検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10244 件 / 881 ~ 890 件目を表示

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例130(所得税)】 「譲渡日を引渡日ではなく契約日として「空き家に係る3,000万円の特別控除」を適用して申告したため、家屋が取り壊されていないとして税務調査で否認された事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例130(所得税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆被相続人の居住用財産(空き家)を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(措法35③④) 相続又は遺贈により、被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人が、その取得をした被相続人居住用家屋又はその敷地等を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に譲渡した場合には、居住用財産を譲渡したものとみなして3,000万円(令和6年1月1日以後に行う譲渡について、その取得をした相続人の数が3人以上であるときは1人2,000万円)の特別控除の適用を受けることができる。この特別控除は、相続があった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合に限り適用があり、譲渡価額が1億円を超える場合には適用できない。 ◆譲渡資産の要件(措法35③⑤⑥) 次の①から③のいずれかの被相続人居住用家屋又はその敷地等であること。 ◆適用除外要件(措法35②) 次のいずれかに該当する場合には「空き家に係る3,000万円の特別控除」の適用は受けられない。 ◆「被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした個人」の範囲(措通35-9) 「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人」とは、相続又は遺贈により、被相続人居住用家屋と被相続人居住用家屋の敷地等の両方を取得した相続人に限られるから、相続又は遺贈により被相続人居住用家屋のみ又は被相続人居住用家屋の敷地等のみを取得した相続人は含まれない。       (了)

#No. 553(掲載号)
#齋藤 和助
2024/01/25

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第33回】「宗教法人の管理人室は「本来の用」に専ら供されているから、固定資産税が非課税となる境内建物及び境内地に該当するとされた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第33回】 「宗教法人の管理人室は「本来の用」に専ら供されているから、 固定資産税が非課税となる境内建物及び境内地に該当するとされた事例」   税理士 菅野 真美   固定資産税は、固定資産の所有者に課す租税である(地方税法343①)が「固定資産税は、固定資産の価格を課税標準として課されることになっているから、それは固定資産の所有の事実に着目して課される財産税の性質を有する」ともいわれている(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂、2021年)769頁 ただし、宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法3条に規定する境内建物及び境内地(旧宗教法人令の規定による宗教法人のこれに相当する建物、工作物及び土地を含む)(地方税法348②三)の固定資産税は非課税とされる。 この非課税の理由は、「必ずしも明確ではないが、宗教の本来の用に供する建物や土地は、それを保有したからといって、それは担税力という点からみて十分なものではなく、また、それに対する課税は、政策上も適切ではないと考えられたためと思われる(太字筆者)」と指摘されている(※2)。これは、「法人税法が、公益法人等の所得のうち収益事業から生じた所得について、同種の事業を行うその他の内国法人との競争条件の平等を図り、課税の公平を確保するなどの観点からこれを課税の対象としている(太字筆者)」(※3)こととは、根拠が異なる。 (※2) 田中治「宗教法人に対する固定資産税非課税措置をめぐる紛争例」『田中治税法著作集第4巻』(清文社、2021年)465頁 (※3) 最高裁平成20年9月12日判決(判例時報2022号)11頁 それでは、宗教法人の管理人室とその敷地は、境内建物及び境内地に該当するのか。以下、この件について争われた事案を検討する。   ▷どのような事案か ペルシャ発祥のバハイ教の教義に基づき活動をする宗教法人Xが土地と家屋を所有していたが、これらの不動産のうち3階の管理人室と建物の共用部分の一部(課税共用部分)とこれらの敷地に相当する土地の一部(課税土地部分)について、固定資産税及び都市計画税の賦課決定処分を行った。これに対してXが、非課税の対象となる境内建物及び境内地に当たるとして処分の取消しを求めた事案である。 バハイ教は、他の宗教と異なり、住職や神父、牧師のような聖職者をおかず、信徒の互選で組織運営が行われる。各地方に信仰に関する統括組織があり、地方の組織を統括する全国精神行政会がある。訴訟の原告となったのは全国精神行政会である。 Xは、バハイ教の研究、公開講演会、会合等を行っている。訴訟となった不動産は、東京バハイセンターと呼称し、本部事務所として使用している。 管理人はフィリピン出身の女性で、以前は東京都足立区に居住し、足立区所在の会社に勤務していたが、現在(本事案当時)は調布市所在の会社に勤務している。彼女は、管理人として管理人室で居住することになり、管理契約を締結していた。契約期間は2年間で、宗教行事を開催するために常に建物を開放しておく、建物の清掃をする、管理人は独自の生計を立て給与や経済的援助を受けない、家賃や光熱費・水道費を支払う義務はないといった条項が契約書に定められていた。 また管理人は、昼間は別の場所で働いていることから、昼間は事務員2名が有給で経理事務等を行っていた。   ▷地裁の判断は 地裁は、不動産のうち課税部分は境内建物及び境内地に当たるから非課税とされるべきであり、これらに当たらないという課税処分は違法であるとして、取消しを求めるXの請求を認容した。 地裁は、理由として次のように判示している。   ▷高裁の判断は 判決に不服な東京都は控訴したが、高裁でも東京都の控訴は理由がないとして棄却された。東京都は、管理契約においては、清掃や見回りの頻度等が定められておらず、一般的な住宅における清掃や見回り等と異なるものではなく、また、株式会社等他の団体においても行われている施設管理業務であって宗教法人がその立場で行う本質的な活動ではないと主張がしたが、高裁は「非課税規定の適用の可否を判断するに当たって考慮すべき点は、管理の態様ではなく管理の対象が宗教上の施設であるか否かであり、宗教法人の目的を達成するために当該宗教法人の用いる宗教上の施設を管理することが必要なことは明らかである(太字筆者)」と判示した。 *   *   * 固定資産税において非課税となる理由と法人税において非課税となる理由は異なる。今回の判決は、行政側が収益事業に対する法人税の課税と同じ考えで固定資産税の課税も認められるというアプローチをしたことが敗訴につながったと考える。 (了)

