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【STEP1】権利確定以前の会計処理
従業員等は、ストック・オプションを対価としてこれと引換えに企業にサービスを提供し、企業はこれを消費しているから、費用認識する(基準34(1)、39)。具体的には、ストック・オプションを付与し、これに応じて企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用(=ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額)として計上し、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使又は失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に「新株予約権」として計上する(基準4、5)。
ここで、ストック・オプションの公正な評価額は、公正な評価単価にストック・オプション数(権利不確定による失効の見積数を控除)を乗じて算定する。
一般的にストック・オプションは権利確定条件が付されているものが多いため、まず、権利確定以前の会計処理について検討する。
(1) 公正な評価単価の算定
(2) ストック・オプション数の算定
(3) 権利確定日の判定
(3) 付与時の会計処理
(4) ストック・オプション数の見直し
(1) 公正な評価単価の算定
① 評価時点
公正な評価単価は、付与日現在で算定する。条件変更の場合(本解説では解説していない)を除き、その後は見直さない(基準6(1))。
② 評価方法
ストック・オプションに関しては、通常、市場価格が観察できないため、株式オプション価格算定モデル等の算定技法を利用して公正な評価単価を見積る(基準48)。
「株式オプション価格算定モデル」とは、ストック・オプションの市場取引において、一定の能力を有する独立第三者間で自発的に形成されると考えられる合理的な価格を見積るためのモデルであり、市場関係者の間で広く受け入れられているものをいう。例えば、ブラック・ショールズ式や二項モデル等が考えられる(基準48)。
算定技法の利用にあたっては、付与するストック・オプションの特性や条件等を適切に反映するよう必要に応じて調整を加える(基準6(2)、企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針(以下、「適用指針」という)」5、6、7)。
ただし、失効(※)の見込みについてはストック・オプション数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しない(基準6(2))。
(※) 「失効」とは、ストック・オプションが付与されたものの、権利行使されないことが確定することをいう。失効には、権利確定条件が達成されなかったことによる失効(「権利不確定による失効」)と、権利行使期間中に行使されなかったことによる失効(「権利不行使による失効」)とがある(基準2(13))。
実務上は、評価単価の算定は、専門家に依頼することが多いと考えられる。
なお、算定技法の変更が認められるのは、原則として以下の場合に限られる(適用指針8)。
(1) 従来付与したストック・オプションと異なる特性を有するストック・オプションを付与し、その特性を反映するために必要な場合
(2) 新たにより優れた算定技法が開発され、これを用いることで、より信頼性の高い算定が可能となる場合
【未公開企業の場合】
未公開企業については、ストック・オプションの公正な評価単価に代え、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の見積りに基づいて会計処理を行うことができる(基準13)。言い換えると、未公開企業の場合、公正な評価単価を見積る方法、単位当たりの本源的価値を見積る方法、どちらでも認められる。
付与日現在でストック・オプションの単位当たりの本源的価値を見積り、条件変更の場合を除き、その後は見直さない(基準13)。
ここで、「単位当たりの本源的価値」とは、算定時点においてストック・オプションが権利行使されると仮定した場合の単位当たりの価値であり、当該時点におけるストック・オプションの原資産である自社の株式の評価額と行使価格との差額をいう。
【自社株式の株価 > 行使価格の場合】
【自社株式の株価 < 行使価格の場合】
一般的に、行使価格は付与日における自社株式の株価より高く設定されることがほとんどであると考えられる。そのため、未公開企業では、本源的価値がゼロとなり、費用計上額はゼロとなることが多いと考えられる。
(2) ストック・オプション数の算定
付与されたストック・オプション数(「付与数」)から、権利不確定による失効の見積数を控除して算定する(基準7(1))。
(3) 権利確定日の判定
各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額として算定する。すなわち、ストック・オプションの公正な評価額を、これと対価関係にあるサービスの受領に対応させて、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づいて費用計上することになる。
ここで、対象勤務期間とは、付与日から権利確定日までの期間であるため、権利確定日を判定する必要がある。そして、権利確定日は以下のように判定する(適用指針17)。
① 勤務条件が付されている場合には、勤務条件を満たし権利が確定する日
② 勤務条件は明示されていないが、権利行使期間の開始日が明示されており、かつ、それ以前にストック・オプションを付与された従業員等が自己都合で退職した場合に権利行使ができなくなる場合には、権利行使期間の開始日の前日。この場合には、勤務条件が付されているものとみなす。
③ 条件の達成に要する期間が固定的ではない権利確定条件が付されている場合には、権利確定日として合理的に予測される日
【補足①】
権利確定条件が付されていない場合(すなわち、付与日にすでに権利が確定している場合)には、対象勤務期間はなく、付与日に一時に費用を計上する。
上記③の場合において、株価条件が付されている等、権利確定日を合理的に予測することが困難なため、予測を行わないときには、対象勤務期間はないものとみなし、付与日に一時に費用を計上する(適用指針18)。
【補足②】
複数の権利確定条件が付されている場合には、権利確定日は以下のように判定する。
(ⅰ) それらのうち、いずれか1つを満たせばストック・オプションの権利が確定する場合には、最も早期に達成される条件が満たされる日
(ⅱ) それらすべてを満たさなければストック・オプションの権利が確定しない場合には、達成に最も長期を要する条件が満たされる日
なお、ストック・オプションの権利が確定するために、ともに満たすべき複数の条件と、いずれか1つを満たせば足りる複数の条件とが混在している場合には、上記(ⅰ)と(ⅱ)を組み合わせて判定する。
