相続税の実務問答 【第65回】 「中小企業倒産防止共済契約の解約手当金(返戻金)に対する課税関係」 税理士 梶野 研二 [答] 中小企業倒産防止共済の契約者であったお父様の死亡により、この共済契約は解約したものとみなされ、解約手当金が支払われることとなりますが、この金額は、お父様の所得税の準確定申告において事業所得の収入金額に算入することになります。 また、相続税の計算においては、解約手当金の支給を受ける権利が本来の相続財産として相続税の課税対象となります。なお、相続税の課税価格の計算上、お父様の準確定申告により納付する所得税額は債務として控除することとなります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 中小企業倒産防止共済契約 (1) 中小企業倒産防止共済制度の概要 一般に「経営セーフティ共済」といわれている中小企業倒産防止共済は、取引先事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐため、中小企業倒産防止共済法に基づき国が全額出資する独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する共済制度です。 この共済に加入することができるのは、継続して1年以上事業を行っており、「資本金の額又は出資の総額」及び「常時使用する従業員数」が一定の基準を満たす中小企業者(会社及び個人事業者)及び企業組合や協業組合等の組合です。加入者の取引先事業者が倒産(※1)したことにより売掛金債権等の回収が困難となった場合に、加入者は、無担保・保証人なしで掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで共済金の借入れを受けることができます。 (※1) 倒産とは、取引先事業者に、法的整理、取引停止処分、でんさいネットの取引停止処分、私的整理、災害による不渡り、災害によるでんさいの支払不能、特定非常災害による支払不能のいずれかの事態が生じることをいいます。いわゆる「夜逃げ」は該当しません。 (2) 中小企業倒産防止共済契約が解約された場合 中小企業倒産防止共済契約が解約された場合には、解約手当金(以下「返戻金」といいます)を受け取ることができます。自己都合による解約であっても、掛金を12ヶ月以上納めていれば掛金総額の8割以上が返戻金として戻り、掛金を40ヶ月以上納めていれば、その全額が戻ります(掛金を納めていた期間が12ヶ月未満の場合には、掛捨てとなります)。中小企業倒産防止共済の加入者である個人事業主が死亡した場合には、その時点で共済契約は解約されたものとみなされます(共済法7④)ので、その者が掛金を12ヶ月以上納付していたときには、返戻金が支給されることとなります。 なお、個人事業主が死亡したときに、事業を引き継ぐ相手に共済契約者の地位を引き継ぐこともできます(共済法12)。 中小企業倒産防止共済制度の詳細につきましては、独立行政法人中小企業基盤整備機構のホームページをご確認ください。 2 中小企業倒産防止共済契約に係る課税上の取扱い (1) 掛金の支払時 一般的に、中小企業倒産防止共済契約など長期間にわたり使用・運用される共済契約に係る掛金納付額は、所得税及び法人税の課税上、その支出した日の属する年分又は事業年度分の必要経費又は損金の額に算入することはできません。しかしながら、租税特別措置法第28条第1項又は同法第66条の11第1項の規定を適用することにより、個人又は法人がそれぞれ各年又は各事業年度において支出した中小企業倒産防止共済契約に係る掛金納付額を、それぞれその支出した日の属する年分の事業所得又は支出した日の属する事業年度の所得の金額の計算において必要経費又は損金に計上することができます(以下、この特例を「倒産防止共済特例」といいます)。 なお、この倒産防止共済特例を適用するためには、確定申告書等に必要経費計上又は損金算入に関する明細書の添付が必要となります(措法28②、66の11②)。 (2) 共済契約解約時 共済契約を解約した場合には、解約者に対して返戻金が支給されることとなっています。そして、加入者が倒産防止共済特例を適用した場合には、この返戻金の額を事業所得の総収入金額又は益金の額に算入することが必要となります。 (3) 共済契約者が死亡した場合 倒産防止共済特例を適用していた倒産防止共済契約の契約者が死亡し、共済契約を解約したものとみなされたときには、上記(2)により、所得税の準確定申告において、返戻金の額を事業所得の総収入金額に含める必要があります。そして、相続税の計算においては、契約者が、倒産防止共済特例を適用していたかどうかにかかわらず、返戻金の支給を受ける権利(解約手当金請求権)を相続財産に含めることとなります。なお、被相続人の準確定申告に係る所得税額は債務として相続財産の価額から控除することとなります。 また、倒産防止共済契約の契約者の死亡による共済契約の承継が行われた場合には、みなし解約の場合に支給される返戻金相当額が相続税の課税対象となります。 (注) 相続財産である非上場会社の株式を純資産価額方式で評価する場合において、評価会社が倒産防止共済に加入しているときには、課税時期に同契約を解約した場合に支給される返戻金相当額を資産に計上する必要があります。評価対象株式の発行法人が倒産防止共済特例を適用している場合には、計上漏れが生じるおそれがありますので、注意が必要です。 3 会計検査院の指摘 会計検査院が、倒産防止共済特例の適用に関して実地検査を行い、所得税における返戻金額の収入計上の有無等を確認したところ、相当数の任意解約者の返戻金額の収入計上が適切に行われていないなどの疑義が認められる状況となっていたなどとして、会計検査院法第36条の規定に基づき、令和3年10月11日付文書にて、国税庁長官に対して、所得税の申告における倒産防止共済特例の適用に伴う返戻金額の収入計上に係る審査体制の整備等についての改善の処置を要求しました(※2)。 (※2) 会計検査院法第36条の規定による処置要求の内容については、会計検査院のホームページをご確認ください。 会計検査院の指摘は、所得税に対するものですが、今後、相続税の課税においても、倒産防止共済契約について適正な申告がされているかどうかの確認が厳格に行われるものと考えられます。 4 ご質問の場合 お父様の死亡により、お父様の加入していた倒産防止共済は、解約されたものとみなされますので、返戻金をお父様の所得税の準確定申告書において申告するとともに、相続税の申告においては、当該金額相当額を返戻金の支給を受ける権利として申告する必要があります。