《速報解説》 会計士協会より「非上場株式等の贈与税・相続税の 納税猶予及び免除制度について」が公表 ~制度利用上の留意点や平成27年度改正事項にも言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年3月18日付で(ホームページ掲載日は、平成27年3月31日)、日本公認会計士協会は、租税調査会研究報告第30号「非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度について~平成25年度以降の税制改正を受けて~」を公表した。 これは、中小企業の事業承継問題に関して、平成25年度税制改正施行後の「非上場株式等の相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度」の解説、制度利用上の留意点などについて述べるものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度の概要 「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下「経営承継円滑化法」という)が平成20年10月に施行されており、平成25年度税制改正(平成27年1月施行)では、規制の緩和が行われている。 具体的には中小企業の後継者が、贈与又は相続により経済産業大臣の認定を受ける非上場会社の株式等を先代経営者から一定数又は一定額以上取得し、その会社を経営していく場合には、その後継者が納付すべき贈与税又は相続税のうち、その株式等(発行済議決権株式数の2/3に達するまでの部分に限る)に対応する贈与税又は相続税の納税が猶予される制度である。 その後、贈与の場合には先代経営者の死亡等により猶予された贈与税が免除されるが、受け取った株式は相続税の対象となり、相続税の納税猶予に引き継ぐことができる。相続の場合には後継者の死亡等により、猶予されている相続税が免除される。 経営承継円滑化法は、平成20年10月1日に施行されたものの、その後の利用状況は芳しいものではなく、その理由として、適用要件の厳格性等が挙げられており、その後、様々な議論がなされ、平成25年度税制改正において要件等について大幅な見直しが行われ、平成27年1月1日に施行されている。 Ⅲ 主な項目 取り上げている主な項目として次のものがあげられる。 付属資料では、制度説明がなされており、平成27年度税制改正において改正が予定されている事項が記載されている。 (了)
「結婚・子育て資金の贈与税非課税特例」 措置法政省令・告示の公布により 非課税となる『結婚費用・子育て費用』の詳細が明らかに ~新居費用は賃貸借契約締結日以後3年経過日まで、人工授精等不妊治療費用も該当~ Profession Journal編集部 平成27年度税制改正では、更なる新世代への資産移転を目的とした「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」が創設され、子や孫(20歳以上50歳未満)の結婚・子育て資金の支払に充てるために直系尊属が金銭等を拠出し金融機関等に信託等をした場合には、信託受益権の価額又は拠出された金銭等の額のうち受贈者1人につき1,000万円(結婚に際して支出する費用については300万円限度)までは贈与税を課さないこととされた(平成27年4月1日から平成31年3月31日までの間に拠出されるものに限る)。 ところで、上記の「結婚・子育て資金」について、具体的にどのような費用が該当するのかという点が重要となるが、大綱では以下のように示されていた。 2月の税制改正法案が公表されたことで、本制度が租税特別措置法第70条の2の3《直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税》として規定されており、「結婚・子育て資金」は第2条第1号において以下の規定ぶり(政令委任)となることが明らかとなったものの、より詳細な要件が待たれていた。 そしてこのたび、3月31日の税制改正関連法令の公布で本制度に係る以下の政省令及び告示の内容が明らかとなったことにより、以下では「イ 結婚資金」と「ロ 子育て資金」に分けて、これらの法令・告示について、再構成を行った(色変えにより法令・告示を示している)。 なお、結婚資金として示されているもののうち、婚礼に関する費用については、受贈者の婚姻の日の1年前の日以後に支払われる婚礼費用である点(措令6項1号)、住居・引越に要する費用については家屋の賃貸借契約締結(受贈者の婚姻の日の1年前の日から婚姻以後1年を経過する日までの期間に締結されるもの)の日以後3年を経過する日までに支払われる家賃等である点(措令6項2号)など、期間が設けられている点にはまず注意したい。 