〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例10】 株式会社ピーシーデポコーポレーション 「弊社プレミアムサービスご契約のお客様対応に関するお知らせ」 (2016.8.17) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社ピーシーデポコーポレーション(以下「ピーシーデポコーポレーション」という)が平成28年8月17日に開示した「弊社プレミアムサービスご契約のお客様対応に関するお知らせ」である。同社が提供している「プレミアムサービス」について、今後、以下のように対応することにしたという内容である。 2 開示に至った経緯 ピーシーデポコーポレーションは、この開示の後、平成28年8月25日に「弊社プレミアムサービスの具体的な取り組みに関するご報告」を開示しているのだが、その添付資料においてプレミアムサービスは次のように定義されている。 そして、17日の開示に至った経緯については、次のように記載されている。 平成28年8月14日に「ピーシーデポコーポレーションから高額な解約料を請求された」という書き込みがSNSにあり、それに反応するように、同社の株価が下落したため、17日の開示を行うこととなったのである。ちなみに、12日の同社株式の終値は1,450だったが、下がり続け、9月14日には625円まで値を下げている。 3 株価下落の本当の原因 SNSに書き込みが行われた後、ピーシーデポコーポレーションの株価が下落したため、SNSを通じて同社のブラックなイメージが広がって、同社の株価が下落したのだ、と思われるかもしれない。しかし、おそらくそうではないと思われる。 マイナスな情報がSNS上で流通している企業はほかにもあるが、そうした企業の株価がピーシーデポコーポレーションの株価と同様に変動しているわけではないし、個人投資家が多数派の新興市場ならばいざ知らず、同社が上場している東証一部市場でイメージだけで株価が大きく変動するとは思われない。 プレミアムサービス事業は同社の業績向上の牽引役だったのだが、そのビジネスモデルに問題があるということに今回の件で投資家が気づかされた、というのが、株価下落の本当の原因なのではないだろうか。 17日の開示の添付資料には、プレミアムサービスの料金例が記載されている。例えば、「(ELDALT3)データPS新さんねんエリートファミリーワイドプラン(W)」の場合、月額料金は税込5,400円だが、加入当月の解約料は税込70,200円、加入から12ヶ月後でも税込64,796円である。 短期間で解約すると、高額な解約料がかかってしまう(利用しない場合でも、すぐにはやめられない)サービスであり、今後も消費者に受け入れられるのかについて疑問符が付されたのだろう。 4 なぜ70歳以上?75歳以上? 17日の開示に記載された「1.今後の対応」によると、ピーシーデポコーポレーションは、プレミアムサービスの高額な解約料への批判を受けて、今後、顧客が70歳以上の場合は3ヶ月以内、75歳以上の場合はいつでも無償で解約できることにしたようである(注)。 70歳以上や75歳以上という設定がどのような考えに基づいて行われたのかは、明らかにされていない(そうした年齢層の顧客ならば、それほど数が多くないので、無償で解約されても、業績への影響は小さいと考えたのだろうか)。 この対応をどう捉えるかは、人により異なるかと思われる。69歳の顧客や、契約期間が3ヶ月を超えた74歳の顧客が解約する場合は、依然として高額な解約料がかかるのである。 (注) 「1.今後の対応」の2では、70歳以上の場合、3ヶ月以内は無償で解約可能、3では、75歳以上の場合、いつでも無償で解約可能とされている。しかし、2の後半には、75歳以上の場合、1ヶ月以内は無償で解約可能という記載もある。また、1では、年齢と期間を示さず、使用状況にそぐわない場合は無償で解約可能とされている。 5 契約後にテスト? 25日の開示には、以下のような記載がある。 契約手続の後、「品質管理スタッフ」から、契約内容等を理解しているかどうかについてのテストを受けるようである。自分が顧客であれば、かなりうんざりさせられる対応である。 17日の開示の「1.今後の対応」の5には、「引き続きお客様にわかりやすい対応を図っていく所存」と記載されているが、これが顧客にとってわかりやすい対応であるようには思われにくい(そもそも「1.今後の対応」の記載内容そのものが、わかりやすくはない)。 ピーシーデポコーポレーションに求められているのは、消費者に受け入れられる、新たなわかりやすいサービスの開発ではないだろうか。 (了)
