各ステップに移動する場合はこちらをクリック
【STEP2】権利確定以後の会計処理
権利確定後には、権利行使又は権利不行使による失効がある。また、権利行使が行われた場合、企業が新株発行するケースと自己株式を処分するケースがある。
そこで、権利行使され、企業が新株発行する場合には、(1)を検討する。また、権利行使され、企業が自己株式を処分する場合には、(2)を検討する。さらに、権利行使されず失効となった場合、(3)を検討する。
(1) 新株発行する場合
ストック・オプションが権利行使され、これに対して新株を発行した場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替える(基準8)。
(2) 自己株式を処分する場合
ストック・オプションが権利行使され、当該企業が自己株式を処分した場合には、自己株式の取得原価と、新株予約権の帳簿価額及び権利行使に伴う払込金額の合計額との差額は、自己株式処分差額とする(基準8)。
自己株式処分差額が正の値の場合、「自己株式処分差益」として、その他資本剰余金に計上する。負の値の場合、「自己株式処分差損」として、その他資本剰余金から減額する。なお、会計期間末において、その他資本剰余金の残高が負の値の場合、その他資本剰余金をゼロとし、負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額する(企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」9、10、12)。
(3) 権利行使されず失効となった場合
権利不行使による失効となった場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分を原則として「新株予約権戻入益」等の科目名称で特別利益に計上する。この会計処理は、当該失効が確定した期に行う(基準8、47)。
《設例3》
当社は、3月決算である。当該設例は《設例1》、《設例2》の続きである。
① 新株予約権残高:4,600,000円
② ストック・オプション行使時の払込金額:10,000円/株
③ ストック・オプションの行使期間:X5年7月1日からX7年6月30日
④ X7年4月から6月にかけて90%が権利行使された。そのうち、新株発行と自己株式の処分を半分ずつとした。
⑤ 新株発行の際の払込金額は全額、資本金とする。
⑥ 自己株式の取得価額は、9,000円/株である。
⑦ 残りの10%は権利行使期間内に権利行使されなかった。
〈X8年3月期〉
① 新株発行
(※1) 10,000円×414株(=92名×10個×45%)=4,140,000円
(※2) 4,600,000×45%=2,070,000円
② 自己株式の処分
(※3) 10,000円×414株(=92名×10個×45%)=4,140,000円
(※4) 4,600,000×45%=2,070,000円
(※5) 9,000円×414株(=92名×10個×45%)=3,726,000円
(※6) 差額
③ 権利行使期間満了による新株予約権の失効
(※7) 4,600,000×10%=460,000円
【ストック・オプションと税効果】
税制適格ストック・オプションと税制非適格ストック・オプションで、税効果の取扱いが異なる。
(1) 税制適格ストック・オプションの場合
税制適格ストック・オプションを付与された個人は、付与時、権利行使時ともに所得税の給与所得等による課税がなく、株式譲渡時に譲渡所得として課税される。
一方、会社側は、法人税法上、給与等として所得税が課税される場合にのみ損金算入が認められるが、給与等として所得税が課税されないため、永久に損金算入されない。
したがって、会計上は費用処理されるが、法人税法上は、永久に損金算入されないため、永久差異となる(将来減算一時差異は生じない)。
なお、権利不行使による戻入益は益金不算入となるが、一時差異を認識しないため、税効果会計の適用対象にはならない。
(2) 税制非適格ストック・オプションの場合
税制適格ストック・オプションに該当しない場合、個人は権利行使時に行使時の時価から権利行使価額を控除した差額が給与所得等として課税される。
一方、会社側では、給与等として所得税が課税されるため、法人税法上、損金算入が認められる。
そのため、ストック・オプションの費用計上時は損金不算入となるが、権利行使時に損金算入されることから、将来減算一時差異が認識され、回収可能性がある場合、繰延税金資産を計上する。
なお、権利不行使による戻入益は益金不算入となり、減算されるため、権利行使時だけではなく、権利不行使が確定した時点でも将来減算一時差異が解消する。
したがって、権利行使時及び権利不行使確定時に繰延税金資産が取り崩されることになる。