検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10244 件 / 1121 ~ 1130 件目を表示

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第32回】「〔第5表〕課税時期前3年以内に取得した土地等及び建物等の取得等の日の判定」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第32回】 「〔第5表〕課税時期前3年以内に取得した土地等及び建物等の 取得等の日の判定」   税理士 柴田 健次   Q 経営者甲(令和5年5月1日相続開始)が100%保有している甲株式会社の株式を長男が相続していますが、甲株式会社の資産の中にA土地があります。A土地は令和2年に古家付きの土地として購入しており、その後、古家の取壊しを行ったうえで、アスファルト舗装を行い、駐車場の用に供しています。 甲株式会社は3月決算で直前期末は令和5年3月31日となります。 A土地購入等に係る時系列及び詳細は、下記の通りとなります。 上記の場合に、甲株式会社の第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上するA土地、構築物の相続税評価額及び帳簿価額はそれぞれいくらになりますか。 なお、令和2年から令和5年までA土地の路線価に変動はないものとします。 また、純資産価額の計算においては、直前期末方式(直前期末の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する「3年以内取得土地等(A土地)」及び「3年以内取得家屋等(構築物)」の内訳は下記の通りとなります。 (※) 簡便的な処理方法として、「212,316千円」としての計上も認められます。  ◆  ◆  ◆ ① 3年以内取得土地等及び3年以内取得家屋等の計上金額 評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとされています。 この場合において、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとするとされています(評価通達185括弧書)。 帳簿価額が通常の取引価額として認められない場合として、買い急ぎや関連会社からの有利な価額による取得など適正な時価による取得として認められない場合や取得時期から課税時期までの間における地価の急騰や資材の高騰があった場合など取得時期と課税時期の時価に大きな変動があった場合が考えられます。   ② 取得等の日の判定 財産評価基本通達185括弧書における課税時期前3年以内に取得又は新築した場合における「取得等の日」の定義は、明らかにされていませんが、平成11年11月30日の東京地裁判決(TAINSコード:Z245-8540)では、旧租税特別措置法(以下「旧措置法」という)69条の4(相続開始前3年以内に取得等をした土地等又は建物等についての相続税の課税価格の計算の特例)に係る「取得等の日」の意義について、下記の通り判示しています。 上記の旧措置法69条の4は、昭和63年12月に創設され、平成8年3月の税制改正において廃止されたものとなりますが、この規定は、昭和末期のバブル期において相続開始前の土地等及び家屋等を取得することによる相続税対策が横行したことを背景として、個人が相続開始前3年以内に取得又は新築をした土地等及び家屋等について取得価額で課税するといった内容となります。この旧措置法69条の4は、あくまでも個人の取得に限られていましたが、法人においても同様の租税回避行為があったため、取引相場のない株式においても平成2年8月の財産評価基本通達の改正で課税時期前3年以内取得の取扱いが定められました。 なお、旧措置法69条の4は、地価高騰時においては「取得価額 < 時価」となり課税上の問題はありませんでしたが、反対に地価下落時においては、「取得価額 > 時価」となり、課税処分が憲法29条に規定する財産権の侵害に当たることになります。平成7年10月17日の大阪地裁判決(TAINSコード:Z214-7593)では、相続税の申告において、相続開始前3年以内に取得した土地等をその取得価額で評価するという特例は、地価急落時のような著しく不合理な結果を来すことが明らかな場合には適用できないとして納税者の主張を一部認めた事例となります。このような背景から、前述のとおり旧措置法69条の4は、平成8年3月の税制改正において廃止されましたが、財産評価基本通達185括弧書の課税時期前3年以内取得の取扱いは、廃止されませんでした。これは、財産評価基本通達185括弧書の評価方法は、取得価額ではなく、通常の取引価額(時価)と定め、あくまでも時価評価の観点から肯定され、旧措置法69条の4のような地価下落時においても財産権の侵害には当たらないためと考えられます。 旧措置法69条の4の規定と評価通達の取扱いを比較すると下記の通りとなります。 上記の通り、評価方法に差異はあるものの、取得時期や基本となる適用対象財産(土地等及び家屋等)については、同じとなります。 そして、旧租税特別措置法関係通達69の4-3は、「取得等の日」について、下記の通り規定しています。 なお、所得税においては、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則として資産の引渡しがあった日とし、例外として契約の効力発生日を認めています(所基通36-12)。ただし、相続税における取得は、所有権の取得を意味するため、売買契約日ではなく、引渡しが行われた日が取得日となります。 通常の売買契約においては、代金決済の日を資産の引渡日とされていることが実務上の慣行となりますが、その場合には、代金決済の日が取得日になります。本問の場合においても、売買契約書に売主は買主に売買代金全額の受領と同時に引渡しを行う旨が記載されていますので、残代金を支払った令和2年5月15日が土地の取得日となります。   ③ 本問の場合の当てはめ ■A土地の相続税評価額に計上するべき金額 直前期末基準を採用している場合においても相続開始を起算日として3年間遡りますので、令和2年5月1日から令和5年5月1日までの間に土地等及び家屋等を取得していれば、対象となります。本問の場合には、令和2年5月15日に土地を取得していますので、A土地は3年以内取得土地等に該当することになります。 相続税評価額に計上する金額は取得の日から課税時期までにおける路線価の変動がないため、通常の取引価額は、A土地の購入時の土地代金である200,000千円が相当かと考えられます。 仮に路線価の変動がある場合には、通常の取引価額をどのようにして求めるかは、実務上、判断に迷うことになりますが、考えられる方法として、不動産鑑定評価を行う方法、取得価額を基に時点修正を行う方法、相続開始時点における路線価による評価額に1.25倍をする方法等があります。 また、帳簿価額により計上する方法も認められていますが、本問における帳簿価額は、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用が含まれており、これらを除外していいかどうかについては明らかにされていないため、その判断に迷うことになります。 あくまでも財産評価基本通達185括弧書は、「帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとする。」とされていますので、これを厳密に解釈するのであれば、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用も帳簿価額に含まれているため、除外するべきではないと解されます。また、第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」は、相続税評価額と帳簿価額の差額として含み益を算出する目的もあり、帳簿価額には仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用が含まれているため、相続税評価額にも含めないと正しい含み益は算出できないため、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用は除外するべきではないという解釈もできます。 一方で、相続税評価額は、課税時期における通常の取引価額、すなわち時価とされていますので、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用は除外するべきであるという議論も当然あるかと思います。 現時点において、課税時期3年以内の土地等の相続税評価額の詳細な求め方は確立していないためあくまでも私見となりますが、「通常の取引価額」として相続税評価額を求めたという主張で帳簿価額の時点修正を行い、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用を除外したということであれば、通常の取引価額として認められることになろうかと思います。しかしながら、単に帳簿価額を使用するという場合には、簡便的な処理方法ということになりますので、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用を除外しないでそのまま計上することが相当かと考えます。 したがって、本問の場合には、通常の取引価額に相当する金額は200,000千円となりますが、簡便的な処理方法として帳簿価額212,316千円も認められるものと考えられます。 ■構築物の相続税評価額に計上するべき金額 3年以内取得土地等及び家屋等の範囲には、構築物もその範囲に含まれていますので、相続開始前3年以内に構築物を取得した場合には、構築物の評価は、通常の取引価額により計上することになり、実務的には、帳簿価額により計上することになります。 構築物の財産評価は、その構築物の再建築価額から、建築の時から課税時期までの期間(その期間に1年未満の端数があるときは、その端数は1年とする)の償却費の額の合計額又は減価の額を控除した金額の100分の70に相当する金額によって評価する(評価通達97)とされていますが、間違って100分の70を乗じないように注意する必要があります。   ☆実務上のポイント☆ 課税時期前3年以内の起算日は、直前期末ではなく、相続開始日となり、取得の日の判定は、原則として引渡日となります。3年以内取得土地等及び家屋等の相続税評価額に計上するべき金額は、原則として通常の取引価額であり、例外として帳簿価額を認めているという評価通達の規定を確認し、相続税評価額に計上すべき金額を検討する必要があります。 (了)