《速報解説》 日本取締役協会・投資家との対話委員会が 「経営者報酬ガイドライン」を改訂(第四版) ~PFP強化、不適切会計等へのリスク管理、報酬委員会の機能強化等を盛り込む~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年10月26日、日本取締役協会・投資家との対話委員会は、「経営者報酬ガイドライン(第四版)」を公表した。 経営者報酬ガイドラインは、平成17年(2005年)から公表しているが、今回の主な変更点として、次のことをあげている(2ページ)。 ガイドラインの公表に際して、添付資料(日米CEO報酬と業績の比較など)と「経営者報酬制度の実態調査報告書」もホームページに掲載されている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 インセンティブ(経営者報酬の方針) 平均的なCEO報酬(全体を100%とすると基本報酬が64%、年次インセンティブ(業績連動賞与)が17%、長期インセンティブが19%)は、欧米企業と比較すると、年次インセンティブ(業績連動賞与)と長期インセンティブが占める割合は低いとのことである(5ページ)。 そこで、平均的なCEO総報酬における年次インセンティブ(業績連動賞与)及び長期インセンティブの割合をより高めていくことにより、株主へのアカウンタビリティと経営者への業績達成の2つの視点からリスクとリワードの関係をより高めていくことが述べられている。 また、短期的(2~3年以内)には、基本報酬の水準が極端に高い場合を除いて、基本報酬の現行水準は維持したうえで、基本報酬:年次インセンティブ(業績連動賞与):長期インセンティブ=1:1:1程度の比率をめざし、中長期的(10年後)には、1:2~3:2~3程度の比率を目指すとしている。 2 リスク管理(経営者報酬の方針) リスク管理として、過度なインセンティブが要因となりえる会計不正・修正を未然に防止する工夫として、インセンティブ報酬には、自社株保有ガイドライン、クローバック条項(払い戻し規定)・マルス条項(権利移転前の報酬への強制没収条件)等の設定有無のある場合には、その内容を開示することが述べられている(6、12ページ)。 3 長期インセンティブ 中長期の株主価値とリンクした次のような長期インセンティブ報酬制度(株式報酬)を導入するとしている(8ページ)。 そのほか、次のことも述べている(9ページ)。 まったく中長期インセンティブを持たないアカウンタビリティの欠如した固定重視の報酬体系を維持しつづける理由を探すことのほうが難しいと、解説において述べられている(9ページ)。 4 報酬委員会 すべての公開企業は報酬決定に関する独立した委員会(報酬委員会)を設置し、過半数の独立取締役により構成すると述べている(10ページ)。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「財務情報の保証業務等の契約書の作成について」を改正 ~実務指針を受け「財務諸表のレビュー業務」及び 「合意された手続業務」の契約書作成例を見直し~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年10月12日(ホームページ掲載日は10月25日)、日本公認会計士協会は、「財務情報の保証業務等の契約書の作成について」(法規委員会研究報告第10号)の改正を公表した。 これは、平成28年に保証業務実務指針2400「財務諸表のレビュー業務」(以下「保証実2400」という)及び専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」(以下「専門実4400」という)が公表されたことを受けたものである。 監査及び四半期レビューについては、「監査及び四半期レビュー契約書の作成例」(法規委員会研究報告第14号)が公表されている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 保証業務のうち、公認会計士等の主たる業務である会社法又は金融商品取引法の規定に基づく財務諸表等の監査、内部統制監査及び四半期レビュー、並びにこのような制度に準じて任意で実施する財務諸表等の監査、内部統制監査及び四半期レビュー(任意監査等)は研究報告第14号の対象とし、保証実2400に準拠して実施する財務諸表のレビュー業務を本研究報告の対象としている(Ⅲ、2)。 また、専門実4400に準拠して実施する合意された手続業務についても本研究報告の対象としている。 1 レビュー契約書の作成例に関する留意事項 レビュー契約書の作成例の利用に当たっての留意事項として、保証実2400の用語を用いていること、レビュー契約書の記載事項についての要求事項及び適用指針は、保証実2400で定められていることが述べられている(Ⅳ、1)。 保証実2400は、職業的専門家としての基準等(公認会計士協会会則41条)に該当するのに対し、本研究報告は、職業的専門家としての基準等を直接構成するものではなく、実務指針を適用するための実務上の参考と位置付けられている。 