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[無料公開中]〈注記事項から見えた〉減損の深層 【第1回】「印刷機メーカーが減損に至った経緯」-深層に横たわる問題-

筆者:石王丸 周夫

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〈注記事項から見えた〉

減損深層

【第1回】

「印刷機メーカーが減損に至った経緯」

-深層に横たわる問題-

 

公認会計士 石王丸 周夫

 

-連載開始にあたって-

「減損が実施されたとき」は、「会社にとって“一大事”が起きているとき」です。

一般に「減損の注記」は、さらっと書いてあるものが多いのですが、よく読むと、会社が直面している深刻な問題が浮かび上がってくるものもあります。

この連載では、開示された実際の減損の注記を読みながら、深層に横たわる問題を明らかにしていきます。

決算書の読み手のための解説です。

 

〈今回の注記事例〉

コロナ禍の真っ只中で迎えた2020年3月期決算。
日本のある印刷機械メーカーは、中核工場の資産の減損処理を実施しました。

「減損」とは、資産の簿価を切り下げる会計処理です。
しかし、対象となったこの資産は、壊れたわけでもなければ、使用休止となったわけでもありません。これまでどおり稼働しています。

では一体何があったのか、減損の注記から読み解いていきましょう。

事例の会社名:小森コーポレーション

減損された事業の内容:印刷機械の製造販売

事例の年度:2020年3月期

(2) 減損損失の認識に至った経緯

当社グループの中核工場であるつくば工場は、大型のオフセット枚葉印刷機、オフセット輪転印刷機、証券印刷機を生産しており、2008年3月期に最高の売上高を記録しましたが、同年9月のリーマンショックを機に売上高が大きく減少しました。その後、中国・アセアン・インドを中心とした新興国において需要が回復し、漸次増加へと転じたことから全体でも売上が復調してまいりました。しかしながら、欧米及び日本等の先進国市場では書籍や商業印刷物の電子化が進んだため需要が想定通りに伸長せず、加えて、新型コロナウイルス感染拡大による影響が世界レベルで、かつ長期化することが予想されるため、収益性の低下が見込まれると判断しました。これにより、事業用資産について将来の回収可能性を慎重に検討した結果、減損損失を計上することになりました。

(出所:有価証券報告書

(※) 下線は筆者

 

〈減損の意味をおさらい〉

印刷機械メーカーであるこの会社の事例では、減損の原因として以下の2つが述べられています。

 書籍や商業印刷物の電子化進展による印刷需要の低迷

 新型コロナウイルスの影響による世界経済の停滞

この2つの理由からまずわかることは、減損の対象となった事業用資産は壊れたわけでもなければ、使用を休止したわけでもない、ということです。

減損の理由は、資産それ自体の問題ではなく、経営環境の悪化だと言っています。

そしての関係についても読み取ることができます。媒体の電子化により印刷需要が伸び悩み()、そこに新型コロナウイルスが追い打ちをかけた()ということが分かりますね。

では、このように経営環境が悪化したとき、なぜ資産の簿価を切り下げなければならないのでしょうか。

・・・というと、実はそれも注記に記載されています。

「収益性の低下」です。

これは減損会計の最重要キーワードです。
つまり、「資産が十分にお金を稼げない」ということです。

会社というのは、資金を調達して、その資金で事業用資産を購入し、それによって稼ぐ、そういう仕組みの組織です。そして、この仕組みでいくら稼げばよいかというと、購入した資産が壊れて使用不能になるまでに、その購入代相当を稼いでおけば、代わりの資産を購入できます。

減損とは、それが見込めないと予想されたときに、回収が見込める額まで、資産の簿価を切り下げる会計処理です。

 

〈減損会計誕生の背景に何が?〉

減損会計というのは、日本では今から20年ほど前に制度化された会計基準です(2002年公表)。米国ではそれより7年前に導入されており、議論自体は1980年代から行われていました。会計の歴史から見ると、比較的新しい会計基準といえます。

