【STEP3】貸倒懸念債権
【STEP3】では、貸倒懸念債権の貸倒引当金について検討する。
貸倒懸念債権については、債権の状況に応じて、「財務内容評価法」又は「キャッシュ・フロー見積法」により貸倒引当金を算定する。
(1) 算定方法の選択
(2) 財務内容評価法
① 債務者の支払能力の総合的判断
② 担保・保証の評価
③ 財務内容評価法による貸倒引当金の算定
(3) キャッシュ・フロー見積法
① 将来キャッシュ・フローの見積り
② 割引率の算定
③ キャッシュ・フロー見積法による貸倒引当金の算定
財務内容評価法とは、担保又は保証が付されている債権について、債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法をいう(実務指針113(1))。
一方、キャッシュ・フロー見積法とは、債権の元本の回収及び利息の受取に係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権について、債権の発生又は取得当初における将来キャッシュ・フローと債権の帳簿価額との差額が一定率となるような割引率を算出し、債権の元本及び利息について、元本の回収及び利息の受取が見込まれるときから当期末までの期間にわたり、債権の発生又は取得当初の割引率で割り引いた現在価値の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法をいう(実務指針113(2))。
(1) 算定方法の選択
将来キャッシュ・フローを合理的に見積もることが可能であり、かつ、実際の回収が担保処分によるのではなく、債務者の収益を回収原資とする方針である場合は、財務内容評価法よりもキャッシュ・フロー見積法によることが望ましい(実務指針299)。したがって、このような場合には、キャッシュ・フロー見積法を選択することになる。
将来キャッシュ・フローを合理的に見積もることができない場合、又は将来キャッシュ・フローを合理的に見積もることができるが、実際の回収原資が債務者の収益ではなく担保処分によるものである場合には、財務内容評価法を選択することになる。
(2) 財務内容評価法
① 債務者の支払能力の総合的判断
財務内容評価法を採用する場合には、まず、債務者の支払能力を総合的に判断する必要がある。具体的には、債務者の経営状態、債務超過の程度、延滞の期間、事業活動の状況、銀行等金融機関及び親会社の支援状況、再建計画の実現可能性、今後の収益及び資金繰りの見通し等、定量的・定性的要因を考慮し判断する(実務指針114)。
一般事業会社においては、債務者の支払能力を判断する資料を入手することが困難な場合もあり、例えば、以下のような簡便的な方法を採用することも考えられる。
- 貸倒懸念債権と初めて認定した期では、担保の処分見込額及び保証による回収見込額を控除した残額の50%を引き当て、次年度以降において、毎期見直す。
ただし、個別に重要性の高い貸倒懸念債権については、可能な限り資料を入手し、評価時点における回収可能額の最善の見積りを行うことが必要である(実務指針114)。
② 担保・保証の評価
次に担保又は保証がある場合、その担保又は保証の評価を行う。
担保の処分見込額を求める場合、合理的に算定した担保の時価に基づくとともに、担保の信用度、流通性及び時価の変動の可能性を考慮する必要がある。なお、簡便法として、担保の種類ごとに信用度、流通性及び時価の変動の可能性を考慮した一定割合の掛目を適用する方法が認められる(実務指針114)。一定割合の掛目としては、実務上、以下の金融検査マニュアルにおける掛目の例示が参考となる。また、定期的に担保の評価について見直しを行う必要がある。
保証による回収見込額を求める場合、保証人の資産状況等から保証人が保証能力を有しているか否かを判断する。また、個人にあっては保証意思の確認、法人にあっては保証契約など保証履行の確実性について検討する必要がある。さらに、定期的に保証人の資産状況等について見直しを行う必要がある(実務指針114)。
なお、清算配当等により回収が可能と認められる金額(債務者の資産内容、他の債権者に対する担保の差入れ状況を正確に把握して当該債務者の清算貸借対照表を作成し、それに基づく清算配当等の合理的な見積りが可能である場合における、当該清算配当見積額)については、担保の処分見込額及び保証による回収見込額と同様に債権額から減額することができる(実務指針114)。
③ 財務内容評価法による貸倒引当金の算定
財務内容評価法では、貸倒引当金を以下のように算定する。
(※) 買掛金、支払手形等と相殺した後の実質的な債権の金額。
会計処理については、【STEP2】(2)を参照。また、一般事業会社の債務者の支払能力を判断する資料を入手することが困難な場合における簡便的な貸倒引当金の方法については、【STEP3】(2)①を参照。
(3) キャッシュ・フロー見積法
① 将来キャッシュ・フローの見積り
キャッシュ・フロー見積法を採用する場合、まず、将来キャッシュ・フロー(元本の返済+利息の支払)を見積もる(実務指針115)。将来キャッシュ・フローの見積りの際には、債務者の貸借対照表、損益計算書、事業計画、資金繰り表等の情報を加味して、合理的に見積もる必要がある。
また、以下の2点に留意する必要がある。
(ⅰ) 債権の元利回収に係る契約上の将来キャッシュ・フローが予定どおり入金されないおそれがあるときは、支払条件の緩和が行われていれば、それに基づく将来キャッシュ・フローを用い、それが行われていなければ、回収可能性の判断に基づき入金可能な時期と金額を反映した将来キャッシュ・フローの見積りを行う(実務指針115)。
(ⅱ) 将来キャッシュ・フローの見積りは、少なくとも各期末に更新し、貸倒見積高を洗い替える(実務指針115)。
② 割引率の算定
割引率には、債権発生時の約定利子率(又は取得した債権の場合、取得時の実効利子率)を用いる(実務指針115)。
ここで使用する割引率は、債権発生時のものである。キャッシュ・フロー見積法が、債権を時価で評価し直すために行われるのではなく、あくまでも債権の取得価額のうち当初の見積キャッシュ・フローからの減損額を算定することを目的として行われるため、将来キャッシュ・フロー見積り時点の改定約定利子率又は市場利子率は使用しない(実務指針299)。
③ キャッシュ・フロー見積法による貸倒引当金の算定
①で算定した将来キャッシュ・フローを②で算定した割引率で割引計算する。その割引後将来キャッシュ・フローと債権残高の差額が貸倒引当金となる。
将来キャッシュ・フローの見積りは、少なくとも各期末に更新し、貸倒見積高を洗い替える(実務指針115)。ここで、キャッシュ・フロー見積法は割引計算を行うため、時の経過により割引期間が短くなると、割引後将来キャッシュ・フローが大きくなる。そのため、貸倒引当金が減少する。
その減少分は、金利要素であるため、原則として、受取利息に含めて処理する。ただし、受取利息に含めないで貸倒引当金戻入益として営業費用又は営業外費用から控除するか、営業外収益に計上することもできる(実務指針115)。
【時の経過による貸倒引当金の減少】
《原則》
受取利息
《容認》
貸倒引当金戻入益(営業費用又は営業外費用から控除するか、営業外収益)
《設例2》
(前提条件)
- X1年度末の貸付金残高 10,000である。
- 当初の約定利率は5%であったが、X1年度末に2%に変更した。
- 元本の返済はX4年度末に一括で行われる。
- 利息の支払いは、X2年度末から1年に1度、年度末に行われる。
【X1年度末】
《割引後将来キャッシュ・フロー》
《貸倒引当金》
【X2年度末】
《割引後将来キャッシュ・フロー》
《貸倒引当金》
《設例2》の会計処理は以下のとおりである。
【X1年度末 貸倒引当金の会計処理】
【X2年度 利息の受取の会計処理】
【X2年度末 貸倒引当金の会計処理】