#No. 539(掲載号)
#柴田 健次
2023/10/12

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第58回】「土地交換時の税務上の取扱い」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第58回】 「土地交換時の税務上の取扱い」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一   相談内容 私(X)は、兄YとA土地を共有(2分の1持分)しています。A土地は祖父から遺贈により承継した物件で、この土地には父Z所有の建物があり父Zが居住しています。 私の父Z(90歳)は、B土地を所有していますが、父Zの財産のほとんどはこのB土地となっています。なお、B土地には私が所有する賃貸物件があります。 兄Yは遠方に居住しており、父Zの介護などは近隣に居住する私が日常的に行っているため、最近父Zから私所有の賃貸物件があるB土地を私に相続させたいという話がありました。ただ、当然ながら兄Yへの思いもありいくらかの財産を兄Yにも承継させたいようです。相続税評価額は下図の通りです。 B土地すべてを私が承継する前提で、兄Yが財産を相続する方法はありますでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 土地建物の交換をしたときの特例の利用 X所有の「A土地の2分の1持分」と父Z所有の「B土地の3分の1持分」を等価交換することが考えられます。これにより父Zの所有財産がA土地持分2分の1とB土地持分3分の2となります。 【現状】 【交換後】 当該交換は、原則的にそれぞれが土地を売却したものとして譲渡所得税の課税対象となります。ただし、以下の一定の要件を満たすことによりその譲渡がなかったものとする特例があり、これを「固定資産の交換の特例」といいます。 〈「固定資産の交換の特例」の要件〉(所法58) (※1) 共有持分の交換も、上記要件を満たせば本規定の適用があります。 なお、合理的に算定された時価(所基通58-12)の差額が20%以内であったとしても、贈与税の基礎控除額を大きく超える差額金額がある場合は贈与があったものと課税当局から指摘される可能性がありますのでご留意ください。この場合に交換差金(交換資産の差を精算するための金銭)を支払うこともありますが、交換に伴って相手方から金銭などの交換差金を受け取ったときは、その交換差金に相当する部分について譲渡があったものとして所得税の課税対象になる点にもご留意ください。   [2] 土地建物の交換をしたときの流通税の負担 不動産登記の際の登録免許税や不動産取得税には、譲渡所得税のような固定資産の交換の特例はありません。したがって、交換により不動産を取得した側には登記手続の際の登録免許税、及び不動産所得税が課税されます。 (※2) 不動産取得税の税率は原則4%ですが、2024年3月31日までの土地及び住宅の取得(交換)については3%に引き下げられています(※3)。なお、宅地に限って2024年3月31日まで、評価額の2分の1が課税標準額となっています。 (※3) 原則として不動産取得税申告書の提出が必要ですが、不動産を取得した日から30日以内に登記を申請した場合には申告は不要となります(東京都主税局ホームページ参照)。   [3] 結論 ご相談の場合、X所有の「A土地の2分の1持分」と父Z所有の「B土地の3分の1持分」を等価交換することで、父Zが取得した「A土地の2分の1持分」を兄Yへの相続財産とすることができます。 この場合、父Zが土地交換後に、「B土地の3分の2持分」はXへ相続承継させる、「A土地の2分の1持分」は兄Yへ相続承継させる旨の遺言書を作成することで「B土地の残り持分3分の2」をXに相続させるという父Zの意図に沿った承継が実現でき、父Zの希望も叶います。また、本件では遺留分の問題も生じません(相続税評価額ベースで、Xは2億円承継、兄Yは1億円承継、遺留分は0.75億円)。 それぞれの土地に含み益がある場合であっても上述した通り、一定の要件を満たすことで譲渡所得税は発生しませんので、事前にしっかりと検討する必要があります。一方、登録免許税及び不動産取得税の納税の必要が生じますので、事前にその金額を把握しておいた方がよいでしょう。 なお、相続前に土地交換を行わずB土地すべてをXへ相続させる遺言も考えられ、この場合であれば流通税(不動産取得税及び登録免許税)は相続時の税率を利用でき安価に抑えることができます。 ただし、万が一、兄Yが遺留分侵害請求を行い、これに伴い、相続時に土地を代物弁済するとなれば、譲渡所得税や流通税が原則通り生じ、また代償金を支払うとなればXに資金負担が生じることになります。 最終的にはご家族でどのような財産承継をしたいか、そしてその結果税務上どのような影響が生じるかの検討が必要であります。 実行についての具体的な判断は、税理士等の専門家と相談の上、決定されることをお勧めします。   (了)

