2021年2月18日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.407を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第88回】 「改正法案からみる3つの新たな税制措置の相違」 -DX投資促進税制、CN投資促進税制、繰越欠損金の控除上限の特例- 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 1月26日、「所得税法等の一部を改正する法律案」が閣議決定された。今回の改正法案では、 ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現を図るため、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)及びカーボンニュートラル(CN)に向けた投資を促進する措置を創設するとともに、こうした投資等を行う企業に対する繰越欠損金の控除上限の特例を設けることとされている。 〇事業適応のための税制措置の構造 今回創設される3つの税制上の措置の書き出しは、それぞれ次のようになっている。 (1) デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制 まずデジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制(改正措法案42の12の7①④)については、 とされている。 (2) カーボンニュートラル(CN)投資促進税制 次にカーボンニュートラル(CN)投資促進税制(改正措法案42の12の7③⑥)では、 とされ、しかも上記の「認定事業適応事業者」は、「認定エネルギー利用環境負荷低減事業適応事業者」に限られており、この「認定エネルギー利用環境負荷低減事業適応事業者」とは、 とされている。 (3) 繰越欠損金の控除上限の特例 最後に繰越欠損金の控除上限の特例(改正措法案66の11の4)では、 とされている。 〇産業競争力強化法の構造 これら3つの措置を比較すると、いずれも「認定事業適応事業者」であることが求められているが、それを規定する産業競争力強化法の条項が異なっている。2月5日に「産業競争力強化法等の一部を改正する法律案」(以下、改正産強法案)が閣議決定され国会に提出されており、この法案に沿って、産業競争力強化法の内容を吟味する必要がある。 これら3つの措置は、いずれも産業競争力強化法に基づき、「事業適応計画」について主務大臣による認定を受けることが前提とされている。 「事業適応計画」とは「事業適応」に関する計画であり(改正産強法案21の15①)、計画の内容である「事業適応」とは、事業者が、産業構造又は国際的な競争条件の変化その他の経済社会情勢の変化に対応して、その事業の生産性を相当程度向上させること又はその生産し、若しくは販売する商品若しくは提供する役務に係る新たな需要を相当程度開拓することを目指して行うその事業の全部又は一部の変更であり、取締役会その他これに準ずる機関による経営の方針に係る決議又は決定を伴うものに限られる(改正産強法案2⑫)。 具体的には、次の3類型とされている(改正産強法案2⑫各号)。 なお、これら3つの「事業適応」は、それぞれ、①成長発展事業適応、②情報技術事業適応、③エネルギー利用環境負荷低減事業適応と呼ばれる(改正産強法案21の13②各号)。 経済産業大臣及び財務大臣は、これらの類型に応じて、事業適応の実施に関する指針(以下「実施指針」という)を定め(改正産強法案21の13)、さらに主務大臣は、実施指針に基づき、所管に係る事業分野のうち、当該事業分野の特性に応じた事業適応を図ることが適当と認められるものを指定し、当該事業分野に係る事業適応の実施に関する指針(以下「事業分野別実施指針」という)を定め(改正産強法案21の14)、主務大臣は実施指針及び事業分野別実施指針に基づき事業適応計画の「認定」を行う(改正産強法案21の15④)。 主務大臣の認定を受けた事業適応計画は「認定事業適応計画」と呼ばれ(改正産強法案21の16②)、計画の認定を受けた事業者は「認定事業適応事業者」と呼ばれる(改正産強法案21の16①)。 税制上の措置の適用を受けるには、まずはこの「認定事業適応事業者」となる必要があるが、それだけでは、事業者に係る適用要件のすべてを満たしているわけではない。 CN投資促進税制においては、認定事業適応計画なら何でもよいわけではなく「エネルギー利用環境負荷低減事業適応」に関するものに限られており、また適用対象となる設備について、産業競争力強化法上で定義される「生産工程効率化等設備」と「需要開拓商品生産設備」の2類型に限定されている。 