(2) 回収可能性の検討
① 一時差異等の解消のスケジューリング
会社区分の決定の後は、一時差異等の解消のスケジューリングを行う。
一時差異等の解消のスケジューリングとは、一時差異等の解消時期が「いつになるか」を検討することをいう(66号3①②)。
解消時期がわかるものをスケジューリング可能な一時差異等といい、解消時期がわからないものをスケジューリング不能な一時差異等という。
スケジューリング不能な将来減算一時差異は、いつ解消するかが不明であるため、当該一時差異に係る繰延税金資産については回収可能性の判定ができない。そのため、貸借対照表に計上できない(会社区分「1」の場合は除く)。
したがって、スケジューリング不能な将来減算一時差異については、②以降の検討は不要である。
具体的には、スケジューリングは以下のように判断する。
◆一時差異◆
【将来減算一時差異】
- 未払事業税
- 未払事業所税
翌年度に納付することで税務上、減算できるため、納付年度である翌年度の解消としてスケジューリングする。
- 貸倒引当金繰入限度超過額
法人税法上の損金算入要件を満たした場合、税務上、減算できるが、相手先ごとに損金算入要件時期を見積もることは困難な場合が多いと考えられる。
ただし、将来発生が見込まれる損失を合理的に見積もった貸倒引当金の計上であるが、その損失の発生時期を個別に特定し、スケジューリングすることが実務上困難な場合、過去の損金算入実績に将来の合理的な予測を加味した方法等により、合理的なスケジューリングが行われている場合には、「スケジューリング不能な一時差異」とは取り扱わない(66号4)。
- 棚卸資産評価損否認額
売却・廃棄等により税務上、減算できるため、売却・廃棄等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
過去の損金算入実績に将来の合理的な予測を加味した方法等により、スケジューリングすることも考えられる。
- 有価証券評価損否認額
- 子会社株式評価損否認額
売却等により税務上、減算できるため、売却等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
売却等の合理的な計画がない場合は、スケジューリング不能とする。
- 減価償却超過額
減価償却費の計上、売却等により税務上減算できるため、将来の減価償却費の計上時期や売却等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
【建物の場合、解消時期が長期にわたる将来減算一時差異に該当する。】
- 固定資産の減損損失
減価償却費の計上(償却資産の場合)、売却等により税務上減算できるため、将来の減価償却費の計上時期や売却等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
非償却資産の場合、売却等の合理的な計画がない場合は、スケジューリング不能とする。
- 繰延資産償却超過額
減価償却費の計上等により税務上減算できるため、将来の減価償却費の計上等の時期をもとにスケジューリングする。
- 賞与引当金
翌年度に賞与を支給することで税務上減算できるため、支給年度である翌年度の解消としてスケジューリングする。
- 退職給付引当金
退職一時金又は退職年金の支給、退職給付制度の移行又は終了等により税務上、減算できる。そのため、過去の損金算入実績等をもとに将来の合理的な予測をし、スケジューリングする。
【解消時期が長期にわたる将来減算一時差異に該当する。】
- 役員退職慰労引当金
役員退職慰労金を支給することで税務上、減算できる。そのため、過去の役員の在任期間の実績や内規等に基づいて役員の退任時期を合理的に見込み、その退任時期(支給年度)の解消としてスケジューリングする(Q&A Q1)。
退任時期を合理的に見込めない場合は、スケジューリング不能とする。
- 上記以外の引当金
税務上、減算できる時期を合理的に見込みスケジューリングする。
- 資産除去債務
固定資産の除去時に税務上、減算できる。そのため、除去時を合理的に見込み、その除去時の解消としてスケジューリングする。
- 税制非適格ストック・オプション
権利行使時に課税所得計算上、減算できる。そのため、権利行使時を合理的に見込み、その権利行使日の解消としてスケジューリングする。
- その他有価証券評価差額金(借方)
売却等により税務上、減算できるため、売却等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
売却等の合理的な計画がない場合は、スケジューリング不能とする。
- グループ法人税制における完全支配関係にある国内会社間取引
譲渡先の資産の売却(譲渡損の繰延べの場合)や子会社株式の売却(寄附金による子会社株式の簿価修正の場合)等により税務上、減算できるため、売却等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
売却等の合理的な計画を譲渡先から入手できない場合や、そもそもないなどの場合はスケジューリング不能とする。
【将来加算一時差異】
- 積立金方式の特別償却
原則、7年の均等額で税務上、加算(益金算入)する。その益金算入時期によりスケジューリングする。
- 積立金方式の圧縮記帳
固定資産の除売却、減価償却費の計上等により、税務上、加算されるため、除売却の合理的な計画、減価償却費の計上時期等をもとにスケジューリングする。
非償却資産で固定資産の除売却時期等を合理的に見込めない場合、スケジューリング不能とする。
- 資産除去債務に対応する除去費用として有形固定資産の帳簿価額に加えた金額
減価償却費の計上により、税務上、加算されるため、減価償却費の計上時期をもとにスケジューリングする。
- その他有価証券評価差額金(貸方)