また子育て資金には、健康保険適用外で高額治療となっている人工授精等の不妊治療に要する費用も示されており(告示4)、さらに、いわゆる「産後ケア」もこの費用に該当することから(告示5)、本特例の適用効果が期待できるかもしれない。 なお本特例における育児に関する費用は、受贈者の小学校就学前の子の医療のために要する費用(予防接種等)、幼稚園や保育所(措規及び告示に規定あり)の入園料・保育料などがこれに該当する。 (了)
《速報解説》 公認会計士の「職業倫理に関する解釈指針」が改正 ~監査法人退職後の就職制限など新たに4つのQ&Aを追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年3月27日(ホームページ掲載日)、日本公認会計士協会は、「『職業倫理に関する解釈指針』の改正について」を公表した(改正の日付は、平成27年3月18日)。これにより、平成27年1月19日付で意見募集されていた公開草案が確定することになる。 「職業倫理に関する解釈指針」は、日本公認会計士協会の会員のために、職業倫理に資する適切な事案等を解釈指針として取りまとめたものである。 解釈指針には、一般事業会社が公認会計士等に業務を依頼するに際して、参考となる記載内容も見られるので、本稿で取り上げることとする。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 今回の改正により、新たに追加されたQ&Aは、次のとおりである。 以下では、主な改正内容を取り上げるが、項目によっては、従来から記載されているものもある。 1 社員等の就職制限(Q27) Q27-1では、「監査業務の主要な担当社員等が、監査法人を退職後に、関与していた監査業務の依頼人(大会社等)の役員等に就任することは可能でしょうか。」との質問に対して、次のように記載されている。 会計事務所等の社員(以下「当該者」という)は、会計事務所等を退職後、以下の①から⑥までの要件をすべて満たすまでは、担当していた大会社等の役員に就任することはできない。 また、担当社員が役員に就任することができないとすれば、役員ではない経理部長として就職することが可能かどうかについては、役員等に就任できる要件を満たさない場合には、「使用人であって、会計記録や監査対象となる財務諸表の作成に重要な影響を及ぼす職位」に就職することもできないと述べられている(Q27-2)。 2 事情に精通し、合理的な判断を行うことができる第三者(Q28) Q28は、倫理規則等に規定されている、「事情に精通し、合理的な判断を行うことができる第三者」とは、誰のことを指し、どのような判断なのかとの質問を設けている。 これについて、「事情に精通し、合理的な判断を行う」とは、事実関係、状況及び関連する法令・倫理規則等を適切に理解した上で、当該事実や状況と関わりを持たない独立した立場にいることを想定して判断することを意味しているものと考えられると述べている。 倫理規則等は、このような判断ができる第三者を具体的に定めるものではなく、会員自身に、合理的な判断ができる第三者の目線から見て、自らの判断がどのように映るかということを意識しながら判断を行うことを求めており、会員以外の第三者である別の者が判断を行うわけではないとしている。 3 倫理規則等違反への対応(Q29) Q29は、倫理規則等違反をした場合の取扱いとして、監査役等の「了解」とは何か、軽微な違反の場合にも監査役等への報告が必要かなどについて質問を設けている。 監査役等の「了解」については、協議を行うに当たっては、監査役等に文書をもって十分な伝達と説明を行うことが必要であり、その上で了解を得ることとなると述べている。 ただし、実務においては、協議が行われたことを前提に、必ずしも明示的な回答でなくとも監査役等が異議を唱えないことをもって(必ずしも監査役等からの文書による回答を要件とはしていない)、監査業務継続について了解を得られたと第三者の観点から見ても合理的であると判断できる場合は、独立性指針で求められる監査役等の了解が得られたものと考えられるとしている。 なお、当該協議や了解の経緯及び内容などについて監査調書として文書化する必要があることに留意が必要であるとしている。 