Profession Journal » 税務・会計 » 税務 » 解説 » 法人税 » 包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第31回】「租税回避と実務上の問題点②」

包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第31回】「租税回避と実務上の問題点②」

筆者:佐藤 信祐

文字サイズ

包括的租税回避防止規定

理論と解釈

【第31回】

「租税回避と実務上の問題点②」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

連載の目次はこちら

前回では、①株式譲渡損益とみなし配当、②税制適格要件について検討を行った。本稿では、①欠損等法人、②適格合併による繰越欠損金の利用、③損失の二重利用について解説を行う。

 

4 欠損等法人

包括否認本(拙著『組織再編における包括的租税回避防止規定(中央経済社、平成21年)』)の第4章では、欠損等法人について解説を行った。当時、想定していたスキームは、法人税法57条の2の適用から除外するために、複数の者で欠損等法人を買収するというものであった。しかし、繰越欠損金の繰越期限が10年にまで伸びてしまうと、買収してから事業を開始するまで、5年間待つというスキームの方が現実的であろう。

これを否認するための手法として、同族会社等の行為計算の否認が考えられるが、欠損等法人の買収は、欠損等法人の行為ではないため、課税減免規定の限定解釈の方が現実的である。当時は、清水一夫教授が本則的規定と解しているのに対し(※1)、政策目的規定と解する余地があるのではないかと考えた。

(※1) 清水一夫「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究」税大論叢59号345頁

しかし、ヤフー・IDCF事件では、政策目的規定とは考えにくい組織再編税制に対して、制度の濫用により否認していることから、政策目的規定ではなくても、課税減免規定の限定解釈(【第29回】参照)が適用される余地はあると思われる。

ただし、ヤフー事件の第一審において、

法57条3項が定める5年の要件など、未処理欠損金額の引継ぎを認めるか否かについての基本的な条件となるものであって、当該要件に形式的に該当する行為又は事実がある場合にはそのとおりに適用することが当該規定の趣旨・目的に適うことから、包括的否認規定の適用が想定し難いものも存在することは否定できない。

と判示されている。

これを根拠とするわけではないが、「5年待つ」という単純な行為に対して租税回避行為と認定し難いのも事実であり、やや否認のハードルは高いという印象を受ける。

 

5 適格合併による繰越欠損金の利用

包括否認本の第5章では、適格合併による繰越欠損金の利用について解説を行った。具体的には、①特定資本関係(支配関係)が生じてから5年を経過するまで待つ場合、②みなし共同事業要件を形式的に充足させる場合、③繰越欠損金を利用するための適格合併、④繰越欠損金を利用するための企業買収と適格合併、⑤100%子会社化後の適格合併、⑥繰越欠損金飛ばしスキームについて解説を行った。

グループ法人税制後の動きは、①繰越欠損金の繰越期限が10年に延びたこと、②100%子会社を清算した場合に繰越欠損金を引き継ぐことができるようになったことと、③ヤフー・IDCF事件があったことの3つである。

このうち、①については、欠損等法人のところで解説したように、5年間待つという租税回避が行われやすいため、立法論的解決が図られるべきであろう。そして、②については、100%子会社であるペーパー会社を清算することにより繰越欠損金を引き継ぐことができるようになったため、100%子会社であるペーパー会社との合併のような事案において経済合理性の説明をしなければならないことはほとんどないと思われる。

さらに、③ヤフー・IDCF事件の影響であるが、前回解説した税制適格要件と同様に、迂回取引を行ったり、個別の要件に無理矢理当てはめたりすることにより、みなし共同事業要件を満たすような行為については、包括的租税回避防止規定が適用されやすくなったということが言える。

税制適格要件と同様に、やや安易に要件を満たそうとする行為が見受けられる箇所であるため、慎重な対応が必要になる。

 

6 損失の二重利用

包括否認本の第6章では、損失の二重利用について解説を行った。当時と異なり、グループ法人税制が導入されたことから、例えば、グループ内で子会社株式を譲渡したとしても、その段階では子会社株式の譲渡損が実現しないという問題があるが、その後、当該子会社を被合併法人とする吸収合併を行えば、株式譲渡損が実現できるため、当時の議論とほとんど変わらないと思われる。

当時の議論に加え、大きく変わったと言えば、パチンコ店約40グループが適格現物出資を繰り返した行為について租税回避行為として否認された事例(※2)(「Sスキーム事件」ともいう)が公表されたことである。

