Profession Journal » 税務・会計 » 税務 » 解説 » 法人税 » 包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第30回】「租税回避と実務上の問題点①」

包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第30回】「租税回避と実務上の問題点①」

筆者:佐藤 信祐

文字サイズ

包括的租税回避防止規定

理論と解釈

【第30回】

「租税回避と実務上の問題点①」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

連載の目次はこちら

前回までは、租税回避に対する裁判例や過去の学説を見ることにより、租税回避の射程を探っていった。しかし、我々は実務家であることから、やはり実務に当てはめて考える必要がある。

本稿では、①株式譲渡損益とみなし配当、②税制適格要件について検討を行う。

 

1 はじめに

ここでは、拙著『組織再編における包括的租税回避防止規定(中央経済社、平成21年)』(以下、今回以降において「包括否認本」という)に挙げられている事例を参考に、どのような場合に租税回避に該当するか否かの検討を行う予定である。

なお、当時から述べていた点であるが、経済合理性の有無だけでなく、制度趣旨も理解する必要がある。ヤフー・IDCF事件では、租税回避の範囲が広まったかのように言われているが、制度趣旨に反するような否認を受ける可能性があり得ないため、実務上は、ヤフー・IDCF事件前の対応でも問題ないと思われる。

 

2 株式譲渡損益とみなし配当

包括否認本の第2章では、①法人株主における受取配当金の認識、②みなし配当と株式譲渡損の両建て、③所得税額控除の3つについて解説を行った。

当時、解説を行わなかったのは、個人株主における株式譲渡益の認識である。すなわち、オーナー株主が自分の会社を売却する際には、配当所得ではなく、譲渡所得の方が有利である。このような譲渡所得により節税を図ることについて租税回避に該当するかどうかの解説は行わなかった。この点につき、本連載の【第17回】で解説したように、「会社ぐるみ譲渡ということが、もっとも簡便、合理的な方法ということができる」と判断されていることから、事業譲渡や会社分割よりも簡便、合理的な方法である株式譲渡の手法を租税回避と認定することはできないと考えられる。

さらに、①法人株主における受取配当金の認識については、二重課税の排除という受取配当等の益金不算入の制度趣旨の範囲内であれば、租税回避と認定することは困難であると解説した。また、③所得税額控除については、当時とほとんど税制が変わっていない。

これに対し、当時と税制が大きく変わったのは、②みなし配当と株式譲渡損の両建てである。グループ法人税制の導入により、自己株式の買取り、清算、現金交付型合併によりみなし配当と株式譲渡損の両建てを行うことが困難になった。そのため、現行法上、想定される租税回避はグループ法人税制の対象から外したうえで、自己株式の買取り、その他資本剰余金の配当、清算などを行う方法である。この点については、平成22年から現在に至るまでほとんど相談を受けていない。どうしても、グループ法人税制の対象から除外するという行為が不自然になり、事実認定により名義株として否認を受けてしまう可能性が残ってしまうからであると考えられる。

 

3 税制適格要件

包括否認本の第3章では、①意図的な非適格組織再編成の選択、②意図的な適格組織再編成の選択について解説を行った。このうち、①については、グループ法人税制の導入によりほとんど使えなくなってしまった。そのため、実務で受ける相談は、(ⅰ)完全支配関係のない内国法人に譲渡する、(ⅱ)自然人に譲渡する、の2つである。

このうち、前者については、グループ法人税制の対象から除外することができるかという論点がある。当初から完全支配関係が外れていればよいのであるが、含み損の実現のために完全支配関係を外した後に資産を譲渡するという方法は、かなり不自然な行為となってしまい、多くの場合において、真実の事実関係は完全支配関係が継続していると認定されてしまう可能性が高い。この点については、法的実質主義の範疇である。

これに対し、自然人への譲渡は当該自然人の資金調達能力の問題がある。法人税の実効税率が40%くらいであった頃は、オーナーの給料を引き上げたりすることで、なんとか売買代金を支払えるようにしていたが、法人税の実効税率が引き下げられてしまうと、オーナーの所得税が高く感じてしまい、あまり現実的ではなくなっているのかもしれない。

なお、IDCF事件は意図的な非適格組織再編成の選択に該当する事例である。IDCF事件は、通常であれば適格組織再編成に該当するものの、迂回取引により非適格組織再編成に該当させた事件である。本事件についての評釈は省略するが、迂回取引を行ったり、個別の要件に無理矢理当てはめることにより、税制適格要件を満たすようにしたり、満たさないようにしたりすることは、典型的な租税回避行為と言われている。

