわち投資単位は200,000円です。これは上記の望ましい水準の範囲に入っています(下図の①の段階)。 では、A社が「1単元=100株」に移行したらどうなるのでしょうか。株価が変わらないとすれば、投資単位は20,000円に下がります。その結果、望ましい投資単位の水準を下回ってしまうことになるのです(下図の②の段階)。 ここで株式併合が出てきます。株式併合は株価に影響を与えます。たとえば、10株を1株に併合すると、理論上、株価は10倍になります。単元株数の変更を行う場合、このことを利用して、投資単位の水準を調節することができるのです。 上の例で、A社が「1単元=100株」に変更すると投資単位が20,000円に下がってしまいましたから、株式併合によって株価を10倍にして、投資単位を引き上げるのです 上図の③のとおり、10株を1株に併合することにより、株価が10倍の2,000円となり、投資単位は「2,000円×100株」で200,000円となるため、望ましい水準の範囲に収まります。 実際には、下図のように②と③を同時に行うことになります。 5 有価証券報告書との違い ここまでの説明をふまえて、【事例23-1】がなぜ誤りなのかという話に戻りましょう。そのためには、会社法計算書類の開示ではなく、有価証券報告書の開示について考えるのが早道です。 有価証券報告書では当期の1株当たり情報に加えて、前期の1株当たり情報を比較情報として掲載します。当期中に株式併合が行われた場合、1株当たり情報は単純に前期のそれと比較することはできませんので、前期分について調整計算を行います。すなわち、前期の期首に株式併合が行われたと仮定して、前期の1株当たり情報を算定しなおします。そして、その結果を前期数値(比較情報)として載せるのです。 一方、会社法計算書類は有価証券報告書と違って単年度開示です。前期の数字は載りません。したがって、前連結会計年度の期首に株式併合が行われたと仮定するのではなく、当連結会計年度の期首に株式併合が行われたと仮定するのです。したがって、「当連結会計年度の期首に」株式併合が行われたと記載するのが正解になります。 つまり、【事例23-1】の事例は、有価証券報告書の注記としては正しい記載ですが、それを会社法計算書類に丸写ししたので間違いになったということなのです。 6 関連するミス事例 【事例23-1】に関連して、次のようなミスがあることも紹介しておきます。 【事例23-2】 連結注記表で記載した文言をそのまま個別注記表で使用したことによるミス 連結注記表の注記をコピペして数字を置き換えただけでは、個別注記表の注記にはならないことに注意しましょう。「連結会計年度」を「事業年度」に書き換えなければいけません。この書き換えミスは株式併合の注記に限らず、非常によく見られます。本連載の【第5回】で解説しましたので、ぜひご参照ください。 なお、今回の事例は、いずれもコピペを原因とするミスでしたので、その防止法としては、「コピペを禁止する」のが最も確実な方法です。しかしながら、定型的な注記文章を効率的に作成する場合、コピペは欠かせません。 したがって、コピペを禁止せずに、「コピペに際して加筆修正すべき部分がどこなのかを意識しながら注記を作成する」というのが、実務的な落としどころとなるでしょう。 〈今回のまとめ〉 株式併合が行われた場合は、有価証券報告書と会社法計算書類で注記文章が異なることを覚えておきましょう。 (了)
税理士のための 〈リスクを回避する〉 顧問契約・委託契約Q&A 【第6回】 「節税と租税回避の境界が微妙な案を提案する場合の注意義務」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 弁護士・ 関西大学法科大学院教授 元氏 成保 弁護士・税理士 橋森 正樹 Q 税理士には、顧問契約を締結している顧客の税務申告について、そもそも顧客のためにいわゆる節税を講ずる法的義務があるのか。 また、「節税」と一口にいっても、あらゆる方法があると思われるが、後に税務当局から否認されるリスクのあるような提案をする際には、どのような点に注意すべきか。 A 1 そもそも税理士に節税義務があるのか 税理士は、顧客と締結した委任契約に基づき、顧客に対し、善管注意義務を負うことは、これまでの連載において何度も説明されているが、この善管注意義務には、そもそも顧客のために、いわゆる節税を講ずる義務が含まれているのか。 かつては、 とし、当該事案の顧客と税理士との関係に鑑みれば、 と判示した裁判例(岐阜地裁大垣支部昭和61年11月28日判決)があった。 これによると、(あくまでも当該事案についてではあるが)いわゆる節税は税理士の法的義務ではなく、単なるサービスであると考えられていた。 ところが、その後、次のとおり、裁判所は、税理士にいわゆる節税義務を肯定する判断を次々と示している(引用中、「原告」を「納税者」とするなど、適宜置き換えている)。 ① 東京高裁平成7年6月19日判決 相続人の修正申告に当たっては、相続税の納付がいつ必要であるかを説明し、その納付が可能であるかどうかを確認し、これができない場合には、延納許可申請の手続をするかどうかについて納税者の意思を確認する義務があるというべきである。