公開日: 2020/12/10 (掲載号:No.398)
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谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第49回】「租税法律主義の基礎理論」-納税者の権利保護の要請-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

税法基礎理論

【第49回】

「租税法律主義の基礎理論」

-納税者の権利保護の要請-

 

大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

今回は、租税法律主義の内容のうち納税者の権利保護の要請を取り上げて検討する。この要請は、金子宏教授が夙に租税法律主義の内容として説いてこられたものであることから、まず、金子教授の見解からみておくことにしよう。

金子教授は納税者の権利保護の要請について次のとおり説いてこられた(同『租税法理論の形成と解明 上巻』(有斐閣・2010年)63頁[初出・1974年]。同『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)1069頁も同旨)。

租税法律主義は、租税の賦課・徴収が法律の根拠に基づき法律に従って行われることを要求するが、事実の認定を誤るとか、法律の解釈を誤るなど、違法な租税の賦課・徴収がなされることは、決して少なくない。たとえ、建前として、租税の賦課・徴収が法律の根拠に基づき法律に従って行われなければならないことになっていても、違法な租税の賦課・徴収が行われた場合に、納税者がそれを争い、自己の権利を守る手段が認められていなくては、租税法律主義は、実際には「画にかいたモチ」にすぎなくなってしまう。したがって、違法な租税の賦課・徴収に対して、納税者が争訟を提起し、自己の権利の保護を求めうることも、租税法律主義の一要素と考えるべきである。いうまでもなく、憲法32条の裁判を受ける権利の保障は、違法な租税の賦課・徴収によって権利を侵害された者が裁判所による権利の保護を求めうることを保障する趣旨を含んでいる。

 

Ⅱ 司法的救済の保障の原理に対する争訟制度上の制約

金子教授は、納税者の権利保護の要請について、さらに、法の支配の見地から、「租税法におけるルール・オブ・ローの実現のためには、納税者の権利保護の制度の確立と、それが効率的に機能することが不可欠である。」と述べ、憲法76条1項及び裁判所法3条1項の規定から「司法的救済の保障の原理」を導き出しておられるが(同・前掲『租税法理論の形成と解明 上巻』124頁[初出・2008年]。太字筆者。なお、法の支配については特に第44回参照)、その原理の意義について不服申立制度との関係で次のとおり述べておられる(同125-126頁[初出・2008年]。同・前掲『租税法』1072頁も同旨)。

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税法基礎理論

【第49回】

「租税法律主義の基礎理論」

-納税者の権利保護の要請-

 

大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

今回は、租税法律主義の内容のうち納税者の権利保護の要請を取り上げて検討する。この要請は、金子宏教授が夙に租税法律主義の内容として説いてこられたものであることから、まず、金子教授の見解からみておくことにしよう。

金子教授は納税者の権利保護の要請について次のとおり説いてこられた(同『租税法理論の形成と解明 上巻』(有斐閣・2010年)63頁[初出・1974年]。同『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)1069頁も同旨)。

租税法律主義は、租税の賦課・徴収が法律の根拠に基づき法律に従って行われることを要求するが、事実の認定を誤るとか、法律の解釈を誤るなど、違法な租税の賦課・徴収がなされることは、決して少なくない。たとえ、建前として、租税の賦課・徴収が法律の根拠に基づき法律に従って行われなければならないことになっていても、違法な租税の賦課・徴収が行われた場合に、納税者がそれを争い、自己の権利を守る手段が認められていなくては、租税法律主義は、実際には「画にかいたモチ」にすぎなくなってしまう。したがって、違法な租税の賦課・徴収に対して、納税者が争訟を提起し、自己の権利の保護を求めうることも、租税法律主義の一要素と考えるべきである。いうまでもなく、憲法32条の裁判を受ける権利の保障は、違法な租税の賦課・徴収によって権利を侵害された者が裁判所による権利の保護を求めうることを保障する趣旨を含んでいる。

 

Ⅱ 司法的救済の保障の原理に対する争訟制度上の制約

金子教授は、納税者の権利保護の要請について、さらに、法の支配の見地から、「租税法におけるルール・オブ・ローの実現のためには、納税者の権利保護の制度の確立と、それが効率的に機能することが不可欠である。」と述べ、憲法76条1項及び裁判所法3条1項の規定から「司法的救済の保障の原理」を導き出しておられるが(同・前掲『租税法理論の形成と解明 上巻』124頁[初出・2008年]。太字筆者。なお、法の支配については特に第44回参照)、その原理の意義について不服申立制度との関係で次のとおり述べておられる(同125-126頁[初出・2008年]。同・前掲『租税法』1072頁も同旨)。

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連載目次

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同「日税研究賞」選考委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)、『基礎から学べる租税法〔第3版〕』(共著・弘文堂・2022年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社、2023年)など。
 
  

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