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[無料公開中]〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第8回】「役員報酬をクローバックした場合の源泉徴収税額の取扱い」

筆者:中尾 隼大

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〈ポイント解説〉

役員報酬税務

【第8回】

「役員報酬をクローバックした場合の源泉徴収税額の取扱い」

 

税理士 中尾 隼大

 

【 質 問 】

当社は上場企業です。近年、他社で不祥事や事業失敗による大幅な下方修正や巨額損失の計上が頻発していることを受け、役員との報酬契約にいわゆるクローバック条項を追加することを検討しています。

クローバックを実施した場合、役員報酬から源泉徴収した所得税があるはずですが、この取扱いを教えてください。

【 回 答 】

まだ議論が進んでいない論点ですが、源泉徴収義務者である貴社が源泉徴収税額の還付請求を行う可能性があります。

○●○● 解 説 ●○●○

(1) クローバックとは

クローバック(Claw back)とは、一般に、「業績連動型報酬において報酬額算定の基礎となる業績指標等の数値が誤っていた場合、又はエクイティ報酬において株価が誤った情報を反映して不当に高くなっていたために報酬額もそれに比例して高くなったという場合等に、正しい指標等に基づいて報酬額を算定し直し、差額の報酬を会社に返還させる仕組みである」とされる(※1)。業績連動型の報酬は、企業の財務諸表上の数値に基づいて決定されるが、不祥事等によって過大に算定された数値を用いることで、結果として役員の業績連動報酬が水増しされることを防止することを目的としており、欧米では一般的な制度である。

(※1) 大塚章男「役員報酬とコーポレート・ガバナンス-clawback条項を手掛かりとして-」筑波ロー・ジャーナル26号(2016)25頁。大塚氏は、日本の役員報酬制度において業績連動型の比重が強まる傾向を鑑み、我が国がクローバックの問題にいずれ必ず直面する旨を指摘している。

従来、我が国においては欧米と比較して役員報酬額の水準が低く、役員が受ける報酬も業績を加味して算定する要素が少なかった。加えて、国内企業に不祥事等が起きると、役員が報酬を自主返納するケースが多いという性善説的な背景も相まって、我が国においてクローバック条項を導入している企業はまだ少ない(※2)

(※2)  日本においては、野村HD、日本板硝子、みずほFG、ヤマハ等が導入している。また、先日、武田薬品工業の株主総会(2019.6.27)においてクローバック条項導入についての株主提案がなされたが、こちらは否決に終わっている。

しかし、平成28年度・29年度税制改正等により、徐々に業績連動報酬の導入促進が行われていることから、これらの比重の高まりとともにクローバック条項の必要性が議論されていくと思われる。

 

(2) 税務上の問題

実際に不祥事等が起きたことによりクローバックが行われる場合には、役員本人に課された過年度の課税に影響を与えることとなる。具体的には、過去に役員報酬から源泉徴収された所得税につき、クローバック実施により役員報酬を返還した場合の取扱いにおいて、源泉徴収義務者による過誤納の還付請求を行うのか、給与の支払いを受けた役員本人が更正の請求を行うのかが第1の問題となる。

① 源泉徴収の過誤納は過誤納還付請求・更正の請求のいずれにより救済されるべきか

クローバックはさておき、一般に源泉徴収税額に過誤納があった場合には、支払者かつ源泉徴収義務者である法人が過誤納還付の手続きを行うこととなる。

この取扱いについて、古くは内閣法制局昭和37年7月31日発9号に言及があり、「雇傭者が被傭者の賃金から徴収する源泉所得税を超過徴収して納付した場合、国税通則法56条に基づいてその過誤納金を還付する相手方は、雇傭者であるか被傭者であるか」との問いに、「雇傭者である」とする回答がある(※3)

(※3) 志場喜徳郎他編『国税通則法精解 第十六版』(大蔵財務協会、2019)640頁。

その後もこの問題について、納税者自身の手によって解消できるのかという点が判然としない状況であったが、最高裁平成4年2月18日判決が、

「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」とは、所得税法の源泉徴収の規定(第四編)に基づき正当に徴収された、又はされるべき所得税の額を意味するものであり、給与その他の所得についてその支払者がした所得税の源泉徴収に誤りがある場合に、その受給者が、右確定申告の手続において、支払者が誤って徴収した金額を算出所得税額から控除し又は右誤徴収額の全部若しくは一部の還付を受けることはできない

と判示し(※4)、今日の実務はこれに倣っている。

(※4) 民集46巻2号77頁、TAINS:Z188-6849

したがって、報酬支給を受けた本人が更正の請求により救済措置を受けることはできないため、源泉徴収義務者である会社が主体となり、国税通則法56条によってリカバリーを図ることとなると考えられる。

