公開日: 2013/01/10 (掲載号:No.1)
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平成24年分 確定申告実務の留意点 【第1回】「確定申告の種類と給与所得者の申告」

筆者: 篠藤 敦子

平成24年分

確定申告実務の留意点

【第1回】

「確定申告の種類と給与所得者の申告」

 

公認会計士・税理士 篠藤 敦子

 

【1】 はじめに

まもなく、平成24年分所得税の還付申告書の受付が開始される。
そして、平成24年分の所得税について確定申告書を提出する義務がある場合には、所轄税務署長に対し、平成25年2月16日から同年3月15日までの間に、確定申告書を提出しなければならない(所法120①)。

所得税法は、所得税の課税対象とならない所得(非課税所得)を限定的に規定しており(所法9~11)、それ以外の所得は所得税の課税対象となる。また、所得はその性格によって10種類に区分され、その区分ごとに所定の方法により所得金額を計算することとされている(所法23~35)。

所得税法は総合課税を原則としながらも、土地建物の譲渡による所得や株式の譲渡による所得などの分離課税となる所得もある上、各個人の事情を所得税計算に反映するために設けられた「所得控除」が数多く存在する。
これらは法人税の計算にはみられない制度であり、所得税の計算過程を複雑にしている。

今後数回にわたり、平成24年分の確定申告にかかる所得計算と所得控除について、留意点を実務的な観点からまとめることにする。
第1回目は、申告の種類と給与所得者の確定申告について解説する。

 

【2】 還付を受けるための申告

確定申告書を提出する義務のない人も、所得税の計算上控除しきれない外国税額控除の額、源泉徴収税額、予定納税額の還付を受けるために確定申告書を提出することができる(所法122①)。
この還付を受けるための申告(以下「還付申告」という)は、任意のものであり、【3】で解説する義務の申告とは区別される。

所得税法上、還付申告について申告期限の定めはなく、国税通則法に還付金の請求権についての時効が定められている。国税通則法74条1項には、「還付金等に係る国に対する請求権は、その請求をすることができる日から5年間行使しないことによって、時効により消滅する」と規定されている。
5年を過ぎると還付の請求をすることができなくなるということであるから、還付申告できる期間は、その請求をすることができる日(=その年が終了する日の翌日である翌年1月1日)から5年間ということになる。

 

【3】 確定所得申告

還付申告は、確定申告義務のない人が還付を受けるために行うものである。確定申告義務がある場合に、結果として申告内容が還付になったとしても、その申告(確定所得申告)と還付申告は区別される。

“確定申告義務がある場合”とは、確定申告書の提出や確定申告書への記載、明細書の申告書への添付を要件として適用される特例を適用しないものとして計算した所得税額が、配当控除の額と年末調整で適用を受けた住宅借入金等特別控除額との合計額を超える場合をいう(所法120①、措法41の2の2④、所基通120-1)。
すなわち、各種特例適用前の所得税額が、配当控除の額と年末調整で適用を受けた住宅借入金等特別控除額の合計額を超える場合である。このとき、源泉徴収税額や予定納税額の有無は問われないため、確定所得申告の場合でも源泉徴収税額や予定納税額が計算された所得税額よりも多ければ、還付となることもある。
この場合であっても、確定所得申告は還付申告に該当しないため、確定所得申告は、原則的な申告期間である翌年2月16日から同年3月15日までの間に行うこととなる(所法120①)。

 

【4】 確定損失申告

確定損失申告とは、純損失や雑損失の金額を翌年以後に繰り越すための申告をいう。
この申告によっても、源泉徴収税額や予定納税額の還付を受けることがある。しかし、この申告も【2】の還付申告には該当しないため、申告書の提出期間は、翌年2月16日から同年3月15日までとなる(所法123①)。

 

【5】 給与所得者の還付申告

給与所得者は、年末調整で所得税の精算が行われているため、基本的には確定申告をする必要はない。しかし、次のような人は、確定申告をすることにより源泉徴収税額や予定納税額等の還付を受けることができる。

  1. 年末調整で適用することができない所得控除(雑損控除、医療費控除、寄附金控除)の適用を受ける人(所法72,73,78)
  2. 一定の要件に該当する住宅を取得したり、住宅に特定の改修工事をしたことにより、住宅借入金等特別控除の適用を受ける人(措法41)
  3. 特定支出控除の適用を受ける人(所法57の2)
  4. 年末調整を受けずに退職したため、源泉徴収された所得税額が納めすぎとなっている人

なお、年末調整を受けた人が源泉徴収票を添付して還付申告をするときには、一部の記載内容を省略して申告書を作成することができる(所法122①、所規47の5)。
具体的には、所得控除のうち年末調整で適用を受けたものについては、第1表にそれぞれの金額を記載せず合計金額で記入し、第2表の該当部分の記載も省略することができる。

 

【6】 給与所得者の確定申告義務

給与所得者でも確定申告が必要となる場合がある。原則として、次に該当する人は確定申告をしなければならない。

(1) 平成24年分の給与の収入金額が2,000万円を超える人(所法190)

