公開日: 2018/04/19 (掲載号:No.265)
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AIで士業は変わるか? 【第11回】「AIが企業の情報開示に与える影響」

筆者: 鈴木 広樹

カテゴリ:

AI

士業変わるか?

【第11回】

「AIが企業の情報開示に与える影響」

 

事業創造大学院大学 准教授
鈴木 広樹

 

1 AIブーム

最近仲間同士集まった際に必ず話題に上がる言葉といえば、仮想通貨とAIです(仮想通貨の方は、いろいろあって若干沈静化していますが)。これらは明らかに「ブーム」と言っていいでしょう(仮想通貨の方は「バブル」?)。

新聞でAIという言葉を目にしない日はおそらくないかと思いますし、「週刊東洋経済」や「週刊ダイヤモンド」といった経済誌から「週刊ポスト」や「週刊現代」といった大衆誌まで、多くの特集が組まれ、AIの専門家や、専門家なのかどうかよく分からない評論家やコンサルタントまでが、「AIに仕事が奪われる」といった、こちらの不安を煽るようなことを言っています。

とうとうまったく門外漢の私のところに、このようなAIに関連した執筆の依頼が来るぐらいですから、特にAIはものすごいブームなのだと思います。

 

2 人間は単純?

この執筆依頼を受けて困った私は、とりあえず近所のジュンク堂へ行き、タイトルにAIが入っている書籍を片っ端から手に取ってみました。しかし、目を通してみて、なかなかしっくりとくる書籍が見つかりませんでした。そんな中、唯一、私にとってしっくりときたのが、新井紀子著『AIvs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)でした。あくまで私個人の感想ですが、新井氏の言説には唯一説得力が感じられました。

たまにですが、いわゆる理系エリートの方の言説に対して違和感を抱いてしまうことがあります。すべての方ではありませんが、そうした方の中には、日頃複雑な数式等と向き合っているからでしょうか、少し人間を単純視し過ぎている方がいるようです(あくまで私個人がこれまで接してきた方々の傾向です)。AIについて論じている方の言説に対して抱いた違和感も同様のものです。

しかし、新井氏も理系エリートの方ですが、同氏の言説に対しては、そうした違和感を抱くことがありませんでした(同氏の言説に対しては、当然、賛否両論あるかと思いますが)。

 

3 会計士・税理士が消滅する?

AIに取って代わられる仕事としてよく取り上げられるのが、この「プロフェッションジャーナル」の主たる読者である公認会計士や税理士の仕事です。しかし、ここで私が言うまでもなく、そうした言説は、公認会計士や税理士の仕事を単純視し過ぎています。監査や税務の仕事をまったく分かっておらず、単なる数字チェックや機械的な代行だと思っているようです。

新井氏によれば、AIには読解力と常識において限界があるとのことです。監査や税務においては、状況に応じて様々な解釈や判断が求められます。そうしたことはAIには無理なのです。AIは、公認会計士や税理士を助けてくれる存在にはなっても、仕事を奪う存在にはならないはずです(もちろん、解釈や判断を伴わない単純な仕事しか行っていない公認会計士や税理士がいるとしたら、彼らの仕事は奪われるかもしれません)。

最近、AIによって公認会計士や税理士の仕事がなくなるという言説を信じて、それらの資格取得を目指すのを止める方がいると聞いたことがありますが、それは、ノストラダムスの予言を信じて、努力するのを止めるようなものですね(それらの試験は実際には相対評価なので、賢明でない受験者が減ることにより質が上昇するといえるかもしれませんが)。

 

4 会計バカ・税法バカでは

高度な読解力が求められる公認会計士試験や税理士試験を突破した公認会計士や税理士なら、高度な読解力を有しているはずであり(おそらく)、読解力がAIに負けることはないでしょう。

しかし、常識はどうでしょうか。

的確な解釈や判断を行うには、会計や税法の知識だけでなく、常識が必要となるはずです。ここでの常識には、経済や経営の知識のほか、様々な知識が含まれますし(それは「教養」と呼ばれるものかもしれません)、経験知も含まれます。

AIに取って代わられることはないといっても、これまでと同じでいいわけではありません。AIにできない仕事の能力を高めていく必要があり、そのためには幅広く様々な知識を学び続ける姿勢を持ちながら、経験を積み重ねていかなければならないかと思います。

 

5 AIと開示

この「プロフェッションジャーナル」で「〔検証〕適時開示からみた企業実態」という連載を執筆しているため、やはり「開示」に関連させてと思い、本稿のタイトルを「AIが企業の情報開示に与える影響」としました。

ここまで開示に触れておらず、前置きが長くなったようですが、ここまでの内容から、AIが企業の情報開示に与える影響についての私の考えは、おおよそ想像していただけるのではないかと思います。

