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包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第28回】「私法上の法律構成による否認論⑤」

筆者:佐藤 信祐

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包括的租税回避防止規定

理論と解釈

【第28回】

「私法上の法律構成による否認論⑤」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

連載の目次はこちら

前回では、映画フィルム事件について解説を行った。本稿では、日蘭組合事件及び投資クラブ事件について解説を行う。

 

6 日蘭組合事件(東京高裁平成19年6月28日判決・税資257号〔順号10741〕)

(1) 事実の概要

日本C株式会社(以下「日本C」という)とオランダ王国(以下「オランダ」という)の法人であるA(以下「A」という)は、平成6年11月1日付けで契約を締結した。原告は、Aの同契約上の地位を承継したオランダ法人である。

本事件は、被告が、原告が同契約に基づき日本Cから受領した金員は、原告が日本国内に有する恒久的施設を通じて行う事業から生じた所得であり、平成14年改正前法人税法138条1号に規定する「国内源泉所得」及び日蘭租税条約8条1項に規定する「企業の利得」に当たるとして、平成13年2月8日付けの決定及び無申告加算税賦課決定をした事件である。

なお、最高裁平成20年6月5日決定・税資258号(順号10965)では、上告不受理となっている。

(2) 第一審(東京地裁平成17年9月30日判決・税資255号〔順号10151〕)

当事者間に匿名組合契約を締結するという真の合意がある場合には、それにもかかわらず、匿名組合契約を締結する主な目的が税負担を回避することにあるという理由により当該匿名組合契約の成立を否定するには、その旨の明文の規定が必要であるところ、法人税を課するに当たってそのような措置を認めた規定は存しない。

したがって、当事者間に匿名組合契約を締結するという真の合意がある場合には、税負担を回避するという目的が併存することから、直ちに当該匿名組合契約の成立を否定することはできない。

もっとも、契約書上匿名組合契約を締結するとの記載があり、あるいは外観上匿名組合が存在する場合でも、実際の当事者間の法律関係、事業状況、経営実態等が契約書の記載の外観と異なるのであれば、匿名組合ではないという認定判断をする余地があることは当然である。

しかしながら、本件の全証拠を精査しても、Aと日本Cとの間における真の合意が、Aと日本Cとの間において匿名組合を組成するという方法以外の方法によって本件資金を日本Cに提供することであるとか、A又は原告と日本Cとの法律関係や事業状況等が本件契約書に定められたものとは異なるものであるという事実を認めるに足りる証拠はない。

・・・(途中省略)・・・

日蘭租税条約は、所得の種類を7条から22条まで定め、居住地国と所得源泉地国とに課税権を配分し、そのいずれにも該当しない所得については居住地国のみに課税権を認めている(23条)ところ、本件契約が任意組合を成立させる契約であれば、原告も日本国内において事業を行っていることになり、日蘭租税条約8条1項に規定する「他方の国にある恒久的施設を通じて当該他方の国において事業を行なう場合」に当たるから、日本国に課税権が認められる。しかし、匿名組合契約に基づき内国法人である営業者から外国法人である匿名組合員に支払われる分配金については、匿名組合では、匿名組合員が恒久的施設を通じて事業を行っているわけではないので、同項に該当せず、そのほか、日蘭租税条約7条から22条に掲げる所得のいずれにも該当しない。したがって、上記分配金は、日蘭租税条約23条に規定する「一方の国の居住者の所得で前諸条に明文の規定がないもの」に該当するというべきである。

(3) 控訴審

控訴審は、基本的には、第一審の判断を踏襲しているため、詳細な解説は省略する。

(4) 評釈

このように、匿名組合に該当するという納税者の主張を認め、日蘭租税条約に基づき、我が国に課税権がないものと判示された。

このような租税回避スキームが横行したため、平成22年における日蘭租税条約の改定では、我が国で課税されるようになった。

本事件のように、私法上の法律構成による否認論といっても、真実の事実関係を認定するに過ぎず、課税をするための事実関係の創造というものは、裁判所では認められない。私法上の法律構成による否認論に対する批判は、一連の裁判における課税当局の主張のように、課税をするための事実関係の創造までできるかのような挑戦が行われたためであると思われる。

 

7 投資クラブ事件(東京高裁平成19年10月30日判決・税資257号〔順号10811〕)

(1) 事実の概要

本事件は、原告の勤務先会社及びその関係企業の一定の役職以上の者を会員とする「Aクラブ」の会員であった原告が、「Aクラブ」への出資金の運用益(米国企業等への投資によるもの)の分配を受け、これを租税特別措置法所定の申告分離課税となる「株式等に係る譲渡所得等」として所得税の確定申告をしたところ、所轄税務署長が、当該運用益の分配は、原告の勤務先会社が行った投資行為によるもので、原告自身の株式等の譲渡行為によるものではなく、租税特別措置法の適用はないとして、所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした事件である。