ただし、準確定申告書により納付すべき所得税(復興特別所得税を含みます)の額は、債務控除の対象になります。 なお、あなたがお父様の事業を継続し、倒産防止共済契約を承継した場合には、お父様が亡くなられた時に共済契約が解約されたとした場合に支給される返戻金相当額が相続税の課税対象となります。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第12回】 「事業の全部を転業した場合の特定事業用宅地等の特例の適用の可否」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人は中華料理屋の飲食店を営んでいましたが、その事業の用に供していたA宅地及び建物(いずれも被相続人が100%所有)を相続により長男である甲が取得しました。また、被相続人と生計を一にしていた二男乙はそば屋を営んでおり、その事業の用に供していたB宅地及び建物(いずれも被相続人が100%所有)を相続により乙が取得しました。 相続後のA宅地及びB宅地の利用状況がそれぞれ次の通りであった場合には、小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例の適用を受けることはできますか。 [A] A宅地については、小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることはできませんが、B宅地については、他の要件を満たせば、特例を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定事業用宅地等の事業継続要件 特定事業用宅地等の要件として、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業(貸付事業を除く、以下同じ)の⽤に供されていた宅地等を相続又は遺贈により取得した被相続人の親族が次に掲げる場合の区分に応じていずれかを満たす必要があります(措法69の4③一)。 なお、特定事業用宅地等の意義については、【第11回】で解説しています。 2 A宅地の事業継続要件の判断 A宅地については、1の①被相続人の事業を承継した場合の宅地に該当しますので、宅地等を取得した親族が被相続人の事業を引き継ぎ、かつ、申告期限までその事業を営んでいることが要件とされています。本問の場合には、被相続人の事業を申告期限まで営んでいませんので、特例の適用を受けることはできません。 なお、被相続人の事業(中華料理屋)が飲食店業であり、甲の事業(喫茶店業)も飲食店業であることから事業の同一性が全くないわけではありませんが、下記の日本標準産業分類(平成25年10月改定・平成26年4月1日施行)の小分類では、中華料理店が小分類番号762の専門料理店であるのに対して、喫茶店は小分類番号767の喫茶店であるため、小分類が異なっています。 (※) 総務省ホームページ「日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)」より一部抜粋、赤文字加工は筆者による。 事業の同一性の判断については、明確な基準があるわけではありませんが、1つの判断基準として日本標準産業分類の小分類が参考となります。もっとも、被相続人の事業と転業する事業との関連性や営業許可基準が同一であるか否かによっても判断が分かれることもありますので、あくまでも日本標準産業分類の小分類も含めて総合勘案して判断する必要があります。 3 B宅地の事業継続要件の判断 B宅地については、1の②生計一親族の事業を継続した場合の宅地に該当しますので、宅地等を取得した親族が相続開始前から申告期限まで引き続き、自己の事業の用に供していることが要件とされています。 被相続人の相続開始前と開始後で事業の同一性は要件となっていませんので、本問のようにそば屋(小分類番号763)と喫茶店(小分類番号767)で事業の同一性が認められないような場合であっても、それぞれの事業について生計一親族が事業主として事業を営んでいれば、生計一親族の事業継続要件は満たされることになります。 被相続人の事業を承継した場合は、相続開始前の被相続人の事業を継続する必要がありますが、生計一親族の事業を継続した場合は、相続開始前の生計一親族の事業の継続要件はありませんので、その違いに注意する必要があります。 ★実務上のポイント★ 被相続人の事業と生計一親族の事業では事業継続の要件が異なりますので、それぞれの要件を確認して判定することが重要となります。また、事業の同一性については、日本標準産業分類の小分類等を総合勘案して判断することになります。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第32回】 「役員及び役員給与と関連する周辺論点」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ 以下、考えられる周辺論点をサマリーする。 (1) 役員給与や役員退職給与を支給することが影響する論点 ① 海外から招聘した役員のグロスアップ計算 海外から役員や従業員として人材を受け入れる場合、当事者から希望する手取り額の保証を求められることがある。この場合、対象者と合意した手取り額から日本における社会保険料・所得税等を控除する前の額面支給額をグロスアップ計算する必要がある。 ここで、対象者を役員として受け入れる場合は定期同額給与該当性について疑念が生じるが、平成29年度税制改正により緩和され、手取り額ベースでの定期同額給与への該当性判断が可能であると明らかにされた(法令69②)。 ② 海外出向役員に対する源泉徴収の必要性 内国法人に勤務する従業員が1年以上の予定で海外に出向し、引き続き内国法人から給与支給を受ける場合、当該従業員は所得税法上の非居住者となるため(所法3②、7、161他)、支給を続けた場合に源泉徴収の必要はない。しかし、役員が海外へ出向し、内国法人の役員として報酬の支給を受けた場合には国内源泉所得に該当するため、20.42%の税率で源泉徴収が必要となる(所法212、所令285他)。 これに対し、その役員が海外支店の使用人としての立場で常時海外において勤務している場合には、源泉徴収の必要はない(国税庁タックスアンサー「No.2517 海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収」)。 ③ 消費税における納税義務判定 消費税の納税義務判定の1つに、特定期間における課税売上高による判定がある(消法9の2)。当該規定は、法人であればその事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合に納税義務を負うものであるが、当該課税売上高は特定期間中に支払った給与等の金額に代えることができると定められている(消法9の2③)。 ここで、給与等の範囲は、所得税の課税対象とされる給与、賞与等が該当し、所得税が非課税とされる通勤手当、旅費等は該当せず、未払額も含まれないとされている(消基通1-5-23)。したがって、1人役員の法人等は、事前確定届出給与制度の適用を受けることで、特定期間における納税義務の判定に係る納税義務のコントロールが事実上可能であると考えられる。 もっとも、特定期間に関する判定は、多々ある消費税の納税義務に関する規定の1つに過ぎないため、当然ながら他の諸規定にも留意する必要がある。 ④ 社会保険料と事前確定届出給与制度の関係 社会保険料と事前確定届出給与制度の関係については、既に本連載で触れているため、詳細は【第7回】参照のこと。 ⑤ 事業税における外形標準課税への影響 資本金額が1億円超の法人は、法人事業税について外形標準課税制度の適用となり、付加価値割と資本割を考慮しなければならない(地法72の2①一イ)。 このうち、付加価値割においては報酬給与額として役員に対する給与も加味する必要があるが、損金不算入となる役員給与は報酬給与額の対象とならない(地法72の15①)。 ⑥ 株価評価額への影響 役員退職給与が税務調査等により損金不算入とされた場合、株価評価額へも影響する可能性がある。この点については当連載で既に触れているため、詳細は【第25回】参照のこと。 ⑦ 第二次納税義務との関係 役員退職給与の支給を受けた取締役は、第二次納税義務を賦課される可能性もある。この点についても当連載で既に触れているため、詳細は【第28回】参照のこと。 (2) 役員の存在自体が影響する論点 ① 完全支配関係判定の5%ルール 完全支配関係の判定上用いられる、一定の従業員持株会の株式保有割合が5%未満である場合にはその5%未満の株式を発行済株式から除く、いわゆる5%ルールには、使用人兼務役員は含まれないという論点がある(法基通1-3の2-4)。 ② 合併の適格性判断における特定役員引継要件 資本関係のない法人間で行う合併に係る適格性判断の基準として、共同事業要件が設けられている(法法2十二の八ハ、法令4の3④)。このうち、特定役員引継要件は、合併前の被合併法人の特定役員(※1)のいずれかと合併法人の特定役員のいずれかとが、合併後に合併法人の特定役員となることが見込まれていることが必要とされている(法令4の3④二)。 (※1) 社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事しているものをいう。なお、「これらに準ずる者」とは、社長等と同様に法人の経営の中枢に参画している者をいうと示されている(法基通1-4-7)。 特定役員引継要件は、事業規模要件に代わる要件であるため(※2)、合併を検討するにあたり重要な要件であるといえる。合併に直面した場合、双方の法人の役員のうち特定役員となる者について確認が必要である。 (※2) 国税庁ホームページ「特定役員引継要件」参照。 ③ 中小企業者等における所得拡大促進税制の対象範囲 所得拡大促進税制とは、中小企業者等が国内雇用者への給与等を前年度より増加させた場合に、その増加額の一部を法人税から税額控除できる制度である(措法42の12の5②)。 この場合の国内雇用者は、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者等は適用対象に含まれないこととなる(措法42の12の5③九)。 ④ 法人版事業承継税制の特例措置 法人版事業承継税制の特例措置は、株式会社等の株式の移動に係る贈与税や相続税について、一定要件を充足する限り納税が猶予され、最終的に納税額が免除されることを予定する制度である(措法70の7の5以下)。 このうち、役員に関する要件は、先代経営者に係るものと後継者に係るものがある。 先代経営者に係るものとして、贈与時までに代表者を退任すれば取締役として経営に携わることが可能となる点がある(措令40の8の5①一ハ)(※3)。後継者に係るものとしては、贈与の日まで3年以上継続して役員であるとともに(措法70の7の5②六へ)、贈与時までに代表者に就任すること(措法70の7の5②六ロ)が必要となる点がある(※4)。 (※3) 相続の場合、相続開始前において代表者であったことが必要となる(措令40の8の6①一)。 (※4) 相続の場合、相続開始直前において役員に就任し(措法70の7の6②七へ、措規23の12の3⑪二、先代経営者が70歳未満で死亡した場合を除く)、かつ、相続開始日の翌日から5ヶ月を経過する日において代表者に就任することが要件として求められている(措法70の7の6②七イ)。 ⑤ 均等割・分割基準の人数 法人事業税や法人道府県民税、法人市町村民税を計算するにあたり、複数の自治体に事業所を有する場合には、その事業年度(算定期間)終了の日における各事業所等の従業者の数をベースに、課税標準額等を分割して計算する必要がある(地法72の48①、57①②、321の13①②)。また、市町村民税の均等割においても、従業者数の合計により税率が定められている(標準税率を定める地法312①他)。 分割基準における「従業者」は、有給無給・常勤非常勤問わず、役員も対象となる(地規6の2の2①、地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)2-58、地方税法の施行に関する取扱いについて(市町村税関係)2-59)(※5)。 (※5)東京都主税局「分割基準のガイドブック」8頁が参考となる。 均等割における役員は、棒給、給料若しくは賞与又はこれらの性質を有する給与の支給を受けることとされている役員である(地令48)。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第34回】 「適格分割があった場合の特定資産譲渡等損失額の損金算入制限」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格分割があった場合の特定資産譲渡等損失額の損金算入制限について解説します。 