有料老人ホームをめぐる 税務上の留意点 【第4回】 「有料老人ホームをめぐる相続税実務のポイント」 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 有料老人ホームの入居に際して支払う費用には がある。 これらの入居費用のうち、①入居一時金以外の費用(②~⑤)については、その都度支払うものであり、その費用を夫婦間で負担しても、通常贈与税等の課税関係は生じない。 しかし、夫婦のいずれか一方が入居一時金を負担した場合等には、相続税や贈与税の問題が発生する場合がある。 今回はこの「入居一時金」と相続税・贈与税の問題について、3つの裁決事例を比較して検討してみたい。 2 相続財産に該当するとした事例 この事例は、被相続人Mと配偶者Kが夫婦で有料老人ホームに入居(入居一時金の負担状況はMが6,561万円、Kが1,220万円)したもので、Mに係る相続税の申告に関し、原処分庁は、Mの死亡に伴い生じる有料老人ホームの入居一時金等に関する返還金だけでなく、Kの返還見込額も相続財産に該当するとして、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。 ▼裁決事例集 No.72 P496 (平成18年11月29日裁決):国税不服審判所 有料老人ホーム入居時点において入居者が有することとなる入居者の死亡又は入居契約の解約権の行使を停止条件とする金銭債権は相続財産に該当するとした事例 〈裁決要旨〉 上記裁決においても、原処分庁の処分を支持し、Mの死亡により返還された入居一時金等だけでなく、配偶者Kの退所により返還される入居一時金等相当額のうち、Mの負担割合相当額についても、Mの本来の相続財産であるとしている。 これは、配偶者Kに係る入居一時金等返還金は、相続又は退所を停止条件とする金銭債権であるが、その条件はいつでも満たすことができ、条件成就により返還金が支払われ、その権利自体も預り金としての性質を持つものであり、金銭に見積もることができる経済的価値のある権利であることによる。 3 贈与税の非課税財産とした事例 この事例は、被相続人が配偶者のために負担した入居一時金は、入居契約時に被相続人から配偶者に贈与があったと認めつつも、扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与であるため非課税財産であるとした事例である。 ▼裁決事例集 No.81 (平成22年11月19日裁決):国税不服審判所 (贈与税の非課税財産)被相続人が配偶者のために負担した介護付有料老人ホームの入居金は、相続税法第21条の3第1項第2号に規定する「扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」に該当するから、当該入居金は相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算する必要はないとした事例 〈裁決要旨〉 4 贈与税の非課税財産でないとした事例 これに対し、次の事例は、被相続人が配偶者のために負担した入居一時金は、入居契約時に被相続人から配偶者に贈与があり、非課税財産に該当しないと判断されたものである。 ▼裁決事例集 No.83 (平成23年6月10日裁決):国税不服審判所 (贈与税の非課税財産)被相続人が配偶者のために負担した有料老人ホームの入居金は、贈与税の非課税財産に該当しないから、当該入居金は相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算する必要があるとした事例 〈裁決要旨〉 5 まとめ このように、夫婦2人で入居する場合において、どちらか一方が入居一時金を過重に負担する場合には、上記2の事例のように契約形態によっては、入居一時金等に関する返還金等が相続財産とされることがある。 また、上記3、4の事例からは、入居一時金が、相続税法第21条の3第1項第2号に規定する「扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」に該当するためには、住宅型や健康型有料老人ホームの場合には、入居一時金が、被相続人にとって入居金を負担して老人ホームに配偶者を入居させることが扶養義務を果たす上で社会通念上必然的な支出であることが求められる。 具体的には上記3の事例の要旨から、次の5つの要件が参考になる。 また、上記3、4の事例は、いずれも相続開始前3年以内の贈与であったが、単純に贈与と認定された場合には、税負担等、より影響が大きいことから、実行に当たっては、細心の注意が必要である。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第28回】 「判例分析⑭」 公認会計士 佐藤 信祐 第27回においては、相互タクシー事件に係る第1審における当事者の主張についてそれぞれ解説を行った。 