公開日: 2014/01/09 (掲載号:No.51)
文字サイズ

平成25年分 確定申告実務の留意点 【第1回】「平成25年分の申告から適用される改正事項①」

筆者: 篠藤 敦子

平成25年分

確定申告実務の留意点

【第1回】

「平成25年分の申告から適用される改正事項①」

 

公認会計士・税理士 篠藤 敦子

 

平成25年分の確定申告の受付は、平成26年2月17日(月)から3月17日(月)まで行われる。還付申告については、2月16日以前であっても行うことができる。

これから4回にわたり、平成25年分の確定申告における実務上の留意点を解説する。第1回目は、今回の確定申告から適用される改正事項の中から、給与所得に関係するものを取り上げる。

なお、給与所得者の確定申告に関する基本的事項については、拙稿「平成24年分 確定申告実務の留意点【第1回】『確定申告の種類と給与所得者の申告』」をご参照いただきたい。

 

(1) 給与所得控除の上限設定

給与等の収入金額が1,500万円を超える場合の給与所得控除額は、一律245万円となった(所法28③)。

改正内容の詳細については、拙稿「〈平成25年分〉おさえておきたい年末調整のポイント【第1回】『給与所得控除の上限設定』」をご覧いただきたい。

改正前は、給与等の収入金額が増加すると比例的に給与所得控除額も増加する仕組みとなっていたが、今回の改正により給与等の収入金額が1,500万円を超える場合には、給与所得控除額が245万円で固定される。

したがって、給与等の収入金額が1,500万円を超える者については、下記の通り給与等の収入金額が増加するにつれ、改正前に比べ所得税額が増加することとなる。

*所得控除額の合計額を340万円と仮定し試算している。復興特別所得税は考慮していない。

 

(2) 特定支出控除の見直し

給与所得者の特定支出控除について、適用の判定基準及び適用対象となる支出の範囲に見直しが行われた。

① 制度の概要

給与所得者が一定の支出(以下「特定支出」という)をし、1年間の特定支出の合計額が一定金額(以下「判定基準額」という)を超える場合には、その超える部分の金額を給与所得控除後の給与等の金額から差し引くことができる(所法57の2①)。

つまり、特定支出控除を適用した場合の給与所得の金額は、次のように計算される。

給与所得=給与等の収入金額-給与所得控除額-(特定支出の合計額-判定基準額

特定支出控除の適用を受けるためには、確定申告をする必要がある。申告書には、「給与所得者の特定支出に関する明細書(平成25年分以降用)」及び給与等の支払者の証明書を添付し、特定支出について支出の事実及び金額を証明する書類(領収証等)を添付又は提示しなければならない(所法57の2③、④、所令167の5、所規36の5)。

② 改正点:その1(判定基準額の引下げ)

改正前は、特定支出の合計額が給与所得控除額を上回った場合に限り、その超過額を追加で控除することができた。

改正後は、特定支出の合計額が給与所得控除額の2分の1相当額(給与等の収入金額が1,500万円を超える場合は125万円)を上回れば、その超過分を追加で控除できることとなり、改正前に比べ制度を利用できる機会が拡大した。

〈改正前と改正後の判定基準額の比較〉
 

例えば、給与等の収入金額500万円、特定支出の合計額100万円の場合、改正前と改正後の給与所得を比べると次の通りとなる。

〈改正前〉

(ア) 給与所得控除額:154万円

(イ) 特定支出の合計額-判定基準額:0円(100万円-(ア)<0円 ∴0円)

(ウ) 給与所得:346万円(給与等の収入金額500万円-(ア)-(イ))

〈改正後〉

(ア) 給与所得控除額:154万円

(イ) 特定支出の合計額-判定基準額:23万円(100万円-(ア)×1/2)

(ウ) 給与所得:323万円(給与等の収入金額500万円-(ア)-(イ))

③ 改正点:その2(特定支出の範囲の拡大)

特定支出の範囲は、次の6つに限定されている(所法57の2②)。
このうち、平成25年分の申告から、(エ)資格取得費の範囲が拡大され、(カ)勤務必要経費が新たに追加された。

(ア) 通勤費
(イ) 転居費
(ウ) 研修費
(エ) 資格取得費 ← 範囲拡大
(オ) 帰宅旅費
(カ) 勤務必要経費(上限65万円)← 新規追加

【資格取得費の範囲の拡大】
平成25年分以後は、資格取得費の範囲に、人の資格を取得するための支出(弁護士、公認会計士、税理士等の資格を取得するために専門学校に通った場合の支出等)が含まれることとなった(所法57の2②四)。