1 特定資産譲渡等損失額の損金算入制限の趣旨 適格分割があった場合には、分割法人の有する資産は、分割法人の帳簿価額で分割承継法人に引き継がれます。したがって、分割法人から移転を受けた資産の含み損を実現させ、分割承継法人の所得と相殺する、あるいは、分割法人から移転を受けた資産の含み益を実現させ、分割承継法人の含み損と相殺するといった租税回避行為が想定されます。 このような租税回避行為を防止する観点から、一定の適格分割があった場合に、その後に含み損を実現したときは、その損失を損金の額に算入しないという規定が設けられています。 2 特定資産譲渡等損失額の損金算入制限 (1) 内容 完全支配関係又は支配関係がある適格分割があった場合に、次のいずれにも該当しないときは、適用期間((2)参照)に分割承継法人において生じた一定の特定資産譲渡等損失額((3)参照)が損金不算入となります(法法62の7①、法令123の8①)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令123の8①二)。 (2) 適用期間 「適用期間」とは、次のいずれか早い日までの期間をいいます。 支配関係が生じた時期により、適用期間が下図のように異なることとなります。 又は (3) 特定資産譲渡等損失額 「特定資産譲渡等損失額」とは、分割法人の特定資産(特定引継資産)に係る譲渡等損失額と分割承継法人の特定資産(特定保有資産)に係る譲渡等損失額の合計額をいいます(法法62の7②)。 ① 特定引継資産 「特定引継資産」とは、適格分割により分割法人から分割承継法人へ移転した資産で、支配関係発生日前から分割法人が有していた資産(※)をいいます。 (※) 支配関係が生じた事業年度開始の日以後に有する資産が除外されるため(法令123の8③五)、特定保有資産と同様に支配関係が生じた事業年度開始の日前から有していた資産となります。 ② 特定保有資産 「特定保有資産」とは、支配関係が生じた事業年度開始の日前から分割承継法人が有していた資産をいいます。 ③ 特定資産から除かれるもの 特定資産からは次の資産が除かれています(法令123の8③⑭)。 ④ 1,000万円に満たないかどうかの判定 ③(ハ)における1,000万円の判定は、次のように区分した後の単位で判定することとされています(法規27の15①)。 ⑤ 支配関係が生じた事業年度開始の日において含み損がない資産を特定資産から除外するための要件 適格分割の日の属する事業年度の確定申告書にその資産の時価及びその帳簿価額に関する明細を記載した書類の添付があり、かつ、時価の算定の基礎となる事項を記載した書類を保存する場合に限ります(法規27の15②)。 ⑥ 特定資産譲渡等損失額の計算方法 特定資産譲渡等損失額は、特定引継資産及び特定保有資産について生じた譲渡、評価換え、貸倒れ、除却等の事由(譲渡等特定事由)による損失額から譲渡又は評価換えによる利益の額を控除して計算します。 (※) 特定引継資産の譲渡等損失額と特定保有資産の譲渡等損失額の損益通算は認められません。 (4) みなし共同事業要件 「みなし共同事業要件」とは、次の①から④又は①と⑤の要件の全てを満たすことをいいます(法令112③⑩)。 なお、みなし共同事業要件については、次回詳しく解説します。 3 時価評価した場合の特例 (1) 内容 分割法人において含み益が生じている資産を多額に有しているケースでは、含み益を実現させて含み損と相殺すれば、含み損を自社で利用することができ、租税回避とはいえないため、特定資産の譲渡等損失について制限する必要はないと考えられます。 したがって、支配関係事業年度の前事業年度終了時の資産及び負債について時価評価した場合には、特定資産譲渡等損失額の損金算入制限対象金額の計算について特例が設けられています(法令123の9)。 (2) 時価純資産超過額がある場合の特例 支配関係事業年度の前事業年度終了時における時価純資産超過額がある場合には、特定資産譲渡等損失額の制限はありません。 (3) 簿価純資産超過額がある場合の特例 支配関係事業年度の前事業年度終了時における簿価純資産超過額がある場合には、簿価純資産超過額から繰越欠損金の制限対象金額についての特例で特定資産譲渡等損失額からなる欠損金額とみなされた金額を控除した金額が制限されます。 時価評価した場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 4 事業の移転がない場合の特例 (1) 内容 事業を移転しない適格分割の場合には、移転資産の含み益に対応する特定保有資産の譲渡等損失額の損金算入制限をすれば、租税回避行為に十分対応できます。 したがって、事業の移転がない場合には、特定保有資産の譲渡等損失額について特例が設けられています(法令123の9)。 (2) 移転資産に含み損がある場合の特例 移転資産に含み損がある場合には、特定保有資産の譲渡等損失額の制限はありません。 (3) 移転資産に含み益がある場合の特例 移転資産の含み益が欠損金の使用制限を受けて切り捨てられた欠損金額に満たない場合には、特定保有資産の譲渡等損失額の制限はありません。 移転資産の含み益が欠損金の使用制限を受けて切り捨てられた欠損金額を超える場合には、移転資産の含み益から欠損金の使用制限を受けて切り捨てられた欠損金額を控除した金額に達するまでの金額のみ制限されます。 事業の移転がない場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 次回は、「みなし共同事業要件」について解説します。 ◆適格分割があった場合の特定資産譲渡等損失額の損金算入制限のポイント◆ 分割法人の特定資産(特定引継資産)と分割承継法人の特定資産(特定保有資産)の両方について損金算入制限の規定が設けられています。 支配関係が生じた事業年度開始の日において含み損がない資産を特定資産から除外するためには一定の手続きが必要です。 特定資産譲渡等損失額の損金算入制限対象金額の計算には、時価評価した場合の特例が設けられています。 特定保有資産の譲渡等損失額の制限対象金額の計算については、事業の移転がない場合の特例が設けられています。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第66回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 オ 立案担当者の見解等 立案担当者は、収益の計上単位(認識単位)に関する論点をどのように考えていたのであろうか。