このような納付についての指導、助言を行うことは、本件の事情のもとにおいては、単なるサービスというものではなく、相続税の確定申告に伴う付随義務であり、この懈怠については債務不履行責任を負うものと解するのが相当である。 ② 東京地裁平成9年10月24日判決 税理士は、税務の専門家として、納税義務者から税理士業務を依頼された場合には、税理士業務を特定の方法で遂行することを指定されたとき、特定の税理士業務のみを独立して指定して依頼されたとき、又は納税義務者にとってより有利な途を選択することに何らかの困難、弊害が伴うときなど、特別の事情があるときでない限り、租税関係法令に適合した範囲内で依頼者にとってより有利な税理士業務の方法を選択すべき義務があるというべきである。 ③ 東京地裁平成10年9月18日判決 納税者が当面の相続税の額をできる限り少なくしてもらいたいとの希望を持っていることも承知していたのであるから、対価を得て税務事務を行う税理士としては、納税者が遺産分割協議をする際の資料ないし選択肢の1つとして、・・・配偶者控除をできる限り多く使えるような遺産分割協議の方法はどうであるかについて、遺産分割協議書案の提示又はそれに代わる助言をすべき職務上の義務があったといえる。 このような近時の裁判例の傾向からすれば、もちろん、最終的には個別事案での個々の判断ではあるものの、税理士には、特段の事情のない限り、顧客にとってより有利な方法、つまり、節税を講ずる義務があると考えられる。 2 節税と租税回避との境界が微妙な案を提案する場合に留意すべき点は何か 以上のとおり、一般に、税理士にはいわゆる節税義務があるといえるが、一口に「節税」といっても様々な方法が考えられるところ、例えば、後に税務当局から否認されるリスクがあるような方法を提案する場合、どのような点に留意すべきであろうか。 ところで、一般に、「節税」は租税法規が予定しているところに従って税負担の減少を図る行為であるのに対し、「租税回避」は租税法規が予定していない異常ないし変則的な法形式を用いて税負担の減少を図る行為といわれており(金子宏『租税法(第22版)』127頁参照)、両者は異なるものと解されている。 もっとも、実務上、節税と租税回避との境界が微妙な事案も少なくないと思われ、前述のとおり、しかも税理士には節税義務が課せられていると考えるべきであるから、このようなケースに遭遇することは当然想定されよう。 この点、参考になると思われる裁判例として、相続税対策としていわゆるDESを実施することを提案したところ、その際にDESを選択した場合には債務消滅益が生ずることを説明しなかったことについて、税理士法人に損害賠償責任を認めた裁判例(東京地裁平成28年5月30日判決)がある。 この事案は、顧客X社の顧問税理士であった税理士法人Yが、X社の代表者であったAの相続税対策として、AのX社に対する多額の貸付債権をX社に現物出資してAにX社の株式を割り当てる、いわゆるDESを提案したところ、AがそのDESを実行したが、その後、当該DESによってX社に多額の債務消滅益が発生しX社において多額の法人税の納付を余儀なくされたとして、Aの相続人がYを訴えたというものである。 なお、平成18年度税制改正以降、現物出資型のDESにおいては、債務者に債務消滅益が発生するリスクがあることは税務の常識に属する事項となっていたものである。 これに対し、裁判所は、 とし、Yの説明義務違反を認めた。 この事案は、そもそも相続税対策を提案する際に、その方法に伴う税務処理を正しく理解していなかったというものであり、この点の税理士の落ち度は明らかといえ、裁判所の判断も当然といえよう。ただ、この裁判例の判示から読み取れることは、税理士が顧客に対して税負担を減少させる方法を提案する際には、それによるメリットのみならず、デメリット(リスク)も顧客に説明する義務があるということであり、この点が税理士に求められる法的義務といえる。 そうすると、節税というか、租税回避というかはさておき、後に税務当局から否認されるリスクがあるような方法を提案する場合には、当該方法の税法上の根拠及び税務処理を正確に理解し、それを顧客に説明することはもちろんのこと、税務当局とのいわゆる見解の相違により否認されるリスクがあるという点についても十分に説明することが求められるといえる。その上で、顧客が納得した上で当該方法を採用すべきである。 また、それにとどまらず、このような説明を実施するにあたっては、後に紛争となった場合に備えて、当該説明を実施し、その上で顧客が承諾したことを示すエビデンス(例えば、説明書を作成し、それに顧客から承諾したことにつき署名をもらうなど)を残しておくべきである。 そのほか、顧問契約を締結している顧客に対する日々の税務相談においても、前述のような節税を講ずる義務があると考えられることから、例えば、顧問契約書に次のような条項を入れておくことも1つの方法であるといえる。 もっとも、上記第2項のような免責条項を設けたとしても、あらゆる不利益ないし損害につき税理士が免責されるとは限らない点については留意されたい。