「生産工程効率化等設備」とは、生産工程の効率化によりエネルギーの利用による環境への負荷の低減に特に資する設備その他のエネルギー利用環境負荷低減事業適応に資する設備とされ(改正産強法案2⑬)、「需要開拓商品生産設備」とは、エネルギーの利用による環境への負荷の低減に特に資する商品その他のエネルギー利用環境負荷低減事業適応を行う事業者による新たな需要の開拓が見込まれる商品として一定の商品の生産に専ら使用される設備とされている(改正産強法案2⑭)。 一方、DX投資促進税制や繰越欠損金の控除上限の特例の適用に当たっては、主務大臣による計画の認定に加えて、一定の事項に関する確認を得ることが必須である。 DX税制においては、情報技術事業適応が、生産性の向上又は需要の開拓に特に資するものとして主務大臣が定める基準に適合することについての主務大臣の「確認」が必要とされ(改正産強法案21の28②)、欠損金の特例においては、経済社会情勢の著しい変化に対応して行うものとして主務大臣が定める基準に適合することについての主務大臣の「確認」が必要とされている(改正産強法案21の28①)。 (了)
令和2年度税制改正における 国外財産調書制度の見直し 【第4回】 税理士 谷口 勝司 3 過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の適用の判定の基礎となる国外財産調書の見直し (1) 国外財産に対する相続税に関し修正申告等があった場合の過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の適用の判定の基礎となる国外財産調書の見直し 国外財産に対する相続税に関し修正申告等があった場合の過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の適用の判定の基礎となる国外財産調書は、次に掲げる措置の区分に応じそれぞれ次に定める国外財産調書とされた(調書法6②二・④二)。 過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の適用の有無は、国外財産調書の提出の有無や修正申告等の基因となった国外財産の記載の有無等によって異なる。このため、どの時期(年)に提出すべき国外財産調書により判断するかということが重要になる。 上記改正は、過少申告加算税等の加重措置の対象に相続税が追加されたこと等に伴い、相続税について軽減措置又は加重措置の適用判定の基礎となる国外財産調書が見直された、ということである。 簡単な事例で説明しよう(被相続人は甲、相続人は乙1人のみのケース)。 被相続人甲の死亡日(相続開始年月日)がX2年8月11日である場合、上記イの(イ)は、被相続人甲のX1年分国外財産調書、同(ロ)は相続人乙のX2年分国外財産調書、同(ハ)は相続人乙のX3年分国外財産調書、ということになる。 (注) 仮に、被相続人甲がX2年2月4日に死亡し、X1年分国外財産調書をその提出期限であるX2年3月15日までに提出しなかった場合、X1年分国外財産調書の提出義務はないため(調書法5①ただし書)、上記イの(イ)は、被相続人甲のX0年分国外財産調書、ということになる。 そして、相続税の修正申告等の基因となった国外財産が、この3つの国外財産調書のいずれかが、提出かつ記載されていれば、軽減措置の適用対象となる。逆に、この3つの国外財産調書の全てが、不提出又は未記載であれば、加重措置の適用対象となる。 相続税は、納税義務者が相続人、国外財産調書の提出義務者が被相続人といったように異なるケースがあるため、被相続人と相続人のどちらかが国外財産調書を適正に提出(かつ記載)していれば軽減措置の対象になる。他方、被相続人と相続人のいずれもが国外財産調書を提出していない(又は未記載)場合にのみ(換言すれば悪質な場合のみ)加重措置の適用対象となるということである。 (2) 相続開始年に取得した相続国外財産に係る所得税に関し修正申告等があった場合の過少申告加算税等の加重措置の不適用 相続開始年の年分の国外財産調書について、上記Ⅱ1(【第2回】参照)の柔軟化措置により除外して提出することができる相続国外財産(相続開始年に取得したものに限る)に係る所得税に関し修正申告等があった場合の過少申告加算税等の加重措置は、相続開始年の年分については、適用しないこととされた(調書法6④一)。 