AIは企業の情報開示に影響を与えるかもしれませんが、すべての問題を解決してくれるわけではないはずです。

平成30年3月20日付の日本経済新聞に、「適時開示の質問・自動応答-日本取引所、AI導入拡大」という記事が掲載されていました。日本取引所グループが、企業からの適時開示システムに関する問い合わせに対してAIが応答する仕組みを導入するとのことです。

一瞬、「そんなこと可能なのか?」と思ったのですが、記事をよく読むと、AIが応答するのは、適時開示「システム」に関する問い合わせに対してであり、開示の内容に関わる問い合わせに対してではありません。

 

6 開示資料を作成するAI

今後、企業の側でも、情報開示にAIを導入する動きが出てくるかもしれません。企業の情報をデータベースに集め、AIがそれをもとに開示の要否を判断して、開示資料を作成するといったようなことは、不可能ではないかもしれません(法定開示資料を作成するAIを宝印刷やプロネクサスといった企業が、あるいは適時開示資料を作成するAIを東証が開発?)。

ただ、もしも本当にそうしたAIが現れたら、私の連載「〔検証〕適時開示からみた企業実態」で取り上げたくなるような開示を連発してくれるだろうと思います。

すなわち、AIは、定量的な情報に基づく開示資料の作成は容易にできても、定性的な情報に基づく開示資料の作成は困難なはずです。AIによる説明はパターン化したものとなり、真実からずれたものとなるでしょう。また、開示の要否の判断も、困難な場合があるでしょう。特にバスケット情報の開示の要否については、AIでは判断できないでしょう。

やはり企業の情報開示業務も、AIが代わってくれる部分は出てくるかもしれませんが、すべてを代わってくれるようにはならないでしょう(AIにすべて任せてしまった方がましだという企業も中にはあるかもしれませんが・・・)。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

AI

士業変わるか?

【第11回】

「AIが企業の情報開示に与える影響」

 

事業創造大学院大学 准教授
鈴木 広樹

 

1 AIブーム

最近仲間同士集まった際に必ず話題に上がる言葉といえば、仮想通貨とAIです(仮想通貨の方は、いろいろあって若干沈静化していますが)。これらは明らかに「ブーム」と言っていいでしょう(仮想通貨の方は「バブル」?)。

新聞でAIという言葉を目にしない日はおそらくないかと思いますし、「週刊東洋経済」や「週刊ダイヤモンド」といった経済誌から「週刊ポスト」や「週刊現代」といった大衆誌まで、多くの特集が組まれ、AIの専門家や、専門家なのかどうかよく分からない評論家やコンサルタントまでが、「AIに仕事が奪われる」といった、こちらの不安を煽るようなことを言っています。

とうとうまったく門外漢の私のところに、このようなAIに関連した執筆の依頼が来るぐらいですから、特にAIはものすごいブームなのだと思います。

 

2 人間は単純?

この執筆依頼を受けて困った私は、とりあえず近所のジュンク堂へ行き、タイトルにAIが入っている書籍を片っ端から手に取ってみました。しかし、目を通してみて、なかなかしっくりとくる書籍が見つかりませんでした。そんな中、唯一、私にとってしっくりときたのが、新井紀子著『AIvs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)でした。あくまで私個人の感想ですが、新井氏の言説には唯一説得力が感じられました。

たまにですが、いわゆる理系エリートの方の言説に対して違和感を抱いてしまうことがあります。すべての方ではありませんが、そうした方の中には、日頃複雑な数式等と向き合っているからでしょうか、少し人間を単純視し過ぎている方がいるようです(あくまで私個人がこれまで接してきた方々の傾向です)。AIについて論じている方の言説に対して抱いた違和感も同様のものです。

しかし、新井氏も理系エリートの方ですが、同氏の言説に対しては、そうした違和感を抱くことがありませんでした(同氏の言説に対しては、当然、賛否両論あるかと思いますが)。

 

3 会計士・税理士が消滅する?

AIに取って代わられる仕事としてよく取り上げられるのが、この「プロフェッションジャーナル」の主たる読者である公認会計士や税理士の仕事です。しかし、ここで私が言うまでもなく、そうした言説は、公認会計士や税理士の仕事を単純視し過ぎています。監査や税務の仕事をまったく分かっておらず、単なる数字チェックや機械的な代行だと思っているようです。

新井氏によれば、AIには読解力と常識において限界があるとのことです。監査や税務においては、状況に応じて様々な解釈や判断が求められます。そうしたことはAIには無理なのです。AIは、公認会計士や税理士を助けてくれる存在にはなっても、仕事を奪う存在にはならないはずです(もちろん、解釈や判断を伴わない単純な仕事しか行っていない公認会計士や税理士がいるとしたら、彼らの仕事は奪われるかもしれません)。

