各ステップに移動する場合はこちらをクリック
【STEP2】受注制作のソフトウェアの会計処理
受注制作のソフトウェアの制作費は、請負工事の会計処理に準じて会計処理する(研究開発費等に係る会計基準(以下、「基準」という)四1)。
したがって、受注制作のソフトウェア取引は、「工事完成基準」又は「工事進行基準」により売上及び売上原価を計上する。
この際、以下の点について留意が必要である。
【留意点】
① 認識の単位
② 引渡し
③ 買戻し条件付き
④ 分割検収
⑤ 複合取引
⑥ 総額表示
① 認識の単位
受注制作のソフトウェアの制作費は、請負工事の会計処理に準じて会計処理するため、「工事契約に関する会計基準(以下、「工事基準」という)」に従って会計処理する。
工事契約に係る認識の単位は、工事契約において当事者間で合意された実質的な取引の単位に基づく。工事契約に関する契約書は、当事者間で合意された実質的な取引の単位で作成されることが一般的である。ただし、契約書が当事者間で合意された実質的な取引の単位(※)を適切に反映していない場合には、これを反映するように複数の契約書上の取引を結合し、又は契約書上の取引の一部をもって工事契約に係る認識の単位とする必要がある(工事基準7)。
(※) 工事契約の実質的な取引の単位が有する「特徴」は、施工者がその範囲の工事義務を履行することにより、顧客から対価に対する確定的な請求権を獲得すること(既に対価の一部又は全部を受け取っている場合には、その受け取った額について、確定的に保有する権限を獲得すること)である(工事基準43)。
したがって、受注制作のソフトウェア取引は、当事者間において合意された実質的な取引の単位に基づき、売上及び原価を計上する。
② 引渡し
工事完成基準においては、完成し、引渡した日が収益認識時点となるため、いつ、引渡したかは非常に重要である。また、工事進行基準においても収益認識及び原価計上の最終時点がいつかを決める必要があるため、引渡し日は非常に重要である。
受注制作のソフトウェア取引の場合、基本的にオーダーメイドによるものであり、その仕様(スペック)は確定していないため、通常、顧客(ユーザー)の側で契約内容に応じて、成果物がその一定の機能を有することについての確認が行われることにより成果物の提供が完了すると考えられる(実取2(2)②)。
したがって、契約上の取引相手との間で取り決めた成果物の内容(例えば、顧客との間の取引において、単に制作するだけでなく、契約において定められた機能を有する状態にすること)に応じて、一般的には検収等何らかの形でその成果物の提供の完了を確認することにより、収益を認識する(実取2(2)②) 。
③ 買戻し条件付き
買戻し条件が付いている場合や、事後に大きな補修が生じることが明らかであることにより成果物の提供の完了について問題が生じている場合には、収益を認識することはできない(実取2(2)②)。
④ 分割検収
契約が分割された場合においても、一般的には、最終的なプログラムが完成し、その機能が確認されることにより収益を認識する(実取2(3))。
しかし、最終的なプログラムの完成前であっても、例えば、顧客(ユーザー)との取引において、分割された契約の単位(フェーズ)の内容が一定の機能を有する成果物(顧客が使用し得る一定のプログラムや設計書等の関連文書も顧客にとってはそれ自体で使用する価値のあるものと考えられる)の提供であり、かつ、顧客(ユーザー)との間で、納品日、入金条件等について事前の取決めがあり、その上で当該成果物提供の完了が確認され、その見返りとしての対価が成立している場合には、収益認識の考え方に合致しているため、収益認識は可能である(実取2(3))。
したがって、例えば、分割検収において、成果物の提供の完了の確認がなく、単に作業の実施のみに基づく場合や入金条件のみに関連しているだけでは、収益を認識することはできない(実取2(3))。
また、各フェーズ完了後において、売上金額の事後的な修正が行われることがあるため、収益認識にあたっては、各フェーズ完了時の対価の成立、販売代金の回収可能性、返金の可能性等、資金回収のリスクを考慮する必要がある(実取2(3))。
⑤ 複合取引
受注制作のソフトウェアにおける複合取引とは、例えば、システム開発請負契約に期間的なシステム利用や保守サービスに関する契約が含まれている場合(実取3)が挙げられる。
システム開発と期間的なシステム利用・保守サービスの販売時点が異なっているにもかかわらず、一方の財の販売時に、他方の財の収益を同時に認識してしまうと、収益認識時点に関して問題が生じる場合がある(実取3)。
複合取引の場合、収益認識時点が異なる複数の取引が1つの契約とされていても、管理上の適切な区分に基づき、販売する財又は提供するサービスの内容や各々の金額の内訳が顧客(ユーザー)との間で明らかにされている場合、契約上の対価を適切に分解して、機器(ハードウェア)やソフトウェアといった財については各々の成果物の提供が完了した時点で、また、サービスについては提供期間にわたる契約の履行に応じて収益を認識する(実取3)。 一方、顧客(ユーザー)との間で金額の内訳が明らかにされていない場合でも、管理上の適切な区分に基づき契約上の対価を分解して、各々の販売時点において収益認識することができる(実取注9)。
なお、財とサービスの複合取引であっても、一方の取引が他方の主たる取引に付随して提供される場合には、その主たる取引の収益認識時点に一体として会計処理することができる(実取3)。
⑥ 総額表示
複数の企業を介する情報サービス産業におけるソフトウェア関連取引において、委託販売で手数料収入のみを得ることを目的とする取引の代理人のように、仕入及び販売に関して通常負担すべき様々なリスク(瑕疵担保、在庫リスク、信用リスクなど)を負っていない場合、収益の「総額」表示は適切でない(実取4)。このような場合、収益を「純額」で表示する。
例えば、以下のようなソフトウェア関連取引については、販売者は、一般的に、通常負担すべき様々なリスクを負っていることが明らかでないと考えられるため、収益の総額表示を行うためには、当該リスクを負っていることを示すことが必要となる(実取4)。
- 機器(ハードウェア)やパッケージ・ソフトウェアなどの完成度の高いものにソフトウェア開発を行って販売するケースにおいて、ソフトウェア開発の占める割合が小さいなど、付加価値がほとんど加えられていない場合の当該機器(ハードウェア)やパッケージ・ソフトウェアに関する取引
- 受注制作ソフトウェアにおいて、第三者であるパートナー(協力会社)にそのプロジェクト管理のすべてを委託している場合の当該ソフトウェア開発に関する取引
- 機器(ハードウェア)にソフトウェアを組み込んだ製品やパッケージ・ソフトウェアの売手が、製品の仕様(スペック)や対価の決定に関与していない場合の当該機器(ハードウェア)やパッケージ・ソフトウェアに関する取引
この後は、【STEP5】を検討する。