谷口教授と学ぶ
税法の基礎理論
【第42回】
「租税法律主義と実質主義との相克」
-税法の目的論的解釈の過形成⑥【補論】-
大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫
Ⅰ はじめに
前回まで22回にわたって「租税法律主義と租税回避との相克と調和」という主題の下、租税回避について様々な観点から検討してきたが、その検討は前回でひとまず擱くこととして、次回からは租税法律主義それ自体の意義、内容等について改めて検討することにしたい。その前に、今回は、第15回の「租税法律主義と実質主義との相克-税法の目的論的解釈の過形成⑥」についてその「補論」として最近の判例を基に改めて検討しておくことにする。
第15回では、法人税法22条4項の規定が採用する企業会計への委任立法の形式が、少なくとも結果的には、税法の目的論的解釈の「過形成」を助長してきたことを明らかにしたが、その背景には、近時ビックカメラ事件等の下級審において裁判所が公正処理基準の法的意義に関して明示的に採用するようになってきた「法人税法独自(固有)観点説」ともいうべき考え方がある旨の理解を述べた。
その際、法人税法独自(固有)観点説は、ビックカメラ事件・東京地判平成25年2月25日訟月60巻5号1103頁が判示するように(控訴審・東京高判平成25年7月19日訟月60巻5号1089頁も同旨)、法人税法1条を参照して同法の目的を「適正な課税及び納税義務の履行の確保」として捉えた上で、「[この目的を有する同法の]公平な所得計算という要請とは別の観点に立って定められた」会計基準を、公正処理基準から除外する、換言すれば、企業会計の観点から定められた会計処理基準のうち、「適正な課税及び納税義務の履行の確保」を目的とする法人税法独自(固有)の観点に適合しないものを、公正処理基準から除外する、という意味・機能を有する旨の理解を述べたところである。
法人税法独自(固有)観点説は、旧武富士事件・東京地判平成25年10月30日訟月60巻12号2668頁及び控訴審・東京高判平成26年4月23日訟月60巻12号2655頁でも採用されたものと解されるが(佐藤英明・判例評論672号(2015年)8頁、9頁参照)、その後、同事件と同様の問題(過年度に収受した制限超過利息の返還に伴う更正の請求の要件該当性)が争われたクラヴィス事件において裁判所の判断に興味深い展開がみられた。
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