#No. 553(掲載号)
#菅野 真美
2024/01/25

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第36回】「大和鋼管工業代表者事件-特定外国子会社と租税条約-(地判平20.8.28、高判平21.2.26、最判平21.12.4)(その2)」~租税特別措置法40条の4、日星租税条約7条1項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第36回】 「大和鋼管工業代表者事件 -特定外国子会社と租税条約- (地判平20.8.28、高判平21.2.26、最判平21.12.4)(その2)」 ~租税特別措置法40条の4、日星租税条約7条1項~   公認会計士・税理士 西川 浩史     5 事案の検討 (1) タックス・ヘイブン対策税制の目的及び本質論 我が国のタックス・ヘイブン対策税制は、「課税の繰延べ」を規制することを目的としたものではなく、「租税回避の否認」を目的としたものである(※3)。なお、タックス・ヘイブン対策税制の本質論に関しては色々な見解があり、表にまとめると以下のようになる(※4)。 (※3) 占部裕典「タックス・ヘイブン税制」『入門国際租税法 改訂版』清文社(2020)335頁。なお、我が国のCFC税制の立法者も「タックス・ヘイブン対策税制の目的は、軽課税国-いわゆるタックス・ヘイブン-にある子会社等で我が国株主により支配されているようなものに我が国株主が所得を留保し、我が国での税負担を不当に軽減することを規制することにある。」と述べている(高橋元監修『タックス・ヘイブン対策税制の解説』清文社(1979)92頁)。 (※4) 下表は、弘中聡浩「タックス・ヘイブン対策税制の条約適合性-グラクソ事件」『租税判例百選 第5版』別冊ジュリスト207号(2011.12)135頁を基に筆者作成。 (※5) 実質所得者課税説は、CFC税制は実質所得者課税(法人税法11条、所得税法12条)を具体化したものとする考え。 (※6) 中里実「タックス・ヘイブン対策税制改正の必要性」『タックス・ヘイブン対策税制のフロンティア』有斐閣(2013)11頁。 (※7) 占部前掲(※3)書(2020)343頁。 (※8) 金子宏『租税法 第24版』弘文堂(2021)647頁では、「擬制収益ないし犠牲配当」の部分は「擬制総収入金額または擬制収益」となっている。 (※9) 渕圭吾『所得課税の国際的側面』有斐閣(2016)375頁、弘中聡浩「タックス・ヘイブン対策税制の現状と将来」『現代租税法講座 第4巻 国際課税』日本評論社(2017)298頁。 弘中聡浩弁護士は、「現行法においては、CFC税制は、実質所得者課税の原則では対応できない領域に対応するための税制であるという意味合いが強くなっていると言える。」と述べ、「現行法下ではこの見解(筆者追加:『適正所得算出説』)が適切であろう。この見解は、CFC税制を移転価格税制と総合的に説明することができる可能性がある点でも優れている。」と述べている(※10)。実際、平成21年度税制改正で外国子会社配当益金不算入制度が導入されたため、日本の株主に配当しないことをもって不当な租税回避とみることは困難になった。このことからも「適正所得算出説」が最も妥当な考えであるように思われる。 (※10) 弘中前掲(※9)書298-299頁。 (2) タックス・ヘイブン対策税制と租税条約の関係が問題になる理由 中里実教授は、「タックスヘイブン対策税制の本質を外国法人の法人格を課税上無視して、それを支店同様に扱い、タックスヘイブン子会社の事業所得を親会社に帰属させて(配当とみなしてではなく)事業所得として課税するものであると理解した場合、発生した所得に対する課税権の配分を締約国間において定めた租税条約(特に、外国法人に対しては、恒久的施設なければ事業所得課税なしの原則を定めた事業所得条項)に抵触しないかという問題が生じてくる。」とし、移転価格課税の場合と比較して「タックスヘイブン対策税制に関しては、国内法の定めだけで、移転価格課税に関するような租税条約上の特別な定めが存在しないから、ここで議論するような根本的な問題が発生することになる。」と述べている(※11)。 (※11) 中里実「タックス・ヘイブン対策税制」『国際商取引に伴う法的諸問題』(トラスト60研究業書)有斐閣(2006.6)35-36頁。OECDモデル租税条約9条(特殊関連企業)では、国内法上の移転価格対策税制をバックアップするための規定が設けられており、我が国の租税条約も同様の規定になっている。一角塾の研修においては、村井正教授から「タックス・ヘイブン対策税制とは例外中の例外であり、特に属地主義をとるフランスがそうであり、全世界でも採用している国はそれほど多くない。」と指導をいただいた。 また、グラクソ事件に関して、中里教授は「シンガポール子会社の留保所得に対する親会社への課税は許されるべきではない。」とし、我が国は「租税条約締結国に存在する子会社についてタックス・ヘイブン対策税制を適用することを考えていなかったということになるであろう。」、「事後的な条約の変更の問題が生ずる。」と述べている(※12)。 (※12) 中里前掲(※11)書48-49頁。 (3) 最高裁判決の評価 藤井保憲教授は、最高裁の判決は妥当としながらも、「『実質的』に条約違反が生じるのはどのような場合かの考え方が不明確である。この点は、原審判決で示されている『みなし配当等説』を採用すべきである。」として批判をしている(※13)。また、弘中弁護士も(グラクソ事件の最高裁判決に対して)、「本最高裁判決は、濫用的な立法とみられる場合を除外するという実質的な判断の余地は残しているものの、本件一審及び控訴審判決が行ったようなCFC税制の本質についての説明は殊更に回避し、あえて租税条約の条文の形式的な当てはめと、法的二重課税・経済的二重課税という概念的説明を中心とした論証にとどまっているように読める。」としてCFC税制の本質を明確にしていない点を批判している(※14)。 (※13) 藤井前掲(※2)書13-14頁。 (※14) 弘中聡浩・采木俊憲「グラクソ事件最高裁判決-租税条約との関係」『タックス・ヘイブン対策税制のフロンティア』有斐閣(2013)57頁。 一方、浅妻章如教授は(グラクソ事件の最高裁判決に対して)、「平成21年改正後(筆者追加:外国子会社受取配当益金不算入制度導入後)にも通用する理屈として、内国株主への『あるべき利益移転』というロジックに寄りかからない理論構成を最高裁は示そうとしたのではないかと個人的には推測しています。」、「一応最高裁としては、東京地裁・東京高裁のロジックでは済まないかもしれない部分を補う意図があったのではないかと推測します。」と述べて一定の評価をしている(※15)。