最近、AIによって公認会計士や税理士の仕事がなくなるという言説を信じて、それらの資格取得を目指すのを止める方がいると聞いたことがありますが、それは、ノストラダムスの予言を信じて、努力するのを止めるようなものですね(それらの試験は実際には相対評価なので、賢明でない受験者が減ることにより質が上昇するといえるかもしれませんが)。

 

4 会計バカ・税法バカでは

高度な読解力が求められる公認会計士試験や税理士試験を突破した公認会計士や税理士なら、高度な読解力を有しているはずであり(おそらく)、読解力がAIに負けることはないでしょう。

しかし、常識はどうでしょうか。

的確な解釈や判断を行うには、会計や税法の知識だけでなく、常識が必要となるはずです。ここでの常識には、経済や経営の知識のほか、様々な知識が含まれますし(それは「教養」と呼ばれるものかもしれません)、経験知も含まれます。

AIに取って代わられることはないといっても、これまでと同じでいいわけではありません。AIにできない仕事の能力を高めていく必要があり、そのためには幅広く様々な知識を学び続ける姿勢を持ちながら、経験を積み重ねていかなければならないかと思います。

 

5 AIと開示

この「プロフェッションジャーナル」で「〔検証〕適時開示からみた企業実態」という連載を執筆しているため、やはり「開示」に関連させてと思い、本稿のタイトルを「AIが企業の情報開示に与える影響」としました。

ここまで開示に触れておらず、前置きが長くなったようですが、ここまでの内容から、AIが企業の情報開示に与える影響についての私の考えは、おおよそ想像していただけるのではないかと思います。

AIは企業の情報開示に影響を与えるかもしれませんが、すべての問題を解決してくれるわけではないはずです。

平成30年3月20日付の日本経済新聞に、「適時開示の質問・自動応答-日本取引所、AI導入拡大」という記事が掲載されていました。日本取引所グループが、企業からの適時開示システムに関する問い合わせに対してAIが応答する仕組みを導入するとのことです。

一瞬、「そんなこと可能なのか?」と思ったのですが、記事をよく読むと、AIが応答するのは、適時開示「システム」に関する問い合わせに対してであり、開示の内容に関わる問い合わせに対してではありません。

 

6 開示資料を作成するAI

今後、企業の側でも、情報開示にAIを導入する動きが出てくるかもしれません。企業の情報をデータベースに集め、AIがそれをもとに開示の要否を判断して、開示資料を作成するといったようなことは、不可能ではないかもしれません(法定開示資料を作成するAIを宝印刷やプロネクサスといった企業が、あるいは適時開示資料を作成するAIを東証が開発?)。

ただ、もしも本当にそうしたAIが現れたら、私の連載「〔検証〕適時開示からみた企業実態」で取り上げたくなるような開示を連発してくれるだろうと思います。

すなわち、AIは、定量的な情報に基づく開示資料の作成は容易にできても、定性的な情報に基づく開示資料の作成は困難なはずです。AIによる説明はパターン化したものとなり、真実からずれたものとなるでしょう。また、開示の要否の判断も、困難な場合があるでしょう。特にバスケット情報の開示の要否については、AIでは判断できないでしょう。

やはり企業の情報開示業務も、AIが代わってくれる部分は出てくるかもしれませんが、すべてを代わってくれるようにはならないでしょう(AIにすべて任せてしまった方がましだという企業も中にはあるかもしれませんが・・・)。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

AIで士業は変わるか?
(全20回)

  • 【第7回】 デジタルで実現する未来の会計監査
    加藤信彦(新日本有限責任監査法人 アシュアランス・イノベーション・ラボ 統括責任者、公認会計士)
    小形康博(新日本有限責任監査法人 アシュアランス・イノベーション・ラボ、公認会計士)

筆者紹介

鈴木 広樹

(すずき・ひろき)

公認会計士/事業創造大学院大学教授

早稲田大学政治経済学部卒業。
證券会社で企業審査に従事した後、現職。

【主著】
適時開示からみた監査法人の交代理由』清文社
『タイムリー・ディスクロージャー(適時開示)の実務』税務研究会
『株式投資に活かす適時開示』国元書房
『株式投資の基本-伸びる会社がわかる財務諸表の読み方』税務経理協会
検証・裏口上場-不適当合併等の事例分析』清文社
『適時開示実務入門』同文舘
税務コンプライアンスの実務』(共著) 清文社

  

関連書籍

生産性向上のための建設業バックオフィスDX

一般財団法人 建設産業経理研究機構 編

適時開示からみた監査法人の交代理由

公認会計士 鈴木広樹 著

CSVの “超” 活用術

税理士・中小企業診断士 上野一也 著

先進事例と実践 人的資本経営と情報開示

EY新日本有限責任監査法人 編 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 編

税理士との対話で導く 会社業務の電子化と電子帳簿保存法

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トーマツ会計セレクション9 決算開示

有限責任監査法人トーマツ 編

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