また、株価条件等、条件の達成に要する期間が固定的でなく、かつ、その権利確定日を合理的に予測することが困難な権利確定条件(【補足①】2段落目)が付されているため、予測を行わない場合については、当該権利確定条件は付されていないものとみなす(適用指針19)。
例えば、勤務条件が付されているストック・オプションについて、さらに株価条件が付されており、その株価条件を達成すれば、勤務条件の達成を待たずにストック・オプションの権利が確定することとされている場合であって、株価条件による権利確定日の予測を行わない場合には、勤務条件のみが付されているものとして会計処理を行う。 ただし、この場合でも、勤務条件の達成を待たずに権利確定した場合には、対象勤務期間のうち、残りの期間に計上する予定であった費用を権利確定時に一時に計上することになる(適用指針52)。
【補足③】
付与されたストック・オプションの中に、権利行使期間開始日の異なるストック・オプションが含まれているため、時の経過とともに付与されたストック・オプションの一定部分ごとに段階的に権利行使が可能となる場合がある。
この場合には、原則として、権利行使期間開始日の異なるごとに別個のストック・オプションとして会計処理を行う(適用指針20)。
ただし、付与された単位でまとめて会計処理を行うこともできる(適用指針20)。この場合には、付与した単位で公正な評価額を、最後に到来する権利行使期間開始日の前日までの期間にわたって費用計上する(適用指針58)。
(4) 付与時の会計処理
上記(1)で算定したストック・オプションの公正な評価単価に(2)のストック・オプション数を乗じて算定した金額のうち、(3)の対象勤務期間をもとに、当期に発生したと認められる額を「株式報酬費用」として計上する。そして、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使又は失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に「新株予約権」として計上する(基準4、5、適用指針〔設例1〕)。
《設例1》
当社は、3月決算である。
① ストック・オプションの数:従業員1人当たり10個(合計100人×10個=1,000個)
② ストック・オプションの行使により与えられる株式の数:合計1,000株(ストック・オプション1個当たり1株)
③ ストック・オプション行使時の払込金額:10,000円/株
④ ストック・オプションの権利確定日:X5年6月30日
⑤ ストック・オプションの行使期間:X5年7月1日からX7年6月30日
⑥ 付与されたストック・オプションは、他者に譲渡できない。
⑦ 付与日におけるストック・オプションの公正な評価単価は、5,000円/個
⑧ X0年6月のストック・オプション付与時点において、X5年6月30日までに10名の退職による失効を見込んでいる。
⑨ ストック・オプションは税制適格ストック・オプションである。
〈X1年3月期〉
(※1) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月
付与日から当期末までの期間:9ヶ月
5,000円×10個×(100名-10名)×9/60=675,000円
(注) 期末時点において、将来の失効見込み(退職者)を修正する必要はないと判断している。
〈X2年3月期〉
(※2) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月
付与日から当期末までの期間:21ヶ月
5,000円×10個×(100名-10名)×21/60=1,575,000円(X2年3月期の新株予約権残高)
1,575,000円-前期末までの計上額675,000円=900,000円
(注) 期末時点において、将来の失効見込み(退職者)を修正する必要はないと判断している。
〈X3年3月期〉
(※3) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月
付与日から当期末までの期間:33ヶ月
5,000円×10個×(100名-10名)×33/60=2,475,000円(X3年3月期の新株予約権残高)
2,475,000円-前期末までの計上額1,575,000円=900,000円
(注) 期末時点において、将来の失効見込み(退職者)を修正する必要はないと判断している。
〈X4年3月期〉
(※4) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月
付与日から当期末までの期間:45ヶ月
5,000円×10個×(100名-10名)×45/60=3,375,000円(X4年3月期の新株予約権残高)
3,375,000円-前期末までの計上額2,475,000円=900,000円
(注) 期末時点において、将来の失効見込み(退職者)を修正する必要はないと判断している。
(5) ストック・オプション数の見直し
付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定による失効の見積数に重要な変動が生じた場合(条件変更による場合(本解説では解説していない)を除く)には、これに応じてストック・オプション数を見直す(基準7(2))。
これによりストック・オプション数を見直した場合には、見直し後のストック・オプション数に基づくストック・オプションの公正な評価額に基づき、その期までに費用として計上すべき額と、これまでに計上した額との差額を見直した期の損益として計上する(基準7(2))。
そして、最終的に、権利確定日には、ストック・オプション数を権利の確定したストック・オプション数(「権利確定数」)と一致させる。一致させた結果、これによりストック・オプション数を修正した場合には、修正後のストック・オプション数に基づくストック・オプションの公正な評価額に基づき、権利確定日までに費用として計上すべき額と、これまでに計上した額との差額を権利確定日の属する期の損益として計上する(基準7(3))。
《設例2》
当社は、3月決算である。
X5年3月期において、《設例1》から退職者について以下の修正があった。
① X5年3月期において、将来の累計失効見込みを9名に修正した。
② X5年6月30日までに実際に退職したのは、8名であった。
〈X5年3月期〉
(※1) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月
付与日から当期末までの期間:57ヶ月
5,000円×10個×(100名-9名)×57/60=4,322,500円(X5年3月期の新株予約権残高)
4,322,500円-前期末までの計上額3,375,000円=947,500円
〈X6年3月期〉
(※2) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月
付与日から権利確定日までの期間:60ヶ月
5,000円×10個×(100名-8名)×60/60=4,600,000円(X6年3月期の新株予約権残高)
4,600,000円-前期末までの計上額4,322,500円=277,500円