2 レビューの目的及び範囲(契約書の記載内容) レビューの目的及び範囲について、次の事項を記載する(Ⅳ、3(2))。 3 経営者の責任(契約書の記載内容) レビュー契約書には、経営者の責任を記載しなければならない(保証実2400第38項(5))とし、次の項目を記載する(Ⅳ、3(4)①)。 特別目的の財務諸表のレビュー業務では、次の事項も記載する。 4 適用される財務報告の枠組み(契約書の記載内容) レビュー契約書には、財務諸表の作成において適用される財務報告の枠組みを記載しなければならない(保証実2400第38項(2))とし、次の事項を述べている(Ⅳ、3(4)③)。 研究報告では、「Ⅴ 合意された手続業務契約書等の作成例」に関する記載の改正も行われている。 (了)
《速報解説》 金融庁から「平成28事務年度 金融行政方針」が公表 ~監査法人のガバナンス・コード策定、 フェア・ディスクロージャー・ルール導入に向けた検討等の方針示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年10月21日、金融庁は「平成28事務年度 金融行政方針」を公表した。 金融行政方針では、①「共通価値の創造」を目指した金融機関のビジネスモデルの転換(金融機関は現在のビジネスモデルが環境変化の下で持続可能か検証が必要)、②金融機関等による「顧客本位の業務運営」(フィデューシャリー・デューティー)の確立と定着、③FinTech(金融・IT融合)への対応など幅広い方針が記載されている。 本稿では、金融行政方針のうち、会計監査、開示及び会計基準の質の向上に関する記載に焦点をあてて解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計監査、開示及び会計基準の質の向上 会計監査、開示及び会計基準の質の向上について、以下のように述べられている(14~16ページ)。 1 会計監査の質の向上 2 開示及び会計基準の質の向上 Ⅲ 監査監督機関国際フォーラム(IFIAR) 日本の国際的地位と東京の金融センターとしての地位の向上及び監査の品質向上の重要性に鑑み、監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)常設事務局を東京に誘致し、2016年4月に東京設置が決定されている。 我が国におけるIFIAR事務局の活動のサポート及びIFIAR要人等との意見交換を通じた、我が国における監査の品質に関する意識向上のため、国内の関係団体によるネットワークの構築を図ることが述べられており、また、一元的な金融監督当局としての知見も活用しつつ、金融庁として、今後のグローバルな監査の品質向上に向けて積極的に貢献していくとしている(32ページ)。 (了)
本誌連載 「「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント」が 書き下ろし事例を大幅追加し書籍になりました!! ~日本税理士会連合会の推薦図書に~
2016年10月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.190を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第1回】 「土地の地積について」 税理士 笹岡 宏保 基本的な論点 土地の評価は、「単位×数量(地積)」により求められるものです。 この場合の「地積」は、評価実務においては何を基に算定することになるのでしょうか。土地の登記簿謄本上の地積(公簿地積)を使用すれば、それで良いのでしょうか。 これらの論点を実務上の目線から検討してみることにします。 解決への指針 (1) 評価実務における「地積」の考え方 財産評価基本通達(以下「評価通達」といいます)8(地積)の定めでは、「地積は、課税時期における実際の面積による」とされています。 ここで注目しておきたいのが、「実際の面積」と表現されていることで、「実測による面積」とは表現されていない点です。 この2つの用語の差異について、評価通達には注書き等による解説は示されていませんが、国税庁ホームページ上で公開されている質疑応答事例では「実際の地積」によることの意義について、要旨次の通りの考え方が示されています。 (※) 国税庁・質疑応答事例「「実際の地積」によることの意義」より そうすると、次に掲げるような土地については、実測による地積が容易に確認できると考えられますので、評価通達8に定める実際の面積は、実測による地積と一致すると認識する必要があるものと考えられます。 (2) 地積を把握するために必要な資料 上記(1)を受けて、評価通達8(地積)に定める実際の面積を確認するための資料として、土地関係の資料として法務局に備えられており収集が可能とされる主な資料として、次の①から③に掲げるものが挙げられます。