国外財産に係る所得税に関する修正申告等があった場合、過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の適用判定は、その所得税の修正申告等に係る年分の国外財産調書(その年分のその年の中途においてその修正申告等の基因となる国外財産を有しないこととなった場合におけるその国外財産にあっては、その年分の前年分の国外財産調書)により行うこととされている(調書法6④、旧調書法6③)。 上記Ⅱ1の柔軟化措置により、相続開始年の年分の国外財産調書の提出・記載については相続国外財産を除外できることとなったことから、(いわば必然的に)その除外した相続国外財産に関する所得税の修正申告等については、加重措置の適用対象外とされたものである。 他方、上記Ⅱ1の柔軟化措置を適用しない場合、つまり相続国外財産を除外せずに(いわば任意で)相続開始年分の国外財産調書の提出・記載を行った場合、相続国外財産に係る所得税に関する修正申告等については、軽減措置についてはその適用があることになろう(調書法6②二)。 (了)
給与計算の質問箱 【第14回】 「電子マネーや暗号資産を用いた給料の支払の可否」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 「〇〇PAY」などの電子マネーやビットコインなどの暗号資産を用いた給料の支払は可能でしょうか。 A 電子マネーを用いた給料の支払はできないが、暗号資産を用いた給料の支払は可能である。 * * 解 説 * * 1 「〇〇PAY」などの電子マネーを用いた給料の支払 電子マネーを用いた給料の支払は現状できない。 以下の労働基準法第24条及び労働基準法施行規則第7条の2で定めるとおり、給料は現金又は銀行振込によらなければならない。ただし、政府が電子マネーを用いた給料の支払の解禁を検討しているので、将来的には可能になるかもしれない。 ◎労働基準法 ◎労働基準法施行規則 2 ビットコインなどの暗号資産を用いた給料の支払 暗号資産を用いた給料の支払は可能である。 ビットコインなどの暗号資産を用いて給料を支払う場合、支払手段ではなく、給料の一部を暗号資産という経済的利益に置き換えて支払うことができるという意味合いから、現物給与とされる。その評価額は、給料支給時の価額とされる。なお、現金と暗号資産の価額を合算した金額をもとに源泉徴収税額を計算する。 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第17回】 「買換資産を居住の用に供する前に離婚をした場合」 -居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合- 税理士 大久保 昭佳 Q X(夫)とY(妻)は、共に7年程前から住んでいたX所有のA家屋を2,000万円で、Y所有のA土地を3,000万円で売却しました。 買換資産Bに係る購入価額は総額5,000万円で、譲渡資産のそれぞれの収入金額割合に応じ、家屋Bと土地Bの各持分をXが5分の2、Yが5分の3の割合で取得したものの、わけあって居住の用に供する前に協議離婚しました。 その他の適用要件が具備されている場合に、Yは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることはできるでしょうか。 A 買換資産をその居住の用に供するまでに、XとYの親族関係がなくなっていることから、譲渡物件に係る土地の所有者であるYは、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」に係る譲渡家屋の所有者以外の者が、その譲渡家屋の敷地の用に供されている土地等で、その譲渡の年の1月1日における所有期間が5年を超えているものの全部又は一部を所有している場合において、租税特別措置法通達41の5-11(居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合の取扱い)に掲げる要件の全てを満たすときは、これらの者がともに同特例を受ける旨の申告をしたときに限り、その申告を認めるとされています。 そして、上記通達に掲げる要件(3)において、譲渡の時から買換資産をその居住の用に供するまでの間の親族関係等に係る要件が示されています。 ※下線については筆者加筆。 したがって、本事例の場合は、買換資産を居住の用に供する前に離婚していることから、譲渡物件に係る土地の所有者であるYは「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができません。 (了)
