〈判例評釈〉 ムゲン・ADW事件が残したもの ~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~ 【第5回】 (最終回) 公認会計士・税理士 霞 晴久 Ⅴ 居住用賃貸建物の仕入税額控除に係る令和2年度税制改正 1 改正の概要(原則的取扱い) 令和2年度税制改正により、消費税法30条10項が改正され、居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額について、仕入税額控除が認められないこととされた。ここでいう、居住用賃貸建物とは、①建物又はその付属設備であること、②「高額特定資産」又は「調整対象自己建設高額資産」(※49)に該当すること、及び③住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であることとされる。なお、居住用賃貸建物に該当するか否かは、課税仕入れを行った日の状況により判定する。 (※49) 「高額特定資産」又は「調整対象自己建設高額資産」とは、棚卸資産又は調整対象固定資産のうち、その税抜きの取得価額や建設費用が1,000万円以上となるものをいう(消法12の4①)。 2 居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の調整 上記のとおり、居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額について、原則、仕入税額控除が認められないこととされたが、取得の後、当該建物の全部又は一部を課税賃貸用に供する、あるいは譲渡したような場合、取得時の状況のまま課税関係を終了させることは問題があるため、その取得の日から第三年度の課税期間の末日までの間に課税賃貸用に供した又は譲渡した場合には、当該居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額に一定の割合を乗じて計算した金額を第三年度の課税期間又は譲渡した課税期間において調整することとされた。 (1) 課税賃貸用に供した場合 次の課税賃貸割合(分数式)で計算した消費税額を第三年度の課税期間の仕入税額控除に加算する(消法35の2①、消令53の2①)。 〈注1〉 居住用賃貸建物の仕入れ等の日の属する課税期間の開始の日から3年を経過する日の属する課税期間をいう。 〈注2〉 居住用賃貸建物の仕入れ等の日から第三年度の課税期間の末日までの間をいう。 (2) 課税譲渡用に供した場合 次の課税譲渡等割合(分数式)で計算した消費税額を譲渡した日の属する課税期間の仕入税額控除に加算する(消法35の2②、消令53の2②)。 〈注3〉 居住用賃貸建物の仕入れ等の日からその居住用賃貸建物を他の者に譲渡した日までの間。 3 居住用賃貸建物に係る令和2年度税制改正とムゲン・ADW事件 ムゲン・ADW事件の本質は、転売用に取得した居住用賃貸建物に係る課税仕入れについて、個別対応方式を採用して共通対応課税仕入れに用途区分した場合、当該建物単体でみた将来の売却を考慮した課税売上割合とは直接関係のない当該課税期間の会社全体の課税売上割合で仕入税額控除されてしまうという点にあった。ムゲン・ADW事件が起きた当時は、制度的には、課税売上げに準ずる割合を除いて(※50)、個別の取得資産に着目し、当該資産固有の課税売上割合を用いて仕入税額する方法は存在しなかった。なお、3年間という時間軸の枠内ではあるが、特定の資産について、課税期間を超えて調整するという考え方の萌芽は、既にムゲン事件で納税者が示していたことを指摘しておきたい。 (※50) 課税売上割合の変動による調整(消法33、消令53)や、たまたま土地の譲渡があった場合の調整(質疑応答事例)は、期間の通算による事業者全体の調整であり、個別の資産に着目したものではない。 以上から、令和2年度税制改正は、収益不動産を取得して転売するというビジネスモデルを展開する事業者が、従前抱えていた消費税法上の問題点を根本的に解決したという意味で画期的であり、高く評価できる改正であったといえよう。 Ⅵ 結語 本件課税仕入れの課税売上対応課税仕入れ該当性の争点について、最高裁が最終的に示した判断基準に従えば、事業者が中古マンションを取得した際に賃借人が1人でもいれば共通対応課税仕入れ、また、仮に賃借人ゼロでも、保有期間中に住宅の貸付けの発生する可能性が少しでもあれば、同じく共通対応課税仕入れに区分されることになる。そうすると、かかる判断基準を税務当局が厳密に適用し、本件ビジネスモデルを採用する事業者以外の事業者についても、非課税売上げの生ずる可能性が1円でもあれば、共通対応に用途区分すべしという判断を下す懸念がある。 また、通則法65条4項にいう「正当な理由」の有無の争点については、裁判所も認定しているとおり、遅くとも平成17年頃には税務当局が見解を変更しており、税務当局として、当該見解変更について納税者に周知するなどの必要な措置が取られていないこと、また、ムゲン事件を境に審査請求が急増している事実を見る限り、税務当局の手のひら返しはあったというべきであり、税務当局の責任は免れ得ないものと考える(※51)。