ここで留意が必要なのは、経済合理性の判断を組織再編成の目的で行わずに、目的を達成するための手段で行うべきであるという点である。すなわち、ヤフー事件でも、IDCF事件でも、組織再編成の目的そのものは存在したものの、それを達成するための手法が問題視されていることから、組織再編成全体に経済合理性があればよいという話ではないという点に留意が必要である。

そして、②意図的な適格組織再編成の選択については、当時とあまり変わっておらず、相対取引で100%子会社化を行ってから合併をしたとしても、そのような行為が行われることを前提として繰越欠損金の引継制限、特定資産譲渡等損失の損金不算入が規定されていることから、租税回避には該当しない旨の解説を行った。このことは、他の組織再編成についても同様のことが言える。

さらに、当時は、端株株式交換、全部取得条項付種類株式による少数株主の締出しについて解説を行った。当時と異なり、平成26年改正会社法により、株式併合や株式等売渡請求による少数株主の締出しが可能になったため、これらの手法を用いて少数株主を締め出したとしても、株式交換の脱法行為と認定される可能性はなくなったと言える。

そのため、迂回取引を行ったり、個別の要件に無理矢理当てはめることにより、税制適格要件を満たすようにしたり、満たさないようにしたりする場合を除き、税制適格要件に対する租税回避の議論は生じないと考えて差し支えないと思われる。

次回では、①欠損等法人、②適格合併による繰越欠損金の利用、③損失の二重利用について解説を行う予定である。

(了)

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」は、隔週で掲載されます。

連載目次

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」(全35回)

【第1回】 最近の税務訴訟の動き

1 最近の租税回避訴訟の動き

【第2回】 租税回避の定義

2 租税回避の定義

【第3回】 包括的租税回避防止規定の規定内容

3 包括的租税回避防止規定の規定内容

【第4回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史①

4 同族会社等の行為計算の否認の歴史

(1) 大正12年の規定の創設

(2) 大正15年度税制改正

(3) 昭和15年度税制改正

(4) 昭和22年度税制改正

【第5回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史②

(5) 昭和25年度税制改正

(6) 昭和28年度から昭和40年度の税制改正

(7) 平成15年度以降の税制改正

【第6回】 国税通則法の制定に関する答申

5 国税通則法の制定に関する答申

【第7回】 創設規定と確認規定①

6 判例分析①(創設規定と確認規定)

(1) 総論

(2) 最高裁昭和37年6月29日判決(TAINSコード:Z999-9035)

【第8回】 創設規定と確認規定②

(3) 大阪高裁昭和39年9月24日判決(TAINSコード:Z038-1314)

【第9回】 創設規定と確認規定③

(4) 最高裁昭和45年7月16日判決(TAINSコード:Z060-2590)

【第10回】 創設規定と確認規定④

(5) 広島高裁昭和43年3月27日判決(TAINSコード:Z052-1712)

【第11回】 創設規定と確認規定⑤

(6) 最高裁昭和54年9月20日判決(TAINSコード:Z106-4467)

(7) 最高裁平成16年7月20日判決(TAINSコード:Z254-9700)

【第12回】 行為計算の主体など

7 判例分析②(行為計算の主体)

(1) 東京地裁昭和45年2月20日判決(TAINSコード:Z059-2527)

(2) 評釈

8 判例分析③(行為・計算)

(1) 大阪高裁昭和35年12月6日判決(TAINSコード:Z033-0974)

【第13回】 行為・計算

(2) 最高裁昭和52年7月12日判決(TAINSコード:Z095-4019)

【第14回】 不動産関連の事案

9 不動産関連の事案

(1) 東京地裁平成元年4月17日判決(TAINSコード:Z170-6286)

(2) 福岡地裁平成4年2月20日判決

(3) 福岡高裁平成11年11月19日判決(TAINSコード:Z245-8529)

【第15回】 不当の解釈

10 不当の解釈(最高裁昭和33年5月29日判決・TAINSコード:Z026-0618)

(1) 第一審(東京地裁昭和26年4月23日判決・TAINSコード:Z010-0068)

(2) 控訴審(東京高裁昭和26年12月20日判決・TAINSコード:Z011-0103)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第16回】 不当の意味と課税要件明確主義

11 不当の意味と課税要件明確主義(最高裁昭和53年4月21日判決・TAINSコード:Z101-4179)

(1) 第一審(釧路地裁昭和49年4月23日判決・TAINSコード:Z075-3313)

(2) 控訴審(札幌高裁昭和51年1月13日判決・TAINSコード:Z087-3691)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第17回】 同族非同族対比基準

12 同族非同族対比基準(東京高裁昭和49年6月17日判決・TAINSコード:Z075-3344)

