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包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第22回】「実質主義③」

筆者:佐藤 信祐

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包括的租税回避防止規定

理論と解釈

【第22回】

「実質主義③」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

連載の目次はこちら

前々回では、東京高裁昭和47年4月25日判決について解説を行い、前回では、東京高裁平成11年6月21日判決について解説を行った。

本稿では、大阪高裁平成14年10月10日判決、東京高裁平成16年1月28日判決についてそれぞれ解説を行うこととする。

 

4 大阪高裁平成14年10月10日判決(TAINSコード:Z252-9212)

(1) 事実の概要

本事件は、原告らが保有する不動産及び株式をそれぞれ18億円、42億円で譲渡したところ、両方を併せて譲渡することにより、不動産の譲渡価格の一部を株式の譲渡価額に付け替えたものとして、本件株式の実質的な譲渡価額は8,772万6,440円であり、残余を不動産の譲渡価額であるとして、課税庁により否認された事案である。

本事件では、審査請求の取下げにより、国税不服審判所の裁決を経ていない処分の取消しを求める訴えの適法性などについても争われているが、本稿では、実質主義に係る点についてのみ解説を行うこととする。

なお、平成17年11月21日にて、最高裁から上告不受理の決定がなされている(TAINSコード:Z255-10203)。

(2) 第一審(神戸地裁平成12年2月8日判決・TAINSコード:Z246-8582)

不動産売買契約書及び株式譲渡契約書記載の本件不動産及び本件株式の譲渡価額は、国土利用計画法の規制をクリアーでき、税金が安くなることを考慮したものであることは明らかであるが、だからといって、前記(1)摘示のような事実をもってしては、未だ、被告ら主張のように、本件不動産の売買契約及び本件株式の譲渡契約においては、本件不動産と本件株式を併せて譲渡することにより、本件各土地の譲渡価額の一部を本件株式の譲渡価額に「付け替えた」ものであり、本件株式の実質価額は8,772万6,440円を限度とするものであったとか、本件不動産の代金を18億円、本件株式の代金を42億円とするとの不動産売買契約書、株式譲渡契約書の記載は、単に税務対策上の便宜から記載されたものにすぎず、本件株式の相当評価額を株式の代金とし、60億円から右相当評価額を差し引いた金額を本件不動産の代金とするのが、当事者の真実の意思に合致する合意内容であると認めることはできず、他に右被告ら主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

結局、本件不動産の売買契約、本件株式の譲渡契約における譲渡価額は、各契約書記載のとおり、18億円、42億円であったと認めるほかはない。

被告らは、仮に原告らと阪急産業の間で、本件不動産の代金を18億円、本件株式の代金を42億円として売買する一応の合意が外形上認められるとしても、その表示は、金額の点において当事者間の内心と異なるというべきであるから、虚偽表示(民法94条1項)に該当して無効である、とも主張するが、右譲渡価額の合意が当事者の内心と異なるとの事実を認めるに足りる証拠はない。

(3) 控訴審

  • 本件各契約書に記載された各譲渡代金額(本件不動産18億円、本件株式42億円)は、それぞれ別個・独立に、その経済的実体を踏まえ決定された金額ではなく、代金総額を60億円にするということを前提に、この金額を上記目的(国土法の適用除外と租税回避)に沿うよう適当に配分・割り付けて得られた金額に過ぎないものであって、本件各契約は一体不可分の関係にあると認めざるを得ない。
  • 本件各土地の譲渡に伴う税負担の増大を回避するという目的に沿うよう上記60億円を適当に配分・割り付けられた金額に過ぎない以上、本件株式譲渡契約書に記載の譲渡代金額(42億円)は上記目的を達成するための仮装の金額であって、当事者間には別途真実の売買代金額が存在していたと認めるよりほかはない。

(4) 評釈

このように、第一審では納税者の主張が認められたものの、控訴審では課税庁の主張が認められた。第一審でも、控訴審でも、買い手が必要としたのは土地だけであり、本件不動産を18億円、本件株式を42億円として合計60億円としたのは、国土法の規制をクリアーでき、税金が安くなるという理由であるという点は認められているが、それに対する租税法の判断は分かれたということであろう。実際に譲渡された株式の時価はほとんどなかったことからも、譲渡代金のほとんどは土地に対するものであると認定すべきであったと考えられる。

本事件について、経済的実質主義が認められたと解することはできない。なぜならば、譲渡代金の配分・割付けを仮装であると認定し、真実の事実関係に修正していることは、法的実質主義の範疇であると考えられるからである。

