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プロフェッションジャーナル No.541が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年10月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.541を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/10/26

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第31回】「私人の公法行為に対する私法の適用の可否」-家督相続「錯誤」申告事件・最判昭和39年10月22日民集18巻8号1762頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第31回】 「私人の公法行為に対する私法の適用の可否」 -家督相続「錯誤」申告事件・最判昭和39年10月22日民集18巻8号1762頁-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回までは租税実体法の領域(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)第2編第1章)における税法基本判例を3回にわたって取り上げ検討したが、今回からは租税手続法の領域(同編第2章以下)における税法基本判例を取り上げ検討することにする。 租税手続法は、租税実体法における課税要件の充足による納税義務の成立を前提にして、その成立した納税義務(抽象的納税義務)の具体的内容(税額等)を確認する納税義務の確定並びにその確定した納税義務(具体的納税義務)の履行のための租税の納付及び徴収に関する行政手続を定める法(租税行政法)とそこでの納税者の権利救済に関する法(租税争訟法ないし租税救済法)とで構成されるが(前掲拙著【86】参照)、今回から、租税行政法の領域における手続の流れに即して税法基本判例を検討することにしよう。 まず、納税義務の確定については、国税の多くにおいて採用されている申告納税方式(税通16条1項1号)では納税者に第一次的確定権が与えられ納税者のする申告(納税申告)によって納税義務が第一次的に確定することが建前とされている(前掲拙著【121】参照)ことから、納税申告に関する税法基本判例の検討から始めることにする。 納税申告については、「この申告が、納税者たる私人によつてされる行為であり、その行為に納税義務の確定等公法上の法律効果が付与されるものであることは疑いがない。」(税制調査会『国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)』(昭和36年7月)52頁)といわれるが、その意味で、行政法学でいう私人の公法行為に分類される。 私人の公法行為は、私人の私法行為に対応して、法律行為的行為と準法律行為的行為とに分類されることがあるが(詳しくは新井隆一『行政法における私人の行為の理論〔第2版〕』(成文堂・1980年)とりわけ第1章第3節参照)、納税申告は後者のうち「一種の通知行為」(税制調査会・前掲答申別冊52頁)に該当する(新井隆一「申告行為の法的性格」租税法研究5号(1977年)21頁、28頁は納税申告を「観念の通知をその行為の中核的要素とする準法律行為的行為」と性格づける)。すなわち、「この申告の主要な内容をなすものは課税標準と税額であるが、その課税標準と税額が租税法の規定により、すでに客観的な存在として定まつている限り、納税者が申告するということは、これらの基礎となる要件事実を納税者が確認し、定められた方法で数額を確定してそれを政府に通知するにすぎない性質のものと考えられるから、これを一種の通知行為と解することが適当であろう。」(税制調査会・前掲答申別冊52頁)。 ただ、「申告行為の性格を上記のように通知行為として理解する場合、これにたとえば民法の無能力者に関する規定や無効、取消しに関する規定等が適用されるかどうか」(税制調査会・前掲答申別冊52頁)が問題になるが、この問題については、国税通則法の制定に当たっては、「各種の考え方があり得よう」(同頁)が「特に国税通則法の問題として、この問題を検討することは適当でない」(同頁)とされた結果、その解決は学説・判例の展開に委ねられることになった。そのような状況の下で示されたのが最判昭和39年10月22日民集18巻8号1762頁(以下「本判決」という)である。   Ⅱ 錯誤に基づく納税申告の効力の問題に関する判例の立場 本判決は、私人の公法行為のうち納税申告について錯誤に基づく意思表示に関する民法95条(平成29年改正前)が適用されるかどうかという問題(これをその結果の側からみれば、錯誤に基づく納税申告の効力の問題)に対する判例の立場を確立したものである。本件における納税申告について問題になった錯誤は、納税者が民法の共同相続の制度を知らず旧民法当時の家督相続が依然として行われているものと考え、長男である自身が遺産全部を相続したものと誤解していたというものであった。 錯誤に基づく納税申告の効力の問題については、私人の公法行為における意思主義の原理の妥当性及び妥当範囲の観点から判断することも考えられる(名古屋地判昭和29年10月12日行集5巻10号2315頁は「もしその意思が表示と一致しないときは、これに関して民法の分野における意思主義の原理がこの場合にも妥当し民法の錯誤の規定が類推適用でママあるものと解するを相当とする。」と判示した。ただし、この判決は控訴審・名古屋高判昭和30年12月28日行集6巻12号2896頁で取り消された。なお、渡部吉隆「判解」最判解民事篇(昭和39年度)384頁、385-386頁、室井力=塩野宏編『行政法を学ぶ1』(有斐閣・1978年)285頁、287-289頁[碓井光明執筆]も参照)。しかし、本判決はそのようにはせず、その問題に関する判断枠組みを次のとおり判示し(下線筆者)、これに基づき本件確定申告の錯誤無効の主張を認めなかった。 本判決は、このように、錯誤に基づく納税申告の効力の問題について、「その錯誤が客観的に明白且つ重大であつて、前記所得税法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合」には例外的に錯誤の主張を認めるという判断枠組み(以下「特段の事情判断枠組み」という)を定立し、これに従って判断したのである。