Ⅸ 分配可能額
配当は、債権者保護の観点から、配当の効力発生日時点における分配可能額を超えて行うことができないとされている(会社法461①)。しかし、昨今、分配可能額を超える、剰余金の配当又は自己株式の取得が行われている事例が数件発生している。そのため、ここでは分配可能額の算定について解説する。
分配可能額は、以下の流れで算定する。
(1) 事業年度末日における剰余金の額の算定
(2) 分配時点における剰余金の算定
(3) 分配可能額の算定
(1) 事業年度末日における剰余金の額の算定
まず、事業年度末日における剰余金の額を、以下のように算定する(会社法446)。以下に従って算定すると、決算日における剰余金の額は、「その他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額」となる。
資産の額
+ 自己株式の帳簿価額
- 負債の額
- 資本金・準備金
- 法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
(2) 分配時点における剰余金の算定
次に、分配時点における剰余金を算定する(会社法446)。
事業年度末日における剰余金の額(上記(1)参照)
+ 事業年度末日後効力発生日までの自己株式処分損益
+ 事業年度末日後効力発生日までの資本金減少額
+ 事業年度末日後効力発生日までの準備金減少額
- 事業年度末日後効力発生日までの自己株式消却額
- 事業年度末日後効力発生日までの剰余金の配当額
- 法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
(3) 分配可能額の算定
最後に、分配可能額を算定する(会社法461)。ここで算定した分配可能額を超えて配当を行ってはならない。
分配時点における剰余金の額(上記(2)参照)
± 臨時決算を行う場合の期間利益等・期間損失
- 分配時点の自己株式の帳簿価額
- 事業年度末日後効力発生日までの自己株式の処分対価
- その他法務省令で定める額
(4) 実務上の留意点
上記(1)から(3)で計算式を解説したが、会社としては、最初から細かい検証をするのではなく、まず、配当総額と「期末日におけるその他資本剰余金+その他利益剰余金」を比較し、配当総額を十分に下回っているか確認をすることが重要である。
十分に下回っている場合は、通常、分配可能額を超えることはないと考えられる。
一方、十分に下回っていない場合は、詳細に検証する必要がある。その際には、監査人や顧問弁護士等に相談しながら検証することが望まれる。