この点につき、両者の真の意図が譲渡代金のほとんどが土地であったとしても、民法上の観点からは、不動産を18億円、本件株式を42億円としたことが両者の合意であり、仮装取引と認定するのは困難なのかもしれない。それが故に第一審と控訴審で判断が分かれたと言えよう。

控訴審のような判断が認められるべきかどうかについては、私法上の法律構成による否認論と併せて検討する必要があると考えられる。

 

5 東京高裁平成16年1月28日判決

松田直樹『租税回避行為の解明』20-22頁(ぎょうせい、平成21年)では、実質主義の原則の適用を正面から認めたものではないが、法形式に重きを置く租税法律主義の優位性に一石を投じた事件として、東京高裁平成16年1月28日判決が紹介されている。本事件については、稲見誠一・佐藤信祐『組織再編における株主課税の実務Q&A』(中央経済社、平成20年)で解説しているため、詳細についてはそちらを参照されたい。

本事件は、有利発行が行われた場合において、既存株主から新株主に対してみなし譲渡があったものとして法人税法22条2項が適用された。同族会社等の行為計算の否認を適用することによる引き直しでは、既存株主において、同様の課税関係を生じさせることが困難である。さらに、法的実質主義を採用しようにも、既存株主が保有する株式に異動はないのであるから、本事件は、経済的実質主義に回帰しているようにも見える。

これに対し、本事件から現在に至る前、同様の否認がなされた事案は寡聞にして聞いたことがない。しかし、当時は、実質主義が進化した内容である「私法上の法律構成による否認論」が議論されていた時代でもある。私法上の法律構成による否認論がどのようなものなのか、そして、現在でも有効なものなのかは、別途検討する必要があろう。この点については、次々回以降で解説を行う予定である。

次回では、今まで解説した法的実質主義の内容と具体的な内容について解説する予定である。

(了)

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」は、隔週で掲載されます。

連載目次

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」(全35回)

【第1回】 最近の税務訴訟の動き

1 最近の租税回避訴訟の動き

【第2回】 租税回避の定義

2 租税回避の定義

【第3回】 包括的租税回避防止規定の規定内容

3 包括的租税回避防止規定の規定内容

【第4回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史①

4 同族会社等の行為計算の否認の歴史

(1) 大正12年の規定の創設

(2) 大正15年度税制改正

(3) 昭和15年度税制改正

(4) 昭和22年度税制改正

【第5回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史②

(5) 昭和25年度税制改正

(6) 昭和28年度から昭和40年度の税制改正

(7) 平成15年度以降の税制改正

【第6回】 国税通則法の制定に関する答申

5 国税通則法の制定に関する答申

【第7回】 創設規定と確認規定①

6 判例分析①(創設規定と確認規定)

(1) 総論

(2) 最高裁昭和37年6月29日判決(TAINSコード:Z999-9035)

【第8回】 創設規定と確認規定②

(3) 大阪高裁昭和39年9月24日判決(TAINSコード:Z038-1314)

【第9回】 創設規定と確認規定③

(4) 最高裁昭和45年7月16日判決(TAINSコード:Z060-2590)

【第10回】 創設規定と確認規定④

(5) 広島高裁昭和43年3月27日判決(TAINSコード:Z052-1712)

【第11回】 創設規定と確認規定⑤

(6) 最高裁昭和54年9月20日判決(TAINSコード:Z106-4467)

(7) 最高裁平成16年7月20日判決(TAINSコード:Z254-9700)

【第12回】 行為計算の主体など

7 判例分析②(行為計算の主体)

(1) 東京地裁昭和45年2月20日判決(TAINSコード:Z059-2527)

(2) 評釈

8 判例分析③(行為・計算)

(1) 大阪高裁昭和35年12月6日判決(TAINSコード:Z033-0974)

【第13回】 行為・計算

(2) 最高裁昭和52年7月12日判決(TAINSコード:Z095-4019)

【第14回】 不動産関連の事案

9 不動産関連の事案

(1) 東京地裁平成元年4月17日判決(TAINSコード:Z170-6286)

(2) 福岡地裁平成4年2月20日判決

(3) 福岡高裁平成11年11月19日判決(TAINSコード:Z245-8529)

【第15回】 不当の解釈

10 不当の解釈(最高裁昭和33年5月29日判決・TAINSコード:Z026-0618)

(1) 第一審(東京地裁昭和26年4月23日判決・TAINSコード:Z010-0068)

(2) 控訴審(東京高裁昭和26年12月20日判決・TAINSコード:Z011-0103)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第16回】 不当の意味と課税要件明確主義

11 不当の意味と課税要件明確主義(最高裁昭和53年4月21日判決・TAINSコード:Z101-4179)

(1) 第一審(釧路地裁昭和49年4月23日判決・TAINSコード:Z075-3313)