その意味で、ムゲン事件控訴審判決の結論が、事件の落としどころとしては最適であったと思われる。 (※51) 長島弘「令和5年3月6日の2つの裁判が示す国税通則法65条4項にいう『正当な理由』」税務事例(Vol.55 No.4)2023年4月号22頁は、「納税者にすれば、わずかな賃料収入があるために共通対応課税仕入れとして土地等の仕入も含めて案分されれば、多額の金額が控除されず、税の負担の累積を排除のため(ママ)に課税売上に対応する前段階の課税分を控除するという消費税の基本構造、消費税法の目的(この目的の捉え方が最高裁は異なるようである)と異なる結果となることから、旧解釈(筆者注:本件について課税対応課税仕入れに区分すること)を正当と信じたものと思われる。納税者にすれば、たとえこのような問題があっても、文理解釈上、現行解釈が正当であると、課税庁が一貫してその解釈を示していれば、旧解釈による申告をすることはなかった可能性もある。そういう意味では課税庁側にも落ち度があった筈であるところ、納税者側にのみ落ち度があるとして、国税通則法65条4項にいう『正当な理由』がないとするのは、バランスを欠いた判決のように思えてならない。」と述べている。 (連載了)
令和5年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第1回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 ~はじめに~ 令和5年度税制改正では、グループ通算制度の取扱いについても改正が行われている。 グループ通算制度に係る改正事項は次のとおりとなる。 以下では、これらのグループ通算制度の取扱いに係る改正事項について解説したい。 なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。 Ⅰ 研究開発税制の見直し 令和5年度税制改正では、研究開発税制の拡充及び延長として次の改正が行われている。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について(令和4年12月)」19頁の図を基に筆者一部加工 1 研究開発型スタートアップの定義の見直し 研究開発型スタートアップの定義の見直し(注1)については、グループ通算制度特有の取扱いに関する改正は行われていない(措令27の4㉔三)。 (注1) 特定新事業開拓事業者は、特別研究機関等、大学等及び次に掲げるものは該当しないが、その点について見直しは行われていない。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について(令和4年12月)」21頁の図を基に一部筆者加工 2 試験研究費の範囲の見直し(サービス開発、デザインの設計・試作) 試験研究費の範囲の見直し(サービス開発、デザインの設計・試作)については、グループ通算制度特有の取扱いはないため、グループ通算制度を適用していない場合も適用している場合も同じ取扱いとなる(措令27の4⑥)。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について(令和4年12月)」23頁の図を基に一部筆者加工 3 高度研究人材の活用を促す措置の創設 令和5年度税制改正では、高度研究人材の活用を促す措置の創設として、特別試験研究費の額に、下記(1)~(3)の要件の全てを満たす試験研究(高度研究人材の活用に関する試験研究)に係る「試験研究費の額(工業化研究に係る試験研究費の額を除く)のうち新規高度研究業務従事者に対する人件費の額」が追加されている(税額控除率は20%)。 この特別試験研究費に該当する「高度研究人材の活用に関する試験研究」に該当するための要件は、グループ通算制度を適用している場合も通算法人単独で判定することとなる(措令27の4㉔十五)。 ただし、新規高度研究業務従事者のうち「他の事業者で10年以上研究業務に従事した者(その法人の雇用から5年を経過していないもの)」について、「その法人」や「他の事業者」について、通算法人であることを考慮した定義としている(措令27の4㉔十五)。 [高度研究人材の活用に係る試験研究に該当するための要件] ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について(令和4年12月)」22頁の図を基に筆者一部加工 (続く)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例123(相続税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(措法69の4) 相続により取得した財産のうちに被相続人の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で建物や構築物の敷地の用に供されているものがある場合には、一定要件のもとこれらの宅地等につき一定割合の評価減が受けられる。なお、この特例は借地権にも適用がある。 ◆貸付事業用宅地等(措法69の4③四) 被相続人等の事業(※1)の用に供されていた宅地等(※2)を被相続人の親族が取得し、下記の要件を満たす場合の宅地等をいう。 (※1) 不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業に限る(以下「貸付事業」という)。 (※2) 相続開始前3年以内に貸付事業の用に供されたものを除く。ただし、相続開始前3年を超えて事業的規模による貸付事業(準事業以外のものをいう)の用に供されていたものは対象となる。 ◆小規模宅地等の特例における申告要件(措法69の4⑦) 小規模宅地等の特例の適用に関しては、申告要件が付されており、相続税の期限内申告書(その申告に係る期限後申告書及び修正申告書を含む)にこの特例の適用を受ける旨を記載し、一定の書類の添付がある場合に限り適用することとされている。 したがって、当初申告において小規模宅地等の特例の適用がある宅地等に特例を適用しないで申告した場合には、更正の請求はできない。 ◆小規模宅地等の特例における宅地等の選択替えの可否(措令40の2⑤) 小規模宅地等の特例の適用において、特例対象宅地等が2以上ある場合又は特例対象宅地等を取得した者が2人以上あるときは、その選択に関する一定の書類を相続税の申告書に添付することとされている。 したがって、特例対象宅地等の選択は、相続税の申告において確定することとなり、その後において、宅地等についての選択替えは認められず、更正の請求もできない。 ◆国税通則法における更正の請求事由の場合(通則法23①) 申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又はその計算に誤りがあったことにより、その申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは、法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正の請求をすることができる。 したがって、例えば、小規模宅地等の特例の適用要件を満たしていない宅地等に誤って特例を適用し、後日これが判明した場合で、他に特例の適用要件を満たしている宅地等がある場合には、期限内の更正の請求により、改めてその他の宅地等に小規模宅地等の特例を適用することができる。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第20回】 「NFTに関する税務上の取扱いに係るFAQ詳解⑪」 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 問13 財産債務調書への記載の要否 所得税及び復興特別所得税 (所得税等)の確定申告書を提出しなければならない者又は一定の所得税の還付申告書を提出することができる者が、その年の総所得金額及び山林所得金額の合計額が 2,000 万円を超え、かつ、その年の12月31日において価額の合計額が「3億円以上の財産」又は「価額の合計額が1億円以上である国外転出特例対象財産(所得税法60条の2又は60条の3の国外転出時課税制度の対象となる財産)」を有する場合には、原則として、その者が同日において有する財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額などを記載した財産債務調書を、翌年の3月15日まで(※1)に 所得税の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(国外送金等調書法6の2①本文)。 (※1) 令和4年度税制改正により、令和5年分以後の財産債務調書の提出期限は「翌年の6月30日まで」とされた。 また、令和4年度税制改正により、令和5年分以後の財産債務調書においては、上記の者のほか、その年の12月31日においてその価額の合計額が10億円以上の財産を有する居住者も、その年の翌年の6月30日までに、財産債務調書を提出しなければならないこととされた(国外送金等調書法6の2③)。 FAQの解説及び国税庁「 財産債務調書制度(FAQ)」(令和5年4月)Q40の回答では、保有しているNFTが12月31日において暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できるものである場合の財産債務調書への記載方法等について、要旨次のとおりになるとしている。 なお、FAQには明記されていないが、NFTを1,000個以上保有している場合は別紙で対応する、種類を厳密に分けることができない場合は合計数・合計額を記載するなど個別のケースに応じて柔軟な対応をとることは認められるであろう。 問14 財産債務調書へのNFTの価額の記載方法 FAQの解説では、財産債務調書へのNFTの価額の記載方法について、要旨次のとおり説明している。 問15 国外財産調書への記載の要否 居住者(国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいい、非永住者を除く)で、その年の12月31日において、その価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する者は、原則として、その国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を、その年の翌年の3月15日まで(※2)に、住所地等の所轄税務署長に提出しなければならない(国外送金等調書法5)。 (※2) 令和4年度税制改正により、令和5年分以後の国外財産調書の提出期限は「翌年の6月30日まで」とされた。 国外財産とは「国外にある財産」であり、「国外にある」かどうかの判定は、財産の種類ごとに、その年の12月31日の現況で行う(国外送金等調書法5③、国外送金等調書令10①~③、国外送金等調書規則12③)。 解説では、NFTは、財産を有する方の住所(住所を有しない方にあっては、居所)の所在により「国外にある」かどうかを判定する財産に該当し(国外送金等調書規則12③六)、居住者が国外のマーケットプレイスで購入したNFTは「国外にある財産」とはならないため、国外財産調書への記載の対象にはならないとしている。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第28回】 「リゾートマンションの固定資産税評価額が10万円を超える決定は 違法ではないとされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷固定資産評価基準における家屋の評価方法 家屋の固定資産税評価額は、取得価額ではなく再建築価額に基づき、時の経過による価値の減少等を経年減点補正率と評点一点当たりの価額を乗じて算定する。また、経年減点補正率の最低限度が0.2となるため、減価償却のように残存価額(残存簿価)が1円となることはない。 この固定資産税評価額の算定方法について、特に老朽化した家屋については、実勢価格よりも高くなることが多いことから固定資産の所有者側からすると不満も多く、訴訟となることもあるが、納税者の主張は通常認められない。固定資産税評価額の算定方法等を定めた固定資産評価基準が、法律で定められている(地方税法第388条)ことから、原則的には、算定式に従って計算された評価額が時価だと認められることになる。 今回は、リゾートマンションとして新潟県南魚沼市(近くに石打丸山スキー場等がある)に建築されたマンションの一住戸の固定資産税評価額(150万8,711円)について、客観的価値である10万円を超える部分は違法であるとして争った事例を検討する。 ▷どのような事案か 本事案について、時系列で並べると次のようになる。 ▷地裁における争点と判決 地裁における争点と判決はどうだったのか。 本事案の争点は下記(1)~(7)の7点であり、原告であるXの主張は認められなかった。 以下において、簡単に判決理由を述べる。 * * * このように、Xは、いくつもの角度から固定資産税の賦課決定の違法性を争ったが、すべて棄却された。固定資産評価基準で決められたルールの適用を否定することは非常に難しい。リゾートマンションは、利用頻度も少なく、購入時よりも価格が上昇する可能性も不透明である。また、マンションの管理費も通常の居住用マンションよりも高い場合もあり、かつ、固定資産税のコストも下げ止まらないことから、割安感のある中古であったとしてもリゾートマンション投資は慎重にすべきであろう。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第18回】 「りそな外税控除否認事件 (地判平13.12.14、高判平15.5.14、最判平17.12.19)(その1)」 ~法人税法69条~ 公認会計士・税理士 西川 浩史 1 はじめに ここでは都市銀行による外国税額控除余裕枠の利用取引に関する訴訟事案(※1)の1つである「りそな外税控除否認事件」について、その概要及び最高裁の見解を説明した上で主たる論点に検討を加えてみることにする。「りそな外税控除否認事件」に関しては様々な論点があり、それらを検討することは国際租税判例を学ぶ上で意義があると理解する。 (※1) 都市銀行による外国税額控除余裕枠の利用取引に関する訴訟事案としては、他に旧住友銀行(現三井住友銀行)事案と旧三和銀行(現三菱UFJ銀行)事案がある。 2 事案の概要及び背景 (1) 事案の概要(※2) (※2) 山崎昇「課税庁からみた国際的租税回避否認についての研究ノート-3つの最高裁判決から学ぶ国際的租税回避への対応-」税務大学校論叢52号716頁(2006)を参考にしている。 りそな銀行(旧大和銀行:以下「X」という)は、ニュージーランド法人(以下「A社」という)のクック諸島子会社2社(以下「B社」「C社」という)間の金銭消費貸借取引にXのシンガポール支店を介在させ(具体的にはC社から預金を預り、その資金をB社に貸付)、その金利差を収益とした(以下「本件取引」という)が、利息を受け取る際に源泉税が控除されるため現金収支はマイナスとなっていた。しかし、Xは我が国での法人税申告にあたり外国税額控除の余裕額があったため、当該余裕額を利用し納付すべき法人税からこの外国源泉税を税額控除して申告することにより、最終的な現金収支はプラスになっていた。 課税庁(以下「Y」という)は、税務調査後、この外国税額控除を否認して更正処分をした。しかし、Xは当該処分を不服として最終的には税務訴訟を起こした。