公開日: 2016/04/28 (掲載号:No.167)
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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第25回】「退職給付引当金(簡便法)」

筆者: 西田 友洋

【STEP2】退職給付債務の算定

簡便法においても退職給付引当金の算定は、原則法と同様である。

「退職給付引当金」=「退職給付債務」-「年金資産」

ここでは、「退職給付債務」を算定する。

退職給付債務は、「(1)退職一時金制度の場合」、「(2)企業年金制度の場合」、「(3)退職一時金制度の一部を年金制度に移行している場合」で異なる。そのため、まず、自社の退職金制度が(1)から(3)のいずれに該当するかを判断する。

(1) 退職一時金制度の場合

(2) 企業年金制度の場合

(3) 退職一時金制度の一部を年金制度に移行している場合

※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。

(1) 退職一時金制度の場合

退職一時金制度の場合、以下の3つの方法があるため、各社でいずれかの方法を選択する必要がある。いずれも自己都合要支給額をもとに算定する。

① 比較指数法(適用指針50(1)①

比較指数法では以下のように退職給付債務を算定する。

(ⅰ) 会計基準(又は平成10年6月に企業会計審議会から公表された「退職給付に係る会計基準」(以下「平成10年会計基準」という))の適用初年度の期首における退職給付債務の額を原則法に基づき計算する。

(ⅱ) 上記(ⅰ)の退職給付債務の額と自己都合要支給額との比である「比較指数」を算定する。

(ⅲ) 期末時点の自己都合要支給額に上記(ⅱ)の比較指数を乗じた金額を退職給付債務とする。

「退職給付債務」=「期末時点の自己都合要支給額」×「比較指数」

翌年度以後においては計算基礎等に重要な変動がある場合は、比較指数を再計算する。

② 割引率・昇給率法(適用指針50(1)②

退職給付に係る期末自己都合要支給額に、平均残存勤務期間に対応する割引率(適用指針【資料1】)及び昇給率(適用指針【資料2】)の各係数を乗じた額を退職給付債務とする。

「退職給付債務」

=「期末時点での自己都合要支給額」

× 「平均残存勤務期間に対応する割引率の係数」

× 「平均残存勤務期間に対応する昇給率の係数」

③ 自己都合要支給額法(適用指針50(1)③

退職給付に係る期末自己都合要支給額を退職給付債務とする。

「退職給付債務」=「期末時点の自己都合要支給額」

実務上は、この方法が多いと考えられる。

(2) 企業年金制度の場合

企業年金制度の場合、以下の3つの方法があるため、各社でいずれかの方法を選択する必要がある。いずれも数理債務をもとに算定する。

① 比較指数法(適用指針50(2)①

比較指数法では以下のように退職給付債務を算定する。

(ⅰ) 会計基準(又は平成10年会計基準)の適用初年度の期首における退職給付債務の額を原則法に基づき計算する。

(ⅱ) 上記(ⅰ)の退職給付債務の額と年金財政計算上の数理債務との比である「比較指数」を算定する。

(ⅲ) 直近の年金財政計算における数理債務の額に上記(ⅱ)の比較指数を乗じた金額を退職給付債務とする。

「退職給付債務」

=「直近の年金財政計算における数理債務の額」×比較指数

翌年度以後においては計算基礎等に重要な変動がある場合は、比較指数を再計算する。

② 組み合わせ法(適用指針50(2)②

組み合わせ法では在籍従業員とそれ以外に分けて、以下のように退職給付債務を算定する。

(ⅰ) 在籍する従業員については上記(1)②又は(1)③の方法により計算した金額を退職給付債務とする。

(ⅱ) 年金受給者及び待期者については直近の年金財政計算上の数理債務の額を退職給付債務とする。

「退職給付債務」

=「在籍する従業員について、上記(1)②又は(1)③の方法により計算した金額」+「年金受給者及び待期者について、直近の年金財政計算上の数理債務の額」

③ 数理債務法(適用指針50(2)③

直近の年金財政計算上の数理債務を退職給付債務とする。

「退職給付債務」=「直近の年金財政計算上の数理債務」

(3) 退職一時金制度の一部を企業年金制度に移行している場合

退職一時金制度の一部を企業年金制度に移行している場合、以下の2つの方法があるため、各社でいずれかの方法を選択する必要がある。

① 退職一時金制度の未移行分と企業年金制度への既移行分に分ける方法(適用指針51(1)

退職一時金制度の未移行部分に係る退職給付債務を上記(1)の方法で算定し、企業年金制度に移行した部分に係る退職給付債務を上記(2)の方法で算定する。

「退職給付債務」

=「上記(1)の方法で算定した退職一時金制度の未移行部分に係る退職給付債務」+「上記(2)の方法で算定した企業年金制度に移行した部分に係る退職給付債務」

② 在籍する従業員と年金受給者・待期者に分ける方法(適用指針51(2)

在籍する従業員については企業年金制度に移行した部分も含めた退職給付制度全体としての自己都合要支給額を基に計算した額を退職給付債務とし、年金受給者及び待期者については年金財政計算上の数理債務の額をもって退職給付債務とする。

「退職給付債務」

=「在籍する従業員について、企業年金制度に移行した部分も含めた退職給付制度全体としての自己都合要支給額を基に計算した額」+「年金受給者及び待期者について、年金財政計算上の数理債務の額」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

【第25回】

「退職給付引当金(簡便法)」

 

仰星監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

【はじめに】

今回は、退職給付引当金(簡便法)の会計処理について解説する。

退職給付引当金は、原則、数理計算により算定する。これを原則法という(【第14回】参照)。一方、従業員数が比較的少ない小規模企業等において、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合又は退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場合には、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行う等の簡便な方法を用いて、退職給付引当金(退職給付に係る負債)及び退職給付費用を計算することができる(企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準(以下、「基準」という)」26)。この方法を簡便法という。

なお、連結財務諸表上では、退職給付引当金は「退職給付に係る負債」で表示する。

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連載目次

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

第1回~第30回

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

公認会計士

2007年に、仰星監査法人に入所。
法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
その他、日本公認会計士協会の中小事務所等施策調査会「監査専門部会」専門委員に就任している。
2019年7月退所。

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