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第24回】 (最終回) 「税理士自身が認知症になったら?」 -事務所の事業承継- クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 【設問21】 私の父は税理士です。有資格者は父ひとり、他に事務スタッフ数人という体制で、長年、税理士事務所を営んできました。私も事務スタッフの一人として勤務しています。 父は75歳となる現在も現役で仕事をしていますが、もともと経理ソフトの操作等は苦手であり、顧問先の会計処理のほとんどは事務スタッフに任せる状態となっています。また父は、ここ数年で物忘れの頻度も増え、本人も不安に感じる場面があるようです。 仕事上、会社の事業承継の相談を受ける機会が多いのですが、そのたびに、私たち自身の事務所の将来のことも考えておく必要があると強く感じています。 税理士事務所において有資格者が認知症となった場合の影響はどのようなものでしょうか。 また、事務所の事業承継について、どのような準備をしたら良いでしょうか。 1 税理士自身が認知症となる可能性も十分にある 本連載の最終回にあたり、税理士本人の判断能力が減退した場合の対応、及び、そのような事態への備えについて解説したい。 日本税理士会連合会が平成26年4月に実施した「第6回 税理士実態調査」によれば、平成26年時点で、60歳代以上の税理士が実に53.8%と過半数を占める状況にあるとの調査結果が発表された。 これは、税務署等の国税当局を定年退職した後に税理士登録を行う、いわゆるOB税理士による影響もあるが、社会の高齢化に伴い、税理士をはじめとした士業自身の高齢化による影響もあるものと思われる。 税理士自身の高齢化がさらに進み、場合によっては認知能力が減退するような事態となった場合には、次のような諸問題が発生する可能性がある。 【税理士自身が認知症となることにより発生する問題】 実際に、筆者が過去に相談を受けた中にも、高齢の税理士による税務過誤の事案が複数存在した。これらはいずれも、税理士において最新の税務知識をフォローできておらず、税務申告に誤りがあったとして、後日に依頼者のもとに高額の過少申告加算税等が賦課されたという事案であった。 このようなケースでは、税理士は依頼者から、本来であれば支払わずに済んだはずの加算税等に相当する金銭の支払いや、該当期間の顧問料等の返還を求められることになる。 2 税理士事務所の事業承継 すでに事務所内に経験豊富な有資格者がいる場合はともかく、【設問21】のように、有資格者が事務所に1人しかない場合には、事態はより深刻である。なぜならば、何の前触れもなく、ある日突然に所長である有資格者が病に倒れてしまえば、その日から、税理士事務所は文字どおり立ち行かなくなってしまうからである。 そのまま職場復帰できなかった場合はもちろんのこと、長期療養を余儀なくされる場合でも、事務所の賃料やスタッフの給料支払等、事務所維持にかかるキャッシュフローを稼ぐことすら困難となってしまう。 したがって、所長税理士がある程度以上の年齢になっている場合には、そう遠くはない将来に備えた、円滑で納得性の高い“第一線の退き方”を計画しておく必要がある。これが、税理士事務所の事業承継の問題である。 税理士事務所の事業承継の類型としては、大まかに言うと、 の2つに分けられる。 そして、合併・売却の相手先としては、 といった選択肢が存在する。 事業承継に関する準備・検討事項も、おおむねQ&A編【第5回】で触れた一般企業の事業承継に関するものと基本的には同様である(そこで紹介した中小企業庁の次のウェブサイトはぜひ参照いただきたい)。 以下では、特に税理士事務所の事業承継にポイントを絞って説明する。 なお、税理士事務所の事業承継に関しては、例えば、黒木貞彦著『トラブルに学ぶ税理士事務所の事業承継-基本的取組みから第三者承継まで』(清文社、平成25年7月刊)等の書籍も出版されている。この分野はまだ参考となる文献も少ないため、あわせてご参照いただきたい。 ▷注意点その1 事業承継の検討に必要な基礎的資料を準備する 士業の事務所で所長が気にかけるのは、多くの場合、年度の売上げや必要経費といった大まかな数字だけであり、それ以上突っ込んだ事務所経営上の数字やデータには無頓着であるケースも多い。 しかし、事務所の事業承継を本格的に検討するにあたっては、各期の決算書はもちろん、顧客名簿(顧問料や顧客ごとの売上データ、各種顧客情報の記載を含む)や資産台帳、勤務する事務スタッフの大まかな経歴や待遇、支出されている経費の費目・内訳、締結している各種契約書の整理等、数値化・データ化できるものはなるべく数字に落とし、書面化し、『見える化』しておくべきである。 要は、一般企業のM&Aにおけるデュー・デリジェンスにおいて必要となるような関連書類は、すべて準備しておく必要があるということである。 このような資料は、事務所を譲渡する側にとっては適切な譲渡対価を決定するための不可欠の資料として必要となり、また、買主候補の側でも事務所の合併・買収を検討する際に必須のものといえる。 ▷注意点その2 事業承継の具体的方法と合併・売却先を慎重に選定する 税理士事務所をはじめとした士業にとって「最大の資産」は、長年にわたり開拓してきた顧客・顧問先である。 よって、士業の事業承継は、この顧客をいかに円滑に合併先・売却先に引き継ぐかということが最大のポイントとなる。すなわち事業承継を発端として顧客が離れてしまうようでは、その事業承継は失敗ともいえるのである。 この点、「合併」(統合)による承継方法をとる場合は、所長が引退する側の事務所にとって、外面的な継続性は維持される。しかし、合併後において、事務所の名称をどうするか、具体的な経営事項の決定をどうするか、所長が引退するタイミングや方法をどうするか等をめぐり、当事者間に深刻な対立が生じるリスクもある。 他方、事務所の「売却」による承継方法としては、売却する側は対価を受け取る代わりに完全に事務所経営からは離脱することになる点で、シンプルで分かりやすい。しかし、顧客・顧問先からすれば、事務所内承継であればまだしも、場合によっては見ず知らずの事務所への契約の切替えを提案されるという形となる。そのため、顧客に不満・不信を抱かれ、契約を打ち切られるリスクが増加する。 以上のようなメリット・デメリットを念頭に置き、何が承継当事者にとっても顧客にとってもベストであるのかを慎重に検討する必要がある。 ▷注意点その3 譲渡・合併後に起こり得るトラブルにも対応し得る「契約書」を作成・締結する 一般企業のM&Aであれば、しっかりとした契約書と専門家の関与のもとでの慎重な手続を経て準備・締結に至るのが通常である。税理士事務所の事業承継においても、場合によってはその対価として数千万円単位の金銭が動いてもおかしくはない。 そこで、事後的なトラブルをできるだけ回避し、確実な事業承継を実現するよう、法律的に見て必要十分な内容を備えた契約書及びその関連書類を作成すべきである。 特に決めておきたいのは、 などの点である。 ▷注意点その4 税務上の処理を慎重に検討する 税理士は、税務の専門家とはいえ、自身の事務所運営については税務面の検討がおろそかとなるケースも多いと思われる。 事務所の合併・売却等にあたっては、当事者間で合併・譲渡の対価の授受をするとして、いわゆる“のれん代”が士業の事務所においても観念される余地があるのか、また、その適切な対価の金額をどのような算定方法をもって算出するのか、そして授受された対価をどのような内容で申告・納税するのか等、税務上の検討を要する事項は多い。 そのためには、売主側・買主側の当事者間で十分検討するだけでなく、税理士事務所の事業承継につき実務経験を有する専門家の助言を受けることも検討すべきであろう。 ▷注意点その5 顧問先はもちろん、事務所全体への説明・コミュニケーションも重視する 税理士事務所は、当然のことながら、有資格者がトップに座り、事務所の看板となっている。しかし、実際の実務においては、事務所に勤務する事務スタッフなしでは成り立たない。このように有資格者と事務スタッフが、いわば有機的な一体として活動しているのが税理士事務所といえる。 事務所の事業承継は、有資格者だけの問題ではなく、事務スタッフの人生設計にも大きな影響を与えることになる。そこで、税理士事務所の事業承継では、事務スタッフの承継・待遇について、具体的にどうしていくかを売主・買主双方で予め検討しておく必要がある。 そして、然るべき段階において、承継についての詳細を事務スタッフに対してもアナウンスする必要があり、その時期や内容、具体的な方法についても予め検討しておく必要がある。 ▷注意点その6 早め早めの承継準備を! 税理士をはじめとした士業は、仕事柄、他人の相続や事業承継については頻繁に相談を受けるものの、自身が高齢となって以降の事務所経営のことや、事業承継のことはほとんど念頭にないということも多い。まさに、“紺屋の白袴”である。 士業は、依頼者・顧問先との関係でサービス提供の継続性・安定性というものが何よりも大切であるし、高齢となれば、突然に病を得て長期の療養を余儀なくされる可能性もある。 そこで、一般的な企業の退職年齢である60~65歳を迎えた頃、あるいはこれを超えた頃には、自身が築いた事務所と顧客の事業承継について徐々に準備・検討を進めていくということで丁度良いと思われる。 本連載において再三繰り返してきたように、認知症や事業承継への対策は、「何かあってから」では遅い。何かあったときに備えて、普段より準備を整えていくことが得策である。 (連載了)