軽微な違反の場合にも監査役等への報告については、すべての違反が監査役等への報告の対象となるとし、特に今回の改正は、意図や違反の自覚がないままでの違反があった場合、速やかに是正し、必要なセーフガードを適用すれば、基本原則の遵守を阻害していないとみなされ得る場合など、監査人が重要性の程度を評価した結果、軽微と判断する場合もあり得るが、このような軽微と判断した違反について監査役等に了解を求めるものであると述べている(Q29-1、29-2)。 違反が重要かどうかは、第一義的には監査人が判断すべきものであり、監査役等に対してはその判断結果の相当性を確認するものとなる。協議を行うに当たっては監査役等に文書をもって十分な伝達と説明を行った上で、監査役等の理解を得ることによって、透明性を高めることが今回の改正趣旨であるとし、少なくとも、監査人が重要と判断した違反について、監査役等に救いを求めるようなことがあってはならないと述べている。 4 外部定期的検証者に係る独立性の確認(Q30) Q30は、小規模な監査事務所であるため、監査業務の定期的な検証に当たり、外部の適格者又は他の監査事務所を利用することを検討しているが、当該外部者からも独立性の確認書を入手する必要があるかとの質問を設けている。 これについては、監査業務の定期的な検証を外部に委託する場合には、当該検証の担当者から独立性の確認書を入手することが必要であるとしている。 5 英文財務諸表への移行に関する助言・指導 Q23では、「英文財務諸表への移行に関する助言・指導」について記載されている。 ここでは、被監査会社等が日本基準で作成する財務諸表の英文財務諸表への移行(以下「英文財務諸表への移行作業」という)に関する助言・指導に当たっては、次の点に留意する必要があるとしている。 いずれの場合にも、会計事務所等においては、監査の独立性が確保されるよう、業務内容について、明確な品質管理方針及び手続を定め、これを適切に実施することが必要であるとしている。 6 セカンド・オピニオン Q9では、セカンド・オピニオンを取り上げている。 倫理規則20条及び注解17のセカンド・オピニオンは、特定の取引等における会計、監査、報告又はその他の基準もしくは原則の適用について、依頼人の要請に基づいて、現任会員以外の会員が意見の表明を行うことであるとしている。 セカンド・オピニオンの表明においては、現任会員が入手した事実と同一の事実に基づかないで意見を表明してしまうことなどにより、正当な注意の原則の遵守を阻害する要因を生じさせる可能性がある点に十分に留意する必要があるとし、倫理規則20条注解17では、セーフガードとして以下を挙げているとしている。 (了)
2015年4月2日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.113が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
monthly TAX views -No.27- 「欧州諸国で実感した 『消費税 軽減税率』をめぐる課題」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 昨年4月、英国・フランス・ドイツの3ヶ国を巡り、消費税軽減税率の実施状況を見聞するとともに、税制当局や事業者、経理担当者などと面談する機会を持った。 今回は、その際見聞きした出来事を書いてみたい。 まず英国であるが、日本でも広く知られているのは、マクドナルドのハンバーガーの「テイクアウト」と「イートイン」の話だ。 という話は、多くの日本人が知っている。 しかし、この話はもう古い。 上述のようなことが起きて税務当局と事業者側が揉めることが多かったので、今では「テイクアウトかイートインか」という区分に加え、「ホットフードか否か」という別の基準が加わったのである。 この結果、お客の注文を受けて暖かいフードを提供するマクドナルドのハンバーガーは、イートインでもテイクアウトでも、「ホットフード」ということで標準税率になった。 最新の英国レギュレーションを読まれたいという方は、以下のリンク先を参照いただきたい。 ところがドイツは、かつてのイギリスのレギュレーション、つまり顧客に「テイクアウトかイートインか」を尋ね、それに応じて税率を適用する方式をとっているため、お客に“租税回避”が多く発生する。 そこでドイツのマクドナルドは、テイクアウトでもイートインでもハンバーガーの値段を同じにしている。適用税率は異なるので、税務申告のため、お客に店で食べるかどうかを尋ねるのだが、「租税回避」を避けるため店の判断によって、同じ値段にしてあるのである。 軽減税率を導入しても、値段が下がるわけではない(!)