〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例54】 株式会社島忠 「株式会社ニトリホールディングスによる 当社株式に対する公開買付けに関する意見表明及び 同社との間の経営統合契約の締結に関するお知らせ」 (2020.11.13) 公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社島忠(以下「島忠」という)が2020年11月13日に開示した「株式会社ニトリホールディングスによる当社株式に対する公開買付けに関する意見表明及び同社との間の経営統合契約の締結に関するお知らせ」である。 株式会社ニトリホールディングス(以下「ニトリ」という)による島忠に対するTOB(株式公開買付け)に賛同するという内容である(ニトリも同日「株式会社島忠(証券コード:8184)の株券等に対する公開買付けの開始及び同社との間の経営統合契約の締結に関するお知らせ」を開示)。そのTOBは、島忠を完全子会社とすることが目的である。 2 DCMと一緒になるはずだったが しかし、1月ほど前の2020年10月2日、島忠は「DCMホールディングス株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明及び同社との間の経営統合契約の締結に関するお知らせ」を開示していた。 それは、DCMホールディングス株式会社(以下「DCM」という)による島忠に対するTOBに賛同するという内容である(DCMも同日「株式会社島忠普通株式(証券コード8184)に対する公開買付けの開始及び同社との間の経営統合契約の締結に関するお知らせ」を開示)。そのTOBも、島忠を完全子会社とすることが目的である。 その時点で島忠はDCMの完全子会社となるつもりだったが、1月ほど経って、ニトリの完全子会社となることに考えを変えたのである。 3 ニトリによる割り込み DCMによる島忠に対するTOBが始まった後の2020年10月29日、ニトリは、そこに割って入る形で、島忠に対するTOBを行う予定であると発表した(「株式会社島忠(証券コード:8184)の株券等に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」を開示)。 これに対して、島忠は、同日、「株式会社ニトリホールディングスによる当社株式に対する公開買付けの開始予定に係るお知らせ」を開示して、次のように述べていた。 また、DCMは、翌日の2020年10月30日、「株式会社島忠普通株式に対する公開買付けについて」を開示して、次のように述べていた。 ニトリによる島忠に対する敵対的TOBに発展するのだろうかと思われた。しかし、そうはならなかった。 4 DCMは怒り心頭かもしれないが 島忠は、今回取り上げた開示と同時に「DCMホールディングス株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見の変更についてのお知らせ」も開示している。DCMによるTOBに賛同するとしていたのに、それを撤回して、意見を「留保」することとしたのである。 DCMによる島忠に対するTOBは、当初、島忠の賛同を得ていたので、友好的TOBだった。しかし、一転して、そうではなくなった。島忠の意見は「留保」であり、「反対」ではないものの、賛同を得られていない以上、敵対的TOBになってしまったと言えるかもしれない。 DCMは、島忠の翻意に対して怒り心頭に発しているのかもしれないが、それは致し方ないだろう。島忠の判断は、合理的であり、正しい。 DCMによる島忠に対するTOBの買付価格は、1株当たり4,200円であるのに対して、ニトリによる方は1株当たり5,500円である。これでは、ニトリによるTOBの成立が確実である。どんなにシナジー効果などを主張されても、DCMによるTOBに応じる島忠の株主は、ほとんどいないはずである。島忠の株式を売却したら、島忠と関係が無くなってしまう島忠の株主にとって、島忠が今後どうなるかはどうでもいいのである。彼らの判断基準は買付価格の高低だけである。 ニトリによるTOBの成立が確実である以上、島忠としては、早々とそれに賛同した方が得である。いたずらに反対しても、かえって企業価値を毀損することになりかねない。ニトリよりも高い買付価格を提示できない以上、DCMは怒ってもしょうがないのである。 結果的として、DCMによるTOBはやはり成立しなかった(DCMは2020年12月12日に「株式会社島忠普通株式(証券コード8184)に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」を開示)。ニトリによるTOBは、買付期間が2020年12月28日までなので、本稿執筆時点(2020年12月14日)において結果は不明だが、きっと成立するだろう。 5 気になったのは 島忠による一連の開示を見ていて、気になったことがある。DCMによるTOBが発表される前の2020年9月18日、島忠は「本日の一部報道について」を開示している。その内容は次のとおりである。 また、2020年11月13日、今回取り上げた開示の前にも「本日の一部報道について」を開示している。その内容は次のとおりである。これらの情報が漏れたのが、島忠からなのか、それとも、相手側のDCMやニトリからなのか、不明だが。 なお、島忠の商号がどうなるのかも気になっていたのだが、維持されるとのことである。ニトリの完全子会社になったら、「鳥・忠」にされてしまうのでは、などと思っていたのだが。 (了)
