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【STEP3】ヘッジ会計の要件
ヘッジ取引の場合も、【STEP2】と同様に時価評価を行うのが原則であるが、ヘッジ取引(ヘッジ手段となるデリバティブ)について時価評価を行った場合、以下のような問題が生じるため、ヘッジ会計が認められている。
〈公正価値ヘッジの場合〉
例えば、相場変動リスクのある外貨建貸付金(ヘッジ対象)の為替差損益の認識時期と、相場変動リスクを相殺させるためのデリバティブ取引(ヘッジ手段)の時価評価時の損益の認識時期が一致していれば、特別な会計処理は必要ない。しかし、ヘッジ対象は取得原価で評価し、ヘッジ手段を時価評価した場合、両者の損益の認識時期が異なる。そのため、この損益の認識時期を一致させるためにヘッジ会計が認められている。
〈キャッシュ・フロー・ヘッジの場合〉
例えば、変動金利の借入金(ヘッジ対象)の支払金利を固定化するために金利スワップ取引(ヘッジ手段)を行った場合、借入金は取得原価で評価し、金利スワップは時価評価をすると、ヘッジ手段のみ当期の損益として計上される。そのため、金利スワップの時価評価を当期の損益として計上しないために、ヘッジ会計が認められている。
【STEP3】では、ヘッジ会計の要件について検討する。
ヘッジ会計は、無条件に採用することはできない。「ヘッジ取引時」及び「ヘッジ取引時以降」の要件を充たす必要がある。
それぞれの要件を充たす場合、【STEP4】を検討する。要件を充たさない場合、【STEP2】を検討する。
(1) ヘッジ取引時(事前テスト)
ヘッジ取引時の要件として、以下の①から④の要件を充たす必要がある。
① リスク管理方針の文書化(実務指針147)
リスク管理方針として、少なくとも、管理の対象とするリスクの種類と内容、ヘッジ方針、ヘッジ手段の有効性の検証方法等のリスク管理の基本的な枠組みを文書化し、企業の環境変化等に対応して見直しを行う必要がある。
ヘッジ方針及びヘッジ手段の有効性の検証方法については、以下の事項を記載する必要がある。
ヘッジ方針
リスク・カテゴリー別のヘッジ比率、ヘッジ対象の識別方法、リスク・カテゴリー別のヘッジ手段の選択肢などを記載することが必要である。
ヘッジ手段の有効性の検証方法
ヘッジ対象とするリスク・カテゴリーとの価格変動の相関関係の測定方法のほか、当該ヘッジ手段に十分な流動性が期待できるか否かの検討も含めることが望ましい。また、ヘッジの有効性テストの結果は、同一ヘッジ取引につきその後のヘッジに係る事前テストに反映しなければならない。
なお、リスク管理方針は、経営者が企業活動においてさらされているリスクの種類と内容を識別し、これらを許容し得るレベルに管理するために策定したものであるため、取締役会等の意思決定機関において、原則として毎期、承認を受け文書化しなければならない(実務指針315)。
② ヘッジ関係の文書化(実務指針143)
ヘッジ対象のリスクを明確にし、これらのリスクに対していかなるヘッジ手段を用いるかを明確にする必要がある。
ヘッジ対象とヘッジ手段の対応関係として、具体的には、例えば、外貨建取引(金銭債権債務、有価証券、予定取引等)の為替変動リスクに対して為替予約取引、通貨オプション取引、通貨スワップ取引等を、株式の株価変動リスクに対して株式オプション等を、固定金利又は変動金利の借入金・貸付金、利付債券等の金利変動リスク(相場変動リスク又はキャッシュ・フロー変動リスク)に対して金利スワップ、金利オプション(キャップ及びフロアーを含む)等をヘッジ手段として用いることが考えられるので、これらの関係を正式な文書によって明確にしなければならない。
なお、他に適当なヘッジ手段がない場合には、ヘッジ対象と異なる類型のデリバティブ取引をヘッジ手段として用いることもできる。また、ヘッジ手段に関しては、その有効性について事前に予測しておく必要がある。
③ ヘッジ有効性の評価方法の明確化(実務指針143)