本稿においては、これに対する裁判所の判断について解説を行うこととする。 ④ 裁判所の判断 ⑤ 総括 このように、本判決においては、法人税法37条のみが判断され、法人税法132条については判断されなかった。しかしながら、法人税法37条についての規定と法人税基本通達9-1-12の関連性、有価証券の取得価額と発行法人における資本勘定の取扱いなどを知る上で、重要な論点が含まれている。 本事件においては、増資払込金の中に寄附金に当たる部分がある場合には、当該寄附金に該当する部分の金額は、法人税法施行令119条2項に規定する「払込みをした金銭の額」に当たらないと解している。さらに、法人税基本通達9-1-12は債務超過会社に対する増資払込みのすべてが有価証券の取得価額を構成することを前提にした通達ではなく、経済的合理性が認められ、時価と払込金額の差額を企業支配の対価ととらえることができる場合を前提としていることから、本事件においてはこれに該当しないものと判断している。 さらに、発行法人において本件増資払込金の全額を資本勘定に組み入れたことと、原告にとって損失(寄附金)が発生するとすることとは、何ら矛盾するものではないとしている。すなわち、発行法人においては、資本等取引に該当することから、資本金等の額の増加として処理し、受贈益課税が発生しないものと解されたとしても、第三者割当増資により有価証券を取得した者においては有価証券の取得価額を構成せず、寄附金として処理されてしまうことがあり得ることを示している。 しかしながら、岡村忠生教授は、『別冊ジュリスト 租税判例百選(第4版)』(有斐閣)117頁において、この判決を判例として見るか否かについて、額面金額が廃止されたという点、組織再編税制が導入されたという点について、今日では事情が異なるという点を問題提起されている。さらに、日本スリーエス事件を紹介した上で、「払込みをした金銭の額」という条文の文言に対する経済合理性に基づく判断や私法上有効な取引の実質による上書きが、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認に見られる特質そのものであり、法人税法37条に規定する寄附金の規定が一般的に認めていると見ることはできないものとしている。 1つ目の額面金額が廃止されたという指摘については、まさにその通りである。すなわち、現行法であれば、債務超過会社に対する増資引受けについては、当該債務超過に相当する金額と払い込んだ金銭の価額のいずれか少ない金額が寄附金として認定されると考えられる。 また、2つ目の組織再編税制が導入されたという指摘についても、まさにその通りである。高額引受けによる有価証券の取得が適格分社型分割や適格現物出資により行われていた場合には、「移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額(法令119①七)」と規定していることから、同様の議論により高額引受けに該当する部分の金額を有価証券の取得価額ではなく、法人税法37条により寄附金としてこれを否認することは困難であると考えられる。また、適格分社型分割や適格現物出資を行った後にグループ内で株式譲渡を行うことについては、同一の者により直接又は間接に支配関係が維持されることが見込まれている限り、グループ内における適格分社型分割又は適格現物出資に該当する余地を残すため、このようなケースは十分に考えられる。 さらに、3つ目の同族会社等の行為計算の否認についての指摘については見解が分かれるところであると考えられるが、個人的には、法人税法37条についての条文解釈と事実認定により否認を行うべきではなかったと考えている。これに対し、日本スリーエス事件に対する平成12年11月30日東京地裁判決においては、 として、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認の適用を認めている。 このように、本事件については、法人税法37条を適用するのか、法人税法132条を適用するのかという点に争いがあるものの、寄附金として損金の額に算入することができないという点が示されたという点については、子会社の再生についての事案にとって、重要な判決であると考えられる。 次回以降では、控訴審判決、最高裁判決について触れたうえで、さらなる詳細な分析を行う予定である。 (了)
