《速報解説》 平成27年7月1日以後の国外転出から 「出国時課税制度」(いわゆる『出国税』)が導入 ~1億円以上の有価証券等保有者を対象(税制改正大綱の記載内容を検証)~ 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 1 はじめに 早ければ平成27年度税制改正で導入されると予想されていた「出国時課税制度」(いわゆる『出国税』)が、予想どおり平成27年税制改正大綱において、所得税関係の改正案の中の「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の創設」として盛り込まれた(大綱p27最終行~)。平成27年7月1日以降の国外転出に適用される予定である。地方税については引き続き検討するとされており、今回の大綱には盛り込まれていない。 この制度は、一定以上の時価の金融資産を保有する居住者が国外転出する場合、又はその金融資産を非居住者に相続又は贈与する場合に、出国又は相続・贈与等の時点で時価で譲渡したとみなして、事業所得、譲渡所得又は雑所得として課税するものである。 注目されていた適用対象者の保有資産の金額基準は時価1億円以上とされた。適用時期は平成27年7月1日以降に国外転出、又は贈与・相続・遺贈するものから適用する予定としている。 仕組みの概要は次のとおりである。 時価1億円以上の有価証券等金融資産を保有する居住者は、国外転出して非居住者となる時点で、保有する金融資産の未実現のキャピタルゲインを実現したとみなして課税所得及び所得税額を算定し、納付しなければならない。 ただし、納税管理人の届出をしたうえで申告書を提出し、かつ担保を供する等一定の条件を満たせば納税猶予が認められる。納税猶予期間は原則5年であるが、申請により10年に延長できる。この期間内に帰国すれば当初の課税は更正の請求により取り消されるが、そのまま納税猶予期間を経過すれば経過した時点で納付義務が確定する。 期間の途中で譲渡等をした場合には、譲渡等をした部分については納付義務が確定する。譲渡時に値下がりした場合には更正の請求で課税額の減額ができる。 財務省は、本制度の適用対象者は年間数十人から100人程度とみているようである(2014年10月22日日本経済新聞)が、対象者には、永久に帰国しないつもりで国外に移住する者のほか、数年間海外で勤務するために一時的に非居住者となる者も対象となり、さらに非居住者に金融資産を贈与・相続・遺贈する場合も含まれるため、適用範囲は意外に広い点に注意する必要がある。 本制度導入の背景には、主要国(米、英、独、仏、加を含む)において富裕層の課税逃れを防止するための制度としてすでに同様の制度を導入している国が多いこと、わが国でも最近節税策として、シンガポール、香港、スイスなど金融資産のキャピタルゲインに課税しない国(租税条約上は居住地国課税となる)に移住する例が増えていることが課税ベースの漏出として問題視されていたという事情がある。 本稿では、以下、大綱で明らかにされた範囲内で改正案の内容を解説する。大綱の記述は概要であり、正確な内容は後日公表される改正法案を参照する必要がある点にご留意いただきたい。 2 特例措置の内容(大綱p27) (1) 概要 国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいう)をする居住者が所得税法に規定する有価証券(所法2①十七、金融商品取引法2①)若しくは匿名組合契約の持ち分(以下「有価証券等」という)又は決済をしていないデリバティブ取引、信用取引若しくは発行日取引(以下「未決済デリバティブ取引等」という)を有する場合には、転出のときに、以下の区分に応じて事業所得、譲渡所得、又は雑所得の金額を計算する。 (2) 適用対象者 次の①及び②に掲げる要件を満たす居住者 (3) 国外転出後5年を経過する日までに帰国をした場合の取扱い 本特例の適用を受けた者が国外転出の日から5年を経過する日までに帰国をした場合において、転出時から引き続き有していた有価証券等又は未決済デリバティブ取引等については、本特例の課税を取り消すことができる。取り消すためには、帰国の日から4月を経過する日までに更正の請求をしなければならない。 ただし、帰国までの間に、当該所得の計算について事実の隠ぺい又は仮装があった場合にはこの限りではない。 (4) 納税猶予 (イ) 概要 確定申告書に納税猶予の適用を受けようとする旨の記載をした場合には、国外転出の日から5年を経過する日(同日以前に帰国する場合には、同日と帰国の日から4月を経過する日のいずれか早い日)まで納税を猶予する。 (ロ) 適用要件 確定申告書の提出期限までに、納税猶予分の所得税額に相当する担保を供し、かつ、納税管理人の届出をした場合に適用する。 納税猶予の期限までの各年の12月31日における有価証券等及び未決済デリバティブ取引等の所有に関する届出書を翌年3月15日までに税務署長に提出しなければならない。提出しなかった場合、提出期限の翌日から4月を経過する日をもって納税猶予の期限とする。 (ハ) 適用期限の延長 申請により国外転出の日から10年を経過する日までとすることができる。この場合、上記(3)の課税の取消しは、国外転出から10年を経過する日までできる。 (ニ) 利子税の納付義務 納税猶予期限の到来により所得税を納付する場合には、猶予期間に係る利子税を納付する義務がある。 (5) 納税猶予の期限までに有価証券等の譲渡があった場合 納税猶予の期限までに本特例の対象となった有価証券等の譲渡又は未決済デリバティブ取引等の決済があった場合には、譲渡又は決済があった部分については、その日から4月を経過する日をもって納税猶予の期限とする。 また、譲渡価額又は決済に係る利益の額が国外転出時に課税が行われた額を下回るとき(損失の場合には損失額が上回るとき)は、譲渡又は決済があった日から4月を経過する日までに更正の請求により所得税額の減額をすることができる。 (6) 納税猶予の期限が到来した場合の取扱い 納税猶予の期限の到来に伴い所得税の納付をする場合において、期限が到来した日における有価証券等の価額又は未決済デリバティブ取引等の利益の額が特例対象となった金額を下回るとき(損失の場合は上回るとき)は、期限到来の日から4月を経過する日まで更正の請求をすることにより、所得税額の減額をすることができる。 