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包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第33回】「ヤフー・IDCF事件最高裁判決①」

筆者:佐藤 信祐

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包括的租税回避防止規定

理論と解釈

【第33回】

「ヤフー・IDCF事件最高裁判決①」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

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【第30回】からの解説により、ヤフー・IDCF事件東京地裁判決以降の租税回避に対する実務的な対応を検討してきた。

本稿では、ヤフー・IDCF事件最高裁判決について解説を行うこととする。

 

1 包括的租税回避防止規定の射程

最高裁は、ヤフー事件についても、IDCF事件についても、

組織再編成は、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから、法132条の2は、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものと解され、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として設けられたものである。このような同条の趣旨及び目的からすれば、同条にいう『法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの』とは、法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下「組織再編税制」という。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無の判断に当たっては、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。

と判示した。

これを整理してみると、まずは、包括的租税回避防止規定の射程を、組織再編税制の各規定を「租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるもの」としている。そして、濫用の有無の判断について、①経済合理性がないかどうか、②事業目的がないかどうか等を考慮したうえで、「当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断する」としている。

ここで、「等」となっているのは、経済合理性、事業目的というのは例示であり、それ以外のものも含まれる可能性があると推定される。しかし、「等」と付けているのは、例示できるものが他に想定できないからである。アカデミックに検討するのであれば、租税回避の本質を探る必要があるため、単なる例示であるということは重要な意味を持つ。そのため、濫用とはどのようなものか、租税回避の意図とはどのようなものか、趣旨及び目的から逸脱するとはどのようなものかを明確に分析していく必要がある。

さらに、太田洋弁護士も、

この判示の下では、理論上は(※1)、ヤフー・IDCF東京高裁判決の判示の下におけるのと同様、(イ)組織再編税それ自体やそれを構成する個々の行為については『異常ないし変則的』とまではいえず、また、『正当な理由ないし事業目的』がないとはいえないような場合でも、法132条の2による否認の対象となりうるばかりでなく、(ロ)組織再編税制に含まれる個別の規定において一定の課税上の効果が発生するための要件の充足が否認されうることにな(る)

と指摘されている(※2)

(※1) 原文では「理論上は」の箇所に傍点が付されているが、本稿では下線で代用している。

(※2) 太田洋「判批」税務弘報64巻6号47頁(平成28年)。

たしかに、税務訴訟に従事される立場からすれば、この指摘は重要なことであると考えられる。しかし、公認会計士、税理士として、税務調査に対応する立場からすると、異常ないし変則的かどうかの判断は、節税目的により最も経済合理性の高い手法を回避し、やや経済合理性の劣る手法を選択した場合には、租税回避に該当する可能性があるというものである。そして、正当な理由ないし事業目的がないかどうかは、事業目的が税目的を上回っているか、ないしは同等であるかどうかというものである。

すなわち、公認会計士、税理士、課税庁職員の中の暗黙知として、一部のアグレッシブな税務専門家を除き、かなり保守的に解していたのであり、太田洋弁護士の指摘を懸念する者は少ないのではなかろうか。それが故に、東京地裁判決が公表されてから本稿校了段階まで、今までの経済合理性基準とは異なる可能性があるという多くの判例評釈がありながらも、筆者は一貫して、何ら今までの経済合理性基準と変わらないと主張してきたのである。また、太田洋弁護士が「理論上は」という文言に、敢えて傍点(上記引用では下線箇所)を入れられた趣旨も、そのようなものであると信じたい。

このように、ヤフー・IDCF事件は、理論上は、包括的租税回避防止規定の射程範囲が拡張した可能性は否定できないものの、実務上は、今までの対応と全く変わらないという解釈で問題ないと思われる。

 

2 ヤフー事件

ヤフー事件に対しては、最高裁は、

cは、b社において、経営の中枢を継続的かつ実質的に担ってきた者という施行令112条7項5号の特定役員引継要件において想定されている特定役員の実質を備えていたということはできず、本件副社長就任は、本件合併後にcが上告人の代表取締役社長の地位にとどまってさえいれば上記要件が満たされることとなるよう企図されたものであって、実態とは乖離した上記要件の形式を作出する明らかに不自然なものというべきである。

