谷口教授と学ぶ
税法の基礎理論
【第35回】
「租税法律主義と租税回避との相克と調和」
-不当性要件と経済的合理性基準(1)-
大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫
Ⅰ はじめに
「租税法律主義と租税回避との相克と調和」という主題の下で、第20回から、租税法律主義を基軸にして租税回避に関する種々の論点を検討し、第27回からは租税回避の否認について検討してきたが、その検討の最後に、否認要件としての不当性要件について今回から検討することにする。
第24回では、租税回避の法的評価について、「適法」という法的評価と「不当」という法的評価とに分けて検討したが、それらの法的評価は、租税回避の定義における概念要素の一部を構成するものであり、その意味で理論上の法的評価ともいうべきものであった。ただ、租税立法者は租税回避の否認規定を定めるに当たって、そのような理論上の法的評価としての「不当」の内容(租税回避一般については、税収の確保及び租税負担公平の実現の要請違反、特に税法上の課税減免規定の濫用による租税回避については当該課税減免規定の趣旨・目的違反)を要件化することがある。
そのような実定税法上の否認要件の代表例としては、第25回でみたようにわが国で長い歴史を有する同族会社の行為計算否認規定(法税132条1項等)の不当性要件があり、また、近時の傾向としては、第30回でみた組織再編成に係る行為計算の否認規定(同132条の2)の不当性要件などがある。
今回は、判例及び学説が同族会社の行為計算否認規定の不当性要件の解釈によって形成・展開してきた経済的合理性基準について、今後の検討の前提作業として、その形成・展開の過程を辿っておくことにする。
Ⅱ 判例における経済的合理性基準の形成
1 否認事例の類型化
同族会社の行為計算否認規定は大正12年の所得税法改正によって創設されたが(第25回Ⅱ参照)、その後、課税実務や行政裁判例の積み重ねにより、否認事例が類型化されていった。例えば、鈴木保雄=田口卯一=松井静郎『最新会社税務精説』(賢文館・1938年)382-395頁は「如何なる行為又は計算が否認されるか」との見出しの下、次のとおり述べていた(旧漢字は改めた)。
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