これらの資料の差異は主に、地図又は図面の精度の差異によるものとなります。 ① 不動産登記法第14条に規定する地図(通称:14条地図) 不動産登記法に規定する地図に該当するためには、三角点(国土地理院が確定させる国家基準点)を基礎にして測量法の諸規定によって境界を測定した一定水準の精度を担保しているものであることが必要とされています。 この地図は、不動産登記法第14条に規定されていることから、通称として「14条地図」と呼称されています。この14条地図をさらに区分すると、次の3つになります。 ② 公図(地図に準ずる図面) 地図に準ずる図面とは、土地の区画を明確にした不動産登記法所定の地図(14条地図)が備え付けられるまでの間、これに代わるものとして備え付けられている図面で、土地の位置及び形状の概略を記載したものをいい、通称、これを「公図」と呼称しています。 この地図に準ずる図面をさらに区分すると、次の3つになります。 ③ 地積測量図 地積測量図とは、地積の変更(例として、地積更正登記を行う場合)や分筆(分筆登記を行う場合)に当たって、新たな地積を記載して登記申請を行うための添付資料として法務局へ提出することが義務化されている図面をいいます。 (注) 地積測量図面であっても、製作年度が古いものは正確性を担保していると認定できないものもありますので、留意する必要があります。すなわち、昭和53年12月31日までは地積測量図の作成に当たって、隣地所有者の立会制度の規定がなかったこともあり、このような状況下で作成された地積測量図の正確性を巡って、後日、トラブルになる事例も少なくなかったようです。 (了)
日本の企業税制 【第36回】 「いわゆる『103万円の壁』の引上げがもたらす影響について」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 一昨年の政府税制調査会による「働き方の選択に対して中立的な税制の構築をはじめとする個人所得課税改革に関する論点整理(第一次レポート)」で、配偶者控除の見直しに関する選択肢が示されて以来、配偶者控除の存廃も含めた議論が注目されてきたが、平成29年度税制改正においては、配偶者控除制度自体は存続させる一方、いわゆる「103万円の壁」について、金額の引上げが検討される方向にあると報じられている。 平成29年度税制改正の議論は、政府与党ともこれからが本番であり、結論はそれを見なければわからないが、仮に報道のような方向で進むとすればどのような課題があるか考えてみたい。 ◆ ◆ ◆ 現行制度では、一方の配偶者の収入が給与である場合に、その給与収入額が一定額を超えると、その配偶者自らが納税者となるのみならず、他方の配偶者の所得について配偶者控除の適用を受けられなくなる。その一定額とは、38万円と給与所得控除の下限額(65万円)とを合計した金額103万円であり(所法83、2①三十三)、これを称して、「103万円の壁」といわれている。 103万円を引き上げるとなると、その構成要素である38万円を引き上げるか、給与所得控除の下限額(65万円)を引き上げるかのいずれか(あるいは両方)の方法をとることとなる。 このうち38万円の引上げは、仮に基礎控除額(38万円)と連動することとなると、全ての納税者の課税所得を減少させることとなり、相当の減税規模となることが見込まれる。もっとも、「控除対象配偶者」の要件となる38万円については、沿革的には、必ずしも基礎控除の金額と一致するものではなく、昭和56年度改正において22万円から引き上げる際、当時の基礎控除額(29万円)を超えるのは、税制として不合理であり、基礎控除額と同額が限度であるということで、基礎控除額と同額の29万円とされて以来、一致しているにすぎない。基礎控除額を超えてもよいとする説明ができるかが問われよう。 一方、給与所得控除の下限額の引上げは、一定の給与収入の層にのみ減税効果が生じることとなる(もっとも、給与所得控除の構造の変更があれば、他の層にも影響が生じることになる)。 基礎控除を引き上げる場合は、単純に金額をプラスすればよいが、給与所得控除の下限額を引き上げる場合には、金額をプラスするだけでは不具合が生じるおそれがある。 平成29年分の給与所得控除の構造は次のとおりである。 なお、給与所得控除の下限額は平成元年に65万円に改正されて以来、変更されていない。昭和48年までは、定額控除(16万円)と定率控除の組み合わせであったところ、昭和49年から両者を統合し、下限額(当初は50万円)が創設された。その後、下限額は、昭和59年に57万円、平成元年に65万円に引き上げられ、現在に至っている。 昭和59年の引上げに際しては、当時の政府税制調査会の昭和58年の中期答申において、 として、 とした。 