この取扱いは、期限到来前に自ら納税猶予に係る所得税の納付をする場合には適用しない。 (7) 二重課税の調整 (イ) 外国税額控除の適用 本特例の適用を受けた者で納税猶予を受けている者が、対象となった有価証券等の譲渡又は未決済デリバティブ取引等の決済をし、その所得に対する外国所得税を納付する場合において、その外国所得税の額の計算上本特例により課税された所得税について二重課税が調整されないときには、その外国所得税を納付することとなった日から4月を経過する日までに、更正の請求をすることにより、国外転出の日の属する年において外国所得税額を納付するものとみなして外国税額控除の適用を受けることができる。ただし、有価証券等の譲渡等の所得が国内源泉所得に該当する場合には、適用の対象外とする。 (ロ) 外国所得税課税時の必要経費等算入額 居住者が、本特例に相当する外国の法令の規定により外国所得税を課された場合において、その対象となった有価所得等の譲渡又は未決済デリバティブ取引等の決済をしたときは、その者の事業所得等の金額の計算上必要経費又は取得費に算入する金額は、その外国の法令の規定による収入金額に算入された金額とする。 (8) 更正の期間制限の取扱い 本特例による所得税の更正の期間制限を7年(現行5年)とする。ただし、納税管理人の届出及び税務代理権限証書の提出等がある場合として定める一定の場合を除く。 上記(3)、(5)、(6)又は(7)の更正の請求があった場合の更正については、更正の請求の基因となった理由が生じた日から3年間とする期間制限の特例の対象とする。 (9) 納税猶予の期限を延長した場合の相続税等の納税義務の取扱い 上記(4)の(ハ)により納税猶予の期限を延長した者は、相続税又は贈与税の納税義務の判定に際しては、納税猶予期間中は、相続・遺贈・贈与前5年以内のいずれかのときに国内に住所を有していた場合と同様の取扱いとする。 (10) 贈与、相続又は遺贈により非居住者等に有価証券等が移転する場合 上記(2)①及び②の要件を満たす者の有する有価証券等又は未決済デリバティブ取引等が、贈与、相続、又は遺贈により非居住者に移転した場合には、その贈与、相続又は遺贈のときに、その時における価額に相当する金額により、譲渡又は決済があったものとみなして、事業所得、譲渡所得又は雑所得の金額を計算する。 (11) 適用対象時期 大綱では、この特例は上記(7)の(ロ)を除き、平成27年7月1日以後に国外転出をする場合又は同日以降の贈与、相続若しくは遺贈について適用するとされている。また、上記(7)(ロ)は、平成27年7月1日以後に国外転出に相当する事由があった場合等について適用するとされている。 3 実務上の留意点 多額の含み益を有する有価証券等を保有する者で、近い将来わが国での含み益課税を避けてシンガポールや香港などのキャピタルゲイン非課税国に住所を移そうと計画していた者、あるいは、海外に居住する子に無税で金融資産を贈与しようと計画していた者は、計画を実行するのであれば、本年6月末までに国外転出又は贈与を実行する必要がある。 適用開始予定日まで半年しか猶予期間を置かなかった理由は、当局としては、駆け込み的海外移転をできるだけ防ぎたいからであろう。 本制度は富裕層をターゲットとした租税回避防止策であるが、実際に適用になるケースの多くは、純粋にビジネス目的で海外に数年間居住したのちに帰国するケースであろう。時価1億円以上の金融資産等を有する者は、資産を譲渡せずに帰国する場合でも、出国時に時価で譲渡したとみなして納税額を計算して同額の担保を供しなければならない。 したがって、租税負担を軽減しようという意図は全くなくても、税務当局の課税権の確保を確実にするという目的のために、本来負担する必要のない金銭的な負担を負うことになる点は、納税者にとっては納得しにくい部分である。特に、相続で代々引き継いできた株式で含み益が非常に多額である場合には、金銭的な負担が非常に重くなる可能性があり、そのことが理由で海外勤務ができないということも起こりうることが懸念される。 対象となる1億円以上の金融資産を保有する者で、近い将来数年間海外に住所を移す可能性のある者、又は非居住者に贈与することを考えている者は、改正法の規定をよく把握して、対応を検討する必要があるだろう。 (了)
《速報解説》 非居住者を扶養控除等の対象とする場合の 「親族関係書類・送金関係書類」の添付を義務化 ~会計検査院の指摘受け平成28年分所得税から(平成27年度税制改正大綱)~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 (1) はじめに 平成27年度税制改正大綱において、日本国外に居住する親族について扶養控除等の適用を受ける場合には、一定の書類の添付等を義務付けることが示された(大綱p32)。 この見直しは、平成28年分以後の所得税(給与等及び公的年金等の源泉徴収については、平成28年1月1日以後に支払われるものから)並びに平成29年度分以降の個人住民税に適用することとされている。 (2) 現行制度の概要 居住者が控除対象配偶者を有する場合には、配偶者控除が適用され、控除対象扶養親族を有する場合には、扶養控除が適用される(所法83、84)。また、居住者の控除対象配偶者又は扶養親族が障害者である場合には、障害者控除が適用される(所法79②)。 控除対象配偶者や扶養親族を判定するための要件は、居住者と生計を一にする配偶者又は親族であることと、合計所得金額が38万円以下であることであり、配偶者や親族が居住者であることは要件とされていない(所法2①三十三、三十四)。 また、生命保険料控除や地震保険料控除等の適用を受ける場合には、年末調整や確定申告の際に、支払金額を証明する書類の添付が求められているが、配偶者控除、扶養控除、障害者控除(以下「扶養控除等」という)、配偶者特別控除の適用には、要件を満たしていることを証明する書類の添付は法令に定められていない(所令262①、319)。 (3) 見直しの背景 会計検査院の平成25年度決算検査報告において、「日本国外に居住する控除対象扶養親族に係る扶養控除の適用状況等について」という指摘がなされた。 今回の見直しの背景となった指摘のポイントは、次の通りである。 (2)に記述した通り、扶養控除等又は配偶者特別控除の適用にあたっては、年末調整や確定申告時に要件を満たしていることを証明する書類の添付は求められていない。 