公開日: 2014/01/30 (掲載号:No.54)
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平成25年分 確定申告実務の留意点 【第4回】「金融所得に対する課税(まとめ)」

筆者: 篠藤 敦子

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【3】 譲渡所得(総合課税)

(1) 譲渡所得(総合課税)に区分される金融所得(所法33①)

〈譲渡所得(総合課税)の種類〉

 金地金累積投資に係る所得

【例】 純金積立による金の譲渡

 ゴルフ会員権等の売却に係る所得(措法37の10②かっこ書、措令25の8②、措通33-6の233-6の3

【例】

・ゴルフ会員権(預託金方式及び株式形態)の譲渡

・リゾート会員権の譲渡

(2) 課税方法

次の算式で算出した譲渡所得の金額を、他の各種所得の金額と合計し総所得金額及び税額を計算する(所法33③~⑤、60①、所令82)。総所得金額の計算上、長期譲渡所得については1/2相当額を他の各種所得の金額と合算する(所法22②二)。

なお、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、一定の順序により他の各種所得の金額と損益通算することができる(所法69①、所令198)。

(注1) 金等、生活に通常必要でない資産に係る譲渡損失は、損益通算の対象とならない(所法69②)。

(注2) 平成26年度税制改正大綱によると、平成26年4月1日以後は、ゴルフ会員権等の譲渡損失を他の所得と損益通算することは認められない。

譲渡所得の金額=譲渡益(*1)-特別控除額(*2)(最高50万円)

(*1) 譲渡益=総収入金額-(取得費+譲渡費用)【A】総収入金額-(取得費+譲渡費用)【B】

【A】:短期譲渡所得(*3)に係る譲渡益

【B】・長期譲渡所得(*4)に係る譲渡益

(*2) 特別控除額は、短期譲渡所得に係る譲渡益から先に控除する。

(*3) 「短期譲渡所得」とは、取得日以後5年以内に譲渡された場合の所得をいう。

(*4) 「長期譲渡所得」に該当する所得は、次の通りである。

・取得日以後5年を超えてから譲渡されたものによる所得

・取得時期の引継ぎにより所有期間5年超となる資産の譲渡による所得(贈与や相続、交換等により取得した資産の場合)

・自己の研究の成果である特許権、自己の著作に係る著作権等の譲渡による所得

(3) 取得費及び譲渡費用の範囲

譲渡益の計算上控除する「取得費」は、資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の合計額であり、「譲渡費用」は、譲渡のために直接要した費用である(所法38①、所基通33-7)。

例えば、ゴルフ会員権の「取得費」及び「譲渡費用」としては、次のものが該当する。

[取得費]

・入会にあたって支出した入会金、預託金、株式払込金

・流通市場から取得した場合:購入価額、名義書換料、業者への仲介手数料

・借入金により取得した場合:借入日から使用開始の日(会員としての権利行使が可能となる日)までの期間に対応する利子

・相続により取得した場合:相続の際の名義書換手数料、相続税のうち一定の金額(相続後3年以内に譲渡した場合)

[譲渡費用]

・譲渡に際して支出した業者への仲介手数料

(注) 年会費は会員権の維持管理費であり、取得費、譲渡費用のどちらにも該当しない(所基通33-7)。同様の理由により、純金積立に係る口座管理料もいずれの費用にも該当しない。

 

【4】 譲渡所得(申告分離課税)

(1) 譲渡所得(申告分離課税)に区分される金融所得(措法29の2④、37の10①②)

〈譲渡所得(申告分離課税)の種類〉

 株式等の譲渡による所得

【例】 次の資産の譲渡による所得

・株式、新株予約権

・合同会社の社員の持分、協同組合等の組合員の持分

・新株予約権付社債

・公社債投資信託以外の証券投資信託の受益権

・ストックオプションに係る経済的利益の非課税の特例の適用を受けて取得した株式

(注) 公社債並びに公社債投資信託、公社債等運用投資信託及び貸付信託の受益権並びに社債的受益権の譲渡による所得は、非課税とされている(措法37の15①)。

(2) 課税方法

次の算式で算出した株式等に係る譲渡所得の金額に対し、他の所得と区分し一定の税率を乗じて税額を計算する(措法37の10①⑥)。

株式等に係る譲渡所得の金額=総収入金額-(取得費+譲渡費用+負債利子)

特定口座での取引について源泉徴収口座を選択している場合には、口座内での譲渡及び受け取った配当等の金額に対して所得税及び地方税が計算され源泉徴収されている。
そのため、源泉徴収口座内の取引は、原則として確定申告する必要はない。

源泉徴収口座内の取引について確定申告が必要となるのは、次の場合である。

・他の口座で生じた譲渡損益と相殺する場合

・申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得と損益通算する場合

・上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の特例の適用を受ける場合

株式等に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額は、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得を除き、他の各種所得の金額との損益通算は認められない(措法37の10①)。

また、上場株式等に係る譲渡損失の金額は、翌年以後3年にわたり、各年分の株式等に係る譲渡所得の金額及び上場株式等に係る配当所得の金額から控除することができる(上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除)(措法37の12の2⑥)。