この中期答申を踏まえて、給与所得控除の最低控除額を55万円に引き上げる改正となったのだが、昭和59年度予算の衆議院予算委員会での審議の過程で、野党側からパート収入限度額の一層の引上げが強く主張され、与野党折衝の結果、2万円が議員立法によって上乗せされたという経緯がある。 前述の図表に当てはめると、控除率40%が適用されるクラスの控除額の最高額は72万円、30%のクラスは126万円、20%のクラスは186万円、あとは10%で上限の220万円である。 現行の下限額65万円を引き上げる場合、72万円までであれば、現行の定率控除の構造を変更する必要はないが、72万円を超えると、40%を適用するクラスが消滅し、いきなり30%のクラスからスタートすることが考えられる。 現行、30%のクラスが給与所得360万円までということとなっているが、40%のクラスが消滅した場合、その影響で、30%のクラスの控除額の最高額は108万円となる(現行より18万円減少)可能性がある。 ◆ ◆ ◆ このように、給与所得控除の下限額を変更すると、定率控除の構造自体に影響を及ぼすおそれがあり、それに伴う増減税が生じることから、改正には注意が必要となる。 (了)
「中小企業等経営強化法」の成立について ~中小企業を支援する新たな枠組みの導入へ~ 【前編】 佐伯 徳彦 (※1) 平成28年5月24日の衆議院本会議において、「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律の一部を改正する法律」が可決・成立し、6月3日に公布、7月1日に施行した(※2)。 本改正により、法律の名称は「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」から「中小企業等経営強化法」へと改題され、「事業分野別指針」(法12)、「経営力向上計画」(法13~14)、「事業分野別経営力向上推進機関」(法26~30)が新設され、支援措置についても拡充された。また、附則において、地方税法を改正し、固定資産税の軽減措置が導入された(※3)。 この改正により、生産性向上に向けた情報の流路を確保しつつ、中小企業者等による生産性向上に取り組む活動を支援する枠組みが設けられた。 なお、本法は、平成28年3月4日の閣議決定以前に、1月22日安倍総理の施政方針演説において「中小企業版の「競争力強化法」」として言及されたものである(※4)。 本稿では、法律の改正の背景や目的を説明させて頂く。 (※1) 中小企業庁事業環境部企画課長補佐(総括)。今回の法改正については、非常に多くの方々から御知見・御示唆・御協力・御理解を頂いた。改めて感謝申し上げたい。 (※2) 平成28年3月4日に閣議決定された。参議院先議として、参議院経済産業委員会に4月4日付託され、5日提案理由説明、14日に可決、15日に参議院本会議において全会一致で可決され、衆議院へ送付された。衆議院経済産業委員会に5月12日に付託され、13日提案理由説明、20日に可決され、24日の衆議院本会議において全会一致で可決され、成立した。 (※3) 法律の概要、申請書等の法律に関する資料については、中小企業庁HPを参照して頂きたい。また、具体的な申請の方法については、「-中小企業等経営強化法- 経営力向上計画策定・活用の手引き」を御活用して頂きたい。なお、電話相談窓口として、「経営力向上計画相談窓口」を設けている。電話番号は、03-3501-1957(平日9:00-12:00、13:00-17:00)となるので、御不明の点があれば積極的に御利用頂きたい。 (※4) 今回の法改正は、「第百九十回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説」(平成28年1月22日)において、「中小企業版の「競争力強化法」を制定します。海外も視野に入れた営業活動、高度な経営管理、そのための人材育成を支援します。生産性を高める設備投資については、固定資産税を3年間半減する、大胆な減税を行います。」として言及されている。詳しくは、首相官邸HPを参照頂きたい。 Ⅰ 「中小企業等経営強化法」への改正の背景 1 法改正の背景(※5) まず、今回の法律改正の背景について説明させて頂く。 一言で申し上げれば、「中小企業の稼ぐ力」の強化に貢献させて頂きたい、ということである。中小企業の生産性は大企業と比べて、2分の1程度となっており、その格差が拡がっている。 〈従業員一人あたり付加価値額の推移〉 (出典) 財務省 法人企業統計年報 現在、「成長と分配の好循環」が主要な政策課題として対策が進められている。「分配」はいわば給与や賃金を意味している。中小企業は雇用の7割を占めているため、中小企業において継続的に賃上げが実現できなければ、GDPの約6割を占める個人消費の刺激を図ることは難しい。