そもそも、この論点に係る実定法上の根拠を、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った計算を要請する法人税法22条4項に求めるのか、これを肯定して収益認識会計基準の影響があると考えるのか、あるいは法人税法22条の2など他の実定法上の根拠を想定するのかという点にも関心が向けられる。 立案担当者は、どのような会計原則・会計基準・会計慣行のどの取扱いに基づく会計処理が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った計算に該当するかという点については、様々な判例で断片的に述べられている状況であるが、その状況を考慮すれば、収益認識会計基準に基づく会計処理も、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った計算に該当し得るという考えの下、次のとおり、収益の認識単位については法人税法22条4項を通じて、同基準の影響があるという見解を示している(『平成30年度 税制改正の解説』280頁)。 収益認識会計基準の内容が一律に法人税法22条4項の公正妥当な会計処理の基準に該当するのかという点は、議論の余地がある。このことは、法人税法がわざわざ22条の2を創設し、とりわけ第4項や第5項に収益認識会計基準と異なる規律を明記したことを起点として論じることもできよう。 しかしながら、国税庁としては(対外的には個人的見解としているものの)財務省主税局の担当者が執筆した『平成30年度 税制改正の解説』の見解に従わざるを得ないであろう。よって、法人税法22条4項を足掛かりとして、収益認識会計基準における収益の認識単位の考え方が法人税法に流入してくることを前提として通達を整備したものと解してよい。 なお、かように、法人税法22条4項を足掛かりとして、収益認識会計基準における収益の認識単位の考え方が法人税法に流入してくると解することについては、議論がないわけではない。 例えば、法人税法22条4項は2項と3項の「収益の額」等の「計算」の定めであって「収益の認識の単位」の定めではないとう見解も示されている(朝長英樹「『収益認識に関する会計基準等への対応』として平成30年度に行われた税法・通達改正の検証(4)」T&A master753号21頁参照)。 上記とは別に、収益の計上単位については、結局、収益の計上時期や計上額に関係するものであり、そうであれば、法人税法22条の2の規律対象として、同条の解釈論に委ねられるのであり、22条4項の出番はないという見解が考えられる。 収益の計上単位に関するルールについて、法人税法は法令上において明文の規定を設けておらず、本通達が定める原則的取扱いや例外的取扱いの内容及び原則・例外の各位置付け等が法人税法上確かな根拠に裏付けられるものであるかも含めて、今後、個別の事案において、収益の計上単位の問題が争点化する可能性がある。 収益計上の単位を収益の計上時期や計上額の問題と捉えることができる場面があるとするならば、そこでは、法人税法22条の2という22条4項の別段の定めが存在することになるから、同項を根拠規定ないし収益認識会計基準との橋渡し規定とする法人税基本通達の考え方が通らない可能性も出てくる。 収益の計上時期の基準として、法人税法に明定された引渡・役務提供基準を採用しつつ、収益認識会計基準における収益の認識単位の考え方を通達で取り込むことに、何らかの不具合が生じないか、注視しておく必要がある。 カ 契約単位・履行義務単位と申告調整 会計上、履行義務単位で収益を計上していた法人が、法人税の課税所得計算上、申告調整により、契約単位で収益を計上することが認められるか、あるいはその逆のパターンは認められるかという問題がある。 仮に、法人税法22条の2が定める収益の計上時期・計上額と収益の計上単位は、次元の異なるものであること及び収益の計上単位の問題は22条4項により規律されていることという前提を支持するならば、22条4項を軸に個別の事情に応じて解決されるべき問題であると解される。ただし、かかる前提をとること自体の是非については議論の余地がある。 この点に関して、次のような見解が示されている(秋元秀仁「3月決算法人向け『大規模法人の法人税申告の留意点』」週刊税務通信3556号14頁)。 法的根拠の議論は残るとしても、上記は、課税実務上、国税当局において採用することが予想される見解であろう。 (了)
収益認識会計基準を学ぶ 【第17回】 「追加の財又はサービスを取得するオプションの付与と顧客により行使されない権利(非行使部分)」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、「追加の財又はサービスを取得するオプションの付与」と「顧客により行使されない権利(非行使部分)」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 追加の財又はサービスを取得するオプションの付与 1 重要な権利を顧客に提供するオプションの付与 顧客との契約において、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合には、当該オプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときにのみ、当該オプションから履行義務が生じる(収益認識適用指針48項)。 重要な権利を顧客に提供する場合とは、例えば、追加の財又はサービスを取得するオプションにより、顧客が属する地域や市場における通常の値引きの範囲を超える値引きを顧客に提供する場合をいう(収益認識適用指針48項)。 追加の財又はサービスを無料又は値引価格で取得するオプションには、販売インセンティブ、顧客特典クレジット、ポイント、契約更新オプション、将来の財又はサービスに対するその他の値引き等が含まれる(収益認識適用指針139項)。 上記のオプションが顧客に重要な権利を提供するときには、顧客は実質的に将来の財又はサービスに対して企業に前払いを行っていることから、将来の財又はサービスが移転する時、あるいは当該オプションが消滅する時に収益を認識することになる(収益認識適用指針48項、140項)。 2 重要な権利を顧客に提供しないオプションの付与 顧客が追加の財又はサービスを取得するオプションが、当該財又はサービスの独立販売価格を反映する価格で取得するものである場合には、顧客に重要な権利を提供するものではないとされている(収益認識適用指針49項)。 