《速報解説》 住宅借入金等特別控除の延長・見直し ~令和3年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 新型コロナウイルスの影響による先行き不透明さなどを背景に、個人による住宅取得環境が厳しさを増している。令和3年度税制改正大綱では、内需の柱となる住宅投資を幅広い購買層に対して喚起するため、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除(以下、住宅借入金等特別控除という)について、2つの特例措置が示された。 2つの特例措置は、いずれも控除期間を3年延長する特例(以下、控除期間13年間の特例という)に関するものである。以下、解説を行う。 【1】 控除期間13年間の特例の概要 住宅借入金等特別控除については、消費税率10%への引上げに伴う住宅投資反動減対策として、通常の控除期間10年間を3年間延長する特例が設けられている(措法41⑬)。 この特例は、個人が、住宅の取得等で特別特定取得(※1)に該当するものをし、取得等をした家屋を令和元年10月1日から令和2年12月31日までの間に、その者の居住の用に供した場合に適用することができる。 (※1) 特別特定取得:対価の額又は費用の額に含まれる消費税率が10%である場合の住宅の取得等 なお、新型コロナウイルス感染症の影響により、取得等をした家屋を令和2年12月31日までに居住の用に供することができない場合でも、一定の期日(※2)までに契約が締結されており、かつ令和3年12月31日までの間に居住の用に供したときは、控除期間13年間の特例の適用対象となる(コロナ特例法6④)。 (※2) 一定の期日:新築は令和2年9月30日、建売・中古・増改築等は令和2年11月30日 【2】 大綱の特例措置 (1) 期間の延長(コロナ特例法から1年間の延長) 大綱では、住宅の取得等で特別特例取得に該当するものをした個人が、その特別特例取得をした家屋を令和3年1月1日から令和4年12月31日までの間に居住の用に供した場合には、控除期間13年間の特例を適用できることとされた。 〔現行のコロナ特例法と大綱の特例措置の比較〕 また、当該特例措置の対象者について、控除可能額のうち所得税から控除しきれなかった額がある場合には、現行制度と同じ控除限度額の範囲内で個人住民税から控除する措置が講じられる。 (2) 面積要件の緩和 住宅借入金等特別控除は、対象となる家屋の床面積が50㎡以上であることが要件とされている。また、その年の合計所得金額が3,000万円を超える年については適用されない(措法41①、措令26①)。 大綱では、(1)の延長分に限り、床面積40㎡以上50㎡未満の住宅も対象とすることが示された。ただし、本特例措置は、その年の合計所得金額が1,000万円を超える年については適用されない。 * * * なお、(1)及び(2)について、認定住宅の新築等に係る住宅借入金等特別控除の特例及び東日本大震災の被災者等に係る住宅借入金等特別控除の控除額に係る特例についても同様の措置が講じられる。 (了)
《速報解説》 デジタルトランスフォーメーション投資促進税制及び 繰越欠損金の控除上限の特例 ~令和3年度税制改正大綱~ 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 本稿では、令和3年度税制改正で創設される予定の「デジタルトランスフォーメーション投資促進税制」及び、これらの取組みを行っている企業に対する「繰越欠損金の控除上限の特例」について解説する。 いずれも新型コロナウイルス感染症で大きく変わった経済環境に適応し、経済の再生を実現するために、産業競争力強化に資するものとして導入が予定されている。 1 デジタルトランスフォーメーション投資促進税制 令和3年度税制改正では、デジタル技術を活用した企業変革を進める観点から、ソフトウェア等に係る投資について特別償却又は税額控除を認める新たな税制措置が講じられる予定である。 (1) 背景 新型コロナウイルス感染症の影響により、人同士の接触自体がリスクであるといった認識に加え、デジタル化の持つ潜在力が広く現実のものとして認識されるなど、我が国の直面していた産業構造変化がさらに加速し、ビジネスを取り巻く環境は大きく変化している。 こうした経済社会における大きな変化に対応した大胆なビジネスモデルの変革に取り組もうとする企業を後押しするための税制措置が創設されることになった。 (2) 概要 産業競争力強化法の改正を前提に、青色申告書を提出する法人で同法の事業適応計画について認定を受けたものが、同法の改正法の施行日から令和5年3月31日までの間に、その事業適応計画に従って実施される産業競争力強化法の事業適応の用に供するためにソフトウェアの新設若しくは増設をし、又はその事業適応を実施するために必要なソフトウェアの利用に係る費用(繰延資産となるものに限る)の支出をした場合には、一定の特別償却又は税額控除の適用を受けることができる。 (3) 優遇措置 なお、税額控除における控除税額は、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の税額控除制度による控除税額との合計で、当期の法人税額の20%を上限とする。また、対象資産の取得価額及び対象繰延資産の額の合計額のうち、本制度の対象となる金額は300億円を限度とする(投資額の下限は売上高比0.1%以上)。 (注1) 「事業適応設備」とは、事業適応計画に従って実施される事業適応(生産性の向上又は需要の開拓に特に資するものとして主務大臣の確認を受けたものに限る)の用に供するために新設又は増設をするソフトウェア並びにそのソフトウェア又はその事業適応を実施するために必要なソフトウェアとともに事業適応の用に供する機械装置及び器具備品をいい、開発研究用資産を除く。 (注2) 「グループ」とは、会社法上の親子会社関係にある会社によって構成されるグループをいう(親会社、子会社、親会社の自社以外の子会社(兄弟会社))。 (※) 経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」p6より デジタルトランスフォーメーション投資促進税制の適用イメージ ① グループ内の企業間データ連携 ➡税額控除3%又は特別償却30% ② 外部のデータを活用した企業内のデータ連携 ➡税額控除3%又は特別償却30% ③ 企業間のデータ連携 ➡税額控除5%又は特別償却30% 2 繰越欠損金の控除上限の特例 令和3年度税制改正では、コロナ禍で厳しい経営環境にある企業が、果敢に抜本的な企業変革に取り組むことができるよう、一定期間に限り、繰越欠損金の100%繰越控除をすることができる特例が講じられる予定である。 (1) 背景 我が国の経済成長力を維持していくためには、厳しい経営環境の中でも企業が果敢に投資を行い、事業再構築・再編に取り組んでいくことが強く求められる。