AIで 士業は変わるか? 【第1回】 「ITイノベーションがもたらす専門職の役割の変化」 PwCあらた有限責任監査法人 PwCあらた基礎研究所 所長 公認会計士 山口 峰男 Ⅰ はじめに 皆様がお読みになっているこの税務・会計Web情報誌の名称にある「プロフェッション」は、「専門職」を意味する言葉です。人工知能(AI)の活用される今日の情報社会は、同時に知識社会でもあります。監査及び会計の専門家としての公認会計士を含むあらゆる専門職は、社会において知識の管理・活用を任されている「門番(gatekeeper)」と説明されることがあります。 人間は生きていくために必要なあらゆる知識を自分ひとりで頭に詰め込み、活用することはできません。このため、社会は「専門家」と呼ばれる人々に個々の専門領域における知識の管理を任せ、その役割に見合ったある種の特別な地位(たとえば公認会計士という資格)を与えます。 本稿では、時代を超えて必要となる「社会の中で専門知識を行き渡らせ、活用する仕組み」との観点から、社会における門番との専門職の伝統的な役割を念頭に、今後AIを中心とした情報技術(IT)におけるイノベーション、技術革新によりどんな点が変わるのか、また、変わらないのかについて、これから実務の世界に入られようとしている若い世代の方々に、お考えいただくうえでの視点をご提供したいと考えています。また、実務家の方々にもお考えいただくヒントとなればと思います。 なお、ここで記述した見解はあくまでも筆者個人のものであり、所属する組織とは関係がないことを申し添えます。 Ⅱ ITイノベーションにより変わる役割 飛躍的な進歩を遂げたITの活用により、「印刷を基盤とした産業社会」は「テクノロジーを基盤とした情報社会」へと変貌を遂げつつあり、知識の生産や流通のあり方が大きく変わっています。 新しい社会では、知識の門番たる専門家の役割も大きく変わります。 まず、仕事はこと細かなタスクに細分化されます。単独で会計から税務まで、また営利企業から非営利組織、個人まであらゆる専門分野をカバーする、“スーパーマンのような会計士”像は、今日ではほぼ考えられなくなりました。 次に、他の人々に任せることができるものは委託されることとなり、またその一部はより高度に進化した機械により置き換えられます。会計事務所や職業的な専門家団体では、ビッグデータの分析にITを活用するための検討を以前から進めてきています。 さらに、こうしたなかで、知識を生産、流通する新たな手法が生まれます。これまで職業として専門職に携わってきた人も、その中で新たな役割を見出すようになることが求められ、伝統的な手法を引きずっていくとすれば社会の要請にそぐわないこともありうると思います。 たとえば、監査の分野においても、これまでのような母集団から一部を抽出する、試査を前提としたアプローチに限定されず、母集団の全件調査が視野に入ってきています。また、監査の実施時期についても従来のような企業の決算期を繁忙期とし多くの手続を集中して行う考え方に代わり、期中から個別取引を日々監視し検証していく継続監査(continuous auditing)が研究、試行されています。 これらの変化はITイノベーションによって支えられるもので、その恩恵であるデータ分析の高度化は、これからが正念場です。特に監査の領域ではそれを実施する会計士のみによって成り立っているわけではなく、規制動向をも含めた外部環境により大きな影響を受けますので、監査基準の改訂などの対応も求められることとなります。 Ⅲ ITイノベーションによっても変わらない役割 こうした変化にもかかわらず、「社会の中で知識をどのように活用していくか?」「人は社会の中でどのようにして専門知識を伝達しているのか?」との問いは、技術が発展し時代が変われども普遍的なテーマであり、変わることはありません。 すべての専門家は、こうした問いに対する解決策を提供する者として存在します。 ITイノベーションの結果として性能が進化した機械は、思考力をもっていないとしても非常に高いパフォーマンスを備えています。こうした中で「あらゆるタスクを、人間の専門家と同じレベルで行えるようになるだろうか?」「必ず人間が行われなければならないタスクがあるだろうか?」が問題となります。「技術的失業」の可能性という問題です。 監査や会計の知識を具体的に社会でどのように利用していくのか、また、分野ごとに細分化され深度をもつ専門知識や新たな知見についてどのように専門家以外の人々(たとえば被監査企業や投資家等)との間でコミュニケーションしたらよいのかについて、機械が有効な答えを提供するのは難しいと考えられます。 ここに人としてのプロフェッションの意義が認められると考えています。 つまり、『いかにして高性能の機械を活用し、社会に役立つ専門知識や知見を還元していくのか』は、人間のみが解決できる高度な問いであると思います。 すなわち、会計や監査分野において最終的に行う人の判断を正確かつ迅速に行うため、データ分析の専門家としてもITイノベーションの成果を主体的に利用していくことが求められます。 Ⅳ 次の世代に向かって もっとも、人間による問題解決を遂行するためには、機械についてあるいは技術や理論的背景についてもよく知っていなければなりません。 筆者は現在、監査法人の研究機関において、「次世代における会計及び監査」というテーマに取り組み、最近では特にデータサイエンスからの知見について、昨年日本初のデータサイエンス学部を設立した滋賀大学との基礎研究にも注力しています。 今日「AI」という言葉が用いられる場合、統計的機械学習を指していることが多いと思われますが、それらを支える理論的な裏付けは公認会計士試験の選択科目でもある統計学であり、高校数学の知識です。さらにそれらを支えるのは、各科目の試験を通じて公認会計士試験でも試される論理的思考力です。 ITイノベーションの結果としてますます複雑化している資本市場において、公認会計士も新しい動きに対応できるよう、門番として従来からの会計学の領域にとどまらず、さらに広い視野で研鑽していくことが求められています。 (了)
