〈事例で学ぶ〉
法人税申告書の書き方
【第39回】
「別表6(19) 地域経済牽引事業の促進区域内において
特定事業用機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」
公認会計士・税理士
菊地 康夫
Ⅰ はじめに
本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。
今回は、前回解説したいわゆる「地域未来投資促進税制」のうち、特別償却に代えて税額控除制度を適用する場合の「別表6(19) 地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」(※1)の記載の仕方を採り上げる。
(※1) 平成31年度税制改正を受け法人税申告書の様式が改正され、一部変更の上、この別表は6(17)から6(19)に番号が変更となった。
Ⅱ 概要
この別表は、青色申告法人で地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律(以下「地域経済促進法」という)第24条に規定する承認地域経済牽引事業者に該当するものが、租税特別措置法(以下「措置法」という)第42条の11の2第2項(地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の法人税額の特別控除)の規定の適用を受ける場合に作成する。
すなわちこれは、青色申告を提出する法人が、指定期間内(平成29年7月31日から令和3年3月31日までの間(※2))に、地域経済活性化に貢献する一定の事業計画に基づいた承認地域経済牽引事業について、一定の規模の機械装置、器具備品、建物及びその附属設備並びに構築物(以下「特定事業用機械等」という)を取得し、その事業の用に供したときは、その事業の用に供した日を含む事業年度において、その特定事業用機械等の基準取得価額(100億円(又は80億円)を限度とする)の2%又は4%(又は5%)(※3)の税額控除ができる制度である。
(※2、3) 平成31年度の税制改正において、本制度の適用期限が平成31年3月31日から2年延長されるとともに、主務大臣が確認を行う課税特例要件のうち、直近事業年度の付加価値額の増加率が8%以上の上乗せ要件を満たす場合には、機械装置・器具備品の投資について「50%」の特別償却もしくは「5%」の税額控除が新たに受けられることとなり、対象資産の取得価額の合計額は80億円が限度とされる改正が行われている。
本制度において適用される特別償却と税額控除の割合の一覧は次の通りである。
なお本税額控除制度は、中小企業者等以外の法人が平成30年(2018年)4月1日から令和3年(2021年)3月31日までの間に開始する各事業年度において、研究開発税制等の生産性の向上に関する特定の税額控除制度を適用しようとする場合に、以下の(イ)及び(ロ)の要件のいずれにも該当しない場合には、適用ができないことになっている。詳細は、【第35回】の解説を参考にしていただきたい。
(イ) 継続雇用者給与等支給額が前事業年度の継続雇用者給与等支給額を超えること。
(ロ) 国内設備投資額が当期償却費総額の10%を超えること。
Ⅲ 「別表6(19)」の書き方と留意点
(1) 設例
▷ 会社名:(株)プロネット工業
▷ 適用事業年度:平成31年(2019年)4月1日~令和2年(2020年)3月31日
当社は、〇✕県基本計画に基づき作成した「EV(電気自動車)向け新型モーター生産設備の確立と需要拡大へ向けての新工場建設」計画について、地域経済牽引事業として令和元年(2019年)10月1日に〇✕県から承認を受け、特例措置につき令和2年(2020年)3月1日に主務大臣から確認を受けている(ただし上乗せ要件は満たしていない)。
下記対象設備の取得(新設)はその計画(取得価額の合計額:350,000千円)に含まれている。
会社は令和2年3月期の決算において、特定事業用機械等について税額控除を適用することとした。詳細は次の通り。
▷ 業種:電気機械器具製造業
▷ 資本金:120,000千円(大企業等に該当)
▷ 法人税額:45,744,000円
対象設備①
- 建物と名称:建物(構造:軽量鉄骨造)、「〇△工場」
- 購入先:(株)ABC建設
- 取得価額:200,000千円
- 取得日:令和2年(2020年)2月15日
- 使用開始日:令和2年(2020年)2月22日
対象設備②
- 種類と名称:機械及び装置、「新型モーター生産ライン」
(耐用年数表:No.21 電気機械器具製造業用設備) - 購入先:ABC鉄工(株)
- 取得価額:150,000千円
- 取得日:令和2年(2020)2月15日
- 使用開始日:令和2年(2020)2月22日
▷ 当期の国内雇用者に対する給与等支給額:868,800,000円
(全員が雇用保険の一般被保険者に該当)
▷ 同上のうち継続雇用者に対する金額:860,000,000円
▷ 前期の国内雇用者に対する給与等支給額:778,400,000円
(全員が雇用保険の一般被保険者に該当)
▷ 同上のうち継続雇用者に対する金額:770,000,000円
▷ 当期の国内設備投資額:210,000,000円
▷ 当期の減価償却費総額:186,750,000円
▷ 当期の基準所得等の額:261,000,000円
▷ 前期の基準所得等の額:245,000,000円
(2) 今回の別表が適用される事業年度
平成31年4月1日以後終了する事業年度。
(3) 別表の記載例
(4) 別表の各記載欄の説明
〔特定税額控除規定の適用可否〕欄