交際費課税Q&A ~ポイントを再確認~ 【第3回:2014年10月改訂】 「1人当たり5,000円以下の飲食費」 公認会計士・税理士 新名 貴則 租税特別措置法において、次の費用は税務上の交際費等から除くと定められている(措法61の4④二)。 ここでいう「政令で定めるところにより計算した金額」とは、飲食等のために支出した費用を参加者の人数で除した金額のことである。また、「政令で定める金額」とは、5,000円のことである(措令37の5①)。 したがって、飲食等のために支出した費用が1人当たり5,000円以下であれば、税務上の交際費等から除かれるという意味である。 ただし、これはその飲食等が、得意先や仕入先、その他事業に関係のある社外の者等と一緒の場合のみである。 親会社や子会社の役員や従業員は社外の者とされる。 社内の者だけでの飲食代が1人当たり5,000円以下であったとしても、これには該当しない(もちろん、そもそも交際費等ではなく会議費等に該当する場合もある)。 逆に、これらの社外の者と一緒であれば、明らかに居酒屋等での飲酒も伴う食事であったとしても、1人当たり5,000円以下であれば交際費等にはならないことになる。 このとき、以下の事項を記載した書類を保存しておくことが必要である。 この書類の様式は定められていないので、必要項目さえ網羅されていれば、任意の様式で構わない。 ◆ 判定に当たって注意すべき事項 ◆ 【税抜経理のケース】 【税込経理のケース】 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第20回】 株式会社タカラトミー・ 「連結子会社における不適切な会計処理に関する調査報告書」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概 要】 【株式会社タカラトミーの概要】 株式会社タカラトミー(以下「タカラトミー」という)は、1953(昭和28)年設立。2006(平成18)年3月、株式会社タカラと合併、現社名となる。玩具・雑貨・カードゲーム・乳幼児関連商品等の企画、製造及び販売を主な事業内容とする。連結売上高155,968百万円、経常利益3,372百万円、従業員数2,056名(平成26年3月期)。本店所在地は東京都葛飾区。東京証券取引所1部上場。 連結子会社である株式会社タカラトミーエンタメディア(以下「T2E」という)は資本金約357百万円、タカラトミーの持ち株比率は95%。コンテンツ企画・制作、通信コンテンツ企画・配信、広告・メディア事業を行っている。売上高2,499百万円、経常利益41百万円。 不適切な会計処理が判明したT2Eアドコミュニケーション部の売上高は1,825百万円(いずれも平成26年3月期)。 【T2Eの沿革】 2002年2月 設立。設立時の社名はタカラモバイルエンタテインメント株式会社。 2005年9月 合併前の株式会社タカラと株式会社トミーが、株式会社インデックス(以下「インデックス」という)との間で「戦略事業会社」として同社を位置付け、株式会社ティーツーアイエンターテイメントに商号を変更。 2009年10月 現社名に変更。 【報告書のポイント】 1 調査に至った経緯 (1) 社内調査委員会設置の経緯 調査報告書によれば、平成26年6月25日、T2Eは、取引先であるA社代理人から、同月23日付の内容証明郵便を受け取り、A社がT2Eとの間でいわゆる架空循環取引を行っていた旨の通知を受けた。 これを受けて、タカラトミーは事実関係の調査を行うため、社内調査委員会による調査が行われることとなった。 (2) 社内調査委員会にメンバー構成について 本件調査委員会は、日本弁護士連合会ガイドラインによる第三者委員会ではなく、社外取締役を委員長とし、社外監査役2名と、顧問弁護士と思われる大手法律事務所の弁護士がメンバーとなっている。さらに調査補助者として、フォレンジックサービスを専門とする公認会計士を加えている。 調査委員会が日弁連のガイドラインに準拠していない理由について、調査報告書には、特段の説明はない。 2 調査報告書により判明した事実 (1) 2012年8月の内部監査 2011年3月に開始されたT2EとA社との取引は、いくつかの変遷を経て、T2EがE社に前渡金を支払い、A社は通常サイトでT2Eへの支払いを行う形になっていた。A社が発注する什器は、T2Eの出荷指示に基づき、業者からA社に直送されるため、T2Eでは、納品書等の書面により納品状況を確認していた。 2012年8月、そうした中行われたタカラトミーによる内部監査では、 が指摘され、リスク回避のための対策を経営陣で十分に議論するよう勧告がされた。 T2Eは、同年12月上旬、A社との間で取引基本契約を締結するとともに、前渡金の支払いについては直ちに停止し、A社との取引も2013年3月に中止する方針を決めた。 (2) 前渡金取引の実態 2013年1月中旬、T2E担当者はA社担当者から「資金の用立て」を依頼される。しかし、T2E経営陣は、前渡金の支払停止及びA社との取引中止を決定していたため、T2E担当者は、T2EとA社の間に受皿会社を、T2EとE社との間に前渡金支払会社を介在させる形で、取引の継続を決める。 