公開日: 2022/05/26 (掲載号:No.471)
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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第58回】「金融商品のレベル別の時価開示」

筆者: 西田 友洋

【STEP2】レベル別の時価注記

「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」として、以下の注記が必要である。連結財務諸表において注記している場合は、個別財務諸表においては、注記を省略することができる(時価開示適用指針5-2)。なお、適用初年度においては、比較情報の注記は、不要である(時価開示適用指針7-4)。

(※1) 時価の算定に用いる評価技法又はその適用を変更する場合は、会計上の見積りの変更として処理する。この場合であっても、会計上の見積り変更の注記は不要で、当該注記のみで足りる(時価開示適用指針39-9)。

(※2) 例えば、過去の取引価格又は第三者から入手した価格を調整せずに使用している場合をいう(時価開示適用指針5-2(4)①)。

(※3) 期首残高から期末残高への調整表を作成する際は、以下を区別して注記する(時価開示適用指針5-2(4)②、39-11、39-12)。

 当期の損益に計上した額及びその損益計算書における科目

 当期のその他の包括利益に計上した額及びその包括利益計算書における科目

 購入、売却、発行及び決済のそれぞれの額(ただし、これらの額の純額を示すことも可)

 レベル1の時価又はレベル2の時価からレベル3の時価への振替額及び当該振替の理由、振替時点に関する方針(例えば、振替を生じさせた事象が生じた又は状況が変化した日、会計期間の期首及び末日)

 レベル3の時価からレベル1の時価又はレベル2の時価への振替額及び当該振替の理由、振替時点に関する方針(例えば、振替を生じさせた事象が生じた又は状況が変化した日、会計期間の期首及び末日)

なお、期首残高から期末残高への調整表は、基本的に表形式により注記することが想定されているが、時価がレベル3の時価に分類される金融資産及び金融負債の期首残高から期末残高までの変動の大部分が単一の変動理由によって説明できる場合には、一般的な重要性の判断に基づき、表形式によらない注記も可能である(時価適用指針39-11)。

(※4) 企業の評価プロセスとは、例えば、企業における評価の方針及び手続の決定方法や各期の時価の変動の分析方法等をいう(時価開示適用指針5-2(4)③)。

(※5) 観察できないインプットと他の観察できないインプットとの間に相関関係がある場合、当該相関関係の内容及び当該相関関係を前提とすると時価に対する影響が異なる可能性があるかどうかに関する説明を注記する(時価開示適用指針5-2(4)④)。

【事例】日本通運(株)(2021年12月期 有価証券報告書)

(金融商品関係)

(省略)

2 金融商品の時価等及び時価のレベルごとの内訳等に関する事項

2021年12月31日における連結貸借対照表計上額、時価及びこれらの差額並びにレベルごとの時価は、次のとおりであります。なお、市場価格のない株式に該当する非上場株式(連結貸借対照表計上額 38,592百万円)は次表には含めておりません。

金融商品の時価は、時価の算定に用いたインプットの観察可能性及び重要性に応じて、以下の3つのレベルに分類しております。

レベル1の時価:同一の資産または負債の活発な市場における調整されていない相場価格によって算定した時価

レベル2の時価:レベル1のインプット以外の直接または間接的に観察可能なインプットを用いて算定した時価

レベル3の時価:重要な観察できないインプットを使用して算定した時価

時価の算定に重要な影響を与えるインプットを複数使用している場合には、それらのインプットがそれぞれ属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに時価を分類しております。

(1) 時価をもって連結貸借対照表価額とする金融商品

(※1) デリバティブ取引によって生じた正味の債権・債務は、純額で表示しており、合計で正味の債務となる項目については、△で示しております。

(2) 時価をもって連結貸借対照表価額としない金融商品

現金及び預金、売掛金及び契約資産、短期貸付金、買掛金、短期借入金(ただし、1年内返済予定の長期借入金を除く)並びに預り金は、短期間で決済されるため時価が帳簿価額に近似することから、注記を省略しております。

(注1) 時価の算定に用いた評価技法及びインプットの説明

投資有価証券

上場株式は取引所の価格によっております。上場株式は活発な市場で取引されているため、その時価をレベル1の時価に分類しております。また、有価証券に関する注記事項につきましては、「有価証券関係」注記を参照ください。

社債

当社の発行する社債の時価は、市場価格(売買参考統計値)に基づき算定しており、レベル2の時価に分類しております。

長期借入金

長期借入金の時価については、一定の期間ごとに区分した当該長期借入金の将来キャッシュ・フローを市場金利に当社のスプレッドを加味した利率で割り引いた現在価値により算定しており、レベル2の時価に分類しております。なお、1年以内に返済予定の長期借入金を含めた金額を記載しております。

デリバティブ取引

店頭取引のデリバティブについては取引金融機関より提示された時価によっており、金利、外国為替相場等のインプットを用いた将来キャッシュ・フローの割引現在価値により算定されており、レベル2の時価に分類しております。

(省略)

【計算書類の場合】

計算書類においては、「金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項」の注記が必要である(会社計算規則109①三)。ただし、具体的な注記内容は、会社計算規則では規定されていない。

実務上の負担等も考慮し、各社の実情に応じて必要な限度での開示を可能とするために、概括的な規定のみが定められている。

したがって、計算書類においては、上記(1)(7)の項目のうち、注記を要しないと合理的に判断される項目については、注記をしないことも許容されると考えられる(「『会社計算規則の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について」第3の4)。

なお、連結注記表を作成する株式会社は、個別注記表における前項の注記を要しない(会社計算規則109②)。有価証券報告書を提出する大会社以外の会社は、当該注記を省略することができる(会社計算規則109①)。

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

【第58回】

「金融商品のレベル別の時価開示」

 

史彩監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

【はじめに】

2019年7月4日に企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準(以下、「時価会計基準」という)」及び企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針(以下、「時価適用指針」という)」が公表され、また、企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針(以下、「時価開示適用指針」という)」が改正された。当該公表及び改正により、2022年3月期より金融商品のレベル別の時価開示が求められている。

今回は、金融商品のレベル別の時価開示について解説する。

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連載目次

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

第1回~第30回

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

史彩監査法人 パートナー
公認会計士

2007年10月に準大手監査法人に入所。2019年8月にRSM清和監査法人に入所。2022年2月に史彩監査法人に入所。
主に法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。また、会社買収に当たっての財務デューデリジェンス、IPOを目指す会社への内部統制コンサル及び短期調査、収益認識コンサル実績もある。
他に、決算留意事項セミナーや収益認識セミナー等の講師実績もある。

【日本公認会計士協会委員】
監査・保証基準委員会 委員(現任)
監査・保証基準委員会 起草委員会 起草委員(現任)
中小事務所等施策調査会 「監査専門委員会」専門委員(現任)
品質管理基準委員会 起草委員会 起草委員
中小事務所等施策調査会 「SME・SMP対応専門委員会」専門委員
監査基準委員会「監査基準委員会作業部会」部会員

【書籍】
「図解と設例で学ぶ これならわかる連結会計」(共著/日本実業出版社)等

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