相続税の実務問答 【第56回】 「共同申告をしない相続人がいる場合」 税理士 梶野 研二 [答] 相続人や受遺者の中に共同申告を行わない者がいる場合には、その共同申告をしない者の氏名やその者に係る課税価格などの金額を相続税の申告書第1表に記載する必要はありませんが、合計欄には共同申告をしない者の課税価格等も合計した金額を記載しなければなりません。 なお、申告書第1表に共同申告を行わない者の氏名や課税価格等の金額を記載しても差し支えありませんが、その場合には、その者の氏名や課税価格等の金額が記載された欄を斜線で抹消するなどして、その者はその申告書によっては申告をしないことを明確に表示することが必要です。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税の計算方式 相続税法は、相続税の計算方法について、法定相続分課税方式による遺産取得者課税の仕組みを採用しています。具体的には、まず、相続税の納税義務者、すなわち相続又は遺贈により課税対象の財産を取得した者(以下「相続人等」といいます)ごとに相続税の課税価格を計算し、その各相続人等の課税価格の合計額を基に相続税の総額を算出し、その総額を各相続人等の課税価格に応じて配分することにより、それぞれの相続税額を計算する方法です。 このような相続税額の計算方法が採られていることから、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての相続人等について相続税の課税価格を確定させなければ、各相続人等の相続税額を算出することはできません。そのため、相続税の申告書には、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額及び当該合計額を基礎として算出したこれらの者に係る相続税の総額その他相続税額の計算の基礎となる事項を記載することとされています(相規13①二)。 2 相続税の申告書 (1) 申告書の様式と共同申告 相続税の申告書の様式は国税庁で定めており(注1)、通常はこの様式を使用して相続税の申告が行われています。相続税法は、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者が2名以上いる場合には、これらの者は、共同して相続税の申告書を提出することができると規定していますので(相法27⑤)、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者が2名以上いる場合には、この申告書の様式を使用し、1通の申告書に各相続人等がそれぞれの課税価格や税額などを記載し、それぞれの記載欄に押印することにより申告を行うのが一般的であり、これは納税者及び課税当局の双方の便宜に資するものであるといえます。国税庁で定めている申告書の様式は、この共同申告に適応するものです。 (注1) 国税庁ホームページ「相続税の申告書等の様式一覧(令和2年分用)」 (2) 共同申告をしない場合 しかしながら、何らかの事情により、相続人等が、共同して1通の申告書を提出するのではなく、相続人等ごとに別々に申告を行ったり、あるいは3名以上の相続人等のうちの一部の者のみが共同して申告することがあります。納税義務者である全ての相続人等の課税価格及び相続税額などが申告書の様式のそれぞれの相続人等の欄に記載がされますと、そこに記載された相続人等のうち一部の者がその申告書によっては申告をする意思がない場合であっても、あたかもその申告書によって申告を行ったかのような外観を呈することとなってしまいます。 これまでは、原則として、その申告書第1表の各相続人等の氏名が記載された欄にその者が押印しているかどうかによりその者が他の相続人等と共同して申告を行ったものであるのかどうかの判断がされてきました。つまり、実務上、税務署長に提出された申告書に押印のある者のみが申告書を提出したとし、その申告書に課税価格や相続税額の記載があったとしても押印のない者については、その者の申告書とは扱わないとされていました。 このような取扱いがされてきたのは、相続税をはじめとする国税に関する申告書、申請書、届出書、調書その他の書類(以下「税務書類」といいます)を提出する者は、各税務書類にその氏名(法人にあってはその名称)、住所又は居所及び番号を記載し、かつ、当該税務書類を提出する者等が押印しなければならないこととされていることから(通法124①②)、押印のない者については、申告の意思がないものと考えられたためです。 (3) 押印が行われない場合の申告者の判定 ところが、法令等又は慣行により、国民や事業者等に対して押印を求めている行政手続については、「経済財政運営と改革の基本方針2020」(令和2年7月17日閣議決定)及び「規制改革実施計画」(令和2年7月17日閣議決定)に基づき、各府省は、原則として全ての見直し対象手続について、規制改革推進会議が提示する基準に照らして順次、必要な検討を行い、法令、告示、通達等の改正を行うこととされ、これを受けて、令和2年12月21日に閣議決定された「令和3年度税制改正の大綱」において税務関係書類の押印義務の原則廃止が明記されるとともに、「施行日前においても、運用上、押印がなくとも改めて求めないこととする」とされました。 そのため国税庁は同日付けで、上記見直しの対象となる税務関係書類については、税制改正前であっても、押印を求めないとする取扱いを公表しました(注2)。このため、これまでのような押印の有無により相続税の申告を行った者であるのかどうかの判断をすることができないこととなりました。 (注2) 国税庁ホームページ「税務署窓口における押印の取扱いについて」 そこで国税庁では、相続税の申告に関して次の取扱いを明らかにしました(注3)。 (注3) 国税庁ホームページ「複数の相続人等がいる場合の相続税の申告書の作成方法~押印をせずに相続税の申告書を提出する場合~」 3 ご質問の場合 妹さんを除くあなた方3名の申告書には、妹さんの課税価格も含めた相続税の課税価格の合計額を記載する必要がありますが、申告書第1表に共同申告をしない妹さんの氏名や金額等の記載を行う必要はありません。 なお、あなた方が提出する申告書第1表に妹さんの氏名や課税価格及び税額などを記載すること自体は問題ありませんが、その場合には、妹さんの氏名や金額を記載した欄を斜線で抹消するなどして、妹さんはその申告書によっては申告をしないことを明示してください。 (了)
〔令和3年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第3回】 「「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置」 「中小企業者の欠損金等以外の欠損金の繰戻し還付不適用措置の延長」 「時価評価制度の見直し」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 令和2年度税制改正における改正事項を中心として、令和3年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。【第2回】は「5G導入促進税制の創設」、「大企業に対する租税特別措置の適用除外の見直し」、「交際費等の損金不算入制度の特例の見直しと延長」及び「少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例の見直しと延長」について解説した。 【第3回】は「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置」、「中小企業者の欠損金等以外の欠損金の繰戻し還付不適用措置の延長」及び「時価評価制度の見直し」について解説する。 1 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置 新型コロナウイルス感染症による経済への影響が非常に大きいことから、法人税申告に関しても緊急の措置が講じられている。 (1) 青色欠損金の繰戻し還付の特例 「青色欠損金の繰戻し還付」とは、法人が青色申告書を提出する事業年度において欠損金が生じた場合に、その欠損金を、その事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰り戻して、法人税の還付を受けることができる制度である。 ただし、本来は資本金(又は出資金)の額が1億円以下の中小企業者等を除き、適用が停止されている。 これが、新型コロナウイルス感染症対策のため、一時的に適用対象が拡大されている。具体的には、次のような法人以外には適用が認められている。つまり、資本金(又は出資金)の額が1億円超10億円以下の法人にも、一時的に適用が認められていることになる。 この緊急措置は、令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する事業年度に生じた欠損金について適用される。したがって、令和3年3月期の決算申告においては適用されることになる。 還付請求を行う場合は、欠損金の生じた事業年度の確定申告書の申告期限までに、還付請求書を提出する必要がある。なお、当該措置の対象となる法人が、令和2年7月1日前に確定申告書を提出している場合の請求期限は、令和2年7月31日となる。 ただし、新型コロナウイルス感染症の影響で、期限までに申告や還付請求の手続が難しい場合は、その期限を個別に延長することが可能である。 (2) テレワーク等のための中小企業の設備投資税制 新型コロナウイルス感染症対策のため、「中小企業経営強化税制」の対象が拡大されている。「中小企業経営強化税制」とは、青色申告書を提出する中小企業者等が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき、一定の設備を取得し指定事業に供用した場合に、即時償却又は税額控除(7%又は10%)を認める制度である。 当該税制の対象設備に、従来の「生産性向上設備」及び「収益力強化設備」に加えて、次のような「テレワーク等のための設備」が追加されている。 この緊急措置は、令和2年4月30日から令和3年3月31日までに「テレワーク等のための設備」を取得等し、事業供用した場合に適用される。したがって、令和3年3月期の決算申告においては適用がある。 2 中小企業者の欠損金等以外の欠損金の繰戻し還付不適用措置の延長 「青色欠損金の繰戻し還付」は、前述の通り本来は資本金(又は出資金)の額が1億円以下の中小企業者等を除き、適用が停止されている。これが令和2年度税制改正により、令和4年3月31日までに終了する事業年度まで延長されている。 したがって、本来なら令和3年3月期の決算申告においては、資本金(又は出資金)の額が1億円超の法人は「青色欠損金の繰戻し還付」を適用できないところである。しかし、新型コロナウイルス感染症対策の緊急措置により、資本金(又は出資金)の額が1億円超10億円以下の法人は、一時的に適用が可能になっている。 (※) 大規模法人と完全支配関係のある法人等は除く。 3 時価評価制度の見直し 「時価の算定に関する会計基準」が導入されたことに伴い、令和2年度税制改正において、有価証券等の時価評価についていくつかの見直しがなされている。 (1) 売買目的有価証券の時価評価 売買目的有価証券の時価評価額について、次のとおり見直しが行われている。 (2) 有価証券に係る評価損の計上事由 有価証券に係る評価損の計上事由について、著しく価額が低下したことを計上事由とする有価証券の範囲に、「市場有価証券以外の有価証券(株式又は出資を除く)」が加えられた。 (3) 短期売買商品等(暗号資産を除く)の時価評価 短期売買商品等(暗号資産を除く)の時価評価について、売買目的有価証券と同様の見直しが行われた。 (4) デリバティブ取引 未決済デリバティブ取引に係るみなし決済損益額の算定に用いた合理的な方法の採用理由や、その他の算定の基礎となる事項を記載した書類を保存しなければならないとされた。 (5) 貸倒引当金 対象となる金銭債権から債券が除外された。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第23回】 「退任後に再就任した場合の役員退職給与」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ 上場企業等において、退任した元代表取締役の復帰に関するニュースが散見される。その多くは、その企業に多大な貢献があった人物の手腕が買われ、業績低迷等の状況を打破するための突破口としての役割が期待されることを理由とする。 このような元代表者や貢献のあった役員の復帰は、実は中小企業の方がよくあるケースであると思われる。というのも、上記の例題は後継となる代表者が逝去した場合を取り上げたが、企業の存続のために、金融機関や株主、場合によっては従業員等からの要請により前代表者等が再登板することは、往々にして生じるケースではないだろうか。例えば、以下のようなケースが考えられる。 これらの場合において、退任時に役員退職給与を支給していた場合は、その損金算入性について再考する必要がある。この点について参考となる裁決例があるため、以下に要旨を紹介する。 (1) 裁決例:国税不服審判所平成16年4月23日裁決(※1) (※1) 非公開裁決(TAINS:F0-2-353)。 (2) 役員退職給与の可否とその後の留意点 役員退職給与は、その損金算入性が問題となる場合、当該役員の勤務実態等に着目された結果、退職の事実がないものとして否認されるというケースが圧倒的に多い。 退職の事実が認められる場合、会社法361条や法人税基本通達9-2-28を根拠として株主総会等にて決議していたかどうかという形式面が、そして法人税法施行令70条2号を根拠として同業類似法人等の諸事情に比して過大であるかどうかという実質面がそれぞれ注目される。これらの点はこれまで本連載にて触れてきたとおりである。 上記(1)の裁決例では、株主変更に伴って取締役が退任後、その翌日・・に復帰したケースであり、課税庁が退職の事実の有無について問題視した理由もよく分かる。