(2) 給与の支払いを1箇所から受けている人で、給与所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える人(所法121①一)

20万円には、次の所得等は含まれない。
・源泉分離課税の利子所得
・確定申告をしないことを選択した配当等
・特定口座内保管上場株式等の譲渡による所得等
・退職所得

(3) 給与の支払いを2箇所以上から受けている人で、従たる給与と給与所得及び退職所得以外の所得金額以外の所得金額との合計額が20万円を超える人(所法121①)

ただし、この場合であっても、次の①と②の両方を満たす人は、確定申告をする必要はないとされている(所法121①二)。

① その年中の給与収入金額-(社会保険料控除 + 小規模企業共済等掛金控除 + 生命保険料控除 + 地震保険料控除 + 障害者控除 + 寡婦(寡夫)控除 + 勤労学生控除 + 配偶者控除 + 配偶者特別控除 + 扶養控除) ≦ 150万円
※赤文字部分 = 所得控除の合計額-(雑損控除 + 医療費控除 + 寄附金控除 + 基礎控除)

② 給与所得と退職所得以外の所得金額 ≦ 20万円

(4) 同族会社の役員や親族等で、その同族会社から給与の他に貸付金の利子、不動産の賃貸料や動産の使用料等の支払いを受けた人(所法121①、所令262の2)

(5) 災害によって住宅または家財に被害を受けたため災害減免法の適用を受け、給与について源泉徴収税額の徴収猶予や還付を受けた人(災害減免法3②)

なお、平成24年分の確定申告書の記載例については、国税庁ホームページで公開されている。

【参考】 国税庁ホームページ 「確定申告書の記載例

次回は、平成24年分の確定申告に関係する税制改正の概要について、主なものを解説する。

〔凡例〕
・所 法……所得税法
・所 令……所得税法施行令
・所 規……所得税法施行規則
・所基通……所得税基本通達
・措 法……租税特別措置法
・災害減免法…災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律
(例) 所法121①二 = 所得税法121条1項2号

(了)

平成24年分

確定申告実務の留意点

【第1回】

「確定申告の種類と給与所得者の申告」

 

公認会計士・税理士 篠藤 敦子

 

【1】 はじめに

まもなく、平成24年分所得税の還付申告書の受付が開始される。
そして、平成24年分の所得税について確定申告書を提出する義務がある場合には、所轄税務署長に対し、平成25年2月16日から同年3月15日までの間に、確定申告書を提出しなければならない(所法120①)。

所得税法は、所得税の課税対象とならない所得(非課税所得)を限定的に規定しており(所法9~11)、それ以外の所得は所得税の課税対象となる。また、所得はその性格によって10種類に区分され、その区分ごとに所定の方法により所得金額を計算することとされている(所法23~35)。

所得税法は総合課税を原則としながらも、土地建物の譲渡による所得や株式の譲渡による所得などの分離課税となる所得もある上、各個人の事情を所得税計算に反映するために設けられた「所得控除」が数多く存在する。
これらは法人税の計算にはみられない制度であり、所得税の計算過程を複雑にしている。

今後数回にわたり、平成24年分の確定申告にかかる所得計算と所得控除について、留意点を実務的な観点からまとめることにする。
第1回目は、申告の種類と給与所得者の確定申告について解説する。

 

【2】 還付を受けるための申告

確定申告書を提出する義務のない人も、所得税の計算上控除しきれない外国税額控除の額、源泉徴収税額、予定納税額の還付を受けるために確定申告書を提出することができる(所法122①)。
この還付を受けるための申告(以下「還付申告」という)は、任意のものであり、【3】で解説する義務の申告とは区別される。

所得税法上、還付申告について申告期限の定めはなく、国税通則法に還付金の請求権についての時効が定められている。国税通則法74条1項には、「還付金等に係る国に対する請求権は、その請求をすることができる日から5年間行使しないことによって、時効により消滅する」と規定されている。
5年を過ぎると還付の請求をすることができなくなるということであるから、還付申告できる期間は、その請求をすることができる日(=その年が終了する日の翌日である翌年1月1日)から5年間ということになる。

 

【3】 確定所得申告

還付申告は、確定申告義務のない人が還付を受けるために行うものである。確定申告義務がある場合に、結果として申告内容が還付になったとしても、その申告(確定所得申告)と還付申告は区別される。

“確定申告義務がある場合”とは、確定申告書の提出や確定申告書への記載、明細書の申告書への添付を要件として適用される特例を適用しないものとして計算した所得税額が、配当控除の額と年末調整で適用を受けた住宅借入金等特別控除額との合計額を超える場合をいう(所法120①、措法41の2の2④、所基通120-1)。
すなわち、各種特例適用前の所得税額が、配当控除の額と年末調整で適用を受けた住宅借入金等特別控除額の合計額を超える場合である。このとき、源泉徴収税額や予定納税額の有無は問われないため、確定所得申告の場合でも源泉徴収税額や予定納税額が計算された所得税額よりも多ければ、還付となることもある。
この場合であっても、確定所得申告は還付申告に該当しないため、確定所得申告は、原則的な申告期間である翌年2月16日から同年3月15日までの間に行うこととなる(所法120①)。