そこで、コロナ禍による欠損金については、DXやカーボンニュートラル等、事業再構築・再編に係る投資に応じた範囲において、一定期間に限り、最大100%までの控除を可能とする措置が講じられる。 (2) 概要 産業競争力強化法の改正を前提に、青色申告書を提出する法人で同法の改正法の施行日から同日以後1年を経過する日までの間に産業競争力強化法の事業適応計画の認定を受けたもののうちその事業適応計画に従って事業適応(注1)を実施するものの適用事業年度(注2)において特例対象欠損金額(注3)がある場合には、その特例対象欠損金額については、欠損金の繰越控除前の所得の金額(その所得の金額の50%を超える部分については、累積投資残額(注4)に達するまでの金額に限る)の範囲内で損金算入できる。 (※) 経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」p9より ※1 令和2年2月1日~令和3年4月1日までの期間内の日を含む事業年度 ※2 この特例における欠損金の控除限度額の引上げは、対象欠損事業年度に生じた欠損金額のうち事業適応計画に従って行った投資の額に達するまでの金額を上限 - 事 例 - 3 事業適応計画の認定 上記2つの制度はいずれも適用に当たり、産業競争力強化法の事業適応計画について、主務大臣による同法の認定を受けることが前提とされている。 事業適応計画についての詳細はまだ公にされていないが、「デジタルトランスフォーメーション投資促進税制」及び「繰越欠損金の控除上限の特例」それぞれにおいて、基本となる方針は同様としつつ、異なる取組みや数値(投資・業績)目標が設定されることになると思われる。 なお前者(DX投資税制)の認定要件については、経済産業省の改正資料において、下記のとおり示されている。 (了)
《速報解説》 「中小企業事業再編投資損失準備金制度」等、 中小企業の経営資源の集約化に資する税制の創設 ~令和3年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 荻窪 輝明 令和3年度税制改正大綱(2020年12月21日閣議決定)において、中小企業の経営資源の集約化に資する税制(本稿では以下、「経営資源集約化税制」とする)の創設が示された。 本稿では経営資源集約化税制の制度創設の背景と制度の概要、主な内容などについて解説する。 なお、大綱の把握に有用と思われる範囲で補足、例示しているが、これらはあくまで大綱の推察によるものであり、今後の情報に留意されたい。また、文中の意見に関する部分は、所属する団体や組織の公式見解ではなく筆者の私見であることを申し添える。 1 制度創設の背景 経営資源集約化税制の創設は、令和3年度税制改正大綱(本稿では以下、「大綱」とする)の公表に先立ち、経済産業省より改正要望がなされていた(※)。ただし、具体的な税制の内容については触れられていない。 (※) 経済産業省「令和3度税制改正に関する経済産業省要望【概要】」の「中小企業による経営資源集約化の促進に係る税制措置の創設」を参照。 2 制度の概要(基本的考え方) 大綱では「中小企業の経営資源の集約化による事業の再構築などにより、生産性を向上させ、足腰を強くする仕組みを構築していくことが重要」であり、「経営資源の集約化によって生産性向上等を目指す計画の認定を受けた中小企業が、中小企業の株式の取得後に簿外債務、偶発債務等が顕在化するリスクに備えるため、準備金を積み立てたときは、損金算入を認める」との基本的考え方を示している。 また、「認定を受けた中小企業は、新たな類型として中小企業経営強化税制の適用を可能とし、さらに、所得拡大促進税制の上乗せ要件に必要な計画の認定を不要とすることにより、M&A後の積極的な投資や雇用の確保を促す」との基本的考え方も示された。 中小企業のM&A実施後に“簿外債務”“偶発債務”のようなリスクが顕在化すれば、予期せぬキャッシュアウトを伴うなど買収する側の企業にとって大きな負担が生じうる。こうしたリスクに備えるため、経営資源の集約化(M&A)によって生産性向上等を目指す計画の認定を受けた中小企業者が計画に基づくM&Aを実施した場合、準備金の積立による損金算入が認められ、損金算入を通じた税負担の軽減によって買収後のリスクが軽減される。 さらに、併せて講じる設備投資減税と雇用確保を促す税制(税額控除)措置によって、M&A後の積極的な投資や雇用の確保が促される。 3 中小企業事業再編投資損失準備金制度の主な内容 以下では、大綱の理解に必要な限りにおいて、適宜大綱本文を補足している。 (1) 対象 青色申告書を提出する中小企業者(※)のうち中小企業等経営強化法の改正法の施行日から令和6年(2024年)3月31日までの間に中小企業等経営強化法の経営力向上計画(経営資源集約化措置(仮称)が記載されたものに限る)の認定を受けたものが対象となる。 (※) 適用除外事業者に該当するものを除く。中小企業等経営強化法の中小企業者等であって租税特別措置法の中小企業者に該当するもの。 大綱では、経営資源集約化措置(仮称)の内容については明らかにされていない。経営力向上計画については、あくまで現行の中小企業等経営強化法による経営力向上計画であるが、中小企業庁のウェブサイトに掲載されているので参考にされたい。 また中小企業庁では先月(11月)より「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」が設置され議論が進められており、今月22日には第2回が開催されている(議題は「新たな税制及び予算措置、中小M&Aの類型と検討の視点、小規模・超小規模M&Aにおける対応について」)。こちらの動向についても注視されたい。 (2) 損金算入要件 中小企業事業再編投資損失準備金の損金算入要件は以下の通り。 (3) 準備金の取崩し 中小企業事業再編投資損失準備金は、取得した株式等の全部又は一部を保有しなくなった場合や、その株式等の帳簿価額を減額した場合等において取り崩すほか、積み立てた事業年度終了の日の翌日から5年を経過した日(据置期間)を含む事業年度から5年間で、その経過した準備金残高の均等額を取り崩すこととなる。 4 M&A後の積極的な投資や雇用の確保 中小企業の経営資源の集約化に資する税制措置として、上記の中小企業事業再編投資損失準備金と併せ、M&A後の積極的な投資や雇用確保の観点から、次の措置がとられる予定となっている。 ➤M&Aの効果を高める設備投資減税 中小企業経営強化税制(即時償却又は税額控除(最大10%))の対象に、M&Aの効果を高める設備として「経営資源集約化設備(D類型)」が追加される。なお「経営資源集約化設備」とは、「計画終了年度に修正ROA又は有形固定資産回転率が一定以上上昇する経営力向上計画(経営資源集約化措置(仮称)が記載されたものに限る)を実施するために必要不可欠な設備」をいい、経済産業省資料では具体的な取組例として、「自社と取得した技術を組み合わせた新製品を製造する設備投資」や「原材料の仕入れ・製品販売に係る共通システムの導入」が示されている。 ➤雇用確保を促す税制 M&Aに伴って行われる労働移転等によって、給与等支給総額を対前年比で2.5%以上引き上げた場合、所得拡大促進税制の上乗せ措置の適用により、給与等支給総額の増加額の25%を税額控除(1.5%以上の引上げの場合は15%の税額控除)できる(経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」P27)。この場合、上乗せ要件に必要な計画の認定が不要とされる(与党大綱P14)。 なお現行の所得拡大促進税制では、上乗せ措置の適用要件として、継続雇用者給与等支給額が継続雇用者比較給与等支給額と比べて2.5%以上増加しており、かつ、以下のいずれかを満たすこととされている(中小企業庁「中小企業向け所得拡大促進税制 ご利用ガイドブック」P6)。 * * * 中小企業の経営資源の集約化に資する3つの税制措置全体については、下図を参照されたい。 【参考図】 (※) 経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」p27より (了)
《速報解説》 大綱記載の「税務関係書類の押印義務見直し」、施行日前から取扱いを開始 ~閣議決定受け国税庁等が方針示す~ Profession Journal編集部 既報の通り令和3年度税制改正大綱では、政府の方針を受け、税務関係書類における押印義務について見直しを行うことが、下記のとおり明記された。 (※) 地方税関係書類についても、原則、押印を不要とする見直しが行われる。 このように、税務署長等に提出する税務関係書類のうち、納税者等の押印を求めているものについては、国税・地方税ともに、原則として、押印義務が廃止される。 ここで注目したいのは上記(注3)で、この改正は令和3年4月1日以後に提出する税務関係書類について適用するとされているものの、施行日前においても、対象となる税務関係書類については、押印がなくとも改めて求めないとしている点だ。実質、施行前の取扱い開始ともいえる。 そして12月21日(月)に大綱が閣議決定されたことから、国税庁は下記の情報を公表、「この閣議決定に基づき、全国の税務署窓口においては、本件見直しの対象となる税務関係書類について押印がなくとも改めて求めない」ことを明らかにした。 なお国税不服審判所のホームページでも同様の方針が示されている。 今回の見直しにより押印を要しないこととされる税務関係書類には、所得税の確定申告書も該当するため、来年3月15日が申告期限となる令和2年分の所得税の確定申告書においても、押印が不要とされることになろう。なお税理士の署名押印について今回の改正による影響を受けるのかは明らかとなっていない。 (※) 税理士の署名押印義務については税理士法第33条に規定されている。 (了)
《速報解説》 中小企業向け設備投資減税の延長・統合・見直し ~令和3年度税制改正大綱~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 1 はじめに 与党による令和3年度税制改正大綱(以下「大綱」と略称する)が12月10日に公表され、同月21日に閣議決定された。本稿では、令和3年度税制改正で制度の統合等見直しのうえで適用年限が延長されることとなった中小企業向けの主な設備投資減税措置について、その概要をまとめたい。 2 現行制度の概要 (1) 中小企業投資促進税制 中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)とは、青色申告書を提出する中小企業者等が、特定期間内(平成10年6月1日~令和3年3月31日)に新品の機械及び装置などを取得し又は製作して国内にある製造業、建設業などの指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、特別償却(基準取得価額の30%相当額)又は税額控除(基準取得価額の7%相当額)を認める特例措置である。 (※) 新品の機械及び装置などのうち特定経営力向上設備等に該当するものの取得等をした場合には、中小企業経営強化税制の適用を受けることができる((3)を参照)。 この制度の適用対象となるのは、次に掲げる事業とされている。 適用対象法人や対象資産等、その他本制度の詳細については下記を参照されたい。 (2) 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 商業・サービス業・農林水産業活性化税制(特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は税額控除)とは、認定経営革新等支援機関等による経営の改善に関する指導及び助言を受けた青色申告書を提出する特定中小企業者等が指定期間内(平成25年4月1日~令和3年3月31日)に、新品の器具及び備品並びに建物附属設備で一定のものを取得又は製作若しくは建設して国内にある卸売業、小売業などの指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、特別償却(経営改善設備の取得価額の30%相当額)又は税額控除(経営改善設備の取得価額の7%相当額)を認める特例措置である。 この制度の適用対象となるのは、次に掲げる事業とされている。 適用対象法人や対象資産等、その他本制度の詳細については下記を参照されたい。 (3) 中小企業経営強化税制 中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)とは、青色申告書を提出する中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けた一定の中小企業者などが指定期間内(平成29年4月1日~令和3年3月31日)に、新品の特定経営力向上設備等を取得又は製作若しくは建設して、国内にあるその法人の指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、特別償却又は税額控除を認める特例措置である。 (※) 所有権移転外リース取引により取得した特定経営力向上設備等については、特別償却の規定は適用されないが、税額控除の規定は適用される。 特定経営力向上設備等は「A類型:生産性向上設備」「B類型:収益力強化設備」に加え、本年4月の新型コロナ税特法によりテレワーク等のための設備として「C類型:デジタル化設備」が追加されたところである。 その他本制度の詳細については下記を参照されたい。 3 令和3年度改正の概要 (1) 制度の統合 中小企業投資促進税制については、令和3年3月31日までとされている特定期間(適用期限)が令和5年3月31日まで2年延長される。 また、以下のとおり、対象となる指定事業や法人の範囲を拡大する見直しが行われる。 上記の改正に伴って、「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」は、対象業種を「中小企業投資促進税制」と統合したうえで、適用期限が到来する令和3年3月31日をもって廃止されることとなる。 なお、上記見直し後の中小企業投資促進税制の制度概要については、下図を参照されたい。 【参考図①】 (※) 経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」p31より (2) M&Aの効果を高める設備類型の追加 中小企業経営強化税制については、中小企業のM&Aの効果を高める設備として新たに「経営資源集約化設備(D類型)」が追加され、適用期限が令和5年3月31日まで2年延長される。 具体的には、関係法令の改正を前提に、特定経営力向上設備等の対象に「計画終了年度に修正ROA又は有形固定資産回転率が一定以上上昇する経営力向上計画(経営資源集約化措置(仮称)が記載されたものに限る)を実施するために必要不可欠な設備」が加わることになる。 また、この特別措置の利便性向上のため、適用の前提となる計画認定手続について、工業会の証明書の取得と同時並行で計画認定に係る審査を行うことにより手続を迅速化する等の柔軟化が図られる。 なお上記対象設備の追加と同様に中小企業のM&Aを推進する措置として中小企業事業再編投資損失準備金制度が創設されるが、詳細は他稿を参照されたい。 * * * 上記(1)(2)の改正全体については、下図を参照されたい。 【参考図②】 (※) 経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」p29より 4 改正の背景 経済産業省による「令和3年度税制改正(租税特別措置)要望事項」のうち、「中小企業投資促進税制」を参考に、経済産業省が制度の延長を要望した狙いと、過年度における本税制の適用実績をみておきたい。 (1) 政策目的と施策の必要性 要望事項では、経済産業省は政策目的について次のように説明している。 そのうえで、施策の必要性については、次のとおり説明している。 (2) 過年度における適用件数と税収の減少額 経済産業省の要望書から、過年度における「中小企業投資促進税制」の適用実績を引用しておきたい。 【中小企業投資促進税制適用実績】 なお、大綱によって、「中小企業投資促進税制」の対象拡大に伴って適用年限の延長がされないこととなった「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」であるが、当初、経済産業省は、こちらの税制についても適用年限の延長を要望していた。理由は明らかにされていないものの、結果的に、「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」は廃止となったわけだが、参考までに、こちらの過年度の適用実績も経済産業省の要望書から引用しておきたい。 【商業・サービス業・農林水産業活性化税制適用実績】 両方の制度で「指定事業」の多くが重複していることに加え、「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」の方は、適用件数、税収への影響ともに、「中小企業投資促進税制」の10分の1以下の水準に止まっており、このあたりを理由に、制度を統合したうえで廃止するという結論が導き出されたのかもしれない。 最後に大綱12ページでは、「中小企業による積極的な設備投資等の支援」の目的について、次のように説明している。 (了)
《速報解説》 活発な研究開発を維持するための研究開発税制の見直し ~令和3年度税制改正大綱~ 弁護士 羽柴 研吾 1 はじめに 12月10日に与党(自由民主党・公明党)より公表され同月21日に閣議決定された「令和3年度の税制改正大綱」では、研究開発税制の拡充・延長措置が明記された。 今回の見直しには、コロナ禍において様々な変化が生じていることを踏まえ、企業の国際競争力を失わせないようにするためには、研究開発投資を持続・拡大させる必要があるとの背景事情がある。 2 改正の概要 (1) 試験研究費の総額に係る税額控除制度(総額型)及び中小企業技術基盤強化税制の見直し コロナ禍において、売上が一定程度減少している企業が生じている実態を踏まえ、研究開発投資を増額していくインセンティブが維持されるように、次の見直しが行われる予定である。 ① 控除率カーブの見直し及び控除率の下限の引下げ 総額型の税額控除率の下限を6%から2%に引き下げた上で、上限を14%とする特例の適用期限を2年延長することとされた。また、控除率カーブの見直しとして、増減試験研究費割合が8%から9.4%に変更することとされている。 その結果、控除率の計算式は次の表のように変更となる予定である。 (注1) 増減試験研究費割合とは、増減試験研究費の額(試験研究費の額から比較試験兼研究費の額を減算した金額)の当該比較試験研究費に対する割合 (注2) 比較試験研究費とは、前3年以内に開始した各事業年度において損金の額に算入される試験研究費の額を平均した額 なお、試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合における税額控除率の特例及び税額控除の上限の上乗せ特例の適用期限は2年延長されることとなっている。 〔控除率の見直し〕 (※) 経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」p12より ② 控除上限を法人税額の25%から30%に引上げ 総額型の控除上限については法人税額の25%とされているが、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度のうち、基準年度比売上金額減少割合(注3)が2%以上であり、試験研究費の額が基準年度試験研究費の額(注4)を超える事業年度の控除税額の上限に、当期の法人税額の5%を上乗せすることとされた。 (注3) 「当期の売上金額が令和2年2月1日前に最後に終了した事業年度の売上金額に満たない場合、その満たない部分の金額のその最後に終了した事業年度の売上金額に対する割合」をいう。 (注4) 「令和2年2月1日前に最後に終了した事業年度の試験研究費の額」をいう。 〔控除上限の引上げ〕 (※) 経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」p12より ③ 中小企業技術基盤強化税制について 中小企業技術基盤強化税制についても、上記①と②と同様の観点から次の改正が行われる予定である。ただし、控除率等の数字は異なる。 (※) 経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」p37より (2) オープンイノベーション型の対象範囲の追加等に関する見直し 特別試験研究費の額に係る税額控除制度(オープンイノベーション型)の対象に、産学官連携のさらなる活性化を図るため、国立大学・国立研究開発法人の外部化法人との共同・委託研究を追加するとともに、その税額控除率は25%とすることとされた。 (注5) 特別研究機関等の範囲に、人文系の研究機関を加えることとされた。 (注6) 法人は、その事業年度における特別試験研究費の額であることの共同研究の相手方の確認について、第三者(例えば、税理士や公認会計士)が作成した報告書等によって確認できるような運用の改善が行うこととされている。 (注7) 上記(注5)(注6)の他に、事務手続の簡素化や運用改善及び適正化に関する改正が行われる予定である。 (3) 試験研究費の定義の見直し 試験研究費は、現行法上、①製品の製造若しくは技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用、②対価を得て提供する新たな役務の開発に係る試験研究として政令で定めるもののために要する費用で、政令で定めるものと規定されている(租税特別措置法第42条の4第8項)。 今回の改正によって、試験研究費のうち、会計上、研究開発費として損金経理された金額で非試験研究用資産(注8)の取得価額に含まれるものを加えることとされた。 (注8) 非試験研究用資産とは、棚卸資産、固定資産及び繰延資産で、事業供用の時に試験研究の用に供さないものという。 この改正は、AIやデータを活用しビジネスモデルを変革させる企業に対する研究開発を促す観点から、クラウド環境で提供するソフトウェアなど自社利用ソフトウェアの研究開発投資を本税制の対象にすることを念頭においたものである。なお、試験研究費の範囲からリバースエンジニアリングを除外するなどグローバルスタンダードに合わせた見直しも行うこととされている。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和2年4月~6月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2020(令和2)年12月17日、「令和2年4月から6月までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり、所得税法及び消費税法が各2件、国税通則法及び相続税法が各1件の、合わせて6件となっている。 今回の公表裁決では、6件のすべてが国税不服審判所によって、原処分庁の課税処分等の全部又は一部が取り消されている。 【表:公表裁決事例令和2年4月から6月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された6件の裁決事例のうち、いずれも原処分庁の賦課決定処分の全部を、国税不服審判所が取り消すという判断を示した裁決3件について、検討したい。 なお、複数の争点がある裁決についても、その一部を割愛して、重加算税の賦課決定処分の可否に争点を絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておきたい。 1 相続放棄の申述をした請求人に対して、原処分庁が相続放棄の無効を前提として行った不動産の差押処分・・・① 本件は、原処分庁が、滞納法人の納税保証人(以下「被相続人」という)が死亡したことから、その配偶者である審査請求人が被相続人の納付義務を承継したとして、請求人名義の不動産を差し押さえたのに対し、請求人が、相続放棄を行ったから納付義務は承継していないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 事実関係 審査請求人の配偶者である被相続人は、平成31年1月に死亡するまで、H社の顧問として顧問料の支払いを受けていたところ、その顧問料(月額50万円)は、請求人名義の銀行預金口座に振り込まれていた。被相続人の死亡後の、請求人による銀行預金口座の入出金状況は、以下のとおりである。 (2) 争点 請求人は、請求人に民法第921条に規定する法定単純承認事由に該当する事実があるものとして、本件滞納国税の納付義務を承継するか否か。 民法第921条(法定単純承認) (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、 本件金員が相続財産に該当するかどうかについては、本件金員は、相続開始後、請求人の預金口座に振り込まれたものであるが、本件金員は、被相続人とH社との間の委任契約に基づいて振り込まれたものであり、その原資が本件報酬債権であることから、報酬債権の一部が化体した相続財産であると認められると判断した。 