最高裁がCFC税制の本質を明確にできていない点に関しては物足りなさを感じるが、当時の税制改正等の状況を考慮した際には一定の評価をすべきと考える。 (※15) 浅妻章如「タックス・ヘイブン対策税制(CFC税制)」租税研究(728)(2010.6)246頁。なお、浅妻教授は、グラクソ事件に関して国側につき、本件では租税条約違反か否かの論点には関与しない条件で納税者側についている。 さらに、平川雄士氏は(両事件の最高裁判決に対して)、「最高裁の判断は理論的にも結論的にも妥当なものというべきである。」、「本件の納税者の主張の帰結は、租税条約締結国との関係ではTH税制は無効であるというものであり、同税制にもとづく無数の過去および未来の納税申告や課税処分の効力を不安定にしうるものである(換言すると個別の執行上の問題にとどまらない)ことを考えると、裁判所の実務判断としては、TH税制は租税条約に違反しないという結論は、当初より動かし難いものであったのではなかろうか。」と結論付けられている(※16)。この意見に同感で、もし租税条約違反と判断された場合の影響を考えると、平川氏の言われるようにタックス・ヘイブン対策税制は租税条約に違反しないという結論は、最初から決まっていたように考える。 (※16) 平川雄士「税制改正や他事例への影響はどうなる? タックスヘイブン対策税制と租税条約の関係に係る最高裁判決の解説」経理情報(No.1240)(2010.2)51頁。 (4) グラクソ事件(法人税事案)の最高裁判決との比較 ① 日星租税条約7条1項の文理解釈の記載がない グラクソ事件の最高裁判決では、日星租税条約7条1項を前段と後段に分け、「後段が日本に恒久的施設を有するシンガポールの企業に対する課税について規定したものであることは文理上明らかであり、前段は日本の企業に対する課税について規定したものと解するのが自然である。」旨の記載があるが、本件ではそのような内容の記載はない。ただし、「日星租税条約7条1項は、法的二重課税を禁止するにとどまる。」とする点は同じであり、グラクソ事件の最高裁判決を参照する旨を判決文において記載することで、省略したものと思われる。しかし、重要な文理解釈の論拠であるため、本来は記載すべき内容であったと考える。 ② OECDモデル租税条約7条1項のコメンタリーに関するコメントがない グラクソ事件の最高裁判決では、「OECDの租税委員会が作成したコメンタリーは、条約法に関するウィーン条約32条にいう『解釈の補足的な手段』として、日星租税条約の解釈に際しても参照されるべき資料ということができる。」旨の記載がある。本件では地裁ではコメンタリーに関するコメントがあったが、高裁・最高裁ではコメントはない。これに関しては、「OECDモデル租税条約7条1項のコメンタリーの考え方をわざわざ援用するまでもな〔い。〕」とした地裁と同じ見解であると理解する。   6 おわりに 「Xに租税回避の意図はなく、Xは真摯に鋼管事業を行ってきたのであり、A社によるC社の株式の売却も、A社を含むB社グループを救済するためにやむを得ず行われた緊急の措置であって、XはA社から一度も配当を受け取っていないのであるから、それにもかかわらず、事後になってなされた約21億円もの莫大な課税処分は著しく不合理であり過酷である(高裁の判決文より)。」旨を主張していたが、このような事情を考慮しても、本件各処分を違法なものとして取り消すには至らなかった。 浅妻教授は、「外国の株式から譲渡益を発生させて、それでまた外国で何か事業をしますという場合については、別に日本は関係ないのではないかという印象を抱きまして、解釈論上の工夫もできるのではないかと一応申し上げまして、しかし、そこには課税しない訳にはいかないという課税庁や裁判所の気持ちも理解できますので、解釈論としては仕方なかったかもしれません。だだ、そうした場合に、政策論としてやはりそこは何とかしてうまく括り出して適用除外にすべきではないかと思うわけです。」と述べられている(※17)。 (※17) 浅妻前掲(※15)258頁。 本件の場合、タックス・ヘイブン対策税制の適用により、Xの平成14年度の個人確定申告における雑所得に約50億円が加算され、結果として約21億円の課税処分が行われた。雑所得の場合、その他の所得との損益通算が認められないため、法人税に比べて厳しい取扱いになっていると言える。たとえば、法人税の場合であれば、タックス・ヘイブン対策税制の課税リスクが考えられる場合、含み損のある資産の売却等にて当該リスクの軽減を図ることが可能になる。しかしながら、所得税の場合であれば、その他の所得との損益通算が認められないためそのような対策ができない。 また、最高裁の判決では、法人税に認められているタックス・ヘイブン対策税制による合算課税の際の外国税額控除が、所得税の際には認められないことに関して、「所得税法が、法人税法と異なり、外国法人から居住者が配当を受ける場合に、当該外国法人の所得に対して課される外国法人税額を当該居住者の所得に対する所得税額から控除する制度(筆者追加:いわゆる間接税額控除)を設けていないこととの均衡を考慮したもの」としている。実際には、所得税の場合、特定外国子会社等に課せられた外国法人税は外国税額控除はできないが必要経費に算入できるため、その分雑所得は少なくなる(※18)。本件に関しては、シンガポールではキャピタルゲインが非課税になっているため、法人税と所得税において差は生じていないが、キャピタルゲイン課税が行われる場合には、法人税では外国税額控除により国際的二重課税は回避できるのに対して、所得税では外国法人税を必要経費にできるというものの国際的二重課税は完全には回避できないという問題が生じる。 (※18) 個人のタックス・ヘイブン対策税制に関しては、廣瀬壮一『個人の外国税額控除 パーフェクトガイド』中央経済社(2019)120-124頁に詳しい記載がある。所得税法では、タックス・ヘイブン対策税制により合算課税対象となる金額を雑所得とする際には、当該雑所得は、外国税額控除における控除限度額計算上は、国内源泉所得とされ、控除限度額はゼロとなり、結果として外国税額控除は受けられない。 これらのことをもって、現行の所得税に関するタックス・ヘイブン対策税制が不合理なものであるとまでは言わないが、本件の場合には、Xの理由ではなく、B社の理由(平成13年4月期において約100億円の借入があり、金融機関から財務状況の改善を強く要求された)からC社株式を売却した状況を考えると、Xにとってあまりにも厳しい処分ではないかと思われる。そこで、少なくとも法人税と所得税の取扱いの違いから生じる不利を調整すべく、本件のように株主が法人と個人であり、株式譲渡が法人の理由によるような場合、個人の所得税確定申告において、雑所得として合算対象とした分については特別にその他の所得との損益通算を認めることや、特別に法人税同様に外国税額控除を認めること等の検討は必要ではないかと考える。 (了)