国内に居住する親族であれば、税務署が住民票や給与支払報告書を調査する等の方法により、扶養控除等の適用要件を満たしているかを確認することができる。しかし、国外に居住する親族の場合には、確認書類を入手することは困難であり、控除額の適正性を確保することが難しい状況となっている。 (4) 改正内容 扶養控除等又は配偶者特別控除の適用を適正に行う観点から、国外に居住する親族について扶養控除等又は配偶者特別控除の適用を受ける居住者に対し、親族関係書類及び送金関係書類の添付等を義務付けることが示された。 親族関係書類及び送金関係書類の添付等について、具体的な手続は次の通りである。 なお、個人住民税の申告においても同様の見直しが示されている(大綱p35)。 日本国内に住所を有しない親族について扶養控除、配偶者控除、配偶者特別控除、障害者控除の適用又は非課税限度額の適用を受ける者については、以下の手続が必要とされる。 ① 個人住民税の申告を行う場合 親族関係書類及び送金関係書類を個人住民税の申告書に添付し、又は個人住民税の申告書を提出する際に提示する(下記②の手続により提出、又は提示した書類を除く)。 ② 日本国内に住所を有しない親族に係る非課税限度額制度の適用を受ける者が、給与所得者又は公的年金等受給者の扶養親族申告書を提出する場合 親族関係書類及び送金関係書類を扶養親族申告書に添付し、又は扶養親族申告書を提出する際に提示する。 (了) ↓関連記事↓
《速報解説》 国境を越えた役務提供に対する消費税の課税見直しへ ~リバースチャージ方式・登録国外事業者制度により 国外事業者への電子商取引課税強化(平成27年度税制大綱)~ アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 平成27年度税制大綱が昨年末(2014.12.30)に公表されたが、課税の公平性の観点から問題となっていた国外の事業者から日本に配信される電子書籍・音楽・広告等の役務の提供について、従来は国外取引ということから消費税が課税されていなかったが、今回の改正により平成27年10月1日以後の資産の譲渡等から消費税が課税されることとなった(大綱p84)。 改正の内容は大きく2つに区分され、「国外の事業者から日本の消費者向けに行った役務提供」については、発信元である国外の事業者が消費税の納税義務者となり、「国外の事業者から日本の事業者向けに行った役務提供」については、国内の事業者が消費税の納税義務者(仕入側が消費税の納税を行ういわゆるリバースチャージ方式を導入)となる。 この改正は、欧州諸国における制度と同様に仕向地主義(消費が行われる場所)により消費税の課税を行うという考え方を日本においても導入することとしたものであり、具体的な改正事項は、以下のようになる。 (1) 内外判定基準の見直し 電子書籍・音楽・広告の配信等の電気通信回線を介して行われる役務の提供(以下「電気通信役務の提供」という)については、消費税法における国内取引の判定基準を から に変更する。 なお、電気通信役務の提供には、著作物の利用の許諾に該当する取引が含まれるものとし、電気通信役務の提供以外の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供、単に通信回線を利用させる役務の提供は含まないものとする。 (2) 課税方式の見直し ① 事業者向け電気通信役務の提供の取扱い(リバースチャージ方式の導入) (イ) 内容 国外の事業者が行う電気通信役務の提供のうち、当該役務の性質又は当該役務の提供に係る契約条件等により、当該役務の提供を受ける者が事業者であることが明らかなもの(以下「事業者向け電気通信役務の提供」(※)という)については、その取引に係る消費税の納税義務を役務の提供を受ける事業者に転換する(リバースチャージ方式の導入)。なお、上記の「国外事業者」とは、所得税法上の非居住者である個人事業者及び法人税法上の外国法人をいう。 (ロ) リバースチャージ方式の導入に係る課税対象、納税義務者の規定の見直し 消費税の課税対象である資産の譲渡等から「事業者向け電気通信役務の提供」を除くとともに、事業として他の者から受けた事業者向け電気通信役務の提供(以下「特定仕入れ」(仮称)という)を課税対象とする。 さらに、納税義務の対象となる課税資産の譲渡等から「事業者向け電気通信役務の提供」を除くとともに、国内において行った課税仕入れのうち特定仕入れに該当するもの(以下「特定課税仕入れ」(仮称)という)を納税義務の対象とする。 なお、事業者向け電気通信役務の提供を受ける事業者が消費税法における免税事業者である場合には、この事業者向け電気通信役務の提供に係る消費税について納税義務は生じない。 (ハ) 事業者向け電気通信役務の提供を行う国外事業者の義務 国内において事業者向け電気通信役務の提供を行う国外事業者は、その役務の提供に際し、あらかじめ、その役務の提供に係る特定課税仕入れを行う事業者が消費税の納税義務者となる旨を表示しなければならない。 (ニ) 特定課税仕入れに関する経過措置 特定課税仕入れがある課税期間の課税売上割合が95%以上である場合には、当分の間、その課税期間において行ったその特定課税仕入れはなかったものとする。 この措置は、リバースチャージに係る消費税額とリバースチャージに係る消費税額の税額控除額が同額とみなして、申告の対象から除外するものである。 【参考図①】 (※) 財務省ホームページより ② 消費者向け電気通信役務の提供の取扱い (イ) 内容 国外事業者が行う電気通信役務の提供のうち事業者向け電気通信役務の提供以外のもの(以下「消費者向け電気通信役務の提供」(※)(仮称)という)については、その国外事業者が納税義務者となる。 (ロ) 国外事業者から受けた電気通信役務の提供に係る仕入税額控除の制限 国内の事業者が国外事業者から「消費者向け電気通信役務の提供」を受けた場合には、当分の間、その「消費者向け電気通信役務の提供」の課税仕入れに係る消費税につき、仕入税額控除制度の適用を認めない。 ただし、下記(ハ)に規定する登録国外事業者に該当する者から受けた「消費者向け電気通信役務の提供」については、その登録国外事業者の登録番号等が記載された請求書等の保存等を要件として、その課税仕入れに係る消費税につき仕入税額控除の適用を認める。 (ハ) 登録国外事業者制度の創設 登録国外事業者とは、次に掲げる要件を満たす一定の国外事業者(課税事業者に限る)として、納税地を所轄する税務署長を経由して国税庁長官に申請書を提出し、国税庁長官の登録を受けた事業者をいい、その登録事業者は登録を受けた日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間については、登録の取消しを求める届出書の提出が行われない限り、消費税の納税義務は免除されない。 なお、この制度における登録申請については、平成27 年7月1日以後にできることとする。 また、国税庁長官は、登録国外事業者の氏名又は名称、住所若しくは居所又は本店若しくは主たる事務所の所在地及び登録番号等について、インターネットを通じて登録後速やかに公表しなければならない。 【参考図②】 (※) 財務省ホームページより (3) 所要の経過措置 また、上記改正と同様に、国外事業者が国内において行う芸能・スポーツ等の役務の提供についても、その取引に係る消費税の納税義務を役務の提供を行う事業者から役務の提供を受ける事業者に転換する改正(リバースチャージ方式の導入)が行われたが、この改正については、平成28 年4月1日以後に行われる役務の提供について適用されることとなる(大綱p104)。 (了)
《速報解説》 平成28年より『ジュニアNISA』が創設 ~未成年者口座は毎年80万円まで所得税非課税。 既存NISAの限度額は120万円へ拡充(平成27年度税制改正大綱)~ 税理士 仲宗根 宗聡 1 はじめに 家計の安定的な資産形成を支援するとともに、経済成長に必要な成長資金を確保するため、既存NISA(非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置)は20歳以上が対象であるが、「平成27年度税制改正大綱」において、若年層への投資のすそ野の拡大を図るため、0歳~19歳を対象とする『ジュニアNISA』が創設されることが明らかとなった。 また、既存NISAの年間投資上限額の引上げによる拡充がされる。 2 ジュニアNISAの創設(大綱p13) (1) 制度概要 平成28年より、未成年者口座において管理されている上場株式等の配当等及び譲渡所得等については、次の管理勘定の区分に応じて、それぞれに定める期間に生じたものは、所得税が非課税となる。 【参考図】 (※) 金融庁「平成27年度税制改正要望項目」より (2) 未成年者口座とは その年1月1日において20歳未満である者及びその年に出生した者が、ジュニアNISAの適用のために平成28年~平成35年までの間に開設した口座(1人につき1口座に限る)をいう。 なお、その年3月31日において18歳である年(以下「基準年」という)の前年12月31日までの間は、未成年者口座内の上場株式等を原則払い出すことはできない。例外として、課税未成年者口座への払い出し、災害等の事由による払い出しは認められている。 (3) 課税未成年者口座とは 未成年者口座を開設している金融商品取引業者等の営業所に開設した特定口座、預貯金口座をいう。 当該課税未年者口座は、基準年の前年12月31日までは、その資金を未成年者口座における投資に用いる場合を除き、原則払い出すことはできない。 (4) 払出制限について 未成年者口座及び課税未成年者口座から、基準年の前年12月31日までに要件違反の払い出しがあった場合には、その払い出しがあった日において上場株式等の配当等及び譲渡所得等があったものとして、所得税が課税される。 2 既存NISAの拡充(大綱p16) 平成28年分より、非課税口座に受け入れることができる上場株式等の取得対価の額の限度額を、現行100万円から120万円に引き上げる。 (了)
2015年1月8日(木)AM10:30、 Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.101 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
monthly TAX views -No.24- 「平成27年度税制改正に潜むポピュリズム」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 恒例の税制改正大綱がまとまった。筆者が感じたのは、党税調の威光(?)の衰えである。 「国民に苦い選択はなるべく避けたい」というのが官邸の正直な思いであろうから、今後の税制改正はポピュリズム的なものになる。「所得税改革は容易ではない。」これが正直な感想である。 1 法人税改革の検証 27年度改正における最大の課題として注目された法人税改革は、「数年かけて税率を29%台に引き下げる」ことを目指して作業された。 国・地方を通じた法人実効税率は、15年度から32.11%(▲2.51%)に、16年度には31.33%(▲3.29%)へと引き下げられる。さらに17年度以降の税制改正においても20%台まで引き下げることを目指すことが明記された。 財源は、15年度、16年度それぞれ2,000億円程度の先行減税があるものの、基本的には法人事業税・外形標準課税の拡充を含めた課税ベースの拡大で捻出した。財政再建と経済活性化の両立を図る中では、税収中立型の改革は望ましいといえよう。 課税ベース拡大の中身を見ると、注目すべきは法人事業税・外形標準課税の付加価値割と資本割を2年かけて2倍に拡充し、財源を出したことだ。 この点、産業界からは「課税ベースが所得から付加価値に変わるだけで負担軽減にならない」「付加価値の大部分は賃金なので、賃金を増やすと税負担が増えアベノミクスと矛盾する」との批判があった。 しかし、所得割の税負担が少なることは、より多くの所得を稼ぐ企業にとっては減税となり、そうでない企業や赤字企業にとっては増税になるので、ROEを高める経営へのインセンティブになるともいえる。また賃上げに伴う税負担の増加については緩和措置が設けられている。 今後わが国の企業行動が利益重視に変わっていけば、この改革は評価されるであろう。 また、表面税率を引き下げることは、すでにわが国企業にも広がりつつある租税回避行動を若干でも緩和する効果がある。 一方で、特定の事業者や業界だけに恩典を受ける租税特別措置の切り込みは弱い(研究開発減税の一部を削減しただけである)。 