売却等により税務上、加算されるため、売却等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
売却等の合理的な計画がない場合は、スケジューリング不能とする。
- グループ法人税制における完全支配関係にある国内会社間取引
譲渡先の資産の売却(譲渡益の繰延べの場合)や子会社株式の売却(寄附金による子会社株式の簿価修正の場合)等により税務上、加算するため、売却の合理的な計画等をもとにスケジューリングする。
売却等の合理的な計画を譲渡先から入手できない場合や、そもそもないなどの場合は、スケジューリング不能とする。
◆一時差異に準ずるもの◆
- 繰越欠損金
課税所得(将来減算一時差異及び将来加算一時差異の解消考慮後)をもとに繰越欠損金の解消時期をスケジューリングする。
- 繰越外国税額控除
他の一時差異等とは異なり、翌期以降に外国税額控除余裕額が生じるかどうかを検討する。翌期以降に外国税額控除余裕額が確実に見込まれる場合のみ、繰延税金資産を計上できる(実務指針25)。
なお、スケジューリング不能な将来加算一時差異(例えば、スケジューリング不能なその他有価証券評価差額金(純額)に係る繰延税金負債)は以下の②、③で行う将来減算一時差異の解消見込年度と対応させることができないため、②、③において将来減算一時差異、一時差異に準ずるものと相殺しない(66号4)。
② 将来減算一時差異(一時差異に準ずるものを含む。以下、同様)と将来加算一時差異の解消年度ごとの相殺
上記①のスケジューリングをもとに、解消年度ごとに将来減算一時差異、将来加算一時差異を相殺する(66号3③)。
将来減算一時差異と将来加算一時差異は将来の課税所得(税金)に対して反対方向の影響であるため、将来加算一時差異と相殺できた将来減算一時差異は、将来の課税所得(税金)を減少させる効果がある。そのため、相殺できた将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性ありと判断する。
③ 将来減算一時差異とその繰越期間内の将来加算一時差異との相殺
上記②で相殺できなかった将来減算一時差異は、税務上認められている繰越欠損金の繰越期間内の(上記②相殺後の残額の)将来加算一時差異と相殺する(66号3④)。相殺できた将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性ありと判断する。
これは、相殺できなかった将来減算一時差異は課税所得の水準次第(上記②では課税所得は考慮していない)では、将来の欠損金になる可能性もある。そのため、相殺できなかった将来減算一時差異を欠損金と考えて、税務上認められている繰越欠損金の繰越期間内の(上記②相殺後の残額の)将来加算一時差異と相殺する。
④ 将来の課税所得の見積額の算定
上記③でも相殺できなかった将来減算一時差異は、下記⑤で将来の課税所得の見積額と解消年度ごとに相殺する。そのため、ここでは合理的な課税所得を見積もる。ここでいう課税所得とは、一時差異解消前の課税所得(交際費の損金算入限度超過額、受取配当金の益金不算入額等の永久差異や一時差異の発生は考慮する)である。
見積もる際には、収益力による課税所得及びタックス・プランニング(固定資産又は有価証券の売却等)による課税所得を考慮して検討する。
収益力に基づく課税所得は、原則として、取締役会や常務会等の承認を得た事業計画や予算等に合理的な修正を考慮して算定する必要がある(66号5(3))。
また、タックス・プランニングによる課税所得は、区分ごとに、以下の2つを満たす場合、課税所得の見積りに含めることができる(66号6(1)③④)。
《会社区分「3」及び「4但書」の場合》
(ア) 将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内に資産の売却等を行うという意思決定が、取締役会等で承認された事業計画や方針等で明確となっており、かつ、資産の売却等に経済的合理性があり、実行可能である場合
(イ) 売却される資産の含み益等に係る金額が、契約等で確定している場合又は契約等で確定していなくても公正な時価(有価証券の市場価格、期末前おおよそ1年以内の不動産鑑定評価額)によっている場合
《会社区分「4」の場合》
(ア) 売却等に係る意思決定が取締役等の承認、決裁権限者による決裁又は契約等で明確となっており、確実に実行されると見込まれる場合
(イ) 売却される資産の含み益等に係る金額が、契約等で確定している場合、又は契約等で確定していなくても公正な時価(有価証券の市場価格、期末前おおよそ1年以内の不動産鑑定評価額)によっている場合
⑤ 将来減算一時差異と課税所得の解消年度ごとの相殺
上記③でも相殺できなかった将来減算一時差異は、上記④で算定した将来の課税所得の見積額と解消年度ごとに相殺する。相殺できた将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性ありと判断する(66号3⑤)。
⑥ 将来減算一時差異とその繰越期間内の課税所得との相殺
上記⑤でも相殺できなかった将来減算一時差異は、税務上認められている繰越欠損金の繰越期間内の(上記⑤相殺後の残額の)課税所得と相殺する。相殺できた将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性ありと判断する(66号3⑥)。このような相殺を行うのは、上記③と同じ理由である。
ここまでで相殺できなかった将来減算一時差異に係る繰延税金資産は、回収可能性なしと判断する。
⑦ 回収可能性のある繰延税金資産及び回収可能性のない繰延税金資産(評価性引当額)の算定
【STEP3】で算定した回収可能性考慮前・繰延税金資産及び繰延税金負債から上記⑥までで回収可能性なしと判断した繰延税金資産(評価性引当額)を控除した金額のみが回収可能性のある繰延税金資産として貸借対照表に計上することができる(実務指針22、66号3⑦)。