#No. 553(掲載号)
#西川 浩史
2024/01/25

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第3回】

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第3回】   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   今回は、有価証券報告書のうち、第一部【企業情報】第2【事業の概況】1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】から2【サステナビリティに関する考え方及び取組】までの作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2023年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。   1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】の作成実務ポイント 「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」では、当連結会計年度末における「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」を記載する。作成ポイントは、以下のとおりである。 【事例:酒井重工業(株)2023年3月期の有価証券報告書】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。   2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】の作成実務ポイント 「サステナビリティに関する考え方及び取組」では、当連結会計年度末における「サステナビリティに関する考え方及び取組」を記載する。作成ポイントは、以下のとおりである。 〔構成要素の定義〕 【事例:フタバ産業(株)2023年3月期の有価証券報告書】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (了)

#No. 553(掲載号)
#西田 友洋
2024/01/25

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第19回】「関連当事者との取引に関する注記」

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第19回】 「関連当事者との取引に関する注記」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における関連当事者との取引に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 関連当事者との取引に関する注記は、個別注記表において、関連当事者ごとに取引の内容や取引金額、取引条件やその決定方針を開示する必要があります。 なお、関連当事者との取引に関する注記は個別注記表にのみ求められており、連結注記表では記載が求められていません。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、個別注記表において次のような注記が考えられます。 【個別注記表】   2 注記事項の解説 (1) 関連当事者との取引に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき関連当事者との取引に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第112条第1項)。 (※1) 連結注記表には、関連当事者との取引に関する注記を表示することを要しません(会社計算規則第98条第2項第4号)。 (2) 注記事項の解説 関連当事者との取引は、関連当事者ではない企業や個人との取引と比べて、特別な条件で行われることがあるといった特徴があり、その状況が財務諸表から容易に識別できないことから、財政状態や経営成績に及ぼす影響を財務諸表利用者が適切に理解できるようにするため、当該注記が求められています。 なお、金額の小さな関連当事者との取引まで全て注記することが求められているわけではなく、財務諸表への重要な影響を開示できれば注記の趣旨は達成できるため、重要性の判断基準が適用指針で示されています(「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針」第12項から第20項参照)。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [SPK株式会社 2023年3月期 個別注記表] ※SPK株式会社「第152回定時株主総会資料」14頁より抜粋。 [ソースネクスト株式会社 2023年3月期 個別注記表] ※ソースネクスト株式会社「第27回定時株主総会招集ご通知に際しての電子提供措置事項」34頁より抜粋。 *  *  * 次回の第20回は、「1株当たり情報に関する注記」をテーマに解説します。   (了)

#No. 553(掲載号)
#竹本 泰明
2024/01/25

〈会計基準等を読むための〉コトバの探求 【第10回】「「やむを得ない場合」を用いる理由と該当性の判断」

〈会計基準等を読むための〉 コトバの探求 【第10回】 「「やむを得ない場合」を用いる理由と該当性の判断」   公認会計士 阿部 光成   ◆はじめに 「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」(会計制度委員会研究報告第14号)では、親子会社の決算日の変更に関する記載の箇所で、「やむを得ない場合」という表現を用いている箇所がある。 今回は、「やむを得ない場合」という表現について、ただし書きを設ける場合との違いや該当性の判断について取り上げる。   ◆会計基準等における規定の仕方 通常、会計基準等では、原則となる方法を示しつつ、ただし書きなどによって、他の方法を容認するという規定の仕方が行われている。 例えば、「棚卸資産の評価に関する会計基準」(企業会計基準第9号)では、次のように、収益性の低下の有無に係る判断及び簿価切下げについて、原則を示し、ただし書きで別の方法を規定している(12項)。 「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)でも、同会計基準の定めは、顧客との個々の契約を対象として適用するとしつつ、ただし書きを設けて、一定の条件を満たす場合に限り、当該グループ全体を対象として本会計基準の定めを適用することができると規定している(18項)。 「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)では、有価証券の売買契約の認識について、原則として、約定日基準としつつ、ただし書きを設けて、修正受渡日基準によることができると規定している(22項、235項)。   ◆「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」 「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」(以下「研究報告」という)では、「6.親子会社の決算日の変更に伴う会計処理及び比較情報の開示」において、次のように記載しており、「やむを得ない場合」の用語が使用されている(以下、アンダーラインは筆者が挿入)。 当該箇所については、研究報告の公開草案では、次のように記載されていた。 公開草案から修正した理由については、研究報告に記載されていないが、公開草案に対して寄せられたコメントに対応したものと考えられ、公開草案から変更すべき理由があったものと考えられる。 また、研究報告では、どのような場合が「やむを得ない場合もある」に該当するのかの例示も記載されていない。 しかしながら、「この場合には、損益計算書を通して調整する方法のみが採用でき、実施した会計処理の概要のほか、その理由も記載することが適当」と記載されていることを鑑みると、「やむを得ない場合もある」に該当するのかどうかの判断は、相当に慎重に行うべきものと考えられる。   ◆「やむを得ない事情」を用いている例 次のように、「やむを得ない事情」を用いている例もある。 「公認会計士法」24条の3第1項では、公認会計士は、大会社等の7会計期間の範囲内で政令で定める連続する会計期間のすべての会計期間に係る財務書類について監査関連業務を行った場合には、当該連続会計期間の翌会計期間以後の政令で定める会計期間に係る当該大会社等の財務書類について監査関連業務を行ってはならないとしつつ、ただし、当該公認会計士(監査法人の社員である者を除く)が当該連続会計期間の翌会計期間以後の会計期間に係る当該大会社等の財務書類について監査関連業務を行うことにつき、内閣府令で定めるやむを得ない事情があると認められる場合において、内閣府令で定めるところにより、会計期間ごとに内閣総理大臣の承認を得たときは、この限りでないと規定している。 また、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」(企業会計審議会)では、「評価範囲の制約」(Ⅱ、3、(6))において、「経営者は、財務報告に係る内部統制の有効性を評価するに当たって、やむを得ない事情により、内部統制の一部について十分な評価手続を実施できない場合がある。」と記載している。 (了)