《速報解説》 平成30年度税制改正法案、第196回通常国会に提出される Profession Journal 編集部 平成30年1月22日から会期がスタートした第196回通常国会だが、このたび昨年12月公表の平成30年度税制改正大綱を受けた、いわゆる平成30年度税制改正法案が国会に提出された。 平成30年度税制改正法案は、例年通り国税に関する改正案である「所得税法等の一部を改正する法律案」に加え、国際観光旅客税の創設を規定した「国際観光旅客税法案」が別の法案として提出されている(2月2日付)。また地方税関係は2月6日に「地方税法等の一部を改正する法律案」が提出された。 各法案は次の財務省(国税関係)及び総務省(地方税関係)のホームページでそれぞれ確認することができる。 (※) 所得税法等の一部を改正する法律案の新旧対照表は本稿公開時点で未公表。 今回の法案では大綱に記載のあった通り、個人所得課税における給与所得控除・公的年金等控除から基礎控除への振替え、法人課税では所得拡大促進税制の大企業・中小企業ごとの制度改組(措法42の12の5)や研究開発税制等における賃上げ等要件の追加(措法42の13)、資産課税では事業承継税制の特例制度の創設(措法70の7の5~70の7の8)などが織り込まれている なお、これらの法案は3月31日に公布される見込みだが、衆議院又は参議院の議案情報のページでは各法案の審議の経過を確認することができる。 また、今国会の会期は6月20日までとなっており、いわゆるIoT設備投資減税(措法42の12の6)に関連する生産性向上特別措置法案等、各特例措置と連動した法改正の成立動向にも注目される。 (了)
《速報解説》 国税庁、平成29年度改正に係る「外国子会社合算税制に関するQ&A」を公表 ~ペーパーカンパニー等の判定などに関する疑問点・典型例を解説~ 税理士 長谷川 太郎 国税庁は、平成30年1月31日付で、「平成29年度改正 外国子会社合算税制に関するQ&A(情報)」を公表した。 本稿では以下のとおり、その内容について解説する。 1 Q&Aの概要 本Q&Aは、外国子会社合算税制に関する平成29年度税制改正の内容(外国関係会社の平成30年4月1日以後開始事業年度から適用)等のうち、以下の3項目に関する疑問点や典型的な例をQ&A形式でまとめたものとなっている。また、具体的なQ&Aの他に、制度の解説も掲載されている。 2 ペーパーカンパニー等について 平成29年度税制改正により、ペーパーカンパニー等は「特定外国関係会社」として、租税負担割合が30%以上の場合を除き、会社単位の合算課税の適用を受けることとされている。 この場合のペーパーカンパニー等とは、「実体基準」及び「管理支配基準」のいずれにも該当しない外国関係会社とされている(措法66の6②二イ)。「実体基準」及び「管理支配基準」は経済活動基準(改正前の「適用除外基準」)における「実体基準」及び「管理支配基準」と基本的に同じ内容となっているが、ペーパーカンパニー等の判定における「実体基準」については、固定施設の所在地が本店所在地国に限定されていないことに留意されたい。 本Q&Aでは、実体基準についてQ1~3、管理支配基準についてQ4~Q8が公表されているが、昨年12月21日付け(ホームページ公表は本年1月9日)で公表された改正租税特別措置法関係通達により新設された以下の通達に沿った内容となっている。 なお、本Q&Aは、改正前の適用除外基準における両基準の取扱いを変更するものではないとされている。 Q&Aの要旨は以下の通りである。 3 対象外国関係会社の判定に係る経済活動基準における航空機リースについて 平成29年度税制改正により、「事業基準」を充足しないとされている「船舶もしくは航空機の貸付を主たる事業」から一定の航空機リース業が除外されることとなった。条文上は「航空機の貸付けを主たる事業とする外国関係会社のうちその役員(括弧書省略)又は使用人がその本店所在地国において航空機の貸付けを的確に遂行するために通常必要と認められる業務の全てに従事していること(措法66の6②三イ)」が要件とされているが、その中の「通常必要と認められる業務」の範囲(Q9)と「通常必要と認められる業務の全てに従事している」かどうかの判定(Q10)についてQ&Aが公表されている。 4 部分適用対象金額に係る合算課税の対象範囲について 平成29年度税制改正において、部分合算課税の対象となる所得が「受動的所得」として見直され、範囲が拡大されるとともに、租税回避リスクを所得類型ごとに判断し、外国関係会社にその所得を得るだけの実質を備えていると考えられるものを個別に除外する形としている。 