という好例である。 * * * 英国で軽減税率に係る訴訟案件といえば、マーク&スペンサーで売られていたティーケーキ(チョコレートで覆われた茶菓子)が有名である。 ケーキならゼロ税率だが、ビスケットなら標準税率となる。欧州裁判所まで持ち込まれ、結局、貴族院判決により軽減税率の適用となった。 最近では、P&Gの販売する“プリングルス”がある。 日本でも販売しているので見覚えのある方も多いと思われるが、外見はポテトチップスである。その場合には標準税率が適用される。しかしP&G側は、原料に占めるじゃがいもの含有量は50%未満であり、ポテトチップスではない(ゼロ税率)と反論し裁判になった。一審では業者側が勝ったが、控訴審では国側が勝ち、標準税率となった。 控訴審判決は、「原料が42%ということより、お客がどう認識しているかということが重要だ」と指摘している。含有量を調整して税率を低くするというP&Gの発想は、麦芽の比率を低くおさえ酒税を安くしようという発泡酒とまったく同じ発想ではないか。 * * * フランスでは、バター(軽減税率)とマーガリン(標準税率)の税率が裁判となっている。 バターは国内農家保護のため低い税率にしているといわれているが、もしこれが本当なら、内外無差別原則を取り決めているWTO協定違反となる。 わが国の焼酎とウイスキーは、競合商品であるにもかかわらず、税率格差があったことから、焼酎の低い税率はWTO違反とされたことが思い出される。 * * * 英国で面会した事業者は、いわゆる『セット商品』の取扱いの事務コストを嘆いていた。 つまり、クリスマス時に、お酒(標準税率)や食料品(多くは軽減税率)の両方を組み合わせてバスケットに入れて販売する商品は、個別に事業者と税務当局との間で、事前に商品ごとに相談して税率を決めている。双方に大層な手間がかかっているのである。 また、軽減税率適用品の入った容器や包装が高価な場合には、双方の価格を比較して決めることとなっている。これも当局と個別に相談することとなっている。 ドイツの場合、容器が独自の価値を持つ場合には、それぞれ異なる税率が適用される。 * * * 抜本改革法では、「低所得者に配慮する観点」という趣旨から、軽減税率の検討が規定されている。一方、与党税制協議会の業界ヒアリングでは、新聞、雑誌、医療、農協、住宅業界などから軽減税率要望が出されている。 そもそも新聞や雑誌の軽減税率要望は、「低所得者対策」とは関係ない「事業者の負担軽減」要望である。 今一度、原点に立ち返って議論をする必要がある。 (了)
租税争訟レポート 【第22回】 「的中馬券に対する課税(最高裁判決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 被告人の元会社員は、3年間で28億7,000万円分の馬券を購入し、30億円余りの的中配当を得たが、競馬の払戻金を一切申告せず、約5億7,000万円を脱税したとして、所得税法違反の罪で大阪地検に告発され、起訴された。 第1審の大阪地方裁判所は、被告人の勝ち馬投票券の払戻しによる所得は雑所得であると認定し、外れ馬券の購入費用等を必要経費として認めて、所得税額を約5,200万円と認定し、執行猶予付きの判決を言い渡した。 これを不服とする検察は控訴したが、控訴が棄却されたことから、上告受理申立てを行ったものである。 【検察官の主張に対する最高裁判所の判断】 1 本件払戻金の所得区分について 検察官は、以下のように主張を展開した。 これに対し、最高裁判所は、以下のようにこの主張を一蹴した。 そのうえで、結論として、「本件事実関係の下では、払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得税法の一時所得ではなく雑所得に当たるとした原判断は正当である」と判示した。 2 本件外れ馬券の購入代金の必要経費該当性について 続いて、検察官は、必要経費について、「当たり馬券の払戻金に対応する費用は当たり馬券の購入代金のみである」と主張したが、最高裁判所は、被告人の購入の実態から、「個々の馬券の購入に分解して観察するのは相当でない」としてこれを斥けた。 また、「外れ馬券の購入代金は所得税法45条1項1号により必要経費に算入されない家事費又は家事関連費に当たる」とする検察官の主張に対しては、これも、「当たり馬券の払戻金とは関係ない娯楽費等の消費生活上の費用であるはいえない」として、家事費等には当たらないとしたうえで、以下のように結論づけている。 