#No. 553(掲載号)
#阿部 光成
2024/01/25

〈一問一答〉副業・兼業に関する担当者のギモン 【第8回】「副業・兼業を理由とする時間外労働・配置転換の拒否」

〈一問一答〉 副業・兼業に関する担当者のギモン 【第8回】 「副業・兼業を理由とする時間外労働・配置転換の拒否」   弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之   ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 時間外労働義務(残業義務) 使用者は、事業場における過半数組合または過半数代表者との間で労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出た場合は、当該労使協定(いわゆる36協定)に従って労働時間を延長し、または休日に労働させることができる(労働基準法第36条第1項)。 もっとも、36協定の締結・届出は、時間外労働を適法化する効力(時間外労働をさせても労働基準法が定める労働時間規制違反の責任を問われない)を有するに留まり、労働者に対して、時間外労働に従事すべき労働契約上の義務まで創設するわけではない。労働者の時間外労働義務を発生させるためには、別途、労働契約上の根拠が必要である。 この点、判例は、36協定の締結・届出があり、かつ、36協定の範囲内で労働者の時間外労働の義務を定めた就業規則があるときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、労働者は時間外労働義務を負う旨判示している(日立製作所武蔵工場事件=最高裁平成3年11月28日判決民集45巻8号1270頁)。 したがって、就業規則において、「業務上の必要があるときは時間外または休日労働を命じることがある」との一般的規定があり、かつ、36協定において必要な内容が適切に定められていれば、労働契約上も、使用者は、労働者に対し、時間外労働を命じることができ(残業命令権)、労働者は、時間外労働に従事すべき義務を負う。 もっとも、使用者と労働者との間で、時間外労働の対象外となる日や時間帯、場面などについて個別合意が成立していれば、当該個別合意は、より有利な特約として就業規則に優先するため(労働契約法第7条但書)、個別合意に反する内容の残業命令に対し、労働者の時間外労働義務は生じない。 したがって、使用者が副業・兼業を許可するにあたって、労働者との間で、副業・兼業に従事する日や時間帯の時間外労働を命じない旨の具体的な合意をした場合には、当該合意に反する残業命令に対し、労働者の時間外労働義務は生じないが、そのような具体的な合意がなく、単に副業・兼業を許可しているというだけでは、個別合意の成立を認定するには足りず、使用者の残業命令に対し、労働者は時間外労働義務の発生を免れないものと考えられる。   2 残業命令権の濫用 就業規則に基づき労働者の時間外労働義務が発生する場合であっても、個々の残業命令については、権利濫用の規制が及ぶ(労働契約法第3条第5項)。 したがって、使用者による個別の残業命令が権利濫用にあたる場合には、当該残業命令は無効であり、当該残業命令に対する労働者の時間外労働義務は生じない。 残業命令が権利濫用にあたるか否かは、「時間外労働を命じる業務上の必要性」と「労働者の生活上の不利益(時間外労働を行うことができないやむを得ない事由ないし正当な理由)」を比較衡量して判断すべきところ、副業・兼業により残業に従事できないという事情は、後者において評価すべきこととなる。 この点、本業先の企業において残業を命じる業務上の必要性が乏しい一方、当該残業命令により副業・兼業先での業務に支障が生じる程度が大きいような場合には権利濫用が成立し得るが、本業先にとって副業・兼業は基本的に労働者の私的事情であるから、本業先において残業を命じる業務上の必要性が一定程度認められるのであれば、そのような残業命令が権利濫用と評価される場面は極めて限定的なものとなろう。   3 配転命令の場合 労働者の副業・兼業を困難にするような配転命令についても、それが権利の濫用にあたると評価される場合には、当該配転命令は無効であり、労働者は配置転換を拒否することができる。 配転命令が権利濫用にあたるか否かは、「配転に関する業務上の必要性(人選の相当性を含む)」と「配転によって労働者が被る不利益(私生活・家庭生活上の不利益、職種変更による不利益、賃金等の低下等)」を比較衡量し、後者が前者を著しく上回るような場合に権利濫用と評価されるところ(東亜ペイント事件=最高裁昭和61年7月14日判決労判477号6頁)、配転により副業・兼業が困難となるという事情は、後者の事情として評価すべきこととなる。 もっとも、従前の判例・裁判例は、配置転換に関し使用者の広い裁量を認めており、配転に関する業務上の必要性は比較的広範に認められている。また、人選の相当性についても、「余人をもっては容易に代え難い」ほどの高度の必要性は要さず、「企業の合理的運営に寄与する」点があれば足りるとされている。 さらに、遠隔地転勤による私生活・家庭生活上の不利益について、権利濫用が成立する場面を「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる」場合に限定しており、妻子との別居を強いる配転命令すら「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」たり得ないとされている。 したがって、配転命令に業務上の必要性がまったく認められない場合や不当な動機・目的で配転を命じたような場合を除き、本業先による配転命令は基本的に有効であり、労働者は、副業・兼業が困難となることを理由に、配転命令を拒否することはできないものと解される。 (了)