② 過誤納還付の可否

それでは、クローバックの実施によって、過年度に源泉徴収された金額が「過誤納」に当たるのかどうかが第2の問題となる。

国税通則法56条は、「国税局長、税務署長又は税関長は、還付金又は国税に係る過誤納金があるときは、遅滞なく、金銭で還付しなければならない。」と定めている。国税通則法には「過誤納」の定義は存在しないが、一般には「結果的にみて目的を欠くこととなった場合の不当利得の返還金である」とされ、以下の2類型に分類されると説かれている(※5)

(※5) 前掲(※3)635頁。

[通常の過納原因]
納付の時には一応適法であったが、その申告又は課税処分が誤って過大にされていたため、後になって減額更正、減額の賦課決定又は課税処分の取消し等がなされ、結果的その納付が目的を欠く場合

[例外的な過納原因]
納付の時には全く適法にされた納付であったが、後になってその課税を変更すべき後発的事由が生じたため、結果的にその納付が目的を欠くものとなった場合

クローバックが上記に該当するか否かの判断は、クローバックの形態ごとの法的性質を明らかにした上で検討する必要がある。

ここで、日本公認会計士協会が先日公表した「法人税法上の役員報酬の損金不算入規定の適用をめぐる実務上の論点整理」では、クローバックの法的性質を類型化し、その類型ごとに詳細に整理されている。現時点においてクローバックに関する税務上の論点をまとめた数少ない資料なので、以下にその見解を図示する形で紹介したい。

【クローバックの法的性格と還付の可否】
※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。

クローバックの法的性格と還付の可否					 類 型		クローバックの形態	法的性質	過誤納金該当性	還付の可否 A		"報酬支給の前提に誤りがあった場合 (報酬の基礎となった財務内容に重大な誤りがある等)"	"停止条件付契約 (一定の財務数値達成が停止条件)"	通常の過誤による過納	可能 "B (※)"	B-1	クローバック条項付き報酬支払契約締結以前にトリガー事由発生(判明は事後)	"解除条件付契約 (解除条件たるトリガー事由が契約時に発生していれば、契約が無効)"	無効な契約に基づく誤納	可能 	B-2	クローバック条項付き報酬支払契約締結後にトリガー事由発生	"解除条件付契約 (トリガー事由発生時点から無効となるものの、報酬支給時点では有効。尤も、訴求して無効である旨の特約は有効)"	所基通181~223共-6(3)を根拠に、例外的過誤納	可能 ※過去の不祥事が判明するなど、A以外					 					日本公認会計士協会「法人税法上の役員報酬の損金不算入規定の適用をめぐる実務上の論点整理」64頁以降より、筆者作成

(*) 過去の不祥事が判明するなど、A以外

(出典) 日本公認会計士協会「法人税法上の役員報酬の損金不算入規定の適用をめぐる実務上の論点整理(租税調査会研究報告第35号)」64頁以降の内容をもとに筆者作成。

このように、日本公認会計士協会は、クローバックの実施によって過年度の源泉徴収税額が過誤納還付の対象となるという見解を示している。クローバックに関する税務については、当該レポート以外、ほとんど議論がないところであるため、今後の議論の発展が待たれる。

なお、法人税の所得計算において過年度に損金算入された役員報酬がクローバック実施によりどのように取り扱われるかについても疑問が生じるが、こちらについても今後の議論が待たれるところである。

〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
所令・・・所得税法施行令
(例)法法34①一・・・法人税法34条1項1号

(了)

「〈ポイント解説〉役員報酬の税務」は、毎月第3週に掲載されます。

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〈ポイント解説〉

役員報酬の税務

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筆者紹介

  • 中尾 隼大

    (なかお・しゅんた)

    税理士
    税理士法人中尾総合事務所 所長
    https://www.nakao-tax.com

    中国税理士会税務研究所 研究員

    平成22年 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(現:PwC税理士法人)入所
    平成24年 税理士登録
    平成25年 税理士法人中尾総合事務所設立 現在に至る

    【著作・論文】
    「一般社団法人を利用した租税回避スキームに関する試論」第40回 日税研究賞 税理士の部 入選
    「これで万全!!2019年10月 消費増税・軽減税率対策 転嫁・インボイスはこう進める」共著(ぎょうせい・2019)
    「個人版事業承継税制のポイントと有利判定シミュレーション」共著(日本法令・2019)
    「ワークフロー式消費税[軽減税率]申告書作成の実務」共著(日本法令・2020)
    「消費税 適用判断の原則と例外」共著(新日本法規・2021)

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