公開日: 2022/06/16 (掲載号:No.474)
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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第30回】「用途によって異なることもある大規模画地の価格」~マンション用地と戸建用地~

筆者: 黒沢 泰

税理士が知っておきたい

不動産鑑定評価常識

【第30回】

「用途によって異なることもある大規模画地の価格」

~マンション用地と戸建用地~

 

不動産鑑定士 黒沢 泰

 

1 はじめに

【第18回】では、「規模の大きな土地ほど単価が低いのはなぜか」ということについて解説しました(もちろん、これには例外的なケースもありますが、話を煩雑にさせないために、一般的な傾向を基に説明を行いました)。

今回も規模の大きな土地に関する内容を取り上げますが、【第18回】とは視点を変え、同じ規模の土地でも用途によって価格が変わり得ることを、マンション用地と戸建用地を例に考えてみます。

 

2 規模の大きな住宅地と価格の捉え方

住宅街にある大きなグラウンドが閉鎖され、所有者がいざこれを売却しようとした場合、その買い手として誰が思い浮かぶかが問題となります。過去の高度成長期のように余裕のある企業や法人が厚生施設として買収し、同じような用途で使用してくれれば何らの不安はありませんが、昨今ではなかなかこのようにはいかなくなっているのが実情です。

ところで、鑑定評価では、買い手候補として予想される人を指して「市場参加者」と呼んでいますが、住宅街にある大規模な土地(=大規模画地)の市場参加者としては、マンションの開発分譲業者又は戸建住宅の分譲業者が、現在では主な候補にあげられます。そのため、不動産鑑定評価基準では、大規模画地に関しては取引事例比較法等のほかに、開発法という手法も規定し、分譲業者がその土地を購入するとすれば、いくらくらいまでであれば採算が合うかという視点から逆算して土地の試算価格を求めることとしています。

なお、一概に開発法といっても、マンション業者と戸建業者では事業の仕組みも異なることから、適用に当たっての算定要素も以下のように異なっています。

〇 マンションの開発分譲を前提とする場合(=当該土地を一体利用することが合理的と認められる場合)

 

価格時点において、当該更地に最有効使用の建物が建築されることを想定し、販売総額から通常の建物建築費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して土地価格(更地価格)を求める。

〈資料1〉

〇 戸建分譲を前提とする場合(=当該土地を分割利用することが合理的と認められる場合)

 

価格時点において、当該更地を区画割りして、標準的な宅地とすることを想定し、販売総額から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して土地価格(更地価格)を求める。

〈資料2〉

(不動産鑑定評価基準各論第1章第1節Ⅰ.1参照)

 

3 マンション開発前提と戸建分譲前提で土地価格が異なる理由とは

大規模画地に戸建住宅を建築して分譲しようとする際には、〈資料2〉のように対象地内に新しく道路を敷設する必要があります。そうすると、道路部分はつぶれ地となって有効宅地面積は減少し、その分だけ宅地の販売価格も減少します。そこで、戸建分譲業者としては、道路新設によって生ずる潰地の価格をゼロとみて、その分だけ少ない金額で土地を購入しなければ採算が合わないことになります。

さらに、諸々の費用や経費、業者利潤も差し引いた金額で採算的に購入可能な土地価格を試算するという考え方が事業の基本的な仕組みとなっています。不動産鑑定士が戸建分譲を前提とする開発法を適用して土地価格を求める際には、このような考え方を背景として評価しているのが通常です。

これに対し、マンション開発の場合には戸建分譲のような道路新設による潰地は発生しません。ただし、自治体の定めた開発指導要綱等により、敷地内に新たに公共公益的施設用地(公園等)の提供を求められる場合があり、その分だけ有効宅地面積が減少することがあります(自治体の定めた上記要綱等により、開発対象面積が一定規模を超えない場合は公共用地の提供が不要なことも多くありますが、扱いは自治体ごとに異なっています)。このような点を除き、不動産鑑定士が開発法を適用する際の考え方は戸建住宅の場合と共通しています。

それでは、マンション開発前提と戸建分譲前提で土地価格が異なるのはどのような理由によるのでしょうか。端的にいえば、対象となる敷地内に道路等の潰地が発生するかどうかという点に行き着きます。マンション開発の場合は敷地の一体利用が前提となるため、道路等の新設に伴う潰地は発生せず、購入可能土地価格を検討する際には潰地による価値の減少を考慮する必要はないからです。