来年度以降は、租特を大幅に整理することによりさらなる引下げを行っていくことが必要だ。また、社会福祉法人など民間競合している事業の税負担の不公平の問題がある公益法人課税についても本気でメスを入れる必要がある。 法人税改革は、単なる減税ではなく、公平な税制を目指さなければならない。 ここまで法人税の減税を行う以上、恩恵を受ける企業は、賃金増や配当増、さらには投資の増加などによって、従業員や株主、さらには国民経済にその成果を還元していく必要(というより義務)がある。 法人税減税というのは、いわば環境整備であって、企業がこれを契機に、膨大に積み上げてきた内部留保をいかに有効に使うかが試される。 2 デジタル社会へ対応した消費課税 国境を越えて音楽や広告を配信する役務の提供については、これまで国外取引として消費税は課されなかった。これが15年10月から課税方法を見直し、国外事業者からのデジタルサービスの提供について、リバースチャージ方式(事業者向け取引)や国外事業者の申告(消費者向け取引)により課税が行われることとなった。 国内外の事業者間での競争条件の歪みを是正し、わが国の課税権の確保につながるため、評価すべき改正である。 注目すべきは、電子商取引以外の国境を越えた役務の提供に対する課税のあり方については、今後、消費者の居住地国で課税するというOECDの原則の下で見直しが続くということで、検討項目11にそのことが明記されている(大綱p126)。 3 個人資産の海外流出と出国税の導入 いわゆる「出国税」が、新法ではなく、租税特別措置として「出国時特例」という形で導入されることとなった。 これは、巨額の含み益を有する株式などの金融資産を保有したまま、シンガポールや香港といったキャピタルゲイン非課税の国に「出国」して非居住者になり、その後に金融資産を売却して税負担を回避する、という租税回避行動に対応するために、「出国」時(非居住者になる前)に未実現のキャピタルゲイン(含み益)を時価評価して課税する、という内容である(詳細は本連載No.22を参照)。G20のイニシアティブでOECDにおいて検討されているBEPS(課税ベースの浸食と利益移転)プロジェクトの一環と説明されている。 国外財産調書制度の創設(平成24年度改正)、受贈者の国籍を外国籍化する相続・贈与税回避スキームへの対応(平成25年度改正)など次々と税制改正が行われてきた背景には、1月からの相続税・贈与税の増税や所得税増税(最高税率の引上げなど)により、高所得者が非居住者になろうとする流れがさらに加速するとの認識(危機意識)があるのだろう。 4 残された課題を整理すると 今回の改正で先送りになったのは、パート女性の就労調整につながっている配偶者控除の見直しだ。これは、民間企業の家族手当と連動しているということもあり、それも合わせて見直す必要がある。 今後は、政府税調で示されている案である「移転的基礎控除」を中心に、税額控除化することも含めて検討していく必要がある。 当面の最大の課題は、消費税10%時に導入することを目指すとされた軽減税率であり、1月には与党税制協議会での議論が再開する。具体案は誰がどう作っていくのか、注目される。 筆者は、軽減税率は低所得者対策にはならないこと、軽減税率対象品目の線引きの問題、さらには執行コストがかかることなど多くの問題があるため、10%時の導入は反対である。政治ポピュリズムの中でどのような展開を見せるか、予測はつかない。 法人税についても議論は続く。英国は来年から法人税率を20%に引き下げる。韓国にも法人税率引下げの動きがある。一方で、米国企業のコーポレート・インバージョンの動きはわが国企業にも波及しつつある。多国籍企業の低税率国を活用した租税回避は決して衰えてはいない。わが国にも租税回避のプロモーターが増加しつつある。 このような状況では、法人税実効税率を20%台半ばまで下げろという圧力は続く。しかし、29%を超える引下げについては、課税ベースの拡大では対応できず、外形標準課税を含めた法人事業税を抜本的に見直し、地方消費税と置き換える大胆な議論が必要となる。 最後に、所得・資産格差社会への対応という課題がある。 昨年1月から株式譲渡益と配当に対する税率が10%から20%へと引き上げられ、本年1月からは相続税の大幅な引上げが始まった。また、所得税の最高税率も引き上げられ給与所等控除の上限もさらに削減されるため、所得再分配機能は強化される。当面はこの影響を見ていく必要がある。 しかし、アベノミクスの影響を受け、株式や土地を持つ者と持たざる者との格差は拡大する。今回、高齢者から勤労世代への住宅取得資金、教育資金、結婚・子育て資金の贈与を非課税とする税制の拡充・創設が行われたが、これは相続税のしり抜けにつながりかねない改正だ。 今後の議論としては、資産そのものへの課税強化というより、資産性所得への負担増を検討すべきと考えるが、官邸の意向はそこまでは念頭にないであろう。 税制がポピュリズムになると、結局ツケは国民に跳ね返る。 (了)
法人税改革の行方 【第5回】 「外形標準課税の適用拡大(1)」 慶應義塾大学経済学部教授 土居 丈朗 与党内での法人税改革の議論は、消費税再増税の先送りの判断と、衆議院総選挙を挟んで進められ、昨年12月30日に「平成27年度税制改正大綱」が取りまとめられた。法人実効税率は、標準税率ベースで現行の34.62%から2015年度には32.11%に下げ、2016年度には31.33%に下げることが決まった。 この代替財源としての課税ベースの見直しでは、結局、外形標準課税の適用拡大が最も大きな項目(平年度ベースで6,600億円)となった。つまり、法人事業税の付加価値割の適用を拡大する(税率を上げる)ことで所得割の税率を下げ、法人実効税率を下げる策が採用されたのである。 「平成27年度税制改正大綱」では、外形標準課税の適用拡大は、資本金1億円超の大企業のみとなり、資本金1億円以下の中小企業への適用拡大は「引き続き慎重に検討を行う」とされた。外形標準課税の適用拡大は、中小企業から根強い反対論が出ている。それは、法人事業税における付加価値割が持つ性質に起因している。 付加価値割の課税ベース(付加価値額)は、報酬給与額+純支払利子+純支払賃貸料+単年度損益である。ただし、報酬給与額が収益配分額(=報酬給与額+純支払利子+純支払賃貸料)の70%を超える場合には、付加価値額から雇用安定控除額を控除する仕組み(雇用安定控除)がある。 