【大谷剛彦裁判官の補足意見】 最高裁判決は、「裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する」としながら、判事出身の大谷剛彦裁判官の補足意見が附されている。判決文と比較しても長めであり、また、判決内容とはかなり立場を異にする意見であるため、概要をまとめておきたい。 大谷裁判官は、当たり馬券の払戻金が一時所得ではなく雑所得に当たると解したとしても、「外れ馬券の購入代金を必要経費として控除できるとした原判決には法令違反があるといわざるを得ない」としながら、「本件事案の特殊性に鑑み、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまではいえないと考える」ことから、「法廷意見と結論を同じくする」としている。 その理由として、「外れ馬券の購入代金は、単なる損失以上のものではなく、払戻金とは対応関係にない」と言わざるを得ず、法廷意見について、「長期間にわたり多数回かつ頻繁に網羅的な購入を繰り返したからといって、なぜ本来単なる損失である外れ馬券の購入代金が当たり馬券の払戻金と対応関係を持つことになるのかは必ずしも明らかではない」と批判している。そして、「外れ馬券の購入代金の全額が必要経費に当たり得るとの判断は、広く一般の国民から理解を得るのは難しいのではないか」と指摘している。 とはいえ、原判決については、本件事案の特殊性、巨額に累積した脱税額について、被告人の負担額の縮小を図ったとも理解できるとして、「原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまではいえない」としている。 そのうえで、インターネットを介して大量に馬券を購入することが可能な状況においては、「課税の公平、安定性の観点から、課税対象を明確にして妥当な税率を課すなどの特例措置を設けることも必要と思われる」と指摘して、補足意見を締め括っている。 【解説】 最高裁判所は、検察官による、本件には、「当たり馬券の払戻金が所得税法上の一時所得に当たるか雑所得に当たるか」、また、「外れ馬券の購入代金が所得税法上の必要経費に当たるか否か」という法令の解釈に関する重要な事項が含まれているという主張を受け入れて、上告受理を決定したが、結論は、上告を棄却するものであった。 筆者は本件訴訟の控訴審判決についての「租税争訟レポート【第18回】」の中で、「紙の馬券を1枚1枚手で販売していた時代に発遣された通達がとうに時代遅れになっていることは、第1審、控訴審における判決から明らか」であることから、「勝馬投票券の払戻金については雑所得とするよう、通達の改正が必要」である旨を指摘しているが、最高裁判決を受け、ようやく、国税庁も基本通達改正に向けて重い腰を上げることとなった。 1 国税庁の対応 判決後、国税庁はホームページにおいて、「最高裁判所判決(馬券の払戻金に係る課税)の概要等について」と題したリリースを出している。そこでは、「最高裁判決の概要」「従来の取扱い」に続いて、「今後の対応」として、パブリックコメントの手続きを経たうえで、所得税基本通達の改正を行うとともに、「同様の馬券購入行為の態様、規模等により馬券の払戻金を得ていた方については、その所得を一時所得ではなく、雑所得として取り扱い、法令上、可能な範囲で是正を行うことが適当」であるとして、同様の課税処分を受け、あるいは争訟となっている納税者に対する救済(リリース上は「是正」)についても言及されている。 2 基本通達改正(案)に対するパブリックコメントの実施 基本通達改正のリリースから約2週間後の3月25日、「「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(競馬の馬券の払戻金に係る所得区分)に対する意見公募手続の実施について」と題されたパブリックコメントの募集手続が公示された。 (1) 所得税基本通達改正(案)の内容 現行の所得税基本通達34-1(一時所得の例示)の(2)に掲げられている「競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等」の後に、以下(下線部)のような括弧書きと注書きを加えるというのが、改正案の内容である。 (2) 改正(案)に対する国税庁の解説 上記の所得税基本通達改正(案)について、公示の際のリリースには、以下のような解説が記載されている。 (3) 改正(案)の検討 改正(案)を一読して感じることは、馬券の購入を「営利を目的とする継続的行為」と認定させるためには、相当に高いハードルがあるという点であろう。 