この判断枠組みについては次のⅢで検討することにする。   Ⅲ 特段の事情判断枠組み 本判決は、「租税債務を可及的速かに確定せしむべき国家財政上の要請」と「納税義務者に対しても過当な不利益を強いる虞れ」との比較衡量によって、原則として前者を重視しつつ、例外的に後者の観点から「安全弁」(清永敬次「判批」民商法雑誌52巻5号(1965年)766頁、772頁)として「特段の事情」を考慮する余地を認める判断枠組みを定立したものと解される。 「特段の事情」の意味内容については、「特段の事情の内容は必ずしも明らかではないが、おそらく要件は極めて厳重であり、将来の判例法によつて具体化されるのをまつの外はあるまい」(杉村章三郎「判批」シュトイエル39号(1965年)1頁、2頁。清永・前掲「判批」771頁も同旨)といわれるが、ただ、少なくとも納税申告の錯誤の「客観的に明白且つ重大」の意味については、次のような理解が可能であるように思われる(なお、可部恒雄「判批」租税判例百選〔第2版〕別冊ジュリスト79号(1983年)150頁、151頁は本判決後の裁判例について「錯誤が『客観的に明白かつ重大』という一常套句の内容は、実は一向に明白でなく、法定の方法によらずして申告の無効を主張することが許される例外的ケースの識別の基準(指標)としては、十分に機能していないように思われる。」と述べている)。 本件では民法の相続制度に関する不知・誤解が錯誤の原因であったが、そのような錯誤は、「表意者の意思の形成に際して錯誤を生じたもの」で「この場合には、表示と内心の効果意思との間には不一致は存しない」(四宮和夫『民法総則〔新版〕』(弘文堂・1976年)180頁)ことから、動機の錯誤に該当するが、本判決はこれに基づく納税申告の無効の主張を認めなかった。これに対して、本判決は「本件確定申告書自体に誤記、誤算等の誤謬の存することは、上告人の主張しないところであ[る]」と説示していること(この説示については原審・大阪高判昭和38年1月22日行集14巻1号34頁参照)からすると、「意思を決定してから表示行為に至る過程で錯誤を生ずる場合」である「表示行為の錯誤」のうち「表示行為そのものに関する錯誤」である「表示上の錯誤」(以上は四宮・前掲書181頁)であれば、その主張を認める余地があったと解される(清永・前掲「判批」770-771頁も参照)。そうすると、錯誤の「客観的に明白且つ重大」の要件については、錯誤が動機の錯誤ではなく表示上の錯誤であることを要求するものであると解される。 上記の理解によれば、特段の事情判断枠組みは、原則的には、「私人の公法行為に意思と表示の不一致がある場合に錯誤の主張が許されるかどうかは、窮極的には立法政策に属する問題である」(渡部・前掲「判解」386頁)という立場に立つものと考えられるが、ただ、例外的には、意思主義の妥当する余地を認め、もって民法95条の類推適用による法創造の余地を認めるものとも考えられる(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)144頁[初出・2021年]参照)。 なお、特段の事情判断枠組みにおいて錯誤が「客観的に明白」であること(錯誤の客観的明白性)が要件とされているのは、大量反復的な税務行政においては納税申告の過誤の是正につき課税庁にあまり高度の注意義務を課すべきではないという税務行政側の事情が考慮されたためであろうが、そうすると、課税庁があまり高度の注意義務を尽くさなくても認知することができる程度の表示上の錯誤であれば、納税申告書それ自体から明らかなものに限定するのではなく、納税申告に関連する行為等の事情から容易に推認することができるようなものでも、錯誤の客観的明白性の要件を充たし得ると考えるところである(拙稿「判批」シュトイエル336号(1990年)1頁、7-8頁参照)。錯誤が税務職員の誤指導に基因する場合は尚更である(京都地判昭和45年4月1日行集21巻4号641頁、東京地判昭和56年4月27日行集32巻4号661頁、札幌地判昭和63年12月8日訟月35巻5号900頁等参照)。 また、錯誤の重大性の要件は、前述のように、錯誤の種類ないし類型が動機の錯誤(内心の意思形成過程の瑕疵)ではなく表示上の錯誤(意思と表示の不一致ないし意思欠缺)であることのほか、「納税義務者の利益を著しく害する」という要件とも重なり合う、錯誤の金額の大きさを意味するものと解される(前掲拙稿「判批」8-9頁参照)。   Ⅳ おわりに 今回のタイトルとして述べた「私人の公法行為に対する私法の適用の可否」については、租税法律主義(課税要件法定主義)の下「私法上の債務関係の成立に必要な意思の要素に代わる」(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)156頁)法定の課税要件の充足によって納税義務(抽象的納税義務)が成立する以上、その納税義務の確定(抽象的納税義務の具体化)のための納税申告に、その納税義務の内容(税額等)を決定する効果意思を観念することはできないのは当然であり、その意味及び限りでは納税申告に意思主義の原理は妥当せず、したがって私法の適用は認められない。 もっとも、「近代法の構造というものは、すべて個人の意思を中心に構成されている」(伊藤正己『近代法の常識〔第3版〕』(有信堂・1992年)163頁)ところ、そのような法の構造は私法についてだけでなく法理論上は公法についても認められるべきであることからすると、意思主義の原理は、税法の明文の規定によって排除されている場合のほか、その趣旨・目的、構造、体系等に照らして排除されていると解される場合は、税法の解釈適用上は援用することはできないものの、そうでない場合には、税法の分野においても妥当し得ると解される。本判決が示した特段の事情判断枠組みは、このような考え方に基づくものと解される。 上記の考え方によれば、納税申告についても、成立した納税義務の内容(税額等)に係る表示上の錯誤のように意思の欠缺が問題になる場合には、意思主義の原理に基づきその効力を否定することができると考えるべきである。例えば、「体調が非常に悪く、署名をさせるのも躊躇する程の状態であった」納税者に代わって長男が提出した修正申告書については、その申告をする意思(申告意思)が認め難いため、納税義務を確定させる法律効果を否定した裁判例(福岡高宮崎支判平成12年6月13日税資247号1175頁)があるが、妥当な判断である。 (了)