当該裁決例は、法人との委任関係が完全に解消したという事実が立証されたために役員退職給与の損金算入性が是認されたものであるが、もとより再就任が約束されていたり、後日付で議事録のみ整えられていたりした等、役員退職給与を支給するためだけに行った経緯があれば、異なる結果となっていたとも考えられる(※2)。 (※2) 当該裁決例を、「形式要件と実質要件を満たす限りは、役員退職給与の支給自体は問題ないことを明らかにした」ものと評価する意見として、衛藤政憲「同一事業年度中に退職と再就任をした役員に支給した退職給与の損金算入の可否」国税速報6514号(2018)42頁がある。 したがって、役員退職給与は、その退職の事実を説明できるようにしておくことが改めて重要であるとともに、真に退職の事実があり、再就任もやむなしという事情があれば同一年度中の復職も認められる可能性も存在すると思われる。 とはいえ、上記事例が国税不服審判所にまで持ち込まれていることからも、役員退職給与を支給した年度と同一年度の再就任は、実務感覚で言えば極めて危険な行為そのものである。退任済の役員の復帰をやむを得ず検討する場合には、退職の事実が認められることについて入念な確認をしておきたい。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第25回】 「適格分割型分割を行った場合の分割法人の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 前回は、適格分割型分割を行った場合の分割承継法人の取扱いについて確認しました。 今回は、適格分割型分割を行った場合の分割法人の取扱いについて解説します。 1 資産・負債の引継ぎ 適格分割型分割があった場合の分割法人から分割承継法人への資産・負債の移転は、分割直前の帳簿価額による引継ぎをしたものとされ、分割法人において譲渡損益は生じないこととされています(法法62の2②)。 2 適格分割型分割により引き継ぐ「減価償却資産」の取扱い 分割法人が、適格分割型分割により分割承継法人に減価償却資産を移転する場合において、分割事業年度に、その減価償却資産について分割の日までの減価償却費を計上したときは、その期中損金経理額のうち適格分割の日の前日を事業年度終了の日として計算した償却限度額に達するまでの金額は、分割法人で損金の額に算入されます(法法31②)。 ただし、期中損金経理額を損金の額に算入するためには、分割の日から2ヶ月以内に一定の届出が必要となります。 3 適格分割型分割により引き継ぐ「繰延資産」の取扱い (1) 償却費の損金算入 分割法人が、適格分割型分割により分割承継法人に繰延資産を移転する場合において、分割事業年度に、その繰延資産について分割の日までの償却費を計上したときは、その期中損金経理額のうち分割の日の前日を事業年度終了の日として計算した償却限度額に達するまでの金額は、分割法人で損金の額に算入されます(法法32②)。 ただし、期中損金経理額を損金の額に算入するためには、分割の日から2ヶ月以内に一定の届出が必要となります。 (2) 分割承継法人への引継ぎ 適格分割型分割により分割承継法人に引き継ぐことができる繰延資産は、次のとおりです(法法32④二・⑤、法令66、法規22)。 4 適格分割型分割により引き継ぐ「一括償却資産」の取扱い (1) 償却費の損金算入 分割法人が、適格分割型分割により分割承継法人に一括償却資産を移転する場合において、分割事業年度に、その一括償却資産について分割の日までの償却費を計上したときは、その期中損金経理額のうち分割の日の前日を事業年度終了の日として計算した償却限度額に達するまでの金額は、分割法人で損金の額に算入されます(法令133の2②)。 ただし、期中損金経理額を損金の額に算入するためには、分割の日から2ヶ月以内に一定の届出が必要となります。 (2) 分割承継法人への引継ぎ 適格分割型分割により分割承継法人に引き継ぐことができる一括償却資産は次のとおりです(法令133の2⑦、法規27の19)。 5 適格分割型分割により引き継ぐ「貸倒引当金」の取扱い 分割法人が、適格分割型分割により分割承継法人に貸倒引当金を移転する場合において、分割事業年度に、期首から分割の日までの期間に貸倒引当金を計上したときは、その期中損金経理額のうちその期間の繰入限度額に達するまでの金額は、分割法人で損金の額に算入されます(法法52⑤⑥)。 ただし、期中損金経理額を損金の額に算入するためには、分割の日から2ヶ月以内に一定の届出が必要となります。 6 適格分割型分割により減少する「資本金等の額」 分割法人において適格分割型分割により減少する資本金等の額は、次のとおりです(法令8①十五)。 