#No. 553(掲載号)
#木下 雅之
2024/01/25

プラス思考の経済効果 【第23回】「大谷選手のドジャース入団による2024年の経済効果」

プラス思考の経済効果 【第23回】 「大谷選手のドジャース入団による2024年の経済効果」   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 はじめに 2023年12月9日(日本時間10日)に大谷翔平選手は2024年からドジャースに入団することを発表しました。ドジャースへの移籍は予想通りでしたが、驚いたのは契約金が10年でなんと7億ドル(約1,015億円)の史上最高額であることと、「10年間の契約期間終了後、約97%の契約金を後払いする」という前代未聞の条件が付いていたことでした。 今回は、この契約金と付帯条件を考慮した2024年のドジャース大谷選手の経済効果を推計することにします。   2 2024年の経済効果 (1) アメリカ国内の直接効果 ① ドジャー・スタジアムの観客増加による消費増加額 ドジャースは人気球団ですので、主催ゲームにおいて2023年のシーズンでMLB最高の約384万人のファンを集めました。2023年にエンゼルスにおいて大谷選手が活躍した期間に、1試合当たり3万2,883人の観客を集めましたが、これは対前年度で約8.2%の増加率でした。これを2024年のドジャースにあてはめると、ドジャースは年間約31万人の観客の増加が見込まれ、観客1人当たり約1万円の消費支出とすると、約31億円の消費増加額になります。 ② 大谷選手の年俸 大谷選手のドジャースとの契約は、10年契約で約7億ドル(約1,015億円)であると言われています。ただし、最初の10年間で契約金の約3%(約30億円。年間約3億円)を受け取り、残りの97%(約985億円)はドジャースを退団してから10年間に渡って支払われる契約になっています。大部分は後払いされ、最初の年である2024年は約3億円が支払われるだけです。 ③ 大谷選手のスポンサー契約料 2023年に大谷選手は、シューズメーカーの「ニューバランス(NB)」と新規契約を締結しました。この時、アメリカの経済雑誌「フォーブス」は2023年の大谷選手のスポンサー収入は、日本の企業とアメリカの企業を合わせて約49億円であると発表しています。大谷選手は2023年には日本とアメリカの企業17社とスポンサー契約を結んでいます。「USAトウディ」のボブ・ナイチンゲール記者は「2024年の大谷選手はエンドースメントの収入で5,000万ドル(約73億円)を稼ぐと予想されている」と述べています。本稿では大谷選手のスポンサー契約料は約70億円と予想することにします。 (※) 「エンドースメント」とは、有名なスポーツ選手や音楽家などと肖像権や商品化等に関して結ぶ契約のことです。日本ではスポンサー契約とも言われることがあります。 ④ 大谷選手による放映権収入 日本のNHKとMLBの契約を見てみましょう。2023年の契約金は約8,000万ドルと言われていますが、放送の大半が大谷選手の試合の放映であることを考えれば、そのうちの約7割の5,600万ドル(約81億円)が大谷選手の試合の放送分であると考えてもよいでしょう。2024年もほぼ同額の約81億円が、MLBが大谷選手の活躍により日本から得ている放映権収入であると推定します。 ⑤ グッズの売上額 大谷選手のグッズの売上はMLBでトップクラスであり、ファンの多い人気チームのドジャースに移籍すると2023年の約11億円を上回り約13億円になると推定されています。 ⑥ ドジャー・スタジアムなどへの日本企業の広告料 大谷選手の活躍で日本企業がエンゼル・スタジアムなどエンゼルス関係の野球事業に宣伝広告を出しています。ドジャースに移籍した場合は人気球団であるので、金額は跳ね上がり総額約15億円と想定されています。 (2) 日本における直接効果 ① 大谷選手応援ツアーの売上高 2024年はMLBでの大谷選手の活躍を応援に行くツアーは、観光地のロサンゼルスにある人気球団のドジャースですから年間約1万人が約1週間の予定で行くと想定されます。費用は1人当たり約30万円で総額約30億円となります。 ② 日本におけるグッズの売上高 日本における大谷グッズの売上は、ファンの多いドジャースに行くことにより約4億円になると想定されています。   3 2024年の経済効果 この直接効果を基にして経済効果を計算すると、2024年の大谷選手がドジャースに移籍した時の経済効果は約533億5,200万円となります。 〈ドジャースに移籍した時の2024年の経済効果〉   4 まとめ (1) 最近の大谷選手の経済効果の推移 大谷選手の2021年以後の経済効果は以下のとおりです。 〈大谷選手の経済効果(2024年は予測値)〉 2024年に大谷選手が名門ドジャースに移籍した時の経済効果は約533億5,200万円になるので、エンゼルスに在籍していた2023年と比べると、年俸がたった3億円になるにもかかわらず経済効果は約29億円増加することになります。これは、ドジャースがMLBで最も多い観客動員数を記録している人気チームであるからです。 (2) ドジャースは採算が合うのか 多くの野球ファンは、「ドジャースは10年契約で約1,015億円の契約金を払って採算が合うのか?」と考えているかもしれません。筆者は、これだけの契約金を払っても、「大谷選手が2年目から二刀流で、10年間故障なく活躍してくれれば、ドジャースが毎シーズン優勝争いをして、数年に1度は優勝すれば、十分採算が取れる」と計算していると考えています。 それは、ドジャースの観客動員力、毎年の大谷選手のスポンサー契約料、球場などへの広告料、大谷選手のグッズ売上金、そして莫大な放送権収入などから計算していると思われるからです。筆者の推計ではドジャースは大谷選手の入団により、年間約150~200億円の収入増加があり、10年間では約1,500~2,000億円になります。したがって、大谷選手に10年間で約1,050億円を支払っても採算が合うと考えていると推察しています。 (3) 契約金の後払いについて 大谷選手が10年間で契約金約1,015億円の契約をして、最初の10年間で約3%の契約金(年間約3億円)を受け取り、残りの約97%(約985憶円)を後払いで受け取るという長期契約には驚きました。 筆者も若い頃アメリカに留学していて、アメリカ人の金銭感覚を見てきていましたが、一般的にはアメリカ人はこのような契約はしない傾向にあると言えます。例えば、最初の10年間で1,015億円を受け取り、そのお金を資金運用会社に委託すると、現在であれば年利約5%で運用してくれます。 そうすると、ドジャースを退団してからの10年間(つまり契約締結後20年)で、複利計算では約985億円は約1,604億円になります。つまり、大谷選手は約619億円の利益を得るチャンスを自ら放棄することになります。また、現在は円安ですが、日本の金利が上がって為替レートが円高の方向に動けば、大谷選手の年俸は円換算ではかなり減少する可能性もあります。 したがって、この契約はいかにも自分の利益よりもドジャースの勝利を優先させた大谷選手らしい選択であると言えます。約985億円を後払いにすることにより、球団はMLBに「ぜいたく税」をほとんど払わなくて済み、大谷選手に1度に支払うべきお金とMLBに支払うべき「ぜいたく税」を、山本由伸選手はじめ他の選手の獲得資金に使うことができるからです。つまり、大谷選手は自分個人のお金よりもドジャースが良い選手をとって優勝することを第一目標にしていると考えられます。 勝利を第一目標にしている大谷選手と山本選手がドジャースにおいてこれからどのような旋風をMLBで巻き起こすかが今から楽しみです。 (※) 本稿における円換算の記載は、その当時の為替レートによります。 (了)