(※2) 平成24年2月12日、読売新聞報道

本事例は、例えば、X社が保有する帳簿価額10億円、時価が1億円であるような土地を適格現物出資により新しく設立したY社に移転させた後、当該Y社株式を適格現物出資により新しく設立したZ社に移転させるなど、上記の含み損を無限増殖させようとした事案である。このような含み損を作り出すこと以外に何ら目的がない行為については租税回避行為として認定されやすいのは事実である。

さらに、上記の事案では、含み損を実現させるためのY社株式、Z社株式の譲渡を自然人に対して行うことも想定される。グループ法人税制は、内国法人間の取引であることから、自然人に対する株式譲渡は対象から除外される。すなわち、含み損を増殖させた後に自然人に対して売却するという租税回避行為は、現行法人税法でも可能であり、類似の行為を行った場合には、包括的租税回避防止規定が適用される可能性は否めない。

さらに、上記の事例では、適格現物出資の段階で、土地を取得したY社では土地の含み損を9億抱え、株式を取得したX社ではY社株式の含み損を9億抱えというように、適格現物出資、適格分社型分割及び株式移転により含み損を増殖させることができるという、組織再編税制の法体系の問題がある。

本来であれば、立法論的解決が図られるべき箇所であるが、実務上は、このような含み損の増殖が可能であり、それを逆手に取った節税対策に対しては、包括的租税回避防止規定が適用される可能性があるという点に留意が必要である。

次回では、清算所得課税とその他の論点について解説したうえで、実務上の留意事項についての解説を行う予定である。

(了)

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」は、隔週で掲載されます。

連載目次

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」(全35回)

【第1回】 最近の税務訴訟の動き

1 最近の租税回避訴訟の動き

【第2回】 租税回避の定義

2 租税回避の定義

【第3回】 包括的租税回避防止規定の規定内容

3 包括的租税回避防止規定の規定内容

【第4回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史①

4 同族会社等の行為計算の否認の歴史

(1) 大正12年の規定の創設

(2) 大正15年度税制改正

(3) 昭和15年度税制改正

(4) 昭和22年度税制改正

【第5回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史②

(5) 昭和25年度税制改正

(6) 昭和28年度から昭和40年度の税制改正

(7) 平成15年度以降の税制改正

【第6回】 国税通則法の制定に関する答申

5 国税通則法の制定に関する答申

【第7回】 創設規定と確認規定①

6 判例分析①(創設規定と確認規定)

(1) 総論

(2) 最高裁昭和37年6月29日判決(TAINSコード:Z999-9035)

【第8回】 創設規定と確認規定②

(3) 大阪高裁昭和39年9月24日判決(TAINSコード:Z038-1314)

【第9回】 創設規定と確認規定③

(4) 最高裁昭和45年7月16日判決(TAINSコード:Z060-2590)

【第10回】 創設規定と確認規定④

(5) 広島高裁昭和43年3月27日判決(TAINSコード:Z052-1712)

【第11回】 創設規定と確認規定⑤

(6) 最高裁昭和54年9月20日判決(TAINSコード:Z106-4467)

(7) 最高裁平成16年7月20日判決(TAINSコード:Z254-9700)

【第12回】 行為計算の主体など

7 判例分析②(行為計算の主体)

(1) 東京地裁昭和45年2月20日判決(TAINSコード:Z059-2527)

(2) 評釈

8 判例分析③(行為・計算)

(1) 大阪高裁昭和35年12月6日判決(TAINSコード:Z033-0974)

【第13回】 行為・計算

(2) 最高裁昭和52年7月12日判決(TAINSコード:Z095-4019)

【第14回】 不動産関連の事案

9 不動産関連の事案

(1) 東京地裁平成元年4月17日判決(TAINSコード:Z170-6286)

(2) 福岡地裁平成4年2月20日判決

(3) 福岡高裁平成11年11月19日判決(TAINSコード:Z245-8529)

【第15回】 不当の解釈

10 不当の解釈(最高裁昭和33年5月29日判決・TAINSコード:Z026-0618)

(1) 第一審(東京地裁昭和26年4月23日判決・TAINSコード:Z010-0068)

(2) 控訴審(東京高裁昭和26年12月20日判決・TAINSコード:Z011-0103)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第16回】 不当の意味と課税要件明確主義

11 不当の意味と課税要件明確主義(最高裁昭和53年4月21日判決・TAINSコード:Z101-4179)

(1) 第一審(釧路地裁昭和49年4月23日判決・TAINSコード:Z075-3313)

(2) 控訴審(札幌高裁昭和51年1月13日判決・TAINSコード:Z087-3691)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第17回】 同族非同族対比基準

12 同族非同族対比基準(東京高裁昭和49年6月17日判決・TAINSコード:Z075-3344)