また、マンション用地の場合、その需要が高く容積率も大きい地域であれば、分譲可能戸数をそれだけ多く確保でき、販売総額面からしても採算的に十分な計画が見込まれれば、大規模画地であることによる減価を考慮する必要のないケースもあります。このようなことから、大規模画地の価格は用途により異なることがしばしばあるというのが実情です。

 

4 留意点

鑑定評価の対象となる大規模画地がマンション適地であるか戸建住宅の適地であるかについて、不動産鑑定士は近隣地域の土地利用状況や市場動向から判断して分析を行っています。その上で、開発法の適用に先立ち、対象地にどのような建物(マンションか戸建住宅か等)を建築することが最も有用(=最有効使用)であるかを前提に評価額を求めているのが通常です。

なかには、容積率が200%活用できる地域にありながら(例えば、用途地域が第一種中高層住居専用地域内に指定されていながら)、実際に建築されている住宅のほとんどが戸建住宅であるといった地域も珍しくはありません。このような地域は往々にして最寄り駅から離れており、都市計画法や建築基準法の上ではマンション建築が可能であるものの、その需要がきわめて少ないなど、共通する特徴が見受けられます。このような地域内にある大規模画地にマンション開発を前提とする開発法を適用して土地価格を求めてみても、その結果は絵に描いた餅に過ぎないことは経験則からしても明らかです。

(了)

「税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識」は、毎月第3週に掲載されます。

税理士が知っておきたい

不動産鑑定評価常識

【第30回】

「用途によって異なることもある大規模画地の価格」

~マンション用地と戸建用地~

 

不動産鑑定士 黒沢 泰

 

1 はじめに

【第18回】では、「規模の大きな土地ほど単価が低いのはなぜか」ということについて解説しました(もちろん、これには例外的なケースもありますが、話を煩雑にさせないために、一般的な傾向を基に説明を行いました)。

今回も規模の大きな土地に関する内容を取り上げますが、【第18回】とは視点を変え、同じ規模の土地でも用途によって価格が変わり得ることを、マンション用地と戸建用地を例に考えてみます。

 

2 規模の大きな住宅地と価格の捉え方

住宅街にある大きなグラウンドが閉鎖され、所有者がいざこれを売却しようとした場合、その買い手として誰が思い浮かぶかが問題となります。過去の高度成長期のように余裕のある企業や法人が厚生施設として買収し、同じような用途で使用してくれれば何らの不安はありませんが、昨今ではなかなかこのようにはいかなくなっているのが実情です。

ところで、鑑定評価では、買い手候補として予想される人を指して「市場参加者」と呼んでいますが、住宅街にある大規模な土地(=大規模画地)の市場参加者としては、マンションの開発分譲業者又は戸建住宅の分譲業者が、現在では主な候補にあげられます。そのため、不動産鑑定評価基準では、大規模画地に関しては取引事例比較法等のほかに、開発法という手法も規定し、分譲業者がその土地を購入するとすれば、いくらくらいまでであれば採算が合うかという視点から逆算して土地の試算価格を求めることとしています。

なお、一概に開発法といっても、マンション業者と戸建業者では事業の仕組みも異なることから、適用に当たっての算定要素も以下のように異なっています。

〇 マンションの開発分譲を前提とする場合(=当該土地を一体利用することが合理的と認められる場合)

 

価格時点において、当該更地に最有効使用の建物が建築されることを想定し、販売総額から通常の建物建築費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して土地価格(更地価格)を求める。

〈資料1〉

〇 戸建分譲を前提とする場合(=当該土地を分割利用することが合理的と認められる場合)

 

価格時点において、当該更地を区画割りして、標準的な宅地とすることを想定し、販売総額から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して土地価格(更地価格)を求める。

〈資料2〉

(不動産鑑定評価基準各論第1章第1節Ⅰ.1参照)

 

3 マンション開発前提と戸建分譲前提で土地価格が異なる理由とは

大規模画地に戸建住宅を建築して分譲しようとする際には、〈資料2〉のように対象地内に新しく道路を敷設する必要があります。そうすると、道路部分はつぶれ地となって有効宅地面積は減少し、その分だけ宅地の販売価格も減少します。そこで、戸建分譲業者としては、道路新設によって生ずる潰地の価格をゼロとみて、その分だけ少ない金額で土地を購入しなければ採算が合わないことになります。

さらに、諸々の費用や経費、業者利潤も差し引いた金額で採算的に購入可能な土地価格を試算するという考え方が事業の基本的な仕組みとなっています。不動産鑑定士が戸建分譲を前提とする開発法を適用して土地価格を求める際には、このような考え方を背景として評価しているのが通常です。

