AIで
士業は変わるか?
【第10回】
「AIの進化がもたらす将来の税務の姿」
大阪学院大学法学部教授
公認会計士・税理士 八ッ尾 順一
野村総研の「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」というニュースリリース(2015.12.2)の見出しを知っている人は多いであろう。
AIによって、会計事務所の多くの仕事は、浸食されるという。税理士の業務は、税理士法2条及び同法2条の2において、①税務代理、②税務書類の作成、③税務相談、④会計業務、そして⑤租税に関する訴訟の補佐人となっている。
この中で、②と④は、税理士事務所の主たる業務である(③は、将来において、AIによって全て代替可能になることはないので、この業務は税理士にとってますます重要になる)。②と④の業務内容は数字を扱うことが多いことから、AIにふさわしい仕事である。今でもこの分野は、昔と比べるとコンピュータ化が進んでおり、会計・税務ソフトを使えば、簡単に確定申告書等は作成できる。
国税庁のホームページでも、「確定申告書等作成コーナー」を利用して、申告書・決算書・収支内訳書等を作成することは可能で、さらにそのままe‐Taxで申告もできる。したがって、確定申告書を提出する必要のある給与所得者(不動産所得・事業所得も同様である)などは、税理士に作成を依頼しなくても、自分で申告することができる。
今後は、これらのソフト機能がますます発展し、例えば、仕訳の数値をキーボードを叩かなくてもスキャナーや音声で入力することが一般化する。そうすると、誰でも簡単に確定申告書を作成することができることから、アメリカのように多くの人が確定申告を行うことになれば、「年末調整がサラリーマンから確定申告の機会を奪っている」という批判も、回避できるであろう。
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AIの発展によって、専門知識(税務)の確認等がさらに容易になる。今でも多くの税理士等は、グーグル等を使って、調べたいことを検索している。将来、ビッグデータから必要な(税務)情報を簡単に検索できる「税務相談システム」を国税庁が開発・提供し、それを納税者が利用できるようになれば、多くの国民は税理士に頼らず、このシステムを利用して、自ら税務判断をすることになる。もちろん、ビッグデータの中には、過去の税務判例・裁決なども入っていることから、税務調査での争いなども、容易に解決できそうである。
もっとも、税務署もAIによる調査対象の選定等を行い、AIに基づく税務調査を行うことになる。また、裁判所においても、AIを使うことによって、時間をかけず、速やかに判決を言い渡すことが可能となる。現在、人間の裁判官は、200件ぐらいの事件を持っているという。AIの裁判官であれば、それ以上の件数をこなし、しかも、その判断は、人間の裁判官と比較して、より正確、かつ、迅速である。
いつの日か、シンギュラリティが訪れ、AIが人間を超えたときには、ペッパーのような姿の裁判官の地位は、不動になるであろう。それによって、納税者の権利救済制度は、格段にアップすることが期待される。また、裁判プロセス自体も、AIによって簡素化され、税務訴訟では本人訴訟が多くなり、弁護士の登場する機会は少なくなるかもしれない。
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相続税において最も税理士を悩ますのは、財産評価である。相続税・贈与税の課税物件は、財産である。その中で、土地の評価は特に難しい。例えば、10人の土地評価の専門家に1つの土地の評価をさせると、10通りの評価額が出される。
今後、土地自体がセットバックを要する土地であるとか、都市計画道路予定地の区内にある土地かどうかなど、土地に関するさまざまな法的規制等の情報(もちろん財産評価基本通達や路線価等も含まれる)をビッグデータから導き出せるようなシステムを国税庁が開発し、納税者にそのシステムを提供すれば、納税者は、土地の地番と地形図の情報を画面に入力することによって、自動的に土地の評価額が導かれ、土地評価に関する争いは少なくなるし、財産評価額を簡単に計算できるようになれば、税理士に依頼せずに、納税者自ら相続税の申告書を作成することができる。
現在の画像認識技術からすれば、どんなに変形した土地であっても、AIが簡単に土地を識別し、そして評価するであろう。国税庁の提供した財産評価システムで導かれた(通達に従った)評価額は、恣意性のない評価額として、自動的に課税庁によって承認され、争いの対象にならない。今のAIの技術からすると、このようなシステムは近いうちに実現するものと思われる。
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平成30年度税制改正では、「大法人の法人税及び地方法人税の確定申告書、中間申告書及び修正申告書の提出は、平成32年4月1日以後開始事業年度から、e‐Taxで行わなければならない」こととされた。また、青色申告者もe‐Taxを利用することによって、青色申告特別控除の控除額(65万円)を維持することが可能となる。
これらの改正は、申告手続の電子化促進のための環境整備といわれているが、さらに国家は、その先に予想される、AIによる大きな社会変化の波への対応を見据えているのである。
(了)
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