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包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第3回】「包括的租税回避防止規定の規定内容」

筆者:佐藤 信祐

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包括的租税回避防止規定

理論と解釈

【第3回】

「包括的租税回避防止規定の規定内容」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

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3 包括的租税回避防止規定の規定内容

組織再編税制における包括的租税回避防止規定は、法人税法、所得税法、相続税法及び地方税法にて、それぞれ規定されている(法法132の2、所法157④、相法64④、地法72の43④)。そのほかにも、同族会社等の行為計算の否認(法法132、所法157①、相法64①、地法72の43①)、連結納税制度における包括的租税回避防止規定(法法132の3)などが規定されている。

これに対し、消費税法では、このような、同族会社等の行為計算の否認や包括的租税回避防止規定は設けられていない(※1)

(※1) 八ツ尾順一『租税回避の事例研究』37頁(清文社、六訂版、平成26年)では、「消費税法には、租税回避に対処するために、法人税法132条のような『同族会社の行為計算の否認規定』は存しない。消費税そのものが間接税(伝統的な間接税の定義からすれば、実質的な税の負担者と納税義務者とは異なる税をいうのであるから、納税義務者である事業者は、租税回避を行う必要がないと考える)であるからなのか、消費税では租税回避が行われないと考えるのかは定かではない。」と指摘されている。

以前より、租税回避については、租税法律主義と租税公平主義との間で見解が分かれており、この点につき、松原圭吾教授は、租税法律主義に基づく立場を「当事者間で合理的に選択した法形式を、課税庁の裁量で新たに別の法形式に引き直すことは、憲法30条(いわゆる「納税の義務」)や憲法84条(新たに租税を課し、又は現行の租税を変更するためには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする)に依拠した租税法律主義に反し、許されないという主張である。」と説明され、租税公平主義に基づく立場を、「憲法14条(いわゆる「法の下の平等」)に由来する課税の公平としての租税平等主義や租税公平主義の要請から、租税回避行為を選択した納税者と他の納税者との公平を期すべく、同一の法形式に引き直すべきであるという主張である。」と説明されていた(※2)

(※2) 松原圭吾「租税回避行為の否認に関する一考察」税法学553号110頁(平成17年)

多くの学者の方々の論文を拝見すると、租税法律主義を重視する見解が多いという印象を受ける。また、納税者の立場を安定させるためにも、そのように解すべきであると考えられる。

しかしながら、国税庁のシンクタンクである税務大学校の雑誌である『税大論叢』では、租税回避に対して租税公平主義の立場から厳しい対応をすべきであるという内容が多く、ヤフー・IDCF事件の前においても、納税者にとって厳しい判決が下っているものも少なくなかった。

このような中で、筆者が平成21年に上梓した『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務(中央経済社)』では、租税回避に対する否認手法として、以下の分類に基づいて解説を行った(※3)

(※3) 佐藤信祐『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』22-27頁(平成21年)

(1) 狭義の租税回避の否認

① 個別否認規定による否認

② 包括否認規定による否認

③ 実質主義による否認

(2) 広義の租税回避の否認

① 私法上の法律構成による否認論

② 課税減免規定に対する限定解釈

当時の解説では、事実認定と法令解釈を重視したものとなっており、税務調査における否認手法についても、(1)書面上の事実関係に対する否認、(2)形式的な事実関係と真実の事実関係が異なるものとしての否認、(3)包括的租税回避防止規定の適用に分けたうえで、とりわけ、税務調査で閲覧される可能性のある書類の整備を重視した解説をさせていただいた(※4)

(※4) 佐藤信祐前掲書(※3)31-33頁

この考え方は、現在でも全く変わるものではなく、包括的租税回避防止規定についてのご相談を受ける際にも、それ以前の事実認定や法令解釈の問題であると思われるものも少なくない。とりわけ、法令解釈においては、文理解釈のみならず、拡張解釈、縮小解釈などの論理解釈もあり得るし、税務訴訟においても、そのような主張を国側が行っている場面も見受けられる(※5)

(※5) 例えば、大和銀行事件では、課税庁が「納付」の文言に対する縮小解釈を主張していたことから、条文の文言を縮小・拡大解釈することができるか否かという点からも議論になっていたが、平成17年12月19日最高裁判決では、最終的に国側が勝訴したものの、このような縮小解釈を認められなかった。

この点につき、清水一夫教授は、

租税法律主義のもとにあっても、立法趣旨に基づいて、条文の文言を縮小・限定解釈することは判例も認めていると考えられるところであるが、やはり、『納付』という文言に、上記の意味合いを含めて限定的に解釈することは、文言の解釈としては、限度を超えるものと判断されたと解される。

(清水一夫「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究」、税大論叢59号278頁(平成20年))

と指摘されている。

しかしながら、条文の立法趣旨を勘案することにより、条文の文言を形式的に解釈するのではなく、拡大・縮小解釈すべき場面もあるという考え方もあるため、条文解釈においては、慎重な対応が必要になる。