#No. 539(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2023/10/12

租税争訟レポート 【第69回】「税理士損害賠償請求事件~賠償額制限条項適用の有無(福岡地方裁判所令和5年6月21日判決)」

租税争訟レポート 【第69回】 「税理士損害賠償請求事件~賠償額制限条項適用の有無 (福岡地方裁判所令和5年6月21日判決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【判決の概要】   【事案の概要】 本件は、原告代表者が100%出資して平成27年2月16日に設立した、国内外の企業に対する経営コンサルティング事業、遊漁船の経営等を目的とする資本金300万円の株式会社である原告が、税理士である被告に消費税及び法人税の申告に関する事務処理を委任し、被告の指導・助言に従って4事業年度にわたり消費税の申告をしたところ、①課税事業者を選択した方が原告に有利であったのに免税事業者としたこと及び②本則課税のままであった方が原告に有利であったのに簡易課税事業者を選択したことにより、納付する必要のない消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)を納めることになり、消費税等の還付を受けることができたのにこれを受けられなかったなどと主張して、被告に対し、民法415条の債務不履行又は同法709条の不法行為に基づき、損害賠償金合計605万3,951円及びこれに対する令和元年6月19日(催告日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。   【福岡地方裁判所による判決の概要】 1 原告と被告との間の委嘱契約 判決によれば、原告と被告は、原告の開業に係る事業年度(第1期)である平成27年4月2日、原告に係る法人税及び消費税につき、税理士法2条1項の業務及び同条2項の付随業務に係る委嘱契約(本件委嘱契約)を締結した。 本件委嘱契約の報酬は、月次報酬として顧問報酬月額5万円、決算申告報酬として決算書類作成及び税務書類作成が月額顧問報酬の5ヶ月分、消費税決算料が月額顧問報酬の1ヶ月分とされた(いずれも消費税額は別)。 また、本件委嘱契約には、要旨、以下の定めがある。 2 争点 3 福岡地方裁判所の判断 福岡地方裁判所は、それぞれの争点について、以下のような判断を示した。 (1) 原告が「課税資産の譲渡等を行う事業者」に該当するか〔争点1〕 福岡地方裁判所は、事実認定に基づき、原告は、①平成27年2月に設立され、②同月に設立されたA(Inc.)との間で、本件業務委託契約を締結して、A社が行う商品の販売事業に係るコンサルタント業務等(商品の容器等の輸出業務を含む)を行い、A(Inc.)からこれに対する報酬等を得ていたこと、原告は、被告の指示により、第1期及び第2期においては消費税等の免税事業者であるところから、申告をしなかったものの、第3期及び第4期においては上記の業務に関して消費税等の申告及び納付を行ったことを挙げ、原告が上記のように事業として対価を得て行った役務の提供は、実体を伴うものであり、原告は、「資産の譲渡等」を行っているものといえるから、「課税資産の譲渡等を行う事業者」に該当するという判断を示した。 そのうえで、被告による、①仮装行為を行う目的で設立された会社同士で資産の譲渡等の形式がとられたとしても、仮装行為にすぎず、真実の資産の譲渡等はない、②本件業務委託契約は、薬事法違反の責めを免れ、法人税及び消費税の課税を免れるために締結された仮装行為であるから、民法94条1項により無効であること、脱法行為の手段として締結されたもので、公序良俗に反するものであるから、民法90条により無効であることから、A社と原告との間には、課税資産の譲渡等はないという主張に対して、裁判所は、現に原告が本件業務委託契約に基づいてコンサルタント業務を行い、A社からコンサルタント料等の支払を受けており、被告の助言に従い、消費税等の納税もしていたのであり、原告やA社が実体を伴わない仮装の会社であると認めるに足りる的確な証拠があるともいえないから、本件業務委託契約は、通謀虚偽表示であるとはいえないし、薬事法違反又は法人税及び消費税の課税を免れることを目的としたものとして公序良俗に反するともいえないとして、その主張を斥けた。 (2) 原告がベリーズ国に本店を置く株式会社であるA(Inc.)から受託したコンサルタント業務が輸出免税取引に該当するか〔争点2〕 裁判所は、原告がA社に対して行った本件コンサルタント業務という役務の提供が「非居住者」に対して行われる役務の提供に該当するか否か、具体的には、A社が本邦内に「主たる事務所」又は「支店、出張所その他の事務所」を有する法人であるか否かについて、下記の事実認定に基づき、原告とA社は、形式的にも実質的にも独立した別個の法人格であり、原告又は本件事務所がA社の「主たる事務所」又は「支店、出張所その他の事務所」に該当するとはいえないことから、A社は「非居住者」に該当し、原告がA社に対して行った本件コンサルタント業務という役務の提供は、消費税法施行令17条2項7号柱書にいう「非居住者に対して行われる役務の提供」に該当するという判断を示した。 そのうえで、被告による、①A(Inc.)の出資者は、全て日本の居住者であること、②本件事務所で行われているのはA社の業務だけであること、③A社が本件事務所の家賃及び諸経費を負担していることから、本件事務所がA社の「支店、出張所その他の事務所」に該当するという主張に対しては、本件事務所は、あくまで原告代表者が原告自身の業務を行うために賃借したものであり、現に、本件事務所では原告の業務が行われているのであり、A社の原告に対する本件事務所の賃料等の支払は、本件業務委託契約に基づいて行われるものであることに照らし、①A(Inc.)の出資者が全て日本の居住者であること、②原告による本件コンサルタント業務が本件事務所で行われていること、③本件事務所の賃料等が、一次的には原告が負担した後、コンサルタント料等と併せてA社に請求され、A社が原告に対して支払っていたことをもって、本件事務所がA社の事務所であると評価するには足りず、被告の主張は、採用することができないとして、斥けた。 (3) 被告の善管注意義務違反の有無〔争点3〕 裁判所は、被告の善管注意義務違反の有無について、次の3項目を検討したうえで、いずれも、被告は、善管注意義務に違反するという判断を行っている。 ① 第1期及び第2期において、課税事業者を選択しなかったこと 第1期及び第2期において、課税事業者を選択しなかったこと(免税事業者を選択したこと等)について、裁判所は、事実認定に基づき、原告の顧問税理士である被告は、本件委嘱契約に基づく善管注意義務の一環として、第1期及び第2期において、原告に対し、①免税事業者ではなく課税事業者を選択することを指示し、②商品の容器等の輸出について、その経理処理を立替金から販売代金に変更することを指示すべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、①事実関係等についての更なる詳細な調査等を行わないまま、原告が免税事業者を選択すべきとの合理性を欠く判断に基づき、漫然と原告に対して免税事業者の選択を指示し、かつ、②商品の容器等の輸出について経理処理の変更を指示しないままこれを放置し、よって、原告をして免税事業者として消費税等の申告をさせず、かつ、原告に消費税等の還付を受けさせなかったものであるから、善管注意義務に違反するというべきであるとの判断を行った。 ② 第3期及び第4期において、簡易課税事業者を選択したこと 第3期及び第4期において、簡易課税事業者を選択したこと(本則課税事業者のままにしなかったこと)等について、裁判所は、事実認定に基づき、原告の顧問税理士である被告は、本件委嘱契約に基づく善管注意義務の一環として、第3期において、原告に対し、①簡易課税事業者ではなく本則課税事業者を選択することを指示し、②商品の容器等の輸出について、その経理処理を立替金から販売代金に変更することを指示すべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、①原告が簡易課税事業者を選択すべきとの合理性を欠く判断に基づき、漫然と原告に対して簡易課税事業者の選択を指示し、被告において、管轄する税務署長に対し、原告の消費税簡易課税制度選択届出書を提出し、かつ、②商品の容器等の輸出について経理処理の変更を指示しないままこれを放置し、よって、第3期及び第4期において、原告をして、簡易課税制度の適用を前提とした消費税等を納付させ、かつ、消費税等の還付を受けさせなかったものであるから、善管注意義務に違反するというべきであるとの判断を行った。 ③ 第5期において、本則課税事業者に戻さなかったこと 第5期において、本則課税事業者に戻さなかったこと(簡易課税事業者のままにしたこと)について、裁判所は、事実認定に基づき、原告の顧問税理士である被告は、遅くとも平成30年6月1日の時点で、本件委嘱契約に基づく善管注意義務の一環として、原告が本則課税事業者と簡易課税事業者のいずれである方が有利であるかを検討し、本則課税事業者である方が有利であれば、第4期中に簡易課税不適用届出書を提出して、第5期中に本則課税事業者に戻す義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、第4期の期末(平成30年9月末日)までに簡易課税不適用届出書を提出せず、第5期も原告を簡易課税事業者のままにし、よって、第5期において、原告をして、簡易課税制度の適用を前提とした消費税等を納付させ、かつ、消費税等の還付を受けさせなかったものであるから、善管注意義務に違反するというべきであるとの判断を行った。 (4) 原告に生じた損害の有無及び額並びに因果関係〔争点4〕 裁判所は、原告について、①第1期から課税事業者を選択せず、②第3期に簡易課税事業者を選択し、③第5期に簡易課税事業者から本則課税事業者に戻るために必要となる簡易課税不適用届出書を提出しなかったことによって、原告に生じた損害額は、「還付を受けられなかった消費税等」が国内取引分で235万7,218円、輸出免税取引分で233万8,527円、「納付する必要のなかった消費税等」が29万5,800円であると認定した。 (5) 本件賠償額制限条項の適用の有無〔争点5〕 裁判所は、本件委嘱契約における本件賠償額制限条項について、被告に故意又は重大な過失がある場合において、本件賠償額制限条項により、被告の損害賠償義務の範囲が制限されるとすることは、著しく衡平を害するものであって、本件委嘱契約を締結した当事者の通常の意思に合致しないことから、本件賠償額制限条項は、被告に故意又は重大な過失がある場合には適用されないと解するのが相当であるとの判断の枠組みを示した。 そのうえで、上記(3)①から③の被告の善管注意義務違反のうち、①及び②については、被告の判断は、事実上又は法律上の基礎を全く欠いているものとまではいえず、通常あり得る程度の税制選択上の過誤にとどまるというべきであるとしたものの、③については、遅くとも平成30年6月1日の時点で、原告代表者との間で、原告が本則課税事業者と簡易課税事業者のいずれである方が有利であるかを検討し、本則課税事業者である方が有利であれば、第4期中に簡易課税不適用届出書を提出して、第5期中に本則課税事業者に戻すことを明示的に約したにもかかわらず、その検討を怠ったことによるものであることが認められる。そうすると、この点に関する被告の善管注意義務違反は、被告がほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態で行われたものといわざるを得ないとの判断を示して、被告に重大な過失があると結論づけた。 (6) 被告が賠償すべき損害額 裁判所は、被告による上記(3)③に掲げる善管注意義務違反によって原告に生じた損害については、本件賠償額制限条項は適用されず、被告は、その全額について賠償責任を負うため、原告が、第5期において「還付を受けられなかった消費税等」の国内取引分125万5,117円、輸出免税取引分36万9,379円、「納付する必要のなかった消費税等」9万4,000円の合計額171万8,496円に加えて、その余の善管注意義務違反によって生じた損害については、本件賠償額制限条項を適用して、被告は、被告が受けた利益を限度として賠償責任を負うため、本件委嘱契約における消費税決算料の報酬額である月額顧問報酬の1ヶ月分5万円の4期分として20万円の合計額191万8,496円が、被告が原告に対して賠償すべき損害額であると認定した。   【解説】 顧問先の税務申告に関して、もちろん、間違いや誤解のない判断をすることは大切であり、最大限心がけなければならないことではあるが、それでも、人間である以上、ミスを完全に防ぐことは難しい。本判決では、被告である税理士が思い込みによりいくつかの判断を誤り、あるいは重要な手続きを失念したことが争点となり、損害賠償額が争われた。 裁判所の判断の決め手となったのが、原告代表者と被告税理士のメールのやりとりであった。顧問先への説明責任を事後的に証明するツールとして、メールでの回答や文書の交付を行うことは広く利用されているが、本判決では、被告税理士が送信したメールの内容と、訴訟における被告の主張が齟齬を来してしまっており、その点が、「重大な過失」の判断につながったものと思料する。 1 簡易課税不適用届出書の提出失念 判決には、原告代表者と被告税理士とのメールのやりとりが複数、証拠として採用されている。裁判所が認定した事実関係によれば、平成31年2月14日、原告代表者から被告へのメールで、「簡易課税の正当性についての証明」を求められた被告税理士は、明らかに誤った回答をしているようである。 さらに、被告税理士は、簡易課税不適用届出書を提出しなかった点については、次のとおり、謝罪している。 ところが、裁判では、被告は、こうした事実とまったく異なる主張を展開する。第4期中に簡易課税不適用届出書を提出しなかったことに対して、被告は、①第4期中に簡易課税不適用届出書を提出して第5期中に本則課税事業者に戻すことの合意をしていない、②仕入れ分と売上げの明細を明らかにしてもらわなければ簡易課税事業者と本則課税事業者のいずれである方が有利であるかを判断できないため、原告に対し、輸出取引になる売上げと仕入れに関する資料の提出を依頼したが、原告は、第4期の最終日である平成30年9月30日までに資料を提出しなかったため、上記判断をすることができないままになってしまった、③被告が請求書の品番等を見てもどれが容器等に該当するかの判断はできないし、原告は、被告に対し、当初から立替払処理であると説明していたことから、請求書のどの金額が容器等に該当するかの確認までは不可能であると主張した。 これに対して、裁判所は、①の点は、証拠に反する主張であるといわざるを得ないと断じ、②・③の点は、原告は、毎月の被告との打合せの前に、被告に対し、関係帳票を送付しており、この中には容器等の仕入れ先からの請求書も含まれていたのであるから、これを見れば、被告において、どれが容器等に該当するのか、輸出取引になる売上げと仕入れはどれなのかを把握することができたといえるとして、被告の主張を斥けているが、当然の判断であると評価できよう。 2 税理士はどこまで顧問先の事業内容を把握しなければならないか 判決の中で、被告である税理士は、自らの善管注意義務違反に関して、原告が被告に対して説明していない点についてまで、被告が原告の事業内容を把握するために質問したり調査したりする義務はないと主張したが、福岡地方裁判所は、これに対して、「そもそも税理士は、税務に関する法令及び実務の専門知識を駆使し、かつ、依頼者からの事情聴取、適正な調査等を行うなどして、税制の有利選択の判断に必要な程度まで事実関係を把握し、税理士業務を行うもの」であるとの判断を示したうえで、「被告は、原告との間で本件委嘱契約を締結し、原告の顧問税理士として、原告に係る法人税及び消費税に関する税理士業務を行っていたこと」からも、被告の主張は、採用することができないとして斥けている。 税理士として、顧客の事業内容を把握することの重要性が、この判決においても改めて裁判所から説示されたと考える。   (了)