T2E担当者は、内部監査の結果、厳しくなった与信チェック体制をかいくぐるため、14社に及ぶ受皿会社を介在させた。 また、前渡金支払会社についても、資金負担を軽減するため5社を介在させた。 T2E担当者が、受皿会社や前渡金支払会社を介在させることにより、社の方針に背いてまでA社との取引を継続した理由について、報告書には、 という理由が記述されているが、他の架空循環取引事件でも、同じようなジレンマから、ズルズルと取引を継続した結果、損害額が雪だるま式に増えていった状況は、本件でも変わらない。 (3) 子会社としての存在意義 調査報告書には、本件取引開始当時(2011年3月)のT2Eに関して、以下のような記述が繰り返されている。 もともとタカラトミーとインデックスとの間の戦略事業会社と位置づけられていたT2Eにとって、その後、インデックスの業績低迷に伴う資本政策の変更もあって、戦略事業会社としての存在意義は消失したことがうかがえるだけに、グループ外取引の拡大を焦る気持ちが、新規顧客との取引開始にあたって規程を無視し、与信チェックを行わない運用に向かったことが推察できる。 (4) 不適切な取引の業績に与えた影響 報告書及び訂正された有価証券報告書から、架空循環取引による影響は以下のとおりである(単位:百万円)。 不正関連損失に関しては、注記事項の中に、「偶発損失引当金」として、以下の説明がなされている。 3 再発防止策 調査委員会による再発防止策は、次の4項目である。 一見、目新しい項目はないが、「グループ会社管理体制の強化」の中で、子会社・孫会社に派遣する社外取締役及び社外監査役について言及している部分は興味深い。 報告書は、彼らが「職責を十分に果たしたとはいい難い」と断じながらも、彼らの本務がタカラトミーの従業員であり、「月に一度の取締役会に出席するのみで、T2Eの業務を継続的に監視・監督することは困難な状況にあった」ことを指摘、「いたずらに、社外取締役及び社外監査役に対して子会社及び孫会社の監視・監督の徹底を求めることは現実的であるとは思われない」ことから、次の3つの方策を提言している。 子会社・孫会社で取締役又は監査役として経験を積ませ、将来の経営幹部に育てるという人事政策を採用している企業は多く存在するが、実際に取締役の業務執行の監視・監督という機能がどこまで発現されているか、評価は難しい。 せっかく取締役又は監査役として派遣するのであるなら、本提言のように、取締役又は監査役としての教育・訓練を受けさせるとともに、本社管理部門においてサポートする体制を整えておかなければ、ただのお飾りとなってしまうのは、本報告書の指摘するとおりであろう。 4 架空循環取引を中止するためには何が必要か 2012年8月の内部監査の時点で、A社との取引について、現物確認やA社・E社に対する照会など、さらに突っ込んだ調査が行われていれば、はるかに軽微な損害で、取引を打ち切ることができたのではないだろうか。 あるいは、前渡金の一部が回収不能になったとしても、A社との取引中止が会社の方針である以上仕方ないと割り切っていれば、2013年3月までの架空売上高は3億円足らずであり、不正関連損失も8,000万円に止まっていた。 T2E担当者は、2013年11月になって初めて前渡金がA社の資金繰りに流用されていることを認識したが、特段の抵抗感や違和感を持たないまま取引を継続している。同氏が、実態を伴っていない取引に関して売上等を計上することが、「会計処理や財務報告上問題のある不適切な行為であるという知識や認識を有していなかった」ということが事実であるとすれば、コンプライアンス教育の不徹底では済まされないのではないだろうか。 循環取引は継続すればするほど取引金額が増大し、破綻した場合の損失が膨らむことは、循環取引に絡む会計不正の調査報告書を読んでいれば理解できるはずなのだが、残念ながら、そうした他社の不正事例を学ぶというカリキュラムは、タカラトミーのコンプライアンス教育にはなかったのかもしれない。 もともとはT2Eの50%を所有し、連結子会社としていたインデックスが、循環取引で売上や利益を水増しした粉飾決算を行っていたとして、証券取引等監視委員会が金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで強制調査を行ったのが、2013年6月12日であった。その後、インデックスは、急激な信用収縮によって自主再建が困難となり、6月27日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請している。 同じ時期、T2E経営陣の方針に反して、A社との取引を継続していたT2E担当者、それを容認していた上司であるメディア本部長は、こうした報道に接して、何も感じるところはなかったのであろうか。