賃金引上げのためには、中小企業の生産性が高められ、収益力向上が担保できなければ、その実現は難しい。 そこで、中小企業の生産性や収益力を正面から捉えた仕組みが必要であると考えた。産業構造も、サービス産業化の波によって、大きく変わっている。サービス産業は、雇用の7割を支え、地方では、飲食業や医療や介護が主要な産業となっている。一般的に、海外と比べても生産性が低い状況にあるため、いかに「稼ぐ力」を高められるかが問題となる。 また、間接的な効果ではあるが、事業承継にも効果があると考えている。現在、経営者の平均年齢が60歳になっており(※6)、今後、経営者の方々の引退が進むことが予想される。事業承継が計画的に進まなければ、企業をたたむ必要があるため、ヒト・モノ・カネの集合対である経営資産を無意味に散逸することになりかねない。そのためには、承継する事業そのものの将来性が見える必要がある。そこで、収益性を高めるきっかけとなることを期待しているところである。 (※5) 本法案の策定にあたり、中小企業政策審議会に「基本問題小委員会」を設置して、専門家の視点から、検討を行って頂いた。委員長である一橋大学副学長の沼上幹氏を含め、委員各位、プレゼンテーションを行って頂いた関係者に感謝申し上げたい。各会の資料については、経済産業省HPを参照されたい。 (※6) 帝国データバンク「2015年全国社長分析」(2015年)による。 2 基本的な発想 ① 法律の改題 今回の法律改正により、「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」は「中小企業等経営強化法」へと改題された。旧法では、「創業」、「経営革新」、「異分野連携新事業分野開拓」、「新技術を利用した事業活動」など、「新たな事業活動」の促進が念頭に置かれていた。 一方、今回新設する「経営力向上計画」は、各中小企業が稼ぐ中心となっている本業を念頭に置きつつ、その生産性を高めることを目標としており、必ずしも「新たな事業活動」そのものを目標としている訳ではない。このため、改題することになった。 ② 中小企業に閉じない支援の枠組み また、中小企業が単独では生産性向上が実現できない場合や、業種によっては担い手の多様化に伴い、中小企業以外の主体が活躍されている場合がある。そこで、支援対象を中小企業から拡大することとした。 ③ ガイドラインと支援措置の連結 今回の法改正は、サービス業の方々を支援させて頂けるように制度設計を行っている。サービス業の方々は、製造業や卸売業とは異なり、本業の収益力の向上に関心があり、「新たな事業活動」への関心は相対的に低い(※7)。 〈企業が重視している経営戦略〉 (それぞれについて重視していると回答した割合、単位:%) (出典) 公益財団法人全国中小企業取引振興協会「中小企業・小規模事業者の経営課題に関するアンケート調査」(2016年1月実施) このため、新たな事業活動を促進するのではなく、収益の見える化、技能者の人材育成、IT投資の促進などを通じて、本業のマネジメントの方法を指針やガイドラインとして示すことが有効ではないかと考えた。 また、サービス業では、企業間の生産性格差が大きく、また、相対的に産業間の生産性も大きい(※8)。生産性の高い事例を基礎に業種ごとにガイドラインを策定して普及するメカニズムを構築することが有意義ではないかと考えた。 さらに、全国382万の企業の方々に関心を持って頂く観点からも、業種ごとに整理されている方が、より「自分事」として取り組んで頂けるきっかけになるのではないかと考えた。これに加えて、ガイドラインと支援措置を紐づけることも重要であると考えた。 (※7) 中小企業政策審議会第5回基本問題小委員会資料のうち「資料5 経営力向上の具体化に向けて」のp.3を参照頂きたい。 (※8) 森川正之「サービス産業の生産性分析」(2014年)p.42-43 ④ 「主務大臣」をどうするか サービス業の多くは経済産業省の所掌には属しておらず、他省庁の所管となっている。中小企業庁は全業種の中小企業について政策を一手に引き受けて立案する立場にあるものの、あくまで経済産業省の外局として位置づけられている。 企業は規制を持っている省庁の動向を踏まえて、自社の立ち位置を決定する傾向があるので、経済産業省がサービス業の多く企業に働きかけるのはなかなか難しいようにも思われた。 そこで、今回の法律のスキームでは、思い切って、経済産業省に閉じず、オール霞ヶ関として、各省の協力を頂くことにした。このため、各省自らが所管する業種について、稼ぎ方の指針(事業分野別指針)を作成し、認定を行うことになっている。 ⑤ 生産性向上を広めるための仕組み 生産性向上に向けた取り組みを拡大するためには、業種ごとのガイドラインについて、産業界からのコミットメントを得て策定し、見直しを行った方が、産業界を通じて個別の中小企業者への周知が行われやすいのではないかと考え、後に説明する「事業分野別経営力向上推進機関」を新設することにした。 