Ⅺ その他留意事項及び参考情報
ここまで解説した以外に、2021年3月期の決算において留意すべき事項及び参考情報として以下が挙げられる。
1 大法人の電子申告義務化
2 欠損金の繰戻しによる還付
3 事業報告及び計算書類の参考情報
・「会社法改正に伴う各種モデルおよび事務取扱指針の改正について」(株懇WEB)
・「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(経団連)
4 招集通知の参考情報
・「新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた定時株主総会の臨時的な招集通知モデル」(経団連)
5 日本監査役協会の公表資料
・「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・統合版」
・「改正会社法及び改正法務省令に対する監査役等の実務対応」
・「監査上の主要な検討事項(KAM)及びコロナ禍における実務の変化等を踏まえた監査役等の監査報告の記載について」
6 株主総会の参考情報
・「株主総会運営に係るQ&A」(経済産業省)
・「株主総会(オンラインでの開催等)、企業決算・監査等の対応」(経済産業省)
・「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」(経済産業省)
・「「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」の閣議決定」(経済産業省)
・「定時株主総会の開催について」(法務省)
7 有価証券報告書の提出期限延長
・「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」(金融庁)
8 有価証券報告書の開示情報
・「企業情報の開示に関する情報(記述情報の充実)」(金融庁)
9 新型コロナウイルス感染症関連の税務の参考情報
・「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」(国税庁)
10 株式交付制度
11 株主総会資料の電子提供制度
1 大法人の電子申告義務化
平成30年度の税制改正において、大法人(資本金1億円超の普通法人等)について2020年4月1日以後開始する事業年度から電子申告が義務化された。
そのため、対応が未了である会社は、準備を急ぐ必要がある。
2 欠損金の繰戻しによる還付
(1) 制度の概要
① 従来
中小企業者等(※1)は、欠損金が生じた場合、翌事業年度以降に繰り越すこともできるが、確定申告書を提出する事業年度において生じた欠損金がある場合には、法人税(地方法人税を含む)について、前期に繰り戻して還付請求できる。つまり、当期の欠損金を前期の課税所得と相殺して、前期に支払った法人税の還付を受けることができる。この場合、前期の課税所得が限度となる。また、「当期の欠損金(△5,000)>前期の課税所得(3,000)」の場合、差額の△2,000については、翌期に繰り越すことができる。
(※1) 中小企業者等とは、資本金の額又は出資金の額が1億円以下の普通法人等で、以下の法人に該当するものを除いたものをいう。
➤資本金の額又は出資金の額5億円以上等の大法人との間に完全支配関係がある普通法人
➤100%グループ内の複数の大法人に発行済株式又は出資の全部を直接又は間接に保有されている法人など
なお、地方税(事業税及び住民税)は対象外であるため、法人税について還付を受けた場合でも、事業税及び住民税については、その事業年度で生じた欠損金について翌期以降に繰り越す。
② 新型コロナ税特法の特例
従来、上記①の制度は、中小企業者等のみで利用可能であったが、新型コロナ税特法の特例により、資本金の額が1億円超10億円以下の法人(※2)、についても、2020年2月1日から2022年1月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額については、繰戻し還付の制度を適用することができる。
(※2) ただし、大規模法人(資本金の額又は出資金の額が10億円を超える法人等)の100%子会社及び 100%グループ内の複数の大規模法人に発行済株式の全部を直接又は間接に保有されている法人等は除く。
(2) 税効果会計
欠損金の繰戻し還付は、法人税のみに認められているが、事業税及び住民税については、認められていない。そのため、税金ごとに税効果会計の取扱いが異なることになると考えられる。
法人税
法人税について繰戻し還付を利用した場合には、翌期以降の税金の減額効果はなくなるため、繰戻し還付に充てた当期発生の欠損金については、繰延税金資産を計上することはできない。
事業税
事業税については、当期発生の欠損金を翌期以降に繰り越すため、当該欠損金について当期末に繰延税金資産の回収可能性を検討する。
なお、法人税については、当該欠損金の税効果の計算にあたって除外するため、法定実効税率は、全体の法定実効税率ではなく、事業税部分の法定実効税率(【第1回】1「設例①、②」参照)を使用することになると考えられる。
住民税
住民税は法人税を基礎として計算されるため、欠損金の繰戻し還付により還付される法人税額は、住民税の欠損金(控除対象還付法人税額)として翌期以降に繰り越される。そして、当該欠損金について、当期末に繰延税金資産の回収可能性を検討する。
なお、法人税については、当該欠損金の税効果の計算にあたって除外するため、法定実効税率は、全体の法定実効税率ではなく、住民税部分の法定実効税率を使用することになると考えられる。住民税部分の法定実効税率は、「住民税率÷(1+事業税率)」で計算する(東京都外形標準課税適用法人は10.02%、東京都外形標準課税不適用法人9.45%)。
3 事業報告及び計算書類の参考情報