ヘッジ有効性の評価方法が適切であるかどうかは、リスクの内容、ヘッジ対象及びヘッジ手段の性質に依存する。企業は、ヘッジ開始時点で相場変動又はキャッシュ・フロー変動の相殺の有効性を評価する方法を明確にしなければならない。企業は、ヘッジ期間を通して一貫して当初決めた有効性の評価方法を用いてそのヘッジ関係が高い有効性をもって相殺が行われていることを確認しなければならない。 具体的には、下記(2)の「有効性の判定基準」参照。
個別ヘッジの場合はヘッジ対象とヘッジ手段が単純に一対一の関係にあるので、ヘッジ対象とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動を直接結び付けてヘッジ有効性を判定する。これに対し、ヘッジ対象が複数であり、相場変動又はキャッシュ・フロー変動をヘッジ手段と個別に関連付けることが困難な場合、実務指針152項の要件(当該、要件については詳細に解説していない)を満たすものに限り、ヘッジ手段をヘッジ対象と包括的に対応させる方法(包括ヘッジ)も採用できる。企業は個別ヘッジによるか包括ヘッジによるかを事前に明示しなければならない。
また、通常、同種のヘッジ関係には同様の有効性の評価方法を適用すべきであり、同種のヘッジ関係に異なる有効性の評価方法を用いるべきではない。
④ リスク管理方針への準拠性(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準(以下、「基準」という)」31)
ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、以下のいずれかによって客観的に認められる。
- 当該取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、文書により確認できること。
- 企業のリスク管理方針に関して明確な内部規定及び内部統制組織が存在し、当該取引がこれに従って処理されることが期待されること。
(2) ヘッジ取引時以降(事後テスト)
企業は、指定したヘッジ関係について、ヘッジ取引時以降も継続してヘッジ指定期間中、高い有効性が保たれていることを確かめなければならない(実務指針146)。
【有効性の評価の頻度】
- 決算日には必ずヘッジ有効性の評価を行い、少なくとも6ヶ月に1回程度、有効性の評価を行わなければならない(実務指針146)。
【有効性評価の方法】
- ヘッジ有効性の評価は、文書化されたリスク管理方針・管理方法と整合性が保たれていなければならない(実務指針146)。
- 有効性評価の方法は、ヘッジ期間を通じて一貫して適用しなければならないが、企業が当初決めた有効性の評価方法を変更した場合には、ヘッジ関係の指定の見直しを行い、新たにヘッジ会計の要件を満たすと判定されたヘッジ関係についてはその時点からヘッジ会計の適用を開始し、ヘッジ会計の要件を満たさなくなったものについては、実務指針180項(ヘッジ会計の要件を満たさなくなった場合の会計処理(【STEP5】参照))に従って処理しなければならない(実務指針155)。
- 通常、同種のヘッジ関係には同様の有効性の評価方法を適用すべきであり、同種のヘッジ関係に異なる有効性の評価方法を用いるべきではない(実務指針143)。
【有効性の判定基準】
- 原則としてヘッジ開始時から有効性判定時点までの期間において、ヘッジ対象の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とを比較し、両者の変動額等を基礎にして判断する。両者の変動額の比率がおおむね80%から125%までの範囲内にあれば、ヘッジ対象とヘッジ手段との間に高い相関関係があると認められる(実務指針156)。
- オプション取引については、ヘッジ方針に従い、オプション価格の変動額とヘッジ対象の時価変動額を比較するか又はオプションの基礎商品の時価変動額とヘッジ対象の時価変動額を比較して判定を行う(実務指針156)。
- 事前テストの結果がヘッジ手段の高い有効性を示している限り、たとえ事後テストにより算出した変動額の比率が高い相関関係を示していなくても、その原因が、変動幅が小さいことによる一時的なものと認められるときは、ヘッジ会計の適用を継続することができる(実務指針156)。