税務判例を読むための税法の学び方【8】 〔第4章〕条文を読むためのコツ(その1)
行政法規においては、必要な要件は、法文上において、可能な限り、詳細にかつ明確に定めようとする傾向がある。特に国民の権利義務に関係の深い法令にあっては、複数の解釈が生じる余地が多かったり、官庁の恣意的裁量に大きく依存したりするようでは、基本的人権を保障した憲法の要請にもとることになるため、規定は詳細になりがちである。
特に租税法においては、租税法律主義の要請から、原則、課税要件等は法律で定める必要があり、またできるだけ抽象的で曖昧な規定を避け、具体的に詳細に規定する必要があるため、複雑で長文になり、その結果、一読しただけでは、なかなかその意味が分かり難いということになっている。
というのも、複雑多岐にわたる事象に対し様々な場合を想定した上で、それらに適応しうるように規定しなければならず、また、濫用・悪用を防ぐために、詳細な条件等を規定しなければならないからである。
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載15〕 事業承継税制と認定(贈与)承継会社の合併
事業承継税制(措法70の7から70の7の4)は、会社の経営権を委譲するために、現経営者から後継者へ非上場株式を移転したときに課税される贈与税・相続税の納税を猶予する制度である。
事業承継の円滑化に資すること、事業の継続・発展を通じた雇用の確保と地域経済の活力を維持することという政策目的を達成するため、制度適用時以後、納税が免除されるまで、多くの要件が定められている。一つでも要件を満たさなければ納税猶予の期限が確定、つまり納税猶予は打ち切られ、猶予中贈与税額・猶予中相続税額を納税することになる。
認定(贈与)承継会社が消滅することは納税猶予の打切り事由であるが、これには合併による消滅も含まれる。合併により納税猶予が打ち切られれば、認定(贈与)承継会社は合併を躊躇することにもなり、結果的に雇用確保や地域経済の活力維持という目的も達成できなくなることもありえる。
監査基準の改訂・不正リスク対応基準の設定について~平成25年3月26日付 “意見書”のポイント~
平成25年3月26日、企業会計審議会は「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」(以下「意見書」という)を公表した。これにより、平成24年12月21日に、公開草案を公表し、意見募集を行っていたものが確定したことになる。
公開草案では、「監査における不正リスク対応基準(仮称)の設定及び監査基準の改訂について(公開草案)」の表題であったが、意見書では「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」の表題となり、「監査基準の改訂に関する意見書」と「監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」(以下、「監査における不正リスク対応基準」を含め、「不正リスク対応基準」という)から構成されている。
経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第3回】金融商品会計③「割引手形の会計処理」―割引料を売買損益として捉えるか、金利として捉えるか
資金繰りに余裕を持たせるために、保有する手形債権を割引に出して資金調達することを考えています。割引手形の会計処理及びその際に留意すべき点について教えてください。
雇用促進税制・所得拡大促進税制の実務 ~要件・手続の確認から両制度の適用比較まで~ 【第1回】「雇用促進税制の適用要件」
最近の雇用失業情勢を概観すると、新規求人倍率、有効求人倍率、完全失業率などの指標については平成21年度から平成23年度にかけて改善がみられ、平成24年度は比較的安定している状況にあると見受けられる(『最近の雇用失業情勢(平成25年2月分)』東京都労働局)。
雇用対策は経済成長戦略上も重要な課題である。税制上の措置としても、平成23年度税制改正において「雇用促進税制」が創設され、平成25年度税制改正においては「所得拡大促進税制」が創設されたほか、「雇用促進税制」の拡充が図られている。
そこでこの連載では、雇用対策のための2つの税制である「雇用促進税制」及び「所得拡大促進税制」の実務について取り上げることとし、まずは雇用促進税制の概要及び適用要件についての解説を行う。
建物(旧定率法)を合併により受け入れた場合の減価償却
当社(A社:3月決算法人)は、平成25年4月1日にB社を被合併法人とする適格吸収合併を行いました。B社から引き継いだ資産の中には次の建物があり、B社はこの建物を旧定率法により償却計算を行っていました。
当社は、建物の償却方法は定額法を選定していますが、引き継いだ建物の償却計算はどのように行えばよいですか。
小説 『法人課税第三部門にて。』 【第5話】「修正申告の勧奨(その1)」
「そうか・・・修正申告をしないのか・・・」
田村上席調査官は、隣に座っている山口調査官の話を聞きながら、腕を組む。
「非違事項は、交際費と棚卸資産だけなんですが・・・」
山口調査官は困った顔をしている。
山口調査官は、先週から3日間、太田工業の実地調査をした後、「調査結果の内容の説明等」を納税者に行ったのである。
〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制─企業戦略への影響と対策─ 【第6回】「超過利子額の損金算入」
前回までの解説において、「関連者支払利子等の額」「控除対象受取利子等合計額」「関連者純支払利子等の額」「調整所得金額」及び「適用除外」に関して、その意義や算出方法等のポイントを確認してきた。これにより、本制度における「損金不算入額」の計算過程について解説を終えたこととなる。
今回は、本制度のもう一つの特徴である、翌年度以降の「超過利子額(損金不算入額の繰越額)の損金算入」について解説を行う。
租税争訟レポート 【第7回】法定外普通税の規定は地方税法違反で、無効〔納税者勝訴〕 (神奈川県臨時特例企業税通知処分等取消請求事件上告審判決)
本訴訟は、本条例に基づき特例企業税を課された原告(被控訴人、上告人)が、本条例は、法人事業税の課税標準である所得金額の計算上、欠損金額を繰越控除することを定めた地方税法の規定に違反し、違法・無効であると主張して争ったものである。
訴訟では、当事者双方から、行政法、租税法学者を中心とする多数の専門家の意見書が書証として提出され、納税者と神奈川県とのどちらを支持するかで、意見が分かれていた。裁判所の判断も、第一審である横浜地方裁判所は納税者の訴えを認め、東京高等裁判所が神奈川県の主張を認めていた。
本件は、そうした難しい争点に、最高裁判所が判断を示したものである。
法人税の解釈をめぐる論点整理 《寄附金》編 【第2回】
損失については、通常は「任意に」生じるものでないことから、寄附金には該当しない。例えば、貸し付けていた債権が債務者の資力の悪化によって回収不能になった場合には、その損失は「任意に」生じたものではなく、債権放棄をしたとしても、貸倒損失として損金算入が認められる。
これに対して、法人が特段の理由なくして、債権放棄、債務引受などの損失負担をする場合には、その損失は「任意に」生じたものであり、単なる利益の移転行為として寄附金に該当することになる。
このように、債権放棄等には、貸倒損失等として寄附金には該当しない場合と任意の利益移転として寄附金に該当する場合とがあり得ることになる。そこで、それらの区分が問題となる。