本件副社長就任につき、税負担の減少以外にその合理的な理由といえるような事業目的等があったとはいい難い。

としたうえで、

本件副社長就任は、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、適格合併における未処理欠損金額の引継ぎを定める法57条2項、みなし共同事業要件に該当しない適格合併につき同項の例外を定める同条3項及び特定役員引継要件を定める施行令112条7項5号の本来の趣旨及び目的を逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるというべきである。

と判示した。

すなわち、経済合理性、事業目的の観点から濫用の有無を判断したうえで、趣旨及び目的を逸脱するものであると結論づけている。このことからも、結果だけ見れば、今までの経済合理性基準と何ら変わらない結論になっている。

 

3 IDCF事件

IDCF事件に対しては、最高裁は、

本件計画を前提とする点において、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づくものであるのみならず、これにより実態とは乖離した非適格分割の形式を作出するものであって、明らかに不自然なものであり、税負担の減少以外にその合理的な理由となる事業目的等を見いだすことはできない。

と判示した。ヤフー事件と同様に、経済合理性、事業目的の観点から濫用の有無を判断している。

このように、ヤフー・IDCF事件最高裁判決は、一応は納得感のある判決であったということが言える。

次回では、ヤフー・IDCF事件最高裁判決が、他の租税回避に対する否認手法に対して影響を与えるか否かについて検討を行うこととする。

(了)

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」は、隔週で掲載されます。

連載目次

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」(全35回)

【第1回】 最近の税務訴訟の動き

1 最近の租税回避訴訟の動き

【第2回】 租税回避の定義

2 租税回避の定義

【第3回】 包括的租税回避防止規定の規定内容

3 包括的租税回避防止規定の規定内容

【第4回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史①

4 同族会社等の行為計算の否認の歴史

(1) 大正12年の規定の創設

(2) 大正15年度税制改正

(3) 昭和15年度税制改正

(4) 昭和22年度税制改正

【第5回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史②

(5) 昭和25年度税制改正

(6) 昭和28年度から昭和40年度の税制改正

(7) 平成15年度以降の税制改正

【第6回】 国税通則法の制定に関する答申

5 国税通則法の制定に関する答申

【第7回】 創設規定と確認規定①

6 判例分析①(創設規定と確認規定)

(1) 総論

(2) 最高裁昭和37年6月29日判決(TAINSコード:Z999-9035)

【第8回】 創設規定と確認規定②

(3) 大阪高裁昭和39年9月24日判決(TAINSコード:Z038-1314)

【第9回】 創設規定と確認規定③

(4) 最高裁昭和45年7月16日判決(TAINSコード:Z060-2590)

【第10回】 創設規定と確認規定④

(5) 広島高裁昭和43年3月27日判決(TAINSコード:Z052-1712)

【第11回】 創設規定と確認規定⑤

(6) 最高裁昭和54年9月20日判決(TAINSコード:Z106-4467)

(7) 最高裁平成16年7月20日判決(TAINSコード:Z254-9700)

【第12回】 行為計算の主体など

7 判例分析②(行為計算の主体)

(1) 東京地裁昭和45年2月20日判決(TAINSコード:Z059-2527)

(2) 評釈

8 判例分析③(行為・計算)

(1) 大阪高裁昭和35年12月6日判決(TAINSコード:Z033-0974)

【第13回】 行為・計算

(2) 最高裁昭和52年7月12日判決(TAINSコード:Z095-4019)

【第14回】 不動産関連の事案

9 不動産関連の事案

(1) 東京地裁平成元年4月17日判決(TAINSコード:Z170-6286)

(2) 福岡地裁平成4年2月20日判決

(3) 福岡高裁平成11年11月19日判決(TAINSコード:Z245-8529)

【第15回】 不当の解釈

10 不当の解釈(最高裁昭和33年5月29日判決・TAINSコード:Z026-0618)

(1) 第一審(東京地裁昭和26年4月23日判決・TAINSコード:Z010-0068)

(2) 控訴審(東京高裁昭和26年12月20日判決・TAINSコード:Z011-0103)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第16回】 不当の意味と課税要件明確主義

11 不当の意味と課税要件明確主義(最高裁昭和53年4月21日判決・TAINSコード:Z101-4179)

(1) 第一審(釧路地裁昭和49年4月23日判決・TAINSコード:Z075-3313)

(2) 控訴審(札幌高裁昭和51年1月13日判決・TAINSコード:Z087-3691)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第17回】 同族非同族対比基準

12 同族非同族対比基準(東京高裁昭和49年6月17日判決・TAINSコード:Z075-3344)