#No. 541(掲載号)
#谷口 勢津夫
2023/10/26

〈令和5年度税制改正で創設された〉パーシャルスピンオフ税制のポイント 【第1回】「創設の背景と制度の概要」

〈令和5年度税制改正で創設された〉 パーシャルスピンオフ税制のポイント 【第1回】 「創設の背景と制度の概要」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   1 はじめに 令和5年度税制改正により、親会社に持分を一部残す株式分配(パーシャルスピンオフ)についても、一定の要件を満たせば、適格株式分配とする特例措置(パーシャルスピンオフ税制)が創設された。 本連載では、この新たな制度であるパーシャルスピンオフ税制を3回にわたって解説する。【第1回】は、まずパーシャルスピンオフ税制の創設の背景と制度の概要について確認する。   2 創設の背景 平成29年度税制改正でスピンオフを組織再編税制の一類型として整備し、平成30年度税制改正でスピンオフの適格要件緩和がなされたが、上場会社のスピンオフ事例は1件(2020年のコシダカホールディングスによるカーブスホールディングスのスピンオフ)のみとなっており、実質的に活用がされていないという状況であった。 活用の妨げとなっている原因の1つが、スピンオフの適格要件では、完全子会社が対象とされ、対象となる完全子会社株式の全ての交付が求められ、スピンオフを行う会社は対象子会社と完全に資本関係を解消しなければならないことと考えられている。 スピンオフが一般的に行われている米国でも、対象子会社の経営が安定するまでの間、スピンオフを行う会社がシナジーを確保しつつ、安定株主として引き続き支援をするために、対象子会社の持分を一部残すパーシャルスピンオフを行う例は多い。 経済産業省の令和4年度税制改正要望の中でも、「スピンオフについて、段階的に事業を切り出そうとする企業などが活用できるよう、一部持ち分を残したスピンオフや完全子会社以外のスピンオフについても円滑な実施を可能とするための税制措置を講ずる」旨の要望を行っていたところであるが、令和4年度税制改正ではそのような措置の導入は見送られた。 そして、令和5年度税制改正要望でも、下記のような改正要望が挙げられていた。 このような改正要望を受けて、令和5年度税制改正でスピンオフを行う企業に一部持分を残すパーシャルスピンオフについても一定の要件を満たせば適格株式分配に該当する特例措置(パーシャルスピンオフ税制)が創設されることとなった。 なお、令和4年度税制改正要望で出されていた完全子会社以外のスピンオフは、パーシャルスピンオフ税制の対象となっていない点には留意が必要である。   3 制度の概要 (1) 概要 産業競争力強化法の事業再編計画の認定を令和5年4月1日から令和6年3月31日までの間に受けた法人が行う現物分配が認定株式分配(※)に該当する場合で、その認定株式分配が一定の要件を満たすときは、適格株式分配とみなされ、スピンオフを行う会社が完全子会社株式を株主に現物配当する際の株主に対する配当課税が対象外とされ、スピンオフを行う会社に対する完全子会社株式の譲渡損益課税が繰り延べられることとなる(措法68の2の2)。 (※) 認定株式分配とは、認定された事業再編計画に従って行う剰余金の配当で、配当財産が事業者の関係事業者の株式等であるものをいい、配当により関係事業者でなくなる(一定の資本関係を有しないこととなる)場合に限り、認定株式分配に該当することとされている(措法68の2の2、産競法2⑮⑯⑰、31①)。 ※図表をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について」11頁の図を筆者一部加工) (2) 認定株式分配があった場合の現物分配法人の取扱い ① 株式の譲渡 認定株式分配により現物分配法人の株主に完全子法人株式の移転を行った場合には、完全子法人株式を現物分配法人の株主に帳簿価額で譲渡したものとされ、譲渡損益は生じない(法法62の5③、措法68の2の2)。 ② 認定株式分配により減少する資本金等の額 現物分配法人の認定株式分配の直前の完全子法人株式の帳簿価額に相当する金額に交付する株式割合を乗じて計算した金額が、資本金等の額から減算される(措令39の34の3②、法令8①十六)。 ③ 認定株式分配により減少する利益積立金額 認定株式分配が行われた場合には、利益積立金額は減少しない。 (3) 認定株式分配を行った場合の現物分配法人の株主の取扱い ① 完全子法人株式の取得価額 完全子法人株式の取得価額は、完全子法人株式対応帳簿価額(下記②参照)となる(法令119①八)。 ② 完全子法人株式対応帳簿価額 完全子法人株式対応帳簿価額とは、下記算式で計算した金額をいう。 ③ みなし配当 認定株式分配があった場合には、みなし配当は生じない。 ④ 現物分配法人株式の譲渡損益 認定株式分配を行った場合には、現物分配法人の株主は、現物分配法人株式のうち、完全子法人株式に対応する部分の譲渡を行ったものとみなされる。 金銭等が交付されない(完全子法人株式のみ交付される)場合の譲渡損益の計算については、譲渡対価と譲渡原価が、いずれも完全子法人株式対応帳簿価額となり、譲渡損益は生じない(法法61の2⑧、法令119の8の2①)。 *  *  * 次回は、パーシャルスピンオフ税制の適用要件について解説する。   (了)