本Q&Aでは以下の3種類の所得について、個別に除外することができる内容についてQ&Aが公表されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、IESBAによる倫理規程の見直しを受け、「独立性に関する 指針」及び「職業倫理に関する解釈指針」の改正(公開草案)を公表 ~担当者の区分ごとにインターバル期間を設定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年1月26日、日本公認会計士協会は、以下の公開草案を公表し、意見募集を行っている。 これは、2017年1月の国際会計士連盟(International Federation of Accountants)における国際会計士倫理基準審議会(International Ethics Standards Board for Accountants) の倫理規程(Code of Ethics for Professional Accountants)の改正において、監査業務及びその他の保証業務における担当者の長期的関与とローテーションに関する改正が行われたことを受けたものである。 意見募集期間は、平成30年2月26日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「独立性に関する指針」の主な改正案 担当者の長期的関与とローテーションに関して、担当者が長期間にわたって監査業務に関与する場合、当該者の公正性及び職業的懐疑心に影響を与え得る馴れ合い及び自己利益の阻害要因が生じ、その重要性が高くなる可能性について詳細に述べ、セーフガードの適用について規定している(150-1項~150-5項)。 インターバル期間について次のように見直されている。 (出所:「「独立性に関する指針」及び「職業倫理に関する解釈指針」の改正に関する公開草案の概要」の2ページの図表を一部加工) 筆頭業務執行責任者とは、監査業務の業務執行責任者のうち、その事務を統括する者として監査報告書の筆頭に自署し、自己の印を押す者1名をいう(139項)。 現行では、同一のインターバル期間が適用されていたが、改正案では、3つの分類に基づき、異なるインターバル期間が適用されることになる。 また、関与期間については、累積期間でカウントすることになる(151-1項、151-2項等)。 Ⅲ 「職業倫理に関する解釈指針」の主な改正案 主に、次のQ&Aについて見直しを行っている。 図表などを用いて様々なケースについて述べているので、非常に参考となる内容である。 Ⅳ 適用時期等 (了)
2018年2月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.254を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.61- 「今年の税制議論は金融所得税制の見直し」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 少し気が早い気がするが、今年の税制改正は、金融所得課税を中心とした議論になりそうだ。 その根拠は以下の2つである。 * * * 第1は、所得再分配機能の強化への国民の支持である。 平成30年度の所得税改正により、850万円を超えるサラリーマンの税負担が引き上げられるなどの税制改正が決まったが、直後の12月18日の日経新聞世論調査では、55%が賛成、反対は30%であった。 今回の改正はネットで800億円程度の増税(国・地方)であり、これが世論に受け入れられたという事実は、政治的にも大きい。所得再分配機能の強化で残る項目としては、現在20%(国・地方)の分離課税になっている株式配当や利子など、金融所得課税の税率の見直しである。 与党税制改正大綱では「金融所得に対する課税のあり方については、・・・税負担の垂直的な公平性等を確保する観点から・・・諸外国の制度や市場への影響も踏まえつつ、総合的に検討する」と明記されている。 具体的には、申告所得1億円を超えると所得税実効税率が下がっていくが、その原因が、金融所得を他の所得と分離し低率(国税15%)で課税する「分離課税」「最高税率より低い金融所得税率」にあるので、それを見直したいということである。 * * * 第2の理由は、消費税軽減税率導入の財源探しである。 前回述べたように、軽減税率導入による減収額は1兆円と見積もられており、法律で「安定的な恒久財源を確保するため、平成30年度末までに歳出及び歳入上の措置を講じる」ことが義務付けられている。 そのうち4,000億円は総合合算制度の取りやめで手当てされており、30年度税制改正で手当てされたたばこ税増税2,500億円、先ほどの所得税・住民税増税800億円と合わせると、足りないのは3,000億円弱ということになる。 これが金融所得税制の見直しにつながるということである。 * * * これに関する筆者の考え方は、見直しの方向には賛成だが、株式市場に与えるインパクトは大きく、総合的で十分な議論や検討が必要だ、とりわけ見直しとセットで、国民の資産形成に関する優遇税制を見直すべきだ、ということである。ましてや、軽減税率の財源探しということでの見直しでは、国民の支持は得られない。 具体的には、所得再分配機能の強化であれば、もう少し精緻な統計に基づいて議論すべきこと、NISAの恒久化、あるいは日本版IRAの導入、金融所得一体課税の深化などとセットで行うことと、一挙に税率を引き上げるより、2段階税率(例えば一定の金融所得を超えると30%)にすることなど、株式市場に与えるインパクトの少ない方法も組み合わせることが必要ではないか、ということである。 ちなみに筆者は、消費税軽減税率ほど政策意義のない、国民や事業者にコストを振りまく税制はなく、直ちに撤回すべきであり、低所得者対策は給付(給付付き税額控除)で行うべきという立場であることを改めて付け加えておきたい。 (了)
