【STEP4】減損損失の測定
減損損失の測定(減損損失額の算定)の際には、固定資産の帳簿価額をどこまで減額するかを決めるため、その減額の基準となる回収可能価額を決定する必要がある。ここで、回収可能価額とは、使用価値と現在時点の正味売却価額の高い方の金額をいう。また、使用価値は割引「後」将来キャッシュ・フローのため、割引率の算定が必要となる。
したがって、減損損失の測定の際には、以下の4つの検討が必要である。
(1) 使用価値の算定
① 割引率の算定
② 使用価値の算定
(2) 現在時点の正味売却価額の算定
(3) 回収可能価額の決定
(4) 減損損失の測定
(1) 使用価値の算定
① 割引率の算定
使用価値は、将来キャッシュ・フローを割引計算することにより求められる。そのため、まず割引率の算定を行う。
割引率の算定方法は複数あるが、実務上は「加重平均資本コスト」を用いることが多い。
加重平均資本コストは、以下のように算定される。
他人資本コストは、長期の借入の追加借入率や長期社債の利回り(社債を発行していない場合、同等の格付の他の企業が発行している長期社債の利回り)を用いることが考えられる。
自己資本コストは、CAPMというモデルを用いて算定することが一般的である。
算定式は以下のとおりである。
リスクフリー・レートとは、貨幣の時間価値のみを反映した収益率であり、長期国債の利回りを用いる。将来キャッシュ・フローが得られるまでの期間に対応した長期国債の利回りを用いる(適用指針46)。長期国債の利回りは、財務省のホームページ等から入手可能である。
β値とは、株式市場の全体の株価の変動に対する自社の株価の変動がどの程度であるかという数値である。東京証券取引所、日本経済新聞社、ロイター、ブルームバーグ等から有料で入手することが可能である。また、過去の株価データをもとに自社でエクセルを用いて算定することも考えられる。
非上場会社の場合、株価がないためβ値を入手できないが、事業内容や収益状況等が類似した会社のβ値を参考にして、算定することも考えられる。
株式市場のリスク・プレミアムは、Ibbotson社等から有料で入手することが可能である。また、以下のように簡便的に株式市場の期待収益率を算出し、そこからリスクフリー・レートを控除して自社で算出することも考えられる。
② 使用価値の算定
次に使用価値を算定する。使用価値とは、割引「後」将来キャッシュ・フローをいう。
まず、将来キャッシュ・フローを見積もる必要がある。使用価値算定の際の将来キャッシュ・フローは、以下の合計で求める(適用指針31)。
(ⅰ) 資産の使用によって各年に得られるキャッシュ・フロー
- 見積り期間は経済的残存使用年数満了時まである。減損損失の認識の時のように20年という上限はない。
- ただし、主要な資産が土地の場合、経済的残存使用年数は無限のため、キャッシュ・フローが少しでもプラスであれば、「回収可能価額 > 帳簿価額」となり、減損損失がゼロとなってしまうため、合理的な範囲内で見積り期間の上限を設けることが適当である。
(ⅱ) 資産使用後の「将来」時点の正味売却価額
上記(ⅰ)及び(ⅱ)から求めた将来キャッシュ・フローを①の割引率で割引計算した金額が使用価値である。
なお、ここでの将来キャッシュ・フロー見積りの際にも、【STEP3】(2)(ⅰ)(ⅱ)について留意する必要がある。
(2) 現在時点の正味売却価額の算定
現在時点の正味売却価額は以下のとおり算定する。
現在時点の時価は以下のように算定する(適用指針28)。
【不動産】
●原 則
不動産鑑定評価基準に基づいて算定
●容 認
重要性が乏しい土地については、【STEP2】(4)に記載した表を用いて評価することも可能である。
【不動産以外】
●原 則
資産の特性等により以下の方法から選択する。
① コスト・アプローチ(同等の資産を取得するのに要するコストで評価する方法)
② マーケット・アプローチ(同等の資産が市場で実際に取引されている価格で評価する方法、中古市場がある場合に有用)
③ インカム・アプローチ(同等の資産を利用した場合の将来期待収益により評価する方法)
●容 認
重要性が乏しい資産については、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標を、合理的に算定された価額とみなすことができる。
なお、下記(3)では、使用価値と現在時点の正味売却価額の高い方の金額を回収可能価額する(詳細は、下記(3)参照)が、固定資産を保有している以上、通常は使用価値の方が現在時点の正味売却価額よりも高いと考えられる。
そのため、①明らかに現在時点の正味売却価額が使用価値よりも高いと想定される場合や、②処分がすぐに予定されている場合などを除き、必ずしも現在時点の正味売却価額を算定する必要はない(適用指針28)。したがって、①や②のような場合でなければ、現在時点の正味売却価額の算定は不要となる。
〈補足〉
【STEP3】や【STEP4】(2)で将来キャッシュ・フローを見積もる際に、将来の資産売却等によるキャッシュ・フローを見積もることがある。この際に正味売却価格を算定する場合がある。この正味売却価額は「将来時点」の正味売却価額である(適用指針113、114、115)。なお、本解説では詳細は言及しない。
(3) 回収可能価額の決定
回収可能価額とは、使用価値と現在時点の正味売却価額の高い方の金額である(適用指針28)。
現在時点の正味売却価額を上回るキャッシュ・フローを獲得できるなら、通常、企業は固定資産を利用し続けるため、使用価値が回収可能価額となる。
他方、現在時点の正味売却価額を下回るキャッシュ・フローしか獲得できないなら、通常、企業は固定資産を利用しないで売却するため、現在時点の正味売却価額が回収可能価額となる。
●使用価値 > 現在時点の正味売却価額
⇒ 回収可能価額 = 使用価値
●使用価値 < 現在時点の正味売却価額
⇒ 回収可能価額 = 現在時点の正味売却価額
(4) 減損損失の測定
最後に減損損失を測定する。減損損失は(資産グループの)固定資産の帳簿価額合計から回収可能価額を控除した金額となる。
算定した減損損失は各固定資産の帳簿価額による比例配分等、合理的であると認められる方法により、各固定資産に配分する(適用指針26)。
会計処理の例は以下のとおりである。
【会計処理(税効果は除く)】
なお、減損損失を計上した後に、時価が回復したり、将来キャッシュ・フローが減損損失を計上した時よりも獲得できたとしても、減損損失の戻入れ処理を行うことはできない(意見書四3(2))。
また、重要な減損損失を計上した場合、損益計算書(特別損失)に係る注記として、以下の注記をする(適用指針58)。なお、計算書類では当該注記は必ずしも求められていない。
① 資産又は資産グループの用途、種類、場所などの概要
② 減損損失の認識に至った経緯
③ 減損損失の金額、主な固定資産の種類ごとの減損損失の内訳
④ 資産グループについて減損損失を認識した場合、資産グループの概要とグルーピングの方法
⑤ 回収可能価額が(現在時点の)正味売却価額の場合、その旨及び時価の算定方法、使用価値の場合にはその旨及び割引率
* * *
以上、4つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。
※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。
【参考】
金融庁ホームページ
「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書、固定資産の減損に係る会計基準」
※PDFファイル
企業会計基準委員会ホームページ
「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」
※PDFファイル
(了)
「フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 」は、毎月最終週に掲載されます。