本事案の争点は、本件取引について、法人税法69条(※3)(外国税額控除の規定)が適用できるか否かである。 (※3) 平成10年法律第24号による改正前のものをいう。以下同じ。なお、平成13年度税制改正にて外国法人税を納付する場合からは「内国法人が通常行われる取引と認められないものとして政令で定める取引に基因して生じた所得に対する外国法人税を納付する場合」が除かれることになり、本事案のような取引から生じた外国法人税には外国税額控除が適用できなくなった。 (2) 事案の背景 本件スキームは、ニュージーランドの有力な金融機関が大手都市銀行を通じてXに提案したものである。このような外国税額控除余裕枠を利用したスキーム自体は、米国の大手金融機関が技巧をこらし開発して販売したものと言われている(※4)。 (※4) 村井正『入門国際租税法 改訂版』清文社(2020)2頁 当時、C社(資金調達する会社)からB社(資金運用する会社)に対して直接に資金を貸し付ける方法を採ったときは、クック諸島の税制によればB社からC社へ支払われる利息に対して15%の源泉税が課されることになっていた。そこで、XとB社及びC社の間で、Xの外国税額控除の余裕枠を利用して源泉税の負担を軽減する目的で、本件におけるローン契約及び預金契約が締結され、これらが実行された。 (3) 本件スキームの具体的な仕組み(※5) (※5) 今村隆『現代税制の現状と課題(租税回避否認規定編)』新日本法規(2017)30-32頁を参考にしている。なお、Xは本件取引の参加料として2.5万ドルを別途受け取っている。 具体的な仕組みの理解のために、第1回取引(計算期間:平成元年4月6日から9月15日)について金額や利率を入れた取引図を以下に示す(実際には第10回取引(計算期間:平成5年9月15日から平成6年3月30日)までが更正の対象になっている)。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 本件取引において、XはB社から貸付利息として207万USドル(貸付利息総額244万USドルからクック諸島源泉税37万USドルを控除した金額)を受け取り、C社には預金利息236万USドルを支払うため、その時点では29万USドルの逆ざやになっていた。しかしその後、法人税の申告時に外国税額控除37万USドルの適用を受けたため、最終的には8万USドルの利ざやを得ることになった。結局、損をしているのは日本政府であり、日本政府で受けた外国税額控除37万USドルをX(8万USドル)とB社・C社(29万USドル)で分ける仕組みになっていた。 (4) 裁判の結果 Xは、本件取引は自己の事業目的に沿った取引であり、かつ通常の経済合理性のある取引であると主張した。一方、Yは地裁では「私法上の法律構成による否認」を主体的主張とし「法人税法69条の限界解釈による否認」を予備的主張としていたが、高裁からは「法人税法69条の限界解釈による否認」に「外国税額控除制度の濫用」を加えて主張した。 地裁及び高裁では外国税額控除が認められ、いずれもXの勝訴となったが、最高裁では本件取引は外国税額控除の濫用にあたるとして外国税額控除は認められず、Yの逆転勝訴となった。 3 最高裁の判断 最高裁は次のように判示し(下線筆者)、本件取引には事業目的があり外国税額控除の制度を濫用したものであるということはできないと判断した原判決(高裁判決)を破棄し、地裁判決を取り消した。 ((その2)へ続く)
開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第12回】 「会計方針に関する注記①」 -引当金の計上基準- 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 Question 当社は会計監査人設置会社で個別注記表を作成しています。有価証券報告書の提出義務はなく、連結計算書類は作成していません。個別注記表における重要な会計方針に係る事項に関する注記のうち引当金の計上基準について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 引当金の計上基準には、貸借対照表に計上している各種の引当金について、どのような費用又は損失に備えるもので、どのように引当金の計上額を算出しているかに関する情報を記載する必要があります。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、次のような注記が考えられます。 【個別注記表】 2 注記事項の解説 (1) 重要な会計方針に係る事項に関する注記の全体像 個別注記表で記載すべき重要な会計方針に係る事項に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第101条第1項)。なお、重要性が乏しいものは記載しないことも認められます。 