といった細かい要件を充足して、さらに、「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らか」ということであり、馬券の払戻金が「雑所得」であると認定することをできるだけ制限したいという国税庁の考えがうかがえるところである。 また、上記に引用したように、大谷剛彦裁判官は補足意見の中で、インターネットを介して大量に馬券を購入することが可能な状況においては、「課税の公平、安定性の観点から、課税対象を明確にして妥当な税率を課すなどの特例措置を設けることも必要と思われる」と指摘しているが、この点については、改正(案)にも、その内容説明にも言及がなく、無視された格好となっている。 今回の改正(案)については、競馬の馬券の払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じたもの」であるとする取扱いを認めることが明確に規定されたのは一歩前進であると評価できるが、そのための要件が細かく、また、「客観的に明らか」という課税庁・調査担当者の恣意性が介入する余地のある規定が入れられていることは、課税の公平の面からは問題があると言わざるを得ないところである。 (了)
土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第7回】 「私道の評価」 税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉 1 「不特定多数の者の通行の用に供されている」とは [1] 不特定多数の者の通行の用に供されている私道とは 私道の評価は、その私道が 「不特定多数の者の通行の用に供されている」か 「特定の者の通行の用に供されている」か によって評価額が異なる。 さて、「不特定多数の者の通行の用に供されている」とは、どのような私道をいうのであろうか。 [2] 国税庁質疑応答事例 具体的には、以下のような私道が該当する。 [3] 争訟事例 「不特定多数の者の通行の用に供されている私道」とは、①道路としての用法に応じて利用されることにより、第三者が通行することも容認せざるを得ないものであること、②道路内建築の制限により、通行を妨害する行為が禁止されること(建築基準法44条)、及び③私道の廃止又は変更が制限されること(同法45条)などの所有及び利用に対する公法上の制限が認められるものをいう(平成17年7月1日裁決〔TAINS・F0-3-223〕)。 2 3割評価の合理性とは [1] 3割評価の根拠 特定の者の通行の用に供されている道路が3割評価される理由は、不動産鑑定評価基準の理論を基礎に、不動産鑑定士等の実践面における活動の成果を十分取り入れて旧国土庁が作成している『土地価格比準表』において、私道の利用状況が共用私道(特定の者に共同で通行の用に供される私道)か準公道的私道(不特定多数の者の通行の用に供される私道)かに応じ、前者の減価率を50%から80%まで(価値率50%から20%まで)とし、後者の減価率を80%以上(価値率20%以内)としていることからして、評価通達24は合理的であると解されている(平成24年11月13日裁決〔裁事89巻333頁〕)。 例えば、平成23年12月19日裁決〔TAINS・F0-3-335〕においては、以下のような私道(本件私道)も3割が妥当とされている。 (※) 拙著『グレーゾーンから考える相続・贈与税の土地適正評価の実務』(清文社・2014)P175より [2] 私道が10%とされた事例 ただし、私道に沿接する建物の一部が飲食店及び展示場であり、この利用者が自由に通行していることから公道に準ずるような状況にあると認められること、両側の宅地は他人の所有地で、本件私道が宅地転用される可能性がほとんどないことから10%の割合で評価するのが同等とされているような事例もある(平成8年6月26日裁決〔TAINS・F0-3-330〕)。 (了)