(2) 控訴審(札幌高裁昭和51年1月13日判決・TAINSコード:Z087-3691)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第17回】 同族非同族対比基準

12 同族非同族対比基準(東京高裁昭和49年6月17日判決・TAINSコード:Z075-3344)

(1) 事実関係

(2) 原審(東京地裁昭和46年4月20日判決・TAINSコード:Z062-2723)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第18回】 役員、従業員との取引

13 役員、従業員との取引

(1) 高松高裁昭和62年1月26日判決(TAINSコード:Z157-5859)

(2) 最高裁昭和60年6月18日判決(TAINSコード:Z145-5556)

(3) 最高裁平成11年1月29日(TAINSコード:Z240-8327)

【第19回】 行為計算否認規定の論点

1 同族会社等の行為計算の否認の論点

2 包括的租税回避防止規定の論点

3 本連載の方向性

【第20回】 実質主義①

1 実質主義の定義

2 東京高裁昭和47年4月25日判決(TAINSコード:Z065-2900)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁昭和46年3月31日判決・TAINSコード:Z062-2712)

(3) 控訴審

(4) 上告審、差戻控訴審

(5) 評釈

【第21回】 実質主義②

3 東京高裁平成11年6月21日判決(TAINSコード:Z243-8431)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成10年5月13日判決・TAINSコード:Z232-8161)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第22回】 実質主義③

4 大阪高裁平成14年10月10日判決(TAINSコード:Z252-9212)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(神戸地裁平成12年2月8日判決・TAINSコード:Z246-8582)

(3) 控訴審

(4) 評釈

5 東京高裁平成16年1月28日判決

【第23回】 実質主義④

6 実質主義の実務への適用

(1) 基本的な考え方

(2) 具体的な検討

(4) 評釈

【第24回】 私法上の法律構成による否認論①

1 私法上の法律構成による否認論の概要

【第25回】 私法上の法律構成による否認論②

2 アルゼ事件(東京高裁平成15年1月29日判決・税資253号〔順号9271〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成14年4月24日判決・税資252号〔順号9115〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第26回】 私法上の法律構成による否認論③

3 公正証書贈与事件(名古屋高裁平成11年11月11日判決・税資245号〔順号8524〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成10年12月25日判決・税資239号〔順号8306〕)

(3) 控訴審・上告審

(4) 評釈

4 航空機リース事件(名古屋高裁平成17年10月27日判決・税資255号〔順号10180〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成16年10月28日判決・税資254号〔順号9800〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第27回】 私法上の法律構成による否認論④

5 映画フィルム事件(最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(大阪地裁平成10年10月16日判決・税資238号715頁)

(3) 控訴審(大阪高裁平成12年1月18日判決・税資246号20頁)

(4) 上告審

(5) 評釈

【第28回】 私法上の法律構成による否認論⑤

6 日蘭組合事件(東京高裁平成19年6月28日判決・税資257号〔順号10741〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成17年9月30日判決・税資255号〔順号10151〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

7 投資クラブ事件(東京高裁平成19年10月30日判決・税資257号〔順合10811〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成19年6月22日判決・訟月54巻9号426頁)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第29回】 課税減免規定の限定解釈

1 課税減免規定の限定解釈

2 制度の濫用論

3 次回以降の解説

【第30回】 租税回避と実務上の問題点①

1 はじめに

2 株式譲渡損益とみなし配当

3 税制適格要件

【第31回】 租税回避と実務上の問題点②

4 欠損等法人

5 適格合併による繰越欠損金の利用

6 損失の二重利用

【第32回】 租税回避と実務上の問題点③

7 清算所得課税

8 その他の論点

9 まとめ

【第33回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決①

1 包括的租税回避防止規定の射程

2 ヤフー事件

3 IDCF事件

【第34回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決②

1 租税回避の否認手法

2 事実認定に対する影響

3 法令解釈に対する影響

4 課税減免規定の限定解釈に対する影響

5 同族会社等の行為計算の否認に対する影響

【第35回】 租税回避の定義

1 租税回避の定義

2 立法論としての租税回避否認

3 まとめ

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筆者紹介

  • 佐藤 信祐

    (さとう・しんすけ)

    公認会計士・税理士、法学博士
    公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

    平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
    平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
    平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
    平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

    【主な著書】
    ・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
    ・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
    ・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
    ・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
    ・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『これだけ!組織再編税制』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
    ・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
    ・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
    ・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
    ・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)
    ・『条文と制度趣旨から理解する 合併・分割税制』(清文社)
    ・『事業承継M&Aの実務』(共著、清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 中小企業再編の税務』(清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 合併の税務』(清文社)

    その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

        

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