谷口教授と学ぶ
税法の基礎理論
【第50回】
(最終回)
「現代国家と租税法律主義」
-租税国家における「税法の世界」-
大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫
Ⅰ はじめに
2018年8月から約2年半にわたって当初は月1回、翌年4月(第9回)からは月2回のペースで「税法の基礎理論」を連載してきたが、今回をもって連載を一先ず擱筆することとする。
この連載では、「税法の基礎理論」という言葉は、「税法の基礎にある考え方」あるいは(もう少し厳密にいえば)「実定税法の体系及び諸規定を支える基本原則」というような意味で用いているが、「税法の基礎理論」のこのような意味・用語法は、拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の「第1編 税法の基礎理論」のそれと同じである(第1回Ⅰ参照)。
上記の拙著を執筆するに先立って、筆者は、「税法の基礎理論-租税憲法論序説-」と題する研究ノートを執筆し、日本税法学会の機関誌「税法学」の第555号(2006年)299頁以下で公表した。この研究ノートが、上記拙著の「第1編 税法の基礎理論」のベースとなっているのであるが、その冒頭で「法律学における税法学の位置づけを簡単に図示する」(300頁)として、税法学の全体像を図示しようと試みた。それは、教科書を執筆することになった暁には、そのような図を通じて「読者には、『森を見ながら、木を見る』ような学習を心がけてもらいたい」(谷口勢津夫=一高龍司=野一色直人=木山泰嗣『基礎から学べる租税法〔第2版〕』(弘文堂・2019年)初版はしがき)とのメッセージを伝えたいと考えていたからである。
「森を見ながら、木を見る」は、筆者が税法を研究する際の「座右の銘」としてきたものであるが、上記の研究ノートの公表後研究を進めていく中で、「森を見ながら、木を見る」を「法律学における税法学の位置づけ」よりもっと広い視野から捉えるべきではないかと考えるようになり、「現代国家における税法の位置づけ」を図示しようと検討を重ねてきた。
しかし、前記の拙著『税法基本講義』の初版(2010年)以降、「現代国家における税法の位置づけ」に関する構想を内容的には部分的に解説の中に盛り込みつつも、それを示す図それ自体はなかなか盛り込むことはできなかった。そのような図を「租税国家における『税法の世界』」として盛り込むことができたのは、第6版(2018年)においてであった。
今回は、「租税国家における『税法の世界』」を「図解」すること(ここでは通常の意味とは異なり「図を解読すること」)をもって、この連載を一先ず擱筆することにしたい。
Ⅱ 租税国家における「税法の世界」
「国家なくして租税なし」とはいえるとしても、「租税なくして国家なし」とは必ずしもいえない。理念型・理想型としての社会主義国家には租税は存在しないからである(後記Ⅲ3参照)。とはいえ、近代以降、歴史的実在としての自由主義国家においては、租税はその収入源としての重要性を増してきた。今日では、「租税なくして国家なし」といっても、すなわち、現代国家は租税国家(運営資金を租税により調達する国家)であるといっても過言ではないのである(以上について前掲・拙著【2】参照)。
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