#No. 539(掲載号)
#米澤 勝
2023/10/12

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第91回】「冷凍倉庫事件」~最判平成22年6月3日(民集64巻4号1010頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第91回】 「冷凍倉庫事件」 ~最判平成22年6月3日(民集64巻4号1010頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 539(掲載号)
#菊田 雅裕
2023/10/12

リース会計基準(案)を学ぶ 【第7回】「借手のリースの会計処理③」-短期リース、少額リースなど-

リース会計基準(案)を学ぶ 【第7回】 「借手のリースの会計処理③」 -短期リース、少額リースなど-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 【第5回】及び【第6回】に続き、借手のリースの会計処理について解説する。 今回は、短期リース、少額リースなどについて解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 短期リースに関する簡便的な取扱い 「短期リース」とは、リース開始日において、借手のリース期間が12ヶ月以内であるリースをいう(リース適用指針(案)4項(2))。 借手は、短期リースについて、リース会計基準(案)31項の定めにかかわらず、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができる(リース適用指針(案)18項、BC30項)。 借手は、当該短期リースに関する簡便的な取扱いについて、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごとに適用するか否かを選択することができる(リース適用指針(案)18項、BC31項)。 なお、連結財務諸表においては、個別財務諸表において個別貸借対照表に表示するであろう科目ごとに行ったリース適用指針(案)18項の選択を見直さないことができる(リース適用指針(案)19項)。   Ⅲ 少額リースに関する簡便的な取扱い 借手は、次の(1)又は(2)について、リース会計基準(案)31項の定めにかかわらず、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができる(リース適用指針(案)20項)。 なお、(2)については、①又は②のいずれかを選択できるものとし、選択した方法を首尾一貫して適用する(リース適用指針(案)20項(2)、BC35項)。   Ⅳ 使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合の取扱い 使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合は、次のいずれかの方法を適用することができる(リース適用指針(案)37項、[設例9-1])。 使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合とは、未経過の借手のリース料の期末残高(リース適用指針(案)18項及び20項によりリース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することとしたものや、リース適用指針(案)36項に従い利息相当額を利息法により各期に配分している使用権資産に係るものを除く)が当該期末残高、有形固定資産及び無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10%未満である場合である(リース適用指針(案)38項)。 なお、連結財務諸表においては、リース適用指針(案)38項の判定を、連結財務諸表の数値を基礎として見直すことができる。見直した結果、個別財務諸表の結果の修正を行う場合、連結修正仕訳で修正を行う(リース適用指針(案)39項)。   Ⅴ 資産除去債務 借手は、「資産除去債務に関する会計基準」(企業会計基準第18号)7項に従い、資産除去債務を負債として計上する場合の関連する有形固定資産が使用権資産であるとき、当該負債の計上額と同額を当該使用権資産の帳簿価額に加える(リース適用指針(案)25項、BC48項)。   Ⅵ 建設協力金等 建設協力金等について、差入企業である借手は、差入預託保証金の支払額と時価との差額を使用権資産の取得価額に含める(リース適用指針(案)26項)。 建設協力金等及び敷金については、これらが金融商品に該当する(「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)10項)ことから、関連する定めは金融商品実務指針に記載されている(リース適用指針(案)BC49項)。 しかしながら、これらの項目は、主にリースの締結により生じる項目であるため、リース適用指針(案)では、これらの具体的な会計処理の定めについては、金融商品実務指針から削除し、リース適用指針(案)において定めることとした(リース適用指針(案)26項から33項、BC49項)。   Ⅶ 敷金 差入企業である借手は、差入敷金のうち、差入敷金の預り企業である貸手から差入企業である借手に返還されないことが契約上定められている金額を使用権資産の取得価額に含める(リース適用指針(案)31項)。   Ⅷ 使用権資産の減損 リース会計基準(案)等においては、これまでオペレーティング・リース取引として資産を計上していなかったリースも含め、借手のすべてのリースについて使用権資産を計上することとしている(「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正(案)BC4項)。 このため、貸借対照表に計上される使用権資産について減損会計基準を適用することとし、ファイナンス・リースのうち通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行っているリースについて、当該リース資産の未経過リース料の現在価値を当該リース資産の帳簿価額とみなして減損会計基準を適用する定めは原則として削除することとしている(「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正(案)BC4項)。 リース会計基準(案)の開発に際して、「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」の改正についても検討され、その審議の過程では、使用権資産への減損会計基準の適用に関する具体的な取扱いを定めてはどうかとの意見が聞かれたとのことである。具体的には、国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」の適用時において、使用権資産への減損会計の適用に混乱が見受けられた論点について明らかにすることを求める意見である(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(案)144-2項)。 当該論点は、使用権資産とリース負債を合わせて減損会計の単位と捉えることで、使用権資産の減損処理が不要であるとする誤解があったというものであるとのことである(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(案)144-3項)。 この点、「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(案)では、使用権資産への減損会計基準の適用時におけるリース負債に関する取扱いを定めないこととしたとのことである(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(案)144-3項)。   (了)

#No. 539(掲載号)
#阿部 光成
2023/10/12

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2023年9月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2023年9月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年9月1日から9月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 企業内容等開示関係 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第66号)が公布されている。 新規公開(IPO)の公開価格設定プロセス等について見直すものであり、上場承認前届出書の記載事項に関する改正である。   Ⅲ 内部統制関係 内部統制関係として次のものが公表されている。 ① 「内部統制報告制度に関するQ&A」等の改訂について(内容:企業会計審議会の意見書の公表を受けて改訂する。金融庁) ② 財務報告内部統制監査基準報告書第1号周知文書第1号「「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2023年4月)等を受けた内部統制監査上の留意事項に関する周知文書」(内容:改訂内部統制基準及び内部統制実施基準等に基づく内部統制監査業務を実施するに当たって、日本公認会計士協会の会員の実務の参考に資するもの。日本公認会計士協会)   Ⅳ 「企業買収における行動指針」 経済産業省から次のものが公表されている。 上場会社の経営支配権を取得する買収を巡る様々な論点を取り扱っている。 〇 「企業買収における行動指針―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―」   Ⅴ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 業種別委員会研究資料「Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」(公開草案)(内容:暗号資産やNFT(Non-Fungible Token)などのトークン(電子的な記録・記号)を活用するWeb3.0ビジネスに関連する監査受嘱について記載。意見募集期間は2023年10月6日まで) ② 倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正、倫理規則研究文書第1号「倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A(研究文書)」 及び「公開草案に対するコメントの概要及び対応」(内容:会計事務所等が改正倫理規則に基づいて報酬関連情報の集計、算定及び開示を行う際の実務上の参考となる考え方を示すもの) (了)