(2) 第一審(東京地裁平成19年6月22日判決・訟月54巻9号426頁)

  • 原告を始めとする本件出資金の出資者は共同して当該事業を営む立場にない単なる出資者にすぎなかったものと認めるのが相当である。そうすると、本件においては、B社を営業者、本件出資金の出資者を匿名組合員とする匿名組合契約が成立し、本件所得は、当該匿名組合契約に基づく利益の分配によるものと認められる。
  • 本件所得が営業者の営業に対する出資の対価としての性質を有し、かつ、原告の出資行為についてこれを原告自身の事業とみることもできないことからすると、本件所得は、所得税法所定の一時所得又は事業所得に該当するということはできず、もとより、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得のいずれにも該当しないから、「雑所得」に該当すると認められる。

(3) 控訴審

控訴審は、基本的には、第一審の判断を踏襲しているため、詳細な解説は省略する。

(4) 評釈

このように、匿名組合分配金であることから、雑所得に該当するため、「株式等に係る譲渡所得等」には該当しないと判断された。

なお、原告は、所得税基本通達36・37共-21の遡及適用であるという主張も行ったが、裁判所では認められなかった。現在の同通達では、匿名組合員が匿名組合契約に基づいて営業者から受ける利益の分配は雑所得とするものの、重要な業務執行の決定を行っているなど組合事業を営業者と共に経営していると認められる場合には、事業所得又はその他の各種所得とする旨が規定されている。本事件では、重要な業務執行の決定を行っていないことが雑所得に該当すると判断された主たる理由となっている。

次回では、課税減免規定の限定解釈について検討を行う予定である。

(了)

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」は、隔週で掲載されます。

連載目次

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」(全35回)

【第1回】 最近の税務訴訟の動き

1 最近の租税回避訴訟の動き

【第2回】 租税回避の定義

2 租税回避の定義

【第3回】 包括的租税回避防止規定の規定内容

3 包括的租税回避防止規定の規定内容

【第4回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史①

4 同族会社等の行為計算の否認の歴史

(1) 大正12年の規定の創設

(2) 大正15年度税制改正

(3) 昭和15年度税制改正

(4) 昭和22年度税制改正

【第5回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史②

(5) 昭和25年度税制改正

(6) 昭和28年度から昭和40年度の税制改正

(7) 平成15年度以降の税制改正

【第6回】 国税通則法の制定に関する答申

5 国税通則法の制定に関する答申

【第7回】 創設規定と確認規定①

6 判例分析①(創設規定と確認規定)

(1) 総論

(2) 最高裁昭和37年6月29日判決(TAINSコード:Z999-9035)

【第8回】 創設規定と確認規定②

(3) 大阪高裁昭和39年9月24日判決(TAINSコード:Z038-1314)

【第9回】 創設規定と確認規定③

(4) 最高裁昭和45年7月16日判決(TAINSコード:Z060-2590)

【第10回】 創設規定と確認規定④

(5) 広島高裁昭和43年3月27日判決(TAINSコード:Z052-1712)

【第11回】 創設規定と確認規定⑤

(6) 最高裁昭和54年9月20日判決(TAINSコード:Z106-4467)

(7) 最高裁平成16年7月20日判決(TAINSコード:Z254-9700)

【第12回】 行為計算の主体など

7 判例分析②(行為計算の主体)

(1) 東京地裁昭和45年2月20日判決(TAINSコード:Z059-2527)

(2) 評釈

8 判例分析③(行為・計算)

(1) 大阪高裁昭和35年12月6日判決(TAINSコード:Z033-0974)

【第13回】 行為・計算

(2) 最高裁昭和52年7月12日判決(TAINSコード:Z095-4019)

【第14回】 不動産関連の事案

9 不動産関連の事案

(1) 東京地裁平成元年4月17日判決(TAINSコード:Z170-6286)

(2) 福岡地裁平成4年2月20日判決

(3) 福岡高裁平成11年11月19日判決(TAINSコード:Z245-8529)

【第15回】 不当の解釈

10 不当の解釈(最高裁昭和33年5月29日判決・TAINSコード:Z026-0618)

(1) 第一審(東京地裁昭和26年4月23日判決・TAINSコード:Z010-0068)

(2) 控訴審(東京高裁昭和26年12月20日判決・TAINSコード:Z011-0103)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第16回】 不当の意味と課税要件明確主義

11 不当の意味と課税要件明確主義(最高裁昭和53年4月21日判決・TAINSコード:Z101-4179)