これに対し、ヤフー・IDCF事件東京地裁判決、東京高裁判決は、包括的租税回避防止規定の中に課税減免規定の限定解釈論を持ち込んだものであるとも言われており(※6)、従来に比べて、制度趣旨を踏まえた解釈が重要になったという印象を受けざるを得ない。

(※6) ヤフー・IDCF事件が東京地裁で争われていた最中に行われた座談会における朝長英樹氏の発言からもそのような意図が推測される(朝長英樹ほか「組織再編成を巡る否認が相次ぐ中、今明かされる『行為計算否認規定(法人税法132条の2)の創設の経緯・目的と解釈』」T&Amaster449号1-12頁、450号16-26頁、451号13-19頁(平成24年)参照)。

しかしながら、本判決が公表される前であっても、経済合理性の有無、制度趣旨、税務調査官の感情論を理解したうえで、包括的租税回避防止規定が適用されるべき事案か否かの検討を行うべきであると解説させていただいており(※7)、租税回避に対する基本的な考え方は、学術的にはともかくとして、実務的にはそれほど変わっていないと考えることもできる。

(※7) 佐藤信祐前掲(※3)35-38頁

そのため、これらの判決が公表された後は、ヤフー・IDCF事件は話題になることは多く、ミーティングでも質問されることが多くなっているものの、組織再編税制に対する実務が変わったという印象は受けない。なぜならば、ストラクチャーの検討段階では、租税法のあるべき論に比べ、かなり保守的な分析をしていた日本企業が多かったことから、実務上は、どの見解を採用したとしても、租税回避には該当しないようなストラクチャーが実行されていたからである。

そのため、筆者が平成21年に上梓した『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務(中央経済社)』では、課税当局への事前相談で租税回避に該当するか否かの回答を得ることが困難であること、それが故に税務専門家としての租税回避に該当するか否かの意見の表明が重要になるということを指摘させていただいたが(※8)、その考え方も基本的には変わっていない。

(※8) 佐藤信祐前掲(※3)35、38-39頁

しかしながら、当時の解説にあるように、ストラクチャー全体を見ながら判定をすることから十分な予算と時間が必要になるということと、答えに幅がある内容であることからオピニオンショッピングに繋がりやすいという点には留意が必要である。

第1回から第3回(本稿)までは、租税回避についての一般的な考え方を解説させていただいたが、前回解説させていただいたように、ヤフー・IDCF事件はドイツの一般的否認規定の影響を受けたものであるとも言われている。しかしながら、ドイツの一般的否認規定の分析だけをしても租税回避に対する研究としては不十分であり、本来であれば、租税回避についての全体的な分析が必要になるであろう。

そのため、まずは次回以降から、同族会社等の行為計算の否認について、その歴史的経緯を探っていく予定である。

(了)

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」は、隔週で掲載されます。

連載目次

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」(全35回)

【第1回】 最近の税務訴訟の動き

1 最近の租税回避訴訟の動き

【第2回】 租税回避の定義

2 租税回避の定義

【第3回】 包括的租税回避防止規定の規定内容

3 包括的租税回避防止規定の規定内容

【第4回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史①

4 同族会社等の行為計算の否認の歴史

(1) 大正12年の規定の創設

(2) 大正15年度税制改正

(3) 昭和15年度税制改正

(4) 昭和22年度税制改正

【第5回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史②

(5) 昭和25年度税制改正

(6) 昭和28年度から昭和40年度の税制改正

(7) 平成15年度以降の税制改正

【第6回】 国税通則法の制定に関する答申

5 国税通則法の制定に関する答申

【第7回】 創設規定と確認規定①

6 判例分析①(創設規定と確認規定)

(1) 総論

(2) 最高裁昭和37年6月29日判決(TAINSコード:Z999-9035)

【第8回】 創設規定と確認規定②

(3) 大阪高裁昭和39年9月24日判決(TAINSコード:Z038-1314)

【第9回】 創設規定と確認規定③

(4) 最高裁昭和45年7月16日判決(TAINSコード:Z060-2590)

【第10回】 創設規定と確認規定④

(5) 広島高裁昭和43年3月27日判決(TAINSコード:Z052-1712)

【第11回】 創設規定と確認規定⑤

(6) 最高裁昭和54年9月20日判決(TAINSコード:Z106-4467)

(7) 最高裁平成16年7月20日判決(TAINSコード:Z254-9700)

【第12回】 行為計算の主体など

7 判例分析②(行為計算の主体)

(1) 東京地裁昭和45年2月20日判決(TAINSコード:Z059-2527)

(2) 評釈

8 判例分析③(行為・計算)

(1) 大阪高裁昭和35年12月6日判決(TAINSコード:Z033-0974)

【第13回】 行為・計算

(2) 最高裁昭和52年7月12日判決(TAINSコード:Z095-4019)

【第14回】 不動産関連の事案

9 不動産関連の事案

(1) 東京地裁平成元年4月17日判決(TAINSコード:Z170-6286)

(2) 福岡地裁平成4年2月20日判決

(3) 福岡高裁平成11年11月19日判決(TAINSコード:Z245-8529)

【第15回】 不当の解釈

10 不当の解釈(最高裁昭和33年5月29日判決・TAINSコード:Z026-0618)