#No. 541(掲載号)
#川瀬 裕太
2023/10/26

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第33回】「〔第5表〕課税時期前3年以内に増築、改築、修繕を行った場合における建物等の相続税評価額の取扱い」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第33回】 「〔第5表〕課税時期前3年以内に増築、改築、修繕を 行った場合における建物等の相続税評価額の取扱い」   税理士 柴田 健次   Q 経営者甲(令和5年10月19日相続開始)が100%保有している甲株式会社の株式を長男が相続していますが、甲株式会社の資産の中にA支店土地建物、B支店土地建物及びC支店土地建物があります。各支店の土地建物の取得日と取得価額は、下記の通りとなりますが、課税時期前3年以内にA支店では増築工事を、B支店では大規模の模様替をC支店では修繕工事を行っています。 甲株式会社の第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する相続税評価額について、課税時期前3年以内に取得又は新築した家屋等の相続税評価額は、通常の取引価額又は帳簿価額によることとされていますが、各支店で行われた工事については、3年以内取得家屋等に該当することになりますか。それぞれの工事に係る建物等の評価方法についても教えてください。 なお、甲株式会社は3月決算で直前期末は令和5年3月31日となります。 A 各支店におけるそれぞれの工事について3年以内取得家屋等に該当するか否か、また、その工事に係る建物等の評価方法は、下記の通りとなります。  ◆  ◆  ◆ ① 3年以内取得土地等及び3年以内取得家屋等の計上金額 評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとされています。この場合において、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとするとされています(評価通達185括弧書)。 帳簿価額が通常の取引価額として認められない場合として、買い急ぎや関連会社からの有利な価額による取得など適正な時価による取得として認められない場合や取得時期から課税時期までの間における地価の急騰や資材の高騰があった場合など取得時期と課税時期の時価に大きな変動があった場合が考えられます。   ② 3年以内取得家屋等に該当するか否かの判断 相続開始前3年以内に工事が行われた場合には、その工事の種類によって、3年以内取得家屋等に該当するか否か異なります。増築は3年以内取得家屋等に該当しますが、改築、通常の修繕(資本的支出に該当しないもの)は、3年以内取得家屋等には、該当しないものとして取り扱います。資産価値の有無ではなく、資産の取得があったか否かを基準にして判断を行うことになります。 本連載【第32回】で旧租税特別措置法(以下「旧措置法」という)69条の4について解説をしていますが、旧措置法69条の4の規定と評価通達185括弧書の取扱いは、いずれも「課税時期前3年以内に取得又は新築をした土地等及び家屋等」を対象としていますので、旧措置法69条の4の取扱いは参考になります。旧租税特別措置法関係通達69の4-4、69の4-5には、家屋等の取得の範囲について下記の記載があります。通達上には、建物等と記載されていますが、評価通達185括弧書における家屋等と同義となります。 上記通達に記載のとおり、増築については新築に該当し、改造については建物等の取得には該当しない旨が記載されています。また、所得税や法人税においても建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たると定められています(所基通37-10、法基通7-8-1)。 なお、不動産所得税における用語の意義として増築、改築は、下記の通り規定がされています(地方税法73七・八)。 上記の改築の定義に記載されている家屋と一体となって効用を果たす設備で政令で定めるものは、次に掲げる設備をいいます(地方税法施行令36の2)。 また、上記の改築の説明として、「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」の第5章第1(納税義務者及び課税客体)の2(4)において下記の通り説明がなされています。 旧租税特別措置法関係通達69の4-5における「改造」の定義は明確ではありませんが、基本的な考え方として上記に記載されている改築とほぼ同義と考えて問題ないかと思います。したがって、「増築」は建物等の取得に該当し、「改造・改築」は建物等の取得には当たらないと考えられます。すなわち、建物の増築、構築物の拡張、延長等などの明らかな量的な支出については、建物等の取得に該当し、「改造・改築」は、建物等の取得ではなく、資本的支出として取り扱います。そして、資本的支出に該当しないような通常の維持管理や原状回復のために要したものは修繕費として処理がなされます(法基通7-8-2)。 大規模の修繕や大規模の模様替は、建築基準法上は、下記の通り定義がされています(建築基準法2五、十四、十五)が、通常の修繕とされる部分を除き、上記で解説した地方税法73条八号に規定する「改築」に含まれることになります。 (※) 主要構造部とは、壁、柱、床、はり、屋根又は階段をいい、建築物の構造上重要でない間仕切壁、間柱、付け柱、揚げ床、最下階の床、回り舞台の床、小ばり、ひさし、局部的な小階段、屋外階段その他これらに類する建築物の部分を除くものとする。   ③ 本問の場合の当てはめ ■A支店の増築工事 A支店の増築工事は、3年以内取得家屋等に該当しますので、通常の取引価額又は増築工事に係る帳簿価額により評価を行います。増築工事以外の従前の建物部分については、相続開始年における固定資産税評価額により評価を行いますが、固定資産税評価額が増築工事により改訂されている場合には、改訂前の固定資産税評価額により財産評価を行う必要があります。 財産評価基本通達185括弧書は、「帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとする。」とされており、実務的には増築工事部分に係る帳簿価額により評価することが一般的となります。 ただし、工事金額について、関連会社からの有利な価額により工事が行われたなど適正な時価による取得として認められない場合や取得時期から課税時期までの間における資材の高騰があった場合など取得時期と課税時期の時価に大きな変動があった場合には、帳簿価額が認められない可能性はあります。そのような場合には、通常の取引価額での計上を検討することになりますが、増築部分のみの不動産鑑定評価は困難であると考えられますので、その評価方法としては、増築部分の再建築価額から減価償却に相当する金額を控除して求めることになります。 なお、増築に伴い固定資産税評価額の見直しが行われている場合には、その見直し後の固定資産税評価額を時価として考え、増築前の建物と合わせて、その見直し後の固定資産税評価額を相続税評価額として計上しても問題はないかといった意見もあるかと思います。 平成25年7月1日裁決(TAINSコード:F0-3-394)は、平成20年に相続開始した同族会社の株式を評価するに当たり、その同族会社が相続開始前3年以内に土地建物を取得(土地の価格は2億4,000万円、建物の税抜価格は2億円)し、当該建物の相続税評価額として、平成20年度の固定資産税評価額(89,059,794円)が通常の取引価額として認められた事例となります。 ただし、上記記載の建物は、昭和61年5月20日に新築された鉄骨造陸屋根地下1階付3階建ての中古建物の取得の事案であり、相続開始まで約22年経過している場合の固定資産税評価額となります。一般的に、新築当初においては、「建物の時価評価額 > 固定資産税評価額」となりますが、一定期間経過後は建物に係る固定資産税評価額が高止まりすることになりますので、「建物の時価評価額 < 固定資産税評価額」になると考えられます。 したがって、課税上の弊害がない範囲内において、固定資産税評価額を時価として考えることができると解釈するべきとなりますので、上記の裁決事例の射程範囲は限定的であるといえます。私見としては、新築や本問の場合の増築の場合には、固定資産税評価額を通常の取引価額と考えることは適切ではないかと思います。 ■B支店の大規模の模様替工事 B支店の大規模の模様替工事は、3年以内取得家屋等には該当しませんが、改築に該当しますので、財産評価の必要があります。改築工事により固定資産税評価額が改訂されている場合には、その改訂された固定資産税評価額により評価を行います。ただし、固定資産税評価額の改訂がされていない場合には、国税庁から公表されている下記の質疑応答事例にあるとおり、再建築価額から減価償却費を控除した価額の70/100に相当する金額により評価することになります。 なお、改築により固定資産税評価額が改訂される場合には、改築に係る在来分は控除され改築部分が加算されます。これに対し、固定資産税評価額が改訂されない場合には、改築に係る在来分(滅失部分)は控除されず、下記の国税庁質疑応答事例の方法により計算された改築部分が加算されるため、滅失部分が控除されないことになり、不合理となります。 したがって、改築の場合には、本来的には固定資産税評価額の改訂をしてもらうことが適正な評価になりますので、固定資産税評価額の改訂を役所に依頼するかについて検討が必要になります。通常の場合には、改訂された固定資産税評価額により評価した方が国税庁質疑応答事例の方法より評価額は低くなりますが、毎年の固定資産税等の負担が増えることになります。 【国税庁質疑応答事例】 「増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価」 ■C支店の修繕工事 C支店の修繕工事は、現状回復のための工事であり、資産性を有しませんので、財産評価は不要となります。実務上においては、相続開始前に行われたリフォーム等の財産計上の可否について、その判断に迷うところとなりますが、②で解説した地方税法73条八号に規定する「改築」に該当するか否かを検討するとよいかと思います。 平成28年11月17日裁決(TAINSコード:F0-3-518)は、納税者が相続財産である家屋を、固定資産税評価額に1.0を乗じて計算した金額によって評価して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、当該固定資産税評価額には、相続開始前に行われた改築工事による価値の上昇が反映されておらず、当該家屋は、増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋に当たるとして、納税者の家屋の評価額を否認した事案となります。当該事案の工事は、従前家屋の基礎、柱、梁及び屋根を残し、それ以外の部分については解体、撤去した上で、新たに外壁、床、天井、室内壁等を構築し、内装の仕上げをし、設備を設置するなど、家屋全般にわたり改築を施すものであったため、いわゆる地方税法73条八号に規定する「改築」に該当するため、財産評価が必要と考えられます。   ☆実務上のポイント☆ 増築、改築、通常の修繕で相続税評価額に計上するべき金額が異なりますので、工事見積書等も確認しながら、計上するべき金額を検討する必要があり、3年以内に行われた増築工事については、3年以内取得家屋等に該当することになります。 (了)