 

【4】 確定損失申告

確定損失申告とは、純損失や雑損失の金額を翌年以後に繰り越すための申告をいう。
この申告によっても、源泉徴収税額や予定納税額の還付を受けることがある。しかし、この申告も【2】の還付申告には該当しないため、申告書の提出期間は、翌年2月16日から同年3月15日までとなる(所法123①)。

 

【5】 給与所得者の還付申告

給与所得者は、年末調整で所得税の精算が行われているため、基本的には確定申告をする必要はない。しかし、次のような人は、確定申告をすることにより源泉徴収税額や予定納税額等の還付を受けることができる。

  1. 年末調整で適用することができない所得控除(雑損控除、医療費控除、寄附金控除)の適用を受ける人(所法72,73,78)
  2. 一定の要件に該当する住宅を取得したり、住宅に特定の改修工事をしたことにより、住宅借入金等特別控除の適用を受ける人(措法41)
  3. 特定支出控除の適用を受ける人(所法57の2)
  4. 年末調整を受けずに退職したため、源泉徴収された所得税額が納めすぎとなっている人

なお、年末調整を受けた人が源泉徴収票を添付して還付申告をするときには、一部の記載内容を省略して申告書を作成することができる(所法122①、所規47の5)。
具体的には、所得控除のうち年末調整で適用を受けたものについては、第1表にそれぞれの金額を記載せず合計金額で記入し、第2表の該当部分の記載も省略することができる。

 

【6】 給与所得者の確定申告義務

給与所得者でも確定申告が必要となる場合がある。原則として、次に該当する人は確定申告をしなければならない。

(1) 平成24年分の給与の収入金額が2,000万円を超える人(所法190)

(2) 給与の支払いを1箇所から受けている人で、給与所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える人(所法121①一)

20万円には、次の所得等は含まれない。
・源泉分離課税の利子所得
・確定申告をしないことを選択した配当等
・特定口座内保管上場株式等の譲渡による所得等
・退職所得

(3) 給与の支払いを2箇所以上から受けている人で、従たる給与と給与所得及び退職所得以外の所得金額以外の所得金額との合計額が20万円を超える人(所法121①)

ただし、この場合であっても、次の①と②の両方を満たす人は、確定申告をする必要はないとされている(所法121①二)。

① その年中の給与収入金額-(社会保険料控除 + 小規模企業共済等掛金控除 + 生命保険料控除 + 地震保険料控除 + 障害者控除 + 寡婦(寡夫)控除 + 勤労学生控除 + 配偶者控除 + 配偶者特別控除 + 扶養控除) ≦ 150万円
※赤文字部分 = 所得控除の合計額-(雑損控除 + 医療費控除 + 寄附金控除 + 基礎控除)

② 給与所得と退職所得以外の所得金額 ≦ 20万円

(4) 同族会社の役員や親族等で、その同族会社から給与の他に貸付金の利子、不動産の賃貸料や動産の使用料等の支払いを受けた人(所法121①、所令262の2)

(5) 災害によって住宅または家財に被害を受けたため災害減免法の適用を受け、給与について源泉徴収税額の徴収猶予や還付を受けた人(災害減免法3②)

なお、平成24年分の確定申告書の記載例については、国税庁ホームページで公開されている。

【参考】 国税庁ホームページ 「確定申告書の記載例

次回は、平成24年分の確定申告に関係する税制改正の概要について、主なものを解説する。

〔凡例〕
・所 法……所得税法
・所 令……所得税法施行令
・所 規……所得税法施行規則
・所基通……所得税基本通達
・措 法……租税特別措置法
・災害減免法…災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律
(例) 所法121①二 = 所得税法121条1項2号

(了)

連載目次

〈確定申告実務の留意点〉

筆者紹介

篠藤 敦子

(しのとう・あつこ)

公認会計士・税理士

津田塾大学卒業
1989年 公認会計士試験第二次試験合格
1994年 朝日監査法人(現 あずさ監査法人)退社後、個人事務所を開業し、会計と税務実務に従事。
2008年より甲南大学社会科学研究科会計専門職専攻教授(2016年3月まで)
2010年より大阪電気通信大学金融経済学部非常勤講師

【著書等】
・『マンガと図解/新・くらしの税金百科』共著(清文社)
・『会計学実践講義』共著
・『日商簿記1級徹底対策ドリル 商業簿記・会計学編』共著(以上、同文舘出版)
・『148の事例から見た是否認事項の判断ポイント』共著(税務経理協会)
・「不動産取引を行った場合」『税経通信』2012年3月号(103-109頁)

【過去に担当した研修、セミナー】
SMBCコンサルティング、日本経済新聞社、日本賃金研究センター
社団法人大阪府工業協会、西日本旅客鉄道株式会社、社団法人埼玉県経営者協会
大阪法務局

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