#No. 553(掲載号)
#宮本 勝浩
2024/01/25

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(令和5年4月~6月)」~注目事例の紹介~

《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和5年4月~6月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、2024(令和6)年1月18日、「令和5年4月から6月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、相続税法関係が3件、国税通則法関係が2件、法人税法関係と租税特別措置法関係が各1件で、合わせて7件となっている。 【表:公表裁決事例令和5年4月から6月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された裁決事例のうち、無予告の税務調査が違法又は不当ではないとした裁決(前掲表①)、一括購入した土地及び建物について各資産の取得価額の算定に当たり不動産鑑定評価による按分が合理的であるとした裁決(前掲表③)、相続開始の時に空室であった貸室について賃貸されていたのと同視し得る状況にはないから、賃貸されていなかったものとは認められないとした裁決(前掲表⑦)について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心となった争点のみに絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。   1 無予告の税務調査が違法又は不当であるかどうかが争われた事例・・・① (1) 事案の概要 本件は、ブロック工事業を営む個人事業者で、G社の代表者である審査請求人に対して、原処分庁が行った調査に基づき、所得税等及び消費税等の更正処分等をしたところ、審査請求人が、①調査手続には当該更正処分等を取り消すべき違法がある、②審査請求人の所得税等の事業所得の金額は、推計の方法により算定すべきである、③当初の調査結果の説明の際に認めていた消費税の仕入税額控除を認めるべきであるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 審査請求人の主張 審査請求人は、原処分庁による税務調査が違法又は不当であるとして、次のように主張した。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、審査請求人の主張に対し、次のような判断を示して、事前通知をしなかったことに違法又は不当はなく、また、原処分庁が行った新型コロナウイルス感染症に対する感染防止策は適切であることから、本件調査が不当に行われたとは認められないこと、さらに、調査結果の内容の説明がなかったことをもって、原処分の取消事由となるべき違法があるとは認められないことから、本件調査に原処分の取消事由となるべき違法又は不当があるとは認められないという裁決を判示して、審査請求を棄却した。 ① 事前通知のない税務調査について 審査請求人は、各年分の所得税等の各確定申告書には、「収入金額等」欄の各欄にいずれも金額を記載せず、また、事業所得に係る収支内訳書も添付していないなど、所得税法の規定に基づかない確定申告書を提出しており、そのような事業所得の金額の計算の明細が必ずしも明らかではない状況の下ではあったが、原処分庁が保有する情報及び審査請求人の各確定申告書の記載内容を検討した結果、売上除外等が想定されたため、調査が実施されたものであり、原処分庁は、事前通知をすることにより、審査請求人が売上に係る原始記録及び帳簿書類等を破棄するなど不正取引の把握を困難にするおそれがあるとして、国税通則法第74条の10に規定する事前通知を要しない場合に該当すると判断したものであり、その判断に、全く事実に基づかず明白に合理性に欠けるなど裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったとは認められないことから、原処分庁が事前通知をしなかったことに違法又は不当はない。 ② 新型コロナウイルス感染症に対する感染防止策について 調査担当職員は、審査請求人の自宅へ臨場するに当たり、「新型コロナウイルス感染症の感染防止策チェックリスト(連記式)」と題する書面に基づき、自ら確認を行い、管理者からも実施状況の確認を受けていたことが認められ、これは、国税庁がホームページで公表している新型コロナウイルス感染症の感染防止策に則っていることからすれば、調査の初日における調査官の人数や調査を続行したことについて、裁量権の逸脱又は濫用があったとは認められず、調査が不当に行われたとは認められない。 ③ 調査結果の内容説明について 調査担当職員は、相当の回数をもって税理士に調査結果の内容を伝えるべく連絡しているにもかかわらず、税理士は、調査担当職員からの連絡に一度も対応することがなかったことに加え、折り返して返答することもしなかったことから、税理士は、調査担当職員による調査結果の内容の説明を忌避する目的で、調査担当職員の調査結果の内容の説明に関する連絡に応じなかったものであり、審査請求人は、国税通則法第74条の11第2項に規定する調査結果の内容の説明を受ける機会を自ら放棄したものと認められる。 また、課税処分に関する証拠収集手続に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合には、課税処分の取消事由となると解されるところ、調査結果の内容の説明は調査終了の際の手続であって、既に行われた証拠収集手続自体に影響を及ぼすものではないことからすれば、審査請求人に対する本件調査に係る調査結果の内容の説明がなかったことをもって、原処分の取消事由となるべき違法があるとは認められない。   