各ステップに移動する場合はこちらをクリック
【STEP2】業績条件達成又は不達成の場合の会計処理
【STEP2】では、(1)業績条件達成の場合と(2)不達成の場合の会計処理について検討する。
(1) 業績条件達成の場合
提供された役務等に対する金銭債権等は、業績条件が達成された時点で現物出資として払い込まれる。したがって、業績評価期間中は【STEP1】(2)のとおり、負債(引当金等)に計上しておき、業績条件が達成された場合、役員等に付与された金銭債権等が現物出資されて株式が発行され、その時点で負債から資本に振り替えるような会計処理を行うことが考えられる(研究報告Ⅵ6.(3)①ウ)。
具体的には、業績条件が達成された場合、負債(引当金)を金銭債務等の確定債務に振り替え、付与した金銭報酬債権は、現物出資として払い込まれるため、金銭債権等と資本金を認識する。
なお、自社に対する金銭債権等が現物出資により払い込まれるため、金銭債権等と金銭債務等は混同により消滅する(研究報告Ⅵ6.(3)①ウ)。
(2) 業績条件が不達成の場合
業績条件を達成できなかった場合、株式の発行(又は自己株式の処分)は行われないため、負債として計上した金額を株式報酬費用等を相手勘定として振り戻すことが考えられる(研究報告Ⅵ6.(3)①エ)。
《設例》
3月決算の会社で、業績連動報酬制度を導入した。
〈前提条件〉
- 対象者:取締役1名
- 職務執行期間:X10年7月~X13年6月
- 条件:目標連結営業利益3年間(X11年3月期からX13年3月期の)累計で300億円
- 基準交付株式数:10,000株
- 交付株式数:基準交付株式数 × 業績連動係数(= 連結営業利益実績 ÷ 目標連結営業利益)
- 金銭債権の算定:X13年7月の取締役会において交付株式数に取締役会決議の前日の株価を乗じて決定する。なお、払込資本は全額、資本金とする。
▷ X11年3月期の連結営業利益(実績):100億円
▷ X11年3月期におけるX12年3月期の予想連結営業利益:120億円
▷ X11年3月期におけるX13年3月期の予想連結営業利益:130億円
▷ X12年3月期の連結営業利益(実績):110億円
▷ X12年3月期におけるX13年3月期の予想連結営業利益:130億円
▷ X13年3月期の連結営業利益(実績):140億円
▷ 株価:X11年3月期 100円、X12年3月期 110円、X13年3月期 130円、X13年7月の取締役会決議の前日 150円
〈会計処理〉
1 X11年3月期
(※1) 基準交付株式数10,000株 × 業績連動係数1.17(※2) × 株価100円 × 対象者1名 ×(職務執行期間9ヶ月 ÷ 36ヶ月)= 292,500
(※2) 業績連動係数1.17 =(X11年3月期実績100億円 + X12年3月期予想120億円 + X13年3月期予想130億円)÷ 目標連結営業利益300億円
2 X12年3月期
(※3) 基準交付株式数10,000株 × 業績連動係数1.13(※4)× 株価110円 × 対象者1名 ×(職務執行期間21ヶ月 ÷ 36ヶ月)- X11年3月期株式報酬292,500円 = 432,583
(※4) 業績連動係数1.13 =(X11年3月期実績100億円 + X12年3月期実績110億円 + X13年3月期予想130億円)÷ 目標連結営業利益300億円
3 X13年3月期
(※5) 基準交付株式数10,000株 × 業績連動係数1.17(※6)× 株価130円 × 対象者1名 ×(職務執行期間33ヶ月 ÷ 36ヶ月)- X11年3月期株式報酬費用292,500円 - X12年3月期株式報酬費用432,583円 = 669,167
(※6) 業績連動係数1.17 =(X11年3月期実績100億円 + X12年3月期実績110億円 + X13年3月期実績140億円)÷ 目標連結営業利益300億円
4 X14年3月期
(※7) 基準交付株式数10,000株 × 業績連動係数1.17(※6)× 株価150円 × 対象者1名 ×(職務執行期間36ヶ月 ÷ 36ヶ月)- X11年3月期株式報酬費用292,500円 - X12年3月期株式報酬費用432,583円 - X13年3月期株式報酬費用669,167円 = 360,750
* * *
以上、2のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。
※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。
【参考】
- 会計制度委員会研究報告第15号「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(日本公認会計士協会)
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。