贈与実務の頻出論点 【第5回】 「幼児に対しての贈与は可能か」 税理士法人チェスター 解 説 [1] 民法における未成年者の贈与 民法では親権者を次のように規定しています。 未成年の子は父母の親権に服している。 親権者は子の財産に関する法律行為についてその子を代表する。 子の財産は親権者が注意をもって管理しなければならない。 成年になったとき親権者は財産の計算をしなければならない。 このとき養育等にかかった費用は財産から相殺できる。 未成年の子への贈与は、子が贈与の事実を知っていたかどうかにかかわらず、親権者が贈与を受ける意思を示せば成立します。贈与を受けることは、利益相反行為には該当しないため、特別代理人の手続をするまでもなく、親権者の一存で契約が成立します。 祖父母から未成年の孫への贈与の場合、祖父母と孫の親権者として親が贈与契約します。 親から未成年の子への贈与の場合、親自身が贈与者であり受贈者の代理人となります。同一人物のもとで贈与契約が行われ、贈与が成立することになります。 未成年の子が成年になったら、親権者が財産を管理する義務はなくなるため、親は子の財産内容を整理し、すみやかに子に財産の管理を移しましょう。成年になった子の財産の存在をその子自身が知らず、引き続き親が管理していると問題が生じる可能性があります(民818、824、827、828)。 [2] 未成年者への贈与事例 贈与は口頭でも成立しますが、未成年の子への贈与で親権者が贈与契約した場合には、誰に対する贈与なのか、贈与事実が存在していたか、といった贈与事実がわかりづらくなるため、贈与契約書を作成するようにしましょう。 平成19年6月26日の国税不服審判所の裁決事例では、未成年の子に対する親権者自身からの贈与で、贈与税の申告がなされていたものの、贈与契約書がありませんでした。この事例では、贈与税の申告は必ずしも贈与事実の存否を明らかにするものではないので、将来贈与の事実に疑義が生じないよう贈与契約書を作成するのが自然、と判断されています。 また、父が未成年の子名義の預金に保険料支払があるつど、保険料相当額の贈与を行った契約について、贈与が認められた裁決があります。一方、贈与契約の法律行為が有効に成立していると認められない場合には、保険料負担者が親とされてしまい、保険金受取時に課税されてしまった事例もあるので、注意が必要です。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第23回】 「源泉所得税及び復興特別所得税を納期限までに納付しなかったとき」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、源泉所得税の納期の特例の承認を受けています。平成26年7月~12月分の源泉所得税及び復興特別所得税477,521円を納期限(平成27年1月20日)までに納付せず、平成27年4月2日に自主的に納付しました。納付が遅れたペナルティとして不納付加算税と延滞税が課されるそうですが、どのくらいかかるのでしょうか? 源泉所得税及び復興特別所得税を納期限までに納付しなかったときに課される不納付加算税と延滞税ついてご教示ください。 1 不納付加算税の算出方法 ① 原則 ② 納期限後に税務署からの告知を受けるなどせず、自主的に納付した場合 今回のケースにおいては、自主的に納付していることから、不納付加算税は、納税額×5%である。なお、5,000円未満の不納付加算税は、納付不要である(国税通則法119④)。 2 延滞税の算出方法 ① 納期限の翌日~2月を経過する日(2月を経過する日までに完納した場合は、完納の日) ② 2月を経過する日の翌日~完納の日 今回のケースにおいては、納期限の翌日から2月を経過していることから、延滞税は、上記2つの算式の合計額である。なお、1,000円未満の延滞税は、納付不要である(国税通則法119④)。 以上より、不納付加算税23,500円、延滞税3,600円を後日税務署から届く納付書により納付しなければならない。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第23回】 「裁決例③」 公認会計士 佐藤 信祐 現在の法人税法においては、外国法人に対して国内財産を移転する現物出資については、非適格現物出資として取り扱われるが(法法2十二の十四、法令4の3⑨、法基通1-4-12)、今回ご紹介する裁決例は、組織再編税制が導入される前の裁決例である。 しかしながら、外国で行われる組織再編成や資本等取引をどのように捉えるのかという点を理解するうえで、参考になる裁決例であると考えられる。 8 昭和61年1月13日裁決 (1) 事件の概要 本件は、審査請求人(以下、「請求人」という)が、その資本の100%を有する米国子会社の昭和54年3月7日の700,000USドルの増資に当たり、同社に対する長期貸付金1,420,000USドルのうち700,000USドルをもって増資払込金に振替充当する取引を行い、同日を含む事業年度である昭和54年3月期において、当該700,000USドルに相当する額である169,645千円を子会社株式勘定の金額88,200千円に追加計上した後に、その評価損として180,491千円を損金経理し、法人税確定申告書において加算留保を行った。 