(1) 事実関係

(2) 原審(東京地裁昭和46年4月20日判決・TAINSコード:Z062-2723)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第18回】 役員、従業員との取引

13 役員、従業員との取引

(1) 高松高裁昭和62年1月26日判決(TAINSコード:Z157-5859)

(2) 最高裁昭和60年6月18日判決(TAINSコード:Z145-5556)

(3) 最高裁平成11年1月29日(TAINSコード:Z240-8327)

【第19回】 行為計算否認規定の論点

1 同族会社等の行為計算の否認の論点

2 包括的租税回避防止規定の論点

3 本連載の方向性

【第20回】 実質主義①

1 実質主義の定義

2 東京高裁昭和47年4月25日判決(TAINSコード:Z065-2900)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁昭和46年3月31日判決・TAINSコード:Z062-2712)

(3) 控訴審

(4) 上告審、差戻控訴審

(5) 評釈

【第21回】 実質主義②

3 東京高裁平成11年6月21日判決(TAINSコード:Z243-8431)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成10年5月13日判決・TAINSコード:Z232-8161)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第22回】 実質主義③

4 大阪高裁平成14年10月10日判決(TAINSコード:Z252-9212)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(神戸地裁平成12年2月8日判決・TAINSコード:Z246-8582)

(3) 控訴審

(4) 評釈

5 東京高裁平成16年1月28日判決

【第23回】 実質主義④

6 実質主義の実務への適用

(1) 基本的な考え方

(2) 具体的な検討

(4) 評釈

【第24回】 私法上の法律構成による否認論①

1 私法上の法律構成による否認論の概要

【第25回】 私法上の法律構成による否認論②

2 アルゼ事件(東京高裁平成15年1月29日判決・税資253号〔順号9271〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成14年4月24日判決・税資252号〔順号9115〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第26回】 私法上の法律構成による否認論③

3 公正証書贈与事件(名古屋高裁平成11年11月11日判決・税資245号〔順号8524〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成10年12月25日判決・税資239号〔順号8306〕)

(3) 控訴審・上告審

(4) 評釈

4 航空機リース事件(名古屋高裁平成17年10月27日判決・税資255号〔順号10180〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成16年10月28日判決・税資254号〔順号9800〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第27回】 私法上の法律構成による否認論④

5 映画フィルム事件(最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(大阪地裁平成10年10月16日判決・税資238号715頁)

(3) 控訴審(大阪高裁平成12年1月18日判決・税資246号20頁)

(4) 上告審

(5) 評釈

【第28回】 私法上の法律構成による否認論⑤

6 日蘭組合事件(東京高裁平成19年6月28日判決・税資257号〔順号10741〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成17年9月30日判決・税資255号〔順号10151〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

7 投資クラブ事件(東京高裁平成19年10月30日判決・税資257号〔順合10811〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成19年6月22日判決・訟月54巻9号426頁)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第29回】 課税減免規定の限定解釈

1 課税減免規定の限定解釈

2 制度の濫用論

3 次回以降の解説

【第30回】 租税回避と実務上の問題点①

1 はじめに

2 株式譲渡損益とみなし配当

3 税制適格要件

【第31回】 租税回避と実務上の問題点②

4 欠損等法人

5 適格合併による繰越欠損金の利用

6 損失の二重利用

【第32回】 租税回避と実務上の問題点③

7 清算所得課税

8 その他の論点

9 まとめ

【第33回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決①

1 包括的租税回避防止規定の射程

2 ヤフー事件

3 IDCF事件

【第34回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決②

1 租税回避の否認手法

2 事実認定に対する影響

3 法令解釈に対する影響

4 課税減免規定の限定解釈に対する影響

5 同族会社等の行為計算の否認に対する影響

【第35回】 租税回避の定義

1 租税回避の定義

2 立法論としての租税回避否認

3 まとめ

このエントリーをはてなブックマークに追加

筆者紹介

  • 佐藤 信祐

    (さとう・しんすけ)

    公認会計士・税理士、法学博士
    公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

    平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
    平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
    平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
    平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

    【主な著書】
    ・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
    ・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
    ・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
    ・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
    ・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『これだけ!組織再編税制』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
    ・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
    ・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
    ・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
    ・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)
    ・『条文と制度趣旨から理解する 合併・分割税制』(清文社)
    ・『事業承継M&Aの実務』(共著、清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 中小企業再編の税務』(清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 合併の税務』(清文社)

    その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

        

関連書籍

Profession Journal » 税務・会計 » 税務 » 解説 » 法人税 » 包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第30回】「租税回避と実務上の問題点①」

Copyright ©2012- Profession Network Co.,Ltd. All Rights Reserved.

Scroll to top
Go to home