この場合には、既存の契約の取引価格を追加の財又はサービスに対するオプションに配分せず、顧客が当該オプションを行使した時に、当該追加の財又はサービスについて、収益認識会計基準に従って収益を認識することになる(収益認識適用指針49項)。 3 履行義務への取引価格の配分 履行義務への取引価格の配分は、独立販売価格の比率で行うとされている(収益認識会計基準66項)。 追加の財又はサービスを取得するオプションの独立販売価格を直接観察できない場合には、オプションの行使時に顧客が得られるであろう値引きについて、次の(1)及び(2)の要素を反映して、当該オプションの独立販売価格を見積もる(収益認識適用指針50項)。 4 履行義務への取引価格の配分 契約更新に係るオプション等、顧客が将来において財又はサービスを取得する重要な権利を有している場合で、当該財又はサービスが契約当初の財又はサービスと類似し、かつ、当初の契約条件に従って提供される場合は、収益認識適用指針50項の定めに基づいたオプションの独立販売価格を見積もらず、提供されると見込まれる財又はサービスの予想される対価に基づき、取引価格を当該提供されると見込まれる財又はサービスに配分することができる(収益認識適用指針51項)。 Ⅲ 顧客により行使されない権利(非行使部分) 1 契約負債 収益認識会計基準78項は、財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合、顧客から対価を受け取った時又は対価を受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で、顧客から受け取る対価について契約負債を貸借対照表に計上すると規定している。 このため、将来において財又はサービスを移転する(あるいは移転するための準備を行う)履行義務については、顧客から支払を受けた時に、支払を受けた金額で契約負債を認識することになる(収益認識適用指針52項)。 そして、財又はサービスを移転し、履行義務を充足した時に、当該契約負債の消滅を認識し、収益を認識する(収益認識適用指針52項)。 2 非行使部分 顧客から企業に返金が不要な前払いがなされた場合、将来において企業から財又はサービスを受け取る権利が顧客に付与され、企業は当該財又はサービスを移転するための準備を行う義務を負うが、顧客は当該権利のすべては行使しない場合がある。この顧客により行使されない権利を「非行使部分」という(収益認識適用指針53項)。 契約負債における非行使部分について、企業が将来において権利を得ると見込む場合には、当該非行使部分の金額について、顧客による権利行使のパターンと比例的に収益を認識する(収益認識適用指針54項)。 契約負債における非行使部分について、企業が将来において権利を得ると見込まない場合には、当該非行使部分の金額について、顧客が残りの権利を行使する可能性が極めて低くなった時に収益を認識する(収益認識適用指針54項)。 次のことに注意する。 (了)
社長のためのメンタルヘルス 【第7回】 「社長にも相談相手が必要」 特定社会保険労務士 第一種衛生管理者 産業カウンセラー 寺本 匡俊 1 今回の趣旨 本連載においては先月の第6回まで、厚生労働省や医学会の資料を用いて、客観的・総論的な解説を行った。今後の連載では、メンタル不調の予防や解決のための具体策や事例を挙げ、日常生活に資する内容とする方針である。今回の前半は、社長にも多くの相談相手が必要であることに言及し、後半は外部の相談窓口の紹介に充てる。 一般に、経営者は社内外において事業の責任を負う以上、体調不良等があっても、自身あるいは会社の評判にもかかわるため、そう簡単に「弱みを見せられない」立場にある。これは、個人事業主も同様である。 筆者が企業カウンセリングを行っていても、社長自らが相談者として参加することは珍しくない。社会保険労務士の業務でお会いしても、社長から個人的な悩みの相談をよく受ける。士業には法定の守秘義務、また、通常、カウンセラーにも契約上の守秘義務があるため、社長にとって相談しやすい相手といえるためだろう。 相談相手の存在が重要であることについては、過去の連載でも触れており、ここでは再確認のため改めて解説する。本稿における「相談」とは、企業経営や人生相談のような重要で深刻なものばかりでなく、愚痴や世間話のようなものも含めたコミュニケーション全般という広い意味合いを持たせる。雑談も気分転換には大切であり、メンタル不調予防の第一歩である。 2 相談の重要性 ストレスチェック制度で使う「職業性ストレス簡易調査票(57 項目)」に4つある、大項目ABCDのうち、Cグループには「あなたの周りの方々」についての質問が並ぶ。社内では同僚、私生活では家族、友人などを指す。質問内容は、「気軽に話せるか」、「頼りになるか」、「相談に乗ってくれるか」といったもので、つまり、相談相手の有無に関する内容であり、これが57項目中の9項目を占めることに留意願いたい。 次は相談の内容について、本連載でも度々登場している以下「NIOSHの職業性ストレスモデル」をもとに見ていきたい。 (出典) 東京都労働相談情報センター「NIOSHの職業性ストレスモデル」 図の左側の「職場のストレス要因」(原因)が、右側のストレス反応(急性又は疾病)に及ぼす影響を、強めたり弱めたりする外部的な要因(個人的要因、仕事以外の要因、緩衝要因)が、3点示されている。上記の相談相手は、図の右下にある「緩衝要因」(社会的支援)である。労使に限らず、どのような相談内容があり得るかというと、もちろんストレス内容(仕事の厳しさや職場の人間関係など)が第一であるが、図上部の「個人的要因」(体の病気や、金銭問題など)、あるいは図の左下にある「仕事以外の要因」(主に家庭事情)と多様である。 予防の段階及び優先度も第4回で解説したように、まず未然防止(一次予防)、次に早期発見・早期対処(二次予防)、再発防止(三次予防)の順であり、これらはストレス要因の対処にとどまらず、他の変動要因についても同様である。メンタル不調になってから、相談相手を探し回ったり、良い人間関係を構築しようと努力することは対処としては遅く、容易ではない。そのため、心身共に元気なときに、日常的にセイフティネットを張っていただきたい。 3 医療へのアクセスについて ここでは医学薬学の専門的事項の詳細には触れないが、2点お伝えしたいことがある。