#No. 539(掲載号)
#阿部 光成
2023/10/12

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第43回】「ジャニーズ事件の調査報告書に見るハラスメント事案対応のポイント」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第43回】 「ジャニーズ事件の調査報告書に見るハラスメント事案対応のポイント」   弁護士 柳田 忍   【Question】 先日、ジャニー喜多川氏による性加害に関する調査報告書が公表されましたが、ハラスメントの対応において参考になる点がありましたら教えてください。 【Answer】 主に被害者側の供述を中心とした事実認定の手法や、加害取締役以外の取締役の責任、外部通報窓口の設置や人権の専門家をCCOとして採用すること等の再発防止策に関する見解などがセクハラ事案においても参考になると思われます。 ● ● ● 解 説 ● ● ●   1 はじめに 2023年8月29日、ジャニー喜多川氏(以下「ジャニー氏」という)による性加害事件について、弁護士、精神科医、臨床心理士により構成された外部専門家による再発防止特別チームから調査報告書(以下「本調査報告書」という)が公表された。その内容は、ジャニー氏による多数の未成年の男性タレントに対する性加害の事実や株式会社ジャニーズ事務所(以下「ジャニーズ事務所」という)の取締役がこれを認識し、又は認識し得たにもかかわらず適切な対応を怠っていたことなどを認めるものであり、これにより芸能界のみならずスポンサー企業を含むビジネス界においても激震が走っていることは周知のとおりである。 性加害は、加害者の性的言動により被害者が身体的・精神的損害を被るものであり、加害行為が密室で行われることが多い点や、その性質上、被害申告がなされにくい点など、セクハラ事案と共通点が多いことから、本調査報告書においてもセクハラ事案の対応において参考になる点が多々あるため、以下解説する。   2 調査・事実認定の手法 ハラスメント事案においては、基本的には、被害者(とされる者)、加害者(とされる者)双方に対するヒアリングを行い、被害者ないし加害者の供述や客観的裏付けに基づいて事実認定が行われる。 しかし、ハラスメント事案において、特にセクハラ事案については目撃者がない密室で行われることが多いことから客観的裏付けがないことが多い。 本件においても、本調査報告書を見る限り、個々の性加害行為を裏付ける決定的な客観的証拠は確認できていないようであり、更に加害者が死亡しているため、加害者による供述すら存在しない状況において、多数の被害者の供述を中心に性加害の事実が認定されている。本件においては、ジャニー氏による性加害が問題となった過去の裁判例、ジャニー氏による性加害に関する報道の事実などが存在するといった特殊事情はあるものの、その調査・事実認定の手法は一般的なセクハラ事案の事実認定においても参考になる。   3 加害取締役以外の取締役の責任 取締役は他の取締役の行為について監視・監督義務(会社法362条2項2号)を負う。本調査報告書は、メリー喜多川氏等一部の(ジャニー氏による性加害当時の)取締役にジャニー氏による性加害の認識があったことを認めているが、他の取締役についても、週刊誌のジャニー氏による性加害に関する記事について、仮に事実であれば、芸能事務所としての信用・名誉を著しく毀損するものであり、そのような会社を存亡の危機にさらすことにもなりかねない重大な記事が掲載された以上は、ジャニー氏の性加害の事実を徹底的に調査し、事実が認められれば是正・再発防止策を講ずるなどの義務があったとして、これを怠ったことなどについて監視・監督義務違反に基づく損害賠償義務を認めている。 この点、特に昨今、セクハラ事案に対して世間の厳しい目が注がれていることに照らすと、取締役によるセクハラ事案についても、これが明らかになれば会社の信用・名誉を著しく毀損するものであり、事案にもよるが会社の存亡にも関わる可能性があると思われる。よって、取締役においては、他の取締役のセクハラ加害について監視・監督義務が認められる場合があり得ることを前提に行動すべきであろう。   4 内部通報制度の外部窓口の設置 本調査報告書は、ジャニーズ事務所において設置された内部通報窓口が会社内部の窓口に限られている点について、社員や関係者が内部通報制度に社内の法令違反等を通報すると自分が不利益を受けるのではないか、内部通報しても自浄力はないのではないかなどという懸念を有していると内部通報制度が活用されないなどと内部窓口の問題点について指摘し、ジャニーズ事務所の「企業風土」などに照らすと、内部窓口に加えて外部窓口を設置し、通報者の保護に対する安心感を持たせるべきであると述べている。 外部窓口の有用性については以前から言及されているところであり、2016年時点のデータ(※1)によると、内部通報制度(※2)を導入している企業のうちおよそ3分の2超の企業が外部窓口を設置しているが、外部窓口を設置していない企業においては、本調査報告書の意見を参考に外部窓口の設置を検討するのがよいと思われる。 (※1) 消費者庁「平成28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」 (※2) ここでいう内部通報制度とは、公益通報者保護法を踏まえ、不正を知る従業員等からの通報を受け付け、通報者の保護を図りつつ、適切な調査、是正及び再発防止策を講じる事業者内の仕組みを意味する。   5 チーフコンプライアンスオフィサー(CCO)として人権の専門家の採用 本調査報告書は、CCO(チーフコンプライアンスオフィサー・コンプライアンス部門のトップ)を設置して、外部から人権に関する専門家を採用し、これに充てるべきであると述べている。 近年、企業活動における人権の尊重が重視されており、諸外国においてはビジネスと人権に関するハードロー化(法制化)が進んでいる。日本においては、2022年9月に経済産業省が公表した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」といった法的拘束力のないソフトローが存在するに留まっているが、諸外国におけるビジネスと人権のハードロー化の進展等を受けて、ハードローの整備に向けた議論が進められており、ビジネスと人権の重要性は年々に高まっているところである。このような情勢を踏まえると、CCOに人権の専門家を充てることは、ハラスメント防止の観点からはもちろんのこと、ビジネス的観点からも有益であると思われる。   6 最後に 性加害もセクハラも、人の性的自由に対する軽視が根底にあるものである。本調査報告書公表後、ジャニーズ事務所がジャニー氏の性加害の事実を認め謝罪したことを受けて、各界の著名人がコメントを発表しているが、その中に、ジャニー氏の性加害について多くの関係者が見て見ぬふりをしていたのは時代のせいであったといった発言が散見される。しかし、いつの時代・いかなる性別においても性的自由を侵害されることは苦痛であり許されるはずのないことであり、セクハラ事案対策においてもかかる意識は不可欠であるといえる。 (了)

