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【STEP3】市場販売目的のソフトウェアの会計処理
市場販売目的のソフトウェアでは、最初に製品化された製品マスター完成までと完成後の時点別に会計処理を検討する。また、減価償却の検討も必要である。
(1) 最初に製品化された製品マスター完成までの会計処理
(2) 最初に製品化された製品マスター完成後の会計処理
(3) 減価償却
【留意点】
機器組込みソフトウェアについて、ソフトウェア自体を販売するものではないが、市場販売目的のソフトウェアと同様の価値又は経済効果を有すると考えられる場合には、市場販売目的のソフトウェアの会計処理に準じた会計処理を行う(「研究開発費及びソフトウェアに関する会計処理Q&A」(以下、「Q&A」という)Q18)。
(1) 最初に製品化された製品マスター完成までの会計処理
市場販売目的のソフトウェアの制作に係る研究開発の終了時点は、製品番号を付すこと等により販売の意思が明らかにされた製品マスター、すなわち「最初に製品化された製品マスター」の完成時点である(会計制度委員会報告第12号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(以下、「指針」という)8)。
以上をまとめると、以下のようになる(指針32)。
【研究開発の終了時点】
① 製品マスターについて販売の意思が明らかにされていること
② 最初に製品化された製品マスターが完成すること
① 製品マスターについて販売の意思が明らかにされていること
販売の意思が明らかにされる時点とは、製品マスターの完成の前後にかかわらず、当該製品を市場で販売することを意思決定した時点が考えられる。例えば、製品番号を付す、又はカタログに載せるなどの方法で、市場で販売する意思が明確に確認できるようになった時点などがある(指針32)。
② 最初に製品化された製品マスターが完成すること
最初に製品化された製品マスターの完成時点は、具体的には以下によって判断する(指針8)。
最初に製品化された製品マスターが完成する時点までの制作活動は研究開発と考えられるため、ここまでに発生した費用は「研究開発費」として発生時に費用処理する(指針8)。
研究開発費は、当期製造費用として処理されたものを除き、一般管理費に表示する(意見書四1)。以下も同様である。
(2) 最初に製品化された製品マスター完成後の会計処理
最初に製品化された製品マスター完成後では、資産計上する項目と、費用処理する項目がある。また、原価計算が必要となる。
① 資産計上又は費用処理
費用項目により、会計処理(資産計上か、費用計上か)が異なる。
(ⅰ) 製品マスター又は購入したソフトウェアの機能の改良・強化を行う制作活動(著しい改良を除く)のための費用
製品マスター(下記②参照)又は購入したソフトウェアの機能の改良・強化を行う制作活動(著しい改良を除く)のための費用は、原則として無形固定資産として資産に計上する(指針9、35)。
具体的な会計処理の流れは、以下のとおりである(指針35)。
- 製品マスターの制作原価を製造原価に含める。
- 製造原価から製品マスターの仕掛品及び完成品を無形固定資産(※)へ振り替える。
- 製品マスター(無形固定資産)の減価償却費は売上原価に計上する(下記(3)参照)。
- 製品としてのソフトウェアで販売されなかったもの及び複写等制作途上のものについては、棚卸資産の仕掛品として計上する(下記(ⅳ)参照)(製品マスター(無形固定資産)の償却費は配分されるべき原価が確定しないため仕掛品の原価には含めない)。
(※) 製品マスターの制作原価は、仕掛品についてはソフトウェア仮勘定(無形固定資産)などの勘定科目を用いる。一方、完成品についてはソフトウェア(無形固定資産)などの勘定科目を用いる(指針10)。
なお、財務諸表上の表示に当たっては製品マスターの制作仕掛品と完成品を区分することなく一括してソフトウェアその他当該資産を示す名称を付した科目で表示する。しかし、仕掛品に重要性がある場合にはこれを区分して表示することが望ましい(指針10)。
(ⅱ) 製品マスター又は購入したソフトウェアの機能の著しい改良を行うための費用
著しい改良(※)と認められる場合は、著しい改良が終了するまでは上記(1)の研究開発の終了時点に達していないこととなるため、「研究開発費」として発生時に費用処理する(指針9)。
(※) 著しい改良とは、研究及び開発の要素を含む大幅な改良を指しており、完成に向けて相当程度以上の技術的な困難が伴うものである(指針33)。
具体的な例として、機能の改良・強化を行うために主要なプログラムの過半部分を再制作する場合、ソフトウェアが動作する環境(オペレーションシステム、言語、フォームなど)を変更・追加するために大幅な修正が必要になる場合などがある(指針33)。
(ⅲ) ソフトウェアの機能維持に要した費用