ではなぜ、この30年ほどの間に、減損会計が必要になってきたのでしょうか。
実は、その答えも今回の注記事例の中に書いてあります。

それは「電子化が進んだため」です。

注記では、書籍や商業印刷物の電子化が進んだことが減損の理由になったと書いてありました。印刷機械メーカーなので、それは理解できます。しかし、それが減損会計制度化の理由だったというのは、なかなか納得していただけないと思います。

では順に説明していきましょう。

電子化進展というのは「ペーパーレス化」のことです。ペーパーレスにはメリットもデメリットもありますが、それとは別次元の話として、紙を使わないことが「カッコイイ」というイメージがあります。地球環境に優しいからです。その感覚がモノへの関心の低下を招き、モノを必要以上に消費しないことを重視するような世の中になってきました。

この流れを技術的に支えているのが「コンピュータとインターネットの急速な発展」ですが、これが情報の大量化・多様化をもたらします。無形の情報は地球環境に負荷を与えないイメージが強いので、私たちは、大量かつ多様な情報を使い捨てるかのごとく消費します。

こうした消費形態の変化は、書籍や商業印刷物の世界だけに留まらず、いたるところで観察することができます。たとえば、旅行の目的が買い物から「コト消費」になってきたという現象も、その表れです。会社の評価においては、製品の客観的な出来栄えではなく「顧客満足度」が重視されるようになってきていますが、これも同じ流れで理解できます。

顧客が何に満足するのかということは、非常に難しい話です。人によって何に満足するかは違いますし、同じ人であっても、去年と今年とでは好みが違ってくることがあるからです。

要するに、消費者ニーズが多様化、複雑化したというわけです。

これらの結果、何が起こったかというと、製品ライフサイクルの短縮化が起こりました。製品ライフサイクルというのは、製品を市場に投入してから衰退するまでの期間のことです。

このことは『2007年版ものづくり白書』にも書いてありますが、それによると、製品ライフサイクル短縮化の経営への影響としては、「価格低下のスピードが速くなった」ことが指摘されています。

製品の価格低下のスピードが速くなると、その製品を生産する設備の価値も、想定より速く低下すると考えられます。価格が下がってしまっては、設備投資額を売上で回収できないからです(設備の収益性の低下)。

世の中の変化に伴って、こうした状況が多くの企業で発生するようになってきたことが、減損会計を誕生させたといえます。

おわかりいただけたでしょうか。これが減損会計制度化の背景です。

 

〈減損注記から「社会の変化」を読む〉

話が壮大になりましたが、減損の注記というのは、表面的なことだけを読んで済ますのでなく、少し深読みしてみると面白いというわけです。

ご参考までにもう1つ、事例を掲載しておきます。

事例の会社名:さくらインターネット

減損された事業の内容:インターネットインフラサービス提供事業

事例の年度:2020年3月期

当社では、機器の運用管理システムの開発を2014年より続けておりましたが、当初想定した物理環境ではなくクラウド中心のニーズが高まったこと、また、当社は今後クラウドビジネスに集中していくという方針から、今後の使用が見込まれない構築途上のプログラム部分等について固定資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として特別損失に計上いたしました。その内訳は、無形固定資産(その他)285,770千円、工具、器具及び備品52千円、リース資産680千円であります。なお、当該資産の回収可能価額は使用価値により測定しており、将来キャッシュ・フローが見込めないため、使用価値はゼロと評価しております。

(出所:有価証券報告書

(※) 下線は筆者

この会社では、構築途上だったプログラムについて、「クラウド化」というニーズの変化により、資産をゼロ評価にしたようです。世の中の変化の速さが実感できる注記だと思います。

以上のとおり、減損の注記を読むときは、企業を取り巻く社会の変化をつかむことが、極めて重要なのです。

次回予告
新型コロナウイルスの影響を最も受けた業界の1つである旅行業界の会社を取り上げます。その会社の減損注記から、成功を収めた組織に見られる「ある問題」について読み解いていきます。

(了)

「〈注記事項から見えた〉減損の深層」は、毎月最終週に掲載されます。

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