1つは労災の認知基準にもあった国連WHO(世界保健機構)が定める診断のガイドライン「ICD」より、職場に多い精神疾患と言われている「うつ病エピソード」の診断基準の概要から抜粋するので、自身のみならず周囲への気配りにご活用願いたい。本連載の第1回でも触れたとおり、周囲のほうが気付きやすい変調(身だしなみ、表情、誤字脱字の多発など)や対応策もあり、相談の重要性はここにもある。 ICDによれば、うつ病の3つの大きな特徴的症状として、(1)「抑うつ気分」(上掲の調査票では、ゆううつ、面倒など)、(2)「興味と喜びの喪失」(悲しい、気分が晴れない)、(3)「活動性の減退による易疲労感の増大」(ひどい疲れ、だるさ)を挙げている。いずれも、うつ病が広く世に知られてきたため聞き馴染みのある不調かと思うが、これを疾病であると診断する条件として、「重症度の如何にかかわらず、ふつう2週間の持続」が挙げられている。 「重要度の如何」とは、メンタル不調の場合、健康診断のように健康・不調の度合を数値で表すことができない以上、不調の軽重は問わない。原則、軽くても2週間も継続すると通院・服薬が必要であると心がけておき、予防という観点からすれば、2週間を待たず、不調の度合いに応じて早めに対処する必要がある。 そして、お伝えしたいことのもう1つとしては、かかりつけ医や職場によっては産業医に定期的に、もしくはメンタル不調を感じたら早期に相談してほしいということである。「精神科は敷居が高い」というのは、現実問題として多くの人が気にすることであり、身近の医師であれば相談もしやすい。また、かかりつけ医や一般的なオフィスに在籍する職場の産業医は、内科医であることが多い。うつ状態も内科の病気が引き起こすこともあり得るし、軽い薬であれば処方してくれることもある。さらに医師は広く強いネットワークを持っているので、専門医の紹介を依頼することもできる。 4 各種相談窓口 本項では職場でのストレス要因のみならず、個人的な要因(例えば借金など)や、社会的・家庭内のトラブルなど、種類・内容を問わず、相談可能な窓口の代表例を挙げる。 選ぶにあたり、公的機関、経済団体、筆者の所属組織などのうち、広く知られているものや、利用実績のあるものを条件とした。これらに、社長個人あるいは会社で利用しているコンサルタント会社や、地域行政の窓口などを追加のうえ、自身あるいは職場で利用しやすい相談窓口の一覧表の作成に役立つようであれば幸いである。なお、大半はウェブサイトをご案内する。 (1) 人事労務関係 (2) メンタルヘルス関係 (3) そのほか政府関連等 * * * 以上は利用実績もあり、中には筆者が相談窓口として働いたこともある機関・サイトから選んだものだが、言うまでもなく相談とは、人と人との会話(メール等も含め)で成り立つものであるため、相談窓口担当者が必ずしも個々の相談内容に詳しいとは限らず、現実問題として相談者との相性も無視できない。そのため、一回電話して相談が上手くいかず諦めてしまうのではなく、日を変えて再度連絡するといった試みもしてもらいたい。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第23回】 「収益還元法を適用する際の賃料の捉え方の相違」 ~「自用の建物及びその敷地」と「貸家及びその敷地」~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 鑑定評価において、土地及び建物を一体として評価する場合、 によって、その考え方や適用する手法は異なってきます。 鑑定評価では、上記(ア)に該当する場合を「自用の建物及びその敷地」と呼び、(イ)に該当する場合を「貸家及びその敷地」と呼んで区別しています。また、このような分類は、不動産鑑定評価基準では「類型」と呼ばれています。 今回は、それぞれの類型を評価する際に適用される収益還元法につき、その前提となる賃料の捉え方の相違について解説していきます。 2 不動産鑑定評価基準における収益還元法の位置付け ところで、不動産鑑定評価基準では価格の三面性(費用性、市場性、収益性)という考え方を根底に置いていることから、上記1の(ア)の場合であっても、(イ)の場合であっても原価法における積算価格、取引事例比較法における比準価格及び収益還元法における収益価格を可能な限り求めることとしています(土地建物を一体として捉えた場合、実際には一体としての比準価格を求めるのは難しいケースが多いといえますが)。 そのため、「自用の建物及びその敷地」として評価する場合でも、その土地建物を新たに賃貸することを想定し、これによって将来得ることができると期待される純収益を査定した上で、収益還元法を適用して求めた価格を試算価格の1つとして位置付けています。 これに対し、「貸家及びその敷地」として評価する場合は、あくまでも建物が現に賃貸借に供されている(=賃貸中の)状態を所与とすることから、純収益を査定する際の前提となる賃料は、新規に賃貸借をする際の賃料ではなく、実際に授受されている賃料ということになります。そして、往々にして新規賃料と実際に授受されている賃料との間には差が生じていることが多く(新規賃料 > 実際賃料という傾向あり)、一概に収益還元法を適用するといっても、「自用の建物及びその敷地」の場合と「貸家及びその敷地」の場合とでは結果に差が生ずることから、ここに紛らわしさを感ずる一因があるものと思われます。 3 「自用の建物及びその敷地」への収益還元法の適用例 今まで述べてきたことを確認する意味で、先に、「自用の建物及びその敷地」の価格を求める際の一過程としての収益還元法の適用例を掲げます(対象は事務所とその敷地)。個々の算定根拠は割愛する個所もありますが、本稿においては特に(※1)、(※2)の記載内容にご留意ください。 (1) 総収益 ① 賃料収入 (※1) 近隣で用途の類似する建物の新規貸しの賃料(募集賃料も参考)を参考に査定(満室の状態を想定)。 ② 共益費収入 (※2) 近隣で用途の類似する建物の共益費(募集事例も参考に)を査定の上、これを乗じて月額共益費収入を求める過程が記載されています。 ③ 空室損失相当額 ④ 貸倒れ損失 敷金で担保されるため計上しない(※3)。 (※3) 貸倒れ損失は賃借人の信用状況等を踏まえて計上しますが、敷金又は保証金を賃料の数ヶ月分徴収している場合は計上しないことも多くあります。 ⑤ 敷金の運用益 (※4) 敷金を月額賃料の6ヶ月分、敷金総額の1%相当額を運用益として査定。 ⑥ 総収益 (2) 総費用 ① 維持管理費 (※5) 建物及び設備の管理(エレベーター保守点検、消防設備点検その他)・運営、保安警備、清掃費(外壁、共用部分清掃業務等)、環境衛生費等(共用部分に係る電気・水道・ガス・冷暖房費も含む)。 ② 修繕費 (※6) 対象不動産の使用に伴う軽微な損傷や消耗に対する修繕や取替え等の費用を計上。建物再調達原価の計算過程は省略。 ③ 公租公課(土地建物) (※7) 土地建物の固定資産税、都市計画税の合計額。 ④ 損害保険料 ⑤ プロパティマネジメントフィー (※8) プロパティマネジメントフィーとして、管理会社に対する運営委託費用を査定(総収益の3%)。 ⑥ テナント募集費 (※9) 新規テナントの募集に際して行われる仲介業務や広告宣伝等に要する費用及びテナントの賃貸借契約の更新等の業務に要する費用等を織り込む(テナントの入替え率を年10%、新規家賃の1ヶ月分が仲介手数料)。 ⑦ 資本的支出 (※10) 対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良のために支出した金額のうち、当該建物、設備等の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する支出。 ⑧ 総費用 (3) 純収益 (4) 還元利回り 上記(3)の純収益を土地建物一体の還元利回りで還元して、対象不動産の収益価格を以下のとおり820,000,000円と試算した。 (※11) 対象不動産の用途や特徴及び購入リスク等を考慮して査定。 4 「貸家及びその敷地」の場合の留意箇所 既に述べてきたように、「貸家及びその敷地」で収益還元法を適用する際には、実際に授受している賃料等がベースとなることから、上記3の(1)①及び②の賃料収入及び共益費収入の箇所が実際のものに置き換わることになります。これらに連動して上記3の(1)③の空室損失相当額の計算のベースも置き換わるほか、敷金の金額も想定のものから実際のものとなります。 それだけでなく、総費用の算定においても、総収益や賃料収入を基に査定している項目については同じように置き換えることになります。 ◆ ◆ ◆ 税理士の皆様は鑑定評価書を作成するというよりも、鑑定評価書を読む立場にあることがほとんどであると思われますが、その際、今回述べた点が役立てば幸いです。 (了)
《速報解説》 国税庁、令和4年の新制度施行を前に、 改正電帳法に関する質問の多い事項16問を公表 ~既存のQ&Aへの補足も~ Profession Journal編集部 令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しに伴い、国税庁が令和3年7月16日に「電子帳簿保存法Q&A(一問一答)~令和4年1月1日以後に保存等を開始する方~」を整備したことについては既報のとおり。 改正電子帳簿等保存制度の施行(令和4年1月1日)もいよいよ迫るところ、上記公表後において問合せが多かった事項につき追加の質問として整理・集約された資料が、この度11月12日付で下記のとおり公表された。 追加の質問については、下記の全16問となっており、【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】が3問、【スキャナ保存関係】が6問、【電子取引関係】が7問となっている。 【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】 【スキャナ保存関係】 【電子取引関係】 また、既存の一問一答【電子取引関係】への補足として、「問24」「問33」「問34」「問42」に説明が加えられた。 なお、今回の追加質問及び補足説明については、「電子帳簿保存法Q&A(一問一答)」の次回改訂時に反映が予定されている。 (了)
《速報解説》 金融庁、令和3事務年度の会計監査の在り方に関する議論を整理 ~中小監査事務所への支援や上場会社監査に高い規律を求める制度的枠組みを検討~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021(令和3)年11月12日、金融庁に設置された「会計監査の在り方に関する懇談会」は、「会計監査の在り方に関する懇談会(令和3事務年度)論点整理-会計監査の更なる信頼性確保に向けて-」を公表した。 これは、会計監査の信頼性確保のための取組みについての議論を取りまとめたものであり、大きく、次の事項について記載している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計監査の信頼性確保 1 上場会社の監査に係る取組み 上場会社の監査事務所の異動状況として、大手監査法人から準大手監査法人や中小監査事務所にシフトしている傾向を踏まえ、中小監査事務所等への支援が重要であるとしている。 また、中小監査事務所を含む上場会社の監査の担い手全体の監査品質の向上が急務となっており、高品質な監査の実現に向けた取組みを検討すべきであるとし、現状の自主規制としての上場会社監査事務所登録制度について、法律に基づく制度の枠組みを検討する必要があるとしている。 2 「第三者の眼」によるチェック機能の発揮 公認会計士・監査審査会の検査において、業務の運営の状況の検証に際し、虚偽証明に係る監査手続についても検証を行えるようにするとともに、監査事務所の品質管理のシステムの整備・運用状況に応じたモニタリングの実施方法について継続的に検討していく必要があるとしている。 Ⅲ 公認会計士の能力発揮・能力向上 1 公認会計士の能力発揮 女性公認会計士を含め、公認会計士が持てる能力を十全に発揮できるような環境の整備に努めていく必要があるとしている。 例えば、監査人の独立性を確保するための、監査法人の社員の配偶関係に基づく業務制限について、監査人の独立性は引き続き確保しながらも、女性活躍の観点も踏まえ、能力ある公認会計士にその能力に見合った活躍の機会を確保できるよう見直すべき点はないか検討される必要があるとしている。 また、いわゆる組織内会計士向けの指導・支援についても述べている。 2 公認会計士の能力向上 環境の変化に対応し、実務で能力を発揮し続けるために、 公認会計士には、公認会計士試験を通じて得た基礎的な知識に加えて、職業専門家として、求められる知識・能力を不断に磨いていくことが期待されている。 監査事務所と企業の人材交流などにより、企業の現場感覚を養う機会を多く持てるようになることが望ましいとしている。 Ⅳ その他の論点 次の事項について述べている。 (了)