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第59回】 ストック・オプション③ 「ストック・オプションの権利放棄」 仰星監査法人 公認会計士 横塚 大介 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 (*1) 新株予約権の金額 4名×50個×120円=24,000円 〈会計処理の解説〉 権利不行使による失効が生じた場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分(24,000円)を、原則として「新株予約権戻入益」等の科目名称を用いて、特別利益として計上します。この会計処理は、当該失効が確定した期に行います(基準9項、47項)。 ここで、過去の費用計上を取り消す処理も考えられますが、ストック・オプションの権利を付与することと引き換えに、従業員等から提供されたサービスが既に消費されている以上、過去による費用の認識は否定されないと考えられます。また、結果として、会社は株式を時価未満で引き渡す義務を免れることになり、従業員等から提供されたサービスを無償で消費したとも考えられます。 以上より、新株予約権が権利行使期間に行使されないことにより純資産が株主との直接的な取引によらず増加していることから、新株予約権を取り崩して戻入益を計上し純資産に算入しています(基準46項)。 * * * 次回は、ストック・オプションの条件変更について解説します。 (了)
最新!《助成金》情報 【第4回】 「雇用関連助成金の活用(その4) 《キャリア形成促進助成金》」 特定社会保険労務士 五十嵐 芳樹 1 キャリア形成促進助成金の目的 キャリア形成促進助成金は、労働者のキャリア形成促進の職業訓練を実施する事業主に対して経費や賃金を助成する制度で、次のA・B訓練の9コース(《中》は中小企業限定(【第1回】「雇用関連助成金の活用(その1)」6 中小事業主の範囲参照))がある。 対象事業主は企業規模とコースごとに確認が必要である。また、知識技能の習得以外の訓練や通常の業活動、法令で実施義務のある訓練等は対象外のため事前確認が必要である。 2 キャリア形成促進助成金の申請の流れ 3 支給額 キャリア形成促進助成金の支給額は次の額となる。 4 成長分野等人材育成コース (1) 目的 この助成金の目的は、次の成長分野での業務を行う雇用保険被保険者のキャリア形成の促進であり、介護職員初任者研修や再生エネルギー事業での技術士講座受講など、これから成長分野事業を予定する事業主とって関連業務の訓練には有効な制度と思われる。 【成長分野等の対象分野】(日本標準産業分類) (2) 訓練の基本要件 5 グローバル人材育成コース (1) 目的 この助成金の目的は、海外での生産、事業展開拠点の管理、市場調査、海外企業との提携・販売契約業務や国際法務などに従事する労働者の育成訓練の実施促進であり、既に海外関連業務を行っている事業主だけでなく、これから海外進出を計画している事業主には特に有効な制度と思われる。 (2) 訓練の基本要件 6 育休中・復職後等能力アップコース (1) 目的 この助成金の目的は、育児休業中の訓練、復職後1年以内の訓練、妊娠・出産・育児による離職後から子が小学校入学までに再就職し3年以内の訓練を促進することで対象者の能力向上と子の養育を支援することであり、育児中や出産を考えてる女性社員が多い事業所では、人材の離職防止と能力向上に特に有効な制度と思われる。 (2) 訓練の基本要件 7 若年人材育成コース(中小企業限定) (1) 目的 この助成金の目的は、若年雇用保険被保険者のキャリア形成訓練の促進であり、未経験者や非正規労働者であった若い人材を採用した事業所にとって、若年者を基幹人材として育成するには特に有効と思われる。 (2) 訓練の基本要件 8 熟練技能育成・継承コース(中小企業限定) (1) 目的 この助成金の目的は、次のような熟練技能者の指導力強化や技能継承のための訓練を促進させ、事業所内で次代を担う人材に技能を継承させることであり、熟練技能者の離職が近づき次世代人材の育成・技能継承が課題となっている事業所では特に有効と思われる。 (2) 訓練の基本要件 9 認定実習併用職業訓練コース(中小企業限定) (1) 目的 この助成金の目的は、次の15歳以上45歳未満の雇用保険被保険者に対して大臣認定を受けた訓練を実施することでキャリア形成を促進させることであり、パートタイマーなどを通常労働者への転換を図りたい事業所では特に有効と思われる。 (2) 訓練の基本要件 10 自発的職業能力開発コース(中小企業限定) (1) 目的 この助成金の目的は、就業規則などに雇用保険被保険者の自発的な職業訓練の経費負担や休暇付与を規定し、それに基づいて経費を負担し休暇を付与した事業主を助成することで被保険者の自発的な職業能力開発を支援することであり、被保険者の自由な発想で意欲的な職業能力開発を期待する事業所にとっては特に有効な制度と思われる。ただし、受講希望の訓練が助成金の対象か否か事前の確認が必要である。 (2) 訓練の基本要件 11 中長期的キャリア形成コース(平成26年10月新設) (1) 目的 この助成金は、次の資格取得や最新実務知識の習得を訓練目標とする大臣指定の講座を受講させる事業主を支援することで、雇用保険被保険者のキャリアを中長期的に形成させることが目的である。業務に不可欠な有資格者の増員や、従業員の最新高度な知識技能の習得を図りたい事業主には特に有効と思われる。 (2) 訓練の基本要件 12 一般型訓練(中小企業限定) (1) 目的 この助成金の目的は、政策課題対応型訓練以外の訓練により雇用保険被保険者の職業能力開発やキャリア形成を促進させることであり、事業所ごと独自に必要な訓練を実施したい事業主には有効な制度と思われる。ただし、職務に直接関連しない訓練やモラ―ル・マナー研修、経営改善、QCサークル等の訓練は対象外のため、訓練実施前に助成金の対象となる訓練であるかどうかの確認が必要である。 (2) 訓練の基本要件 13 東日本大震災復興対策による特例措置 青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、千葉県、新潟県、長野県内の災害救助法が適用された市町村内に所在する事業主(大企業含む)には、「認定実習併用職業訓練」及び「一般型訓練」において特例措置が設けられている。 (了)
第三者行為災害による自動車事故と企業対応策 【第3回】 「事例検討」 社会保険労務士 井下 英誉 はじめに 第3回では、第2回の解説を踏まえて、実際の事故事例を取り上げ、事故処理をする際の判断ポイントや注意点を紹介する。 【事 例】 ある日、Aさんは自転車で税務署に向かいました。無事に用事を終えて会社に戻る途中、上司から携帯に電話がかかって来ました。急用だと思い、自転車を運転しながら携帯で話をしていたところ、一時停止を無視して路地から出てきた初心者マークの車と衝突しました。 Aさんはすぐに救急車で病院に運ばれましたが、足の骨折と全身打撲で14日間の入院を余儀なくされました。 その後、無事に退院しましたが、退院後も20日間の通院を要し、結果的に40日間会社を休むことになりました。 1 前提条件 2 処理の検討 ① 自賠責保険優先で処理した場合 第2回で解説したとおり、自賠責保険の上限は120万円である。 本件を自賠責保険で処理した場合、治療費と休業損害だけで140万円(100万円+40万円)となり上限の120万円を超えるため、結果的に治療費や休業損害ですら満額が支払われないことになる。 では、本件はどのように処理するのが良いのだろうか。 第2回の「3 給付選択の注意点」を思い出してほしい。ここでは、①被災労働者にも過失がある、②相手方が自賠責保険にしか加入していない、③負傷の程度が重い、のいずれかに該当する場合は、労災を優先したほうが被災労働者にとって有利であると述べた。 本件では、被災労働者は携帯電話を使用しながら自転車に乗っていたため過失があると考えられる(①に該当)。また、骨折と全身打撲から考えて負傷の程度が重い(治療が長期化する)と判断できる(③に該当)。 以上のことから、労災保険優先で処理をしたほうが有利であると判断できる。 ② 労災保険優先で処理した場合 本件の処理を労災保険優先で行った場合は、下表のように整理できる。 (※1) 労災保険の休業補償給付は休業開始から3日間は支給されない。また4日目以降についても休業1日につき平均賃金の60%しか支給されないので、差額の40%は自賠責保険に請求する。 労災保険を優先することで自賠責からの支払額は限度額(120万円)を下回り、かつ慰謝料等についても支払いを受けられたことになる。 * * * 次回以降は、Q&Aを用いて第1回から第3回の振り返りとポイント解説を行う。 (了)
〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第1回】 「自社に最適な『会計システム』を選定する手順」 公認会計士 坂尾 栄治 筆者は職業柄、企業の成長や企業統合を機に、会計システムの更改を検討する企業のお手伝いをすることが多い。 では、それらの企業が、自社の業務に合った会計システムを選定するために、どのようなことを行っているのであろうか。 ▼自社が『やりたいこと』を知る▼ システムを選定するためには、「そのシステムで何ができるのか」を知る必要がある。 しかしそれ以前に、「そのシステムに何をさせたいのか」を知ることのほうが、より重要である。 