【勤務必要経費の新規追加】
平成25年分以後は、職務と関連のある書籍や新聞、雑誌等の購入費(図書費)、制服や事務服、作業服の購入費(衣服費)、交際費や接待費(交際費等)が新たに特定支出として扱われることとなった(所法57の2②六、所令167の3⑤⑥)。
ただし、勤務必要経費については65万円が限度となる。

なお、特定支出については、次の点にも注意が必要である。

給与等の支払者により証明されたものに限られること。

給与等の支払者から補填される部分があり、かつ、その補填される部分に所得税が課されていないときは、補填される部分は特定支出の範囲から除かれること。

実際に支払った年のものであること。

*   *   *

次回は、給与所得以外の所得に関係する改正事項を取り上げる予定である。

〔凡例〕
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所規・・・所得税法施行規則
(例)所法57の2②四・・・所得税法第57条の2第2項第4号

(了)

平成25年分

確定申告実務の留意点

【第1回】

「平成25年分の申告から適用される改正事項①」

 

公認会計士・税理士 篠藤 敦子

 

平成25年分の確定申告の受付は、平成26年2月17日(月)から3月17日(月)まで行われる。還付申告については、2月16日以前であっても行うことができる。

これから4回にわたり、平成25年分の確定申告における実務上の留意点を解説する。第1回目は、今回の確定申告から適用される改正事項の中から、給与所得に関係するものを取り上げる。

なお、給与所得者の確定申告に関する基本的事項については、拙稿「平成24年分 確定申告実務の留意点【第1回】『確定申告の種類と給与所得者の申告』」をご参照いただきたい。

 

(1) 給与所得控除の上限設定

給与等の収入金額が1,500万円を超える場合の給与所得控除額は、一律245万円となった(所法28③)。

改正内容の詳細については、拙稿「〈平成25年分〉おさえておきたい年末調整のポイント【第1回】『給与所得控除の上限設定』」をご覧いただきたい。

改正前は、給与等の収入金額が増加すると比例的に給与所得控除額も増加する仕組みとなっていたが、今回の改正により給与等の収入金額が1,500万円を超える場合には、給与所得控除額が245万円で固定される。

したがって、給与等の収入金額が1,500万円を超える者については、下記の通り給与等の収入金額が増加するにつれ、改正前に比べ所得税額が増加することとなる。

*所得控除額の合計額を340万円と仮定し試算している。復興特別所得税は考慮していない。

 

(2) 特定支出控除の見直し

給与所得者の特定支出控除について、適用の判定基準及び適用対象となる支出の範囲に見直しが行われた。

① 制度の概要

給与所得者が一定の支出(以下「特定支出」という)をし、1年間の特定支出の合計額が一定金額(以下「判定基準額」という)を超える場合には、その超える部分の金額を給与所得控除後の給与等の金額から差し引くことができる(所法57の2①)。

つまり、特定支出控除を適用した場合の給与所得の金額は、次のように計算される。

給与所得=給与等の収入金額-給与所得控除額-(特定支出の合計額-判定基準額

特定支出控除の適用を受けるためには、確定申告をする必要がある。申告書には、「給与所得者の特定支出に関する明細書(平成25年分以降用)」及び給与等の支払者の証明書を添付し、特定支出について支出の事実及び金額を証明する書類(領収証等)を添付又は提示しなければならない(所法57の2③、④、所令167の5、所規36の5)。

② 改正点:その1(判定基準額の引下げ)

改正前は、特定支出の合計額が給与所得控除額を上回った場合に限り、その超過額を追加で控除することができた。

改正後は、特定支出の合計額が給与所得控除額の2分の1相当額(給与等の収入金額が1,500万円を超える場合は125万円)を上回れば、その超過分を追加で控除できることとなり、改正前に比べ制度を利用できる機会が拡大した。

〈改正前と改正後の判定基準額の比較〉
 

例えば、給与等の収入金額500万円、特定支出の合計額100万円の場合、改正前と改正後の給与所得を比べると次の通りとなる。

〈改正前〉

(ア) 給与所得控除額:154万円

(イ) 特定支出の合計額-判定基準額:0円(100万円-(ア)<0円 ∴0円)

(ウ) 給与所得:346万円(給与等の収入金額500万円-(ア)-(イ))

〈改正後〉

(ア) 給与所得控除額:154万円

(イ) 特定支出の合計額-判定基準額:23万円(100万円-(ア)×1/2)