〈個別注記表で記載すべき重要な会計方針に係る事項に関する注記事項〉 今回のQuestionには該当しませんが、参考として、連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合の連結注記表で記載すべき重要な会計方針に係る事項に関する注記(正確には、「連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項に関する注記等」といいます)の注記事項を以下に記載します(会社計算規則第102条第1項)。 なお、ここでは代表的なものを抜粋して記載していますので、実際に注記事項を検討する場合は、会社計算規則第102条を参照してください。 〈参考:連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項に関する注記等の注記事項〉 (2) 注記事項の解説 引当金は、将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合に計上が認められます。そのため、会計方針として引当金の計上基準を記載する際は、この4要件に照らしながら、何に対する引当金で、どのように引当金を計上しているのかを記載する必要があります。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [大幸薬品株式会社 2022年12月期 個別注記表] ※大幸薬品株式会社「第77回定時株主総会招集ご通知」47頁より抜粋。 [キヤノンマーケティングジャパン株式会社 2022年12月期 個別注記表] ※キヤノンマーケティングジャパン株式会社「第55回定時株主総会招集ご通知」64頁より抜粋。 [タツモ株式会社 2022年12月期 個別注記表] ※タツモ株式会社「第51回定時株主総会招集ご通知」44頁より抜粋。 ここではすべてを挙げきれませんでしたが、引当金には様々なものがあり、その計上方法が厳密に定められていないものもあります。そのため、財務諸表を利用する人の「何に対する引当金か」、「どのように引当金を計上しているのか」といった疑問に答えられるように引当金の計上基準も記載する必要があります。 * * * 次回の第13回は、「会計方針に関する注記(その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項)」をテーマに解説します。 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第14回】 「欠勤控除の計算方法」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 従業員が傷病等により欠勤した場合に、その欠勤分を給与から控除することがありますが、今回は欠勤控除の計算方法と就業規則での規定の仕方について解説します。 * * 解 説 * * 1 月給制における欠勤控除の仕方 月給制の従業員が欠勤した場合の欠勤控除の計算については、次の方法があります。 (1) 月額賃金を1ヶ月あたりの平均労働日数で割って計算する方法 この方法の場合は、ご質問のようなケースが生じることがあります。 ① その月の所定労働日数が1ヶ月あたりの平均労働日数より多い場合 欠勤控除額は1日につき1万円(22万円÷22日)になります。その月の所定労働日数が23日の月に1日だけ出勤した場合でも、22日間は欠勤していますので、賃金が0円(22万円-22万円÷22日×22日)になってしまいます。 この場合、1日は労働しているため、次のⓐ又はⓑの方法により、1日分の賃金を支払わなければなりません。 上記の〈事例1〉では、ⓐの場合は、1万円(22万円÷22日)、ⓑの場合は9,566円(22万円÷23日)支払うことになります。 ② その月の所定労働日数が1ヶ月あたりの平均労働日数より少ない場合 この場合、所定労働日数20日すべて欠勤をしても、1日あたりの控除金額1万円×20日で欠勤控除額は20万円となり、全休したにもかかわらず、2日分の賃金2万円(22万円-20万円)を支払うことになってしまいます。 ③ ご質問(上記①及び②)のようなケ-スがあった場合の対応 対応策としては、下記記載の就業規則の規定例(○○条第2項ただし書)が考えられますので、参考にしてください。 〈就業規則の規定例〉 (2) 月額賃金をその月の所定労働日数で割って計算する方法 この方法による場合、上記〈事例2〉の欠勤控除額は、1日につき1万1,000円(22万円÷20日)、20日全休であれば、控除額22万円になり、賃金の支払いは0円になります。 2 妥当な計算方法を就業規則等で規定 欠勤控除の計算方法については法律上の規制がありません。しかし、現実に勤務しなかった時間以上に控除はできません。したがって欠勤控除をする場合は、時間単位で計算する方法が正しいともいえますが、一般的には1日あたりの控除額で計算しています。1日あたりの控除額の計算は、上記1(2)のように、月額賃金をその月の所定労働日数で除す方法もありますが、この方法は、毎月控除する額が変動しますので適当とはいえません。 月給制は、毎月の所定労働日数にかかわらず賃金を固定して支給するものですので、1(1)③の就業規則の規定例のように、控除額も月額賃金を1ヶ月あたりの平均労働日数で除して計算する方が望ましいと思います。 欠勤控除の計算方法は「賃金の計算方法」に該当するため、就業規則等に定めなければなりません。