(1) 第一審(東京地裁昭和26年4月23日判決・TAINSコード:Z010-0068)

(2) 控訴審(東京高裁昭和26年12月20日判決・TAINSコード:Z011-0103)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第16回】 不当の意味と課税要件明確主義

11 不当の意味と課税要件明確主義(最高裁昭和53年4月21日判決・TAINSコード:Z101-4179)

(1) 第一審(釧路地裁昭和49年4月23日判決・TAINSコード:Z075-3313)

(2) 控訴審(札幌高裁昭和51年1月13日判決・TAINSコード:Z087-3691)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第17回】 同族非同族対比基準

12 同族非同族対比基準(東京高裁昭和49年6月17日判決・TAINSコード:Z075-3344)

(1) 事実関係

(2) 原審(東京地裁昭和46年4月20日判決・TAINSコード:Z062-2723)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第18回】 役員、従業員との取引

13 役員、従業員との取引

(1) 高松高裁昭和62年1月26日判決(TAINSコード:Z157-5859)

(2) 最高裁昭和60年6月18日判決(TAINSコード:Z145-5556)

(3) 最高裁平成11年1月29日(TAINSコード:Z240-8327)

【第19回】 行為計算否認規定の論点

1 同族会社等の行為計算の否認の論点

2 包括的租税回避防止規定の論点

3 本連載の方向性

【第20回】 実質主義①

1 実質主義の定義

2 東京高裁昭和47年4月25日判決(TAINSコード:Z065-2900)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁昭和46年3月31日判決・TAINSコード:Z062-2712)

(3) 控訴審

(4) 上告審、差戻控訴審

(5) 評釈

【第21回】 実質主義②

3 東京高裁平成11年6月21日判決(TAINSコード:Z243-8431)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成10年5月13日判決・TAINSコード:Z232-8161)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第22回】 実質主義③

4 大阪高裁平成14年10月10日判決(TAINSコード:Z252-9212)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(神戸地裁平成12年2月8日判決・TAINSコード:Z246-8582)

(3) 控訴審

(4) 評釈

5 東京高裁平成16年1月28日判決

【第23回】 実質主義④

6 実質主義の実務への適用

(1) 基本的な考え方

(2) 具体的な検討

(4) 評釈

【第24回】 私法上の法律構成による否認論①

1 私法上の法律構成による否認論の概要

【第25回】 私法上の法律構成による否認論②

2 アルゼ事件(東京高裁平成15年1月29日判決・税資253号〔順号9271〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成14年4月24日判決・税資252号〔順号9115〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第26回】 私法上の法律構成による否認論③

3 公正証書贈与事件(名古屋高裁平成11年11月11日判決・税資245号〔順号8524〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成10年12月25日判決・税資239号〔順号8306〕)

(3) 控訴審・上告審

(4) 評釈

4 航空機リース事件(名古屋高裁平成17年10月27日判決・税資255号〔順号10180〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成16年10月28日判決・税資254号〔順号9800〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第27回】 私法上の法律構成による否認論④

5 映画フィルム事件(最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(大阪地裁平成10年10月16日判決・税資238号715頁)

(3) 控訴審(大阪高裁平成12年1月18日判決・税資246号20頁)

(4) 上告審

(5) 評釈

【第28回】 私法上の法律構成による否認論⑤

6 日蘭組合事件(東京高裁平成19年6月28日判決・税資257号〔順号10741〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成17年9月30日判決・税資255号〔順号10151〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

7 投資クラブ事件(東京高裁平成19年10月30日判決・税資257号〔順合10811〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成19年6月22日判決・訟月54巻9号426頁)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第29回】 課税減免規定の限定解釈

1 課税減免規定の限定解釈

2 制度の濫用論

3 次回以降の解説

【第30回】 租税回避と実務上の問題点①

1 はじめに

2 株式譲渡損益とみなし配当

3 税制適格要件

【第31回】 租税回避と実務上の問題点②

4 欠損等法人

5 適格合併による繰越欠損金の利用

6 損失の二重利用

【第32回】 租税回避と実務上の問題点③

7 清算所得課税

8 その他の論点

9 まとめ

【第33回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決①

1 包括的租税回避防止規定の射程

2 ヤフー事件

3 IDCF事件

【第34回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決②

1 租税回避の否認手法

2 事実認定に対する影響

3 法令解釈に対する影響

4 課税減免規定の限定解釈に対する影響

5 同族会社等の行為計算の否認に対する影響

【第35回】 租税回避の定義

1 租税回避の定義

2 立法論としての租税回避否認

3 まとめ

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筆者紹介

  • 佐藤 信祐

    (さとう・しんすけ)

    公認会計士・税理士、法学博士
    公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

    平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
    平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
    平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
    平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

    【主な著書】
    ・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
    ・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
    ・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
    ・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
    ・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『これだけ!組織再編税制』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
    ・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
    ・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
    ・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
    ・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)
    ・『条文と制度趣旨から理解する 合併・分割税制』(清文社)
    ・『事業承継M&Aの実務』(共著、清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 中小企業再編の税務』(清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 合併の税務』(清文社)

    その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

        

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