本制度は、次のいずれかの要件に該当する場合に適用できる。
- 別表6(7)の〔3欄〕、〔7欄〕もしくは〔10欄〕の要件のいずれかに該当する場合
- 中小企業者もしくは農業協同組合等である場合
いずれかに該当する場合には、「可」に〇印をつける。事例では、別表6(7)の〔3欄〕と〔7欄〕に該当するので、「可」に〇印を記入(【第35回】の解説参照)(※4)。
(※4) 平成31年度税制改正を受け法人税申告書の様式が改正され、別表6(29)は別表6(7)に番号が変更となった。
〔1欄〕促進区域
地域経済牽引事業を行う促進区域を記載。事例ではそれぞれ、「〇✕県」、「同左」と記入。
〔2欄〕承認地域経済牽引事業の内容
承認地域経済牽引事業の内容について記載。事例ではそれぞれ、「新型モーターの製造」、「同左」と記入。
〔3欄〕種類、〔4欄〕構造、設備の種類又は区分、〔5欄〕細目
耐用年数省令別表に基づいて、取得した資産の種類、構造、設備の種類又は区分、細目を記載。事例ではそれぞれ、「建物」「機械及び装置」及び「軽量鉄骨造」「電気機械器具製造業用設備」並びに「〇△工場」「新型モーター生産ライン」と記入。
〔6欄〕取得年月日
当該資産を取得した年月日を記載。事例ではそれぞれ、「2020.2.15」、「2020.2.15」と記入。
〔7欄〕承認地域経済牽引事業の用に供した年月日
当該資産を承認地域経済牽引事業の用に供した年月日を記載。事例ではそれぞれ、「2020.2.22」「2020.2.22」と記入。
〔8欄〕取得価額又は製作価額
当該資産の取得価額又は製作価額を記載。事例ではそれぞれ「200,000,000」「150,000,000」と記入。
▼ 注意!▼
取得価額は、当該固定資産の購入対価のみでなく、付随費用(引取運賃や購入手数料等、購入のために要した費用)も含まれる。
〔9欄〕法人税法上の圧縮記帳による積立金計上額
法人税法第42条から第49条までの適用を受ける場合において、圧縮記帳による圧縮額を積立金として経理した場合のその積立額を記載。事例では圧縮記帳はないものとして空欄とする。
▼ 注意!▼
租税特別措置法上の圧縮記帳との重複適用は認められない。
〔10欄〕差引改定取得価額
〔8欄〕-〔9欄〕の計算結果を記載。事例ではそれぞれ「200,000,000」「150,000,000」と記入。
▼ 注意!▼
なお、一の特定地域経済牽引事業施設等を構成する機械及び装置、器具及び備品、建物及びその附属設備並びに構築物の取得価額の合計額が100億円(又は80億円)を超える場合には、(〔8欄〕-〔9欄〕)の合計額のうちに占める個々の特定事業用機械等の(〔8欄〕-〔9欄〕)の金額の割合を100億円(又は80億円)に乗じて計算した金額を記載する。
〔法人税額の特別控除額の計算〕欄
〔11欄〕取得価額の合計額
〔10欄〕に記載された各金額の合計額を記載。事例では、200,000,000+150,000,000の計算結果である「350,000,000」と記入。
〔12欄〕同上のうち機械及び装置並びに器具及び備品に係る額
〔11欄〕の金額のうち、機械及び装置並びに器具及び備品に係る額を記載。事例では「150,000,000」と記入。
〔13欄〕同上のうち地域の成長発展の基盤強化に著しく資する事業の用に供したものに係る額
〔12欄〕の金額のうち、地域の成長発展の基盤強化に著しく資する事業の用に供したものに係る額を記載。事例では該当しないとして「0」とする。
〔14欄〕税額控除限度額
(〔12欄〕-〔13欄〕)×4%+〔13欄〕×5%+(〔11欄〕-〔12欄〕)×2%の計算結果を記載(少数点以下切捨)。事例では、(150,000,000-0)×4%+0×5%+(350,000,000-150,000,000)×2%の計算結果である「10,000,000」を記入。
〔15欄〕調整前法人税額
別表1の「〔2欄〕法人税額」の金額を記載。事例では「45,744,000」と記入。
〔16欄〕当期税額基準額
〔15欄〕×20/100の計算結果を記載(少数点以下切捨)。事例では、45,744,000×20/100の計算結果である「9,148,800」を記入。
〔17欄〕当期税額控除可能額
〔14欄〕と〔16欄〕のうち少ない金額を記載。事例では、「9,148,800」を記入。
〔18欄〕調整前法人税額超過構成額
租税特別措置法第42条の13(法人税の額から控除される特別控除額の特例)の規定の適用を受ける場合には、別表6(6)の〔7の⑭欄〕の金額を記載。事例では当該特例を受けないものとして「0」とする。
〔19欄〕法人税額の特別控除額
〔17欄〕-〔18欄〕の計算結果を記載(マイナスの場合は「0」)。事例では9,148,800-0の計算結果である「9,148,800」を記入。
〔機械設備等の概要〕欄
取得した設備が特定事業用機械等に該当することの詳細を記載。この場合、この欄の記載に代えて「地域経済牽引事業の促進区域内における特定事業用機械等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表(特別償却の付表(6))」の所要欄を記載し添付することでも差し支えない。事例では当該付表(記載例は【第38回】参照、ただし〔10欄〕から〔12欄〕は空欄とする)を添付し、「特別償却の付表(6)を参照」と記入(※5)。
(※5) 本稿公開日現在、平成31年度税制改正を踏まえた特別償却の付表(6)の様式は公表されていない。
(了)
「〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方」は、毎月最終週に掲載されます。