#No. 539(掲載号)
#柳田 忍
2023/10/12

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(令和5年1月~3月)」~注目事例の紹介~

《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和5年1月~3月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、2023(令和5)年9月27日、「令和5年1月から3月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税通則法関係と所得税法関係が各3件、法人税法関係、相続税法関係とたばこ税法関係が各1件で、合わせて9件となっている。 【表:公表裁決事例令和5年1月から3月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された裁決事例のうち、重加算税の賦課決定処分において、隠蔽・仮装の認定判断が分かれた2件の裁決(前掲表②、③)と、原処分庁による寄附金認定を取り消す判断を示した裁決(前掲表⑦)について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心となった争点のみに絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。   1 請求人による行為を隠蔽又は仮装であると認定した事例・・・② (1) 事案の概要 本件は、宅地建物取引業者として、不動産賃貸物件の仲介、広告、リフォーム及び管理等の事業を営む個人である審査請求人が、不動産の売買取引及び不動産の売買の仲介取引に係る収入金額等を申告しなかったところ、原処分庁が、不動産の売買取引及び不動産の売買の仲介取引についての事実の隠蔽・仮装が認められるとして、重加算税の賦課決定処分を行ったことから、請求人が、事実の隠蔽・仮装はないとして、原処分のうち過少申告加算税又は無申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、事実認定に基づいて、請求人は、各確定申告に当たり、売買計算表により算出した各売買取引に係る所得金額等も含めて申告すべきであることを知りながら、当該所得金額等を申告しないことを意図して、各売買取引に係る収入金額等を除外した内容虚偽の各収支内訳書の下書を作成してL税務署に持参し、同署の職員に提示して相談したうえで、その結果に基づいて、所得金額等を意図的に過少に記載して本件各確定申告をしたことを認め、請求人は、各売買取引に係る売買計算表を物件ごとに作成して当該物件の取引に係る帳票類と共にファイルに入れて整理しており、各売買取引が、請求人の事業全部の中で大きな金額を占める重要な取引であると考えられることからすれば、請求人が各売買取引について失念することは考え難いところ、原処分庁職員による調査において、当初、調査担当職員から繰り返し質問を受けたにもかかわらず、複数回にわたって各売買取引を行っていることを否認し、売買計算表を提出することもなかったことからすれば、各売買取引の存在及びその内容を秘匿する意図に基づくものと推認されるという判断を示した。 そのうえで、国税不服審判所は、請求人の主張立証を考慮しても、請求人の主張を裏付ける事情は見受けられないことから、請求人が各売買取引及び各売買仲介取引に係る所得金額等を申告しなかったことについては、国税通則法第68条第1項及び第2項に規定する隠蔽又は仮装が認められることから、請求人のした過少申告行為、又は無申告行為は、国税通則法第68条第1項及び第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすと認められ、請求人の主張にはいずれも理由がなく、所得税等及び消費税等に係る賦課決定処分はいずれも適法であり、審査請求は理由がないから、これを棄却すると結論づけた。   2 請求人による行為が隠蔽又は仮装には当たらないと認定した事例・・・③ (1) 事案の概要 本件は、会社員である審査請求人が、副業で行っていたインターネット販売(以下「ネット販売」という)に係る収益について、所得税等及び消費税等の期限後申告をしたところ、原処分庁が、ネット販売において実在しない会社名や親族の名を使用するなどの隠蔽又は仮装の行為があったとして、重加算税等の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の事実はないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、請求人は、ネットショップにおいて、出品者プロフィール画面の正式名称欄に「H社」と実在しない会社名を記載し、代表者欄に請求人の母の名を記載するなどして、取引名義を仮装することにより、ネット販売を行っていた事実を隠蔽しており、重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽、仮装行為を原因として無申告の結果が発生したものであれば足りるものと解され、税を免れる目的があったか否かは必要でないことからすると、請求人が故意に自らの名前を記載せず、借名等した行為を原因として無申告の結果が発生しているのであるから、国税通則法第68条第2項の規定に該当すると主張した。 (3) 審査請求人の主張 審査請求人は、ネットショップの出品者プロフィール画面の出品者情報は、任意記載項目であり、正式な名称の記載を求められているものではなく、自身の名前を記載しなかったのは、勤務先では副業が認められておらず、勤務先に対して副業が知られないようにするためであったこと、代表者欄に母の名を記載したのは、母が商品の梱包発送作業に従事していたからであり、また、ネット販売で売上代金を受領していた預金口座は請求人名義であること、商品発送時には、発送者名に自身の名を記載していること、発送元の住所も請求人の自宅住所を記載していること、ネット販売で顧客との連絡等に使用していた電話番号は請求人が契約しているものであることから、取引名義を仮装したことにはならず、請求人の存在を隠匿する意図はなく、課税を免れるために取引を隠蔽するという意識は一切なかったと主張した。 (4) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、認定した事実関係に基づき、請求人は、商品の仕入れ、商品の出品や顧客への引渡し、F社を通じての代金回収といったネット販売の各取引段階において、取引上の名義に関し、あたかも請求人以外の者が取引を行っていたかのごとく装い、故意に事実をわい曲するなどの仮装行為を行っていた又は請求人に帰属するネット販売の売上げを秘匿する等の隠蔽行為を行っていたと認めることはできない。そして、他に、請求人がネット販売に係る売上げを隠蔽し、又は売上げが請求人に帰属しないかのごとく取引名義を仮装したことを示す証拠は見当たらないことから、本件ネット販売において、課税標準等又は税額の計算の基礎となる事実の隠蔽又は仮装の行為があったとは認められず、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められないという判断を示した。 そのうえで、原処分庁による所得税及び消費税に係る重加算税の賦課決定処分のうち無申告加算税相当額を超える部分の金額については、取り消すべきであるとして、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととすると結論づけた。   3 仕入金額の寄附金認定が争われた事例・・・⑦ (1) 事案の概要 本件は、販売業を営む法人である審査請求人が、特定の仕入先からの仕入金額を損金の額に算入していたところ、原処分庁が、当該仕入先に対する仕入金額は時価相当額と比較して高額であるため、当該仕入金額の一部は法人税法上の寄附金の額に当たるなどとして更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、法人税法上の寄附金について、法人税法第37条第8項において、対価性のある資産の譲渡又は経済的利益の供与について、その対価と譲渡の時における価額又は供与の時における価額との間に差がある場合には、その差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額が寄附金の額に含まれると定め、寄附金に該当する利益供与の形態と損金の額に算入されない寄附金の範囲を明らかにしており、時価とは、当該資産につき不特定多数の当事者間における自由な取引において通常成立すると認められる価額をいうものと解されるという法令解釈を示した。 そのうえで、認定した事実として、請求人が仕入れている商品の取引価格は、「重量」、「歩留り」、「相場」、「加工賃等経費・利益」(精製するための加工賃及び利益)によって目安の金額が計算される、というのが業界における一般的な考え方であるが、取引当事者が協議して決定される場合もあり、「相場」は、業界紙に掲載されている取引相場が用いられることが多く、「歩留り」は、日々仕入れるごとに多少変化し、特に製造工程に変更があった場合には、大きく変化するものであるとの業界の取引慣行を挙げた。 さらに、国税不服審判所は、請求人による各仕入先からの仕入単価は、営業部長が、仕入単価計算式によって算出された金額を目安に親族事業者と交渉して合意した金額であるところ、本件仕入単価計算式による算出に当たっては、「建値」として相場を基にした金額が、「歩留り」として営業部長が親族事業者と目利きにより判断した数値がそれぞれ用いられ、国税不服審判所に提出された証拠資料並びに国税不服審判所の調査及び審理の結果によっても、この目利きによる「歩留り」の判断が不合理であるとは認められないし、各仕入先に対する「加工賃」の額が不相当に低額であるとも認められないことから、営業部長が親族事業者と仕入単価を交渉する際に仕入単価計算式により算出した金額は、不特定多数の当事者間における自由な取引において通常成立すると認められる価額、すなわち時価に比して不相当に高額であったとは認められないとの判断を示した。 一方、国税不服審判所は、原処分庁が原処分庁算出金額を計算するに当たり用いた「歩留り」の数値は、本件取引期間における「歩留り」の数値であるとはいえないから、原処分庁算出金額は時価相当額であるとはいえないとして、原処分庁の主張を斥け、原処分庁算出金額と本件仕入金額との差額は法人税法第37条に規定する寄附金の額には該当しないとして、原処分庁による法人税に係る更正処分の一部と過少申告加算税を取り消すべきであるとして、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととすると結論づけた。 (了)