これに対し、マンション開発の場合には戸建分譲のような道路新設による潰地は発生しません。ただし、自治体の定めた開発指導要綱等により、敷地内に新たに公共公益的施設用地(公園等)の提供を求められる場合があり、その分だけ有効宅地面積が減少することがあります(自治体の定めた上記要綱等により、開発対象面積が一定規模を超えない場合は公共用地の提供が不要なことも多くありますが、扱いは自治体ごとに異なっています)。このような点を除き、不動産鑑定士が開発法を適用する際の考え方は戸建住宅の場合と共通しています。

それでは、マンション開発前提と戸建分譲前提で土地価格が異なるのはどのような理由によるのでしょうか。端的にいえば、対象となる敷地内に道路等の潰地が発生するかどうかという点に行き着きます。マンション開発の場合は敷地の一体利用が前提となるため、道路等の新設に伴う潰地は発生せず、購入可能土地価格を検討する際には潰地による価値の減少を考慮する必要はないからです。

また、マンション用地の場合、その需要が高く容積率も大きい地域であれば、分譲可能戸数をそれだけ多く確保でき、販売総額面からしても採算的に十分な計画が見込まれれば、大規模画地であることによる減価を考慮する必要のないケースもあります。このようなことから、大規模画地の価格は用途により異なることがしばしばあるというのが実情です。

 

4 留意点

鑑定評価の対象となる大規模画地がマンション適地であるか戸建住宅の適地であるかについて、不動産鑑定士は近隣地域の土地利用状況や市場動向から判断して分析を行っています。その上で、開発法の適用に先立ち、対象地にどのような建物(マンションか戸建住宅か等)を建築することが最も有用(=最有効使用)であるかを前提に評価額を求めているのが通常です。

なかには、容積率が200%活用できる地域にありながら(例えば、用途地域が第一種中高層住居専用地域内に指定されていながら)、実際に建築されている住宅のほとんどが戸建住宅であるといった地域も珍しくはありません。このような地域は往々にして最寄り駅から離れており、都市計画法や建築基準法の上ではマンション建築が可能であるものの、その需要がきわめて少ないなど、共通する特徴が見受けられます。このような地域内にある大規模画地にマンション開発を前提とする開発法を適用して土地価格を求めてみても、その結果は絵に描いた餅に過ぎないことは経験則からしても明らかです。

(了)

「税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識」は、毎月第3週に掲載されます。

連載目次

税理士が知っておきたい
不動産鑑定評価の常識

第1回~第40回 ※クリックするとご覧いただけます。

第41回~

筆者紹介

黒沢 泰

(くろさわ・ひろし)

大手鉄鋼メーカーの系列会社(部長職)にて不動産鑑定業務を中心に担当。不動産鑑定士。

【役職等】
不動産鑑定士資格取得後研修担当講師(財団の鑑定評価、現在)、不動産鑑定士実務修習修了考査委員(現在)、不動産鑑定士実務修習担当講師(行政法規総論、現在)、(公社)日本不動産鑑定士協会連合会調査研究委員会判例等研究委員会小委員長(現在)

【主著】
『土地の時価評価の実務』(平成12年6月)、『固定資産税と時価評価の実務Q&A』(平成27年3月)、『基準の行間を読む 不動産評価実務の判断と留意点』(令和元年8月)『不動産鑑定評価書を読みこなすための基礎知識』(令和2年12月)『土地利用権における鑑定評価の実務Q&A』(令和3年12月)『新版 実務につながる地代・家賃の判断と評価』(令和4年9月)『新版/税理士を悩ませる『財産評価』の算定と税務の要点』(令和5年7月)『税理士が知っておきたい/実務で役立つ 不動産鑑定評価の常識』(令和6年7月、以上清文社)、『新版 逐条詳解・不動産鑑定評価基準』(平成27年6月)『新版 私道の調査・評価と法律・税務』(平成27年10月)、『不動産の取引と評価のための物件調査ハンドブック』(平成28年9月)、『すぐに使える不動産契約書式例60選』(平成29年7月)『雑種地の評価 裁決事例・裁判例から読み取る雑種地評価の留意点』(平成30年12月、以上プログレス)、『事例でわかる不動産鑑定の物件調査Q&A(第2版)』(平成25年3月)、『不動産鑑定実務ハンドブック』(平成26年7月、以上中央経済社)ほか多数。

     

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