これには「どのような帳票が出力できる必要があるのか」とか、「どのようなシステムと連携させたいのか」等々、さまざまな要求がある。 乱暴な言い方をすれば、「機能が多いシステム=良いシステム」ということになるが、一般的には機能が多い分、価格も高くなる。このため、たとえ機能が多くても、その中の一部しか使わないのであれば、必要最低限の機能が備えられているシステムを選択したほうが経済的である。 また、機能が多いからといって自社の使いたい機能がより多く満たされているとも言いきれず、やはり自社に合ったシステムを選定するべきであり、そのための手続きを行うことが望ましいのは、お分かりいただけると思う。 ▼「やりたいこと」⇒「要求定義書」として文書化▼ 「要求定義」とは、利用者が「システムに何を求めているのか」を明らかにすることである。 つまり、その会計システムで何がしたいのか、何ができないと困るのかといった、システムに求める機能や満たすべき性能を定義することである。 通常は、これらの要求を「要求定義書」として文書化する。 「要求定義書」は、この後に続く会計システムの選定作業のために作成する「RFI」や「RFP」、あるいはその後の「要件定義書」のための基礎資料として使われるのが一般的である。 会計システムに限らず、一般にシステムを選定する上で、事前に要求定義を行い、自社が何をしたいのかを明らかにすることは、自社の業務に合ったシステムを選定する上で大変重要なプロセスである。 ▼ベンダーは絞り込め▼ 要求定義が終わると、いよいよシステムを選定することになるのだが、システムの開発会社(システムベンダー、以下「ベンダー」)へ、やみくもに声をかけデモンストレーションをしてもらうのは効率的ではない。 会計システムのベンダーは非常にたくさんあるため、それらのベンダーに片っ端からデモンストレーションや提案をしてもらっていたら、システムの選定だけで何ヶ月もかかってしまうし、あまりに多数のシステムを比較すると、選定する側が混乱してしまい、正しい評価ができなくなってしまう。 そしてそれ以前に、自社の要求に合っていないシステムのデモンストレーションに時間を割くのは無駄である。 そのため、デモンストレーションや提案を受ける前に、ベンダーを絞り込む作業を行うのが一般的である。 では、どのようにベンダーを絞り込んでいけばよいのであろうか。 ▼「RFI」を使って選定の第一関門に▼ ベンダーの絞込みに加え、有意義なデモンストレーションや提案を受けるための手続きとして、「RFI」や「RFP」を作成し、ベンダーに提示することが多い。 「RFI」とは“Request for Information”(情報提供依頼書)の略で、ベンダーに情報提供を依頼する文書である。「RFI」は後述する「RFP」に先立ってベンダー提示されることがあるが、「RFI」の提示は必ずしも必須の手続きではない。 企業側が、発注を検討しているシステムについての十分な知見や情報を持っていない場合や、取引したことのないベンダーに発注する場合、あるいはシステムの構成や機能などがベンダーのホームページ等の公開情報からは正しく把握できない場合などに発行される。 「RFI」への回答により、必要な情報を入手するのは当然であるが、加えて、おおよそのシステムの適合度やベンダーの力量を判断し、ベンダーを絞り込むための第1のゲートとする場合も多い。 ただし、会計システムの選定に際して、必ずしも「RFI」が作成されるわけではない。「RFI」を作らない場合でも、「要求定義書」にまとめた要求事項と、会計システムのおおよその適合度については、ベンダーのホームページから情報を取ることができるし、それ以外にもインターネットやIT関係の雑誌、データショウなどで情報を収集し判断することができる。 このような情報を元に、選定対象となるベンダーを数社(一般的には3社から5社程度)に絞り込むことができる。 ▼「RFP」を使ってさらなる絞込みを▼ これに対して「RFP」は、会計システムの選定に際し、筆者の知る限りほとんどのケースで作成されている(とはいっても一定規模以上の企業に限定された話であるが)。 「RFP」とは“Request for Proposal”(提案依頼書)の略で、ベンダーに提案を依頼する文書である。 「RFP」は上述した「要求定義書」や「RFI」を元に作成される場合が多く、会計システムに求められる機能やハードウエア、ソフトウエアの概要、依頼事項、保証要件、契約事項などを記述する。 とはいいながらも、実際には各社各様で、パワーポイントで数十枚に及ぶものもあればワードで3枚程度しか記載していないものもある。「RFP」の記載内容が多すぎるとベンダーが全体を把握しきれず、適切な提案をしてくれないことが多くなるが、逆に少なすぎると、本来の要求事項が提案に十分には盛り込まれず、選定後に「こんなはずじゃなかった・・・」といった結果になる場合も多い。 