(1) 事実関係

(2) 原審(東京地裁昭和46年4月20日判決・TAINSコード:Z062-2723)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第18回】 役員、従業員との取引

13 役員、従業員との取引

(1) 高松高裁昭和62年1月26日判決(TAINSコード:Z157-5859)

(2) 最高裁昭和60年6月18日判決(TAINSコード:Z145-5556)

(3) 最高裁平成11年1月29日(TAINSコード:Z240-8327)

【第19回】 行為計算否認規定の論点

1 同族会社等の行為計算の否認の論点

2 包括的租税回避防止規定の論点

3 本連載の方向性

【第20回】 実質主義①

1 実質主義の定義

2 東京高裁昭和47年4月25日判決(TAINSコード:Z065-2900)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁昭和46年3月31日判決・TAINSコード:Z062-2712)

(3) 控訴審

(4) 上告審、差戻控訴審

(5) 評釈

【第21回】 実質主義②

3 東京高裁平成11年6月21日判決(TAINSコード:Z243-8431)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成10年5月13日判決・TAINSコード:Z232-8161)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第22回】 実質主義③

4 大阪高裁平成14年10月10日判決(TAINSコード:Z252-9212)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(神戸地裁平成12年2月8日判決・TAINSコード:Z246-8582)

(3) 控訴審

(4) 評釈

5 東京高裁平成16年1月28日判決

【第23回】 実質主義④

6 実質主義の実務への適用

(1) 基本的な考え方

(2) 具体的な検討

(4) 評釈

【第24回】 私法上の法律構成による否認論①

1 私法上の法律構成による否認論の概要

【第25回】 私法上の法律構成による否認論②

2 アルゼ事件(東京高裁平成15年1月29日判決・税資253号〔順号9271〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成14年4月24日判決・税資252号〔順号9115〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第26回】 私法上の法律構成による否認論③

3 公正証書贈与事件(名古屋高裁平成11年11月11日判決・税資245号〔順号8524〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成10年12月25日判決・税資239号〔順号8306〕)

(3) 控訴審・上告審

(4) 評釈

4 航空機リース事件(名古屋高裁平成17年10月27日判決・税資255号〔順号10180〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成16年10月28日判決・税資254号〔順号9800〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第27回】 私法上の法律構成による否認論④

5 映画フィルム事件(最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(大阪地裁平成10年10月16日判決・税資238号715頁)

(3) 控訴審(大阪高裁平成12年1月18日判決・税資246号20頁)

(4) 上告審

(5) 評釈

【第28回】 私法上の法律構成による否認論⑤

6 日蘭組合事件(東京高裁平成19年6月28日判決・税資257号〔順号10741〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成17年9月30日判決・税資255号〔順号10151〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

7 投資クラブ事件(東京高裁平成19年10月30日判決・税資257号〔順合10811〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成19年6月22日判決・訟月54巻9号426頁)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第29回】 課税減免規定の限定解釈

1 課税減免規定の限定解釈

2 制度の濫用論

3 次回以降の解説

【第30回】 租税回避と実務上の問題点①

1 はじめに

2 株式譲渡損益とみなし配当

3 税制適格要件

【第31回】 租税回避と実務上の問題点②

4 欠損等法人

5 適格合併による繰越欠損金の利用

6 損失の二重利用

【第32回】 租税回避と実務上の問題点③

7 清算所得課税

8 その他の論点

9 まとめ

【第33回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決①

1 包括的租税回避防止規定の射程

2 ヤフー事件

3 IDCF事件

【第34回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決②

1 租税回避の否認手法

2 事実認定に対する影響

3 法令解釈に対する影響

4 課税減免規定の限定解釈に対する影響

5 同族会社等の行為計算の否認に対する影響

【第35回】 租税回避の定義

1 租税回避の定義

2 立法論としての租税回避否認

3 まとめ

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筆者紹介

  • 佐藤 信祐

    (さとう・しんすけ)

    公認会計士・税理士、法学博士
    公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

    平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
    平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
    平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
    平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

    【主な著書】
    ・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
    ・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
    ・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
    ・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
    ・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『これだけ!組織再編税制』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
    ・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
    ・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
    ・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
    ・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)
    ・『条文と制度趣旨から理解する 合併・分割税制』(清文社)
    ・『事業承継M&Aの実務』(共著、清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 中小企業再編の税務』(清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 合併の税務』(清文社)

    その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

        

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