就業規則等に定めがない場合は、その都度計算方法が異なってしまうおそれがあり、トラブルの原因になることもありますので注意が必要です。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例84】 シダックス株式会社 「調査委員会の調査報告書受領と今後の対応について」 (2023.5.31) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、シダックス株式会社(以下「シダックス」という)が2023年5月31日に開示した「調査委員会の調査報告書受領と今後の対応について」である。同社は2022年10月7日に「調査委員会設置に関するお知らせ」を開示しており、その主文は次のとおりである。 オイシックス・ラ・大地株式会社(以下「オイシックス」という)によるシダックス株式に対するTOB(公開買付け)について、シダックスは当初反対していたのだが(2022年9月5日開示「オイシックス・ラ・大地株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」)、「調査委員会設置に関するお知らせ」と同じ2022年10月7日に「(開示事項の変更)オイシックス・ラ・大地株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明(中立)についてのお知らせ」を開示して、意見を中立に変更している。その間、シダックスが「公表していない真偽不明の様々な情報」が流出したので、その出所を調査するための委員会を設置するというのである。 2 調査報告書は? 今回の開示は、タイトルどおりその調査報告書を受領したということなのだが、肝心の調査報告書が添付されていない。この点について次のように記載されている。 「公表よりもまずは原因分析や提言を伺い、その改善策をしっかり企画実行していくことが目的であると考えたため」、調査報告書を添付しないとのことだが、上場会社の開示姿勢として甚だ疑問である。「調査報告書の全文を公表した場合、報道機関等により部分的に引用されることによる誤認等での企業価値の毀損」の可能性があるとのことだが、そうした可能性を踏まえて、会社としてしっかりと説明すべきだろう。また、「第三者から名誉毀損等の法的責任を問われる」可能性もあるとしているが、全員が弁護士の調査委員会は「関係者等の一部匿名化等のプライバシーに配慮した措置を講じることを前提」として全文公表について同意しており、そうした措置を講じて公表すればいいだけではないだろうか。 そもそも調査報告書が公表されなければ、本当の原因、そして、適切な対応は何かについて、投資家は評価できない。これでは、不都合な点は隠し、都合の良い点のみを開示し、示される対応も会社に都合の良いものと捉えられても仕方がないように思われる。 3 TOBの目的 オイシックスがTOBにより取得するシダックス株式は、ユニゾン・キャピタル4号投資事業有限責任組合及びUnison Capital Partners IV(F), L.P.(以下「ユニゾンファンド」という)が保有しているものである。ユニゾンファンドは2019年にシダックス株式を取得している(2019年5月17日開示「資本業務提携及び第三者割当による優先株式の発行、定款の一部変更並びに資本金の額及び資本準備金の額の減少に関するお知らせ」)。 「オイシックス・ラ・大地株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」には、「本公開買付けの契機となった本売却請求権」として次のような記載がある。なお、「創業家」とは、シダックス代表取締役の志太勤一氏と同社取締役の志太勤氏(志太勤氏は志太勤一氏の父親で同社創業者。以下両者を「志太親子」という)のほか、彼らの親族や資産管理会社などであり、「公開買付者」はオイシックスである。 オイシックスによるシダックス株式取得は創業家が求めたものなのである。「オイシックス・ラ・大地株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」には、さらに次のような記載もある。 子会社の譲渡はもちろん業務提携も、会社として決定することであるのに、創業家とオイシックスの間で勝手に話を進めていたのである。志太親子は上場会社の経営に携わる者として非常識だし、オイシックスもプライム市場上場会社であるのに非常識である。 4 中立の条件 志太親子とオイシックスが、シダックスにとって極めて重要な話を自分達の知らないところで勝手に進めていたのである。志太親子以外の取締役が怒るのは当然だろう。「オイシックス・ラ・大地株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」では、以下の3点について「公正な検討」を行うことが困難であることを主な理由としてTOBに反対するとされている。 その後、「(開示事項の変更)オイシックス・ラ・大地株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明(中立)についてのお知らせ」において、次のように上の3点を公正に検討することが一応可能になったため、意見を中立に変更するとされた。 