#No. 541(掲載号)
#柴田 健次
2023/10/26

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例127(消費税)】 「「課税事業者選択届出書」の提出を失念したため、信託受益権の買取りに係る消費税の還付を受けることができなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例127(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆信託とは 信託とは、財産を所有する委託者が一定の目的のため、信託契約等を締結して受託者にその財産を移転し、受託者は移転を受けた信託財産の管理・処分を行い、信託受益権(信託財産が生み出す収入等を受ける権利)を受益者が受ける三者間の法律関係をいう。信託には自益信託(委託者と受益者が同一人)と他益信託(委託者と受益者が別人)がある。 ◆信託財産に係る資産の譲渡等の帰属(消法14①) 信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る)は当該信託の信託財産に属する資産を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に係る資産等取引(資産の譲渡等、課税仕入れ及び課税貨物の保税地域からの引取りをいう)は当該受益者の資産等取引とみなして、消費税法の規定を適用する。 したがって、自益信託の場合、受益者が信託財産(本事例では貸しビル1棟)を譲渡した場合には、譲渡者には課税売上げが、取得者には課税仕入れが発生する。 ◆信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属(所法13①) 信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る)は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、所得税法の規定を適用する。 したがって、自益信託の場合、受益者が信託財産(本事例では貸しビル1棟)を譲渡した場合には、受益者に譲渡所得が発生する。       (了)