また、既に法律上設けられている経営革新等支援機関においても、個別の中小企業者等の方々に対する指導助言に加えて、計画策定を中小企業者等に対して推奨して頂くことにした。 〈スキーム図〉 Ⅱ 適用の範囲~「中小企業者等」へと拡大 1 背景 今回の法律改正では、新設する「経営力向上計画」の認定対象を中小企業者以外についても拡大する。具体的には、①中堅企業、②非営利活動に従事する法人を想定しているところである。 まず、①中堅企業の導入の背景として、中堅企業は、地域の中核企業として活動し、多くの中小企業との取引を有する存在であること、また、集客力の源泉として存在し、周囲の中小商業サービス業と顧客を分け合う存在であることがある。こうした場合、中堅企業が廃業すれば周囲の中小企業の存立が危うくなることから、生産性向上支援の対象とすることとした。 もう一つの観点として、中小企業が「卒業」する場合においても、一定の範囲において支援を継続的に受けられるように確保し、中小企業の定義そのものが中小企業の成長を止めることのないように配慮を行った。 中堅企業の具体的な規模は、中小企業等経営強化法施行令第2条第1項及び第3項に基づき、資本金10億円以下又は従業員数2,000人以下の法人としており、いずれかを下回れば中堅企業となる。 また、②非営利活動に従事する法人を追加している。そもそも中小企業は、「会社及び個人」として定義されている(例えば、中小企業基本法第2条第1項)。会社は「営利性」を前提としており、構成員への配当を予定している法人が対象となる。このため、非営利活動に従事する法人については、中小企業にはならず個別立法により手当してきているところである。 新設する「経営力向上計画」では、サービス業を幅広く扱うことを予定しているため、中小企業等経営強化法施行令第2条第2項及び第4項に基づき、医業・歯科医業を主たる事業とする法人、社会福祉法人、特定非営利活動法人を対象としている。 2 支援措置との関係 これらの主体は、一般的には中小企業者向けの措置は受けられない。中小企業等経営強化法に基づく措置としては、独立行政法人中小企業基盤整備機構による債務保証(法19)や食品流通構造改善促進法の例外措置による債務保証(法20)が受けられる。また、中小企業等経営強化法には規定されていないものの、商工組合中央金庫では、自主的な措置として、計画認定取得者に対して、金利の引下げや申請期間の短縮化を行っている。 Ⅲ 事業分野別指針 1 背景 今回の法改正において「事業分野別指針」を新設した(法12)。「事業分野別指針」は、一言でいえば「稼ぎ方のガイドライン」である。業種ごとの特性を踏まえつつ、中小企業の経営のマネジメント手法を分かりやすく導入することを目的としている。 現在(平成28年7月30日)、製造業、卸・小売業、外食・中食、旅館業、医療、保育、介護、障害福祉、貨物自動車運送業、船舶、自動車整備の11分野において策定が行われている(※9)。 (※9) 事業分野別指針についても、中小企業庁HPを御覧下さい。 2 基本的発想 「事業分野別指針」は、中小企業者等が「経営力向上計画」を策定する際に、利用して頂くことを想定している。また、経営革新等支援機関が、中小企業者等に対してコンサルティング活動を行う際に、1つの素材として利用されることも期待したい。 事業分野別指針の構成としては、製造業の指針を例にとると、「現状認識」、「経営力向上の実施方法に関する事項」、「経営力向上の内容に関する事項」、「海外において経営力向上に係る事業が行われる場合における国内の事業基盤の維持その他経営力向上の促進に当たって配慮すべき事項」、「事業分野別経営力向上推進業務に関する事項」に分かれている。 この中で、「経営力向上の内容に関する事項」が、生産性向上に係る取組がまさに記載されている部分となる。 また、申請に当たっては、事業規模ごとに、申請にあたって記載して頂くべき内容について、配慮を設けている。 「事業分野別指針」は、告示の形式で定めているため、定めている内容について分かりにくいところがある、との指摘も頂いている。参考資料として事例を追加していくことを予定している。 3 法における規定ぶり 「事業分野別指針」は、主務大臣(業種を所管する事業所管大臣)が必要と認めた場合に策定することができる(法12Ⅰ)。また、事業者を取り巻く環境の変化などが踏まえて見直すことになっている(同Ⅲ)。さらに、事業分野別指針の普及啓発や研修を行う組織として、事業分野別経営力向上推進機関を予定している(法26Ⅱ①)。 (後編(10/27公開)へ続く)