7 適格分割型分割により減少する「利益積立金額」 分割法人において適格分割型分割により減少する利益積立金額は、次のとおりです(法令9①十)。 ① 加算項目 ② 減算項目 適格分割型分割により減少する資本金等の額、利益積立金額の算式を図にすると、下記のようになります。 8 具体例 下記では具体例を用いて、適格分割型分割を行った場合の分割法人の取扱いについてみていきます。 〈分割法人の貸借対照表〉 〔前提〕 〔分割法人の移転仕訳〕 〇資産・負債 適格分割型分割の場合は簿価で引き継ぐこととなります。 〇減少する資本金等の額 分割法人の適格分割型分割直前の資本金等の額に移転割合を乗じて計算します。 〇減少する利益積立金額 移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額と減少する資本金等の額を減算して計算します。 ◆適格分割型分割を行った場合の分割法人の取扱いのポイント◆ 資産・負債の移転は、分割直前の帳簿価額による譲渡をしたものとされ、分割法人において譲渡損益は生じません。 事業年度の中途に適格分割型分割があった場合に、減価償却費等の期中損金経理額を分割法人において損金の額に算入するためには、一定の届出が必要となります。 分割法人において移転する資産・負債に対応する資本金等の額及び利益積立金額が減少します。 (了)
値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第11回】 「回転率を参考に価格を決める」 ~リレー選手の秘訣~ 公認会計士 石王丸 香菜子 登場人物 《ドライフラワー・アイテム別資料(一部)》 ※売上原価 = 期首在庫 + 仕入高 - 期末在庫 粗利益 = 売上高 - 売上原価 * * * 在庫の保管や管理のためのコストのうち仕入高に含めなかったものは、財務会計上は一般管理費などとして処理されます。これらのコストは、どのアイテムのためにいくらずつかかったかを紐づけて認識できない場合が多いですが、在庫水準が大きいアイテムには、これらのコストも多くかかっているはずです。 つまり、在庫水準の大きいアイテムは、こうしたコストをカバーできるように、より多くの粗利益を獲得することが望ましいと考えることができます。 * * * * * * アイテムごとの利益への貢献度を表す指標の1つとして、GMROI(「ジーエムロイ」Gross Margin Return On Inventory Investment:商品投下資本粗利益率)があります。 GMROIは、在庫に投資することでどれくらい効率的に粗利益を稼いだかを表しています。ROA(Return On Assets:総資本利益率)は、総資本を利用することでどれくらい効率的に利益を稼いだかという指標ですが、両者の発想は同じですね。 各アイテムのGMROIを計算してみましょう(ここでは期首在庫と期末在庫の平均値を平均在庫金額とします)。 * * * * * * 小学校の運動会でリレーを観戦すると、リレー選手は身長の大きな子ばかりではなく、小柄な子もいることに気付きます。小柄なリレー選手は、歩幅(ストライド)は小さいものの、回転(ピッチ)がかなり早いのです。速さ(一定時間に走れる距離)は、歩幅と回転をかけ合わせたものなので、歩幅が小さくても回転が早ければ、足が速いというわけですね。 〈速さは「歩幅」と「回転」の2つの要素からなる〉 GMROI(1円当たりの在庫金額で稼げる粗利益)も、同じように2つの要素に分けて考えることができます。 粗利益率が低いアイテムでも回転率が高い(=仕入れてすぐに次々と販売される)ならば、目標GMROIを達成できます。逆に、回転率が低いアイテムでも、粗利益率を上げれば目標GMROIを達成できます。 ドライフラワーのGMROIを2つの要素に分けると、次のようになります。 * * * * * * ミモザについて、現状の在庫回転率8.3を前提として、GMROIを4にしたいならば、粗利益率を48%とすればよいと逆算できます。つまり、粗利率48%になるように、販売価格を値上げすればよいのです。 GMROIの目標値と在庫回転率から、粗利益率の目安を算定し、それを参考に販売価格を設定すると、在庫への投資によって効率的に利益を確保することにつながります。多数のアイテムについて簡易的に利益管理や価格見直しをしたい場合には、有用な考え方です。 * * * * * * なお、GMROIの要素としての在庫回転率は、「売上高 ÷ 在庫金額」ですが、経営分析で用いる在庫回転率は「売上原価 ÷ 在庫金額」として求めるのが一般的ですので、留意しましょう。 (了)