#No. 541(掲載号)
#齋藤 和助
2023/10/26

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第28回】「グローバル・トレーディング事件(東裁平20.7.2)(その2)」~租税特別措置法施行令39条の12第8項、OECDレポート(Report on the Attribution of Profits to Permanent Establishments)Part III~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第28回】 「グローバル・トレーディング事件(東裁平20.7.2)(その2)」 ~租税特別措置法施行令39条の12第8項、OECDレポート(Report on the Attribution of Profits to Permanent Establishments)Part III~   大阪芸術大学教授・米国公認会計士 原 光代     3 争点 本件の争点は、(1)本件グローバル・トレーディング関係者間の利益配分と独立企業間価格の算定法、(2)残余利益の分割要因及びその合理性である(※10)。 (※10) 前掲(※4)書(伊藤剛志・水島淳)、179頁 請求人は本件取引業務のうち、トレーディング業務、セールス・マーケティング業務とその関連業務を行っており、α社との間で対価を得て役務提供を行っていた。なお、アジア関連株全体のリスク管理の統括業務に関しては、請求人ではなくα社及びβ社が行っていた(※11)。 (※11) 前掲(※4)書(伊藤剛志・水島淳)、177頁 原処分庁が問題としたのは、請求人がα社から受け取った対価が独立企業間価格といえるかという点である(※12)。独立企業間価格の算定方法については「利益分割法と同等の方法」として、取引の損益から各当事者の費用の額等を控除した後の残余利益を各当事者の寄与度に応じて分割することで争いはなかった。しかし、α社が提供した資本についての対価につき、原処分庁は資本機能に対する利益配分を認めなかった(※13)。 (※12) 南繁樹「移転価格税制の今を捉える(第1回)-法令と近年の事例に見る指針」税務弘報59巻4号、93頁 (※13) 前掲(※12)書、93頁 原処分庁は、本件事業は金融仲介機能を果たすことで手数料の獲得を目指すものでリスクはほぼ無いとし、また、たとえリスクのある取引を行うものであるとしても、資本の機能は認められず、残余利益の分割要因はトレーダー人件費のみであるとした(※14)。一方、請求人は、顧客利益のためでなく自己取引の占める割合が多いことを理由に、本件事業は市場リスクのある事業であると反論した(※15)。 (※14) 前掲(※4)書(伊藤剛志・水島淳)、181頁 (※15) 前掲(※4)書(伊藤剛志・水島淳)、181頁   4 裁決 請求人及び原処分庁の双方とも本件取引には比較対象がないとしており、審判所も比較対象取引を見出せなかったため、本件取引の独立企業間価格の算定方法は、租税特別措置法施行令39条の12第8項(※16)に規定する利益分割法と同等の方法によることになった。 (※16) 租税特別措置法施行令39条の12第8項(一部省略) 審判所は、原処分庁が主張したところの、請求人が本件各事業年度において多数のカバード・コール取引を行うことで利益をあげているとの事実はなく、請求人グループ全体としても、金融仲介機能による手数料相当額の獲得を目指した事業であるとは認められないとし、原処分庁の主張を退け、以下のように認定した(※17)。 (※17) 前掲(※4)書(伊藤剛志・水島淳)、182〜183頁 さらに審判所は、金融商品取引を行う企業については、その引き受けるリスクの性質及び規模に応じて資本(規制資本)を積むことが求められており、当該資本の規模で引き受けているリスクの量を推測できるとして、規制資本を使用するための費用の額(規制資本に係る支払利子相当額)を分割要因に含め、課税処分の一部を取り消した(※18)。 (※18) 前掲(※12)書、93頁   5 結語 審判所裁決により課税処分の一部が取り消され、本件では請求人に有利な結果となった。しかし、原処分庁の主張にあった「トレーダーの人件費」は、国外関連者間の利益分割に係る重要なファクターである。金融に係る高度な専門知識とプロフェッショナルとしての勘を駆使して昼夜取引を行うトレーダーの働きは、リスクを引き受ける金融取引、グローバル・トレーディングの中核となるものであるから、本件でトレーディング業務(トレーダーの人件費)が利益獲得の分割要因と認定されたことは当然と考える。 他方、トレーダーがその力を発揮するには、取引業務の前提として彼(又は彼女)が自由に動かせる資金が供給されるとともに、彼らが属する金融機関のリスク引受けが確実でなければならない。原資となる資本の安定した供給がなければそもそもトレーディング業務は行い得ないものであるから、金融当局に義務付けられる規制資本にかかる利子相当額(規制資本を用意するための費用)を残余利益の分割要因とすることには合理性がある。 (了)