相続税の実務問答 【第4回】 「「相続の開始があったことを知った日」の判定」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税の納税義務のある者は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に相続税の申告書を提出しなければなりません。 あなたが、お父様のお亡くなりになったことを知った日が平成28年8月8日であるとすれば、あなたの相続税の申告期限は平成29年6月8日になります。 お兄様が、お父様の相続開始を知ったのが平成28年2月2日であるとすれば、お兄様の申告期限は平成28年12月2日となりますので、それぞれの申告期限は異なることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税の申告 人が亡くなると、その者の財産は、直ちに相続人が取得することになります(民法896)。また、遺言がある場合には、原則として、遺言者の死亡の時にその効力が生じることとなります(民法985①)。 相続や遺贈により財産を取得した者は、被相続人から相続や遺贈により財産を取得したすべての者の相続税の課税価格(相続や遺贈により取得した財産の価額から、債務・葬式費用を控除し、一定の生前贈与財産の価額を加算した金額)の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者の相続税額が算出されることとなるときは、その者が被相続人の相続の開始を知った日の翌日から10月以内に相続税の申告書を提出しなければならないこととされています(相法27①)。 2 「相続の開始があったことを知った日」とは 相続税の申告書の提出期限の起算日が、「相続の開始があったことを知った日の翌日」とされていることから、相続税の課税実務上、「相続の開始があったことを知った日」を明らかにする必要があります。 相続税の申告書の提出期限内に申告書の提出がなされなかった場合には、農地等に係る相続税の納税猶予制度(措法70の6)等の特例措置の適用ができなくなったり、無申告加算税が賦課されるなどの不利益を受けることとなりますので、相続税の申告書が提出されていない場合や、相続税の申告書の提出日が相続の開始の日の翌日から10ヶ月を過ぎた後となる場合には、「相続の開始があったことを知った日」の判定は重要なものとなります。 「相続の開始があったことを知った日」とは、相続人や受遺者が、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうものと解されています。相続が開始した被相続人に相続人や受遺者が2名以上いる場合には、各相続人や受遺者ごとに「相続の開始があったことを知った日」が異なることもありえます。このため、同一の被相続人に係る相続税の申告を相続人や受遺者が共同して提出する場合に、そのうちの一部の者は期限内申告となり、残りの者は期限後申告となることがありえます。 交通通信手段の発達した現在では、通常は、相続が開始すると、その相続人は、直ちに相続の開始があったことを知ることとなるでしょう。そのため、特段の事情が認められない限り、相続開始日を相続開始があったことを知った日として取り扱うことで、特に問題となることはないと思います。 しかしながら、何らかの事情があり、相続の開始があったことを、その直後に知ることができないこともありえます。このような場合には、その納税者について個別的に「相続の開始があったことを知った日」についての判断をしなければなりません。 3 「相続の開始があったことを知った日」の具体的判断 (1) 「相続の開始があったことを知った日」の判定が問題となる事例 相続開始日に、相続の開始があったことを知ることができない例として、相続開始が深夜であったために、相続開始を知ったのが翌日になってしまったようなケースのほか、やや特殊な事例として、次のようなケースが考えられます。 これらのケースでは、実際に、相続の開始があったことを相続人等が知った日が問題になります。事実関係を問われた場合には、しっかりと説明する必要があるでしょう。 なお、②のケースでは、法定代理人(後見人)が選任されている場合には、その法定代理人が相続の開始があったことを知った日が、本人にとっても相続の開始があったことを知った日となります。 (2) 質問の場合 ご質問の場合、8月8日まで、あなたは、お父様の相続の開始を知らなかったとのことですから、お父様の相続の開始の日から約半年を過ぎていたとしても、その日があなたにとって「相続の開始があったことを知った日」となります。 お兄様の申告期限である12月2日までに、相続税の申告書を共同して提出する場合は問題ないですが、仮に、同日までに相続税の申告書を提出しなかったとしても、相続の開始があったことを知った日(平成28年8月8日)の翌日から起算して10ヶ月を経過する平成29年6月8日までにあなたが相続税の申告書を提出すれば、その申告書は、期限内申告書となります。 (了)