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〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第4話】「所得控除の見直し」

筆者:八ッ尾 順一

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〈小説〉

所得課税第三部門にて。』

【第4話】

「所得控除の見直し」

公認会計士・税理士 八ッ尾 順一

 

「サラリーマンにとっては増税だな・・・」
中尾統括官は、昼休みに、新聞を机の上に広げながらつぶやく。

「どうしたのですか?」
近くにいた浅田調査官が新聞を覗きながら尋ねる。

「これだよ・・・平成30年度税制改正の焦点は、所得税改革・・・」
中尾統括官は、平成30年度税制改正大綱について書かれた新聞の見出しを読む。

「給与所得控除は一律10万円減額と書かれていますが・・・これって、私も対象になるのですか?」
浅田調査官が尋ねる。

「もちろん、君も含めて、給与所得者は全員だ。」
中尾統括官の語気は荒い。

「ただし、基礎控除が一律10万円引き上げられて、合計所得が2,400万円を超えると段階的に縮減される形になるから、結局、君はプラスマイナスゼロということで、改正の影響はない。」
浅田調査官は頷く。

「・・・まだ、現時点で法案は成立していないから何とも言えないが・・・平成30年度税制改正大綱では、給与所得者に対して、給与収入850万円を超える会社員の給与所得控除を195万円で頭打ちにすると・・・書かれている・・・」
浅田調査官は新聞記事を目でたどる。

「・・・統括官の年収はもちろん850万円を超えているでしょうからから・・・増税になるということですか?」
中尾統括官は黙って頷く。

「・・・新聞によると、年収850万円を超えるサラリーマンは全体の5%弱と書かれていますから・・・中尾統括官は高額所得者なのですね。」
浅田調査官は嬉しそうに言う。

「そんなことはないよ。」
中尾統括官はキッパリと否定する。

「・・・ところで、給与所得控除については、平成26年度税制改正で上限の引下げが行われたばかりなのに、また引下げをするのですね。」
浅田調査官は、平成26年度改正のパンフレットを見る。

	平成25~27年分	平成28年分	平成29年分以降 給与収入(上限額適用)	1,500万円	1,200万円	1,000万円 給与所得控除(上限額)	  245万円	  230万円	  220万円

「そして今回は、給与収入850万円超のサラリーマンは、給与所得控除額195万円で頭打ち・・・」
浅田調査官の言葉に、中尾統括官は頷く。

「同時に、公的年金等控除も見直しされる予定だ・・・」
中尾統括官は2年後の自分の退職のことを考える。

「・・・大綱によれば、年金1,000万円で控除に上限を設け、年金以外の所得が1,000万円超で控除10万円減になり、2,000万円超で20万円減になる・・・と書かれている。」
そう言いながら、中尾統括官は、現在の公的年金等控除額の表を見る。

年齢区分	公的年金等の収入金額(A)	公的年金等控除額 65歳以上	 330万円以下  330万円超 410万円以下 410万円超 770万円以下 770万円超	120万円 A×25%+ 37.5万円 A×15%+ 78.5万円 A× 5%+155.5万円 65歳未満	130万円以下  130万円超 410万円以下 410万円超 770万円以下 770万円超	70万円 A×25%+ 37.5万円 A×15%+ 78.5万円 A× 5%+155.5万円

「・・・年金課税については、社会保険料拠出を全額所得控除する一方で、給付についても公的年金等控除などによって、実質的に年金が非課税になっているとの問題点が指摘されているんだ・・・」
中尾統括官が言う。

「国民年金などは、企業年金と違って給付される金額そのものが小さいから、ほとんどが公的年金等控除額の範囲内になって課税されていない・・・」
浅田調査官は付け加える。

「しかし、どうしてサラリーマンばかりを狙って増税を繰り返すのでしょうか・・・あまり重税になると、勤労意欲が失われると思うのですが・・・」
浅田調査官は腕を組みながら不満を言う。

「私もまったく同感だよ・・・クロヨンという言葉があるように、給与所得の捕捉率は、他の事業所得や農業所得と異なって、90%と非常に高い。だから、サラリーマンは所得をごまかせない・・・もっとも、税務職員がそんなことを言うのも変な話だけどね・・・」
中尾統括官は苦笑する。

「しかし、サラリーマンを大切にしなければ・・・そのうち、サラリーマンの暴動が起きますよ。」
浅田調査官は真剣に言う。

「・・・とりあえず、今後、納税者からの質問に答えるためにも、君も税制改正については十分に勉強しておく必要があるね。」
中尾統括官は浅田調査官の顔を見る。

「そうですね、税務調査に行くと、調査中に、納税者から、新聞で書かれている税制改正の内容について質問を受けることが多いですから、勉強する必要があると思います。」
浅田調査官は、大きく頷く。

(つづく)

この物語はフィクションであり、登場する人物や団体等は、実在のものとは一切関係ありません。

「〈小説〉『所得課税第三部門にて。』」は、不定期の掲載となります。

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