#No. 541(掲載号)
#原 光代
2023/10/26

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第31回】「同族会社の行為計算否認規定が適用された2つの転貸方式の事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第31回】 「同族会社の行為計算否認規定が適用された2つの転貸方式の事例」   税理士 菅野 真美   ▷同族会社の行為計算否認規定 同族会社の行為計算否認規定は、課税庁の伝家の宝刀といわれ、課税庁において、納税者の課税所得を想定で算定して税額を確定させてしまうことである。所得税法157条1項では次のとおり定められている。 所得税は申告納税が前提であるが、同族会社の行為計算否認は、例外的に課税庁に認められた権限であるため適用事例は限定される。将来、裁判等で争われる可能性が高いため、裁判で課税処分が覆されないように算定合理性の論理が積み上げられていく。 今回は不動産賃貸について、同族会社を介して転貸したことにより、通常受け取るべき賃貸料が著しく減少され、所得税の負担を不当に減少する結果になると認められるとして、同族会社の行為計算否認規定の適用を受けた2つの事案について、課税庁が示した算定根拠を検討する。   ▷大阪地方裁判所の事案の概要と判決のポイント この事案は、納税者Xが家族と出資した同族会社A社に月額賃料120万円(途中で100万円に変更)で駐車場を賃貸する契約を締結し、A社が転貸したものである。これに伴う申告について、課税庁が、所得税法157条1項(管理委託方式を採用している比準同業者3件の適正管理料割合に基づいて適正賃貸料や納税額を算定する方法)を適用して更正処分をしたことから納税者が訴えたものである。 納税者の主張は次のようなものである。 これについて裁判所は、次のように判示し、納税者の請求に理由がないとして棄却した。   ▷高松地方裁判所の事案の概要と判決のポイント この事案は、納税者が同族会社B社に土地を賃貸し、B社が事業用借地権を設定して転貸した事案であるが、この申告について、課税庁が、所得税法157条1項(管理委託方式を採用している比準同業者の適正管理料割合に基づいて適正賃貸料や納税額を算定する方法)を適用して更正処分をしたことから納税者が訴えたものである。 このケースにおいて、課税庁が算定した適正な管理料割合は、平成18年分が3.34%、平成19年分が3.86%、平成20年分が3.69%である。この事案において、比準同業者を抽出したが、平成18年分、平成19年分は3件、平成20年分は5件である。 納税者は、B社名義の建物を、納税者の都合により撤去させ、多額の費用をB社が負担したが、これは納税者が負担すべきものだから、通常の管理業務費に上乗せした形で支払ったため、実際の賃借料が少なくなったと主張した。 これについて裁判所は、次のように判示し、納税者の請求に理由がないとして棄却した。 *   *   * このように不動産賃貸を同族会社に転貸して管理料を同族会社に支払う方式の場合は、管理委託方式と本質的には同じものであると考えられることから、比準同業者の管理料割合に基づいて所得金額を課税庁が算定して同族会社の行為計算否認規定の適用をすることは、裁判所も是認している。 上記事案のとおり比準同業者の件数は問題とならない。また、比準同業者が本当に3件程度しかなかったかは外部からは分からず、課税庁が想定した管理料割合に近い同業者だけを抽出したかもしれない。課税庁は多くの事案の情報を入手できるため、適正な管理料割合も把握できるが、納税者は把握することができない。 同族会社を使った転貸方式を利用して、法人税と所得税の税率差を利用した節税スキームの設定は容易だが、課税庁からの否認リスクも高いことから慎重に対応すべきだろう。 (了)

#No. 541(掲載号)
#菅野 真美
2023/10/26

リース会計基準(案)を学ぶ 【第8回】「貸手のリースの会計処理①」

リース会計基準(案)を学ぶ 【第8回】 「貸手のリースの会計処理①」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回(第8回)と次回(第9回)にわたって、貸手のリースの会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 基本的な考え方 貸手の会計処理については、IFRS第16号「リース」及びTopic842ともに抜本的な改正が行われていないため、次の点を除いて、基本的に、「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)及び「リース取引に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第16号)の定めを維持している(リース会計基準(案)BC12項、BC47項、リース適用指針(案)BC84項)。 このため、貸手におけるリースは「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類した上で、ファイナンス・リースについてはさらに「所有権移転ファイナンス・リース」と「所有権移転外ファイナンス・リース」とに分類することになる(リース会計基準(案)41項~46項、リース適用指針(案)BC84項)。   Ⅲ ファイナンス・リース 1 ファイナンス・リースの定義 ファイナンス・リースとは、次の(1)及び(2)のいずれも満たすリースをいう(リース会計基準(案)10項、リース適用指針(案)55項、BC85項)。 2 解約不能 解約不能のリースに関して、法的形式上は解約可能であるとしても、解約に際し、相当の違約金(以下「規定損害金」という)を支払わなければならない等の理由から、事実上解約不能と認められるリースを解約不能のリースに準ずるリースとして扱う(リース会計基準(案)BC22項、リース適用指針(案)56項)。 リースの条件により、このような取引に該当するものとしては、次のようなものが考えられる。 次のことに注意する(リース適用指針(案)BC85項)。 3 フルペイアウト リース適用指針(案)55項(2)の「原資産からもたらされる経済的利益を実質的に享受する」場合とは、当該原資産を自己所有するとするならば得られると期待されるほとんどすべての経済的利益を享受する場合をいい、また、「原資産の使用に伴って生じるコストを実質的に負担する」場合とは、当該原資産の取得価額相当額、維持管理等の費用、陳腐化によるリスク等のほとんどすべてのコストを負担する場合をいう(リース会計基準(案)10項、BC22項、リース適用指針(案)57項、BC86項)。 4 具体的な判定基準 リースがファイナンス・リースに該当するかどうかについては、リース適用指針(案)55項の要件をその経済実質に基づいて判断すべきものであるが、次の(1)又は(2)のいずれかに該当する場合には、ファイナンス・リースと判定される(リース適用指針(案)58項、BC87項~90項)。 次のことに注意する(リース適用指針(案)59項~61項、BC89項、BC90項、BC93項)。 5 現在価値の算定に用いる割引率 現在価値の算定を行うにあたっては、貸手のリース料の現在価値と貸手のリース期間終了時に見積られる残存価額で残価保証額以外の額(「見積残存価額」という)の現在価値の合計額が、当該原資産の現金購入価額又は借手に対する現金販売価額と等しくなるような利率を用いる(リース適用指針(案)62項、BC92項)。 当該利率を「貸手の計算利子率」という。 貸手の計算利子率については、企業会計基準適用指針第16号の定めを踏襲しており、IFRS第16号におけるリースの計算利子率とは主に貸手の当初直接コストを考慮しない点が異なる(リース適用指針(案)BC92項)。 6 不動産に係るリースの取扱い 土地、建物等の不動産のリースについても、リース適用指針(案)55項から63項に従って、ファイナンス・リースに該当するか、オペレーティング・リースに該当するかを判定する(リース適用指針(案)64項)。 ただし、土地については、リース適用指針(案)66項の(1)又は(2)のいずれかに該当する場合を除いて、オペレーティング・リースに該当するものと推定する(リース適用指針(案)64項)。 (了)

