〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A
【第19回】
「2以上の居住用宅地等がある場合の特定居住用宅地等の特例」
税理士 柴田 健次
[Q]
被相続人である甲は、下記の通りAマンション、B宅地及び家屋、Cマンション、Dマンションを所有していましたが、このうち、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例を受けることができるのはどの宅地でしょうか。甲の相続人は、生計を一にしている配偶者である乙、生計を一にしている長男である丙(大学生)、生計を一にしている二男である丁(大学生)の3人です。土地及び家屋については、全て乙が相続で取得しています。
甲、乙、丙及び丁の宅地の利用状況は、下記の通りです。
① 甲は転勤中であり、平日は職場の近くである都内のAマンションで過ごし、週末はB宅地及び家屋で乙と過ごしていました。Aマンションは、都内のワンルームマンションで賃貸用として甲が購入したものですが、甲の転勤中に空き家となったため、転勤中の期間のみ使用する目的で利用しています。甲の転勤が終わった後は、第三者に賃貸する予定でしたが、転勤中に死亡しています。
② 乙は職場の近くであるB宅地及び家屋に居住しています。
③ 丙は、東京の大学の近くであるCマンションに居住していますが、週末の時間のある時にB宅地及び家屋で家族と過ごしています。丙は、大学4年で就職も決まっており、引き続き、Cマンションに居住する予定です。
④ 丁は、大学2年生であり京都の大学の近くであるDマンションに居住しています。年末年始のみB宅地及び家屋で家族と過ごしています。
[A]
B宅地とC及びDマンションの敷地については、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることができますが、Aマンションの敷地については、特例の適用を受けることができません。◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆
1 特定居住用宅地等の意義
被相続⼈⼜は当該被相続⼈と⽣計を⼀にしていた当該被相続⼈の親族(以下「被相続人等」という)の居住の⽤に供されていた宅地等(当該宅地等が2以上ある場合には、政令で定める宅地等に限る)で、当該被相続⼈の配偶者⼜は一定の要件を満たす当該被相続⼈の親族(当該被相続⼈の配偶者を除く)が相続⼜は遺贈により取得したものをいいます(措法69の4③二)。
上記の政令で定める宅地等とは、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれに定める宅地等とされています(措令40の2⑪)。
2 一の宅地等の判定(生活の本拠の判定)
被相続⼈等の居住の⽤に供されていた宅地等が2以上ある場合には、当該被相続⼈等が主としてその居住の⽤に供していた⼀の宅地等に限られます。「主としてその居住の用に供していた一の宅地等に限る」の制限は、平成22年度の税制改正によって、改正されたものです。改正前においても相続人の居住の継続という制度趣旨から主として居住の用に供されていた一の宅地等に限るものと解されていましたが、法令で明文化されていなかったため、平成22年度の改正で明確化されました。
具体的な判断基準は、法令や通達に明文化されていませんが、国税庁質疑応答事例において、「被相続人等の居住の用に供されていたかどうかは、基本的には、被相続人等が、その宅地等の上に存する建物に生活の拠点を置いていたかどうかにより判定すべきものと考えられ、その具体的な判定に当たっては、その者の日常生活の状況、その建物への入居目的、その建物の構造及び設備の状況、生活の拠点となるべき他の建物の有無その他の事実を総合勘案して判定する」とされています。
この国税庁質疑応答事例は、所得税法における居住用家屋の範囲を定めた租税特別措置法関係通達31の3―2(居住用家屋の範囲)と同意義であり、その通達の方が詳細に記載されていますので、以下で確認しておきましょう。
租税特別措置法関係通達31の3―2(居住用家屋の範囲)
措置法第31条の3第2項に規定する「その居住の用に供している家屋」とは、その者が生活の拠点として利用している家屋(一時的な利用を目的とする家屋を除く。)をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等(社会通念に照らしその者と同居することが通常であると認められる配偶者その他の者をいう。以下この項において同じ。)の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定する。この場合、この判定に当たっては、次の点に留意する。
(1) 転勤、転地療養等の事情のため、配偶者等と離れ単身で他に起居している場合であっても、当該事情が解消したときは当該配偶者等と起居を共にすることとなると認められるときは、当該配偶者等が居住の用に供している家屋は、その者にとっても、その居住のように供している家屋に該当する。
(注) これにより、その者が、その居住の用に供している家屋を2以上所有することとなる場合には、措置法令第20条の3第2項の規定により、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋のみが、措置法第31条の3第1項の規定の対象となる家屋に該当することに留意する。
(2) 次に掲げるような家屋は、その居住の用に供している家屋には該当しない。
イ 措置法第31条の3第1項の規定の適用を受けるためのみの目的で入居したと認められる家屋、その居住の用に供するための家屋の新築期間中だけの仮住まいである家屋その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
(注) 譲渡した家屋に居住していた期間が短期間であっても、当該家屋への入居目的が一時的なものでない場合には、当該家屋は上記に掲げる家屋には該当しない。
ロ 主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で有する家屋
3 本問への当てはめ
本問の場合には、甲、乙、丙及び丁の生活の本拠がどこであるのかが問題となりますが、それぞれ下記の通りとなります。
◆甲の生活の本拠
下記の理由によりB宅地及び家屋が甲の生活の本拠になると考えられます。
- Aマンションが甲の転勤中の一時的な利用を目的としていること
- 甲及び乙の日常生活の状況を考慮すれば、乙宅地が生活の本拠であると考えられること
- Aマンションがファミリー向けマンションではないこと
週の利用日数のみで考えた場合には、Aマンションが甲の生活の本拠になるとの考え方もありますが、単純に利用日数のみで決まるものではなく、甲及び乙の日常生活の状況、その建物への入居目的、その建物の構造及び設備の状況、生活の拠点となるべき他の建物の有無その他の事実を総合勘案すれば、B宅地及び家屋が甲の生活の本拠になると考えられます。
◆乙の生活の本拠
B宅地及び家屋が乙の生活の本拠となります。
◆丙の生活の本拠
Cマンションが丙の生活の本拠となります。
なお、被相続人等の居住の⽤に供されていた宅地等に該当するかどうかは、相続開始の直前において判定することとされています(措法69の4①)が、生活の本拠の具体的な判定においては、その家屋への入居目的や一時的な利用であるか否かも確認することになりますので、相続後の家屋の状況も考慮して総合的に判断することになるかと思います。本問の場合には、大学在学中も卒業後も含めてCマンションに居住する予定ですので、丙の生活の本拠はCマンションとなります。
◆丁の生活の本拠
Dマンションが丁の生活の本拠となります。
なお、生計を一にする親族が2⼈以上ある場合には、当該親族ごとにそれぞれ主としてその居住の⽤に供していた⼀の宅地等を判定する点にも注意をしておきましょう。
本問の場合には、配偶者が土地及び家屋を取得しており、配偶者は居住要件等がありませんので、B宅地、C及びDマンションの敷地の全てについて、限度面積の範囲内で特例を受けることができます。
★実務上のポイント★
生活の本拠の判断は、実務上、迷うことも少なくないですが、被相続人等の日常生活の状況、その建物の入居目的、その建物の構造及び設備の状況、生活の拠点となるべき他の建物の有無等を確認することが重要となります。
〔凡例〕
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
(例)措法69の4①・・・租税特別措置法第69条の4第1項
(了)
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