付加価値割は、赤字法人でも課税される上に、付加価値額の大半が報酬給与額である中小企業が多いことから、中小企業にとって付加価値割はあたかも「人件費課税」と認識されている。そのことに配慮してか、付加価値割が導入された2004年度から、雇用安定控除が設けられている。 しかし、雇用安定控除があれども、報酬給与額が増えると増税になる性質がある。図1にあるように、例えば、報酬給与額が600、純支払利子が75、純支払賃貸料が75、単年度損益450である法人があるとする。 この企業では、控除前付加価値額は1,200、収益配分額は750となり、雇用安定控除=600-750×70%=75となる。したがって、控除後付加価値額=1,200-75=1,125となり、現行の税率では付加価値割税額=1,125×0.48%=5.40となる。ちなみに、所得割税額=450×7.2%=32.4である。 図1 賃金が増加した場合の付加価値割の例 出典:総務省「政府税制調査会第5回法人課税ディスカッショングループ参考資料」(2014年5月9日) 他方、図1の下方のように、同じ控除前付加価値額であっても、単年度損益を減らして報酬給与額を250増やすと、収益配分額は1,000となる。そして、雇用安定控除は150に増え、控除後付加価値額は1,050となり、付加価値割税額は5.04と減少する。 同じ控除前付加価値額であれば、単年度損益で計上するより、報酬給与額で計上した方が、雇用安定控除がある分税額が低くなる。 そこでもし、この法人の売上が250増えて、その分報酬給与額を250増やすという経営判断をしたとする(他は不変)。このとき、報酬給与額が850、純支払利子が75、純支払賃貸料が75、単年度損益450であり、控除前付加価値額が1,450、収益配分額は1,000となるから、雇用安定控除=850-1,000×70%=150となる。したがって、控除後付加価値額=1,450-150=1,300となり、付加価値割税額=1,300×0.48%=6.24である。他方、所得割税額=450×7.2%=32.4である。 つまり、売上が増えて、単年度損益を不変にして給与を増やすと、所得割税額は増えないが、付加価値割税額は増えることになる。 この度の税制改正大綱では、2016年度までに法人事業税の所得割の税率を7.2%から4.8%へ引き下げるとともに、付加価値割の税率を0.48%から0.96%へ引き上げることが決まった。 この性質を持ちながら、アベノミクスの成果を上げようと、政府が経済界に賃上げを要請する傍らで、報酬給与額を増やすと増税になりかねない付加価値割の適用拡大(税率引上げ)を行うこととした背景には、法人実効税率の引下げが至上命題となる中で、外形標準課税の適用拡大以外の代替財源が大きく確保できなかったことが挙げられる。 ただ、賃上げに不利となる付加価値割の現行制度に対しては、弥縫策ながらも、2つの特例措置が設けられることとなった。 1つは、2017年度までの特例として、適用年度に従業員に支払った給与総額が、基準年度(2012年度)に比べて一定割合以上増加している場合、当該増加額を「報酬給与額」から控除する(賃上げ分に係る付加価値割額を実質的に税額控除)仕組みである。 ここでいう「一定割合以上の増加」とは、法人事業税とは別に設けられている「所得拡大促進税制」と同じ要件を満たすことであり、給与等支給額が2012年度に比べて、2015年度においては3%以上増、2016年度においては4%以上増、2017年度は5%以上増となることを意味する。 もう1つは、2016年度末までの中堅企業への配慮措置として、適用年度における法人事業税の全課税標準(所得割、付加価値割、資本割)に、前年度の税率と適用年度の税率をそれぞれ乗じ、適用年度の方が負担が重くなる場合、適用年度の付加価値額が30億円以下の法人について、当該負担増加額の50%を控除する仕組みである。ちなみに、適用年度の付加価値額が30億円超40億円未満である法人については、控除率(50%)をなだらかに縮減させて適用される。 これらの特例措置が、賃上げに対してどの程度効果があるかは未知数だが、付加価値割が持つ前述の性質を踏まえて設けられたものと言えよう。 次回は、外形標準課税の適用拡大にまつわる中長期的な課題について言及したい。 (了)
平成26年分 確定申告実務の留意点 【第1回】 「平成26年分の申告から取扱いが変更となるもの」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 -はじめに- 平成26年分の確定申告の受付は、平成27年2月16日(月)から3月16日(月)まで行われる。還付申告については、2月15日以前であっても行うことができる。 今回から4回シリーズで、平成26年分の確定申告に係る実務上の留意点を解説する。 第1回目は、平成26年分の所得税計算から取扱いが変わるもののうち、主な3項目についてまとめることとする。 なお、確定申告に関する基本的な事項については、下記の拙稿「平成24年分 確定申告実務の留意点」(本誌No.1~5掲載)、「平成25年分 確定申告実務の留意点」(本誌No.51~54掲載)も併せてご参照いただきたい。 (1) 上場株式等に係る譲渡所得及び配当所得 平成26年1月1日以後の上場株式等の譲渡所得に係る税率、及び同日以後に支払を受ける上場株式等の配当等について申告分離課税を適用する場合の税率は、20%(所得税15%、住民税5%)となった(措法8の4、37の10)。 なお、少額投資非課税制度(NISA)を利用している場合には、非課税口座内で生じた上場株式等の譲渡益と配当所得は、非課税となる(措法9の8、37の14)。 〈上場株式等に係る譲渡所得及び配当所得(申告分離課税)に係る税率〉 (※) 上記税率は、金融商品取引業者を通じた上場株式等の譲渡の場合に適用されるものである。なお、平成25年分から平成49年分までは、この他に復興特別所得税が課される。 (2) 住宅税制 ① 居住用財産の買換え及び交換の場合の課税の特例 特定の居住用財産を買換え又は交換したときは、一定の要件を満たす場合に限り、譲渡益に対する課税を繰り延べることができる(措法36の2、36の5)。 平成26年1月1日以後に行う居住用財産の譲渡について、譲渡資産の譲渡対価に係る要件が「1億円以下」に引き下げられている。 