このため、「RFP」は適度なボリュームにすることが重要であり、何より各要求事項の重要度を、この要求は「必須」で、この要求は「nice to have(てきれば尚可)」、といったように判別できるようにしておくのがよいだろう。 「RFP」の発行は、3~5社のベンダーに対して行うのが一般的と思われるが、より多くのベンダーに「RFP」を提示し、デモンストレーションや提案の前に、提案書の提示を求め、その提案書で書類審査をし、デモンストレーションや提案を実施するベンダーを絞り込むといった作業を行う企業もある。 ▼提案・デモに対する評価基準を決めておく▼ 「RFP」を受けて、ベンダーはデモンストレーションや提案を行うことになる。企業側は、ベンダーのデモンストレーションや提案について評価を行い、会計システムを決定することになる。 ここで注意するのは、あらかじめ『評価基準』をちゃんと決めておく必要があるということである(「RFP」作成時には評価基準を決めてあるのが理想的である)。 この評価基準を決めずにデモンストレーションや提案を受けると、デモンストレーションや提案から受けた印象に流されてしまい、適切な評価ができなくなる可能性が高い。つまり、後から提案したベンダーの方が印象が良くなったり、提案の上手いベンダーの評価が高くなったりと、「RFP」の記載項目に対する対応レベルとは異なるところで評価してしまう場合がある。 ▼最適な『会計システム』の選定は時間をかけて▼ このような手続きを経ることで、ようやく自社の業務に合った会計システムを選定することができる。 この手続きには、要求定義の深さや範囲にもよるが、数ヶ月から半年くらいかかるのが一般的である。自社の業務に合った会計システムを選ぶのは、結構大変な作業なのである。 しかし、高いお金をかけて導入するものでもあるし、また導入してから数年、長いときは十数年使い続けるものでもあるので、選定段階における労力については、致し方ないのかもしれない。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第22話】 「相続税の計算、実はややこしいんです」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 相続税の計算のしくみ ~相続税の額が増えてしまう理由とは~ ◆ワンポントアドバイス◆ 相続税の計算のしくみは複雑です。お客様に分かりやすく説明ができるよう簡単な計算例を用意しておきましょう。 また、上記のように死亡保険金により、受取人ではない相続人の納税額が増えることになるため、不満が出ないように他の財産を分けておく等のアドバイスも必要です。 (注) 上記は本稿公開日(平成26年10月16日)現在の法令等によるものです。 (了)
《速報解説》 消費税法施行令の一部改正により税率10%引上げ時の経過措置規定を整備 ~新たにリサイクル料金等に関する経過措置を追加~ アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 平成26年9月30日付け官報号外第216号において、「消費税法施行令の一部を改正する政令」が公布された(改正後の政令は平成27年10月1日施行)。 この改正により、消費税率が5%から8%へ引き上げられた際に設けられた経過措置規定を8%から10%へ引き上げる際にも準用されることとなった。 なお、消費税法附則に規定されている旅客運賃に関する経過措置、工事の請負に関する経過措置、資産の貸付けに関する経過措置などについては、同法附則16条において10%引上げ時の準用規定が設けられているが、施行令附則に規定されている予約販売に関する経過措置(改正施行令附則5条1項)、特定新聞に関する経過措置(同条2項)、通信販売に関する経過措置(同条3項)、有料老人ホームの介護に係る入居一時金に関する経過措置(同条4項)などについては、10%引上げに伴う準用規定がなかったことから、今回の改正により新たに読み替え規定が定められた。 この改正の具体的内容は以下のとおりであるが、いずれの経過措置規定についても10%引上げに係る施行日を「平成27年10月1日」、その指定日を「平成27年4月1日」として規定している。 また今回の改正において、消費税率が5%から8%へ引き上げられた際に規定されていた経過措置以外に新たな経過措置が追加されたが、具体的には、以下のとおりである。 * * * 今回の改正により、消費税率引上げに伴う経過措置規定については、5%から8%へ引き上げられた際に設けられたものを8%から10%へ引き上げられる際にも同様に適用できることが明らかにされたが、今後の消費税実務においては、これらの経過措置規定により5%、8%、10%が適用される取引が混在することから、注意が必要である。 (了)