Ⅸ 仮想通貨の会計処理等
2018年3月14日に実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(以下、「仮想通貨取扱」という)」がASBJより公表された。
仮想通貨取扱は、平成28年に公布された「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第62号)により、「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号)が改正され、仮想通貨が定義された上で、仮想通貨交換業者に対して登録制が導入されたことを受け、仮想通貨の会計処理及び開示に関する当面の取扱いとして、必要最小限の項目について、実務上の取扱いを明らかにすることを目的とするものである(仮想通貨取扱1、2)。
仮想通貨取扱では、仮想通貨交換業者に対する財務諸表監査制度の円滑な運用が契機であったこと、及び、適用範囲を明確にすることから、適用範囲を資金決済法上の仮想通貨としている(仮想通貨取扱3、25)。具体的には、以下を参照されたい。
【資金決済法における仮想通貨の範囲】
(出所:実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」の公表【参考1】【図表1】より)
仮想通貨取扱では、以下の事項が定められている。
1 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理
2 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理
3 開示
4 適用時期
1 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理
仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理では、以下の論点がある。
(1) 期末における仮想通貨の評価に関する会計処理
(2) 活発な市場が存在する仮想通貨の市場価格
(3) 仮想通貨の取引に係る活発な市場の判断の変更時の取扱い
(4) 仮想通貨の売却損益の認識時点
(1) 期末における仮想通貨の評価に関する会計処理
仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、期末において保有する仮想通貨(仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨を除く。以下同じ)について、以下のように評価する(仮想通貨取扱5~7)。
(※) 市場価格については、下記(2)参照。
ここで、活発な市場が存在する場合(以下、(2)参照)とは、仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者の保有する仮想通貨について、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合をいう(仮想通貨取扱8)。
(2) 活発な市場が存在する仮想通貨の市場価格
仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、保有している活発な市場が存在する仮想通貨の期末評価において、市場価格として仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所で取引されている仮想通貨の取引価格を用いるときは、保有する仮想通貨の種類ごとに、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格(取引価格がない場合には、仮想通貨取引所の気配値又は仮想通貨販売所が提示する価格)を用いる。
なお、期末評価に用いる市場価格には、取得又は売却に要する付随費用は含めない(仮想通貨取扱9)。
仮想通貨交換業者において、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所が自己の運営する仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所である場合、当該仮想通貨交換業者は、自己の運営する仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格等(取引価格、仮想通貨取引所の気配値及び仮想通貨販売所が提示する価格をいう)が「公正な評価額」を示している市場価格であるときに限り、時価として期末評価に用いることができる(仮想通貨取扱10)。
(3) 仮想通貨の取引に係る活発な市場の判断の変更時の取扱い
仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨について、活発な市場の判断の変更があった場合、以下のように取り扱う(仮想通貨取扱11、12)。
① 活発な市場が存在する仮想通貨が、その後、活発な市場が存在しない仮想通貨となった場合
活発な市場が存在する仮想通貨が、その後、活発な市場が存在しない仮想通貨となった場合、活発な市場が存在しない仮想通貨となる前に最後に観察された市場価格に基づく価額をもって取得原価とし、評価差額は当期の損益として処理する。活発な市場が存在しない仮想通貨となった後の期末評価は、上記1(1)(B)に基づいて行う。
② 活発な市場が存在しない仮想通貨が、その後、活発な市場が存在する仮想通貨となった場合
活発な市場が存在しない仮想通貨が、その後、活発な市場が存在する仮想通貨となった場合、その後の期末評価は、上記1(1)(A)に基づいて行う。
(4) 仮想通貨の売却損益の認識時点
仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、仮想通貨の売却損益を当該仮想通貨の売買の合意が成立した時点において認識する(仮想通貨取扱13)。
2 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理
仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨は以下のように会計処理を行う(仮想通貨取扱14、15)。
3 開示
(1) 表示
仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が仮想通貨の売却取引を行う場合、当該仮想通貨の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示する(仮想通貨取扱16)。
(2) 注記
仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨、及び仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨について、以下の事項を注記する(仮想通貨取扱17)。
注記事項
① 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
② 仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
③ 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の別に、仮想通貨の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額。ただし、貸借対照表価額が僅少な仮想通貨については、貸借対照表価額を集約して記載することができる。
(注) (連結)計算書類では、上記注記は必ずしも求められていない。
ただし、以下の場合は注記を省略することができる。
◆仮想通貨交換業者の期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額及び預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額を合算した額が資産総額と比べて重要でない場合
◆仮想通貨利用者の期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額が資産総額と比べて重要でない場合
4 適用時期
2018年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する(仮想通貨取扱18、64)。
また、2016年の資金決済法の改正に伴って、仮想通貨交換業者に対する登録制の導入及び2017年4月1日の属する事業年度の翌事業年度からの仮想通貨交換業者に対する財務諸表監査制度の実際の運用が既に開始され、仮想通貨取扱を速やかに適用することへのニーズが想定されることから、仮想通貨取扱を公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から早期適用することもできる(仮想通貨取扱18、64)。
(了)
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