(1) 事実関係

(2) 原審(東京地裁昭和46年4月20日判決・TAINSコード:Z062-2723)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第18回】 役員、従業員との取引

13 役員、従業員との取引

(1) 高松高裁昭和62年1月26日判決(TAINSコード:Z157-5859)

(2) 最高裁昭和60年6月18日判決(TAINSコード:Z145-5556)

(3) 最高裁平成11年1月29日(TAINSコード:Z240-8327)

【第19回】 行為計算否認規定の論点

1 同族会社等の行為計算の否認の論点

2 包括的租税回避防止規定の論点

3 本連載の方向性

【第20回】 実質主義①

1 実質主義の定義

2 東京高裁昭和47年4月25日判決(TAINSコード:Z065-2900)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁昭和46年3月31日判決・TAINSコード:Z062-2712)

(3) 控訴審

(4) 上告審、差戻控訴審

(5) 評釈

【第21回】 実質主義②

3 東京高裁平成11年6月21日判決(TAINSコード:Z243-8431)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成10年5月13日判決・TAINSコード:Z232-8161)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第22回】 実質主義③

4 大阪高裁平成14年10月10日判決(TAINSコード:Z252-9212)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(神戸地裁平成12年2月8日判決・TAINSコード:Z246-8582)

(3) 控訴審

(4) 評釈

5 東京高裁平成16年1月28日判決

【第23回】 実質主義④

6 実質主義の実務への適用

(1) 基本的な考え方

(2) 具体的な検討

(4) 評釈

【第24回】 私法上の法律構成による否認論①

1 私法上の法律構成による否認論の概要

【第25回】 私法上の法律構成による否認論②

2 アルゼ事件(東京高裁平成15年1月29日判決・税資253号〔順号9271〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成14年4月24日判決・税資252号〔順号9115〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第26回】 私法上の法律構成による否認論③

3 公正証書贈与事件(名古屋高裁平成11年11月11日判決・税資245号〔順号8524〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成10年12月25日判決・税資239号〔順号8306〕)

(3) 控訴審・上告審

(4) 評釈

4 航空機リース事件(名古屋高裁平成17年10月27日判決・税資255号〔順号10180〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成16年10月28日判決・税資254号〔順号9800〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第27回】 私法上の法律構成による否認論④

5 映画フィルム事件(最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(大阪地裁平成10年10月16日判決・税資238号715頁)

(3) 控訴審(大阪高裁平成12年1月18日判決・税資246号20頁)

(4) 上告審

(5) 評釈

【第28回】 私法上の法律構成による否認論⑤

6 日蘭組合事件(東京高裁平成19年6月28日判決・税資257号〔順号10741〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成17年9月30日判決・税資255号〔順号10151〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

7 投資クラブ事件(東京高裁平成19年10月30日判決・税資257号〔順合10811〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成19年6月22日判決・訟月54巻9号426頁)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第29回】 課税減免規定の限定解釈

1 課税減免規定の限定解釈

2 制度の濫用論

3 次回以降の解説

【第30回】 租税回避と実務上の問題点①

1 はじめに

2 株式譲渡損益とみなし配当

3 税制適格要件

【第31回】 租税回避と実務上の問題点②

4 欠損等法人

5 適格合併による繰越欠損金の利用

6 損失の二重利用

【第32回】 租税回避と実務上の問題点③

7 清算所得課税

8 その他の論点

9 まとめ

【第33回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決①

1 包括的租税回避防止規定の射程

2 ヤフー事件

3 IDCF事件

【第34回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決②

1 租税回避の否認手法

2 事実認定に対する影響

3 法令解釈に対する影響

4 課税減免規定の限定解釈に対する影響

5 同族会社等の行為計算の否認に対する影響

【第35回】 租税回避の定義

1 租税回避の定義

2 立法論としての租税回避否認

3 まとめ

このエントリーをはてなブックマークに追加

筆者紹介

  • 佐藤 信祐

    (さとう・しんすけ)

    公認会計士・税理士、法学博士
    公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

    平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
    平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
    平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
    平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

    【主な著書】
    ・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
    ・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
    ・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
    ・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
    ・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『これだけ!組織再編税制』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
    ・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
    ・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
    ・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
    ・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)
    ・『条文と制度趣旨から理解する 合併・分割税制』(清文社)
    ・『事業承継M&Aの実務』(共著、清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 中小企業再編の税務』(清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 合併の税務』(清文社)

    その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

        

関連書籍

Profession Journal » 税務・会計 » 税務 » 解説 » 法人税 » 包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第31回】「租税回避と実務上の問題点②」

Copyright ©2012- Profession Network Co.,Ltd. All Rights Reserved.

Scroll to top
Go to home