そのうえで、審査請求人が、平成31年1月29日に本件金員相当額を請求人名義の預金口座から出金したことについては、保管の態様が預金口座からの払戻請求権から現金に換わるだけで、費消されやすくはなるものの、占有者が変更されるわけではないことから、相続財産の処分には該当しないと判断した。 さらに、請求人が、預金口座から出金した本件金員相当額の現金を、本件相続に係る相続放棄の申述が受理されるまでに一部でも費消したという事実が認められない限り、本件相続に係る相続財産の経済的価値を減少させる請求人の行為があったとは言い難く、審判所の調査によっても、請求人が、本件金員相当額を費消していたという事実は認められないことから、請求人に法定単純承認事由に該当する事実はなく、請求人の相続放棄の申述は有効であり、請求人は本件被相続人の納付義務を承継しないとの判断を示したうえで、滞納国税の納付義務を承継しないと結論づけ、原処分の全部を取り消す裁決を行った。 2 財産評価-騒音により利用価値が著しく低下している土地に該当するとした事例・・・④ 本件は、審査請求人が、相続により取得した土地について、①広大地に該当すること及び②鉄道騒音により利用価値が著しく低下している宅地に該当することを理由に、当該相続に係る相続税の更正の請求をしたところ、原処分庁が、①については認める一方、②については利用価値が著しく低下している宅地に該当しないなどとして更正の請求の一部を認めない減額更正処分をしたことに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 本件土地は、利用価値が著しく低下している宅地として減額して評価すべきか。 (2) 利用価値が著しく低下している宅地の評価 国税不服審判所は、裁決のなかで、国税庁タックスアンサーNo.4617「利用価値が著しく低下している宅地の評価」の内容を引用し、利用価値が著しく低下している宅地について、10%を減額して評価すること(以下「本件取扱い」という)相当であると認めているため、裁決文から引用しておきたい。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、騒音により利用価値が著しく低下している宅地として本件取扱いにより減額して評価すべきであるのは、①当該宅地の評価に当たって用いる路線価が騒音の要因を考慮して付されたものではないこと(路線価における騒音要因のしんしゃく)、②騒音が生じていること(騒音の発生状況)、及び③騒音により当該宅地の取引金額が影響を受けると認められること(騒音による取引金額への影響)の3つの要件が満たされている場合とするのが相当であるという判断基準を示した。 そのうえで、本件土地については、①本件路線価に騒音の要因がしんしゃくされていないこと、②d鉄道e線の列車走行により、相当程度の騒音が日常的に発生していたと認められること、③当該騒音により、その地積全体について取引金額が影響を受けていると認められることから、本件土地の全体につき、騒音により利用価値が著しく低下している宅地として本件取扱いにより減額して評価すべきものと認められるとして、更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであると結論づけた。 3 仕入税額控除-請求人と取引先との売買契約は通謀虚偽表示には当たらないとした事例・・・⑥ 本件は、日本中央競馬会に個人馬主として登録し、所有する競走馬を競馬に出走させて賞金等を得る事業を継続的に行っている審査請求人が、取引先であるH社から取得した軽種馬の代金を、課税仕入れに係る支払対価の額に計上して消費税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該軽種馬の各取引に係る売買契約は通謀虚偽表示により無効であり、当該代金の一部は課税仕入れに係る支払対価の額とは認められないとして更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分庁の認定した事実には誤りがあるなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (1) 事実関係 H社は、農業協同組合が年に数回開催するオークションを通じて軽種馬を落札して、購入したうえで、請求人は、H社からこれらの軽種馬を購入した。 この取引に対して、原処分庁は、N国税局所属の調査担当職員の調査に基づき、請求人の各課税期間の消費税等について、請求人はH社から軽種馬を取得したとしているが、実体はH社の名義を利用し、農業協同組合を通じて直接取得したものと認められるとして、仕入税額控除の額を計算し、消費税等の各更正処分をした。 また、原処分庁は、本件調査に基づき、請求人がH社から購入した軽種馬の代金と、H社が農業協同組合の主催するオークションで購入した軽種馬の代金との差額(以下、「本件差額」という)を課税仕入れに係る支払対価の額に含めて過大に仕入税額控除の額を計算して各課税期間の消費税等の確定申告書を提出したことは、隠蔽又は仮装の行為に該当するとして、過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をした。 (2) 争点 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、請求人とH社との間の売買取引について、各取引に係る売買契約については、請求人及びH社の双方が合意したことを示す売買契約書が存在し、原処分庁及び請求人においてその成立の真正に争いはないことから、各取引に係る売買契約は有効に成立していると認められる以上、当該売買契約は、本件各取引が実体を伴わない取引であって通謀虚偽表示であるなど特別の事情があると認められない限り、無効とはならないという判断を示した。 