(ウ) 給与所得:323万円(給与等の収入金額500万円-(ア)-(イ))

③ 改正点:その2(特定支出の範囲の拡大)

特定支出の範囲は、次の6つに限定されている(所法57の2②)。
このうち、平成25年分の申告から、(エ)資格取得費の範囲が拡大され、(カ)勤務必要経費が新たに追加された。

(ア) 通勤費
(イ) 転居費
(ウ) 研修費
(エ) 資格取得費 ← 範囲拡大
(オ) 帰宅旅費
(カ) 勤務必要経費(上限65万円)← 新規追加

【資格取得費の範囲の拡大】
平成25年分以後は、資格取得費の範囲に、人の資格を取得するための支出(弁護士、公認会計士、税理士等の資格を取得するために専門学校に通った場合の支出等)が含まれることとなった(所法57の2②四)。

【勤務必要経費の新規追加】
平成25年分以後は、職務と関連のある書籍や新聞、雑誌等の購入費(図書費)、制服や事務服、作業服の購入費(衣服費)、交際費や接待費(交際費等)が新たに特定支出として扱われることとなった(所法57の2②六、所令167の3⑤⑥)。
ただし、勤務必要経費については65万円が限度となる。

なお、特定支出については、次の点にも注意が必要である。

給与等の支払者により証明されたものに限られること。

給与等の支払者から補填される部分があり、かつ、その補填される部分に所得税が課されていないときは、補填される部分は特定支出の範囲から除かれること。

実際に支払った年のものであること。

*   *   *

次回は、給与所得以外の所得に関係する改正事項を取り上げる予定である。

〔凡例〕
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所規・・・所得税法施行規則
(例)所法57の2②四・・・所得税法第57条の2第2項第4号

(了)

連載目次

〈確定申告実務の留意点〉

筆者紹介

篠藤 敦子

(しのとう・あつこ)

公認会計士・税理士

津田塾大学卒業
1989年 公認会計士試験第二次試験合格
1994年 朝日監査法人(現 あずさ監査法人)退社後、個人事務所を開業し、会計と税務実務に従事。
2008年より甲南大学社会科学研究科会計専門職専攻教授(2016年3月まで)
2010年より大阪電気通信大学金融経済学部非常勤講師

【著書等】
・『マンガと図解/新・くらしの税金百科』共著(清文社)
・『会計学実践講義』共著
・『日商簿記1級徹底対策ドリル 商業簿記・会計学編』共著(以上、同文舘出版)
・『148の事例から見た是否認事項の判断ポイント』共著(税務経理協会)
・「不動産取引を行った場合」『税経通信』2012年3月号(103-109頁)

【過去に担当した研修、セミナー】
SMBCコンサルティング、日本経済新聞社、日本賃金研究センター
社団法人大阪府工業協会、西日本旅客鉄道株式会社、社団法人埼玉県経営者協会
大阪法務局

関連書籍

申告所得税取扱いの手引

公益財団法人 納税協会連合会 編集部 編

源泉所得税取扱いの手引

公益財団法人 納税協会連合会 編集部 編

源泉所得税の実務

早子 忠 編

新・くらしの税金百科 2025→2026

公益財団法人 納税協会連合会 編

税務・労務ハンドブック

公認会計士・税理士 井村 奨 著 税理士 山口光晴 著 税理士 濱 林太朗 著 特定社会保険労務士 佐竹康男 著 特定社会保険労務士 井村佐都美 著

令和7年度版 税務コンパクトブック

株式会社プロフェッションネットワーク 編著

演習所得税法

公益社団法人 全国経理教育協会 編

税理士のための 確定申告事務必携

堀 三芳 著 勝山武彦 著

住宅ローン控除・住宅取得資金贈与のトクする確定申告ガイド

みどり税理士法人 税理士 塚本和美 著

所得税実務問答集

太田真規 編

金融・投資商品の税務Q&A

PwC税理士法人 税理士 箱田晶子 著 税理士 高木 宏 著 税理士 西川真由美 著

プロフェッショナル 所得税の実務

税理士 山形富夫 著

事例で学ぶ暗号資産・NFT・メタバースの会計税務Q&A70選

税理士 延平昌弥 著 税理士 山田誠一朗 著 税理士 髙橋健悟 著 税理士 藤原琢也 著 税理士 田村光裕 著 税理士 山中朋文 著

あなたが払う税金はざっくり言ってこれくらい

やさか税理士法人 税理士 磯山仁志 著
#