〈買換え等の譲渡対価の要件〉 ② 住宅借入金等特別控除 平成26年に居住を開始した者に適用される住宅借入金等特別控除の各制度は、次の通りである(措法41、41の3の2、震災特例法13の2)。 消費税率引上げによる税負担の増加を緩和するため、住宅の対価に含まれる消費税等の税率が8%の場合には、対象となる借入限度額が拡充されている。 (ア) 住宅借入金等を有する場合(控除期間10年) (一般の住宅) (認定住宅) (※) 認定住宅とは、認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう。 (イ) 特定の増改築等に係る住宅借入金等を有する場合(控除期間5年) (※) 特定の増改築等をした家屋を平成26年4月1日以後に居住の用に供する場合には、特定の増改築等に係る費用の額(交付された補助金等の額控除後)が50万円(平成26年3月31日までは30万円)を超えることが要件となる。 (ウ) 東日本大震災の被災者等が再建住宅借入金等を有する場合(控除期間10年) (※) 再建住宅を居住の用に供した日にもとづいて適用する。 ③ 特別税額控除(借入金がない場合も適用あり) 平成26年に居住を開始した(特定の工事等を行った)者に適用される特別控除の各制度は、次の通りである(措法41の19の2、41の19の3、41の19の4)。 ②と同様に、消費税率引上げによる税負担の増加を緩和するため、住宅の対価や工事費用に含まれる消費税等の税率が8%の場合には、対象となる限度額が拡充されている。 (ア) 認定住宅の新築等をした場合 (イ) 既存住宅に特定の改修工事をした場合 (省エネ改修工事の場合) (※) 平成26年4月1日以後、対象となる特定の改修工事に係る工事費要件は、標準的な費用の額が50万円(平成26年3月31日までは30万円)を超えることが要件となる。 (バリアフリー改修工事の場合) (※) 平成26年4月1日以後、対象となる特定の改修工事に係る工事費要件は、標準的な費用の額が50万円(平成26年3月31日までは30万円)を超えることが要件となる。 (※) 前年以前3年内にバリアフリー改修工事を行い、本制度の適用を受けている場合には再適用できない。 (ウ) 既存住宅の耐震改修をした場合 (3) ゴルフ会員権等の譲渡損失 平成26年度税制改正において、「生活に通常必要でない資産」の範囲に“主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産以外の資産”が加えられた(所令178①)。 この“主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産以外の資産”に該当する資産は、ゴルフ会員権やリゾートホテル会員権等(以下、ゴルフ会員権等という)である。 当該改正により、平成26年中に行われたゴルフ会員権等の譲渡により生じた損失の取扱いは、次の通りとなる(所法69①②)。 〈ゴルフ会員権等の譲渡損失の取扱い〉 なお、ゴルフ会員権には、預託金方式のものと株式形態のものがあるが、どちらの会員権であっても取扱いは同じである(措法37の10、措令25の8、所基通33-6の2、33-6の3)。 また、リゾートホテル会員権のうち区分所有型のものを譲渡した場合には、土地建物等の譲渡等(分離課税)に該当するため、平成26年3月31日以前の譲渡等により生じた譲渡損失であっても他の所得と損益通算することはできない(措法31①、32①)。 * * * 次回は、給与所得者の特定支出控除を取り上げる予定である。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第1回】 「追加調査で得た間接証拠から給与収入額の認定をした事例」 税理士 佐藤 善恵 〔概要等〕 納税者(以下「甲」)は、遠洋マグロ漁船の漁労長兼船長として、外国法人A(以下「A社」という。)との乗船契約に基づきAからの給与収入を得ていたが、これを申告していなかったため、当該給与収入について更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分が行われた。 争点は、甲が居住者に該当するかどうかであり、また、予備的主張に関して甲の給与収入額についても争われた。裁判では、居住者該当性は地裁・高裁とも揺るがなかったが、給与収入額については、その一部の金員について地裁と高裁で判断が別れた。 以下、その点を検証する。 〔双方の主張の要旨〕 〇原処分庁の主張 〇甲の主張 〔地裁の判断〕 地裁判決は、甲とA社との乗船契約は平成15年6月に再契約がされたことを認めているが、その際に月固定給の増額が合意された形跡はなく、甲の口座への振込状況等の事実に照らすと、本件金員が給料精算金であることまでは認めることはできず、そのほか全証拠を精査しても、被告の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はないとして、国の主張を認めなかった。 〔高裁の判断〕 高等裁判所は、国の提出した新たな調査結果により、甲についても平成15年4月1日からの再契約の際に、月固定給が従前の月額70万円から月額80万円に増額されたことが十分推認されること。及び、平成17年10月又は11月からは、必ずしも再契約の締結の際ではないのに、同業者はいずれも固定給を減額されていることから、日本人漁労長の月固定給の増減がA社に生じた一般的な事情(業績の好調や悪化等)によるものと推認されると述べた。 そして、甲の各主張を排斥し、甲は、処分年においても、各月10万円を留保金としていた事実を優に認めることができ、その留保金相当額も甲の給与収入に当たるとの判断を下した。 〔判断の分水嶺〕 本件では、「月固定給増額の合意」の存在が認定できたか否かに判断の分水嶺がある。外国法人であるA社には原処分庁の調査権限が及ばないため、地裁では、給与額の増額(合意)に関する直接証拠がなく、増額の合意があったと判断されなかった。 一方、高裁では、国が新たな調査によって証拠を提出し、同業者の固定給の増減状況などの間接証拠の積み重ねによって、「月固定給増額の合意」があったと判断された。直接証拠がなくとも、間接証拠の積み重ねによって合意の事実が認定されたということである。 〔本判決が示唆するもの〕 給与の収入額がいくらであるのかの判断にあたっては、あくまで当事者間で法的な合意があったか否かで判断するのであり、振込状況等の事実のみで、給与額の変更に関する合意があったことを主張しても認められない。これは、当たり前のことであるが、調査現場で忘れられがちなことである。 納税者の立場から言えば、調査担当者に契約書等の不存在を指摘されたとしても、直ちに法律効果が否定されるものでないということである。契約書等が存在しない場合は、本件のように様々な間接証拠が事実認定において重要となる。 (了)
