Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)
2018年7月6日に、金融庁・企業会計審議会から「監査基準の改訂に関する意見書」が公表された。そして、2018年11月30日に「「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの結果等について」が公表された。
これらの公表により、「監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters:KAM)」が導入された。KAMとは、「監査の過程で監査役等と協議した事項の中から特に注意を払った事項を決定した上で、その中からさらに、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項」をいう(監査基準 第四 報告基準七 監査上の主要な検討事項)。
今までは、監査報告書の内容はどの企業でも基本的に同じであった。しかし、KAM導入後は、企業によって、KAMは異なるため、監査報告書も企業によって異なる。
1 KAMの決定過程
監査人は、毎期、監査の過程で監査役等と協議する。
そして、その協議した事項から、以下を考慮して、「特に注意を払った事項」を決定する。
(1) 特別な検討を必要とするリスクが識別された事項、又は重要な虚偽表示のリスクが高いと評価された事項
(2) 見積りの不確実性が高いと識別された事項を含め、経営者の重要な判断を伴う事項に対する監査人の判断の程度
(3) 当年度において発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響 等
最後に、「特に注意を払った事項」から当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項(=KAM)を決定する(監査基準の改訂について 二1(2))。
【KAM決定のイメージ図】
2 監査報告書の記載事項
監査人は、KAMについて、監査報告書に「監査上の主要な検討事項」の区分を設け、関連する財務諸表における開示がある場合には当該開示への参照を付した上で、以下を記載する(監査基準の改訂について 二1(3))。
- KAMの内容
- 監査人が、当年度の財務諸表の監査における特に重要な事項であると考え、KAMであると決定した理由
- 監査における監査人の対応
3 KAMと企業による開示との関係
企業に関する情報を開示する責任は経営者にあり、KAMの記載は、経営者による開示を代替するものではない。監査人がKAMを記載するために、企業が未公表の情報を記載する必要があると判断した場合には、経営者に追加の情報開示(注記、有価証券報告書の経理の状況より前での開示、決算短信等での開示)を促すことが考えられる(監査基準の改訂について 二1(5))。
なお、監査人が追加的な情報開示を促した場合において経営者が情報を開示しない場合、監査人が正当な注意を払って職業的専門家としての判断において当該情報を「KAM」に含めることは、監査基準に照らして守秘義務が解除される正当な理由に該当する(監査基準の改訂について 二1(5))。
4 適用対象及び適用時期
(1) 適用対象
当面、金融商品取引法上の監査報告書(年度)に適用される。なお、非上場企業のうち、資本金5億円未満又は売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の企業は除かれる。
(2) 適用時期
2021年3月31日以後に終了する連結会計年度及び事業年度から適用される。ただし、2020年3月31日以後に終了する連結会計年度及び事業年後から早期適用することもできる(「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令及び企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」附則)。
(注) KAMは監査報告書に記載する内容であるため、早期適用するかどうかについて判断するのは、企業ではなく、監査人である。