〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A
【第24回】
「主である建物と附属建物がある場合の特定居住用宅地等の特例の適否」
税理士 柴田 健次
[Q]
被相続人である甲(相続開始は令和4年2月1日)は、下記の宅地(330㎡)の上にA建物及びB建物を所有していました。A建物は主である建物120㎡、附属建物50㎡となっており、被相続人及びその配偶者乙が主である建物に居住し、附属建物は、離れ家のトイレと部屋のみであり、長男丙及び丙の配偶者の寝室として利用していました。B建物は丙と丙の配偶者及び子が居住の用に供していました。甲の推定相続人は、乙及び丙の2人であり、乙がA建物及び上記土地の2分の1を取得し、丙がB建物及び上記土地の2分の1を取得しています。丙は被相続人と生計を別にしている親族に該当します。
区分登記がされていない建物である場合には、被相続⼈⼜は被相続⼈の親族の居住の⽤に供されていた部分が被相続人の居住用宅地等として取り扱うこととされていますので、乙及び丙が取得した宅地等のうち、A建物の敷地部分は特例の対象になると考えていいでしょうか。
[A]
A建物のうち主である建物の敷地部分については、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下単に「特例」という)の対象になりますが、附属建物の敷地部分については、特例の対象にすることはできません。乙は取得した宅地等のうち、A建物に係る主である建物の敷地部分のみ特例の適用を受けることができますが、丙は取得者の要件を満たしていませんので、特例の適用を受けることはできません。
◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆
1 特定居住用宅地等の意義
被相続⼈⼜は当該被相続⼈と⽣計を⼀にしていた当該被相続⼈の親族(以下「被相続人等」という)の居住の⽤に供されていた宅地等(当該宅地等が2以上ある場合には、政令で定める宅地等に限る。「第19回で解説」)で、当該被相続⼈の配偶者⼜は一定の要件を満たす当該被相続⼈の親族(当該被相続⼈の配偶者を除く)が相続⼜は遺贈により取得したものをいいます(措法69の4③二)。
なお、被相続人の居住の用に供されていた建物が一棟の建物(区分所有建物である旨の登記がされている建物を除く)である場合には、その一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等として取り扱います(措令40の2④、措通69の4-7)。
一定の要件を満たす被相続人の親族は、下記のいずれかを満たす親族をいいます。
(1) 同居親族
当該親族が相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物(当該被相続⼈、当該被相続⼈の配偶者⼜は当該親族の居住の⽤に供されていた部分として政令で定める部分に限る)に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること。
政令で定める部分とは、次に掲げる場合の区分に応じてそれぞれに定める部分をいいます(措令40の2⑬、措通69の4-7の4)。
(2) 別居親族
当該親族が次に掲げる要件の全てを満たすこと(措令40の2⑭⑮、措規23の2④)。
① 次に掲げる納税義務者であること
- 居住無制限納税義務者(相法1の3①一)
- 非居住無制限納税義務者(相法1の3①二)
- 非居住制限納税義務者(相法1の3①四)のうち日本国籍を有する者
② 被相続人に配偶者がいないこと。
③ 相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと。
④ 相続開始前3年以内に日本国内にある当該親族、当該親族の配偶者、当該親族の三親等内の親族又は当該親族と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く)に居住したことがないこと。
⑤ 相続開始時に、当該親族が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと。
⑥ その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること。
(3) 生計一親族
当該親族が当該被相続⼈と⽣計を⼀にしていた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を⾃⼰の居住の⽤に供していること。
2 一棟の建物の意義
一棟の建物の定義は、相続税や租税特別措置法等において明らかにされていませんが、登記ができる建物の要件として、不動産登記規則111条では「建物は、屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものでなければならない。」とされています。
なお、登記上の「1個の建物」として登記されるべきものには、下記の3つがあります。
(1) 建物が一棟の建物として登記されるべきもの
(2) 数棟の建物であるが主である建物と附属建物の関係にあるもの
(3) 一棟の建物であるが構造上区分可能であるものとして区分建物としたもの
上記(2)については不動産登記事務取扱手続準則78条1項において「効用上一体として利用される状態にある数棟の建物は、所有者の意思に反しない限り、1個の建物として取り扱うものとする。」とされており、主である建物と附属建物は、登記上は1個として扱うことができます。
上記(3)については、建物の区分所有等に関する法律1条において、「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。」とされており、構造上区分可能である場合には、区分登記の選択ができることとされています。
一棟の建物は、登記上の「1個の建物」ではなく、あくまでも「一棟の建物」ですので、通常は、上記の不動産登記規則111条に記載の建物を一棟の建物として考えることになるかと思います。
3 本問への当てはめ
本問の場合には、入口の要件として被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当するのか、出口の要件として取得者の要件を確認することになります。
(1) 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の該当部分の判定
特例は、相続開始の直前において、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等が対象とされ、被相続人等の居住の用に供されていない部分は除外することとされています(措令40の2④)。被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当するかどうかについては、一棟の建物ごとに判定すると記載されてはいませんので、あくまでも被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当するかどうかを基準として考えます。
したがって、物置や母屋がある場合でも被相続人等が居住用家屋と一体として利用されている部分の敷地は、特例の対象になりますが、被相続人等が居住用家屋と一体で利用されていない物置や母屋がある場合には、その部分は特例の対象にならないことになります。
本問の場合のように主である建物に被相続人等が居住し、附属建物は生計を別にする親族が利用している場合には、附属建物の敷地部分については、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当しませんので、附属建物の敷地部分については特例の対象にすることはできません。
なお、区分登記がされていない建物である場合には、被相続⼈⼜は被相続⼈の親族の居住の⽤に供されていた部分が被相続人の居住用宅地等として取り扱うこととされていますが、その取扱いは、あくまでも⼀棟の建物内の取扱いであり、附属建物の取扱いではありませんので、混同しないように留意する必要があります。
(2) 取得者の要件
配偶者である乙については、取得者の要件はありませんので、乙は取得した宅地等のうち、被相続人等の居住の用に供していたと認められるA建物の主である建物の敷地部分のみ特例の適用を受けることができます。
一方の丙については、上記1の(1)同居親族に記載している「一棟の建物に居住していた者」に該当せず、同居親族の要件は満たしていません。また、上記1(2)②及び④の別居親族の要件も満たしていないことになります。したがって、丙は取得者の要件を満たしていませんので、特例の適用を受けることはできません。
★実務上のポイント★
区分登記されていない建物については、その一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等として取り扱いますが、この場合の一棟の建物は、登記上の1個の建物を意味するわけではありませんので、附属建物がある場合と混同しないように注意する必要があります。
〔凡例〕
措法・・・租税特別措置法
相法・・・相続税法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
(例)措法69の4①・・・租税特別措置法第69条の4第1項
(了)
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