#米澤 勝
2023/10/10

《速報解説》 ASBJ及びJICPA、パーシャルスピンオフの会計処理に係る自己株式等会計適用指針案等や資本連結実務指針案を公表して意見募集

《速報解説》 ASBJ及びJICPA、パーシャルスピンオフの会計処理に係る 自己株式等会計適用指針案等や資本連結実務指針案を公表して意見募集   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年10月6日、企業会計基準委員会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、いわゆるパーシャルスピンオフの会計処理を取り扱うものである。 また、同日、日本公認会計士協会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。 意見募集期間は、いずれも2023年12月6日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 基準開発の範囲 令和5年度税制改正において、完全子会社株式について一部の持分を残す株式分配のうち、当該一部の持分が当該完全子会社の株式の発行済株式総数の20%未満となる株式分配について、他の一定の要件を満たす場合には、完全子会社株式のすべてを分配する場合と同様に、課税の対象外とされる特例措置が設けられている(いわゆるパーシャルスピンオフ税制)。 基準開発の範囲は、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合に限定している。 これは、いわゆるパーシャルスピンオフ税制が時限的なものであり早期に基準開発を完了すべきことから、まずは発生する可能性が高いと考えられるケースとしたためである。 完全子会社以外の子会社株式の一部の配当、現物配当実施会社の株主の会計処理などは、今回の公開草案の範囲外とし、その取扱いは示していない。   Ⅲ 個別財務諸表の会計処理 現物配当実施会社の個別財務諸表上、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する(自己株式等会計適用指針案10項(2-2)、38-2項)。 つまり、基準開発の範囲のケースについては、配当財産の時価ではなく、配当財産の適正な帳簿価額をもって会計処理することになる。   Ⅳ 現物配当実施会社の税効果会計 現物配当実施会社の税効果会計については、現行の「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第28号)の定めを変更しない。 一方、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合において、連結決算手続の結果として生じる一時差異については、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に準ずるものとして定義に追加する(税効果適用指針案4項、124-2項)。   Ⅴ 適用時期等 公表日以後ただちに適用することを提案している。 また、適用日の前に行われた自己株式等会計適用指針案10項(2-2)で定められた取引については、適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないことを提案している。   Ⅵ 「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針(案)」 保有する完全子会社株式のすべて又は一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合、次のとおり、連結財務諸表上の会計処理を行う(資本連結実務指針案46-3項、46-4項、66-8項、66-9項)。 (了)

#阿部 光成
2023/10/10

《速報解説》 国税庁、パブコメを経てマンション評価に係る通達「居住用の区分所有財産の評価について」を公表~原案より一部修正、令和6年以後の相続等から適用~

《速報解説》 国税庁、パブコメを経てマンション評価に係る通達「居住用の区分所有財産の評価について」を公表 ~原案より一部修正、令和6年以後の相続等から適用~   Profession Journal編集部   国税庁は2023年10月6日、年初からの「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」での議論を経て8月31日まで意見募集(パブリックコメント)を行っていた「居住用の区分所有財産の評価について」を公表した。この新たな個別通達は令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価から適用される。 なお、原案に対し寄せられた意見と国税庁の考え方は意見募集の結果ページで示されており、評価の指標となる「補正率」について他の補正率と区別するため「区分所有補正率」と名称を変更するなど、指摘を受け原案より一部修正が行われている。 新通達で示された評価方法は、一室の区分所有権等に係る敷地利用権及び区分所有権の価額は、自用地としての価額に一定の補正率(区分所有補正率)を乗じて計算するというもの。新通達の構成は、「1 用語の意義」で各用語を定義した後、「2」では一室の区分所有権等に係る敷地利用権の評価方法、「3」では一室の区分所有権等に係る区分所有権の評価方法が、それぞれ下記の通り示されている(下線部が原案からの修正箇所(「1」は軽微な修正のみ))。 なお、結果ページで公表された「非常に分かりにくい。簡便に計算できる手段を提供すべきではないか。」との意見に対し、国税庁からは「納税者が簡易に計算するための簡単なツールを用意する予定です。今後、国税庁ホームページに資産評価企画官情報等による解説を掲載する予定です。」との考え方が示されているが、本稿公開時点でそれらの情報は確認できていない。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#Profession Journal 編集部
2023/10/06
#