さらに、原処分庁による、請求人及びH社が、通謀虚偽表示を行う動機として、請求人とH社代表者は親密な関係にあり請求人からH社に対して利益を供与する動機があったこと、請求人はH社を介在させることで消費税等の税負担を減らすことができたこと、H社においても法人税の繰越欠損金を有し、消費税等の免税事業者であったため、各取引によって、法人税及び消費税等の税負担が生じていなかったという主張に対して、請求人は、H社の株主や役員ではなく、また、当審判所に提出された全証拠からしてもH社に対して利益を供与するような特別な関係があったとまでは認められず、請求人及びH社には、各取引について通謀虚偽表示を行う十分な動機があったとまではいえないとして、原処分庁の主張を斥けた。 そのうえで、売買契約については、契約内容のとおり履行されており、また、請求人とH社との間に通謀虚偽表示を行う十分な動機があったとまではいえないうえ、通謀虚偽表示であることを基礎付ける証拠もないから、各取引に係る売買契約が通謀虚偽表示により無効であり、本件各取引が実体を伴わない取引であると認めることはできないことから、本件差額は、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額に該当するという判断を示して、平成27年課税期間に係る更正処分の一部及び平成29年課税期間に係る更正処分の全部を取り消したうえで、これらの処分を前提として行われた過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分の全部を取り消す裁決を行った。 (了)
《速報解説》 電子帳簿等保存制度の大幅緩和 ~令和3年度税制改正大綱~ 税理士 中尾 隼大 令和2年12月10日に自由民主党・公明党より公表され12月21日に閣議決定された「令和3年度税制改正大綱」では、電子帳簿等保存制度について、事前承認の廃止などの大幅な緩和が盛り込まれた。以下では、そのポイントを解説したい。 (1) 緩和の背景と目的 今回の改正は、昨今の経理の電子化による生産性向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト活用による記帳水準の向上を目的としており、帳簿書類等を電子保存する際の手続きにつき、所得税・法人税・消費税等を対象とした横断的な緩和がなされることとなった。今回の改正は、新型コロナウイルス感染拡大を背景として、経済産業省等からの税制改正要望に応えた形であるといえる。 なお、現行の厳格な要件を満たす電子帳簿は信頼性が高いとしてインセンティブ措置が設けられる一方、スキャナ保存制度等について、電子データの不正改ざんを抑止するための措置も設けられている。 (2) 電子帳簿保存制度の見直し 現行制度からの改正点は次のようになる(改正に関連する要件のみ対比として記載する。以下同じ)。 (※) その他、所得税の青色申告特別控除の控除額65万円の適用要件について、上記②の現行要件の充足が追加される。 (3) スキャナ保存制度の見直し 現行制度からの改正点は次のようになる。 (※) その他、スキャナ保存が行われたデータについて改ざん等が認められた場合には、通常の重加算税の額に本税の10%相当の金額が加算されるという新たなペナルティが設けられている。 (4) 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度の見直し 現行制度では、電子取引にて請求書等の交付を受けた場合において、タイムスタンプを遅滞なく付与する等した上で、検索要件について を満たせば、電磁的記録により保存が可能となっている。 今回の税制改正により、タイムスタンプ付与期間が最長約2ヶ月とされたうえで、検索項目が「年月日・金額・取引先」に限定されるという改正がなされる。なお、税務職員のダウンロードの求めに応じることで、検索の範囲指定や複数要件指定が不要となる他、売上高1,000万円未満の保存義務者は、検索要件の全てが不要となる。 その他、スキャナ保存と同様に、データについて改ざんが認められた場合には、通常の重加算税の額に本税10%相当の金額が加算されるペナルティが設けられている。 【参考図】 電子帳簿保存制度の各種要件と令和3年度税制改正大綱における見直し事項(全体像) (※) 経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」p44より (了)
《速報解説》 監査役協会、子会社による不祥事事例の継続的発生を受け、 不祥事防止の観点も合わせた企業集団の監査の在り方を検討 ~アンケート結果を分析し、監査体制強化に向けた提言を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年12月16日、日本監査役協会 ケース・スタディ委員会は、「企業集団における不祥事防止を切り口とした監査体制強化の在り方」を公表した。 これは、子会社に端を発する不祥事事例が続いていることから、改めて不祥事防止の観点も合わせて企業集団の監査の在り方を検討したものである。 報告書は表紙を含めて110ページあり、以下では主な内容について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 不祥事事例から浮かび上がった問題点 企業不祥事事例について検討した結果、不正の内容は異なるものの、企業集団において子会社で不正が起きやすい主な要因として、次の傾向が見られる。 Ⅲ アンケート結果から窺える実態 「親会社又は子会社(双方を有する場合も含む)を有する監査役(会)設置会社の監査役」を対象にして、次の事項に関するアンケートを実施し、1,925社(親会社1,082社、子会社843社)から回答を得ている。 報告では、アンケートの結果と各事項に関する回答傾向が記載されている。 Ⅳ 企業集団における不祥事防止を切り口とした監査体制強化に向けた提言 アンケート調査で、半数以上の親会社監査役と内部監査部門が子会社監査を実施しているという状況下において、その人員は必ずしも余裕があるものではなく、限られた体制で監査を実施しているという実態が明らかとなった。 また、子会社に監査役等や内部監査部門が設置されている場合であっても、親会社の監査役と子会社の監査役等との連携は形式的なものに留まっているという状況も見受けられた。 報告書では、現状の親会社及び子会社の監査体制を前提にリスクの評価と監査の効率性や実効性の向上を図るという観点から、次の提言が記載されている。 (了)