平成25年において、株式等の譲渡所得に適用される税率は、譲渡の形態に応じて次の通りとなる。

(3) 外国株式の譲渡

外国法人が発行する株式を譲渡した場合も、原則的な課税方法は国内株式の譲渡の場合と同じである(措法37の10①②)。

譲渡対価の額が外貨で表示されている場合の邦貨換算は、約定日における対顧客直物電信買相場(TTB)により行う。為替差損益部分の金額も譲渡損益に含めることとなる(措通37の10-8)。

〔計算例〕 外国株式の譲渡所得
平成25年1月に100,000ドルで外国株式(上場株式等に該当)を購入し、11月に全株を110,000ドルで売却した。
取得時のTTSは90円、譲渡時のTTBは100円であった。

・取得費:100,000ドル×90円=9,000,000円・・・

・譲渡収入:110,000ドル×100円=11,000,000円・・・

・譲渡所得:=2,000,000円(為替差益を含む金額)

外国法人が発行する上場株式等について譲渡損失が生じたとき(国内の証券会社等を通した取引の場合に限る)には、国内株式の場合と同様に3年間の繰越控除が可能である(措法37の12の2⑥)。

 

【5】 雑所得

(1) 雑所得に区分される金融所得(所法35①②、措法41の14①、措令26の23②)

〈雑所得の種類〉

 利子

【例】 【1】(1)参照 ※前ページ

 先物取引の差金等決済に係る所得

【例】

・商品先物取引の決済

・金融商品先物取引等の決済(FX、日経225先物、日経225オプション)

・カバードワラントの差金等決済

(2) 課税方法

① 総合課税、源泉分離課税
雑所得に区分される利子は、原則として他の各種所得の金額と合計し総所得金額及び税額を計算する(所法35①②)。

次のものについては、金融類似商品の収益として20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、地方税5%)の税率による源泉分離課税が適用され、源泉徴収だけで課税関係は終了する(所法174、175、209の3、措法41の10、措通41の10・41の12共-1)。

・定期積金の給付補填金

・銀行法第2条第4項の契約に基づく給付補填金

・抵当証券の利息

・貴金属等の売戻し条件付売買の利益(金投資口座等)

・元本と利子に為替予約が付された外貨建預貯金の換算差益

・一時払養老保険、一時払損害保険等の差益(保険期間5年以下のもの等に限る)

② 申告分離課税(先物取引に係る雑所得等)
商品先物取引、金融商品先物取引等をし、かつ、差金等決済をした場合には、他の各種所得の金額と区分して20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、地方税5%)の税率による申告分離課税が適用される(措法41の14①)。

先物取引に係る雑所得等の金額の計算上生じた損失の金額は、他の先物取引に係る雑所得等から差し引くことはできるが、それ以外の各種所得の金額と損益通算することはできない(措法41の14①、措令26の23①)。

先物取引の差金等決済に係る損失の金額は、翌年以後3年内の各年分の先物取引に係る雑所得等の金額から控除することができる(先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除)(措法41の15①)。

(3) 外国為替証拠金取引(FX取引)

FX取引には、「店頭取引」「取引所取引」がある。
平成23年以前は、「店頭取引」による場合には総合課税の雑所得として課税されていたが、平成24年からは「取引所取引」の場合と同じ取扱い(上記(2)②の課税方法)となった。

〔凡例〕
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税法基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措通・・・租税特別措置法関係通達
(例)措法3①・・・租税特別措置法3条1項

(連載了)

平成25年分

確定申告実務の留意点

【第4回】
(最終回)

「金融所得に対する課税(まとめ)」

 

公認会計士・税理士 篠藤 敦子

 

平成25年は、日経平均株価の年間上昇率が50%を超えるなど、金融所得が生じやすい環境にあった。そこで、シリーズ最終回は、金融所得課税を取り上げ、課税方法の概要と計算上の留意点をまとめることとする。

なお、本稿の内容は平成25年分の確定申告を前提としており、平成26年以後適用される改正項目についてはふれていない。また、営利を目的とする継続的な資金運用に基づく金融所得は取り上げていない。

なお、所得計算や所得控除等に関する留意点については、以下の拙稿も併せてご参照いただきたい。

個人が得る金融所得は、その発生源泉により、利子所得、配当所得、譲渡所得(総合、分離)、雑所得に区分される。以下ではその区分ごとに解説する。

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連載目次

〈確定申告実務の留意点〉

筆者紹介

篠藤 敦子

(しのとう・あつこ)

公認会計士・税理士

津田塾大学卒業
1989年 公認会計士試験第二次試験合格
1994年 朝日監査法人(現 あずさ監査法人)退社後、個人事務所を開業し、会計と税務実務に従事。
2008年より甲南大学社会科学研究科会計専門職専攻教授(2016年3月まで)
2010年より大阪電気通信大学金融経済学部非常勤講師

【著書等】
・『マンガと図解/新・くらしの税金百科』共著(清文社)
・『会計学実践講義』共著
・『日商簿記1級徹底対策ドリル 商業簿記・会計学編』共著(以上、同文舘出版)
・『148の事例から見た是否認事項の判断ポイント』共著(税務経理協会)
・「不動産取引を行った場合」『税経通信』2012年3月号(103-109頁)

【過去に担当した研修、セミナー】
SMBCコンサルティング、日本経済新聞社、日本賃金研究センター
社団法人大阪府工業協会、西日本旅客鉄道株式会社、社団法人埼玉県経営者協会
大阪法務局

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