土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第1回】 「評価単位はどのように分けるのか」 税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉 -本連載の趣旨- 筆者は昨年6月に株式会社清文社より『グレーゾーンから考える 相続・贈与税 土地適正評価の実務』と題する書籍を上梓した。 土地の評価は、あらかじめ定められた国税庁評価基準(財産評価基本通達。以下、評価通達)により行われているのが一般的であるが、土地は極めて個別性が強いことから、すべての個別事情を想定して評価基準を定めることは難しい。したがって、ある程度包括的な規定ぶりにならざるを得ない。 例えば、評価通達の中には、「著しく不適当(評価通達6)」「著しく不合理(同7-2)」「実際の面積(同8)」「相当と認める金額(同20-2)」「著しく広大(同24-4)」「通常必要と認められる(同40)」など数多くの包括的表現がある。広大地補正における広大地であれば、「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」をいうが、何が標準的なのか、著しく地積が広大とはどの程度をいうのか、具体的に示されていない。 これが拙著における、いわゆる“グレーゾーン”であり、実務においては判断に迷う場面が多くある。このようなグレーゾーンについて、適正な評価を行う手がかりとなるのが過去の判例・裁決事例である。 本連載ではその中から特に重要と思われる10の論点を引き出し、土地を評価するうえで、複数の評価方法があることによりグレーゾーンが存在することを指摘し、そのグレーゾーンを解決するための実務上の取扱いや裁判例・裁決例を検討し、ポイントとしてまとめた。 [1] 地目の異なる土地を一団として評価する場合 (1) 国税庁質疑応答事例 国税庁質疑応答事例においては、以下の【事例①~④】のような場合には、農地、山林及び雑種地の全体を一団として評価することが合理的とされている。 なお、【事例⑤】のような場合はそれぞれを地目の別に評価する。 【事例①】の場合、標準的な宅地規模を考えた場合には、(A)土地は地積が小さく、形状を考えた場合には、(B)土地は単独で評価するのではなく(A)土地と合わせて評価するのが妥当と認められる。 また、(C)土地は道路に面していない土地となり、単独で評価するのは妥当でないと認められることから、(A)、(B)及び(C)土地全体を一団の土地として評価することが合理的であると認められる。 【事例①】 【事例②】の場合、山林のみで評価することとすると、形状が間口狭小、奥行長大な土地となり、また、山林部分のみを宅地として利用する場合には、周辺の標準的な宅地と比較した場合に宅地の効用を十分に果たし得ない土地となる。 【事例②】 同様に【事例③】では各地目の地積が小さいこと、【事例④】では山林部分が道路に面していないことから、やはり宅地の効用を果たすことができない土地となる。 これらのような場合には、土地取引の実情からみても隣接の地目を含めて一団の土地を構成しているものとみるのが妥当であることから、全体を一団の土地として評価する。 【事例③】 【事例④】 しかし、【事例⑤】のように農地と山林をそれぞれ別としても、その形状、地積の大小、位置等からみても宅地の効用を果たすと認められる場合には、一団としては評価しない。 【事例⑤】 (2) 重要裁決事例 裁決事例においても、市街地農地等は現況の利用状況により評価単位を捉えるのではなく、宅地としての標準的使用を基準として評価単位を捉えるのが相当であると解されている。 平成19年11月5日裁決〔裁決事例集第74集357頁〕において評価の対象となった土地は、J1土地、J2土地、J3土地及びJ4土地に区分され、J1は畑、J2は駐車場として利用されており、J3土地及びJ4土地は第三者に賃貸されていた。 (※) 拙著『グレーゾーンから考える相続・贈与税の土地適正評価の実務』(清文社・2014)P20より 納税者は、J1土地(畑)とJ2土地(雑種地)を区分して評価すべきと主張し、課税庁はJ1土地とJ2土地を一体として評価すべきと主張した。 裁決は、J1土地は畑として利用されているものの、①宅地と状況が類似する雑種地であるJ2土地と隣接していること、②道路に面していない土地であることから、宅地としての利用を前提にすると単独で利用するのは合理的ではないものと認められ、このような場合には、宅地としての有効利用を基準とし、隣接する宅地と状況が類似する雑種地であるJ2土地とともに一体利用することを前提として評価することが相当であると判断している。 [2] 同一利用単位の宅地が1画地として判定されない場合 (1) 国税庁・質疑応答事例 土地の評価単位においては、下図のように、所有する宅地を自用地としていずれも自ら使用している場合には、居住の用か事業の用かにかかわらず、その全体を1画地の宅地として評価する。 (2) 重要裁決事例 ただし、平成16年1月8日裁決〔TAINS・F0-3-132〕においては、土地の位置及び利用されている路線からみて、全体を一画地とすることが合理的でない場合にはその全体は必ずしも一画地と判定されないこととされている。 評価対象地(下図)のA土地及びB土地は使用貸借、E土地は被相続人の居住用として利用されていたが、自用地であるB土地と相続人が居住用に供しているE土地の接している距離が1.6mと度合いが低く、B土地とE土地の位置及び利用されている路線からみて、E土地を含めてこれらの土地全体で一団の画地を形成していると解するのは合理的ではなく、A及びB土地については1画地の評価単位とし、E土地は単独で1画地の評価単位とするのが相当と判断している。 (※) 拙著『グレーゾーンから考える相続・贈与税の土地適正評価の実務』(清文社・2014)P30より (了)