2 一括購入した土地及び建物について各資産の取得価額の算定方法が争われた事例・・・③ (1) 事案の概要 本件は、不動産の所有、賃貸及び管理業等を営む法人である審査請求人が、売買により一括して取得した土地及び建物について、これらの売買代金の総額から路線価を基に算出した当該土地の売買代金相当額を差し引く方法によって算定した建物の売買代金相当額に基づき、法人税の減価償却費の額及び消費税の課税仕入れに係る支払対価の額を計算して確定申告をしたところ、原処分庁が、建物の売買代金相当額については、これらの売買代金の総額を当該土地及び建物の各々の固定資産税評価額の価額比で按分する方法によって算定すべきであるとして、これを基に更正処分等をしたのに対し、審査請求人が、原処分庁による更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、審査請求人が取得した各物件(3件)については、いずれも土地及び建物の各々の売買金額並びに消費税等相当額が売買契約上明らかでないことから、各建物の減価償却費の額及び各建物の取得に係る支払対価の額の計算上、合理的な方法によって各物件の売買代金を各土地及び各建物の各々の売買代金相当額に区分することが必要となるとしたうえで、建物2と建物3については、簡易宿所施設へと改修するための相応の規模の工事が行われ、建物2及び建物3の時価を増加させるものであったことを認定した。 そのうえで、国税不服審判所は、建物2及び建物3については、審査請求人が依頼した不動産鑑定士が行った鑑定は、不動産鑑定評価基準に沿って鑑定評価を実施しており、その実施過程に不適切ないし不合理な点は見当たらず、公平な鑑定評価を実施したことに疑いを持たせるような事情も認められないことから、土地2積算価格と建物2積算価格との価額比及び土地3積算価格と建物3積算価格との価額比については、審査請求人による取得時点における土地及び建物の各々の時価の価額比を推認する手がかりとして、一定の合理性が認められるというべきであるとの判断を示した。 一方、建物1について、国税不服審判所は、固定資産税評価額は、土地及び建物の各々の時価を推認する手がかりとして一般的な合理性を有するものであるから、同一年度における土地及び建物の各々の固定資産税評価額の価額比についても、これらの価額が同一の公的機関によって同一時期に評価されたものであることに照らし、同一時点における土地及び建物の各々の時価の価額比を推認する手がかりとして、同じく一般的な合理性を有しているというべきであると述べたうえで、審査請求人の主張はいずれも合理的な算定方法とはいえず、固定資産税評価額比按分法以外に合理的な方法は認められないという判断を示した。 この結果、原処分は、国税不服審判所によってその一部が取り消された。   3 相続開始の時に空室であった貸室について、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用が争われた事例・・・⑦ (1) 事案の概要 本件は、審査請求人が、相続により取得した宅地に小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を適用して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、当該宅地の一部は当該特例を適用することができないとして相続税の更正処分等をしたのに対し、審査請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 審査請求人が相続により取得した土地及びその上に存する建物は共同住宅の用に供され、相続開始の直前において、木造2階建て全8部屋のうち3部屋が貸し付けられていたが、5部屋は空室であった。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、相続開始の直前において空室であった各部屋について、102号室、202号室及び203号室については、平成27年4月以前から空室であり、少なくとも4年6ヶ月以上の長期にわたって空室の状態が続いていたのであるから、客観的に空室であった期間だけみても、実質的にみて賃貸されていたのと同視し得る状況にはなかったというべきであるから、一時的に賃貸されていなかったものとは認められないとの判断を示した。 一方、201号室及び205号室については、相続の開始の約2ヶ月前又は約5ヶ月前にそれぞれ入居者が退去しており、空室であった期間は長期にわたるものではないものの、積極的に新たな入居者を募集していたとはいえないことから、入居者が退去した後は、賃貸される具体的な見込みがあったとはいえず、空室のままの状態にされていたというほかないから、実質的にみて本件相続の開始の時に賃貸されていたのと同視し得る状況にはなく、一時的に賃貸されていなかったものとは認められないとの判断を示した。 そのうえで、国税不服審判所は、各空室部分に係る宅地の部分は、被相続人の貸付事業の用に供されていたとは認められず、また、審査請求人が相続の開始の時から申告期限までの間に被相続人の貸付事業を引き継ぎ、宅地を貸付事業の用に供していたとも認められないから、租税特別措置法第69条の4第3項第4号に規定する「貸付事業用宅地等」に該当しないと結論づけ、審査請求を棄却した。 (了)

#米澤 勝
2024/01/23

《速報解説》 JICPAが「監査事務所における品質管理に関するツール(実務ガイダンス)」を改正~大規模監査法人以外の監査事務所の利用を想定の下、品質管理システムの評価の記載等行う~

《速報解説》 JICPAが「監査事務所における品質管理に関するツール (実務ガイダンス)」を改正 ~大規模監査法人以外の監査事務所の利用を想定の下、品質管理システムの評価の記載等行う~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年1月17日付けで(ホームページ掲載日は2024年1月19日)、日本公認会計士協会は、「品質管理基準報告書第1号実務ガイダンス第4号「監査事務所における品質管理に関するツール(実務ガイダンス)」」の改正を公表した。 これにより、2023年10月16日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。なお、公開草案に対しての特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、品質管理システムの評価に当たっての具体的な手順や文書等について検討したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 公認会計士法上の大規模監査法人以外の監査事務所の利用を想定して作成して いる。 実務ガイダンスで提供している様式例は次のとおりである。 主な改正内容は次のとおりである。 (了)

#阿部 光成
2024/01/22
#