バグ取り等、ソフトウェアの機能維持に要した費用は、機能の改良・強化を行う制作活動には該当しないため、発生時に費用処理する(意見書三3(3)②)。
(ⅳ) 製品としてのソフトウェアの制作原価
製品としてのソフトウェアの制作原価(ソフトウェアの保存媒体のコスト、製品マスターの複写に必要なコンピュータ利用等の経費等)については、製造原価(棚卸資産)として計上する(Q&A Q11)。
〈まとめ〉
② 原価計算
製品マスターについては、適正な原価計算によってその取得原価を算定する(指針10)。
したがって、材料費、労務費、外注費・減価償却費等の経費を集計する必要がある。
《設例》
- 当期首から市場販売目的用にソフトウェアを制作した。
- 製品マスターの製造原価は、材料費1,000、労務費300、外注費500で合計1,800であった。
- 製品マスターは当期の途中で完成し、当期の販売したソフトウェアに対応する減価償却費は、150であった。
- またソフトウェアを販売するために、材料費20、労務費20、経費60の合計100発生し、その内、30は当期に販売していない部分である。
当期の会計処理は、以下のとおりである。
(1) 無形固定資産の計上
(2) 減価償却費の計上
(3) 仕掛品の計上
(3) 減価償却
① 減価償却の基本
市場販売目的のソフトウェアに関しては、ソフトウェアの性格に応じて最も合理的と考えられる減価償却の方法を採用する必要がある。合理的な償却方法としては、「見込販売数量に基づく方法」のほか、「見込販売収益に基づく償却方法」も認められる(指針18)。
毎期の減価償却額は、残存有効期間(販売可能期間)に基づく均等配分額を下回ってはならない(指針18)。
したがって、毎期の減価償却額は、見込販売数量(又は見込販売収益(以下、「見込販売数量等」という))に基づく償却額と残存有効期間に基づく均等配分額とを比較し、いずれか大きい額を計上する。
この場合、当初における残存有効期間の見積りは、原則として3年以内の年数までである。3年を超える年数とするときには、合理的な根拠に基づくことが必要である(指針18)。
② 見込販売数量(又は見込販売収益)の見直し
無形固定資産として計上したソフトウェアの取得原価を見込販売数量等に基づき減価償却を実施する場合、見込販売数量等は毎期変動する可能性があるため、毎期、翌期以降の見込販売数量等の見直しを行う必要があるか(変更する必要があるか)検討する必要がある(指針19)。
例えば、新たに入手可能となった情報に基づいて当第2四半期会計期間末において見込販売数量等を変更した場合には、以下の計算式により当第2四半期累計期間及び当第3四半期以降の減価償却額を算定する(指針19)。
(計算式)
なお、販売期間の経過に伴い、減価償却を実施した後の未償却残高が翌期以降の見込販売「収益」の額を上回った場合、当該超過額は一時の費用又は損失として処理する(指針20)。
この後は、【STEP5】を検討する。
市場販売目的のソフトウェアの売上計上(収益認識)において、以下の点について留意が必要である。
【留意点】
① 複合取引
② 総額表示
① 複合取引
市場販売目的のソフトウェアにおける複合取引とは、例えば、ソフトウェア販売に保守サービスやユーザー・トレーニング・サービスが含まれている場合やソフトウェア・ライセンス販売(使用許諾)にアップグレードの実施が含まれている場合(実取3)が挙げられる。
各取引の販売時点が異なっているにもかかわらず、一方の財の販売時に、他方の財の収益を同時に認識してしまうと、収益認識時点に関して問題が生じる場合がある(実取3)。
複合取引の場合、収益認識時点が異なる複数の取引が1つの契約とされていても、管理上の適切な区分に基づき、販売する財又は提供するサービスの内容や各々の金額の内訳が顧客(ユーザー)との間で明らかにされている場合、契約上の対価を適切に分解して、機器(ハードウェア)やソフトウェアといった財については各々の成果物の提供が完了した時点で、また、サービスについては提供期間にわたる契約の履行に応じて収益を認識する(実取3)。 一方、顧客(ユーザー)との間で金額の内訳が明らかにされていない場合でも、管理上の適切な区分に基づき契約上の対価を分解して、各々の販売時点において収益認識することができる(実取注9)。
なお、財とサービスの複合取引であっても、一方の取引が他方の主たる取引に付随して提供される場合には、その主たる取引の収益認識時点に一体として会計処理することができる(実取3)。
② 総額表示
複数の企業を介する情報サービス産業におけるソフトウェア関連取引において、委託販売で手数料収入のみを得ることを目的とする取引の代理人のように、仕入及び販売に関して通常負担すべき様々なリスク(瑕疵担保、在庫リスク、信用リスクなど)を負っていない場合、収益の「総額」表示は適切でない(実取4)。このような場合、収益を「純額」で表示する。
取引の例示については、【STEP2】⑥を参照されたい。