〔平成30年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第2回】 「「研究開発税制の見直し」及び 「特定資産の買換え特例の見直しと適用期限延長」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成29年度税制改正における改正事項を中心として、平成30年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。【第1回】は、適用される法人税率の確認、及び中小企業の設備投資減税の見直しについて解説した。 【第2回】は、研究開発税制の見直し、及び、特定資産の買換え特例の見直しと適用期限延長について、平成30年3月期決算申告において留意すべき点を解説する。 1 研究開発税制の見直し 研究開発税制とは、青色申告書を提出している法人において試験研究費が発生する場合に、その金額の一定割合について税額控除が認められる制度である。 平成29年3月期までは平成27年度税制改正による制度が適用されており、基本の税額控除である「総額型」及び「オープンイノベーション型」、これに加えて上乗せの税額控除である「増加型」と「高水準型」(いずれか選択適用)が設けられていた。 【平成29年3月期における研究開発税制のイメージ】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) (平均売上高に対する試験研究費の割合-10%)×0.2 これが平成29年度税制改正によって見直されており、その主なポイントは次の通りである。 ① 試験研究費の範囲の拡大 従来は「製品の製造及び技術の改良・考案・発明に係る試験研究費」が対象であり、製造業を念頭に置いた制度であった。これが改正により、「第4次産業革命型の新サービスの開発に係る試験研究費」が対象に追加され、AIやビッグデータ等を活用したサービス開発のための費用も対象に加わった。 この具体例は次のようなものである。 ② 「総額型」の税額控除率の見直し(平成31年3月31日まで) 研究開発費投資を増加させることへのインセンティブとして、試験研究費の増減割合に応じて控除率が次のように見直された。 ③ 「総額型」の控除限度額の上乗せ(平成31年3月31日まで) 「総額型」の控除限度は法人税額の25%となっているが、改正により、一定の要件を満たす場合には控除限度額が次の通り上乗せされることとなった。ただし、「高水準型」との選択適用である点に注意が必要である。 ④ 「オープンイノベーション型」の手続の緩和 「オープンイノベーション型」の実務上の手続や要件を、共同研究等の実態に合わせて緩和している。主な改正のポイントは次の通りである。 ⑤ 「増加型」を廃止 上乗せの控除として「高水準型」との選択適用が認められていた「増加型」を、平成29年3月31日をもって廃止し、新たに「総額型」の中に投資増加インセンティブとして組み込んでいる。 ⑥ 「高水準型」を延長 上乗せの控除である「高水準型」の適用期間を、平成31年3月31日まで2年間延長している。 【平成30年3月期における研究開発税制のイメージ】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※1) (平均売上高に対する試験研究費の割合-10%)×0.2 (※2) 上記の主な改正ポイント③を参照 2 特定資産の買換え特例の見直しと適用期限延長 「特定資産の買換え特例」とは、法人が所有する特定の資産(譲渡資産)を譲渡し、譲渡日を含む事業年度において特定の資産(買換資産)を取得し、1年以内に事業供用した場合又は供用する見込みである場合に、買換資産について圧縮記帳の適用を受けることができる制度である。 適用期間は平成29年3月31日までとされていたが、平成29年度税制改正により3年間(平成32年3月31日まで)延長されている。したがって、平成30年3月期の決算申告においては適用がある。 また、平成29年度税制改正において、主に次の見直しを行っている。 ① 農業用資産の買換え等 次の買換えについては、経過措置を講じた上で、その期限到来をもって適用対象から除外する。 ② 既成市街地等の内から外への買換え 次の資産を適用対象から除外する。 ③ 長期所有の土地、建物等の買換え 長期所有の土地、建物等から国内にある土地、建物等への買換えにおける対象資産を、次の通り見直す。 ④ 船舶の買換え 船舶から船舶への買換えについて、主に下記の通り見直しを行う。 (了)