しかしながら、当該米国子会社の資産状態が著しく悪化したことに伴い、昭和56年3月期に当該加算した子会社株式評価損を、法人税確定申告書において減算を行った。 これに対し、原処分庁は、昭和54年3月7日に行った増資については、存在しない株式に対するものであり、寄附金に該当するものとして更正処分を行った。我が国の平成17年改正前商法や、現行の会社法では考えにくい制度ではあるが、米国の会計慣行及び内国歳入法の規定にそった「株式の発行を伴わない増資」という制度を用いたことが本事件について争いが生じた理由であると考えられる。 なお、本来であれば、法人税基本通達9-1-12に規定する「増資払込み後における株式の評価損」についても検討が必要になるが、本事件においては、特段、争いにはなっていないことから、本稿においては、当該増資取引が寄附金に該当するか否かについてのみ検討を行うこととする。 (2) 原処分庁の主張 我が国の法人税法は、「資本等取引」については課税関係を生ぜしめないこととしている。この「資本等取引」とは、法人の資本等の金額(資本の金額又は出資金額と資本積立金額との合計額をいう)の増加又は減少を生ずる取引等をいう(同法第22条第5項)こととされているから、「資本等取引」としての資本積立金額が増加又は減少する取引は、増資又は減資を伴う取引に限られることになる。 しかるに、B社の資本剰余金の増加は増資取引によるものではないから、請求人がした「B社の資本に対する拠出」は我が国の法人税法上の「資本等取引」には該当しないものと認められる。 (3) 請求人の主張 この資本剰余金勘定への繰入額は、米国歳入法では、その法人の総益金の額に含まれず(118条(a))、また、法人の株主が資本への拠出をした場合のその拠出額は、その株主が保有する当該法人の株式の基礎価額を増額修正するものとされている。更に、この資本剰余金勘定は将来表示資本に充当できる勘定でもある。 そうすると、B社にとって本件増資取引は、狭義の増資手続完了までのいわば資本に充当するための金員の拠出、すなわち、表示資本金に振り替わるまでの通過勘定としての拠出資本充当金と解釈できる資本取引であって損益取引ではないから、その振替充当額は寄附金には該当しない。 (4) 国税不服審判所の判断 A州法上の資本剰余金の使用に関する規定は、我が国の商法上の資本準備金に関する規定とその内容において大きな差異はないものと解されるところから、B社が処理した本件資本剰余金は、その実質において我が国の商法上の資本準備金にあたるものと思料される。 (5) 評釈 本事件においては、借入金を減額し、資本剰余金を増加させるデット・エクイティ・スワップ(DES)について、まず、米国子会社が所在する州法における資本剰余金の概念が我が国における資本準備金の概念に類似しているか否かを検討している。これにより、両者が類似していることから、株式の発行を伴わない取引ではあるものの、増資に類似する取引であるという認定がなされたというところに特徴がある。 すなわち、外国における組織再編成や資本等取引を、我が国の租税法上、どのように取り扱うべきかについては、我が国におけるどの取引と類似しているかという点を最初に検討する必要がある。ここで留意が必要なのは、「capital surplus」となっているから、我が国における資本剰余金と一緒であろうという推測を行うのではなく、米国における実際の取引や規定を慎重に調べる必要があるという点である。外国語を日本語に訳するときに、「資本剰余金」と辞書に載っているから、我が国における資本剰余金に該当するのであろうという推測を行ってしまうと、実際は全く異なる規定であることもあり得るため、外国の会社法や租税法を調べる時には留意が必要になってくる。 そして、本事件においては、国税不服審判所は増資であると認定を行ったが、現在の会社法、法人税法に当てはめを行うと、デット・エクイティ・スワップ(DES)に類似する取引であるという認定が行われる可能性がある。そうなると、本事件は、外国法人に対するデット・エクイティ・スワップであるのに対し、外国会社に対する貸付金については、国内事業所に帰属していると認められることから、国内資産に該当する可能性が高く、その結果、非適格現物出資として取り扱われる可能は否定できない。 そうなると、本事件と同様の取引が行われたとすると、現在の会社法、租税法においては、非適格現物出資として寄附金を認定する必要があるという結論になるため(法基通2-3-14)、留意が必要である。 (了)