(1) 第一審(釧路地裁昭和49年4月23日判決・TAINSコード:Z075-3313)

(2) 控訴審(札幌高裁昭和51年1月13日判決・TAINSコード:Z087-3691)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第17回】 同族非同族対比基準

12 同族非同族対比基準(東京高裁昭和49年6月17日判決・TAINSコード:Z075-3344)

(1) 事実関係

(2) 原審(東京地裁昭和46年4月20日判決・TAINSコード:Z062-2723)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第18回】 役員、従業員との取引

13 役員、従業員との取引

(1) 高松高裁昭和62年1月26日判決(TAINSコード:Z157-5859)

(2) 最高裁昭和60年6月18日判決(TAINSコード:Z145-5556)

(3) 最高裁平成11年1月29日(TAINSコード:Z240-8327)

【第19回】 行為計算否認規定の論点

1 同族会社等の行為計算の否認の論点

2 包括的租税回避防止規定の論点

3 本連載の方向性

【第20回】 実質主義①

1 実質主義の定義

2 東京高裁昭和47年4月25日判決(TAINSコード:Z065-2900)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁昭和46年3月31日判決・TAINSコード:Z062-2712)

(3) 控訴審

(4) 上告審、差戻控訴審

(5) 評釈

【第21回】 実質主義②

3 東京高裁平成11年6月21日判決(TAINSコード:Z243-8431)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成10年5月13日判決・TAINSコード:Z232-8161)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第22回】 実質主義③

4 大阪高裁平成14年10月10日判決(TAINSコード:Z252-9212)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(神戸地裁平成12年2月8日判決・TAINSコード:Z246-8582)

(3) 控訴審

(4) 評釈

5 東京高裁平成16年1月28日判決

【第23回】 実質主義④

6 実質主義の実務への適用

(1) 基本的な考え方

(2) 具体的な検討

(4) 評釈

【第24回】 私法上の法律構成による否認論①

1 私法上の法律構成による否認論の概要

【第25回】 私法上の法律構成による否認論②

2 アルゼ事件(東京高裁平成15年1月29日判決・税資253号〔順号9271〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成14年4月24日判決・税資252号〔順号9115〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第26回】 私法上の法律構成による否認論③

3 公正証書贈与事件(名古屋高裁平成11年11月11日判決・税資245号〔順号8524〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成10年12月25日判決・税資239号〔順号8306〕)

(3) 控訴審・上告審

(4) 評釈

4 航空機リース事件(名古屋高裁平成17年10月27日判決・税資255号〔順号10180〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成16年10月28日判決・税資254号〔順号9800〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第27回】 私法上の法律構成による否認論④

5 映画フィルム事件(最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(大阪地裁平成10年10月16日判決・税資238号715頁)

(3) 控訴審(大阪高裁平成12年1月18日判決・税資246号20頁)

(4) 上告審

(5) 評釈

【第28回】 私法上の法律構成による否認論⑤

6 日蘭組合事件(東京高裁平成19年6月28日判決・税資257号〔順号10741〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成17年9月30日判決・税資255号〔順号10151〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

7 投資クラブ事件(東京高裁平成19年10月30日判決・税資257号〔順合10811〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成19年6月22日判決・訟月54巻9号426頁)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第29回】 課税減免規定の限定解釈

1 課税減免規定の限定解釈

2 制度の濫用論

3 次回以降の解説

【第30回】 租税回避と実務上の問題点①

1 はじめに

2 株式譲渡損益とみなし配当

3 税制適格要件

【第31回】 租税回避と実務上の問題点②

4 欠損等法人

5 適格合併による繰越欠損金の利用

6 損失の二重利用

【第32回】 租税回避と実務上の問題点③

7 清算所得課税

8 その他の論点

9 まとめ

【第33回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決①

1 包括的租税回避防止規定の射程

2 ヤフー事件

3 IDCF事件

【第34回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決②

1 租税回避の否認手法

2 事実認定に対する影響

3 法令解釈に対する影響

4 課税減免規定の限定解釈に対する影響

5 同族会社等の行為計算の否認に対する影響

【第35回】 租税回避の定義

1 租税回避の定義

2 立法論としての租税回避否認

3 まとめ

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筆者紹介

  • 佐藤 信祐

    (さとう・しんすけ)

    公認会計士・税理士、法学博士
    公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

    平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
    平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
    平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
    平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

    【主な著書】
    ・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
    ・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
    ・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
    ・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
    ・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『これだけ!組織再編税制』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
    ・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
    ・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
    ・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
    ・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)
    ・『条文と制度趣旨から理解する 合併・分割税制』(清文社)
    ・『事業承継M&Aの実務』(共著、清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 中小企業再編の税務』(清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 合併の税務』(清文社)

    その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

        

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