結局、TOBは成立し、オイシックスはシダックスの議決権を28.47%保有し、シダックスはオイシックスの関連会社になった(2022年10月25日開示「その他の関係会社の異動および主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ(オイシックス・ラ・大地株式会社による当社株式に対する公開買付けの結果)」)。そして、オイシックス代表取締役の髙島宏平氏(以下「髙島氏」という)がシダックスの取締役に就任した(2022年11月28日開示「(開示事項の経過)臨時株主総会の開催場所および付議議案決定に関するお知らせ」、2023年1月24日「臨時株主総会における議決権行使の結果に関するお知らせ」)。 5 公正な検討は行われるのか? 果たして「公正な検討」は本当に行われるのだろうか。シダックスの取締役会は現在6名体制だが、同社が2023年5月16日に開示した「取締役候補者の選任及び人事異動に関するお知らせ」によると、来期は志太親子と髙島氏を含めて5名体制になるとのことである。そうした体制では、シダックスの取締役会における議論が、創業家とオイシックスの意向どおりに進んでいってしまう可能性がある。 また、シダックスは2022年11月22日に「特別委員会設置に関するお知らせ」を開示し、「公正な検討の枠組み」として特別委員会を設置するとしていた。その検討内容は次のとおりである。 しかし、同社は「取締役候補者の選任及び人事異動に関するお知らせ」と同じ2023年5月16日に「(開示事項の経過)特別委員会設置に関するお知らせ」を開示し、「特別委員会からの報告要旨」として次のように記載している。 「公正な検討の枠組み」である特別委員会における検討は「一旦保留」にするというのである。そして、その約2週間後に今回の開示である。いつの間にか「公正な検討」は忘れられ、気がついたら、創業家とオイシックスの思いどおりになっていたということにならないだろうか。当然、創業家とオイシックスは当初の目的達成を現在も強く望んでいるはずである。調査報告書にはその目的達成にとって不都合なことがいろいろと書かれていたのだろうか。調査報告書を開示しないと、そのように勘繰られても仕方がない。 (了)
〈“2025年問題”を前に知っておきたい〉 3つの事業承継方法とそれぞれのメリット・デメリット 【前編】 株式会社M&A総合研究所 企業提携部 主任 JMAA認定M&Aアドバイザー 税理士有資格者 松木 雅彦 国内企業の9割以上を占める中小企業・小規模事業者は、技術や雇用の担い手として日本を支える重要な存在です。 最先端技術や伝統技術を有する企業も多いですが、近年は経営者の高齢化が進み、事業承継が重要な課題とされています。 1 中小企業における事業承継の現状 2020年1月末に日本政策金融公庫が公表したアンケートでは、後継者が決まっていると回答した中小企業はわずか12.5%、後継者が決まっていない「未定企業」が22.0%、廃業予定と答えた企業が52.6%と半数を超えており、非常に厳しい現状が分かる結果となりました。 中小企業庁は「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」の中で、2025年には70歳を超える経営者が245万人に達し、現状のままでは中小企業・小規模事業者廃業の急増で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があると試算しています(いわゆる「2025年問題」)。 このような深刻な後継者不在状況を変えるため、国は2011年から事業引継ぎ支援センター(現在は「事業承継・引継ぎ支援センター」)を設置するなど支援策を講じてきました。 2025年が間近に迫る中、国は支援策を拡充し、中小企業・小規模事業者の事業承継を強力に後押ししています。 本稿では、この2025年問題を前に、中小企業・小規模事業者のオーナーに加え、事業承継の相談を受ける立場となる税務顧問の方が知っておくべき3つの事業承継方法とそれぞれのメリット・デメリットを2回にわたって紹介します。 2 親族内承継~事業承継方法①~ 親族内承継は中小企業・小規模事業者の事業承継で最も活用されており、経営者の子など親族を後継者として事業を引き継ぎます。 帝国データバンクの「全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)」では、2021年の事業承継のうち、先代経営者との関係性で親族内承継を選択した企業が38.3%と最も高い割合となりました。一方で、2017年の同割合と比較すると、3.3pt低下し、親族内承継の割合は緩やかな減少傾向となっています。 【メリット】 【デメリット】 3 従業員承継~事業承継方法②~ 自社の従業員や役員を後継者として事業を引き継ぐ方法です。前出の帝国データバンクの調査では、自社の役員などを内部昇格させる従業員承継の割合は 31.7%と、親族内承継に次いで高くなっていますが、これも、前年度と比較すると減少傾向となっています。 【メリット】 【デメリット】 (【後編】に続く)