2019年12月の会社法改正に伴い、会社法施行規則及び会社計算規則が改正されていることから、2021年1月22日に株懇WEBより、「会社法改正に伴う各種モデルの改正」が公表されている。また、2021年3月9日に経団連より「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」の改訂版が公表されている。
事業報告及び計算書類等を作成する上で、有用な情報のため、適宜参考にしていただきたい。
4 招集通知の参考情報
新型コロナウイルス感染症の影響下での株主総会の開催に役立てるために、2020年4月28日に経団連より「新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた定時株主総会の臨時的な招集通知モデル」が公表されている。
【参考】 日本経済団体連合会ホームページ
現時点でも新型コロナウイルス感染症の影響は大きいため、招集通知の作成にあたって、参考になると考えられる。
5 日本監査役協会の公表資料
日本監査役協会より、以下の資料が公表されている。
【参考】 日本監査役協会ホームページ
・「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・統合版」(2020年6月8日)
・「改正会社法及び改正法務省令に対する監査役等の実務対応」(2021年2月26日)
・「監査上の主要な検討事項(KAM)及びコロナ禍における実務の変化等を踏まえた監査役等の監査報告の記載について」(2021年2月26日)
KAMに関する情報及び監査役等の対応、改正会社法における監査役等の対応についてまとめられているため、監査役等の実務において参考になる情報である。
6 株主総会の参考情報
経済産業省及び法務省より以下の株主総会に関する情報が公表されている。
【参考】
〔経済産業省ホームページ〕
・「株主総会運営に係るQ&A」(2020年4月28日最終更新)
・「株主総会(オンラインでの開催等)、企業決算・監査等の対応」
・「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」(2021年2月3日)
・「「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」が閣議決定されました」(2021年2月5日)
〔法務省ホームページ〕
・「定時株主総会の開催について」(2021年1月29日更新)
現時点でも新型コロナウイルス感染症の影響は大きいため、株主総会の開催にあたって、参考になると考えられる。
7 有価証券報告書の提出期限延長
2021年1月8日に金融庁より、新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、やむを得ない理由により期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認により有価証券報告書・内部統制報告書・四半期報告書、半期報告書の提出期限が延長できる旨が公表された。
また、臨時報告書についても、新型コロナウイルス感染症の影響により臨時報告書の作成自体が行えない場合には、そのような事情が解消した後、可及的速やかに提出することで、遅滞なく提出したものと取り扱われる。
8 有価証券報告書の開示情報
金融庁のホームページにおいて、有価証券報告書の記載の充実に関する情報が紹介されている。
有価証券報告書の作成の際に参考となる情報が多くあるため、有価証券報告書の作成にあたって、参考にしていただきたい。
9 新型コロナウイルス感染症関連の税務の参考情報
国税庁より「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ(2021年3月5日更新)」が公表されている。
当該FAQは申告や納税に関する取扱いが記載されているため、税務を検討する際や申告書を提出する際に役立つものである。
10 株式交付制度
(1) 制度の概要
改正前の会社法では、自社の株式を対価として他の会社を子会社とする手段として株式交換の制度があったが、完全子会社とする場合でなければ利用することができなかった。一方、自社の新株発行等と他の会社の株式の現物出資を行う場合には、手続が複雑でコストが掛かるという指摘がされていた。そのため、改正会社法により、完全子会社とすることを予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる「株式交付制度」が新たに創設された。
(出所:法務省「会社法の一部を改正する法律の概要」)
(2) 会計処理
株式交付制度が創設されたが、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」は改正されていない。
株式交付制度は、株式交換と同じような仕組みであるため、株式交換に準じた会計処理を行うことが考えらえる。
(3) 後発事象注記
株式交付制度を利用するためには、株主総会の決議が必要である。そして、改正会社法は、2021年3月1日施行であることから、2021年3月31日までに当該制度が利用されることは稀であると考えられる。
ただし、2021年3月期の定時株主総会で決議する場合には、重要な後発事象の注記が必要ないかどうか検討する必要がある。
11 株主総会資料の電子提供制度
改正前の会社法では、インターネット等を用いて株主総会資料を株主に提供するためには、株主の個別の承諾が必要であり、株主総会資料の電子提供はあまり進んでいなかった。そのため、改正会社法では、以下の改正が行われた。
株主総会資料をウェブサイトに掲載し、株主に対してそのアドレス等を書面で通知する方法により、株主総会資料を株主に提供することができる制度を創設(なお、書面での資料提供を希望する株主は、書面の交付を請求することができる)。
(出所:法務省「会社法の一部を改正する法律の概要」)
なお、当該改正は、改正会社法の公布の日(2019年12月11日)から起算して3年6ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される。