#No. 541(掲載号)
#阿部 光成
2023/10/26

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第16回】「株主資本等変動計算書に関する注記」

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第16回】 「株主資本等変動計算書に関する注記」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における株主資本等変動計算書に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 連結注記表では、連結会計年度の末日における情報として、❶発行済株式総数、➋株式引受権に係る株式の数、➌新株予約権の目的となる株式の数を、連結会計年度中に関する情報として、剰余金の配当に関する事項を記載する必要があります。 個別注記表では、連結注記表で記載が求められる発行済株式総数等の情報に加えて、事業年度の末日における自己株式の数を記載する必要があります。 なお、連結注記表を作成する株式会社は、個別注記表において、自己株式の数以外の注記を省略することができます。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表それぞれ次のような注記が考えられます。 【連結注記表】 【個別注記表】 (連結注記表を作成する株式会社の場合)   2 注記事項の解説 (1) 株主資本等変動計算書に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき株主資本等変動計算書に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第105条、第106条)。 (※1) 連結注記表を作成する株式会社は、省略することができる。 (2) 注記事項の解説 期中の変動額の詳細は、株主資本等変動計算書において開示されているため、注記では株式数の情報が中心となります。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [ピー・シー・エー株式会社 2023年3月期] ① 連結注記表 ※ピー・シー・エー株式会社「第43回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」7頁より抜粋。 ② 個別注記表 ※ピー・シー・エー株式会社「第43回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」15頁より抜粋。 [倉敷紡績株式会社 2023年3月期 連結注記表] ※倉敷紡績株式会社「第215回定時株主総会資料」18頁より抜粋。 *  *  * 次回の第17回は、「税効果会計に関する注記」をテーマに解説します。   (了)

#No. 541(掲載号)
#竹本 泰明
2023/10/26

税理士事務所の労務管理Q&A 【第16回】「休憩時間と手待時間」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第16回】 「休憩時間と手待時間」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   取引先などからの電話対応のため、休憩時間にデスク等で昼食をとりながら電話番をすることがあります。今回は、休憩時間と手待時間との相違について解説します。 * * 解 説 * * 1 休憩時間 労働基準法では、「使用者は、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には、少なくとも1時間の休憩を労働時間の途中に与えなければならない」と規定されています(労働基準法第34条第1項)。 休憩時間とは、単に作業に従事しないいわゆる「手待時間(労働を行うために待機している時間)」は含まれず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間をいいます(昭和22年9月13日発基第17号)。したがって、昼休み当番として電話や来客に対応してもらうための待機時間は、手待時間であり休憩時間にはなりませんので、労働時間として扱われ、賃金が発生します。   2 休憩時間の一斉付与の原則 運輸交通業や接客業など主として公衆を直接相手とする業種(※)は例外ですが、休憩時間は労働者全員に一斉に与えなければなりません(労働基準法第34条第2項)。したがって、通常の休憩時間(就業規則で規定されている休憩時間)に昼休み当番をした人に対し、異なる時間帯に休憩を与えることは、原則としてできません。 (※) 休憩一斉付与の例外業種(労働基準法施行規則第31条) しかし、例外業種以外は、会社と従業員の過半数を代表する者との間で「一斉休憩の適用除外に関する協定(労使協定)」を結んでいただければ、休憩を一斉に与えなくてもよいことになっています(下記〈協定例〉参照)。 したがって、労使協定を締結することにより、昼休み当番をした人についても、異なる時間帯に休憩を与えることができます。ただし、休憩時間は、労働時間の途中に与えなければなりませんので、勤務時間の始め又は終わりに与えることはできません。 〈一斉休憩の適用除外に関する協定例〉   3 休憩時間の自由利用 休憩時間は、労働者が権利として労働から離れることを保障された時間ですので、当然自由に利用させなければなりません(労働基準法第34条第3項)。   4 休憩時間の分割 法定の休憩時間は、上記1のとおりです。休憩時間を継続して与えなければならないのか、分割しても構わないのかについては、特に法律上の定めがありません。 しかし、休憩時間は、心身の疲労を回復させることを目的とし、労働から解放され自由に利用することができる時間です。休憩時間が短い場合は、労働と休憩の区別がつき難く、労働から完全に解放されない場合も生じ、自由利用も事実上制限されます。特にごく短い休憩時間は、手待時間とほとんど変わらなくなってしまいます。 ご質問のように30分ずつの分割であれば問題はないと思いますが、10分や15分に分割することは、適切ではありません。   5 休憩時間における留意点 休憩時間は、上述のとおり、例外業種を除いて、一斉に与えなければなりませんので、原則として交替で休憩を与えることはできません。別々に休憩を与える場合は、必ず労使協定を締結してください。 また、接客業などは、営業時間が長い場合、労働時間を法定労働時間内に収めるため、比較的暇な時間帯を利用して、休憩時間を長く設定することがあります。法律上の規制はありませんが、拘束時間が長くなり、適切な休憩時間の与え方とはいえません。 休憩時間については、就業規則に記載しなければなりませんので、変更をされるときは、従業員とよく話し合うことが大切です。 (了)

#No. 541(掲載号)
#佐竹 康男
2023/10/26
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